河童

■ショートシナリオ


担当:鏑先黒

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月07日〜11月12日

リプレイ公開日:2004年11月16日

●オープニング

 むかし、むかし、あるところに小さな村がありました。小さな村の近くには小さな湖があります。そして、小さな村の村人はそこで魚を取ったり、その水を畑に引いたりして、暮らしていました。
 しかし、ある時その湖に何処からか水虎が河童とともにやってきました。水虎とは全身黒光りする鱗に包まれた、大柄な猿の様な姿をしています。しかも、人間に化けることも出来るのです。さらに水虎は胡瓜と人間の子供の肉が大好きなのです。
やってきた水虎は大勢の河童と共に、畑を荒らしたり、子供たちをさらったりしました。村人たちも怒って、水虎と河童を追いかけましたが、相手が水の中に入るとどうすることも出来ません。とうとう、村を捨てようかと村人達は相談しはじめました。すると、そこに五郎という河童がやってきました。五郎河童は河童の半分は、村人と仲良く暮らしたがっているので一緒に戦おう、といってきました。村人達は半信半疑ながらも、最後には五郎河童の説得に応じ共に水虎と戦うことにしました。 
 さて、次の日。水虎がいつもの様に村を荒らしに来ると、近在の侍を先頭に村人達が向かってきました。水虎と河童も戦いましたが、土の上での戦いは村人のほうが強かったようです。ですから、逃げようとしたのですが、今度は後ろのほうにいた河童達が水虎たちを攻撃してきます。水へと逃げることも出来なかった水虎たちは散々討ち取られて、西へと逃げていきました。
 それから、五郎河童達と村人は水の上と水の下で争わずに暮らすことになりました。そして、秋の祭りになると相撲大会を開き、仲良く相撲をとっているそうです。

「‥‥はぁ」
 長い昔話を聞き終えたギルド員はそう頷くしかなかった。相撲取りのように逞しい男、力太は続ける。
「それがうちの村のことなのです。話は多分200年くらい前のことだと思いますが、それから毎年相撲大会をしているのは確かで。でも相撲は河童のほうが強くて、人間が勝ったのは数えるほどなのですが。それで、ここからが本題なのですが、実は河童の中で相撲が強い者が立て続けに襲われているそうなのです」
 力太の話では、最初に河童が襲われたのは二十日くらい前のことで、相撲大会の神社で死んでいたという事だった。何か獣の爪の様な痕が体に残っていたという。不思議なことに、辺りに血は流れていなかったらしい。次はその5日後にまた同じように、相撲に強い河童が死んで神社に倒れていた。そして、今度は七日前に、河童の中でも一番相撲の強い六郎河童が襲われた。六郎の話では、土手で胡瓜を食べていると、見たことの無い人間が刃物を持って襲ってきて、今年の相撲大会は人間が勝つ、と言ったらしい。驚いた六郎が水に逃げると追ってこなかったそうだが、その話を聞いた河童たちが大騒ぎになってしまったという。
「私は六郎と仲がいいので話が聞けたのですが、六郎自身は変だと思っているらしいのです。でも、河童たちの多くが殺気だってしまって‥‥。そしたら、二日前には人間の方が襲われて、同じように神社で死んでいたのです。もちろん、死んだのも相撲の代表の一人です。村中が殺気だってしまって‥‥。実は私も相撲の代表で、正直変だなという気と、怖いという気がして。そして、祭りは5日後に迫っています。これ以上、何も起こらないように冒険者の皆さんに来ていただきたいのです。そして、出来れば犯人も捕まえて頂きたいのですが」
 その男の言葉に、ギルド員は頷いた。
「これ以上ケガ人や死者が出ないようにする事と、これまでの襲撃の犯人を捕まえて欲しいということですね。早速、募集をかけましょう」

●今回の参加者

 ea0639 菊川 響(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea1289 緋室 叡璽(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1956 ニキ・ラージャンヌ(28歳・♂・僧侶・人間・インドゥーラ国)
 ea2497 丙 荊姫(25歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea2988 氷川 玲(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5899 外橋 恒弥(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7514 天羽 朽葉(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea7675 岩峰 君影(40歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

河童

 力太に依頼された冒険者たちは、幾つかに分かれて行動していた。その内一つ、最も大きな集団となったのは力太と共に村へと入った者たちだ。村に入った菊川響(ea0639)は、まずざっと村を見回す。全部で50戸くらいだろうか、小さい村ではない。それ以外は普通の村とは違いは無い。力太の話では、最近この村に越してきた者はいないという。ほぼ全員がこの村の出身で、残りの者も近隣の村から来た嫁いで来た者だという。
「神社は何処ですか?」
 同じように辺りを見回していた緋室叡璽(ea1289)が、力太に聞く。
「村の外れにあります」
「先に見てきます」
 叡璽はそういうと、一人で歩いていく。叡璽としては、まず現場を発見することに力を注ぐつもりだった。
「敵に注意してくれ」
 叡璽の背に岩峰君影(ea7675)が声を掛ける。その声に頷き、叡璽は姿を消した。残る五人がまず、村の長老格であるという椙翁の家に向かう。

「犯人は水虎の可能性が高いからね、だから村人と河童双方の協力が必要なんですよ」
 挨拶を終えた外橋恒弥(ea5899)が白髪の老人、椙翁に言う。
「その事はわしも考えておった。しかし‥‥何の証拠も無い。河童たちを納得させる事が出来るだろうかの」
 その椙翁の言葉に、丙荊姫(ea2497)が答える。
「私たちはこれから河童達の協力を仰ぎにいきます。ですから、貴方がたの協力があれば説得がし易くなります。そして、双方の協力があればきっと正体を表さない襲撃者を捕らえる事が出来るはずです」
 荊姫は真摯に長老を見つめる。
「俺たちを信用して欲しいなぁ。まず間違いなく、水虎の仕業だから、水の上と水の中の両方の協力がいるんだ」
 恒弥が言葉を添える。すると、意外にあっけなく椙翁は頷く。
「承知した。村の者はわしの方でまとめよう。何か、することはあるかの?」
「では、お言葉に甘えて幾つか。まず、祭りまでの間、村人達は三人以上で固まって行動して欲しい。そして、特に子供からは目を離さないように。最後に村と川岸の警備は我々に任せて頂きたい」
 君影の言葉に椙翁は頷いた。

 一方、別行動をとっていたニキ・ラージャンヌ(ea1956)は近くの村を巡っていた。最近、胡瓜や子供に被害が出ていないか托鉢をしながら聞き込みをしているのだ。すると、北の村で夏ころに胡瓜が大量に盗まれたという話がきけた。北の村の者は近くに住む河童の仕業ではないかと考えている様だったが。
「夏ごろかぁ、手がかりになるか、微妙やな」
 ニキはそう呟くと、仲間達の元へと向かった。

 力太と六郎を通した河童達の説得は、ある程度は成功した。集団で行動することを河童の長は確約してくれた。しかし、積極的に冒険者達の手助けを申し出たのは数名だった。まだまだ、しこりが残っているらしい。伝説にある水虎の仕業といってもなかなか、納得はできないのだろう。
「水虎の能力を何か知っていませんか?」
 響の言葉に協力を約束した河童、六郎は少し考え込む。
「なんでも凄く強かったっていってたな。何人がかりで河童が向かっていっても倒せなかったらしいな。水虎を追い出した戦いでも、直接水虎と戦ったのは物凄い強い侍らしいしな。あとは河童と同じく水の中でも動けるし、多少の傷はすぐに治ってしまうってさ」
 六郎の言葉に氷川玲(ea2988)が問う。
「水虎の武器は?」
「得物を使っていたっていう話は聞かないな。爪が鋭かったっていう話だ」
「そうか」
 その言葉に玲は頷く。武器を使わないとなれば、多少は動きが予測できるというものだ。もちろん、油断は禁物だが。

神社へと来た叡璽は何か手がかりが無いかと探索を続けていた。しかし、特に目新しいものは無かった。神社には争ったあとすら無かったのだ。
(「やはり、殺害現場は別にあるのか‥‥」)
叡璽の探索を続け日暮れ近くにそれを見つけた。場所は、神社を離れた原っぱだった。
「‥‥これは血か」
叡璽がポツリと呟く。叡璽が見つけたのは、石についた血痕だった。叡璽が後で六郎らに聞いたところ、ここは河童たちが相撲の練習をする場所らしい。
「ここが殺害現場のひとつと考えて間違いないですか」
 叡璽は更に辺りを捜索した。だが、新たな血痕を幾つか見つけただけで、決定的なものは何も無かった。 

 最後の一人、天羽朽葉(ea7514)は皆とは一日遅れて、流しの剣舞師として村を訪れていた。さすがに流しの剣舞師が祭りとはいえ、村を訪れるのは珍しいので、注目が集まってしまった。しかし、それでも納屋を貸してもらった村人に聞きたかった事を聞き出すことが出来ていた。
「夏ごろにそんな旅人が来たのですか?」
 朽葉はこの村に最近訪れた旅人の事を聞きこんでいたのだ。
「はい、初めて見る顔でしたが、本人は薬屋とか言っていました。何でもこの辺りにある薬草と河童の軟膏を調べにきたとか」
「その薬屋は相撲大会の話をききましたか?」
「多分、した気がします」
 朽葉はその商人の人相を聞き込んだ。もし、水虎が人間に化けてきた場合、手がかりとなるだろう。

そして、更に翌日、ついに囮作戦が開始された。この二日村人達は必ず集団で行動していた。そのため、水虎がまだ人を襲おうとしていたら、単独で行動する者を見逃さないはずだった。囮となるのは村娘に変装した荊姫だ。朽葉の聞き込んだ薬屋が犯人だとすれば村の一人一人の顔は覚えていないはず、成功する可能性は高い。冒険者と村人、河童全員に声を掛け、最低限の協力をしてもらうこととなった。
荊姫は河童たちが襲われたらしい練習場を通りつつ川原へと辿りついた。すでに響、恒弥、君影、力太は近くに潜んでおり、残りの仲間と力太達は村の中で待機している。河童の六郎達も近くの水の中に潜んでいる。全員が笛の合図で集まって来ることになっていた。
 果たして、荊姫が待つほども無く、右手の方から二人の河童が現れた。
(「湖の河童かしら?」)
 河童全員と会ったことは無い荊姫には判断は着かない。協力を申し出てくれた河童では無いのは確かだが‥‥。彼女は警戒しつつも直接的な行動は躊躇った。そして、それは恒弥達も同じだ。
「‥‥まさか、河童が来るとは。どうだい、見覚えは?」
 その言葉に、力太が河童を見るが首を振る。
「見たこと無いな。河童の若い者は全員知ってるはずだが‥‥」
 その言葉に恒弥が頷く。君影も笛を口に咥え、準備をする。
荊姫としてはそんな事は判らず、相手の行動を待つ。何より、この河童たちが襲撃者だとすれば相手に行動を起こさせるのが一番だ。
「何か‥‥」
 荊姫が少し怯えた演技で河童たちに問いかける。河童はにやりと笑うと、声を上げた。
「兄貴っ!」
 すると、河童の背後の茂みから水虎が現れた。伝説通り、全身が黒光りする鱗に包まれた、猿のような姿をしている。水虎は笑みを浮かべると、無言で長い爪を振りかぶって荊姫に襲い掛かった。
(速い‥)
 その動きの鋭さに荊姫はハッとするが、なんとかそれをかわす。水虎が目を見張った瞬間、高い笛の音が響き渡る。ほぼ同時に響の放った矢が水虎の足元に突き立った。恒弥と君影も駆け出している。少し遅れて水辺からは六郎を頭とした五人の河童も水辺に姿を現した。
 一方、村の若い衆と走り出した朽葉達は水虎たちの退路を断つように、回り込む。
「姫ちゃん、無事かい?」
 隣に並んだ恒弥の言葉に荊姫は平然と答える。
「あんたに心配されるほどじゃないわね。でも、気をつけてあんたより腕は確かみたいだから。‥‥それより、水虎殿ですね、大人しく縛につけば命の保障をします。降伏して下さい」
「ちっ」
 荊姫の言葉を水虎は無視し、舌打ちすると背を向けて走り出した。水辺には河童たちがいる為、山へと走っている。しかし、少し遅れて玲達が立ちふさがる。前後を塞がれた水虎はそれでも不敵に笑う。
「俺を倒せると思うなっ!」
 鋭い爪を振りかぶって叡璽へと襲い掛かる。
(「鱗は硬いか‥‥ならば足を封じる」)
 水虎の爪が叡璽突き立つ、しかし同時に振るわれた叡璽の刀が水虎の足をとらえる。だが、叡璽の手には鈍い手ごたえがあった。普段とは違う手ごたえに、叡璽は水虎を見るが水虎は平然と立っている。
(「馬鹿な、それ程に硬いなど‥‥」)
 人間ならば骨まで達しても不思議は無い一撃だった。その水虎の背後から君影が刀を振り下ろす。油断していたのか、水虎はまともに食らう。しかし、君影の刀も水虎の鱗を砕く事は出来なかった。
「随分丈夫な鱗だな」
君影はそう言い放つと再び構えを取る。しかし、予想外の事に次の手を考える二人の前に、玲が進み出る。
「俺がやる」
 玲はそう言って、小柄を手に水虎に掴みかかる。鋭い爪で戦う水虎に対して、得意のスタッキングはさほど効果は無いが、組み合って鱗の隙間を突けば傷を付けられるという目算があった。
 一方、逃げようとしている二匹の河童の足元に、再び響の矢が突き立つ。
「次は当てるぞ」
 しかし、警告だけでは河童は止まらない。駆け出そうとした河童は、前に立った朽葉に襲い掛かる。朽葉は掴みかかってきた河童の手を短刀で弾くと、逆に切りつける。傷は浅くはあったが、河童を怯ませるには十分だった。その隙に後ろに回りこんだ荊姫が拳を打ち込む。意識が朦朧として倒れた河童を村の男たちが取り押さえ、縄で縛る。
 もう一人の河童の前には恒弥が立つ。
「出来れば河童とは戦いたくないから、諦めてくれないかなぁ」
 気楽な調子で言う恒弥に河童は掴みかかるが、恒弥は余裕でかわす。そして、刀で切りつける。河童は飛んでかわそうとしたが、かわした筈の刃が河童の胴に食い込む。倒れた河童に、再び村の男たちが集まって取り押さえる。
「こんなところだな」
 そう言って響が水虎の方を見ると、そちらでは爪に肉を切り裂かれた玲が離れるところだった。
「確かに鱗の隙間に小柄を刺したはずだぞ‥‥」
 玲は胸から血を流しながら呟く。
「言ったはずだぞ、俺を倒せると思うなっ!」
 再び、爪を振るおうとした水虎の手を叡璽の刀が弾く。その手は刀で切りつけられたというのに、やはり無傷だ。
「もしかすると、水虎は魔法か魔法の武器でしか傷つかないかもな。たまにアンデットにもそういうのがいるんや」
 そう声を出したのは、戦いの様子を見守っていたニキだった。
「じゃなかったら、鱗の隙間に刺して無傷っていうのは、異常やわ」
 同時にニキがブラックホーリーを唱え始める。水虎は慌てた表情を浮かべるが、ニキの手から黒い光が飛び出て、水虎に直撃した。
「ぐわっ」
 初めて水虎が苦鳴をあげる。続いて光の塊と炎が水虎に当たった。朽葉のオーラショットと荊姫の火遁の術だ。
「なるほど、確かに知らなければ厄介だ、だが種が割れてしまえばどうということはない」
 朽葉はそう言い放つ。水虎は朽葉達へと踏み込もうとしたが、その前には恒弥達が立ちふさがる。
「覚えてやがれっ」
 水虎はそういうと、再び背を向けて逃走を始める。だが、その背に響が投網を投げつける。完全に網に包まれた水虎は逃げようともがくが、冒険者もそうはさせじと、押さえつけたり、魔法を放つ。結局、長い格闘の後、水虎は縛り上げられてしまった。こうなれば、いくら武器が効かなくてもどうしようも無い。
 喚いている水虎を見るために、村人や河童たちが次々と集まってくる。これで、ほぼ依頼は果たし終えたといえた。

 捕らえた水虎の話では、やはりこの水虎は件の水虎の子孫だったらしい。あの伝説の後各地を転々とした先祖の話を聞いた水虎は復讐を決意したのだという。ニキのリードシンキングでもそれは裏付けられた。
その後、冒険者達は祭りまで警戒に当たったが、襲撃は無く無事に祭りは終える事ができた。冒険者達は村人と河童達に見送られながら、村を立ち去った。