大蟹退治
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■ショートシナリオ
担当:鏑先黒
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月18日〜10月23日
リプレイ公開日:2004年10月26日
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●オープニング
昼下がりの海岸。十人ほどの男たちが慎重に岩場を歩いている。波飛沫が掛かり濡れた岩場は滑り易いはずだが、慣れているのか誰も気にしている様子は無い。それもそのはずで、男たちは近くの漁村の若い衆だ。だが、男たちは手に手に銛を持って、ただの漁に行くには緊張した面持ちだ。
やがて、岩場の隙間に暗灰色の甲羅が見えたとき、先頭を歩いていた男が後方に合図をして駆け出した。それに後続の男たちが続く。そして、確実な距離まで近づくと、手にした銛が次々に投擲する。だが、硬い甲羅はその銛のほとんどを弾く、全く効果を上げなかった訳ではないが、多くはヒビを入れた程度で突き立っているのは数本だ。その痛みで甲羅の主、大蟹が動き出す。
男たちに緊張が走るが、銛を持ち替え、二投目を投げつけた。だが、大蟹は予想外の素早さで、横へと動き。銛の大半は岩場へと叩きつけられる。男たちの手に残ったのは、三本目最後の銛だ。ここで、先頭に立っていた男が再び指示を出す。
「逃げるぞ!」
その声とともに、男たちは蟹に背を向ける。だが、当然といおうか蟹も黙っては見送らない。荒れた岩場を苦にせず、意外なほどの速さで追いかけてくる。同じく岩場に慣れた男たちでなければ追いつかれていたかもしれない。
男たちは一気に松林まで走りこむと、そこで再び戦う構えを取る。大蟹の動きにくい林の中で戦う手はずだ。しかし、大蟹は自分の体が通りにくいと見ると、松の木に鋏で切りつける。幹が抉られ、その威力に男たちも息を呑む。人の体なら、致命傷でもおかしく無い。だが、さすが切り開くのが難しいと見ると蟹は一転して後退する。そして、男たちが追う間もなく、海へと逃亡した。
2日後。日に焼けた若者が依頼がある事を告げるとは、ギルドの一室へと通された。
「それでどういったご依頼で?」
ギルド員の言葉に促されて、若者は話し始めた。
「私の村は小さな漁村です。それでも魚は豊富に取れて、真面目に働けば、生活に困ることはありませんでした。ですが、今年の夏に何処からか、大きな蟹が現れたのです。大きさは人よりも大きく、獲物にするどころか、逆に獲物にされそうな大きさで。しかも、一匹ではないのです。正直、早く何処かに行って欲しかったのですが、この夏が終わっても漁場に居座ったままで、このままでは来年もと。そこで、二日前に腕に自信のある若い衆が倒しにいったのですが、人死が出そうな勢いで‥‥。そこで、冒険者の方々に大蟹を退治して頂こうと思いまして」
そこで、ギルド員は頷いた。
「判りました。早速冒険者の手配をしましょう」
「はい、お願いします。報酬は多めに用意できるかと思います。というのも、村と取引のある商人が大蟹の肉は珍しいと高値で買い取ってくれる約束をしてもらったので、それも報酬になるはずです」
若者の言葉に、ギルド員は頷く。
●リプレイ本文
村に着いた冒険者たちは、早速蟹を罠に掛ける為の準備を始めていた。中心となっているのは、罠などに詳しい南天輝(ea2557)だ。平島仁風(ea0984)や雪切刀也(ea6228)らがそれに協力する。一行はまず村から網と綱を借りた。丸太に関しては、魚を干すときなどに使っているものを引き抜いてきて数を揃えた。
作業は単調だが、正確さが求められる。
「村のためにもがんばりましょう」
山本建一(ea3891)が提供された古い網を引きながら、疲れの見えてきた皆を励ます様に言う。その網は松林の近くの平地に敷いてから砂を被せておく。大蟹がその上を通ったら網の一端を引っ張り、動きを止めようというのだ。そして、それに連動し木に綱で吊るした丸太を撞木に、大蟹を釣鐘に見立てるように攻撃する。丸太の一撃を与えれば、大蟹といえどもかなりの打撃のはず、そしてそれが複数ぶつかれば、かなりの成果が期待できる。罠を用意するのに丸一日掛かったが、なんとか形になる。
そして翌朝。蟹を罠の位置までおびき寄せる役目に名乗り出たのは、輝や仁風の他、キルスティン・グランフォード(ea6114)とヴァラス・ロフキシモ(ea2538)だ。大蟹を最初に見つけたのはヴァラスだった。岩場の隙間に大きな体を入れているが、保護色のため素人にはなかなか判別が難しいだろう。
「よし、やるぜ」
仁風がいい、その辺の石を拾う。ヴァラスとキルスティンもそれに習うが、輝は日本刀を抜く。三人が石を大蟹に当てるが、蟹の甲羅には傷もつかなかった。対して、輝はソニックブームで切りつける。鋏の付け根を狙った攻撃は見事に命中する。しかし、甲羅にひびが入り、多少本体にも傷が入った様だったがそれだけだった。
「おいおい、硬すぎるぜ‥‥」
輝は呟きとともに身を翻した。四人を追ってきているのは三体の大蟹だ。村の若者の話ではそれが、この磯に居る大蟹の全てのはずだ。
「ちっ、一匹づつ誘き寄せるはずだったのになっ。おいおい、ちゃんと前見て歩かねぇと危ねぇぞ、カニさんよ」
仁風の言葉に、ヴァラスもつづけた。
「ホレホレェ〜、こっちに来やがれマヌケな顔した蟹どもがぁー!」
しかし、四人は聞いてはいたが蟹の意外な速さを思い知る。走りにくい岩場ということもあるが、武装した冒険者の足ではなかなか逃げ切れそうも無い。
「なんで、こんなに速いんだっ」
キルスティンがそう言った瞬間、彼女の背に大蟹の鋏が叩きつけられる。尖った鋏の先がまるで槍の様だ。衝撃に息が詰まるが、キルスティンはそのまま走り続ける。そして、ヴァラスも背後にひしひしと気配を感じる。大蟹はキルスティンの時と同じように鋏が振り上げられるが、前を向いたままでは気づくことすら難しい。激しい衝撃とともにヴァラスは、前のめりに岩場に叩きつけられる。
「大丈夫かっ!」
仁風がヴァラスを庇い、輝が助け起こす。
「すまねぇ」
立ちふさがった仁風に大蟹の一撃が襲い掛かる。刀と十手でなんとかそれを受けきると、再び背を向けて走り出す。その後にヴァラスたちも続いた。
「来たぞ」
大鳳士元(ea3358)が罠の綱を持っている者達に声を掛ける。待っているのは、健一や刀也の他、村人だ。キルスティンのすぐ後ろを二体の大蟹が追ってきている。大蟹達が罠の地点に入った時、士元が合図を送った。
「今だっ!」
士元の声とともに、刀也と健一が愛馬を走らせる。二匹の大蟹が網に足を取られ、動きを止めた。そこに、丸太が勢いをつけて襲い掛かった。大蟹はかわすことも出来ず、鈍い音と共にうずくまる。流石の硬い甲羅も幾つか大きなヒビが出来ていた。
その前に、士元が金棒を手に進み出る。その金棒は刀也によって、バーニングソードが掛けられ威力が増していた。そして士元の姿を認めた大蟹も向かって来た。その突進に魔法を使おうとしていた士元だが、それを諦めて金棒で鋏を受けた。一方、足を止めたキルスティンも苦戦をしていた。傷ついているとはいえ、蟹は強い。特に鋏で捕まれようものなら、大怪我は免れない。対してキルスティンは、金棒で殴りかかるのだが、大きい鋏に阻まれ大きく踏み込む事が出来ない。
そうやって、士元とキルスティンが苦戦しているところに、網引きの愛馬から降りた刀也と健一が合流する。すかさず健一を捕らえようと大きな鋏が向かって来た。健一はそれを日本刀で受け止める。しかし、大蟹の続けざまの攻撃を今度はかわそうとしたが、蟹の攻撃はそれを許さないほど鋭かった。健一の太ももからざっくりと血が吹き出る。健一は傷みに顔を顰めながらも、刀を大蟹に向ける。そして、その隙に刀也が反撃に転じた。日本刀を思い切り叩きつける様に切り付ける、当たれば二本位の足を切断出来そうな力強さだ。しかし普通ならかわせないだろう、その一撃を大蟹は素早く横に動いてかわす。
「さてと、些か厄介だが・・・・ッ!」
刀也は呟くともう一度刀を構える、今度は先ほどよりも当てる事に、気持ちを集中させる。今度の一撃は蟹の足を一本砕く。
それをちらりと見ると、キルスティンは足を止める。
「こっちも長々やってる訳にはいかないな」
そう言って、そのまま蟹の攻撃を待つ。大蟹の鋏がキルスティンに振り下ろされる。鋏まれた両肩の痛みを無視して、キルスティンは更に前に踏み込んだ。そして、金棒を蟹の鋏みに叩きつける。甲羅を砕く音共に、鋏の付け根が砕ける。
「今だ!」
互いに傷付いたキルスティンと大蟹を目にした士元は、大蟹の背後に回って金棒を叩きつけた。手ごたえと共に、蟹の足が砕ける。傷ついた大蟹は逃げようとするが、士元とキルスティンがそれを許さない。徐々に追い詰めていく。
一方の刀也と健一も蟹の足を中心にダメージを与えていた。だんだんと動きが鈍くなってきた大蟹に健一は切りつける。砕けた甲羅を貫き、大蟹が倒れる。
大蟹に追われていた仁風達も、なんとか松林までたどり着いていた。柔らかめの土だが、滑りやすい濡れた岩場よりはよっぽど戦いやすい。ヴァラスと仁風は足を止めて、大蟹に向き直るが、輝だけはそのまま松林へと走っていった。もちろん、逃げた訳ではない。
「ムルアァァァ――――ッ!」
ヴァラスは左右の武器で、甲羅の隙間を突こうとした。しかし、蟹はあっさりとそれをかわす。しかも、蟹の鋏の動きは予想以上だった。突き出された鋏をかわす間も無くヴァラスの腕に痛みが走る。
「今度は俺が相手だぜっ」
だが、進み出た仁風がそう言った瞬間、輝の声が響く。
「逃げろっ!」
何事かを理解した仁風とヴァラスが横っ飛びに跳ねる。その横を丸太が勢い良く通り過ぎていった。そして、二方向からの攻撃に大蟹もかわし切れず、甲羅を丸太に砕かれる。それを見たヴァラスが大蟹に飛び掛り日本刀を突き立てる。
しかし、大蟹もまだ倒れない。振り回した鋏がヴァラスを地面に叩きつける。そこに、置いてあった大斧を掴んだ輝がやってきた。気合と共に斧を振るい、甲羅をざっくりと叩き割る。そして、今度は逃げようとした大蟹の背からヴァラスが襲い掛かる。
「そんなに足があっちゃあ邪魔だろぉ? 俺が全部ブッた切ってやるぜェ〜、ムケケケケハーッ!」
刀を足の関節に突き刺して足を切り落とす。泡を吹いた大蟹に、仁風が得意の連続攻撃で止めを刺す。
そこに二匹の大蟹を倒した健一達も駆けつける。お互いが無事であった事を確認すると、冒険者達はその場に座り込む。
さてその後。念のため海岸を捜索したが、士元のデティクトライフフォースにも大蟹らしい反応は見られず、大蟹の全滅が確認された。また、戦いによってグチャグチャとなってしまった蟹だったが、さほど買い叩かれず追加の報酬が皆の懐に入った。しかも、怪我をした者には村の僧が傷を治してくれるという有難さだ。しかし、残念ながら蟹は商人が持っていったので、大蟹の味を確かめる事は出来なかった。
「‥‥蟹が食べられなかったのは、少し残念だな」
運ばれる大蟹を見て、刀也はそう呟く。その言葉に、皆の顔に苦笑が浮かび、やがて朗らかな笑い声に転じて、村人達に、危険が去ったことを実感させたのであった。