浮気の代償
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:7〜13lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:6人
サポート参加人数:4人
冒険期間:06月06日〜06月11日
リプレイ公開日:2006年06月14日
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●オープニング
「僕が悪かった。反省してます。だから、妻に会いたいんです〜〜〜」
血相変えて冒険者ギルドに飛び込んでくるなり、男はそう泣き出した。ギルドでは結構良く見る風景。大の大人がと言う者もあるが、困ってる相手にそれは野暮。
「実は先月より、都の商家に住み込みで働いているのですが‥‥」
それまで田舎暮らしで素朴な暮らしをしていた彼。噂に名高い煌びやかな都の光景にすっかり心浮き立たせてしまった。
見る物聞く物すべて珍しく。子供のように毎日を新鮮に暮らしていた彼へ、ある日、先輩がたからお誘いの声。
いい所に連れて行ってやるからと言われて着いた場所は、兄さん寄ってらっしゃいと着飾った女が袖を引く。
飲んで騒いで浮かれて遊び。それが何とも楽しくて、以来、男はすっかり嵌って足しげく通うようになってしまった。
「その‥‥都もいい所なんですけど。知人らしい知人もいませんし、慣れない仕事に疲れてましたし、女の方たちはとても綺麗で優しかったしで、つい‥‥」
恥ずかしそうに男が告げる。
ともあれ、昼は真面目に店で仕事、夜は得た報酬で遊び場に赴きドンチャン騒ぎを繰り返していたのだが。
どんな所にもおせっかいはいる。都に来たついでに様子を見に来た村の者が、至極忠実に男の生活を家族へ伝えて下さったようで。
実は、男。村に妻を残してきていた。離れて暮らす男を妻は心配し、悪い病にかかってないか、治安の悪さに巻き込まれて怪我してないかと、毎日かかさず神仏に祈りを捧げる日々。であったのだが、
「‥‥。そ・ん・な・にっ! 都の女がいいなら一生そこにいなさい!! 二度と帰ってくるんじゃないわよっ!!!」
可愛さ余って憎さ百倍。話を聞いた途端に切れました、ものの見事にぶっちりと。
家に置いた男の荷物も全部都に送られた挙句、一緒に入っていたのは離縁を申し出る手紙。いや、それはむしろ絶縁状。
さすがの男も目が覚めて、商家に休暇を申し出るとすぐに村へと帰郷したのだが。
「妻に会えないんです〜。というか、会わせてもらえないんです〜」
とにかく、妻に会わねば話にならない。なのに、その行く手を阻む四体の塗坊!
その昔。奥方が道で子供らに落書きされて泣いていた塗坊を助けて以来、何故か懐いて行動を共にするようになったという。
「‥‥いい話とは思うが、泣くのか? あいつら?」
「さあ? あくまで妻の弁です」
首を傾げる辺り、彼も詳しくは知らないようで。
ともあれ、妻を慕う彼らは、怒る彼女の命に忠実に従って会わせてくれない。妻に近寄ろうとすれば、文字通り壁になって立ちはだかり、無理やり通ろうとすれば倒れてくる。
通るのを諦め、せめて言葉だけでもと声を張り上げれば、ものすごい速さで追っかけまわされてしまう。
会えないならせめて村の者に何とか怒りを解いてくれるよう代役を頼んでも、奥さんの気持ちももっともだと逆に説教される始末。どうしようもなくて、ギルドに駆け込んできたのだ。
「もらった休暇も直に終わりますし、そうすると店だって早々休めません。だから、それまでに何とか早く妻に会って謝罪したいんです。それにはあの塗坊たちがぁ!」
もっとも、その塗坊を怪我させたりは妻が泣くからやってはダメだという。
「ええ。本当に反省してます。二度としません。これからは心入れ替え真面目に働きますから、離縁だけは勘弁して欲しいんですよぉ」
そして、男がまたおいおいと泣き出す。
それを慰めながらも、係員は冒険者募集の貼り紙を作り出した。
●リプレイ本文
都に一人働きに出た旦那、憂さを晴らしに夜遊びしまくり。それはほんのささいな(?)出来心。しかし、もたらした結果は予想を超えて。悪い事は出来ぬもので、しっかり奥さんにばれて離縁寸前。
奥さんの怒りを静めようと、手を尽くしたがどうにもならず。困った旦那は冒険者ギルドに駆け込んだ。
「ま、よくある話っちゃ、よくある話だよね」
「そんな‥‥。感心してないで助けてくださいよぉ」
話を聞いて至極納得しているアルヴィーゼ・ヴァザーリ(eb3360)に、旦那は涙目ですがりつく。
「まったく、女性から見れば許すまじ行為だぞ。人として欲望に負けてしまう気持ちは分からないでもないが‥‥」
「ひー、ごめんなさいごめんなさいっ! 本っ当に反省してますから〜〜〜」
奥方どころか、自分にまで地面に頭を打ち付けんばかりに土下座して謝る亭主の姿を、氷雨鳳(ea1057)は怒りも吹っ飛ばして見つめるばかり。
「とにかく、先日明王院殿の連れと訪問させてもらったが‥‥。奥方は相当に御立腹でござったようで」
「そ、そんな〜」
宥めるように肩を叩く鳳に、男は涙目で訴える。
正直、奥方を思えばここはもういっそ諦めろと言いたくもなるが、それでは依頼に来た旦那が哀れというもの。
「ま、悪いのがどっちかは明白だけど。話だけは聞いてもらえるよう、お手伝いしましょか」
「ええ、お願いしま‥‥す‥‥」
嘆息一つ。肩を竦めてアルヴィーゼが告げると、旦那が笑顔で頭を下げ――たのも、つかの間。
奥方のいる村から、すさまじい地響きが聞こえてくる。
青褪めている旦那の隣、何事かと冒険者たちは注目する。
均された土を蹴ってすさまじい速さで駆けて来るのは巨大な壁。その数は四枚。
思わず身構える冒険者たちだが、壁たちは彼らの前で急停止。素早く横一列に並び、ただ道を塞ぐ。
「‥‥塗り坊の歓迎か」
感嘆して告げる明王院浄炎(eb2373)。彼をして見上げる程あるその分厚い壁は、もはや微動だにせず。
「こいつら! こいつらがいなければ、あいつに直に謝れ‥‥ぎゃあああああーーー!!」
興奮気味に叫ぶ旦那。途端、四体が同時に動いて旦那に迫り、悲鳴を上げて逃げ回る。
もっとも、塗り坊たちは手傷を負わせるつもりはないようだ。旦那を少し脅かすとまた壁として村との間に静かに立ち塞がる。
「戦ってみたかったんだが、怪我させちゃならないなら仕方ないな」
惜しそうにしながら、試しに四神朱雀(eb0201)が塗り坊に触れてみる。無遠慮に叩いてみても、塗り坊たちの態度は変わらず。どうやら追い払いも旦那限定らしい。
「とにかく、旦那はどこかに待機してもらおうか。その間に、俺たちがもう一回奥方に説得をかけてみる」
「はい、よろしくおねがいしま‥‥ぎゃあああああああーーーーっ!!」
告げた九十九嵐童(ea3220)に、素直に旦那は頭を下げる。下げた言葉に反応して、また塗り坊たちは旦那を追い掛け回し始める。
「夫婦喧嘩は犬も食わぬ。‥‥とはいえ、喧嘩する以前の問題だったんだな」
寡黙な追っ手と賑やかな逃亡者を見ながら、嵐童は頭を抱える。あれでは旦那が奥方の元にたどり着くなどとても無理。
追い回される旦那に少し不憫を感じながら、塗り坊たちの目を簡単に逃れ、説得に向かう冒険者たちは村へと入っていった。
「あら、また来たの?」
鳳の姿を見た奥方は、開口一番、やや不機嫌そうにそう告げる。
「今日は、御主人の勤め先から便りを託されて参った。文は読めますかな? 気が滅入っていたのを見かねて誘った花街の一件が大事になって申し訳ないとの事。分からぬなら代わりに読み上げるが‥‥」
「いえ、大丈夫よ」
浄炎から手紙を受け取ると、奥方はそれに目を通す。
自身は勿論、知り合いや嵐童の友人にも調査してもらった結果、旦那の勤務態度はすこぶる良し。故に、女遊びに現を抜かそうと大目に見ていたのだし、その後の事も不憫に思い、手紙がほしいといえば言う通りにすんなりと書いてくれた。
「俺も仕事柄、家を空ける事が多いのでな。どうにもこの件は、他人事とは思えぬ」
その文に奥方が目を通してる間に、浄炎はさらに言葉を紡ぐ。
「御亭主の行いは、確かに良くない。が、心弱りし時の一時の気の迷いでもあるのだ。それで全てを清算しては、今まで積み重ねてきた歳月がやるせないではないか。‥‥一時の激情で縁を切っては、奥方の思いも報われまい。
どれほど大切に思っていたか。例え修羅場になろうと、面と向かって思いをぶつけてはどうだろう? 会わぬまま放置するよりも良いと思うが?」
浄炎が尋ねるも、奥方は動かない。目は文に落ちたままだが、一点から動いてない辺り、何か考え込んでるようである。
ただ、何を考えているのか。それも分からないのでは少々やりづらい。
「こちらは夫の身を案じながら待っているのに、遊び呆けていたとは私も許せん。その‥‥私自身もそろそろ腰を据えようと思っておってな。その相手が危険な依頼で死んだら、と考えると不安になる。奥方も似た想いだっただろうし、それを踏みにじられ腹立たしいのはさらに分かる」
動かぬ奥方の気を引き寄せようと、鳳は自身の身の上も交えて言葉を添える。
「しかし、だ。御亭主も反省されていた。納得できぬのも仕方ないが、大切なのは御亭主が我々冒険者に頼んでまでまだ仲良くしたいと思っている気持ちであろう? その当たりは誠意ある行動と認めてやっていいのでは?」
様子を伺い顔色を伺うが、依然として奥方は動かない。
嘆息一つつくと、鳳は真正面から彼女を見つめる。
「あなたは夫の事が好きか? 私は何があろうとも、彼を愛し続ける。この誠と剣に誓ってもいい」
「でも、あの人は私の事好きなのかしら?」
文に目を落としたまま、ようやく奥方が声を発する。
「離れて暮らす日々。便りが無いのは元気な証拠と言いつつも、それでも不安になるもの。こちらから出すのもお仕事の邪魔になるかと憚られ、結局遠い空の下に無事を祈るばかり。だから、たまたま村の者が都に行くようが出来たと、ついでにあの人の様子を見てもらうよう頼んでみれば‥‥毎夜の如くに女遊びですってーーっっ!!!」
手紙に書かれた文を読み上げるように、ただ淡々と心情を話していた奥方だったが。突如、手紙を握りつぶす。
上げた顔は怒りの形相。さしずめ般若か夜叉か修羅の如く。頭上に角が見えないのが不思議なぐらいだ。
「私が毎日どれほど心配したか! それを知らずに浮かれ調子の唐変木がっ!! ばれなきゃいいと思ってるなら、もういっそ包み隠さず遊べるように縁なんぞすっぱりきっぱり切ってやるーーっ!!」
さながら天に向かって吐きかける呪詛のように。みなぎる黒い気配に震え上がり、さしもの冒険者たちも恐怖を覚えて身を引きかける。
「い、いや。だからこそだな」
荒れ狂う女性に引き攣りながら、浄炎が覚悟を決めて声をかける。
「お互いに、伝える術を誤っただけではなかろうか? もし、共に便りの一つでも交していたのなら、このような事にはならなかったのではないかと思ってな」
穏便に笑顔を作るが、奥方は睨みつけてくる。怒りが静まらぬだけと思っていても、なにやらそら恐ろしいものがあった。
「奥方が懇意にしている塗り坊だが。この依頼を頼まれる際に、奥方が悲しむから傷つけないでくれと条件付けられた」
咳払い一つ。気を取り直すと、嵐童が言葉を繰り出す。
「邪魔になる塗り坊を、俺たちに倒させる事も出来た。が、そうは言わなかった。それで、この人は本当に奥方を愛してるんだ、と俺は思った。禍根はあるが、一度面と向かい合ってみてはどうだ?」
問うてみるが、返答はやはりなく。奥方はまた動かなくなった。怒りの様子は感じられるが、それでも迷う素振りは見せている。
「どうしても許せないならそれも仕方無い。ただ、直接会って喧嘩したいって思ったり、少しでもいいから顔を見たい、って思ったなら御亭主の場所まで案内するが‥‥どうする?」
繰り返し問いかけ。
奥方はまた何事か深く考え込む。それを黙ってじっと待つ冒険者たち。
やがて、彼女はそっとため息をつくと、黙ったまま外へと促した。
村の外れでは。中に入れてもらえない旦那と、それを取り囲む塗り坊が四体、待機中。
「だからさー。奥さんが大切なのはよおーく分かるけど。言われたまま行動するだけが愛じゃないってもんよ?」
その塗り坊たちに向けて、アルヴィーゼ、懇々と説教たれてみる。
「奥さんは、今、怒りに燃えて、アーンド、ちょっと意地も入ってるかな?
とにかく、追い返してって言われてるから、従ってるんだよね? でも、客観的に考えて。今の時代、離縁して女一人生きてくのは大変だよ〜。言われるがまま追い返すんじゃなくってさ。まずは彼女を宥めて冷静さを取り戻してあげなよ」
軽い口調で説明入れて、元気付けるようにその身を叩いてみる。
塗り坊たちは分かっているのか、いないのか。ぴくりとも動かず、まさしく壁。何の反応の無い相手に、アルヴィーゼはちょっとつまらなそうにしている。
そして、旦那の方はと言えば。少し離れたところで膝を抱えてうずくまっている。苛々と気を揉む彼を、朱雀が落ち着けと諭す。
「説得に言ってる連中が帰ってきたら、謝罪でも何でもすりゃいいさ。きっと奥さんだって一時の感情。誠意を見せれば許してくれるだろうさ。だから、自暴自棄になったり無茶しないよう、言われたんだろ?」
「ええ、先日明王院さんの知り合いという方から。けど‥‥」
不安そうに村の方を見ている。まだ何の前触れもそこには見えない。
「ま、なるようになるだけさ」
「それじゃ、ダメなんですよー‥‥ぎゃあああああ!!」
「だからー。人の話聞いてるー?」
朱雀の軽い一言に、泣き言を叫ぶ旦那。同時に塗り坊が走り出し、それを呆れたようにアルヴィーゼが後ろから声かける。
時折出入りする村の人がいる他は、取り留めて何も無く。暇な時間を持て余しながら成果を待つ。
その結果はあったのだろう。村の内より、冒険者らと一緒に奥方の姿が見えた。
「お、お前〜」
姿を認めた途端に、旦那は感激して涙目になっている。だが、それもつかの間、奥方の姿が隠れて消える。塗り坊が眼前に立ちはだかったからだ。
巨大な塗り坊が四体並べば、おいそれと向こうの様子はうかがい知れない。が、どうやら奥方の方からはそれ以上近付く気も無いし、塗り坊を退ける気も無いようである。
「どどどどどどど、どうしたらいいんでしょう??!」
さりとて、立ち去った気配も無い。駆け寄れば出来なくもない距離にいるはずの奥方。だが、それには塗り坊をどうにかせねばならない。
為すすべなく慌てる旦那に、アルヴィーゼが答える。
「うんまぁ。こっちからも反省してる態度を示す必要あるよね。塗り坊たちも命を取るつもりは無いんだったら、ここはどーんと立ち向かっていけば?」
気軽に言ってのけるアルヴィーゼに、旦那、顔を引き攣らせている。
「とにかく、気持ちを伝える事は大事でござる。声が届く場所まで来ていただけたのなら、大声で叫ぶでござる。何、姿は見えずとも聞いてもらうのが肝心なんでござるよ」
言って、戦闘馬である松影の手綱を引き寄せる阿阪慎之介(ea3318)。
「よ、よしっ」
促されて、やる気を出した旦那。腹に息を吸い込むと、力の限りに声を上げる。
「奥ーっ! すまなかった、反省している! 二度としないーーっ! 何があろうと、愛してるのはお前だけだ。だから、怒りを解いてせめて話し合いを‥‥のぎゃあああ!!」
喉も避けよと必死の訴え。あちこちの山々に木霊するして響き渡るのはいいが、当然、聞きとがめた塗り坊が走りこんでくる。
「旦那! とにかく気持ちを伝えるでござる!!」
塗り坊の前に回りこみ、その足止めを行う慎之介。こちらに注意を引き付け、近付いたところで身を躱す。勢い余って倒れた所を、松影が突進。塗り坊の姿に蹄の跡がついて、地面にめり込む。
「ああ! 踏んじゃダメですよぉ! 可哀想じゃないですか!!」
「いや、しかしでござるなぁ」
見かねて抗議する旦那に、慎之介が弱り顔で説明しようとする。
が、
「大丈夫だ。ぜんぜんヘコたれてない」
塗り坊。ひょいと立ち上がると、泥を払いもせずそのまま旦那の追っかけを続行する。
「このぐらいの気合を持って、旦那も気持ちを伝えてこーよ」
「ち〜くしょ〜〜っ!!」
暖かな応援を受けながら、旦那は走る。走りながら思いのたけを奥方に向けて叫び続ける。
「‥‥あの旦那の姿を見ても、何も思う所は無いのか?」
依然、冷ややかな奥方の態度。鳳が尋ねるもやはり答えてくれない。
叫びながら走るのは体力を使う。おまけに塗り坊に襲われる恐怖もある。すぐに旦那は息切れして、足もおぼつかず、その場にへたり込んでしまった。
さんざっぱら、走りまわされて頭にきていたのだろ。塗り坊一匹が突進の勢いのままで、旦那に近付こうとし、
「おやめなさい」
奥方の静かな一声。特に声を荒げた訳でもないが、それだけで塗り坊たちはぴたりと動きを止めた。
周囲が見守る中、奥方は座り込んだ旦那の傍まで進み寄る。ようやっと顔をあわせた奥方に、旦那は走った疲労とあわせて頭が回らないのか見守るばかり。
その旦那の顔を見下ろした後、奥方、いきなりその頬を平手打ちする。上がった派手な音に、塗り坊たちが怖がって逃げ出した。
「お、お前‥‥」
「さっき口走ってた事は全部本当? 本当に本気で反省してる?」
頬を押さえながら魚のように口を動かし。言葉を捜していた旦那だが、奥方に問われて慌てて頷く。
「勿論、反省してる。二度としない。これからは性根据えてちゃんとお前だけに尽くすから!!」
「そう」
きちんと正座して指までついて頭を下げる旦那を、奥方は冷たく見据え、
「じゃ、帰りましょうか」
しょうがない、とでも言いたげに。けれど、ふと笑みをこぼすとそのたおやかな手を差し伸べる。
呆けた様にその手と奥方の顔を代わる代わるに見ていた旦那だったが、
「ああ、帰ろっか」
ようやく意味を飲み込むと、その手を引き寄せ、思いっきり抱きしめた。
何はともあれ、仲直り。依頼も無事終了と、互いの礼もそこそこに冒険者たちは夫婦を残して都へと戻る。
後の事は知るだけ野暮。まぁ、奥方の怒りも解けて旦那も反省してるなら、仲良くやっていくのではなかろうか。
とはいえ。
「‥‥旦那。一生尻に敷かれたな、あれは」
同情めいた浄炎の呟きに、大いに他の冒険者たちも頷いていた。