新撰組四番隊 〜五条の布令・屯所攻防〜

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:7〜13lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 55 C

参加人数:8人

サポート参加人数:6人

冒険期間:05月03日〜05月08日

リプレイ公開日:2006年05月11日

●オープニング

 京都壬生村。新撰組たちの屯所はそこにある。村の郷士の家に住み着き、日夜京都の治安を守るべく、浅葱色の隊服は都をうろつく。
 邸内でまだ入りたての隊士たちが稽古をしている最中、彼らは不意に訪れた。
「京都守護職・五条の宮様の命である。先の京都守護職・平織虎長の暗殺容疑により、壬生の屯所を検めさせてもらう!!」
 どかどかと意気も盛んに屯所内へと踏み込んできたのは十名ほど。京都見廻組の姿もあれど、その先頭に立つのは私兵たち。恐らくは五条の宮の手の者だろう。
 無遠慮に入り込もうとする彼らに、一時場は騒然となる。居合わせた隊士たちは何とか兵たちを押し留めようとするが、それを払いのけて強引にでも彼らは邸内へと足を運ぼうとする。
「一体、何の騒ぎだ?」
 押し合いへし合い。いずれは得物も抜かれて血を見ただろう。その寸前で足音も荒く、その人物は現れた。威風堂々と進み来るその人物を誰かと認めた途端、兵たちはおろか新撰組の隊士たちですらやや表情を青くして引き下がる。
 姿を見せたのは、新撰組局長・芹沢鴨であった。
「京都見廻組に‥‥新守護職さまの手の者か。新撰組に何の用だ? 茶は出さんぞ」
 聳える様に立つ巨漢から睨まれ、気圧された兵たちが身を引きかけた。実際にやらなかったのは彼らの矜持が邪魔をしたからだ。
 気を取り直すように咳払いをすると、指揮を取っていた兵士がおもむろに告げる。
「先の京都守護職・平織虎長殿が暗殺された一件。あれに新撰組一番隊組長・沖田総司が関わっていたのは周知の事実である。並びに摂政・源徳家康がその裏で手引きをした疑いももたれている。それら嫌疑により、屯所内を検めさせてもらう!」
「断る」
 罪状を告げた兵の言葉を、一刀両断とばかりに芹沢はねじ伏せた。あまりのにべのなさに、兵の方が唖然としている。
「そ、それは。罪を認めるという事かな? 叩かれて埃の出る身なら、なるほど内を曝すのは痛かろ‥‥」
 口をぱくぱくさせて、指揮官は言葉を繋ぐ。かろうじてまた調子を戻してきてはいたのだが、
「ぐだぐだとやかましいんだ、てめぇらは!!!!」
 芹沢が大喝。腹の底から響く声に、踏み込んできた兵たちはおろか、新撰組隊士たちすら身を縮めて竦み上がる。
「我ら、新撰組。誠の旗の下、神皇さまの為に集いし雄なり! 沖田の真意は知らんが、新撰組と先の暗殺は全くの無関係! その沖田とてここにはいねぇ! 見当違いの憶測で腹を探ろうとするなど、神皇さまの為に働く我らへの侮りと知れ!!」
 ずいっ、と芹沢が一歩踏み込むと、無意識に兵士達は半歩引いた。真っ向から睨みつけてくる男に、指揮兵の方は泡を喰っている。
「我らを疑うという事は、我らの神皇さまへの忠も疑うという事だ! 同時に神皇様から我らへの信をも疑う事に他ならない! それを理解し、まだなお踏み込もうというなら踏み込むがいい!!」
「そんな詭弁が罷り通ると思っているのか!! ええい、そこをどけ!! 京都守護職・五条の宮様直々の命である! 邪魔をするなら容赦はせぬ!!」
 顔を真っ赤にして、腰の者に手をかけた指揮官を、芹沢は鼻でせせら笑う。
「おう。殺ろうってんならそれでもいい。だが‥‥それなりの覚悟は出来てるんだろうな?」
 芹沢は今にも刀を抜き放たんとしている指揮の真正面に立つと、ぞんざいに鉄扇を開いて仰いで見せる。
 一触即発の風景。周囲で見ている方が、緊張して次の一瞬を待った。

「‥‥それで、おめおめと引き下がったという訳かい?」
「申し訳ございません! あまり騒ぎすぎるのも後に面倒と思いまして」
 綺麗な畳へ額をこすり付けんばかりに平伏している指揮官を、五条の宮は呆れたような蔑むような微妙な目線で見下している。
「‥‥。平織虎長暗殺は都どころか諸藩からも注目されている重大事。これをいつまでも放っておく訳にはいかない」
「はっ」
「お膝元を荒らされている所に今回の疑いとあっては、家康とて苦しかろう。摂政にかような疑いがかけられていては神皇様とてお心が痛いに違いない。ならば、この件を一日も早く決着つけるべく全力を持って当たる事こそ、後任として京都守護職としてついた余の務めと思わぬか?」
「まこと、その通りにございます!」
 擦り付けんばかりの頭をさらに押し付け、指揮官は力強く答える。
「ならば、何をここでぐずぐずしている? 急ぎ彼らの懐を調べよ! そなたらと見廻組だけで足らぬなら、まだ人を増やしてもよい! とにかく踏み込め!! 奴らが白か黒か。はっきりと世に示すのだ!」
「ははっ!!」
 律儀に礼を取って指揮官は即座に行動に出る。忠実に命に従う者を、五条の宮は笑みを持って送り出した。

  ※  ※

「性懲りも無く。猫が外をうろついているな。‥‥言って分からねぇなら躾も必要だろうが。とはいえ、本気で殺り合うのも馬鹿馬鹿しいしな」
 屯所の内にて。芹沢は外の様子を暢気に語る。京都守護職の配下を追い返したのがつい先日。それで懲りたと思っていた者がまた姿を見せ始めている。
「すぐに踏み込む素振りでもなく。さすがにこの間で学びはしたと見えますな」
 くつくつと笑うのは、新撰組四番隊組長・平山五郎。
 迂闊に踏み込んでも門前払いを喰らわせられるのはこの間で知ったはず。ならば、屯所に人の少ない時を選んでくるだろう。
 そして、困った事に饗宴の余韻や守護職の取り締まり強化などに合わせて、出動もやや多くなっている。完全に空になる事はさすがに無いが、隙のできる時は来るだろう。そこに付け込まれるのは正直不快でしかない。
 どうするべきか。芹沢が思案しながら、鉄扇を玩んでいたが。
「‥‥平山、肩の傷はまだだろ。だったら、しばらく屯所で療養してろ。その間、お前の隊もここで修練に励め」
 さらりと言った言葉に、平山は噴き出す。詰まる所、四番隊に常駐しろという訳だ。
「しかし、四番隊だけでは手が足りません」
「お前らは庭先に入り込んだ野良を始末すればいい。外は冒険者にでも当たらせろ」
「冒険者‥‥?」
 思いがけ無い事を聞いたと、平山が目を丸くする。
「こちらの誰と直接ぶつかってもいざこざになりかねんからな。間に部外者を置くのもいいだろう。それに‥‥手が足りないなら冒険者を使えってのは守護職さまのやり方だろう?」
 言って、何とも皮肉げな笑みを芹沢は見せる。
「またいらぬ出費ですな」
 一体誰のせいやら。忌々しげに平山は外を睨みつけた。

 そして、冒険者ギルドに依頼が出される。
 依頼人は新撰組四番隊組長・平山だが、実質は局長・芹沢からと考えてもいいかもしれない。
 壬生の新撰組屯所周辺にて。守護職直轄の兵および見廻組を警戒対象として警備。彼らを屯所に近付けさせず追い返せと‥‥。

●今回の参加者

 ea1057 氷雨 鳳(37歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3210 島津 影虎(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea3318 阿阪 慎之介(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb1645 将門 雅(34歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb3503 ネフィリム・フィルス(35歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb3581 将門 夕凪(33歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

緋桜 水月(eb2961)/ 柿本 源夜(eb3612)/ 稲生 琢(eb3680)/ アンリ・フィルス(eb4667)/ レオーネ・オレアリス(eb4668)/ 空間 明衣(eb4994

●リプレイ本文

「京都もいろいろ大変なんですね」
「ええ‥‥。新撰組も見廻組も京都の治安を護る組織ですのに」
 気鬱に暗く表情を沈ませるベアータ・レジーネス(eb1422)に、将門夕凪(eb3581)も陰鬱そうに嘆息付く。
「男だね、新撰組も宮さまの手下もさ。つまらない片意地で精一杯生きてるんだ。あたしは好きだね、そういうの」
 軽く笑うネフィリム・フィルス(eb3503)なのだが、
「そんな漢たちの意地と誇りを、つまらない政争に使うのはいただけないね。五条の宮さんの意図がどこにあるかは知らないけどさ」
 不満げに顔を顰めると、きっと屯所の外を睨みつける。
「‥‥まぁ、殿方が多いのは確かだが。姫方もいるのは忘れないで下され」
「おや、こいつは悪かったね」
 困ったような笑顔を浮かべて新撰組十番隊隊士の氷雨鳳(ea1057)が口を挟むと、ネフィリムも軽い口調で詫びを入れる。
「周辺の地理はおおよそ把握出来たわね。死角になりそうな場所は調べておいたけど、そう無いわね。‥‥ま、無理に侵入しようとしても、中では四番隊の面子が待ち構えてるんだし、早々無体な真似に出ないと思うけど」
 鳳と共に周辺を調べたディーネ・ノート(ea1542)が詳細を告げる。
 極普通に民家が並ぶ中に、新撰組の屯所はある。というか、単に郷士宅に間借りしているに過ぎない。村の周囲はどこまでも広がっていきそうな畑が連なり、長閑な農村風景が見られる。
 その最中を分相応にうろついているのが屯所に出入りする新撰組であり、その屯所に踏み込まんと構える守護職配下の面子である。
「初日は何とも無かったけどね。‥‥屯所に来る人物の評判を聞いてもらったけど。宮さま配下については当たり前だけど情報なし。見廻組は様々って感じで、やっぱり新撰組がダントツで怖れられているみたいだね」
 言って、ネフィリムが笑う。
「仲悪いんは分かるんうやけど、実力行使する時やないやろに」
 時折牽制するかのように姿を見せる京都守護職の者たちに、将門雅(eb1645)は口を尖らせる。そんな雅を心配そうに夕凪は見つめる。
「無茶はしないで下さいね」
「心配せんでも分かっとるって。さっきは別ん人から励ましも受けたし‥‥ってそや」
 それを笑って受け止めた雅だが、別の事を思い出して声を上げた。
「その人に見廻組の動向探ってもらってもろてたんやけど。どっちかつうと見廻組は間に合わせ、宮さま直属の部下の方が陣頭指揮とってえらいやる気みたいや言うとった」
 京都見廻組は公的な役職であり、中には源徳や藤豊勢の者もいる。それと直属の部下とを比べれば、宮への信の厚さは歴然と違うだろうし、この件に関わる意気込みも変わってくる。
「それだけ、五条の宮はやる気だという事か? 一滴の血も流さず済ませたいものだ‥‥」
 やれやれと肩を押さえながら、鳳は屯所の中を見つめる。
 火種はそこかしこにばら撒かれている。平穏無事に過ごすには、それに火を点けないようにするぐらいしか方法が無い。
「ほんま、ご苦労な事やわな。うちはしがない万屋やけど。言わせてもらえば、虎長様を暗殺したんが沖田組長言うんは状況証拠だけやないん? 確証がない状況で屯所を調べて、あえて遺恨を残すつもりやろか。見付かりませんでしたでは済まんで。そんで新撰組と対立するんは、京都に住む者にも不利益やん。京都守護職のあんたらが自ら治安を悪化させよるのが分からんのかいな? 喧嘩腰やない形で調査する方法をお互いに考えんかー?」
「あまり挑発めいた事はしない方がいいのでは?」
 外に向かって声を張り上げる雅に、夕凪が苦い笑みを作る。
 その声が届いたか否か。ただ返って来たのは木霊だけだった。

 二人組ずつ四班に分かれて、警戒に当たる。
 入り口は四番隊も警戒していたが、加えてネフィリムも目を光らせる。念の為侵入防止にベアータが鳴子を仕掛け、後は各自が独自の手段で見廻組の様子を窺っていた。
 真っ先に行動を起こしたのはベアータと雅の組である。
 まず、ベアータがブレスセンサーで周辺を調べる。屯所に戻ろうとしている組の者や、村を行く農民など紛らわしい対象も引っかかったが、それでも守護職配下と思しき面子が居る事を察する。
 そして、ヴェントリラキュイで他の組に連絡を入れる傍ら、疾走の術を使った雅がその守護職の前に回りこみ、呼子を吹き鳴らす。
 どうやら京都見廻組の者らしい。少人数で居た所を見ると、どうやら偵察らしかった。
「ここから先は狼の巣やし、ここは退いてくれん? 宮様の為にもここで命を亡くすわけにいかんやろ? 命はもっとましな時に掛けんとね」
「主命とあらば理不尽だろうと命かけるのが武士の勤めだけどね。ま、俺らは単に様子見って奴だから」
 あっさりそう言うと踵を返して立ち去ろうとする。
「待ってくれ」
 それを駆けつけた鳳が止める。
「新撰組十番隊隊士の氷雨鳳と申す。お互いこそこそするのは止め、話し合いの場を設けられないだろうか? 無益な殺生はしたくないし、そちらも同じ考えではないか?」
 毅然と胸を張り、鳳が見廻組隊士たちに告げる。
 その僅か後方では鳳と組んでいるディーネが油断無く見廻組を見据える。話し合いに口を挟む気は無いが、その最中に向こうがいきなり刀を抜く可能性もある。すぐに動けるよう、印を組む用意だけはしていた。
「新撰組は暗殺などしていない、というのがこちらの見解だ。物的証拠や信憑性の高い情報でもあるのなら別だが、それはないのであろう? もちろんこちらがやってないという証拠はない。が、だからといって無理やりこじ開けるような真似をしては、余計に話がこじれるとは思わないか?」
 訴える鳳だが、相手の見廻組たちはひょいと肩を竦めた。
「その証拠を得る為の捜索なんだけどな。話し合った所で、もし暗殺疑惑が本当でもやってないというのは目に見えているし、意味なんてあるのか? 身内を庇う気持ちは分かるけど、清廉潔白を主張するなら、そっちこそもっとこちらに協力して然るべきなんじゃないか? ま、一応上官には報告しておくけどね」
 呆れたようにそう言うと、あっさりと彼らは帰っていった。

 動きがあったのは午後の事。新撰組の幹部連が出払う時を見計らっていたらしい。
 手に手に得物を持って、一見無造作に、されどきちんと隊列を組んで京都守護職配下の面々は屯所に訪れた。
「物騒な事だけど。ここは通す訳にはいかないんだよ」
 道の真ん中で、配下二十名程を相手にネフィリムはひょいと肩を竦める。
 実際、通す訳にもいかなかった。騒ぎを聞きつけて屯所内もざわついている。浮き足立ってる新米隊士に対して、四番隊の面々はいつでも出られる準備を整えていた。踏み込めば今以上の騒ぎになるのは目に見えている。
「失礼。自分は阿阪慎之介と申す。源徳公を支持する者として、御意見申し上げたい」
 先頭に立つ五条の宮の兵に、阿阪慎之介(ea3318)は丁重に挨拶を述べる。
「新撰組は安祥神皇の摂政である源徳公貴下でありまする。所属の異なる京都守護の軍が一方的に捜査を強行しては筋が通らぬのではござろうか。まずは守護代様から源徳公に話を通して正式な認可を受けた上で、行うべきでありましょう。主君の認可がある捜査なら、新撰組も進んで協力するでしょう」
「阿呆が。源徳公が真に謀反を企んでいるとすれば、そのような許可を通達した時点で全ての証拠を処分するだけだろうが。その後を調べて何とする」
 慎之介の案を、指揮官は鼻で笑う。 
「新撰組の主、摂政の源徳公まで嫌疑が及ぶというのであれば、摂政の上に立つ神皇さまご沙汰の元、捜査を行うべきであろう。
 筋を通さないのならば、守護職さまたちこそ朝廷の秩序を乱し、京都に乱を招く賊徒に他ならない。京に乱を招く賊徒の襲来ならば新撰組も堂々と迎え打つであろうし、冒険者達も新撰組に味方するであろう」
「我らが五条の宮さまが京都守護職におなり遊ばされたのは、神皇さまより京の治安を任されての事。その宮さまに御意見しようとは、神皇さまの御判断に誤りがあったと批難されるおつもりかな」
 真っ向から睨みつける慎之介を、負けじと指揮官も睨み返す。
「個人的な見解ですが」
 そこに水を差すように、島津影虎(ea3210)が口を挟む。
「確かに今回の暗殺事件に沖田さんが関わっている事は、双方が認めるところでしょう。けど、それは状況証拠からの推測でしかありません。それを基に検めを強行するのは、些か乱暴な気がします」
(新撰組側も意固地ですがね)
 心でそう嘆息付くが、それを表面には出さず影虎が告げる。
「何より、ここで双方が衝突してしまっては、京をも巻き込んでの大混乱に発展するでしょう。それこそ神皇さまや摂政さま方の望む所ではありますまい。少なくとも、何らかの証拠を掴んでからでも良いのでは。
 そこで中立である冒険者側に、調査を任せるというのはどうでしょう? 我々が頼りないと言うなら、精鋭を集める事をお約束しますが」
「商売上手だな」
 指揮官が憮然と告げる。
「だが、証拠を掴む為に、容疑者の近辺を探るなど当然の事。それとも冒険者らには見せられて、我らには見せられぬ後ろめたい物でもあるのかな? ‥‥もうよい、そこをどけ!」
 ばらばらと兵士たちが掴みかかってくる。
「くっ」
 覚悟を決めると夕凪は、素手を曝すと手刀を叩き込んだ。途端、打たれた兵が倒れる。
「貴様! 何をするか!!」
「ここで命を散らす事があなた方の真意ですか!? あなた方の命は、面子や個人の感情の為に使うものなのですか? そんなものが京都の混乱より大事なのですか?」
「平織公暗殺の真意を探る事が単なる面子や個人の感情と申すか。今の疑惑を持ち続けている方がよほど京の混乱を招いてる起因であるだろうに!」
 夕凪が訴えるが、指揮官は一喝。ネフィリムもまた仕方なさそうに太刀・来派国行を構える。
「お前が犯人だと土足で入られたら誰だって怒るもんだよ。誰もが神皇様の臣でその忠節に代わろう筈は無いってのに‥‥。
 男の誇りを権力で踏みにじる恥知らずが!! 凶行を望むならこっちも相応に出るよ!」
 ぎろりと兵を睨むと、ネフィリムが怒鳴りつける。
 雅が小柄を引き抜くと鳳もまた大脇差・一文字を構え、ディーネがその援護に回る。慎之介もいつでもオーラを使える体制を取る。
「穏便に済めばいいけど‥‥」
「力の衝突は避けねばなりませんが‥‥、やれやれ、コネがあるなら神皇様にお口添えを頂きたい所です」
 それをベアータが心配そうに見つめ、影虎が疲れたように天を仰ぎ、忍者刀を抜いた。


「‥‥そして。そこで『また』おめおめと戻ってきたと言うのか?」
「重ね重ね申し訳なく。蹴散らす事は容易くございましたが、やはり今が大事と思えば早々無茶もしかね‥‥」
 報告に戻った指揮官に、五条の宮が真冬よりも冷たい視線を容赦なく浴びせる。平伏していた指揮官はさらに頭を畳に擦り付け、冷や汗をだらだらとかきまくっていた。
 しかし、予想に反してそれ以上の叱責は無く。ふと息をつくと五条の宮はそのまま座に座りなおした。
「確かにな。それに、そんな騒ぎの後で踏み入り証拠を見つけても不審がられるだけであろう。逆に証拠無しとなればそれみた事かと奴らは図に乗る事間違いない。退いたのは懸命だろう」
 だが、その表情は苦々しい。明らかに不満を持っている。
「かくなるは、次こそ!」
「いや、もういい。奴らが暗殺に関与しているとしてもだ。ここまでしてなお何かの証拠を残しているなら間抜けとしか言いようが無い」
 震える指揮官からは興味無く目を逸らし、五条の宮は初夏の彩を見せ始めた庭に目を向ける。
「それにしても。彼らは何故、そこまでして捜査の手が入る事を拒むのであろうな」
 手入れが行き届いた美しい庭に目を向けたまま。抑揚も無くただ淡々と宮は呟く。
「やましい事が無いのなら、我らに協力し潔白を示せばよい物を。こうまで拒むとなれば、やはり何かを隠しているのだと‥‥。そのように考える者が出たとしても致し方なかろう」
「御意。ですが、五条の宮さまはすでに手を尽くされております。その上で、それ以上の事に手を出される必要などございますまい」
 神妙に告げる指揮官に、五条の宮もまた静かに微笑む。
 疑惑だけがただ後に残った。