おとこ教室

■ショートシナリオ&プロモート


担当:巫あてら

対応レベル:1〜5lv

難易度:易しい

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月04日〜10月09日

リプレイ公開日:2006年10月11日

●オープニング

「あ、あの‥‥」
「依頼でしたらこちらでお伺いします、どうぞ」
「あ、は、はい」
 冒険ギルドの受付嬢は思わず頬を綻ばせた。
 彼女の目の前に座っているのは、12,3歳の女の子。こんなところに来るのは初めてなのだろう、小動物のようにビクビクと怯えているのが明らかだ。
「それで、依頼の内容は‥‥?」
 受付嬢はつとめて優しく尋ねた。
「えっと、ボク‥‥」
「ボク?!」
 思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。少女、否、少年はがっくりと肩を落とした。
「お姉さんも、ボクのことを女の子だと思ったんですね‥‥」
「ご、ごめんね、君があんまり可愛かったものだから‥‥」
「いえ、気にしないでください。慣れてますから‥‥」
 依頼というのもこのことなんです、と少年―ドニ・アルフェイベ―は大きな溜め息の後、事の次第を話し始めた。



 ドニの父親は様々な苦難を乗り越えた名のある冒険者だったが、戦いの最中に命を落としてしまった。そのため、ドニと三人の姉は、女手一つでここまで育てられてきた。
 長女アガートは通訳として、次女ベアトリスは商人として、活躍している。三女シャルロットも憧れのウィザードになるべく、勉強の最中である。
 そして四番目の長男、ドニはというと‥‥。

「ドニ! 貴方は男の子なんだからこんなことしなくていいんです!」
「でもアガート姉さん、ボク、お掃除好きだから‥‥」

「ドニ! あんた男のクセにこんなモンも持ち上げられないの?! なっさけないわねー!」
「ご、ごめんなさい、ベアトリス姉さん‥‥」

「ドニ! また塾でイジメられたんだって? 駄目だよ、やられる前にやらなきゃ!」
「シャルロット姉さん、ぼ、暴力はいけないよ‥‥」

 そんなドニの姿を見て、母は決まってこう嘆くのである。
「男の子が生まれたら、お父さんみたいな冒険者になって欲しかったんだけどねぇ‥‥」

 幼い頃から働く母の背中を見て育ってきたせいか、三人の姉はずいぶんしっかり者になった。その反動と言わんばかりに、家庭的で奥ゆかしい性質は全てドニに流れてしまったようである。

「ボク、もうお母さんにあんな悲しそうな顔をして欲しくないんです。それに姉さん達にも馬鹿にされてばっかりだし‥‥」
「それで依頼っていうのは‥‥」
「ボクを男にして欲しいんです!」
「えっ?!」
 受付嬢は再び奇声をあげた。
「ボク、力もないし勇気もないけど‥‥でもお父さんみたいな冒険者になりたいんです! そのためには、先輩冒険者さん達に色々教えてもらうのがいいんじゃないって姉さん達が‥‥だから‥‥!」
 真剣にそう言うドニの顔を見ながら、受付嬢は(なんだそういう意味か)とほっと胸を撫で下ろした。
「わかりました。その依頼、承らせていただきます」
 受付嬢が微笑みかけると、ドニは安堵したような表情を浮かべた。

●今回の参加者

 ea8078 羽鳥 助(24歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb0916 大宗院 奈々(40歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1165 青柳 燕(33歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb5231 中 丹(30歳・♂・武道家・河童・華仙教大国)
 eb5486 スラッシュ・ザ・スレイヤー(38歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb7406 スバル・ルクロワ(22歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●冒険者、到着

「おや、一人少ないみたいだねぇ」
 到着した冒険者達を見て、ドニの母、ミシェルは残念そうな声をあげた。
「せっかく腕によりをかけてご馳走作って待ってたってのに」
「はいはい! 俺二人分食べま〜す!」
 と目を輝かせながら挙手したのは、ジャパン出身の忍者・羽鳥助(ea8078)である。
「よく食べる子は好きだよ。ドニもそれくらいバクバク食べてくれないかね、ねぇドニ?」
 依頼人ドニはといえばミシェルの後ろに隠れて恐る恐る様子を伺っている。やや潤んだ目もあいまって、まさに美少女の様相である。
「‥むぅ」
 そんなドニをじーっと見つめながら、唸り声をあげるジャパン出身の志士・大宗院奈々(eb0916)。
「ドニ、その歳で経験がなくたって恥ずかしいことじゃないぞ。まあ、どうしてもというなら私が男にしてやらんことも‥‥」
「奈々姐はん、『男』の意味が違いますがな」
 ツッコミを入れたのは華仙教大国出身の武道家・中丹(eb5231)だった。
「腹も減ったし、飯を食いながらでも話を聞こうかのぅ」
「そうだな」
 ジャパン出身の侍・青柳燕(eb1165)とノルマン王国出身のファイター・スラッシュ・ザ・スレイヤー(eb5486)を筆頭に、一行はところ狭しと料理の並べられたテーブルに着いた。



●ミッシェル母さんの料理を囲みながら

「‥でさ、男らしくなりたいって ドニはどんな男らしいになりたいわけ? 若しくは、色々職業あるけど、何になりたいとかさ」
 聞くや否や、羽鳥は「おかわり〜」と空の皿を差し出す。食卓について、まだ数分しか経っていない。
「そういえば、ドニは家事が得意なんだってな?」
 思い出したように、大宗院が言った。
「あっ、はい」
「冒険者なんて何でも屋なんだから、家事ができるって事は結構、向いてるんじゃないか。まぁ、戦闘ができないのも、クレリックやウィザードなら問題はないだろう」
「えっと、その、ボク‥‥そんなところまで考えてなくて‥‥でも今のままじゃダメだって思ったんです」
 具体的にどんな職業につきたいのか答えられなかったせいか、ドニはしょげてしまったようだった。
「まぁ、憧れを持つことは結構ぢゃが。冒険者になって『何がしたいか』くらいは聞かせてもらおうかのぉ?」
「青柳さんは、何がしたくて冒険者になったんですか?」
「ん? わしか? わしゃ絵描きを生業にしちょるんでな。まだ見たことのない物、見たことのない風景を見て、それを絵に残したいと思っちょるんぢゃよ」
「俺は‥‥」
 羽鳥は口いっぱいに頬張ったものを水で流し込んだ。
「今、欧州回ってて、ゲルマン語覚える前に行ったキエフのお茶会で子供に空蝉の術見せたら喜んでもらえてすっげー嬉しかったよ。
 上手く言えないけど‥‥そんな風に喜んで貰えたり 困った人の手伝いとか出来たらいいかなってさ。姉ちゃん達は 姉ちゃんたちなんだし、自分の得意なことでやったらいいんでないかな?」
 ドニは彼等の言葉に、聞き入っている。
「う〜ん、冒険者になったワケか〜、おいらは特にないんやけどな〜」
 中はそう言いながら、デザートに出された果実にかじりついた。
「しいて言うなら、義兄弟のためかな? 義兄弟の杯を交わした友っちゅーか仲間っちゅーか、遠く離れとってもおいら達の友情は不滅や〜! というような仲っちゅーのかな。
 ま、そのためだけに華国からパリまで泳がされたっちゅーのは秘密や!」
「えっ?! お、泳いだんですか?!」
 まさかドニが真に受けるとは思わなかったらしい、中は慌てて「ジョークや!」とフォローを入れる。
「そ、そうですよね、いくら河童さんでも華国からパリまでは‥‥あはは」
 ドニの表情は、明らかに和んだものになっていた。
「冒険をする理由なんぞ、人それぞれぢゃ。ここに集まった連中、こんな風にみんな別々の理由、目標を持って冒険をしちょる。勿論、『父親のような立派な冒険者になる』ことも、立派な目標ぢゃよ」
「そう‥‥ですよね」
「まずは沢山食べて元気出してさ、それからだよ。な!」
 人見知りをするドニではあるが、親身になってアドバイスをくれる冒険者達に少し心を許してきたようだ。



●『おとこ』とはなんぞや?〜身だしなみ編〜

 中とスラッシュの提案で、一行はエチゴヤに足を運んでいた。
「今日はこのドニはんに鎧とか見せてやって」
 と、中は店員に事情を説明した。
「えっ、鎧ですか?!」
「皮鎧くらいは行ってみよ」
 間もなくして店員がネイルアーマーを持ってくる。
「ところでスラッシュ‥‥今夜、二人きりでドニの相談を」
 この機会を逃してたまるかと、大宗院はスラッシュに声をかけた。
「おぉ、思ったよりマシじゃねぇか」
 が、大宗院の口説き文句も虚しく、ドニがアーマーを着終わってしまう。大宗院は小さく舌打ちした。
 いくら一番軽いアーマーといえど、細身のドニには重いらしく、動きがフラフラしていた。
「こうすりゃもっといいな」
 スラッシュは仕事道具を取り出し、器用にドニの前髪を立てた。
「わあ‥‥」
 鏡に映った自分の姿を見て、ドニが歓声をあげた。
「おっ、カッコイイじゃん〜」
「なかなか男前ぢゃの」
 羽鳥と青柳に褒められ、ドニははにかむように微笑んだ。
「俺はこれを貰おうか」
 とスラッシュが木刀を二本購入している横で、中が不思議なものを買っていた。
「ドニはんにプレゼントや」
「なんですかこれ‥‥?」
「六尺褌や! これで男を磨くんやな」
 ドニは「ありがとうございます」と褌を受け取っていたが、用途がわからないのか、頭上に『?』を浮かべていた。



●『おとこ』とはなんぞや?〜ナンパ編〜

「あの子をナンパしてくるんだ」
「えぇー?!」
 エチゴヤを出、パリの街中を歩いていると大宗院が突然そんなことを言った。
「どうせ男らしいと判断するのは結局女だ。女にもてる様になれば男らしくなれるんじゃないか」
「え、でも‥‥」
「ほら、四の五のいわず行ってこい!」
 子供と老人には厳しい大宗院である。問答無用でドニを女性のいるほうへ押しやった。
「成功すれば、他の意味でも男になれるかもな」
 フフッと大人な笑みを浮かべながら、大宗院は「さて」と青柳のほうへ向き直った。
「青柳、よければ今夜ドニのことで‥‥」
「や、やっぱり無理です〜」
 ことごとくタイミングの悪い少年である。大宗院は大きく溜め息をついた。
「で、結果はどうだったのさ?」
 大方予想はつくが、羽鳥は戻ってきたドニに聞いた。
「全然ダメでした‥‥でも、色んなおねーさんが『頑張ってね』って応援してくれて‥‥」
 よほど声援が嬉しかったのか、ドニの表情は晴れ晴れとしていた。



●『おとこ』とはなんぞや?〜戦闘編〜

「必勝法は奇襲で一撃必殺、これに尽きる」
 先日エチゴヤで買った木刀を手に、スラッシュが言う。
 その向かいには、同じく木刀を持ったドニがいた。
「一人がそれでやられりゃ周りの連中、特にガキンチョじゃクモの子みてぇに逃げてくだろうよ」
「は、はい!」
 
 と、スラッシュが稽古をつけ始めてから早数十分。
 皆が異口同音に休憩を勧めるなか、ドニは「大丈夫です」の一点張りだった。だが慣れない木刀のせいで掌はマメだらけ、何度もコケるので体中は痣だらけだった。
 以前のドニだったら、木刀を握ることすら躊躇っただろう。
 けれどこの数日で、ドニは確実に変わっていた。



●『おとこ』とはなんぞや?〜ココロ編〜

 依頼五日目。
 ドニは『おとこ』になれたのだろうか?

 ドニの家を去る前、冒険者は思い思いにドニへと言葉をかけた。
「今ドニがすべき事は、自分の信念を母親や姉に打明け、それを貫くことだと思うぞ。例えそれが世間で男らしくないと云うことでもな」
 そう言う大宗院の表情は、ナンパの時とは違う至って真面目なものだった。
「わ、大宗院さん?!」
「こら、こんなことで緊張するな。男だろ?」
 ドニを抱きしめながら、大宗院はからかうようにドニの頭をぐしゃぐしゃにした。
「正直俺ぁ物心ついたガキの頃から斬った張ったの暮らしだったからな、偶々得意だった剣で飯食ってきて、偶々生き延びて今に至ってるだけだからよ」
 面倒臭そうな口調であったが、スラッシュの目は真剣そのものであった。
「だけどよ、男ってのは結局どんだけ自分にカッコつけられるかなんだよ。ボーズが男らしく生きたいなら、できる所からカッコつけてみちゃどうだ? いじめっ子を返り討ちにする自分‥‥カッコいいだろ?
 ケンカに負けなくたって、威勢で勝つでもいいじゃねぇか。ま、カッコいいってのが嫌なら自分が正しいと思う事って置き換えてもいいぜ。
 ちっとでもそれが出来るようになったら、そんときゃ名前で呼んでやるぜ、ボーズ」
 ドニは微笑んだ。その表情は五日前よりも、逞しいものになっている。
「さて‥‥冒険者への第一歩を踏み出す覚悟は出来たようぢゃな」
 そう言いながら、青柳は鷹のマント止めと一枚の絵をドニに渡した。
「こいつはわしからの餞別ぢゃ。で、こっちが‥こいつを装備したお前さんの未来予想図ぢゃよ。
 具体的に描いてこそ、夢ちゅうのは実現させるために努力できるんぢゃよ。この絵のように成長したお前さんとギルドで会える日を、楽しみにしとるぞい」
「あ、ありがとうございます!」
 ドニは青柳が描いた未来予想図に魅入っていた。横から覗き込んだ羽鳥と中も、
「よかったじゃん、ドニ!」
「なかなかエエ男やな〜」
 と、自分のことのように喜んでいる。
「皆さん、本当に今回はありがとうございます。
 今までボクは、姉さん達や友達にからかわれるのが嫌で、男らしくなりたいと思ってました。
 だけど、今は自分のために、男らしくなろうって思います。そういう風に思えるようになったのは、皆さんのおかげです」
 「本当に、本当にありがとうございます」と深く頭を下げるドニは、見た目は可愛らしいものの、心は『男らしい』、一人の冒険者見習いだった。