【五条の布令】 京都見廻組募集 店舗防衛

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 3 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月01日〜05月06日

リプレイ公開日:2006年05月09日

●オープニング

 京都守護職・平織虎長が暗殺されて早幾日。空位だった守護職もようやく後任が決まる。
 新しく守護職となった五条の宮は若いながらも才覚に優れ、神皇家の血筋と申し分無く。祖父の代で色々あった為に今まで権力とは無縁でいたが、それが却って源徳・平織・藤豊の三大権力に属さない全くの中立という立場をもたらした。
 これまで平織方優勢で動いてきた‥‥動かされてきた都市警備体制もそれにより真白の状態になり。加えて、着任早々、冒険者たちも動かしての取り締まりに動き出し、治安回復に向けて力を尽くしている。
「で、チョーむかつくんだけどぉ」
「妙な喋り方は止めろよ。それに、一体何が不満なんだ」
 治安の一端を担う京都見廻組。不満たらたらの坂田金時に、占部季武は呆れ顔で嗜める。
「だってさぁ〜。なんでこうもことごとく事件を冒険者ギルドに依頼してる訳〜? そりゃ冒険者って頼りになるよ? でもさー、おいらたちって云う頼もしい組織が下にあるのにー。な〜んか、邪険にされてるって感じ〜?」
 口を尖らせて呻く金時に、季武はさらに困った顔で頭を掻く。
「犬猫探しや他国の騒ぎは俺らの範疇外だろうが。それに、『この程度の依頼、そなたらの力をもってすれば時間をかけることなく解決できるはずであろう? 人手が足りぬのなら冒険者を集め、即座に事件を解決せよ! そなたらの力を京の都じゅうに轟かせるのだ!』と、直々に叱咤激励くれたじゃねぇか」
「いんや! きっとあの腹の中では、『あなたたちみたいな無能者に治安なんて務まるのかしら? 古臭い井の中の蛙は大人しく古井戸の底でわたくしの華麗な手腕を眺めながらげこげこ無様に鳴いてなさいな。おーーほほほ♪』とか思ってるに違いない!!」
「誰の真似だそれわ」
「銀次郎の入隊許可くれないしー」
「お前の不満理由は詰まる所そこかい」
 ごろごろと机に転がって不満を募らせる金時に、季武一つため息。
「なぁ、綱の兄貴は宮さまをどう思う? 俺は都の治安を真剣に案じてるみたいだし、いい方だと思うんだがな。着任早々で功を焦ってる気はするけど、血筋だけの無能の坊じゃないと示すにゃ必要だろ」
 言って部屋の隅を振り向く。
 黙々と刀の手入れをしていた渡辺綱は、彼らに目もくれず刀身を火に翳す。
「まず、上司を愚弄するような真似はよすんだな」
 曇りが無い事を確認すると、無表情でそれを鞘に収める。
「見廻りに出る。神皇さま主催の宴で、街中も少々浮ついているからな。よからぬ輩がその隙をついて湧いて出かねん」
 立ち上がると、何事も無いように市井に出て行く。
「感想無しね」
「んもう。綱ピーってばムッツリスケベさんなんだから♪ ‥‥‥‥ふぎゃめが!!!!!」
 力強く部屋の扉が開くや、刹那に飛来するオーラショット。弾かれた金時が無様な悲鳴を上げて机から転がり落ちる。
「忘れ物だ」
 入ってきた綱は、やはり何事も無かったように羽織を手にすると、そのまま見廻りへと戻る。
「‥‥。おーい、金の字〜。生きてるか〜?」
「死んだー☆」
 棒読みで問いかける季武に、机の下から軽い金時の返事があった。

  ※  ※

「上司から。さっさと解決しろと言われたからにはとっとと解決してやろうじゃん」
 で、不満もそのままに金時、集まった面子を睨みつける。
「とある反物屋の近辺で最近不審な動きを見せる奴がいたんだ。そんで捕まえて締め上げたら、その店の売り上げを狙って押し込み強盗する為の下調べだってさ」
 押し込みたちは全員浪人。喰うに困った連中が、徒党を組んで犯罪者になるのもよくある話で。
「そいつら、現在の政治体制に不満を持ってて、この饗宴の最中に事に及んで現体制の甘さを笑ってやろうなんて考えてるらしいんだ。んな事させる訳には当然いかないよね」
 言葉自体は先のお気楽調子で変わらずだが、目はしっかりと怒りに燃える。
「なんでこの企みを阻止して、押し込みたちをきっちり捕まえるのが今回の仕事。強盗は全員で八名。腕もそれなりに立つってらしいけど‥‥あんま強いとは思えなかったんだけどなぁ」
 下見役を直接見たのだろう。率直な感想を金時は述べる。
「捕縛はこっそりやったんで、下見役がこっちにいるのはばれてないと思う。でも、仲間がいきなり消えたんだから、強盗たちは結構警戒してるだろね」
 どうやら彼らは必要に応じて連絡しあい、特定の拠点は持たないらしい。連絡方法も吐かせてみたが、すでに別の手段に切り替えられた後だった。
 なので、一網打尽にするには店で待ち受けるより他に無い。
「下調べに手をかけている以上、早々と中止にはしないだろけど。でも、店近辺に怪しい動きがあれば行動はさすがにね。それでまた別の店に当たりをつけて乗り込まれたら大変だから、絶対に気付かれないように張り込まなきゃ駄目。まぁ、店のご主人には一応話つけたから、店を守ってもらえるなら従業員として一時的に入ってくれても構わないってさ。‥‥働いてはもらうけど」
 勿論、人は無事に守られねばならないし、店に損害を出してもならない。
「人手が足りない分は冒険者を雇って良しというお達しだけど、見廻組だけで出来るならその方がいいよねーって事で、冒険者の中で入隊希望する人は言ってね。働きよければちゃんと推挙するよ」
 軽い口調で言った後、何故かいきなり暗く落ち込む。
「‥‥街中で目立つだけだから銀次郎は留守番させろって言われたーーっ。銀の推薦出来ないじゃないかーーっ」
「無事のお帰りをお待ちして、お食事用意しておきますから。元気出して下せぇ」
 大声あげて泣く金時に、熊鬼の銀次郎が軽く肩を叩いて慰めた。

●今回の参加者

 ea3952 エルウィン・カスケード(29歳・♀・ジプシー・パラ・イスパニア王国)
 ea4128 秀真 傳(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb2245 佐紀野 緋緒(37歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb3111 幽桜 虚雪(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb3531 クリア・サーレク(24歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb3916 ヒューゴ・メリクリウス(35歳・♂・レンジャー・人間・エジプト)
 eb4605 皆本 清音(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb4906 奇 面(69歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

鷹村 裕美(eb3936

●リプレイ本文

「罪なき商家に押し込む不埒な悪党ども! この京都見廻組クリア・サーレクが裁きの雷を落としてあげるんだから!」
「いよ! 姉ちゃん、かっこいいぞ〜!!」
 依頼を聞いて、毅然と胸を張って告げるクリア・サーレク(eb3531)を、同じ見廻組の坂田金時が腕を振り上げてはやし立てる。
「それにしても、わしは組織には興味ないものの、新しい京都守護職様は活発な方よの。自らギルドに足を運ばれておるという話も聞くし。少々向こう見ずな気もするが、面白い御仁じゃ」
「ってか、張り切りすぎ。現場は俺らの方が詳しいんだから、ちったぁ信用して任せてくれてもいいのにっ」
 そちらの騒ぎは横に置き、秀真傳(ea4128)が苦笑する。それを見事に聞き逃さず、顰めっ面になると金時が不機嫌も露わに愚痴りだす。
「確かに、いろいろと張り切りだしてますねぇ。前の守護職さまが亡くなられてからいろいろあった穴を急速に埋めようとしているようで」
 気難しい様子で世間を考えるヒューゴ・メリクリウス(eb3916)。彼の生業と今の現状。けして無関係でもいられないが、それを表面には出さない。というか出せない裏家業。
「でもでも、この仕事がんばれば、見廻組許可出るんだよね? 気合入れてがんばるよ♪」
 そんな彼とは対照的に、エルウィン・カスケード(ea3952)が手をぱたぱた振りながら気合を十分に入れる。
「陰陽師の身ではありますが‥‥。この京を守る為に力を尽くしたいですね」
 佐紀野緋緒(eb2245)が少し寂しげに笑みを作る。
「こちらも。よろしくお願いね」
「こっちこそな。と言っても、この仕事云々次第だけどな」
 皆本清音(eb4605)が頭を下げると、金時が軽く笑って答えた。

 強盗に狙われているという問題の反物屋はそれなりの店構えで結構繁盛していた。表通りに面している為、客も多い。出入りしている人たちが落とす金子を思えば、なるほど、強盗が狙うのも無理無いなどとヒューゴは納得している。
「じゃ、夜まで休ませてもらう」
 そんな彼は夜間に備えて早々と離れに篭って横になる。
 そして、他の面々はといえば。
「いらっしゃいませ〜」
 クリアと幽桜虚雪(eb3111)が客を出迎えると、傳がその客を奥へと案内する。
 虚雪と傳が商品を説明する傍ら。クリアは、のそりと入ってきた客の相手をする。姿勢の悪いその客は、反物を見る振りをしてクリアに話しかけた。
「周囲は現状変化無しだ。怪しい影は見受けられない」
「わかりました。ありがとうございます」
 外から見ていた奇面(eb4906)が、小声で呟くとクリアは営業用の笑みで受け答えする。
「往来の目もあるし、白昼堂々は難しいかな?」
 報告を聞いた虚雪は、それでも強盗たちが客を装っていきなり襲い掛かってくるのを警戒して、厳しい目を周囲に向けている。
「得物は一応置かせてもらったが‥‥出来れば使いたくないな」
 傳もまた、目立たぬよう隅に隠された刀などを気にしていた。
「にしても残念ね、銀次郎さんが連れてこられなくて」
 反物を出し入れしている金時を見つけて、クリアはそう笑いかける。
 金時の本音とすれば、熊鬼・銀次郎の活躍を世に見せたいはず。が、確かに熊鬼御来店は悪目立ちしすぎる。強盗が逃げる以前に間違って自分達が成敗されかねない。
「ほんまにや。だから、銀の分までおいらががんばって働かないと!!」
 クリアに告げられ、無念そうに泣く金時。拳握り締めて、ここには銀次郎の為に決意も新たに奮起している。
「銀次郎ちゃんは本当に残念だよねぇ。最終防衛線として、蔵の中で待機させておけばいざって時の奇襲とかの保険になったのかも」
 店の掃除をしていたエルウィンが手を止めるとふと告げる。
 何気なく告げられた一言に、金時も動きを止めてしばし。そして、得たりとばかりに手を叩く。
「その手があったじゃ〜〜ん」
「って駄目だよ。今から動いて気付かれたらどうするのって」
 回れ右して即座に走り出そうとする金時を、虚雪が慌てて捕まえる。
「んな事言ったって、銀の一世一代の大事が〜〜」
「京の町を未然に守る事の方が大丈夫でしょう。それより店で騒ぐのなら奥の仕事手伝って下さい。掃除洗濯水汲み薪割り蔵の掃除‥‥。裏での仕事もたくさんあるんです」
 未練がましく泣き喚く金時を、顔を出した不安少々溜息に込めて緋緒が捕まえて引っ込めていた。

 守るべき場所を知らずして、いかにして守れようか。という訳で、家の配置を下見していた冒険者は多かった。
「往来に面して人目に付き過ぎますからね。強行に及ばないなら、夜に忍び入るつもりでしょう」
 清音もまたそんな一人で、掃除がてらに屋敷を見回り、気になる箇所を告げる。店の手伝い傍ら、本来の仕事についても話し合いしながらで、時間はあっという間に過ぎ去る。
 日が暮れれば店仕舞。昼の賑やかさと打って変わった静けさが通りを支配した。
 狙われているという話もあって、自然、屋敷の戸締りは念入りに行われている。どこか不安そうにしている店主たちに安堵するよう言い渡すと、母屋や離れなどでも目立たぬように警備を続ける。
 そして、夜半過ぎに。ひらりと高い塀を乗り越えて入り来る者たちがいた。勿論、それが店の客のはずもなく。
 いや、招かれざるが待ち望んでいた客とも言える。その数は八。彼らは息を潜めて中の様子を窺いながら、かなり慎重に庭を横切る。
 終始、辺りに気を配りながら進む彼ら。蔵の前まで来た時に、甲高い笛が夜空に響く。
 はっと驚き顔を上げる強盗たち。
「さて夜空を見るには良い晩だと云うのに無粋な客じゃの、強盗たちよ。ここは歓迎させてもらおうかの」
 人の良い笑みを浮かべながらも、傳は得物を構える。
「逃げるぞ!!」
 笛の音に釣られて離れも母屋も騒がしくなった。情勢が悪いと踏んだか、早々に逃げ出そうとした盗賊たちだが。
「ぐはっ!!」
 彼らの最後尾に位置していた一人が気を失って倒れる。外から見張っていたヒューゴが、後ろに回りこんでいた。
「誘眠打。夜は寝てもらわなければ、こちらも困りますね。お天道さんも見てませんし、このまま永眠してもらってもいいんですよ?」
 急所を打った小柄をまた袂に隠し、次の攻撃を狙う。
 そして、ふいに明るい光が浮かび上がる。照らす範囲は広いとも言えないが、それでも新手が来た事を伝えるには十分。
「さあて、観念してもらうわよ!」
 言って、エルウィンが弓を引き絞る。矢を放つもさほどの威力は無い。それでも牽制にはなる。
「構うな! 殺っちまえ!!」
 強盗の一人がそう叫ぶと、一斉に踊りかかってきた。その最中に、虚雪が飛び込む。
 両手の金属拳を素早く填めると、向かってきた一人の懐に飛び込む。振るってきた相手の得物を軽々と避けると、続けざまに三撃、鳩尾に素早く叩き込む。
「あなた達みたいな狼藉者。このあたしが‥‥えーと、そのだ。とにかく、何かに代わって成敗するよ!」
 一人を気絶させると無理せず、一端距離を置く。間合いを十分開けてから、腰に手を当てて声高らかに宣言する虚雪。
 それに、何故か胸を張って金時が答える。
「何かってったら、そりゃ銀次郎に決まってんじゃん!!」
「‥‥五条の宮様じゃないのか? この場合は」
 疑問に思いながら面は一人に向かう。間合いを詰めて攻撃すると即座に引く。攻撃を避けられる事はあるし、逆にこちらが躱せず相手の刀を喰らう事もある。それでも、元より加減できる性分でなく、面は両手の金属拳を容赦なく振るう。
「凶剣を抜くのならば、こちらに近付かないでいただきましょうか。勿論、逃げてもらっても困りますが」
 薙刀を振るうと、緋緒は母屋を背に立つ。そこから一歩も屋敷には近づけさせないと云う気構えがそこにあった。
 だが、向こうもそんな事は構っていられない。
 刀を構え振り下ろしたそれを、緋緒は巧みに捌く。突いた一閃、相手の肩口に薙刀の刃が吸い込まれると相手はたまらず、刀を落とした。
 が、その隙をついて、その横合いから別の強盗が刃を突き出してきた。
 間が悪く喰らう事を覚悟した緋緒だが、その間に素早く割って入った清音が日本刀で薙ぎ払う。
「こっちはもう大丈夫よ。母屋の家人は勿論、離れの従業員たちも無事避難を確認したわ。人質に取ろうなんて思っても無駄。むしろ、逃げた彼らが応援呼びに行ってくれてるわよ」
 刀を構えたまま清音が告げると、動揺した強盗たちが身を強張らせる。見廻組たちと刀を合わせながらも、どうするかと顔を向き合わせたその弾み。
 そこへ、真上からいきなり雷が降ってきた。
「己が醜い欲望を満たさんとする者よ! その行いを恥と知れ! 人それを外道という!! ある時は臨時店員。そして、ある時は京都見廻組の僕から裁きの雷受け取りなさいー!!」
 話終わるや否や。間髪入れずに一直線にクリアから雷が落ちる。
 屋根に上るのにいささか時間を喰いはしたが、上っただけの甲斐はあったかもしれない。高所からの狙撃は全景が把握しやすく、かつ、地面に向かうので建物などに当てにくい。高速詠唱は魔力を喰うので乱発するとすぐ息切れするのが難点だが。
 その頃には、浮き足立った強盗を他の面子が取り押さえに掛かっている。
「もはや逃げようなどと思わん事じゃ。けして我らは見逃さんぞ」
 逃げようとした者ももちろんいるが、傳がそれを許さない。
 短刀と刀を巧みに振るい、強盗たちの退路を断っていた。

「さて、これで全員ですか?」
 気絶していた強盗たちを、緋緒は縄で縛り上げる。怪我を負っていた者たちも金時がどうにかしていた。
「‥‥しけた連中だ」
 不満げにヒューゴは縛り上げられた連中を見下す。まぁ、食い詰めた連中なのだから、彼らの持ち物を期待しても仕方ないかもしれない。
「ご協力ありがとう。おいらたちもがんばるけど、もう狙われたりせんよう、戸締りとかしっかり厳重にな」
 さらには、家を守ってくれた事を平身低頭に謝る店主と邪気無く告げる金時の声が耳に入り、ますますヒューゴは顔を顰めている。
「金時さん、金時さん。せっかく反物屋に来たんだし、銀次郎さんにお土産買ったら?」
「あ、それいいじゃん」
 クリアの薦めに金時はひょいひょいと乗る。
「買い物もいいけど。幾ら捕まえたからってしょっ引くのを忘れないでね」
「入隊募集の件も忘れちゃ困るわよ」
「分かってる分かってる」
 清音とエルウィンが釘を刺すも軽い二つ返事。緋緒とも顔を見合わせてしょうがないかと肩を竦ませる。

 捕らえた強盗たちはそれから役所に連行。
 京都見廻組入隊希望していた清音、エルウィン、緋緒に正式な許可が下りたのはそれからすぐ後の事だった。