【五条の乱】 ｖｓ京都見廻組
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■ショートシナリオ担当：からた狐 対応レベル：6〜10ｌｖ 難易度：やや難 成功報酬：3 G 9 C 参加人数：6人 サポート参加人数：-人 冒険期間：05月24日〜05月29日 リプレイ公開日：2006年06月01日 |
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●オープニング
新しい京都守護職の働きは宮中でも評判だった。京都の人々の目にも、彗星の如く現れた神皇家の若き皇子が幼い神皇を助けて京都を守ろうとする姿は希望と映っていた。事実、悪化の一途を辿っていた京都の治安に回復の兆しがあった。
五月も半ばを過ぎたある日、事態は急変する。
「五条の宮様が謀叛を！？ まさか‥‥嘘であろう？」
新守護職に触発されて職務に励んでいた検非違使庁が、五条の名で書かれた現政権打倒の檄文を発見したのだった。下役人では判断が付かず、判官の所に持っていき天下の大事と知れた。
「よもやと思うが、事情をお聞きせねばなるまい」
半信半疑の大貴族達は神皇には伏せたままで五条邸に使者を送ったが、事態を察した五条の宮は一足違いで逃走していた。屋敷に残っていた書物から反乱の企てが露見する。
押収した書物には、五条が守護職の権限を利用して手勢を宮中に引き入れ、御所を無血占領する事で安祥神皇に退位を迫る計画が記されていた。他にも源徳や一部の武家に壟断された政治を糾し、五条が神皇家による中央集権国家を考えていた様子が窺えた。
「京都を護る守護職が反乱を起すとは‥‥正気とは思えませぬ」
「そうだ、御所を占領したとしても大名諸侯が従う筈があるまい」
「現実を知らぬ若輩者の戯言だ」
騒然とする宮中に、都の外へ逃れた五条の宮と供の一行を追いかけた検非違使の武士達が舞い戻ってきた。
「申し上げます！」
「どうしたのだ！？」
「都の北方から突如軍勢が現れ、我ら追いかけましたが妨害に遭い、五条の宮様達はその軍勢と合流した由にござります！！」
ここに至り、半信半疑だった貴族達も五条の反乱が本気と悟った。五条と合流した彼の反乱軍は都に奇襲が適わないと知って京都の北方に陣を敷いた模様だ。
「寄りによってこのような時に源徳殿も藤豊殿も不在とは‥‥急ぎ、諸侯に救援を要請せよ！」
家康は上州征伐の為に遠く江戸に在り、秀吉も長崎に発ったばかりだ。敵の規模は不明ながら、京都を守る兵多くは無い。
「冒険者ギルドにも知らせるのだ！ 諸侯の兵が整うまで、時間を稼がねばならん」
昨年の黄泉人の乱でも都が戦火に曝される事は無かった。
まさかこのような形で京都が戦場になるとは‥‥。
※ ※
五条の宮、決起。
青天の霹靂ともいうべきこの凶報は、瞬く間に都の内に知る所となる。
この突然の事態に驚きながらも、安祥神皇の御名の元、武を有する各所が鎮圧の為に北へ向かう事となった。
その折に、都各地より知らせが届く。
「都の各所で暴動。どうやら宮の手勢が貧民層を煽っている模様！」
黄泉人の復活から――いやそれ以前から。戦火を逃れた人々は、少しでも安住できる生活の場を求めて都へと流れ来ていた。だが都もまた、人斬りや鬼・物の怪、亡者の群れと休まる事を知らず。治安は安定せず、富むのは一部の人々で貧しい者はいつまでも貧しいばかり。
そんな折に五条の宮が京都守護職についた。迅速なその働きは、確実に誰の目にも明らかな形で治安の回復を担った。そこに来て、その宮自身による決起。
市井を治める手腕も情もあり、加えて血筋も申し分なく。
王政復古を掲げて今の政治体制を覆そうとする彼の動きに望みを託し、現状に不満を持つ者が誘いに乗っても全く不思議では無かった。
例えそれが、不完全な形で決行する事になった反乱を有利に進めるべく内部から撹乱する為の動きであっても、今に困窮する人々には関係なかった。
都での暴動の知らせを受けて、京都見廻組・渡辺綱は急ぎ役所に駆ける。
乱鎮圧の為に、兵の多くは前線へと出張る。その為、都の要所以外はどうしても手薄になりがちであった。
京都見廻組もまた前線へと借り出されている。加えて現在、五条の宮の命により都を離れている隊士もおり、その為、組自体の人員が不足しがちだった。
道すがら、手隙の面々にも声をかけて、綱は役所へと急いだ。
「誰か来ているか！？ 都の警備は一体‥‥」
役所に飛び込んだのも束の間。綱は逸る足を急に止め、言葉を切った。
すでに詰めていた者は十名ほど。いずれも見知った顔であり、これまで都の治安を守ってきた仲間である。京都見廻組の隊服を着込み、机の周りに雁首並べて何かを話し合っていた。
その彼らが、綱が飛び込んできた途端に言葉を切った。はっと顔を上げてこちらを見てくるその顔はどこか知らぬ者の顔にも見えた。
一瞬、なんともいえぬ空気が場に満ちる。
今起きている事態に対しての方針について話し合ってるのだ、と言われても普通ならば納得しただろう。
だが、そこに不穏な空気を見出して、綱は注意深く身構える。
「何をしていた？」
「いや、何。これからどう動くかの相談をな」
体格のいい一人が、笑顔で告げる。そこには何の含みも無いかに見えた。‥‥が、
同時に、綱が動いた。躱したその動きに、後から抜き身の刃が追いかけてきた。
繰り出したその持ち手はやはり京都見廻組の者。立ったままでいれば、間違いなく致命傷となる箇所に、何の躊躇も無く一撃を打ち込んできたのだ。
「どういうつもりだ！！」
恫喝する綱に、だが、場にいた見廻組の面々は得物を抜く事で答えた。
「五条の宮さま入城をお助けするべく、都の内で障害となる者を我らで排除する」
「正気か？」
五条の宮は上司である京都守護職だったが、乱発覚と同時に解任され縁が切れている。
都の警備を担うのが京都見廻組であり、その職務から神皇様の味方と信じて接する者も多いだろう。そういう者に何食わぬ顔で近付き、刀を抜くのはたやすい。警戒されたとてこの混乱の中、どうとでも手は打てる。
さすがに息を呑む綱に、彼は大真面目に頷いた。
「もちろん、我らとて考えての事だ。平織、源徳の争いが悪化するこの状況を打破されるのは、五条の宮様の他になし。世の安寧を憂う身として、当然の選択だろう」
「‥‥外の扇動騒ぎもお前たちの仕業か。一体何人がそちらについた？ 安寧を口にする者が混乱を起こしてどうする」
「今の痛みを恐れて後の平和を逃す方が愚かと思わんか？ 優しいだけの帝など、国を腐心させるだけ。それが真である事は今をみれば明らかだ」
刀を握る手に力を込める。その切っ先を綱に向け、彼は問う。
「共に宮様の為に戦うというのなら歓迎しよう。だが、そうでないなら‥‥」
言いかけ低く笑うと、言葉の途中で頭を横に振った。
「どう考えても、お前は賛同しそうにないな。だからこそ、都を離れてゆっくりしていてもらいたかった。こんな事態になった今となっては特にな‥‥」
「当たり前だ。神皇さまの御許、京の治安を憂いて集ったのが我らだろう」
「残念だ」
口調は本心からの思いを告げる。
そして、殺気が辺りに満ちた。
●今回の参加者
ea6004 エルネスト・ナルセス（42歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国）ea8703 霧島 小夜（33歳・♀・浪人・人間・ジャパン）
ea9150 神木 秋緒（28歳・♀・志士・人間・ジャパン）
eb1599 香山 宗光（50歳・♂・侍・人間・ジャパン）
eb3824 備前 響耶（38歳・♂・浪人・人間・ジャパン）
eb3979 ナノック・リバーシブル（34歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国）
●リプレイ本文
殺気と共に刀が抜き払われた。死をもたらさんとする相手は、本来京都を守る為に組織された京都見廻組たち。――いや、彼らは今とて正義を信じ、平和をもたらさんと戦おうとしている。
相対する冒険者たちもまた、京の為にと集い来る。思いは同じながらも、手段も立場も違う相手。
「そのやり方では変わらない。‥‥変わらんのだよ」
けして受け入れられないやり口。それを受け入れた相手は昨日の友であり‥‥今は敵だ。同じ京都見廻組に所属する備前響耶（eb3824）が、目の前の同僚たちの姿を通し、元上司を思う。
「五条の宮の御為！ 大儀と思うてここで消えてくれ！！」
見廻組たちが迫り来る。苦渋に顔を歪める者もあったが、動きにためらいはなかった。
「そうもいかないな」
彼らの動きよりも早く、エルネスト・ナルセス（ea6004）が動く。詠唱は一瞬。翳した手から見廻組に向けて、扇状の吹雪が噴き出す。
吹き荒れる雪に見廻組たちの動きが一瞬止まる。その隙を見逃さず、響耶と渡辺綱が彼らへと切りかかった。
綱が高速でオーラショットを放つ。撃たれた相手がひるんだそこへ、響耶が踏み込む。
「邪魔だ！！」
大降りに刀を振るうと、その刃から逃れて空間が開く。
「訓練を詐称して隊員を遠ざけた辺り、宮様は檄文が発見される前から隊の内部にいろいろ仕掛けていたみたいね。――揉め事に巻き込んでごめんなさい。助成、感謝するわ」
「とにかく止めさせてもらおう。京に無粋は似合わんからな」
そこにさらに京都見廻組の神木秋緒（ea9150）と、霧島小夜（ea8703）が並んで走りこむ。狙うは人垣の後方。切りかかってきた奴らと反対に後方に下がって印を組んでいた者たちに斬りかかる。
「「はあ！！」」
秋緒が霞刀を、小夜が大脇差・一文字を振るう。だが、その刃が届く前に赤い魔法光が閃く。息を飲む間もなく、小さな火の玉が向かってくるや派手な爆発を起こした。
炎と爆音が肌を撫でた。が、被害は軽微。むしろ闘志を駆られて、秋緒は火の志士と斬り付けた。
そして、グラビティーキャノンが相手から放たれてくる。だが、それは人を狙わず、壁を崩した。まずは空間の確保か、そのまま表へ出ようとする。
「させるか！」
志士の後を追い、外へと駆け出す小夜。だが、その鼻先を矢が掠める。
「表にもまだいたか‥‥。そっちは頼む！ 一人も逃がすな！！」
急所外して刃を受け止め、すかさず忍者刀で踏み込む響耶。ざっくりと肉を切り血を振りまきながら、それに頓着せず他の面々に叫ぶ。
「簡単に言ってくれるな、キョーヤ！ どういう状況だ、これは！！」
ナノック・リバーシブル（eb3979）が悪態をつく。だが、問われた響耶も返事をする余裕無く。背後から切りかかろうとしていた一人を、綱が振り向きざまに斬り伏せ、響耶が横合いから刃を突き入れる。
いらだたしげに、ナノックは周囲を見回す。どうやら数発撃つと移動するらしく、矢の放たれる位置は少しずつ変わっていた。
「降りかかる火の粉は払わねばならないか。‥‥そこのウィザード、弓兵を潰す。手を貸してくれ」
「エルネストだ。ビザンチン帝国のエルネスト・ナルセス。暫し護衛役頼‥‥」
ナノックに答えてエルネストは告げる。だが、その途中で彼の声は唐突に途絶えた。周囲の喧騒も彼の耳にだけは入ってこなくなる。
視界の隅で緑色の光が見えた。とっさにそっちを向けば、不敵に相手は笑った。風の魔法・サイレンス。高速で魔法を使う相手はいろいろと厄介。なので、ひとまずそれを潰しておこうという訳か。
事態に気付いたナノックが、舌打ち。シールドソード・サバイバーを握りしめ、風の志士めがけて斬りかかろうとする。
しかし、エルネストがすかさず捕まえる。身振りで周囲を指すと、経巻を取り出して見せた。
（魔法を封じられても、まだ方法はある。弓兵を潰す方が先だ）
「そういう事か。では、俺が壁になる。射程内に入ってくれ」
唇から意図を読んで、ナノックが走り出す。飛んでくる矢をサバイバーで防ぎながら、その来る方向を見極め、エルネストが追走する。
走り出した二人を追うように、見廻組の数人が動く。だが、その前に香山宗光（eb1599）が走りこむと、足止めに日本刀を振り回す。
「翔陽、初陣だ！ お前も行ってくれ！！」
飼っている鷹に、小夜が呼びかける。甲高い声で翔陽は答えてナノックたちの後を追うが、その動きはどこか鈍く嫌がってるように見える。自身が危険とあれば距離を置く腹か。
もっとも、元より期待はしておらず牽制でもしてくれたらいいだろう。
そちらは彼らに任せ、小夜は眼前の相手を見る。刃が駄目ならと詠唱しだした地の志士に、素早く駆け寄ると刃を返してその背を叩きつける。
「つっ！！」
一撃では沈まず、だが、詠唱は邪魔できた。抜かれた刀で切り結ぶ事数回。鳩尾に柄を叩き込むと、相手が気を失い崩れ落ちる。
「危ない！！」
それを見送る事も無く、死角から風の志士が斬り込んでくる。気付いた秋緒が組み合っていた相手の刀を大きく捌くと、身を翻して彼らの間に滑り込む。志士の切っ先をとっさに軍配を受け止めると、途端にばちんと一瞬の閃きと衝撃が伝わった。
「ライトニングアーマーね‥‥」
魔法による帯電は物によっては武器にも伝わる。迂闊に接触すればこちらもまた傷を負う事になる。
秋緒は鞘を引き抜くと、それで打ちかかる。間合いを開けた相手をあえて追わず、小夜と背中を合わせて周囲に気を配った。
そうこうする内にも、ナノックは弓兵に間合いを詰めていた。エルネストが経巻を広げるとグラビティーキャノンがその兵を打ち据える。
迫る重力波。堪えきれずに兵は弾かれて転び。そこにナノックが、重さに任せた重厚な一撃を加えた。骨に当たる硬い感触に怖気を覚えるが、それを飲み込みナノックはもう一度盾を振る。
そこへまた別方向から唸りを上げて矢が飛来。エルネストに刺さった。
「おい！」
はっとして顔を上げた隙、転んだ弓兵が下から蹴り上げてきた。威力自体は大した事無いが、それで体制を崩すと相手は身軽に起き上がり、間合いが不利な弓を捨て、短剣を抜く。
すぐに斬りつけてこようとした相手だが、その顔めがけて翔陽が舞い降りた。
「うわっぷ！」
暴れる鷹に顔を背けた相手に対し、ナノックは一旦間を開けるとエルネストの傍に寄る。
「大丈夫だな？」
尋ねるナノックに、エルネストは頷き矢を抜く。傷跡はまだ軽微。あまり威力の強い弓では無いようだ。それでも数を追えば手痛い。
ナノックは改めて盾を掲げ、慎重に目の前の短剣を構える相手を見据える。エルネストも経巻を握り締めながら、矢の飛んでくる方向を見定めた。
そして、その二人に感けてしまうと矢の攻撃はまばらになっている。
それに気付いた宗光はにやりと笑う。
「弓兵無ければ憂い無し。拙者が撹乱するでござる！」
集団の只中に飛び込むと、日本刀で斬りつけて行く。
「この！」
見廻組が刀を振り下ろす。が、彼の足捌きに翻弄されて狙いが甘い。それをするりと避けると、不意に刀を突き出す。
唐突に仕掛けられた刃にはオーラが付与してある。切れ味優れたそれは相手の顔を深く切り裂いていた。
「手加減はせぬよ。生死は時の運。実力伯仲ならば、確実に個を削るだけでござる」
言って構える宗光に横合いからオーラショットが飛ぶ。体制を崩したところをすかさず殺到してきた相手。そこに今度は別方向から彼らへとオーラショットが飛ぶ。明らかに自分よりも手痛い傷を受けた相手に、宗光は容赦なく斬りつける。
「やれやれ。見廻組も落ちたものだ。お前たちが見回っているのは、さしずめ五条の顔色か？」
志士を睨みつけながら、小夜が戯言のように告げる。
「源徳、平織、藤豊‥‥。それらの顔色を伺いながら世を動かさざるを得ない今よりかはマシだろ？」
返ってきた答えは揶揄も通じそうに無い。
答えた声は軽かった。だが、その分今に関する絶望を醸し出し、それを打ち払わんとする焦燥のようなものを感じた。
「貴方たちは平地に乱を起こす五条の宮を選ぶと言うの！？ 安祥帝は即位以来何ら落ち度も無いと言うのに」
秋緒が叫ぶと、さらに相手は低く笑った。
「五条の宮は乱を好まず、そもは無血入城される事を考えておられた。このような事態になったのは不本意であられよう。帝の落ち度か‥‥。何もせぬのであれば落ち度も出ようが無い。それこそが罪だと気付かぬか！！」
言って、踏み込む。
「見知ったばかりで残念だが！ これも大儀！ せめて苦しまぬように逝ってもらう！！」
迫る志士と秋緒が斬り結ぶ。即座、その脇をすり抜け、後方で詠唱していた火の志士に小夜が迫る。先の志士と同じく多少てこずりながらも気絶させると、残る志士も共に叩き伏せた。
「悪いけど、見廻組の羽織を着た者を市中に放つ訳には行かない。逃げる者は背後からでも斬らせてもらうわよ！」
「上等だ！！」
叫ぶ相手は背後から。振り返る小夜に秋緒が割り込むが、その横合いから綱のオーラが飛んできた。
小夜は踏み込むと、素早く居合いで斬り付ける。素早い動きで刃が防御の甘い箇所を薙ぐと、見極められず相手はざっくりと血を流す。
「短い間だったが貴殿らは良い同僚だった。浪人である自分を面白くない者もいただろうが、少なくとも自分にとってはそうだった。京を想うその心が、同じ方向を向いていると信じたかったが、どうやら道を違えたようだ」
刀を構えながら、響耶は深く息を吐く。
「非常に残念だ」
「それはこちらも同じだ。が、仕方ある無い！」
相手の手にした刃はオーラソード。透過する気力の剣は、これまでと同じよう急所を避けて受けても鎧の防御力には頼れない。もっとも、幸いな事に相手の力量が高くなく、そもの傷自体が軽く済んだのだが。
志士は潰しても、オーラショットで長距離を打てるものがいる。そちらは秋緒と小夜に任せて、響耶は斬り結ぶ。
心に思うところは多々あれど。いや、であるが故に、誰の動きも力強く、容赦の無い斬り合いが続いた。
そして、最後の一人を切り伏せ、たっていたのは冒険者たちだった。辺りはすっかり血の海になっている。くすぶっていた炎の後を消して回ると、あちこちが壊れて無残な建物がそこにはあった。
「やれやれ。反乱を聞いて加勢せんと駆けつけてみたら、こっちも反乱。相手がデビルなら何とも思わないんだがな‥‥」
怪我の無い者は無く、それでもどうにか傷は軽く済んでいる。
まだ息のある者は縄で縛り、そうでない者はひとまず邪魔にならぬよう纏める。自分が切ったまだ若い相手を見つめながら、ナノックは振り払うように頭を振った。
「後で遺族らに会いに行かねばな。自分も彼らも己の正義を貫いて結果的にこうなったが、悪人ではなかったはず。許してくれとは言えないが‥‥謝罪する事は許して欲しい」
「どうかしら？ 私が彼らの立場だったとして、そんな物は欲しくないわ。それも分かっていての行動だったのじゃないかしら？」
沈む響耶に対し、秋緒は少々首を傾げる。それでも、やりきれない思いは同じ。綱もまた、似た表情で、二人の肩を叩く。
「どの道、彼らに関してはまた後だ。至急を要する事が他には多すぎる」
五条の宮は多勢の兵を率いて迫ってきている。耳を澄ませば都のあちこちからも混乱を起こす騒ぎが聞こえてくる。それは今の時点では、増える事はあっても減る事は無い。
「乱‥‥か。無益な事を」
都に目をやり宗光が嘆く。
「無益か否かはまだ分からない。‥‥が、今の事態のまま放っておけばあながち無益とも言えないかもな」
「神皇さまが御健在であられるのに、力づくで押しのけるのは認められないわ。京を焼く事も辞さない宮を主上と仰ぐなんて出来ないもの」
秋緒が唇を噛むと、きっと北の方角を睨みつける。
「やれやれ。落ち着いて刀の手入れが出来るのは、まだまだ先のようでござるな」
宗光もまた騒乱やまぬ状況に嘆息を入れつつ、京の都へと足を踏み出していく。
一難終えても災難は終わらず。この事態に対処すべく、彼らはまた動き始めた。
