小鬼撃退

■ショートシナリオ


担当:鏑先黒

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月21日〜11月26日

リプレイ公開日:2004年11月29日

●オープニング

『小鬼撃退』
「私の村では、月琴仙女様を祭っている祠が村から少し離れた山の麓にあるのです」
 中年の男の言葉に、ギルド員は頷く。月琴仙女を祭る祠や神社は珍しいという程ではない。
「というのも、昔、二つ豪族が争いを起こして私達の村が、戦場になったことがあったそうです。しかし、村の笛造り名人であり、笛の吹手でもあった数見という者がその事を嘆いていると、月から月琴仙女が光臨なされたそうです。仙女は、数見に微笑みかけると、争いの只中に入っていったのです。そして、どうやったのか豪族の長同士を和解させ、争いを止めさせたということです。最後に仙女は数見の笛のこと褒め、月へと帰ったといいます。そこで私どもの村では毎年その日を仙女の祭として、祠に供え物をし、笛と楽を奉納するのです。また、その日は殺生を禁じられ、争いごとも避ける慣わしになっています」
 そこで、男はふっとため息をつく。
「ですが、何年か前からその祭りのお供え物が荒らされるようになりまして。それというのは小鬼たちの仕業というのは判っております。朝になれば祠に供えられた食べ物は食い散らかされ、楽器は壊されております。かといって、供えたものは月の出ている間はそのままにしておく慣わし‥‥。動物たちが食べるのは仙女様が分け与えたことなので我らが文句を言う筋ではありませんが、祠を荒らされるというのは我慢できることではありません。そして、今年の祭りは三日後に迫っております」
「なるほど、荒らしに来た小鬼退治を依頼したい、ということですね。小鬼程度は駆け出しの冒険者にとっても難しいものではありません。ご安心ください」
 だが、ギルド員の言葉に男は首を横に振る。
「いえ、先ほどもいったとおり、殺生と争いは避けてもらいたいのです。ですが、争いは避けられないというのならば、それは仕方ありません。絶対に殺生はせず、ですが来年からは来ないようにしていただきたい」
 ギルド員は少し考えて問い返す。
「殺さずに?」
「はい、代々守ってきたしきたりです」
「では、それは話し合いか力かはともかく、今年の供え物を守り、来年からは来ないよう説得するか酷い目にあわせる、という依頼ですね」
「はい」
 ギルド員は難しいことを気軽に言ってくれる‥‥、と思ったが口には出さなかった。
「来年は来ない、ということはどうやって確認しますか? まさか来年まで報酬は待てというのは遠慮して頂きたいのですが」
「まさか、そういうことは言いません。私どもが冒険者殿の報告を聞き、成否を判断します。また、小鬼を殺さずに今年の供え物が荒らされなければ、最低限の報酬はお支払いいたします」
 男の言葉に、ギルド員は頷いた。早速、冒険者の募集が開始される。


●今回の参加者

 ea1050 岩倉 実篤(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2175 リーゼ・ヴォルケイトス(38歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea2984 緋霞 深識(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3488 暁 峡楼(28歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea5209 神山 明人(39歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6177 ゲレイ・メージ(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea6195 南天 桃(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea7246 マリス・エストレリータ(19歳・♀・バード・シフール・フランク王国)

●リプレイ本文

小鬼撃退

 月琴仙女の祭に、警護として呼ばれていた冒険者達は祭りの日の昼には村に着いていた。仙女の祭りは、昼過ぎから始まり、月が昇ってから終わる。その間は護衛の必要は無いので、冒険者達はそれぞれに過ごしていた。
 志士、南天桃(ea6195)は村長の家で昼寝をしていた。もちろん、ただ休んでいるだけでは無く、夜に備えて体を休めているのだ。桃は最初、毎年祠の前に人がいる事を明らかにし、小鬼を牽制する事を提案した。そして、毎年祠の前で、楽器を演奏し、歌い手や舞手などが夜を明かして月琴様を祭る祝いに変われば襲われないだろう、という考えだ。だが、話を聞いた村長は首を横に振る。万が一という事もあるし、仙女様の恵みを野の者達に分け与えられなくなる、と答えたのだ。桃としても村人に危険を犯させるのは本意ではないし、祭りの趣旨も理解できるので、それ以上は無理強いしなかった。
 一方、浪人、岩倉実篤(ea1050)は周囲の地理を確認するため、足を使っていた。そうして歩いてみると、祠の位置と小鬼が住んでいるという山の位置を考え、隠れる場所は幾つかの候補に絞られる。実篤はひとつ頷くと、川の近くの岩陰を選ぶ。
「ここから挟撃すると、小鬼は山へと向かうだろうな」
 実篤は、小鬼の通りそうな場所に簡単な罠を幾つか仕掛ける。
「あとは夜を待つだけか‥‥」
 呟いた実篤の耳に笛の音が聞こえてきた、祭りが始まったのだろう。実篤は皆がいる村長の家に向かった。少しでも休んでおくと、今晩が楽のはずだ。
 あるいは、バードのマリス・エストレリータ(ea7246)は笛職人から新しい笛を手に入れて、それの試し吹きを行っていた。今までの笛も悪い笛ではなかったが、シフール用の笛ではなかったのだ。小さく響く笛の音が、山々に木霊する。

 そして、月が昇り冒険者達が起き出した頃、祭りは無事に終わっていた。祠へと向かうと、村の者の言葉通り、祠の前にはご馳走と村にいる職人が今年作った笛、太鼓等が置かれている。それぞれの自信作なのかもしれない。
「それではよろしくお願いします」
 村長はそう言って、祠の前から去っていった。村人達もそれに続く。残った冒険者は改めて、作戦を話し合う。
「私はこの茂みに隠れていよう。酢を入れた樽は動かせ無いから」
 騎士リーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)が小さな茂みを指していうと、実篤が頷き続ける。
「俺は近くに隠れ場所を見つけておいた。この茂みに何人も隠れられないからな」
「俺もそちらに行こう」
 忍者、神山明人(ea5209)がいい、ウィザードのゲレイ・メージ(ea6177)、浪人、緋霞深識(ea2984)も頷く。
「俺も残りたいが、隠れるのは得意じゃない。実篤と少し離れていることにする」
「私はここで祠を守ります」
 桃は祠の前で立つ、それにマリスが便乗する。
「私は祠の上にいるのじゃ」
 そう言って、本当に祠の上にシフールのマリスは飛び乗った。

 各人が隠れ後、祠の上に乗ったマリスは横笛を持つ。買ったばかりのそれに、マリスは息を軽く吹きかける。やがて、美しい調べが辺りに響く。村人がそれを聞いたなら、何度でも聞きたいと言うだろう。だが、マリスがその調べを本当に聴かせたい相手は、あの月の向こうにいる。
(仙女が届けてくれぬかのう‥‥とは私は言わぬがな)
 その調べは桃の聴いた事の無いものだった、マリスの故郷である異国の曲だろうか。だが、桃はそれに即興で詩をつけ、歌う。笛の音と人の声が絡み合い、一つの音楽となる。
 美しい音色が辺りに響く。冒険者と月だけがそれを聞いていた。
(「音楽か、いいものだな」)
 明人は珍しくそう思う。しかし、その終わりは唐突だった。
 ぴきー
 突然、マリスの笛から異音が響く。さしもの桃もマリスを振り仰ぐ。すると、祠の上で何故か泣き出したマリスがいた。
「どうしたのですか?」
 当然、桃は問いかけるがマリスはただ首を横に振るだけだった。仕方なく桃は、じっとマリスが泣き止むのを待った。だが、泣き止んでもなお、マリスは口を噤んだままだった。沈黙の帳が落ちたまま時は進む。

 夜半近く。ついに気配が近づいてくるのが感じられた。
「‥‥来た。多いな」
 真っ先にそれに気付いたのは深識だ。
「15、6匹か。倒すのならば苦労はしないが」
 明人も闇に目を凝らして言う。追い散らすのも苦労しないだろう、だが今回はそれだけではすまないのだ。4人は何時でも飛び出せる様に準備する。
 だが、一方で桃達は小鬼の存在にまだ気付いていなかった。小鬼は祠に篝火が焚かれその隣に桃の姿があると判ると、ひそひそと相談らしきものを始める。やがて、相談は終わったのか、小鬼たちは武器を振りかざし、奇声を上げて桃に襲い掛かっていった。
 その時になって、桃も小鬼達に気付く。
(「不味いですね‥‥」)
 こんなに大勢で襲い掛かって来られるのは予定外だった。それでも桃はアイスチャクラで作り出したチャクラムを投げつける。チャクラムは正確に小鬼の足を傷つけ転倒させた。くるくると回転しながらチャクラムは桃の手の中に戻ってくる。だが、その間にも小鬼達は桃との距離を詰めていた。そこで、茂みに隠れていたリーザが飛び出す。完全武装したリーザの姿を見て、小鬼達も怯むが、その足は止まることは無かった。リーザはその隊列に飛び込むと、峰打ちで、刀を小鬼に打ちつける。刀で叩かれた小鬼は、倒れそうになるが、逆にリーザに向かって来た。しかし、何匹かはリーザが引き付けたものの、残りは桃へと向かっている。
桃は下がりながら再びチャクラムを投げつける。また小鬼が倒れるが、もうすぐ傍にまで来ていた。桃はチャクラムを受け取ると小太刀を引き抜く。しかし、正直桃は刀での戦いはそれほど得意ではない。それに、いくら弱い小鬼でも多勢に無勢だった。
 だが、小鬼と桃の間に篝火の光も通さない闇が立つ。突然の事に、小鬼は驚いて足を止める。
「今のうちじゃ」
 シャドゥフィールドを使ったマリスの言葉に従って、桃は小鬼たちから再び距離を取る。そこにようやく仲間達が駆けつけてくる。まず、ゲレイの放ったアイスブリザードが小鬼達を襲う。冷気が小鬼達を凍えさせ、氷の粒が傷つける。
「この程度じゃ、まだ死にはしないが、余り傷つけすぎるな! 運が悪ければ、あと一撃かもしれないっ」
小鬼達の力に詳しいゲレイは自信を持って告げる。その横を、深識達が走りぬけた。
「判った」
 深識は声を上げて、切り込んでいく。驚いた小鬼たちが粗末な槍で突こうとするが、深識は身軽な動きでそれをかわす。そして、逆に刀を振りぬいた。もちろん、手加減は忘れない。だが、確実に戦闘能力は削いでおく。その辺り加減が難しいところだ。小鬼達はうろたえ、逃げ出そうとするが、突然バタバタと倒れだす。
「春花の術だ。この場を血で汚す必要はあるまい」
 明人の言葉通り、倒れた小鬼達は安らかに眠っている。これならば捕らえる事は難しく無い。それでも、何匹かの小鬼が眠らずにすみ逃げ出す。それをリーゼと深識、明人が武器を手にそれを追う。桃のチャクラムも再び投擲され、小鬼の足を切り裂いた。だが、小鬼は足に怪我をしながらも必死で駆けている。そこに背後から、深織が切りつけた。悲鳴を上げて倒れた小鬼は今度は流石に立ち上がる気力も無かった。
 しかし仲間を見捨て、残った小鬼達はどんどんと走っていく。だが、その先には実篤が待ち伏せていた。
(「来たか‥」) 
 伏せていた実篤はいきなり立ち上がり、小鬼の前に仁王立ちになる。その姿に驚いた小鬼は、左右に分かれた。だが、それが実篤の思う壺だった。実篤の仕掛けた罠によって、小鬼達は次々と転ぶ。そこに実篤が仕掛ける。スタンアタックで小鬼達を気絶させていく。
 そこに明人達が駆けつけてくる。明人は倒れた小鬼を見て、実篤に言う。
「大丈夫そうだな」
 明人達の言葉に、闇の中で実篤は頷いてみせる。
「だが、三匹に逃げられたな」
「仕方ないな。小鬼は元々臆病な鬼だ。不利となれば、逃げ足は速い」
 ゲレイの言葉に、深織も頷く。臆病な小鬼を全滅させるのは、その住みか以外では案外難しいのだ。

 冒険者達は重傷を負った小鬼はさっさと放し、怪我の浅い小鬼達を縛り上げる。目が覚めた小鬼達はなにやら鬼の言葉で囁きあったり、冒険者達に訴えかけたりしていた。命乞いをしているのだろうが、言葉が通じないのが問題だ。
 そんな中で深織がデコピンを小鬼たちに行い始めると、小鬼達はぎゃあぎゃあと喚きだす。それを見ながら、実篤が皆に問う。
「さて、どうしたものかね? 捕らえたはいいが、言葉が通じぬでは説得もままならないな。今回はこのままでも良いが、来年以降も来させない様にするには不足‥‥いたぶっておくか?」
「言葉なら通じるのじゃ。テレパシーが使えるからの」
 そう言ったマリスを、明人が押しとどめる。
「まぁ、もう少し脅してからにした方がいい」
 そう言って、明人が使ったのは大ガマの術だ。体長3mの大ガマが突然現れ、小鬼たちへと歩み寄っていく。その大きさに小鬼は威圧される。大ガマは十分に近づくと口を開けて、小鬼達を飲み込もうとし始めた。食べられると思った小鬼達はパニックを起こし、我先に逃げ出そうとするが、縛られているので逃げることなど出来る訳は無い。
 そこに、今度はリーゼが持ってきた酢を柄杓で振り掛ける。酢は目や傷口に染み入り、小鬼達は更に高い悲鳴を上げた。
(「‥‥流石に可哀相だな」)
 延々と悲鳴を聞いていると、リーゼもそう思わないでは無いが、依頼は依頼だ。そして、マリスがテレパシーを使う。
(「二度と人間のモノに手を出すのは止めないと、次は命はありませんぞ。食べ物と命じゃ、割に合わんじゃろ」)
 小鬼から同意の意思が返ってくると、マリスは仲間に合図する。実篤達が小鬼の足を封じていた綱を切る。すると、足が自由になった小鬼達は脱兎のごとく逃げ出した。
 それを見送って、冒険者達は一息つく。
「お供え物を食うだけにしておけばよかったのに‥‥」
 ゲレイが闇に紛れていく小鬼達に呟いた。

 その後の夜は平穏だった。桃たちが少し離れた場所で見守っていると、食べ物の匂いに釣られた動物たちが集まってきている。冬が近づき、山野の恵みが少なくなっている今、動物たちにとってそれはまさに天からの恵みなのかもしれない。それを見ながら、冒険者達は思い思いに過ごす。
深織は適当な気を手に取ると、その恵みをもたらした月琴仙女を彫像を彫り始める。先ほど笛を吹き、歌っていたマリスと桃のイメージを重ねて。

 翌日。村長に結果を伝えた。村長は満足そうに笑みを浮かべる。
「判りました。一応、来年も冒険者を雇うことにしますが、来年は来ないでしょうな。ともあれ、面倒な依頼をこなして頂きありがとうございます」
 その言葉に、ゲレイは首を横に振る。
「構うことはない。私たちは金儲けだけが目的ではないのだ」
 ゲレイが言うと、皆が頷く。冒険者となり戦い、依頼をこなす理由は様々だ。だが、金だけがその理由では無いのは確かだった。
こうして、この厄介な依頼は成功に終わった。