悪い山鬼
|
■ショートシナリオ
担当:鏑先黒
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月13日〜10月18日
リプレイ公開日:2004年10月20日
|
●オープニング
ギルドの一室へと通された老人は、まずこう切り出した。
「わしの村の裏手には、そこそこ大きな山があってな。その山にはだいぶ前から一匹の山鬼が住んでおった」
「というと、その山鬼退治ですか?」
ギルド員がそう問うと、老人は首を横に振る。
「いやいや、そやつは良い山鬼でな、道に迷った旅人を案内したり、足を挫いた木こりを麓まで運んだりしてくれるのじゃ。わしらも、そういう事があった後は、山鬼の住処の近くに酒を置いたりして上手くやってきたのじゃ。だが、この最近どうにも山鬼の様子がおかしい、そう話しとった矢先じゃった。猟師の五平が山で足を挫いたのは‥‥」
その先の老人の話を要約するとこういう事だった。足を挫いて困っていた五平の前に、やがて山鬼が現れたという。五平は山鬼の姿は見たことは無かったが、話は聞いていたので安堵した。しかし、山鬼は乱暴に五平の腕を掴み、遠吠えをする。五平が話と違うなと思っていると、やがて新たな山鬼が2匹もあらわれたという。特に中の一体は一際大きな金棒を持っていた。そして、それが五平にとって決定的だった。山には山鬼は一人しかいない、そのはずだ。五平は遅まきながら悲鳴を上げ、山鬼の手を振り切ろうとした。だが、力ではとうていかなわない。ここまでかと五平が思った時、突然新たな山鬼が現れた。新しい山鬼は五平を掴んでいた山鬼を殴りつけると、その隙に五平を抱きかかえて走り出す。だが、人ひとり抱えて逃げ切るのは難しい。三匹の山鬼達が怒りの叫びが背後に迫った時、山鬼は五平を降ろすと、逆に三匹の山鬼に向かっていったという。五平は迷ったが、自分がいてもしょうがないと考えて、足を引きずって逃げ出した。なんとか村まで辿り着いた五平の話を聞いた村人は10人ほどで、山鬼達が戦った場所へ向かった。だが、そこには山鬼の死体が一つ転がっていたという。
「と、すると新しく山に来た山鬼を倒して欲しいといいうことですか?」
ギルド員の言葉に、老人は頷いた。
「そうじゃ。だが、良い山鬼の敵討ちでもあるのじゃ。だから、村からも人手を出す、そして絶対に一匹も逃がさないで欲しいのじゃ」
全滅させてくれ、という依頼は良く聞く依頼だ。だが、山鬼相手に村人は正直足手まとい、という気がする。山の案内に一人猟師がついてくるというなら別だが。
「人手は必要無いでしょう。ギルドからも腕利きを派遣しますので」
だが、老人は頑として首を横に振る。
「いや、木こりの五平と吉太、猟師の熊吉、平作が手伝うと名乗り出ておる。どれも、山鬼に助けられた者たちだ。五平と吉太は鉈を熊吉と平作は弓を使えば、村で一、二を争う者達じゃ」
(‥‥これは足手まといつきか)
そう心で考えつつも、ギルド員は頷いた。
「判りましたお引き受けしましょう。早急に、冒険者の方々に向かっていただきます」
●リプレイ本文
悪い山鬼
冒険者達が依頼のあった村に着いたのは夕方の事だった。これから夜になろうという時に山に登るのは戦いに不利だと話は一致したため、その夜は村に泊まることになった。そして、宿を提供してくれた村長の家で、明日からのことを話し合っていた。それには、村からの協力者である五平達も加わっている。しかし、熊吉達弓を使うものはともかく、五平達が前に出る事は、冒険者達からの反対が多かった。
「俺も小鬼戦士や山鬼戦士と戦ってきたが、正直素人の出る幕じゃない。山鬼の一撃をまともに喰らえば、良くて骨折、運が悪いと死んでしまうぞ」
山崎剱紅狼(ea0585)の言葉に、夜十字信人(ea3094)も頷く。
「僕も勇猛であるが故に、無駄死にした人間をいくらでも知っている」
「無茶はしない、あんた方の迷惑にならない様にする。あんた達が邪魔だというなら、後ろにいる」
少し不満そうだったが五平の言葉に、鋼蒼牙(ea3167)は笑顔で応じる。
「そう言ってくれるなら、話は簡単だ。弓はそのままで役に立つし、あんた達が道案内してくれるだけで助かるってもんだ」
「ええ、戦いに有利な場所で戦えるだけで十分ね。貴方達の気持ちも判るけど、戦いは私達に任せて」
西方亜希奈(ea0332)の言葉には荒神紗之(ea4660)も同意する。
「その通りだ。それに護身用に武器は持っていってくれ、ファラやイリスは守ってもらわないといけないからね。あんた達がいれば私達も戦いやすいってことさ」
その言葉に、村人達が同意したことで、彼らの同行は決定した。それから後の話はもっと具体的な戦い方に移っていった。
翌朝、12名はそれぞれ武器と野宿の道具などを持って山に入っていった。先頭をいくのは、信人、剱紅狼、蒼牙といった剣での戦いに自信がある者。続いて、猟師の熊吉と平作。残った五平、吉太、紗之、イリス・ファングオール(ea4889)、ファラ・ルシェイメア(ea4112)、亜希奈が中央に、最後に緋邑嵐天丸(ea0861)が周囲を警戒しながら続く。その嵐天丸の目を引くものがあった。
「あそこの木の枝が折れてるじゃん」
皆が嵐天丸の指した方を見ると、道から少し離れた場所の木が確かに折れている。
「山鬼の仕業か」
果たして木の下に行くと、山鬼のものらしい足跡があった。嵐天丸が皆を見て言う。
「それじゃあ、打ち合わせどおり、熊吉達に跡を追ってもらおうぜ。近そうか?」
その言葉に、熊吉が頷く。
「今日ついた足跡なのは間違いない。それほど、離れてはいない」
その言葉に、紗之が精霊魔法のブレスセンサーを使う。だが、紗之に感じられるのは、小型の動物のものばかりだった。
「すぐ近くにはいない。行こう」
紗之の言葉に、今度は熊吉と平作が先頭に立って歩き出す。もちろん、信人達もすぐに前に出ることの出来る位置についているが。
足跡を追い続け、陽が中天を過ぎたころようやく熊吉達は足を止めた。熊吉が足を止めた場は、素人目に見ても荒れているのが判る。
「熊かな‥‥。山鬼達が、何か獲物を捕まえたらしい。かなり大きな獲物だ」
その平作の言葉に、紗之が再びブレスセンサーを使う。
「右手の奥に、三つ。大きさからいって多分山鬼だね」
紗之の言葉に、剱紅狼達が頷く。
「なら、ここから先は俺達がまた先に行く」
紗之の言った方向に進んでみると、すぐに剱紅狼の目にも山鬼達の姿が映る。ごろりと横になった姿は、熊の肉を食べ終えて休憩しているらしい。てんでに座っていた。
「今のうちにやるぞ。俺は一番奥をやる」
剱紅狼の言葉に、信人が応じる。
「なら、俺はその手前だな」
「では、私と荒神殿が一番手前を」
亜希奈の言葉に紗之も頷く。現在、紗之のブレスセンサーには、他の鬼らしき呼吸は近くには無い。どうやら、鬼はこの三匹だけらしい。
「僕達も亜希奈達が攻撃しているのに集中する」
ファラの言葉に嵐天丸らが同意する。昨日打ち合わせした通りの作戦だ。二匹の山鬼を信人と剱紅狼が押さえ、残った一匹を集中攻撃する予定だ。突撃の前に、蒼牙が全員にオーラパワーを使う。特に短刀を使う亜希奈にとっては有難い支援だ。同時にイリスも皆にグットラックを掛ける。全員が武器にオーラパワーを掛けて貰ったのを確認して、剱紅狼が低く声を出す。
「いくぞ!」
その言葉と同時に、四人が走り出す。それに応じて、蒼牙が念を凝らし手から、光の塊を飛ばす。それはたがう事無く、山鬼に激突する。決して小さくない衝撃に山鬼は咆哮し、そばにあった金棒を握る。
(五平達は言われた通り下がっているか‥‥、なら‥‥)
短く呪を唱えたファラの手から電光が放たれた。その威力に流石の山鬼も苦鳴をもらす。怒り狂った山鬼は、ファラへと向かおうとするがその前に、亜希奈と紗之が立ちふさがる。振り下ろされた金棒を紗之が刀で受け止めた。強者との戦いに紗之の口元に自然と笑みが浮かぶ。
剱紅狼は二本の刀を手に鬼に向かう。
「っと、テメェの相手は俺だ‥少し遊んでいけや!」
山鬼の金棒の一撃を刀で受け止めた剱紅狼は、その鋭い攻撃にこの山鬼が山鬼戦士だと直感する。
「こいつは‥ちょっときついか。他の奴はただの山鬼だよな‥‥」
剱紅狼はちらりと周囲を見回して呟く。本来は二刀流で畳み掛ける戦いが得意な剱紅狼だったが、守りを厚くして山鬼戦士を足止めすることを優先する。
一方、信人の戦い方は対照的だった。
「二の太刀は有らず。一撃で決めさせてもらうぞ! ‥‥チェストォ!!」
重い偃月刀を振りかざし、山鬼に迫る。必殺の威力を込めた一撃であったが、その一撃は山鬼の金棒によって受け止められた。逆に、信人は反撃に転じた山鬼の金棒をかわすことが出来ずにまともに喰らってしまう。膝を付きそうになる体を叱咤し、信人は山鬼と向き直る。重く威力のある偃月刀を装備している分、動きが鈍くなる。最初の一撃が決まると勝利をほぼ手に入れる事が出来るが、止められると逆に武器の重さが致命的になる。そして、強い相手ほど、最初の一撃を受け止めてくるのだ。
「甘く見すぎたか‥‥だが一匹くらいは引き付けてみせる」
そう決心とともに呟いた信人の体を淡い光が包む。同時に信人の体の痛みが一気に引いていく。様子を見ていたイリスがリカバーを使ったのだ。
(やっぱり、信人さんと剱紅狼さんが一番危険ですね)
イリスは一歩引いた位置で、三つの戦い全てを把握しようとしている。彼女の目から見ると、どうやら集中攻撃をしているほうの山鬼は、かなり傷ついているようだった。
亜希奈の短刀が山鬼の体に叩きつけられる。その短刀にさほどの威力は無い、だが亜希奈にとっては、山鬼の注意を引くことが重要だった。下がっている者達を守り、守りの得意な自分に攻撃を集中させることで戦いは有利に進む。そして、亜希奈の思惑通り、山鬼の金棒は亜希奈目掛けて振り下ろされる。亜希奈は身をかわすと、同時に再び短刀で切りつけた。相手の勢いも利用した一撃に、短刀が深く切り込まれ、山鬼の体から血飛沫が上がる。そして、亜希奈のやや後方にいた嵐天丸が刀を振り下ろす。
「行くぜ、覚えたての奥義が一つ、夢想の太刀『白神』ッ!」
離れた位置からの衝撃波が山鬼に叩きつけられる。その一撃で足元が覚束なくなった山鬼に、ファラが再びライトニングサンダーボルトを放つ。電撃が山鬼を貫き、山鬼は地に伏した。その山鬼に蒼牙が駆け寄り、心臓の位置に刀を突き立てる。そして、止めを刺したそうだった五平達に向き直って言う。
「‥‥一番大切なものは命だ。良い山鬼とやらに助けてもらったのに、下手をして落とすこともあるまい。倒れたからといって、反撃が無い訳じゃない」
その言葉に、五平達も約束どおり反対はしなかった。
「亜希奈は、剱紅狼の方に」
そう言った紗之自身は、信人の方へと向かう。
「大丈夫?」
横に並んでそう問いかけた紗之に、信人は苦笑して答える。
「なんとかね」
信人は息を吐く。正直、イリスの援護が無ければ既に倒れていたかもしれない。だが、紗之の参加で、山鬼の攻撃が分散され、信人の動きにも余裕が生まれる。山鬼の隙を見つけた信人が叫ぶ。
「行くぜ、これで最後だっ!」
信人の偃月刀が再び振るわれる。ほぼ無傷だった山鬼だったが、信人の腕力と偃月刀の重さを利用して叩きつけられた一撃に、肩口から腹にかけて深い傷が穿たれる。そこに紗之が、刀を突き立てる。山鬼の胸に突きたてられた刀は、山鬼の胸を貫き、その動きを止めた。
「ふぅ」
その姿を見て紗之は息をつく。
「大丈夫ですか?」
亜希奈もまた、剱紅狼の隣に並ぶ。防戦に徹していた、剱紅狼がニヤリと笑う。
「よしっ、速攻でカタをつけるぞ」
左右の手で刀を振るう。一刀は金棒に阻まれたものの、もう一刀は山鬼戦士の腕に叩きつける。その瞬間、何故か山鬼戦士の動きが止まる。その隙にと亜希奈が斬り付けても、微動だにしない。
「コアギュレイトだぜ!」
嵐天丸の言葉に応じるように、熊吉と平作の矢が山鬼戦士の胸に突き立つ。
「そう長くはもたないはずです」
コアギュレイトを掛けたイリスの言葉に応じるように、剱紅狼が二本の刀を振るう。血飛沫が上がり、致命傷を受けたのが誰の目にも判る。だが、冒険者達はなおも、攻撃の手を緩めなかった。コアギュレイトの効果が切れ、山鬼戦士が倒れた時すでに、その体はボロボロだった。
倒れた三匹に改めて止めを刺すと、誰からという訳でもなく、皆その場に腰を下ろす。
その中で真っ先に立ち上がったのは、イリスだった。荷物からスコップを取り出すと、山鬼を埋めるための穴を掘り始める。その行為に同意する者は少なかったが、反対する者はいなかった。
山の麓。そこに良い山鬼の墓がある。山に登る者、降りる者を見守れるようにと、そして寂しくないようにと。その墓の前を通ったとき、村人達が足を止め手を合わせる。戦いの報告をしているのだろうか。その横に紗之とイリスが並ぶ。紗之は持ってきていたどぶろくを供え、自分も一口呑む。
「本当に‥‥生きている内に酒が酌み交わせりゃ、楽しかっただろうねぇ」
この先、はたして鬼と酒を飲む機会はあるのだろうか。その想いをくみ取ったかのように、イリスが呟く。
「同じオーガ種でも、人と仲良く出来たり出来なかったり‥‥難しいです」
村へと戻った冒険者達は完全に仕事をこなしたことで、幾許かの謝礼を含めて報酬を受け取った。こうして、良い山鬼と悪い山鬼にまつわる冒険者達の依頼は終わった。