士道不覚悟 〜新撰組四番隊〜

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 74 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:04月15日〜04月20日

リプレイ公開日:2006年04月24日

●オープニング

 時が動く。人が動く。世界はゆるりと、しかし、確実に変貌を遂げる。
 時勢は大きな流れとなって全てを飲み込み抗えず。小さな自分が何故にそのままでいられようか。
 変革が変えられないのなら、せめてより良き方向に舵を取ろう。
 ――それが、他の意思を潰す事になっても‥‥。

   ※   ※

「新撰組四番隊は知っているな? 今回の依頼は、その組長・平山五郎の護衛だ」
 思わず幻聴かと思った者、幾人か。
 その驚きも当然とばかりに係員は肯定して見せた。
「依頼人――ちなみに、当人の諸事情により正体は伏すが――によれば、平山の命を狙う者があるらしい」
 新撰組は人斬り・偽志士などを相手にする修羅の集団。彼らを目障りに思う者は少なくない。加えて、四番隊は素行もお世辞に良しとは言えず、恨みを買う事も多々あった。
 故に今更命を狙われてると言われても、何を当たり前な、な話なのだ。
 おまけに、新撰組組長となれば腕前も相当。従う隊士も何人もいる。その上、何故護衛が必要なのか。
「依頼人はそこらの事情も分かってるようだが。今回はどうもちょっと様子が違うかもという訳だ」
 平山を殺る。
 依頼人はほんの偶然からその言葉を聞いた。
 告げたのは、一人のごろつき。女との戯れに興じ、その最中で自分を誇示したかったのだろう。冗談めかしてその事を告げた。
 どこにでもありふれたような輩は、見るからに壬生狼の敵では無い。普通なら心配する必要などさらさらに無い。そこら辺を追求されたようで、渋々とごろつきは白状した。
「まぁな。本当に俺たちが殺るなら、何人集まっても返り討ちにあうだけだろう。けど、実際に殺るのは俺たちじゃない」
 言ってごろつきはにやりと笑う。
「俺たちは、ただ組長たちと向き合うだけ。それで、ほんの少し組長さまの注意をこちらに向けて、隙を作ればいい。そう頼まれたんだ。実際殺るのは他の奴で、そいつは俺らより腕が立つ。それでも、組長には叶わない。だから、他に気を取られた隙をついて攻め込もうと言うんだ。
 その頼んだって奴は‥‥ちょっと意外な奴でな。確かに、隙さえ作ればそいつなら組長をやっちまえるだろう。組長さまだって、まさかと思うだろうし」
 可哀想だな、とごろつきは軽く肩をすくめる。同情した口ぶりは、一応本心でもあるようだ。
「ま、命を取るまでは出来なくても背に一刀でも傷つけられれば、後はどうとでも処理できるって事だがな」
 くつくつとごろつきは愉快そうに笑う。後は女への睦言。その一件に成功すれば、金と名声が手に入る。しかし、幾ら向き合うだけとはいえ、危険は危険。今生の別れとなる事も思えば、今を楽しむべしと女を懐に抱き寄せる。
 その後の事は意味を成さない。だが、聞いた依頼人は気が気ではなかった。
 平山の腕前、そして他の隊士たちなど当然考慮しているだろう。にも関わらず、何故あのごろつきは自信ありげなのか。
 平山への直接の忠告は憚られた。なので、ギルドへと密かに依頼してきたのだ。
「ま、厄介な依頼だわな」
 はぁ、と、係員は嘆息付く。溜め息の深さでこの依頼を告げようとしている様だった。
「まず聞いたその口ぶりからして、ごろつきとやらは複数。正確な人数は不明だが、そう人数も多く無いだろうがな。加えてそいつらに命じた誰か。こっちは完全に不明。そして、そいつらがいつどうやって仕掛けてくるかも不明。おまけに‥‥」
 気まずそうに頭を掻くと、一つずつその指を折っていく。
「組長の気性からして、忠告した所で聞きやしないだろうし、それで護衛しようとすれば余計なお世話と鬱陶しがられるのがオチだろう。だから、平山には何も告げずに影ながら守って欲しいとの事だ。
 ――が!
 理由も告げずにこそこそ周辺に張り付いてるのがばれたら、それこそ即行で首を刎ねに来るだろうなー、あの御仁は」
 一番の厄介は、護衛すべき人物なのかもしれない。
 それでも、何とかしてくれないか、と係員は冒険者たちをぐるりと見回す。
 どうするかは‥‥冒険者次第だ。

●今回の参加者

 ea1057 氷雨 鳳(37歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea2019 山野 田吾作(31歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea4236 神楽 龍影(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb0971 花東沖 竜良(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1798 拍手 阿邪流(28歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3503 ネフィリム・フィルス(35歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)

●サポート参加者

拍手 阿義流(eb1795)/ シターレ・オレアリス(eb3933

●リプレイ本文

「依頼人って誰なんだろうね。芹沢局長かなとか思うんだけど」
「どうだろう? あの御仁なら冒険者に頼まず自分の手勢でさっさと事を片付ける気もするんだが‥‥」
 ネフィリム・フィルス(eb3503)に、氷雨鳳(ea1057)は少し首を傾げる。同じ新撰組同士、屯所で顔を合わす事もある。新撰組局長・芹沢鴨は四番隊組長・平山五郎とは前からの知己であり、上司でもある。護衛が必要なら面と向かって言うだろうし、それにわざわざ平山が逆らう道理は無いように思う。
「そっかー。まぁ、そっちはさておき、平山組長の動き‥‥というか、新撰組の動きを探る者は結構多いらしいよ。その中のどれに今回の相手がいるのかは分からないけど」
「こっちもそんな感じだな。ま、注目されて当然の奴らだしな」
 ネフィリムが知り合いの仕入れてきた情報を告げると、拍手阿邪流(eb1798)も兄からの話をざっと説明する。
 有象無象のごろつきから、役所の組織などなど。動向を探っているのか単なる話の種なのか。向こうも上手く隠す為にそこまで汲み取る事は出来ないが、とにかく注目する者はそれなりにいるようだ。
「それにしても、依頼主が聞いたというごろつきの言葉、どうにも気になるでござるな」
 山野田吾作(ea2019)が険しい顔をさらに深める。
『背に一刀でも傷つけられれば、後はどうとでも処理できる』
 ごろつきが言っていた一言。ただのごろつきならば、ただの一刀でどうこう出来る訳もない。どうやら誰かに雇われているようであるし、裏に果たして何が隠されているのか。
「隊の中で何か不穏な動きがあるのか。それとも見廻組からか‥‥。何か起きているのか分かりませんが、暗殺だなんて卑怯な真似は赦せませんね」
 不快そうな花東沖竜良(eb0971)に、同意を示す者幾名か。
「深い事情に首を突っ込むつもりはござらぬが、同じく士たる者として見過ごしも出来ないでござる。‥‥さて、神楽殿の説得が上手く行けばよいでござるな。筋を通せば話を聞く御仁ではあるようでござるが」
「そうかぁ? なんだかんだで鬱陶しがられる気がするけどな」
 唸る田吾作を、拍手阿邪流(eb1798)がどこか投げやりに肩を竦めていた。

 その神楽龍影(ea4236)はといえば、屯所を訪ねていた。表向きは先の人斬り討伐の相談。その実、暗殺の忠告を出しに。
「‥‥。賊が言うには、首謀者は意外な人物だとか。故に、他の隊士にも話してはおりませぬ」
 この場にも人払いを求めて、平山と二人。他に聞かれぬ様、声も潜める。
「傍で警戒させて頂きたく存じます。女連れで恥ずかしいという事は御座いますまい?」
 にっこりと笑う龍影は女性そのもの。女服を着て化粧をして、普段つけてる面も今回は横に置く。
 平山はそんな龍影をしげしげと眺めてはいたが、
「話はそれだけだな。では、こちらも忙しい身なので早々にお引取り願おう」
 あっさり告げると、立ち上がり退室する。
「護衛は必要ありませぬか?」
「忠告はありがたく頂戴しよう。だが、女だろうが女形だろうが遊びでも無いのに連れ歩く気はない。まして護られるなど恥でしかない」
 平山は口端だけで笑みを作ると、困惑する龍影を残して、さっさと部屋を後にした。

 昼の内は田吾作と龍影が張り付く。
 龍影が話した事により、護衛の件は勘付かれている。ならばとさらに十分に距離を置いて遠巻きから見張り、見張る時間もそれぞれは短めにして気取られないよう重々気をつける。
 幸いというべきか。浅葱の隊服は目立つ事この上ない。ただそれでも蒔かれる事度々。
「全く油断ならないでござる」
 面目なさげに田吾作は告げる。
 夕闇迫る空の下。ここからは夜の見張りへと交代。
「今の所、怪しげな動きはなさそうではありまするが‥‥」
 市井の動きに不審は無い。平隊士二人がお供について回るが、彼らもまた妙な動きを見せてはいないように思う。少なくとも龍影が見る限りでは。
 昼の内は商家中心に回り、夜が来れば酒場や花街に足を運ぶ。
 人の多さではどっちも変わらないが、当然夜の街には異様な活気が加わる。
「ここで仕掛けるにはまだ人目が多そうですね」
「でもその油断をついてとかも‥‥っと」
 平山と目が合いそうになり、鳳は竜良の手を引く。とっさに恋人同士の振りをして、竜良は鳳を抱きしめた。
 横を通る酔漢が軽く口笛吹いて揶揄るのを、竜良は苦笑いを浮かべて追い払う。その間も腕の下から鳳は平山たちから目を離さない。
 幾つかの酒場を覗いては、酒もそこそこに出て行く。
 ‥‥たまに裏口や住処の方の戸口から出て行かれたりもする。
「あー、もう面倒くせええ!! どこ行きやがった!!」
 酒場に入ったきりなかなか出てこないので不審に思えばそういう事である。
 苛立ちながらも表に飛び出し、阿邪流が周囲に目を向ける。
 幸いにも目はかなりいい。界隈を走り回ってようやく闇夜に消える浅葱を見つけ、急いで追いかけた。
 まだ宵の口とも言える時間だが、もう家に戻るのか花街から離れようとしている。
 賑やかな風景から離れてしまうと、市井は途端に闇に沈む。どこかで借りたのか、揺れる提灯の明かりだけがぽつんと鮮やかに浮かび上がる。
 その輝きが唐突に動きを止めた。
 揺れる提灯の明かりに、従う影は三つ。そして、それをさらに囲む影が幾重にも重なった。不審な男たちは、皆手に抜き身の得物を握り締めている。
 気付いた竜良が即座に呼子笛を吹き鳴らす。高く澄んだ笛の音は静かな夜に響き渡り、男たちがはっとざわめく。
 その時、新撰組側が動いた。平山の手が刀に掛かる。そして、傍らの隊士がそれよりも素早く腰の得物を引き抜いた。
 力強い一歩と共に、その刃を振り下ろした先は――自身の組長である平山へと。
「組長!?」
 もう一人の隊士が声を上げた。駆け寄ろうとするのを、抜き身の刀翳してごろつきたちが邪魔をする。
 提灯が落ち、倒れた火種が激しく燃え上がる。
 肩口から血を吹き出して倒れる平山と、そして、血塗れた刀を手にして立つ平隊士の姿がくっきりと浮かび上がった。
 肩を押さえて睨みつける平山へと、血塗れた平隊士が刀を振り上げる!
「ぎゃあ!!」
 それに水を注したのは無粋なごろつきの声。 
「新撰組十番隊・氷雨鳳! せめてもの慈悲だ。苦しまずに逝かせてやる!!」
 大脇差・一文字を構えて、鳳がごろつき一人を切り伏せる。ごろつきの数は片手で数えられる。構え方してもけして玄人が相手ではない。
 突如出てきた助太刀に、ごろつきたちは大いに戸惑っている。その足元が不意に爆発した。
「ったく、冗談じゃねぇ! 何で連れの隊士がなんだ!?」
 阿邪流のシャドゥボムだ。ようやく詠唱を完成させたのだが、その口で色々毒づいている。
 ごろつきたちの騒ぎに血塗れた平隊士が気を取られる。その隙をついて、平山は刀を抜き放つと薙ぎ払う。隊士はとっさに後方に逃げ、歯噛みしながら刀を構えたが、
「怨恨? それとも‥‥!? どの道、赦す気は無いからな!!」
 ごろつきの囲みを破り、横合いから割って入ったネフィリムが平隊士へと斬り付ける。
 とっさに振るわれた刀がネフィリムの身を掠める。それに堪え、ネフィリムは太刀・来派国行を振るった。重さを加味したその一撃を避けきれず、平隊士は鮮血を吹き上げる。
「くぅ!!」
 それでも刀を構える隊士に、今度は田吾作が日本刀を振るう。ただし、狙いは相手の刀。鉄の澄んだ音を上げて刀身が月に舞い、地に落ちる。
「よもやとは思うておったでござるが‥‥やはりというべきでござりまするか」
 苦々しげに顔を歪める田吾作。だがそれ以上に、口惜しげなのは対峙している平隊士の方だった。
「糞!」
 荒い息を飲み込むと、隊士は役に立たなくなった刀を投げつけてきた。
 とっさに躱した一瞬をつき。背を向けるや、平隊士は全力で逃走にかかる。
「後は任せる! 始末しておけ!!」
「はい!」
 傷を手早く縛り上げると、きつい口調で平山が告げる。逃げた隊士を追いかけるのを、遅れじと田吾作とネフィリムも続いた。
 残されたもう一人の平隊士は、命を受けて気を取り直すと、即行でごろつき一人を斬り伏せる。仲間の裏切りに狼狽していたが、もはやその色はどこにも見当たらない。
「な、何だよ! なんでこんなに! 話が違うじゃねぇか!!」
 対してごろつきたちの狼狽は至極大きく、もはや戦意は無いも同然。蒼白な顔で冒険者達を見渡す。逃げ出そうとした中の一人も、龍影が火を動かしそれを阻んだ。
「全く卑怯な真似を。‥‥俺の心の刀が赦しません!」
 霞刀を返して、竜良が叩き伏せる。全て終わるのはあっけ無い程短い時間だった。
 そして気絶するだけに留めたごろつきを起こすと、龍影がにこりと微笑む。
「念の為に尋ねますが。この件は誰に頼まれたのでしょうか? 教えてくだされば命はお助けしますよ」
「に、逃げたあいつだよ! 俺たちに平山が目を向けている間に、あいつが後ろから刺す! そういう算段だったんだ!! けど‥‥」
「けど?」
「あいつも誰かに従っている感じだった。何となく、だけどな」
 蒼白になりながら、ごろつきは夢中で言葉を紡ぐ。
「‥‥だそうですけど。さて、この後はどうします?」
 竜良は鳳を向くが、その前に平隊士が進み出る。
「組長は始末しろと仰いましたからね。遠慮無用ですよ」
「なるほど。それは最もです」
 龍影が至極真面目ぶって頷く。それに小さく笑うと、平隊士は刀を振り上げた。
 月光に照らされ、怪しく煌く刀身。ごろつきは顔を引き攣らせると、その表情のまま胴体から頭が飛んだ。

 逃げた隊士は、すでに深手を負っている。追いつくのはそう難しく無いように思えた。
 だが、平山の傷も深い。とっさに身を庇ったか、肩から腕にかけてやられている。
「無理をするなと云う方が無理そうだな。だが、油断するな」
 追いかけながらネフィリムが忠告するが、冷たい一瞥を返すのみ。虫の居所が悪そうなのは表情で分かったのでそれ以上は何も言わない。
 が、その忠告も結局は無用に終わる。
 それ程もいかぬ内に、平隊士の前に誰かが飛び出てきたのだ。
 浅葱色の羽織は新撰組の隊服。それが誰か悟った平隊士は、ほっとしてそちらに駆け寄ろうとする。
「助け‥‥、‥‥!!!」
 そして、一瞬後には戦慄に身を強張らせた絶命の叫びへと繋がった。
 抜かれた刀は迷う事無く平隊士の身を突き破っていた。吹き出す鮮血が辺りを濡らし、やがて力を失うと、刀はゆっくりと引き抜かれる。
 物に変わった相手に目もくれず、刀身の汚れをふき取る。その人物はといえば。
「土方‥‥」
 新撰組副長・土方歳三。苦い表情で平山は名を呼んだ。
「月夜の晩に災難でしたね。平山さん」
 不自然なまでに笑みを見せると、そう言いおいて土方はさっさとその場を後にした。
「使えぬ駒の始末。‥‥副長自ら検分役か。ずいぶんと買い被られたものだな」
 揶揄するような口調で、その実、目は真剣だった。
 平隊士でも、背を斬って確実に殺れる保証は無い。背の傷を理由に、厳格に死を申し渡せる人物。そしてそれをあえてやる人物など、至極限られてくる。
 軽く頭を振ると、平山は血に沈んだ平隊士の傍により、開いたその目を閉ざした。呆然としているように見えた表情もそれで消える。
 田吾作は何かを告げようとして口を開きかけ‥‥、結局言葉にならずただ肩を落とす。
 そのまま襲撃の現場に戻れば、冒険者たちと死体の山が待っていた。残っていた彼らも平隊士の顛末を聞く。
「人を殺めて‥‥、命を奪って何が手に入るのでしょう? 命は大切にしませんと‥‥」
 深い、深いため息と共に、竜良はその言葉を吐き出す。
「ならば人の命と思うな。これらは神皇様の御世を汚すただの塵だ。塵は片付けて当然」
 何事も無いように、平山は倒れたごろつきたちを指し示す。侮蔑するような目線を向けたその後、ふと遠くへと目線を向ける。
「金か名誉か思想か。いずれにせよ、己で選び進んだその結果だ。あいつにも後悔など無い筈」
 どこか寂しげに見えたのは気のせいか。
 竜良は軽く目を押さえると、そのまま軽く目を閉ざし、祈りを紡いだ。

 襲撃騒ぎも落ち着き、冒険者たちがそれぞれに散った後、平山は一人、花街・島原を訪れていた。
 とある揚屋に上がり、一人の女を呼ぶ。
「御無沙汰どすなぁ。お一人だけとは珍し」
 現れたのは桔梗屋の芸妓、天神である吉栄。はんなりと笑いかけるが、平山の肩の傷に気付き、微妙に顔を曇らせる。
 座敷に入り、挨拶もそこそこ。
「冒険者ギルドに護衛を頼んだのは、お前か? 事前に得た襲撃の話で、わざわざ護衛を依頼し、しかもそれを秘密にせねばならないような人物はお前ぐらいしか思いつかん」
 いきなり切り出された話に吉栄は目を丸くする。
 大抵の知り合いなら知った時点で注意を促して終わりである。あるいは関わりを怖れて口を紡ぐか。
 わざわざ金をかけて冒険者に頼み、その頼んだ相手にまで正体を秘す必要は無い。
「確かに。芸妓が花街で聞いた話をよそにするやなんてはしたない真似は出来まへん。けど、それを押してうちが組長さんをわざわざ護る理由はありますんやろか?」
 不可思議な笑みを浮かべる吉栄を、平山は気が抜けたように息を吐いた。
「まったく、京の女は何考えてるかよく分からん」
 本当に弱ったような口調に、吉栄は笑いながら酌をする。
「だが少し助かった」
 怪我をした方と逆の腕で酒を受けると、軽く煽る。珍しい言葉を聞いたと吉栄はまた目を丸くしたが、やがてほっとしたように目元を綻ばせた。