【五条の布令】京都見廻組 野外訓練?

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 93 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:05月19日〜05月26日

リプレイ公開日:2006年05月22日

●オープニング

「野外訓練?」
 京都見廻組の詰め所にて。渡辺綱が怪訝そうに問い返した。
「だってよ。ほら、先だって人員を増やしただろ? その新人育成でちょっくら行って来いと五条の宮さまからのお達しだそうだ」
 それを暢気に占部季武が頷き返す。
「今の時期に京を離れろというのか? 大丈夫なのか?」
「離れるのは一部だけだから大丈夫だろ」
 なおも表情を険しくしている綱に、やはり変わらぬ表情で季武が笑う。
 京都守護職・五条の宮の冒険者を多量に動員した政策に、悪党どもは鳴りを潜めたか表立った活動は抜群に減った。
 が、それが恒久的に続くものか。奴らが再び動かぬよう、まだ少し睨みを聞かせる必要はある。
 それに京の懸念は何も悪党だけではない。例えば新撰組との関係は悪化するばかり。加えて先日、平織虎長暗殺に絡んだ屯所捜索を新撰組が拒んだ為に、源徳に不審ありと平織派はさらに懸念を深めている。何の弾みで何が起こるか。誰も予想できなくなっていた。
「ま。訓練と言っても、実際は親睦会の慰安旅行みたいなもんだ。仮初めとはいえ世間が静かになっている今の内に、ゆっくりして来いって意味らしい。普段の激務も今は忘れろってんで、暢気な村を選んだそうだ。都から遠いけど、温泉もあるらしいし。親しい奴も連れてっていいってんで、銀まで一緒だしな」
「その割に、金時は浮かない顔だな」
 綱が見遣る。
 先ほどから坂田金時は難しい顔で考え込んでいる。いつもなら、熊鬼の銀次郎と一緒だとはしゃぎだしそうなもんだが。
「おいらだって悩む時ぐらいあるやい」
 話をふられて、金時がむっとした顔を見せる。が、すぐに押し黙ってる。
「どうした? 何か引っかかる事でも?」
 綱が問いかけると、躊躇したように口を開け、そして、金時は思い切って告げた。
「あのさ‥‥。‥‥甘い味の保存食っておやつに入ると思‥‥って、うわ綱ぷー詰め所で斬り捨ては御勘弁を〜」
「外ならいいんだな!!」
「おいら以外の奴にならよしっ!!」
「まて、俺も斬られるのは困るぞ!!」
 悩みを打ち明けた途端、いきなり刃物を抜いた綱に、青い顔して金時が弁明。巻き添えはごめんだと季武も叫ぶ。
「だってさー。遠足におやつはつきものだろー? でも、おやつばっか無制限に持っていく訳にはいかないから、金額決めようと思ったけど、そしたら甘い味の保存食ってあれ食事でいいのかなーと」
 またもや難しい顔して悩みだす金時に、季武も首を捻る。
「保存食なんだから食事だろ?」
「でも、甘いんだよ?」
「じゃあ何だ。抹茶味の保存食はお茶か?」
「あれ、飲むのは大変だろうね〜〜」
 けらけらと笑い出す二人に、綱は頭を押さえる。
「‥‥その前に。遠足じゃなくて野外訓練だからな」
 そして、刀を鞘に収めるとふらりと出て行く。
「訓練は二人で行ってこい。俺は遠慮する」
「綱の兄貴も行くよう、宮さま直々の御命令だぜ」
「頭が痛い。以上」
 やる気なさげに告げる。
「いいのか、それで?」
「いいじゃん? 病持ちならしょうがないよね。ほら、年寄りはいたわらないとちっちゃな病気でも命に関わ‥‥」
 ぞりっっ!!!
「すまんな。何故か刀が振りたくなった」
「いいよ、他ならぬ綱の兄貴の事だから。何か額が異常に痛くて赤い水がだらだら目に流れてくるけど」
 刃についた血を淡々と拭う綱に、金時は笑顔でリカバーの詠唱にかかる。
「まぁ、何というか。息抜きできるならそれでいいし、鍛錬するならそれも良しだろう。というわけで、銀次郎。こいつらのお目付け頼んだ」
「自分がですか‥‥。がんばります」
 綱から肩を叩かれ、銀次郎が深々と頭を下げる。どういう意味だと怒る季武と金時はきっぱりと無視された。

●今回の参加者

 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea7871 バーク・ダンロック(51歳・♂・パラディン・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb0451 レベッカ・オルガノン(31歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 eb1932 バーバラ・ミュー(62歳・♀・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 eb2245 佐紀野 緋緒(37歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb3531 クリア・サーレク(24歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb4605 皆本 清音(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb4750 ルスト・リカルム(35歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

ユーディス・レクベル(ea0425)/ リオーレ・アズィーズ(ea0980)/ 柳 花蓮(eb0084

●リプレイ本文

「宮様って粋だね〜。知り合いに言ったらお土産よろしくって言われちゃった。ま、おやつとお酒もらって見送ってくれたけど」
「うんうん、慰安旅行なんて太っ腹よね〜。僕も温泉饅頭でかまいませんからって言われたよ」
「言っとくが。一応、野外訓練だからな」
 と、うきうきにはしゃぐレベッカ・オルガノン(eb0451)と、クリア・サーレク(eb3531)に、占部季武が苦笑しながら訂正を入れる。
 そんな彼らを複雑な思いで、御神楽澄華(ea6526)は見つめる。
「見廻組入隊初仕事が親睦会兼の新人研修‥‥。大事なことでしょうけど、今の京を離れるのは少し不安ですね」
「それはそうだけど」
 その危難はさすがにレベッカにもある。その為、機を見ては神秘のタロットで京の様子を占っている。‥‥あまりいいカードが出ないのは仕方の無い事なのか。
「とはいえ、確かにこの先出かけるだけの余暇があるとは限らんからの」
 バーバラ・ミュー(eb1932)が、どこか悟ったように告げる。
「入隊したばかりだし交流を深めるには持って来いよね。見廻組の仕事にしたって分からない事もあるんだし、丁度いいわよ」
「入隊した以上、今まで以上にがんばりたいしな。それに、自己紹介もしておく必要はあるだろう」
 皆本清音(eb4605)が告げると、バーク・ダンロック(ea7871)も豪快に笑う。
 そして、前方から空を早駆ける姿があった。
 空を飛んでるのは箒。またがっているのは坂田金時。
「たっだいまー。目的の村まであとちょっと。到着知らせたから歓迎会の準備してくれてたー。――これいいよねー、おもしろいし便利だしー。ケツ痛いのが難だけど」
「物欲しそうにされてもあげないよ。安い玩具じゃないんだから」
 晴れた笑顔を作る金時から、困ったように笑いながらクリアはフライングブルームを返してもらう。
「でも、いいのかしら。思わずついてきたけど、本当に私も一緒で」
「気にすんな。頭痛で休む奴に比べりゃ、やる気あるだけましマシまし」
 困惑しきりに恐縮しているのは唯一の隊士でないルスト・リカルム(eb4750)。そんな彼女を季武が笑い飛ばす。
「渡辺殿は病持ちですか‥‥。胃痛持ちですと納得しますね」
 なんとなく金時と季武を見遣る佐紀野緋緒(eb2245)。
「まぁ、たまに具合悪そうにしてるです。‥‥特に金の兄ぃと季武の兄ぃが喋ってる時なんか」
「大変ですね」
 それに頷いたのは金時の弟分・熊鬼の銀次郎。その光景を思い浮かべて、緋緒も何だか頭痛がする気がした。

「それでは参ります!!」
 野太刀を抜き払うと澄華はバークに打ち込む。
 振るう一刀。その自重を力に乗せ、澄華の野太刀が唸りをあげる。
 その太刀を見定め、バークは急所を外してその身で受けた。刃が肉を斬ると血が噴き出す。
「って、訓練で早々と怪我しないでよー。魔法使うのも結構大変なんだぞ。ま、そんな酷くないし唾つけときゃじき治るっしょ」
「いや、それなら自分でやるからやめてくれ」
 おどけ口調で口を尖らせて見せる金時に、バークは嫌そうに顔を顰めて後じさる。
「で、今の打ちでも傷は軽いな」
「もう少し強くは打てますし、魔法と併用すれば威力も多少は上げられます。もっとも、私の魔法ではさほどの効果は得られませんが」
 言って澄華が肩を竦めると、周囲を見渡す。そちらでは、占部がレベッカと緋緒を相手に刀を振るっている。
 緋緒と季武が打ち合う事数回。緋緒が繰り出した薙刀を躱すと、その懐に飛び込み刀を繰り出す。慌てて緋緒が薙刀を返して受けると、ふと笑って季武が間合いを開ける。
「隙あり♪」
「げっ!」
 そこを逃さずレベッカが切り込む。微妙な踏み込みで相手を惑わせると、狼狽している季武に大脇差・一文字を突きつける。
 あえて止めた大脇差を季武は弾くと、横薙ぎに切りつける。それをレベッカはかろうじて軍配で受け止め、ほっと息を付きながら距離を置いて、構えを解いた。
「ひたすら打ち合うだけなのも、体力削るだけのような‥‥。集団の訓練は出来ないでしょうか。術の攻撃方や逆に相手に術師がいる場合の対処法も考えたいですし」
 首を傾げる澄華に、大きくクリアが頷く。
「うん。僕なんて、逆に接近されると身を守るすべがないからね。高速詠唱やスクロールで多少は対処できるけど、それも難があるし、連携基盤でいかないとちょっとつらいかな? ‥‥でも、世の中にはこれで達人級の技繰り出す人もいるんだよねー」
「ま、精霊魔法は神皇家の十八番だからそう誰もがぽこぽこ使える訳じゃねぇし、俺らの相手はそういうのを使わない奴らのが多いわな。‥‥オーラとか仏さんのとか妖怪絡んでたりとかもよくあるけど」
 笑いながら季武が補足を入れる。
「それじゃあ味方のにしろ敵のにしろ、術に巻き込まれない動き方って覚える必要あるわよね。体あったまったし、ちょっとやってみる? っていうか、銀次郎くん弱いよ」
「すまんです」
 一人と一匹。手合わせしては見たもの、特に格闘術を学んでない銀次郎は一方的にやられっぱなし。
 清音に指摘されて、素直に頭下げる銀次郎。
「術ですか――ライトニングソードの経巻もありますし。それの活用法を考えて見るのもいいかもしれませんね」
 言った後、ふと緋緒は顔を曇らせる。
「雨天時の訓練もするべきでしょうか。晴天時とは戦況も異なりましょうし。‥‥少々気が進みませんが」
 雨には悪い方に思い出がある。それが胸中をよぎって緋緒は言葉を濁す。そんな背中を、季武が思いっきり叩いた。
「訓練なんだし、やな事無理してやる必要ないさ。この時期短時間とはいえ雨降って農作物に影響出したら、お世話になってる村の人にも悪いしな」
 そんな季武を、複雑そうな目で緋緒は見つめる。
「じゃ、続いては術の訓練という事で。行くわよ!」
 言うが早いか、クリアの手から電光が飛ぶ。
「あんまり怪我しないでね〜」
「って言うか。兄ぃものんびりしてちゃいけませんて」
 実践さながらに刀や術を打ちなう見廻組たち。何故か側でのほほんと見ている金時を、銀次郎はぼそりと呟き送り出した。

「さて。茶を入れたぞ。よいハーブが手に入ったんでな」
「面白い匂いがします」
 バーバラが差し出したハーブティーを、銀次郎は興味深げに鼻を鳴らしている。そこまで露骨ではないが、金時と季武も珍しそうにすすっている。
「村人といろいろと話しおうてみたが。五条の宮様の名声はここまで聞こえておるのぉ。噂に尾ひれがついたか実は女子とか愉快な話も聞けたのじゃ」
 くすくすと笑うバーバラだったが、すぐに表情を引き締める。 
「それにしても、言語は難しいのぉ。わしも簡単には出来るが、複雑になれば砕いてもらわねば戸惑う事があるのじゃ」
「独特の言い回しとか多いよね。この際、勉強した方がいいかも。都じゃ外国人も増えてきたし、ジャパン語以外で挨拶ぐらいは覚えておいた方がいいかもね」
 クリアが告げると、季武も頷く。
「そうだなー。外国人ってほとんど冒険者だがいない訳じゃないし。月道使って貿易してる商人とかが悪さしたら困りそうだよな」
 月道は利益をもたらすが、同時に向こうの諸悪も呼びかねない。その為、通行には役人が重々気を配っているが人の心までは見通しづらい。
「それじゃ、クリア先生。ナサケはヒトのタメナラズってどういう意味ですかー? ナ酒って美味しいの?」
 はい、と手を上げて尋ねるレベッカ。この中ではクリアが一番各言語に秀でていた。
「‥‥ナ酒は酒じゃないです」
 銀次郎が訂正を入れる。
「その通り! ナサケはヒトのタメナラズっていうのは、無さそうな毛は人も眼を逸らすから注目を浴びれないって意味なのさ!」
「‥‥無さ毛は人の多眼ならず、か?」
「そこ! 嘘教えないの!!」
 胸張って答える金時に、眉を顰める季武。クリアは背筋を伸ばすと、金時の頭を小突いていた。

 昼は実戦訓練、合間に言語学習。夜ともなれば宴会開いて緋緒が舞を披露すればレベッカが故郷の踊りで脱ぎだし。‥‥と、見せかけて実はちゃっかり下に服を着込んでいたので、一部の男衆から批難浴び。それをさらに女衆が実力で黙らせてみたりと、実に和やかに日程は消化される。
 村の待遇もよく、夜の宴会ともなれば一緒になって騒いでいる。
 そんな彼らからは少し離れて、ルストは修行に励む。
 川の傍。初夏の空気は少し肌寒いが、耐えられぬ程でなく。ルストは喧騒離れて一人静かに座禅を組んでいた。
 通りかかる村人は極わずか。事情を察して彼らはそっとしておいてくれるし、たまにお供え物が置かれたりもする。
 そうして精神を統一して、また己を見つめなおし。
(あら?)
 村に近付いてくる気配を感じて、ルストはそちらを見遣る。やってきたのはどうやら見廻組の一人らしい。馬を急がせて駆る様はかなり焦っていた。
 見廻組の事情なら口出しせぬ方がとちらりと考えたが、それにしては尋常でない表情が気にかかる。不安を覚えてルストは早馬の後を追い、村へと戻った。

 疲れた身体には温泉が一番。湧き出る場所が違うとかで日替わりで男女別に二つの湯を楽しんでいた。
「村の共同財産を仕切って悪い気もするが、やっぱいいもんだな。傷も癒える」
 酒を持ち込んで一杯やってるバークに、ちゃっかり御相伴預かって一緒に金時が盃を受ける。
「結構広い風呂のはずですが、手狭に感じますね」
 緋緒は苦笑して浴場を見渡す。
 緋緒・バーク・季武とジャイアント種族が揃い、ついでに熊鬼の銀次郎も似たりよったりの体系。パラの金時が一際小さく見える。
「綱がいなくてよかったかもな。さらに狭い」
「ほーんと、都で今頃何してんだろね〜」
 のんびりと湯に使っていた面々だが、
「‥‥何か騒がしいです」
 銀次郎の言う通り、なにやら風呂場の外がざわついている。
「皆さん! 大変です!!」
 飛び込んできたのは、都に残っていた見廻組の隊士。
 何事かと注目する中、そして、彼は災厄を告げた。

 もう一方の温泉ではゆったりまったりと女性陣が疲れを癒している。
「体を動かした後の温泉は、やっぱりいいものですね」
「うむ。普通の湯に浸かるより身体にもよい。何せ歳を取ると身体の節々が痛くてのぉ」
 澄華とバーバラはほっと一息つく。
「罪悪感感じちゃうくらい、温泉ってのんびり出来るよね〜」
 水面に浮かびながら、クリアも笑顔でくつろいでいる。
 はしゃいで水を駆け回ったり、泳いでみたり。広さはかなりあるし他に人がいないからいいものの、風呂場の迷惑行為なのでやめましょう。
「何だか顔色が悪いようだけど。もしかして匂いに酔ったとか?」
 酒に肴で豪勢に一杯やってた清音だが、ふとレベッカの表情が優れない事に気付く。
 今日は山を歩いていたレベッカ。泥だらけになった愛犬を丁寧に洗っていた彼女は、声をかけられてはっと顔を上げた。
「うん。まぁ、都の様子を占ったら、どうも妙な結果が多いのよ。それがちょっと気になって‥‥」
 いつも明るいレベッカだけに余計に深刻に見える。心配そうに見つめていた清音だが、
「‥‥何だか外が騒がしいわね。男どもが何か騒いでるのかしら」
 深刻な雰囲気を邪魔する喧騒に気付いて、口を尖らせる。銀次郎に頼んで川へ放り込んでもらおうかといろいろ考えていると、その騒ぎがどんどん風呂場に近付いてくる。
「大変よ!!」
「なんじゃ、ルスト殿か‥‥。つまらんの」
 浴室に飛び込んできた人物を見て、バーバラはスリングを傍に置く。他の面々も構えを解いた。
「本気で男たちが覗きに来るとは思ってませんけどね。‥‥どうしたのでしょう?」
 軽く肩を竦めて澄華が問うと、ルストは焦る呼吸を整え、そして声を張り上げる。
「五条の宮謀反! 北方に軍を率いて都に迫ってるって今知らせが!!」
「「「「「何ですってーーーー!!!」」」」」
 女性たちの一斉の叫びが、風呂場の中を大音響で駆け巡った。

 寛ぐ雰囲気どこへやら。帰りは足並みよりもまずは人手と、各々が最速の方法で都へ帰還する。
「帰るまでが野外訓練ですなんて見送ってくれたけど。訓練直後に実戦なんて冗談じゃないよ!!」
 フライングブルームに乗って、泣き言半分にクリアは呟く。
 高みから見えた都の景色は。騒乱が離れていても聞こえてくるようだった。