【五条の布令】 京都見廻組募集 川底の荷

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:9〜15lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 40 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月07日〜05月12日

リプレイ公開日:2006年05月15日

●オープニング

 京都守護職・平織虎長が暗殺されて早幾日。空位だった守護職もようやく後任が決まる。
 新しく守護職となった五条の宮は若いながらも才覚に優れ、神皇家の血筋と申し分無く。祖父の代で色々あった為に今まで権力とは無縁でいたが、それが却って源徳・平織・藤豊の三大権力に属さない全くの中立という立場をもたらした。
 これまで平織方優勢で動いてきた‥‥動かされてきた都市警備体制もそれにより真白の状態になり。加えて、着任早々、冒険者たちも動かしての取り締まりに動き出し、治安回復に向けて力を尽くしている。

「お願いします。川底に沈んだ荷を取り返していただけませんか?」
 言って、その商人が訪れたのは京都見廻組の詰め所。たまたま居合わせた渡辺綱が詳しい話を聞く。
「先日、商売の為にとある山寺に向かいました。お客とそこで取引をする予定だったのです。しかし、そこに待っていたのはお客様ではなく、鬼でありました」
 屈強な山鬼に混じり、異形の頭を持つ馬頭鬼。どうやら、取引相手は商人を待っている間に襲われたらしい。むごたらしく四肢を裂かれ、臓物を散らばらせた見覚えある相手と、それをむさぼり食っていた鬼たちの姿に、のこのこやってきてしまった商人一行は肝を潰した。
「当然ですが、私どもは逃げました。けれど、鬼たちはすぐに追ってきました。逃げる際に荷物は重かったので、途中の川に投げ捨てたのです」
 鬼に追われて焦りながらも、損得勘定がどこかで働いていたのはやはり身に染み付いた商売魂ゆえ。
 荷は多少なら水に濡れても大丈夫。その川は流れも急で速かったが、泳ぎの長けた者ならきっとどうにかなるだろうと踏んだ。つまり、今、捨てても後で人を雇うなりして取り戻せる筈だったのだ。
「おかげで連れて行った使用人が何人か襲われましたが、大半は無事に逃げ延びる事が出来ました。それでそろそろ鬼もいなくなっただろうと、荷を取りに捨てた場所へと赴いた訳ですが‥‥」
 鬼たちはまだそこにいた。しかも、商人たちが捨てた荷に興味を抱いたらしく、何とか拾い上げようとしている。
「どうやら達者といえる程泳ぎが上手い者はないらしく、苦戦しておりました。しかし、いずれ荷は奴らの手に渡ってしまいます。商売相手に死なれた以上、今回の取引はご破算。その上で、商品を投げ捨ててしまっては、私どもは首をくくらねばならなくなります」
 商品が無事なら別の誰かに売りつけるだけ。今回は元手も掛かっているので、諦めるにも諦めきれない。
「そうは言っても‥‥鬼を相手にするとなると黒虎部隊の仕事だと思うのだが」
 綱が困ったように眉間に皺を寄せる。
 京には治安を維持する組織は数多くある。それぞれで担当している仕事が微妙に違う。‥‥もっとも、明確に守られていないというのも確かだが。
「いえ、その。‥‥どこにお頼みすればよかったか私どもも迷いましたが。冒険者ギルドに頼むには生憎今手持ちがございませんでしたし、もしこのまま鬼に荷を奪われた場合、もしかすると京の街が大変なことになるやもと思いまして、治安維持ならこちらかと‥‥」
「京の街が? 何故だ?」
 焦ってつっかえがちになる商人の言葉を冷静に聞いていた綱だが、さすがにそれは気を引かれた。
「言いませんでしたでしょうか? 私どもは武器商であります。勿論包丁や農具など、普通の刃物も取り扱っておりますが、今回所望され準備させていただいたのは間違いなく武具です」
 それも、数十人規模の量。
 何でもお客の村が鬼に狙われたらしい。なので自衛用、および鬼狩り用に買い揃えたいとの話だった。
 きっとその話が鬼たちに漏れて襲われたのでしょう。そう言って、商人はがっくりと肩を落とす。
「商品はいずれも良質。そんな物が粗暴な鬼どもの手に渡れば一体どうなる事やら。私どもの武器が使われたとあっては信用がた落ちです」
 どうやら、人の命よりも自分の風評の方が気になるらしい。とはいえ、懸念された話は確かに聞き捨てならない。
 かといって、やはり担当違いであるのは否めない。ここはやはり黒虎部隊に紹介すべきだろうと、綱は口を開きかけたのだが。
「なるほど、それは聞き捨てならぬ」
 あっさりと承諾する声が、場に届いた。見れば、視察にでも来たのか、京都守護職・五条の宮がそこにいた。
「確かに担当は違うかも知れぬが、この商人が頼ってきたのはここであるぞ。困っている相手を見捨てるなどあまりに薄情ではないか。それとも見廻組は窮状にある者を突き放すような薄情者揃いなのか。ああ、鬼が怖くて出られないとも考えられるな」
 愉快そうに目を細める五条の宮に、綱は素直に頭を下げる。こちらの目は全然愉快そうでは無かったが。
「‥‥分かりました。しかし、最近の激務に対応を追われ、我らの手も足らぬ状況でございます」
 誰かさんが無節操に仕事増やしてくれるから。
 言外にそんな意味合いも含めて綱は宮に告げる。
 しかし、そんなことは百も承知とばかりに五条の宮は胸を張る。
「ならば、ギルドに赴き冒険者にも協力を仰げと申しておいたはず! 同時に、心ある有能な者を募り、手を増やすよう手を尽くすがよい! 古臭い体制に捕らわれ身動きできず、かかる大事をむざと見過ごすなどあってはならぬ!!」
「はっ!」
「それと商人!」
「は、はい」
 突然の登場に驚いていた商人は、さらに呼ばれてすくみ上がる。
「荷は武具だと申したな。良い武器は治安維持にも時には必需。悪くない品なら余が買い取ってやる故、安心いたせ」
「あ‥‥ありがとうございます!!」
 鷹揚に頷いてみせる五条の宮に、商人は先の見通しが立った喜びもあってか、感服してその場にひれ伏した。

●今回の参加者

 ea4266 我羅 斑鮫(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4591 ミネア・ウェルロッド(21歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea6381 久方 歳三(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea7871 バーク・ダンロック(51歳・♂・パラディン・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb1421 リアナ・レジーネス(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

シーン・イスパル(ea5510

●リプレイ本文

「今回の依頼もまた難しそうだね〜」
 形のいい眉間にぎゅっと皺を寄せて、ミネア・ウェルロッド(ea4591)が呻く。
 川に落とした荷物を拾いたいという商人からの依頼。しかし、その前に立ちふさがるのは凶暴な鬼の群れ。
「川の流れも急との事。荷の回収に手間がかかるであろう状況に、鬼が残っていては出来る事も出来なくなります。そも鬼自体が捨て置けぬものならば、ここは殲滅させるに越した事はないのでは?」
 御神楽澄華(ea6526)が告げると、リアナ・レジーネス(eb1421)が少し首を傾ける。
「荷を回収したら無理に鬼を倒す必要も無いのでは。速やかに撤収した方が?」
「別にどっちでもいいよ。ただ向こうの方が数も多いし、殲滅はかなり難しいと思うんだけど」
「忍びとしては危険が増す行動は勧めぬ。今回は殲滅が目的では無いのだし」
 ミネアも率直な感想を述べると、我羅斑鮫(ea4266)が頷く。
「ここで言っても仕方ない。荷を回収するのがそもの問題として、後は現場次第、だな」
 割れた意見に嘆息付きながら、渡辺綱が一同を見渡す。
「鬼をどうするかは、ひとまず置くとして。肝心の荷の様子は?」
「荷は刀などの武器がほとんど。なので大きさはともかくかなり重いそうだ。箱の数も複数に分かれてと少々手間だな。逃げる途中、荷車で運んでまとめてひっくり返したらしいから一箇所にまとまっているのが救いといえば救いか?」
 商人からいろいろと聞き出していた斑鮫が、詳細に説明を入れる。その荷車自体は川の傍で打ち捨てたので結局川に嵌っているのは武器の入った木箱だけ。
「捨てたのは崖からでござるそうな。その場所からは降りにくい場所であるけど、その対岸は普通に川辺が広がってるので川に近付いて泳いで行けると踏んだそうでござる」
 泳ぐつもりの久方歳三(ea6381)はそこら辺をきっちり聞き出している。
「そういえば‥‥。知人に商売相手の村がどうなってるか調べてもらったが。そんな話、どこからも聞こえてこないんだ。もちろん一朝一夕で仕入れられる情報など限られているが‥‥」
「何?」
 不思議そうにしている斑鮫に、綱もまた表情を動かす。
 鬼の脅威や村が無事なのか。尋ね歩いたらしいが、そんな話は一向に聞けない。また商人からして、客の村の存在自体は関知してないと言う。
「とにかく鬼が出るというので大量の武器を用意していると言われまして‥‥。取引はすべてその方が店に来られ、今回の場所もお客様のご指定でございました。わたくしとて鬼が出るという村に出向くのはごめんでございますからね。命あってこその商売でございます」
 いただくものはきちんといただきましたし、と商人は汗を拭く。引っかかる話ではあるものの、どうやら通常よりも多めにいただき、それで商人の方もあまり深くは突っ込まなかったらしい。
「単に、その村が京より遥かに遠方なので噂が届いてないだけ、というのも考えられるが‥‥」
 綱が深く考え込む。
 何にせよ、その客は死んだ。今は依頼人たる商人の願いをかなえるだけだ。

「何か今回やる事多いような気がするのは私だけですか?」
「それだけ有能という事だ。期待している」
 ぼやくリアナに、綱は何事も無いように微笑んで励ます。それでも腑に落ちない表情をしながらリアナは、見てきた川近辺の様子を描き写して説明していた。
 実際、リアナのやることは多い。今もリトルフライで状況確認をしてきたばかりだが、その後は川に向かう仲間にレジストコールドをかけ、自身は索敵目的でブレスセンサー。戦闘になれば腕力よりも魔法の法が確か。
 が、魔力自体は有限である。特に達人級ともなれば消耗も激しい。その割りにリアナの技量はまだ低く、発動しないまま、ただ力を浪費。結局威力を下げてようやく耐冷に成功。その後の戦闘を考えて荷からソルフの実を取り出して回復する。
「そうすると、効果時間がそんなに持ちませんから気をつけてくださいね」
「ああ。まぁ任せておけ」
 残念そうに告げるリアナに、バーク・ダンロック(ea7871)は礼を述べる。
「一応、その場合にも備えるでござるか」
 歳三は防寒代わりと体に油を塗る。
「奴らとて生きているんだ。睡眠時間や食事の時間は必要だ」
とは、斑鮫の言。調べたところによれば、よほど荷が気になるらしく、遅くまで何とか川を泳ごうと苦心しててそのまま岸辺で就寝。食事は配下の山鬼が川の魚やそこいらの野山から獲物、運が悪い旅人などを調達してきてそこで食い散らかすという執着振りだった。
 冬過ぎたとはいえ、水は冷たい。もっとも、それは気にする必要も無い。遮蔽物がほとんどない川辺は吹きさらし同然で風が吹き荒れている。使うかと大凧を用意していた歳三だが、これは飛べそうに無かったなと判断している。
 対岸から降りられそうな場所を選んで縄を辿ってバークは川辺に下りる。すぐに鬼たちが気付いて騒ぎ出すが、間を急流に阻まれて渡れない。
「それではいっちょ行くか!!」
 何とか浅瀬を選んで鬼たちに近付くと、バークは念を高める。鬼たちもどうにか不審な闖入者を排除しようと川を渡らんと苦戦している。
 そして、薄桃色の光がバークの身を包むと一気にそれは周囲に広がった。
 オーラアルファー。高めた気が周囲の物すべてを一斉に吹き飛ばす。激しく巻き起こる水飛沫。広範囲に渡って急速に吹き飛ばされた川の水は、たちまち倍加する勢いで押し戻ってきた。
「おおおお!?」
 荒れ狂う水に押され、川に入っていた鬼たちはもちろん、バークもまた足を取られて流される。もともと流れの速い川はさらに荒れ狂って彼らを下流へと押し遣っていった。周囲を吹き飛ばした際に結んでいた命綱も吹き飛んだようで、ただ流れのままにバークの姿もあっという間に濁流に掻き消えていく。
「川に入っていた半数は流されましたね。残り馬頭鬼を含めて五体。好機ですか」
「いいのか、それで?」
 離れてブレスセンサーで様子を伺っていたリアナの報告に、さすがの綱も何ともいえない表情を作っている。
「大丈夫みたいだよ。ほら、岩に辿りついてる」
 ミネアが指差す先。なるほど、下流に突き出た岩の上へとどうにかバークがよじ登っていた。ただ、かなりきつかったようで、少々ぐったりしている。鬼たちはさらに下流に流されたか、姿は見えない。
 残った馬頭鬼たちがバークを見つけ、怒り心頭に迫りよろうとしている。実際は、やはり急流に阻まれたどり着けず川の中を右往左往としているだけだが。
「確かに、これを見逃す手はないな」
 疾走の術、湖心の術と立て続けに忍術を使うと、斑鮫は素早く鬼たちに迫った。川に注目している鬼たちは、音を立てずに迫る彼に気付かない。
 そのまま背後を取ると密接状態から忍者刀で一撃。悲鳴を上げた山鬼の声に他の鬼たちもようやく気付く。振り返った時には、斑鮫は素早く間を置き彼らに向かって刀を構えていた。
「川から出られても面倒ですし。しばらく浸かっていて下さい」
 川から飛び出ようとした相手に、澄華が上段から切りかかる。炎の色を纏った野太刀の刃は、山鬼を袈裟懸けに斬り裂く。だが、いずれも鎧に阻まれ、軽い傷しかつけられない。
「猪口才な!! あのお宝が目当てか!? ええい、渡すものか! お前ら、ささっと殺ってしまえ!!」
 馬頭鬼がいきり立って斧を振り上げると、山鬼たちも呼応して槍を振り回す。
 繰り出される穂先は、的確にこちらを突いてくる。明らかに単なる雑魚とは違う動きをしている。エスキスエルウィンの牙でそれを受け止めると、ミネアは慌てて間合いを開ける。
「これでどう!?」
 振るった牙から真空の刃が山鬼に飛ぶ。が、短刀の威力では山鬼に影響を与えられない。接近して相手が攻撃した隙をつけばまだ怪我も負わせられるが、それで受ける自身の怪我の方が深刻になりかねない。
 わずかに顔を顰めるとミネアは留まっても危険なだけと判断して、早々と後方に退く。
「うるごごごごおお!!」
 持ち上げた斧を力一杯に振り落とす馬頭鬼。対峙していた綱がかろうじて躱した先、空振りして地面に打ち付けられた斧は地面も水も一緒くたに吹き飛ばす。
「ちぃ!」
 舌打ちして、綱が即座に太刀を叩き込む。よろめいた馬頭鬼が水に足を取られた所。真横から飛んで来た雷が馬頭鬼を打ち据えた。
 離れた箇所から打ち込んでいるリアナのライトニングサンダーボルト。顔の半分を焦がし、馬頭鬼が甲高い嘶きを上げた。
 川を渡りバークの元にたどり着いた山鬼もいる。急いでオーラアルファーを唱えるも不発。繰り出された槍を急所を避けて受け止める。どのみちそれでは鎧とオーラボディに阻まれて大した怪我にはならない。
 滑る岩の上を何とか間合いをあけると、オーラアルファー。今度は吹き飛んだ山鬼が流れに飲まれて消えていく。
「やはりまだ完璧とはいかないか」
 苦々しく告げると、バークはソルフの実を噛み砕く。
 そして、喧騒の傍ら。歳三が川に潜って、荷を取りにいく。泳ぐというよりは多分に流される印象も受けながらもどうにかこうにか荷の所までたどり着けた。
 落ちている木箱に縄を結んで引き上げる。斑鮫の案で空樽をくくりつけて浮力を強めた分だけ、重い箱は幾分か楽に浮かび上がる。
 半ば引き摺るように岸へと戻りかける。が、岸辺から槍を投げつけてこようとする鬼の姿が目に入る。
 水の中ではとっさに動けず。潜って躱すかとまごつくが、それで避けられる保証も無し。そうしてる間に、山鬼が槍を振りかぶる。そこに雷とオーラの塊が同時に直撃。よろめいた鬼にしめたとばかりに、歳三は足に組み付き、ひっくり返した。
 ざばんとあがる水飛沫。転んだ体勢のまま山鬼が水に飲まれ、ついでに歳三も足を取られて水に押される。流されてたまるかと、重い箱を錘として、運んできた縄を必死に掴んで体勢を立て直す。
「死ぬかと思ったでござる」
 そのまま何とか岸まで泳ぎ着くと、肩で息をしながら荷を引き寄せる。とはいえ、武器の入った箱はまだ残っている。鬼たちに見つかってもまずい。疲れた体に鞭打つ気分で、歳三は残りの箱も取りに入った。

「我が奥義・燕返し! 参ります!!」
 澄華は巧みな太刀捌きで馬頭鬼の体勢を崩すと思いっきり刃を振りいれた。重みを倍加する威力を持って刃は馬頭鬼に食い込み、骨すらも叩き折る。
 そして、綱の太刀が一閃。馬頭鬼の頭から胴から飛んだ。首が失った胴体は川に落ちて沈み、浮かび上がってこなかった。
 ころりと地に転がった首を見て、残った山鬼たちは及び腰になる。逃げる者、それでも向かってくる者、流れていた者が戻ってきたりと様々だったが、各個撃破でどうにかなった。
「これで、最後でござるよ〜」
 静かになった川岸に。運び出した箱を引き上げてもらうと、そのまま歳三はひっくり返る。流れる川を泳ぐのは結構体力がいる。
 それでも、そこでのんびりとしてはいられない。休息もそこそこ、引き上げた荷を役所に持ち帰る。
 中を検めた商人が、確かにすべて無事なのを確認すると喜んで美辞麗句を連ねていく。
「それにしても、ずいぶんな品だな」
 綱はただそれだけを呟く。
 白刃輝く刀に多量の弓矢。真新しいそれらは殺傷力に誇るかのように眩しく煌く。迂闊に触れればそれだけで身を斬りそうなそれらは、確かに単なる村人が手にするような品ではない。
「ええ。支度金としてかなりの額をいただきましたから。鈍らな物を使って命を失うのはごめんだと申されておりましたから、こちらとしても相応の品を‥‥」 
 言い訳がましく商人が言葉を繋げる。
「その客人の思惑はどうあれ、これなら取引しても惜しくは無い。余としても大変助かる」
 様子を見に来ていた五条の宮は、満足そうにそう笑む。連れて来た従者に後の取引を任せて早々と次の仕事に戻る。
 破格の値をつけられ舞い上がる商人を横目で見た後、綱は一同に向き直る。
「それで、京都見廻組入隊の件だが。すまないが我羅斑鮫は遠慮してもらいたい。異国の、それも見習いとはいえ他組織に属す身では後で問題になりかねないのでな」
 頭を下げる綱に、斑鮫は肩を竦める。
「後の久方歳三、御神楽澄華、バーク・ダンロックは問題なし。以降、よろしく頼む」
「黒虎部隊の方が縁はあるのでござるが。まぁ、こちらも重要なお役目であるし、よろしくでござるよ」
 告げられ、歳三が礼を述べる。
「組織に入る事で出来る事と出来なくなる事はありますでしょうが。事態の打破に全力を尽くす。その為であればこの剣は幾らでも振るいましょう」
「抜かずの刃になる為にはハクも必要だからな。治安回復に役立ちたいって気持ちはマジだぜ」
 微笑む澄華に、バークもその腕を振るう。
 その様を見て綱は一つ頷くと、また取引に目を戻す。
 商談は無事成立し、商人は金を手にしてほくほく顔だし、従者も満足そうに荷を運び出していた。