山賊退治

■ショートシナリオ


担当:鏑先黒

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月13日〜11月18日

リプレイ公開日:2004年11月21日

●オープニング

 先日、商い用の荷を運んでおりました。さほど高価なものではありませんが、量が多いのでそれなりに値が張ります。その峠に最近山賊が出るという噂は聞いていたので、町で暇そうにしていた遊び人達を小金で雇って、護衛っぽく見せていました。護衛の数さえいれば、賊も諦めるだろうと考えましたので。人数は10人ほどですが、腕の方は冒険者の方々に比べれば素人同然でしょう。山賊の方ですが、これはあくまで噂ですが、腕の立つ浪人に率いられた山賊だとか。しかも、怪しげな術を使う西洋の魔法使いもいるそうで‥‥正直不安でしたが。
 鬱蒼とした木々の間の道を通り、峠の頂付近まで来たとき、前の方を進んでいた人力車が三台か四台が煙に包まれ、続いて最後方の荷車も煙に包まれました。言い忘れましたが、荷車は10台でした。
 続いて煙の中から犬の吼え声と悲鳴、戦いの音が続いてしました。山賊の仕業かと戸惑っていると、森の中から一人の男が進み出てきたのです。そして、男は言い放ちました。
「大人しく金か荷を渡せば良し、さもなければ皆殺しだ。金も全部とはいわん」
 すると相手が一人と見たのか、雇った者の内、煙に巻かれていない三人が短刀を手にして男に向かっていきました。山賊が持っていたのは大きな刀で野太刀というのでしょうか、その刀を背負ったまま悠然と構えていました。ですが、男たちが近づいた時、先に振るわれたのは山賊の刀でした。三人の体から一斉に血飛沫があがりました。正直、私の目には何も見えませんでした。
 三人の護衛は血まみれになって倒れています。残った者たちも明らかに及び腰になりました。私もこの男が噂の腕の立つ頭なのだろうと考えました。その山賊の頭がもう一度言います。
「まだやるか? 大人しく金か荷を渡せば良し、さもなければ皆殺しだ」
 そこに到って、私も諦めました。財布ごと金子を相手の足元に放り投げました。
「よし、終わりだ!」
 その声とともに周囲の戦いの音が引いていきました。頭の周りに山賊らしい男が血刀を持った男が5人集まってきました。その他にも森の中に入っていった男たちもいた気がします。
 山賊の頭は財布を開けると一掴みして、残りをこちらに放り返してきました。
「じゃあな」
 山賊の姿は消え、残ったのは傷ついた雇い人だけでした。後で話を聞くと、前後の車では煙に包まれた後、犬達と山賊が襲ってきたそうです。幸い死者は一人だけでしたが、怪我人は多く、峠越えは苦労しました。

「‥‥それが二日前のことです。お役人様の仕事を疑うわけではありませんが、私ども商人は一刻も早くあの山賊を倒して欲しいのです」
 商人の言葉に、ギルド員は頷く。
「聞いた限りでは、なかなか強敵のようですね」
「はい、その分報酬は弾ませていただきます。私一人の依頼ではなく、あの峠を使う商人の総意と思っていただければ」
 その言葉にギルド員は頷き、更に問う。
「条件はどの様に?」
 正直、全滅という事になれば更に難しさは増す。
「あの一味が再起出来なければ問題ありません。頭の男、そして西洋の魔術使いを殺すか捕らえ、その他に手下を3人殺すか捕らえていただければ成功ということでは」
その言葉に、ギルド員は再び頷く。
「条件としては問題ありません。早速、募集を掛けましょう」
「それと、冒険者殿が動きやすいように私どももご協力します。囮の荷や変装用の衣装が必要ならばいくらでも言いつけ下さい」

●今回の参加者

 ea0861 緋邑 嵐天丸(25歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2331 ウェス・コラド(39歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea2495 丙 鞘継(26歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2630 月代 憐慈(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2988 氷川 玲(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3597 日向 大輝(24歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea7246 マリス・エストレリータ(19歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ea7901 氷雨 雹刃(41歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 山賊退治の依頼を受けた冒険者達は相談の結果、隊商に変装して山に入ることとなった。冒険者達の中で商人に化けるのは、月代憐慈(ea2630)だ。商人風の羽織を着た憐慈は、商家の若旦那に見える。そして、その護衛兼人足として氷川玲(ea2988)、丙鞘継(ea2495)、緋邑嵐天丸(ea0861)、日向大輝(ea3597)が一台の荷車を運ぶことになる。最後にその一行から距離をとって、氷雨雹刃(ea7901)、マリス・エストレリータ(ea7246)、ウェス・コラド(ea2331)がついていく。いざ、襲撃となれば商人に化けている憐慈達が後方へと下がり、共同して山賊を倒す作戦だ。
 そして、決行の日。
「高価なものなんだから、慎重に頼むぞ」
 商人に化けた憐慈の言葉に、大輝たちが雇われ人らしく返事をし、歩き出す。山へと入っていく彼らを見送り、少し離れてついていこうとしたマリスを雹刃が引き止める。
「待つんだ」
首を傾げるマリスに雹刃は言う。
「どうやら、見張りがいる」
 雹刃の指した方を見ると、森の中に一人の男が立っているのが見えた。普通の農民にも見えたが、男は暫くしてから森の中へと走り出す。
「山賊の仲間か?」
 ウェスの言葉に、雹刃は頷く。
「まず、間違いないな。恐らくもう居ないと思うが、慎重にいくぞ」
相談の結果、三人は山道へとは入らずに森の中を進み始めた。歩きづらいが、格段に見つかりにくくなる。
マリスは途中、テレパシーで出会った狐に人間たちのいる場所を尋ねたが、山頂の方としか判らなかった。

 山道を荷車押して歩くのは正直、重労働だ。荷を押している大輝達は汗を流している。一番楽をしているはずの憐慈すら急な山道に薄っすらと汗をかき、扇子で扇ぎながら山道を歩いていた。
(「‥‥そろそろか」)
 商人が襲われた現場が近づいた時、憐慈は小さく呪を唱えるとブレスセンサーを使う。憐慈の体が淡い光に包まれ、幾つかの呼吸が範囲に掛かる。反応の大きなものは人間であり、前方の効果範囲のギリギリに4つの反応があった。
「何か潜んでいます」
 憐慈の言葉に鞘継達が頷く。そのまま、憐慈は荷車の少し後方を歩く。今、荷車を動かしているのは、大輝と嵐天丸だ。鞘継と玲は荷車の前後を進む。
 そして、突然、大輝、嵐天丸、鞘継の視界が煙に閉ざされる。その瞬間、鞘継は後方へと走り出し嵐天丸もそれに続く。大輝は積んであった酢の樽を倒し、辺りに強い匂いを放つ。犬の鼻を少しでも誤魔化そうというのだ。
 ほぼ同時に犬の吼え声が響き、嵐天丸も煙の外に出て刀を抜く。鞘継は呪の詠唱を始める。咆哮からして、犬の数は二匹以上なのは確かだ。だが、その犬よりも先に煙の中から山賊が飛び出してくる。刀を手にした山賊二人が嵐天丸と大輝に突きかかって来た。
 だが、大輝はあっさりとその刀を弾く。
(「そんなに、強くはないな」)
 そこに犬たちが襲い掛かってきた。その素早い動きに大輝は牙を受けるだけで手がいっぱいだった。しかし、突如目の前の犬の体が突如切り裂かれ、血飛沫があがる。それは、憐慈のウィンドスラッシュだった。その一瞬を逃さす、大輝は刀を振り下ろす。犬は苦鳴を上げて絶命する。
しかし、息をつく間も無くそこに山賊が突きかかってくる。大輝は危ういところでそれをかわすと、再び剣を構え対峙する。次の瞬間、大輝は自ら仕掛ける。山賊も大輝の刀を受けようとするが、大輝とは腕が違いすぎた。肩口から大輝は刀を振り下ろし、斬り付けた。
(「浅いかっ」)
 だが、僅かに浅かったのか、山賊は傷を負いながらもなお戦おうとしていた。大輝は渾身の力を込めて刀を振り下ろす。同じ動きだが威力はまるで違う。山賊は刀を取り落とし、地面に倒れる。
嵐天丸もまた犬の素早さに守りに回らざるを得なかった。しかし、突然その刀が燃え上がる。その一瞬を嵐天丸は待っていた。炎に怯んだ犬に切りつける。それは、鞘継の使ったバーニングブレードだった。
その横に鞘継が同じく炎を纏った刀を手に並ぶ。だが、犬は切りつけられても引き下がる様子を見せなかった。
「‥‥逃げぬか?」
 鞘継は呟く。犬を殺すのは本意では無いが、向かって来るものを延々とかわす事はできない。鞘継は心を決めると向かってきた犬に刀を振り下ろす。致命傷を受けた犬が倒れるが、それに心を残す間も無く次の犬が襲い掛かって繰る。
「‥‥憐れな」
鞘継は再び刀を振るう。

一方、玲の前には話に聞いていた山賊の頭が現れる。頭は野太刀を背負い、余裕の表情だ。
「戦う気の様だな、来い」
 そう言って、野太刀に手を掛ける。だが、玲も迂闊に踏み込まない。先に野太刀の一撃を受けたなら、倒れるのは玲の方だ。睨み合う二人、だが不意に山賊の頭の体が揺れる。その原因を作ったのは駆けつけたウェスのサイコキネシスだった。やや距離を取っていたため遅れたが、今は頭の野太刀の動きを妨害しつづける。
 それを好機とみた玲は一気に距離を詰めると組み付こうとする。だが、頭も野太刀を振るう、サイコキネシスで妨害されてなお、鋭い一撃だ。小柄では受けられず、玲は横に飛んで刀身に空を切らせる。ギリギリでかわした玲だが、頭が刀を引き戻す前に間合いに入る自信があった。しかし、その瞬間、玲は再び後ろへと飛んだ。そして、玲の体から血飛沫があがる。
「どうしたっ!」
 後方で見ていたウェスには、玲の身に何が起きたのか判らなかった。

 前方に煙が上がっているのを見たマリスは、呪文を詠唱する。
「スモークフィールドを使うウィザードを」
 マリスの願いに応え、淡い光の矢が曲線を描き飛んでいく。その軌跡を追って雹刃が走り出す。それを見送って、マリスは高みに上がる。すでに気分は観戦状態だ。彼女、唯一の武器であるムーンアローは便利ではあるが、威力は微々たるものだ。すでにやることは無い、と決めているのだ。
 
「少し数が多すぎだな」
 最初は精霊魔法を使って援護していた憐慈だったが、すでに刀を持ち賊と切り結んでいた。だが、刀をとっても山賊風情に負ける訳にはいかない。小太刀で槍を受け流すと、踏み込んで切りつける。叫び声をあげた山賊に、憐慈は言葉をかける。
「降伏しろ、此処で死んでも仕方ないだろう」
 だが、山賊は何も応えず再び槍を振るう。憐慈は再び槍を受け流すと、小太刀を振るった。今度は動きを止めず、山賊の体に小太刀を埋める。倒れた山賊にため息を残すと、憐慈は周囲を見渡した。
 山賊たちは、全ての犬が倒れた後も攻撃の手を緩めなかった。鞘継は向かって来る山賊の刀を打ち払う。そうやって山賊のがむしゃらな打ち込みを全てかわすと、鞘継の刀は上段から刀を振り下ろす。山賊が慌てて受け止めようと剣を上げるが、鞘継の刀は弧を描いた。山賊がその意味を考える前に、鞘継の刀は山賊の脛を割っていた。激痛にのた打ち回る山賊だが、鞘継は意にかいさない。
「‥‥死ぬよりはましだ」
 そして、ついに次々に倒れていく仲間を見て山賊たちが逃げ始めた。
「‥‥夢想の太刀、白神撃・霊火鳳凰!!」
 バーニングソードによって威力が高められたソニックブームが嵐天丸の刀から飛び、山賊の一人の背が切り裂かれる。倒れた山賊を見て、嵐天丸が笑みを見せる。
「へへ、今日は炎も付いて絶好調ゥッ!」
 その嵐天丸の隣に憐慈と鞘継が並ぶ。
「追うか?」
 嵐天丸の言葉に二人が視線をかわす。すでに逃げた山賊は見えなくなっている。
「それよりも、頭の方は」
 大輝の言葉に振り返ると、道を塞ぐように視界を閉ざす闇が立っていた。

 ムーンアローの軌跡を追っていた雹刃は、その先に一人の西洋人を見つけていた。ローブを纏い樫の杖を持っているところを見ると、目的のウィザードだろう。雹刃は音も無く、背後から忍び寄る。しかし、その刃が届く寸前、ウィザードが気配を感じたのか振り返った。雹刃の姿を見てウィザードは短く呪を唱える。すると雹刃の目の前に炎の壁が立つ。しかし、雹刃は躊躇無く、炎へと飛び込む。焼け付く痛みを無視して炎を潜り抜けると、目の前にウィザードがいる。
 忍者刀を振るいウィザードを気絶させると、雹刃は彼をそのまま引き起こす。
「‥‥」
 そして、耳元で何事かを呟くと、無表情に喉を切り裂いた。血を吹き出しながら倒れるウィザードを見てもその表情が揺らぐことは無かった。

「こいつ一人じゃないぜ」
 玲が後ろにいるウェスに聞こえる様に言う。
「森の中にまだ仲間がいる。さっきのはそいつらの攻撃だ」
 森から放たれたソニックブームの攻撃を一つはかわしたものの、もう一撃は玲もかわし切れなかったのだ。そして、玲は自らの不利を悟る。さっきの様子では、頭の腕はやはりかなりのものだ。傷ついた体ではウェスの援護なしでは近寄るのは難しい。しかも、森の中にいる使い手達をかわしてとなると、不可能に近い。仮にウェスが森の山賊を相手にすれば、邪魔の無くなった頭をかわすのは更に難しいし、森の中にいるのが一人とは限らない。
 だが、助けは意外なところから来た。不意に頭の背後に闇が立ったのだ。闇は視界を遮り、頭は部下の援護を失い孤立する。マリスのシャドウフィールドだった。
「さっ、今のうちじゃ」
 マリスの言葉に押されるように玲は走り出す。森の中にいる山賊が移動する前に、頭を倒さねばならない。頭の野太刀が振るわれるが、ウェスのサイコキネシスはまだ健在だ。玲は刃を潜り抜けると、頭の両肩に小柄を突き刺す。しかし、頭は野太刀を落とすと腰の小太刀を抜こうとする。その瞬間、玲は頭を殺す決意をした。冷徹に振るわれた小柄は、頭の喉を切り裂いた。その絶叫により頭が倒されたのを知ったのか、闇の中から山賊が出てくることは無かった。
こうして、戦いが終わる。残った山賊たちは逃げ散り、それを全て捕らえる事は出来なかった。
 冒険者達は傷つき捕まった山賊達にも一応の手当てはしたものの、重傷者は止血だけでは命が終わるのを先延ばしにしているに過ぎない。マリスは今にも死にそうな山賊の傍らに降り立つと、その口にポーションを流し込む。すると、みるみる内に山賊の呼吸が安定した。それを確認して、マリスはホッと息をつく。
 多分、山賊は死刑になるはずだ。だが、マリスには死に行く者を見捨てる事はできなかったのだ。
(「あまり殺伐とはしたくないからのう‥‥」)
 甘いのかもしれないが、それでもマリスは自らを裏切りたくは無かった。

ウェスは倒れたウィザードの下へと足を運ぶ。当たり前だが、見覚えの無い顔だ。
「こんな島国にまで来て山賊とはご苦労だったな‥‥」
正義を気取る訳では無いが、こんな異国でこんな死に方をする男が同じウィザードだと思うと腹が立つ、それだけだ。
「‥‥それにしても奇妙な山賊だ‥‥モットーは『謙虚に手際よく』か?」
ウィザードを使って効果的に襲っているにもかかわらず、金は全額取らないし、皆殺しにしないのでせっかくの巧い手口がバレてしまっている。‥‥ウェスから見れば実に奇妙な山賊だった。しかし、その理由を調べるのは、すでにウェスたちの仕事では無い。

 玲に頭のことを聞いた大輝は肩を竦める。
「そうか、インチキだったか。ま、それだけ力があれば山賊なんてやってないか。ハッタリって奴だな」
 大輝は妙に納得した様に呟く。  
「ああ、だが余計やっかいだった」
 玲は真剣な表情で語った。

 依頼人の家で山賊退治が成功したことを報告すると、商人は満足そうに頷いた。
「確かに依頼を完了して頂きました。あなた方の治療費と無くなった装備はこちらで負担します。これからもよろしくお願いいたします」
 そう頭を下げる商人に、嵐天丸は明るく言う。
「良いモン手に入ったし、俺はイイや」
 そう言って見せたのは頭が持っていた野太刀だ。嵐天丸は報酬をも辞退すると野太刀を手に意気揚々と歩き出す。