絶望の果てに
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月14日〜06月19日
リプレイ公開日:2006年06月23日
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●オープニング
今の世を覆さんと起こされた五条の宮の乱。大勢の人間が彼に従い、そして死んでいった。
神皇軍として、多くの者が京を守る為、安祥神皇を助ける為に身を投じていった。
が、何の意見も無く、ただ領主から戦えと命じられて参加せざるを得なかった者もいる。
その男もまた、そんな一人だった。剣の覚えは無く、それでも数が必要だからと無理やりに連れて行かれた戦場。
命令によりて戦地に赴き、死線を幾つもの偶然に助けられてかろうじて乗り越え、どうにか戦火を生き延びた。怪我が無かった訳でなかったが、命は残った。
戦闘は神皇軍の勝利に終わり、敗残兵狩りが始まったがそちらに借り出される事は無く、男はお役御免となり、報酬も些少なりとも与えられた。
一刻も早く無事な姿を見せんと意気揚々と家に戻る彼。だが、待っていたのは妻の葬儀だった。
「あんたが出てってからすぐに具合を悪くして‥‥。もう少しがんばれば、一目姿は見られたというのに‥‥」
言って泣くのは、隣の家の老婆。かろうじて埋葬する間際に間に合ったのは僥倖か‥‥。否、単に妻が死んだという事実を確認するだけのものだった。
数々の死を乗り越えて自分は生きて帰ってきたのに、待っていたのは誰もいない我が家。小さな位牌だけが残るその虚ろな空間に、男は一人横たわる。
静かな誰もいない家。悲しみも無く、されど喜びも無い家。
そこは何も生み出さない。それならば、いっそ‥‥。
「妻の元に向かうか?」
「!?」
突然、声をかけられて男は飛び起きた。
振り返れば、窓から差し込む月明かりの下に人影があった。
そいつは良く見知った顔をしていた。忘れようも無い顔。――そこにいたのは男自身だった。
そいつは驚愕してる男とは対照的に、やけに落ち着いた姿でおもしろそうに見つめ返していた。
「せっかく死線を潜り抜け、褒賞をもらった所で‥‥それを使う手立てがなければ意味ないよな?」
男は口を噤む。手立てが無かった訳ではない。手持ちがあったから多少なりとも立派な葬式を挙げられたのだし、手伝ってくれた御近所に御礼も出来た。――そんな使い方をする為に喜び勇んで帰って来た訳ではなかったが。
そんな思いを読み取ったように、そいつはふと微笑む。
「戦には勝ち残った。だが、今の世の中戦だらけだ。すぐにまた次が来る。その時、また生きて帰れる保証は果たしてあるか? 妻だって今は死に別れて悲しいが、別の誰かと出会うかもしれない‥‥だが、その彼女もすぐに逝ってしまうかもしれない」
ふと、そいつは表情を翳らせる。
「いや、そもそもこの世は有限なんだ。何だっていつかは消えてなくなる。永遠なんて無い‥‥。だったら、もう終わりにしてもいいじゃないか?」
真摯な目で自分に言われて、男ははっと息を呑む。
「愛していた人は逝ってしまった。この先、生きてたってつらい事が増えるだけ。そこに何の希望がある? もういいじゃないか‥‥。終わりにしよう」
言って、そいつは手を差し伸べる。
「妻と一緒に逝こうじゃないか。なぁに、方法は山ほどある。悩む必要は無い。魂一つ差し出すだけで、俺がお前を幸せに導いてやるよ」
その目が喜悦に歪む。
男は、手を差し出しかけ‥‥されど、おびえる様に手を引っ込めると手をついて俯く。
「そうか、やめるか‥‥。だが、俺はお前でお前は俺だ‥‥。気持ちはよく分かっている。どうしようもないこの世の中だが、終止符を打つだけの覚悟が無いんだろう? いいさ、待ってやるよ。お前の決心がつくその日まで俺はお前の傍にいる‥‥」
そいつは寂しそうにそう告げると、手を引っ込めた。続いて姿が銀の輝きに包まれ、するりと月影の中に消えた。
後には何も残らない。ただ元の空虚な部屋がそこにあるだけ。
遠くに聞こえる蛙の音。獣の唸り。それに混じって男は静かに嗚咽を漏らした。
その日から、日毎夜毎にそいつは男の前に現れる。男の気持ちになって内心を語り、そして優しい死をほのめかす。
「何か悪いモノにとり憑かれちまったに違いないんだ。どうか、助けてやってくれないかい?」
異変に気付いた近所の人は、即座に冒険者ギルドに駆け込んだ。
●リプレイ本文
「心の傷ついた者から生きる気力を奪おうとするのか‥‥。どんな敵か、分からないが悪神の類か?」
「ええ。知り合いに調べてもらった所、いずれ低級な物の怪か‥‥あるいは縊鬼という奴かも知れぬという話でした。他に男のような行動が出ている者が無いかも調べてくれましたが、そっちに関しては特に無いですね」
端正な顔立ちをわずかに歪めて不快さを語るライクル(eb5087)に、ディートリヒ・ヴァルトラウテ(eb2999)が頷く。
「生きるべき者を死に糾うそのやり口。どうにもいけ好かないですね」
「死に誘う行為のは、死を与えるよりも罪が重いです!」
十野間修(eb4840)が告げると、所所楽銀杏(eb2963)も憤慨している。が、すぐに怒りを治めると「しかし」と言葉を濁す。
「物の怪の他にも何か悪霊の類とも考えられますが‥‥。どちらにせよ、普通の武器は効かないかも、です」
「だとすると得物を持ち直した方がいいな」
ライクルは小太刀を外すと、荷から小刀・マキリを取りだす。威力は若干劣るが、効かない刀を振るっても仕方ない。
「もっとも、その悪霊だか悪神だかを倒した所で、本人が死んでしまっては意味が無い。彼の生きる気力を取り戻さねば、この依頼、成功とはいえないな」
マキリの調子を確かめていたライクルが、告げる。
ギルドを尋ねてきた村人は、男の身を心配しての事。確かに囁きは悪かもしれないが、死を受け入れるか否かは男の意思。たとえ、誘う者が消えたとて生きる意志が無いなら、いずれ命を絶つだろう。
「戦続きの世の中。ささやかな生活も許されず、奥方の死を悲しみ沈む時を狙い、死へ誘うとは卑劣極まりなく。されど、生の虚しさを説かれ命を絶つよう繰り返されても今だ誘いに乗らずにいるのは、すなわち、彼は生きる事をまだ諦めてないに違いありません」
きっぱりと断言するディートリヒに、他の冒険者たちも大いに頷く。
「‥‥ただ、精神的に参ってる可能性もあります。何かの弾みで承諾しかねませんから、急がないといけませんね」
「戦場を駆ける伴侶を持つなら、かの人の苦悩は他人事ではないわ。救いたいわね、是非に」
緋神那蝣竪(eb2007)の呟きは酷く重いものだった。
男はやや気弱な所はあるが良い人物だった。妻はよく旦那を助ける働き者だった。
ようするに、どこにでもいる極々平凡な二人。それが何で狂ったのかと言えば‥‥それはあの乱がとしか言いようも無い。
那蝣竪が妻の墓前を訪ねて花を添える。もう一つ供えてあった花は、男が用意したものらしい。気落ちしながらも、毎日参る事は忘れてないようだ。
気持ちの深さを見た後、改めてその男の家へと向かう。
しんと静まりかえった家は中に人がいるのか、いないのか。耳を済ませてみると、時折、動く音がするので在宅はしている模様。さらに会話が聞こえないかと緊張したが、どうやら男は一人だけらしい。
「あの、もし。いらっしゃいますか?」
銀杏が粗末な戸を叩く。何度も何度も叩いて呼びかけるが反応無し。それでもしつこく叩いてようやくほんの少しだけ戸が開いた。
「何か?」
わずかな隙間から目だけが覗く。
「突然申し訳ありません。実は私がお仕えするお寺に、以前奥様が安全祈願をなさりに参った事がありまして。戦も一段落しましたし、今どうされているかと思い‥‥伺ったのですが‥‥」
銀杏が言葉を飲む。傍らの者たちもただ黙って成り行きを見る。
近所の者が尋ねてもろくな応対無く、出てもすぐに帰らせてしまうそうだ。男の心情を慮って近所の人も強くは出れないので、男の様子がどうなのか、具体的に知るのは難しかった。
ただ、こうして相対したばかりでも、かなり病んでいるのが分かる。体がではなく心が。ディートリヒの危惧もこれは本当になりかねない。
男は戸の隙間からそんな彼らを沈黙のままに見つめていたが、
「どうぞ」
やがて、ゆっくりとその戸を開けた。妻が生前世話になった僧侶だからこそ、そうそう無碍にも出来なかったようだ。
家の中は思った以上に広かった。遺品を整理したか、ずいぶんと物が片付いている。それが何か死出の旅支度を思わせ、さらに暗い考えが頭によぎる。
小さな位牌に手を合わせ、銀杏が念仏を唱える。
何も無いけれど、と白湯を出してくれる細やかさは、まだどこかで生きる活力を失ってないようにも思えた。
「奥さんが亡くなられたのは残念です。しかし、今のあなたはその奥さんの気持ちも無にしていると思う、ですよ。夫の無事を祈っていた方、です。その気持ち、受け止めていますか?」
白湯で喉を潤した後、おもむろに銀杏はそう切り出す。俯いて目を合わそうともしない男は、びくりと肩を震わせた。
「何か迷っているように、見えますけど‥‥。最近、お念仏は唱えましたか? 悲しむだけでは、悼む事にはならない。そう思います」
まっすぐに見つめるが、男は目を逸らしている。見たくないものを避けるかのように。
「失礼だけど。死を囁く声に心当たりあるかしら?」
那蝣竪が問うと、あからさまに男は動揺し、やっとその顔をあげてこちらを見た。怯えるような苛立つような不可思議な表情で、黙って那蝣竪を見つめている。
「あなたが自分のした事を無駄だったと思うのは、勝手かもしれない。けれど、それならあなたが生きて帰ると信じて、病に倒れても懸命に生きようとした奥さんの想いは無意味だったのか?」
男の顔が露骨に引き攣った。その様を見ながらも、ライクルはさらに言葉を続ける。
「少なくとも、あなたは帰ってきた。奥さんの信じた通りにね。そのあなたがここで生きる事をやめたなら、奥さんは信じる価値のない者を信じた愚か者になる。――それで、あなたは死の国へ赴いた時、奥さんに胸を張って会えるのか?」
「五月蝿い! 黙れ!! さっきから一体何なんだ、あんたたちは! 妻への言葉はもういいだろう! さあ、さっさと帰ってくれ!!」
怒りも露わに男は乱暴に冒険者たちを叩き出すと、家がきしむぐらいの勢いで戸を閉めた。
その剣幕に身を竦ませた後、自然見合ってため息を落とす。
「怒らせたのはまずかったか?」
拒絶された戸を、珍しく困り顔を作ってライクルは見つめる。それに首を横に振ったのは銀杏だった。
「そうでもありません。ああして怒るのは自分でもその考えを持ってたからでしょう。これを機に思い直してくれればいいのですが‥‥」
「問題は奴ですね。皆さんがお話中は周囲におかしな点はありませんでしたけど」
普段は人を避けている彼。そこに大勢で押しかけても不信がられるだけと、修はもう一つの憂いに対しての警戒を行っていた。しかし、人目があるのが分かっているのか。結局今の時間は姿を現してない。
折に触れ男の前に姿を現す辺り、おそらくどこからか見張っているのだろうが‥‥。
「用心して出ないというなら、人目のない夜に動くつもりかもしれませんね。ともあれ、今はおとなしく夜を待ってみましょうか」
ディートリヒが空を見上げる。のどかな空にはただ白い雲が浮かんでいた。
日は沈み、夜となる。満月を過ぎた夜は日に日に暗くなり行けど、まだ月光は世を照らす。
その中で、男の家を見張る冒険者たち。静寂の中、虫の声と蛙の声が響き渡る。
見張る際に、ディートリヒがホーリーフィールドを張るべきかで多少悩んだが、何時出てくるのかもわからない相手。常時展開していては到底魔力が持たない。
家の中は依然変化が無い。単調なただ待つという行動ほど忍耐を強いられる物も無い。
最初に舟を漕ぎ出したのがライクル。続いて銀杏、ディートリヒ、修と続き、那蝣竪も眠気に誘われる。暗闇に吸い込まれるような睡魔に襲われながら、はっと那蝣竪は顔を上げた。
「皆、起きてよ! ちょっと変だよ!!」
幾ら夜に強い者がいないからといって、揃いも揃って居眠りを始めるのは間が良過ぎた。慌てて皆を叩き起こすと、問答無用で男の家へと踏み込む。
簡素な戸を蹴破れば、そこにいたのは二人の男。明かりに乏しい室内では、まさしく瓜二つに見得る程、彼らはそっくりに見えた。
が、踏み込んだ冒険者たちを見た途端に見せた表情の違いを銀杏は見逃さなかった。
「あなたが惑わす魔物ですね!!」
素早く印を組むとホーリーを窓辺に立っていた彼に向けて放つ。邪悪を討つ聖なる力に、その男はぎゃあと悲鳴を上げた。
「こちらに! ホーリーフィールドを張りました!」
男本人はといえば、事態が飲み込めず床にへたり込んで、代わる代わるに謎の男と冒険者を見比べている。那蝣竪はその彼を素早く掴むと、ディートリヒの言葉に従い、結界へと逃げ込む。
「ええい、畜生!! 妙な奴等め!! 眠ってもらったと思ったのに」
忌々しげに告げた謎の男は、近くの窓を壊すと表へと逃げ出す。そこで気を取り直して素早く印を組む。その身に黒い霞がかったモノが立ち上るや、男の周辺に漆黒の炎燃え上がる球状の壁が築かれた。
「これはデビル魔法‥‥。やはり、縊鬼とやらですか」
ディートリヒはレイピア・ヴァーチカル・ウィンドを抜き放つとその距離を詰める。件の球状を越える際に、炎が身を焼いたがさほどの傷にはならない。そのまま一気に縊鬼へとレイピアを突き下ろした。
「ぎゃああ!!」
身を切られてわめく。続く二撃目は逃げられたが、そこに同じく飛び込んだライクルがマキリを振るい、縊鬼を確実に刻む。
「おのれ!!」
殺気と共に縊鬼が殴り返す。それをライクルは素早く躱すと、もう一度刃を振り入れる。ディートリヒも風のように軽やかというその刀身を振るい、縊鬼を追い詰めていった。
銀杏も後方からの援護としてホーリーを放つ。が、それは炎の壁が阻み通さない。
「魔法は越えられませんか。だったら」
詠唱は止めてシルバーダガーを用意する修。右手に十手を構えて、縊鬼に挑む。聞き手でない腕で刃を捌くのは苦慮したが、そもは牽制目的。相手に詠唱の暇を与えさせない。
三人がかりの攻撃に、さしもの縊鬼も持ちこたえられず。
さほどの手間をかけずに倒れ、その姿はただ闇へと霧散した。
受けた傷は無傷とはいえない。殴られた痛みは酷かったが、それでもどうにか銀杏のリカバーで治す事ができた。
とはいえ、縊鬼が滅んでめでたしめでたしでも無い。
いきなりの攻防に目を回しこそしたが、落ち着きを取り戻すと、男はまた会った時同様の無口な彫像と化していた。
「実は。村の方々があなたを心配されて、私達を遣わせたのです」
翌日改めて家を訪ね。妻の位牌を前に、黙って動かない男の背に向けて、修は語りかける。
「今、心を閉ざし気付かれてないようですが、これほど多くの人があなたを心配してくれているのですよ? あなたが亡くなられた奥方を思うのであれば、生きて幸せになる事です。それが病に倒れ苦しみながらも、あなたの無事を祈り続けた奥方への手向けではないですか?」
「あなたまで儚くなってしまったら、奥さん、自分のせいと余計に悲しむ、ですよ。心の隙間こそ、あの魔物が好む隙なんです!」
銀杏も必死に訴えるが、男は依然態度を変えない。
あまりに何の反応も無いが故に、思わず不安が修の口をついて出る。
「‥‥よもや、本当に甘言に乗って魂を委ねようというのではありませんよね? そんな事では、最後まで必死に生きた奥方の元にはたどり着けないでしょうし、もし辿りつけても迎え入れてくれないでしょう」
あの縊鬼は滅んだが、別の魔性を呼ぶとも限らない。それで誘いにのっては全く意味が無くなってしまう。
「あなたの周囲には心配してくれる暖かい人たちがいます。あなたまで何かあれば、隣家のご老人だってとてもお嘆きになるでしょう」
ディートリヒが静かに告げる。
「奥方のお墓を守り、彼女がこの世に生きていた事を覚えていてあげられるのは、あなたしかいないのですよ?」
そこで、ようやく。男が動いた。ほんの少しだけ体を傾け、冒険者の方を振り返る。が、それもつかの間、また妻の位牌に向き直ってしまう。
がっくりと肩を落とす一同。さらにどう言葉をかけるべきか。頭を悩ました時に、ぼそりと男が呟いた。
「死ぬ気は無い。だが、生きる気も起きない」
くぐもった分かりづらい言葉だったが、確かに彼はそう告げた。
「いつかはこういう日が来るはずだった。でも、今だとは思ってなかった。あいつがいなくなって、俺に一体何が残ってるというんだ?」
ぼそぼそと告げられる言葉に、ライクルは見てないと分かっていながらも首を横に振った。
「願いは叶わなければ、無意味で価値の無いものになるのか? それは違うだろう。
例え見えなくても、想いは残る。無意味でも無価値ではない。カタチが失われてもカタチ無き想いは決して失われはしないものだ」
またちらりと振り返るが、やはり何も言わずに押し黙ったまま。
「植物を育てたり、幼い動物を飼うのもいいかもしれませんよ? 彼らがあなたに生きる喜びを与えてくれるかもしれません」
ディートリヒの言葉にもやはり反応無いまま‥‥かと思われたが。
「‥‥考えとく」
長い時間の後に、ただそれだけを男は呟いた。
これ以上は彼自身に気持ちの整理も必要と、冒険者たちは後を村人に任せ京へと戻る。
果たして、男の心をどれだけ動かせたか。それは心の内を見なければ分からない。外からでは到底推し量る事が出来ない彼の現実。
けれど、帰路に旅立つ冒険者たちを、遠く離れながらも男は見送りに出てくれていた。相変わらず死んだような目で、ただそこに立っているだけだったけれども。
その姿を認め、那蝣竪が笑顔を手向ける。
「この世に永遠が無いなら、絶望も永遠には続かない。幸せが零れる水のように失せても、また掬えばいいわ。生きている限り、変わり続ける。あなたがそう望むなら、いつだってね」
今はただ暗い絶望の中。そこから抜け出す事は簡単ではないが、長い時を経ればきっと。
その言葉がきちんと彼に届いたか。彼がどこまで聞き入れてくれたか分からない。
ただ、何となく。見送る彼がほんの少しだけ笑ってくれたような気がした。