白和尚と黒坊主

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:06月18日〜06月23日

リプレイ公開日:2006年06月27日

●オープニング

 五条の宮の乱において。扇動された人々が都の内に暴れ回り、その対処の為に冒険者から救護所として開放してもらえないかとある寺に打診があった。
 寺の和尚は快く打診したが、問題一つ。その寺には四匹の馬鹿狸――もとい、化け狸が居ついていた。
 妖怪といっても人に化ける以外は能力の無い狸たち。自由に生きる事を基本に、素っ裸で金玉揺らして、うろつきまわる。あちらこちらで悪戯しかけてぶっ飛ばされて、それでも懲りずにまたうろつく――要はあんまり物を考えてない連中である。
 なので、救護所として開放している間は大勢の人間が訪れ迷惑をかけると、適当に封印して難を凌いでいた。
 そうこうする内に、五条の乱も無事に終わる。が、乱が終わったからと言って、寺はすぐにお役ごめんにもならず。礼を述べに来る者もあるし、単に暇をもて余して話し込みに来る者など増えたのだ。
 人が来てくれるのはいい事だが、そうすると狸たちは喜んで悪戯を仕掛ける。困った和尚は江戸で化け狸の面倒を見ていたという坊さんに手紙を書いてみた。

「「「「ひいいいいいいいー。やって来る‥‥あいつが、あいつがやって来る!! あの極悪非道な巨大ロボが」」」」
 全身縮こまって、化け狸四匹が震え上がる。全身鳥肌だたせて蒼白を通り越しているのは、素っ裸で寒いってだけでもなく。
「巨大ロボって何だー?」
「「「「巨大なろくでなし坊主の事だ!!」」」」
「そっかー」
 力説する狸たちに、子供たちは素直な笑みを浮かべる。いずれも年齢一桁。最年少にいたってはまだ歩く事もおぼつかない様子。狸の説明を暇そうに欠伸しながら聞いているが、当の狸たちは注意するどころではない。
「「「「うがああああああ!! あいつが来たらまた地獄の日々が始まるー。摘み食いしたら拳骨で吹っ飛ばされ、卒塔婆で焚き火したら回転蹴りで、仏像に落書きしたら錫杖で殴り倒され、墓石に小便したら抱き石で池に放り込まれるあの地獄の日々がーーーーっっ!!」」」」
「かわいそうだね?」
「「「「そう! 可哀想なんだ!!!!」」」」
 首を傾げて疑問系の子供に、狸たちはしっかりはっきり言ってのける。‥‥原因については棚上げであるが、そこに突っ込む子供は無い。
「だからこそ!! 巨大ロボ対策にこの寺を乗っ取ってみたりしたが! どうやら奴らは助っ人を呼んでくるらしい!」
「くそっ、あの忌々しいボーズマンとやらか!! だが、そんな奴らに我らの自由を奪われはしない!」
「目には目を! 母には母を! 助っ人にはスケトウダラを! という訳で、今ここに集うお前たちにはおしおき部隊対抗勢力ソッカーを結成してもらう!!」
「何で、ソッカーなのー?」
「だって、お前ら何かっちゃそっかそっかで納得してるもん」
「そっかー」
 説明されて、やっぱり素直に納得してる子供たち。
「とにかく! お前たちの使命はこの寺にやって来る巨大ロボとその仲間たちを見事追い返す事!」
「何でー?」
「だって、ほら。困った奴には親切にしたげなさいってのが人の道というじゃないか? 悪い人と戦う事も人の道!!」
「そっかー。じゃ、がんばるねー」
 元気に手を上げる子供らに、狸たち、満足そうにふんぞり返る。 
「「「「来やがれ、巨大ロボにボーズマン!! 返り討ちにしてくれよう!!」」」」
 ひとしきり胸をそらして大笑い。そして、一瞬沈黙して顔を見合わせた後でまた声をそろえる。
「「「「‥‥無理にとは言わんからなーーーー!!」」」」
「なんか強いんだか、弱いんだかワカンナーイ」
 明後日の方向に向かって元気一杯に叫ぶ狸たちを、子供らは愉快そうに笑いたてた。

「こちらの和尚から連絡を受け、何か手伝いでも出来ぬかと思い、江戸より参ったのだが‥‥。奴ら相変わらずのようじゃな‥‥」
 冒険者ギルドを訪れたのは二人の僧侶。一人はいい加減見知ってきた化け狸のいる寺の和尚で、もう一人は江戸で化け狸の面倒を見ていたという坊さんだった。年は食っているが、なかなかの偉丈夫。握る錫杖は普通の太さの倍はあるし、あちこち金で補強されてたりする辺り破壊力も増えていそうだ。
「あやつらめ‥‥わしに説教されるのが嫌で、寺に立てこもり、あまつさえどんな妖術を会得したのか! 幼い子供らを手下にしおって、こちらに抵抗する構えを見せておる!!」
「いやその。単に素っ裸で妙な事する奴らが面白かったらしくて、何か知らぬ間に意気投合‥‥」
 拳を作って唸る坊主に、和尚もしどろもどろと状況を説明する。
「ともあれ、奴らの性根が変わらぬというなら、じっくりと諭さねばなるまい。しかし、馬鹿ども四匹でもいささか面倒というのに、さらに子供らも一緒とあってはさすがに手に余る。なので、ここは冒険者がたの手を借りたい」
 狸らの更生の為に‥‥。
 そう言って、坊主と和尚は頭を下げる。
 ただまぁ、どんな説法になるかは‥‥押して知るべし。

●今回の参加者

 ea0085 天螺月 律吏(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea1661 ゼルス・ウィンディ(24歳・♂・志士・エルフ・フランク王国)
 ea1956 ニキ・ラージャンヌ(28歳・♂・僧侶・人間・インドゥーラ国)
 ea2454 御堂 鼎(38歳・♀・武道家・人間・ジャパン)
 ea3731 ジェームス・モンド(56歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea8904 藍 月花(26歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb3503 ネフィリム・フィルス(35歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)

●サポート参加者

ハルカ・ミクモ(eb0512)/ 鷹神 紫由莉(eb0524)/ ティリック・ティルクル(eb3041)/ シターレ・オレアリス(eb3933)/ メイユ・ブリッド(eb5422

●リプレイ本文

 お仕置き恐れて寺に立てこもる化け狸四匹。その始末を依頼され、冒険者たちは件の寺に参る。
「全く懲りないと言うか、何と言うか」
 頭を抱える藍月花(ea8904)。彼らが騒動起こすのは、果たしてこれで何度目か。その度に手痛いお仕置きを加えてきたが、全く進歩が無い。
 もっとも。今回は少々違う点もある。
 それは、
「イーーーーっ」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
 金玉揺らして自由に生きてる狸たち。行動は迷惑千万だが、どういう訳か、子供らに懐かれたようで。
 たどり着いた寺の門前に並び、口端引っ張って歯を見せる子供らに天螺月律吏(ea0085)は、ちょっと感動を覚えてみたり。
「んとね。ここは誰も入れちゃ駄目なんだって。お寺の和尚様でも駄目なんだって。だから、今日は帰って下さい」
 女の子が一人、前に進み出ると礼儀正しくお辞儀する。
「それは何故かな? 帰って下さいは向こうの狸たちではないのか?」
「何でも駄目なの。そう約束したもん。どうしても駄目なら絶対に帰ってもらわなきゃだもん」
 尋ねる律吏に、女の子はぷーと頬を膨らませる。
 と、頭の上からばらばらと大小の物体が降り注いでくる。それらは冒険者たちに届く事なく、空中を妙な孤を描いて滑り落ちる。
 見渡すと周囲に転がる蛙の数々。見上げれば山門によじ登って大袋を手にして目を丸くしている少年たち。
「えー、何? 何でー?」
「張っててよかった、ホーリーフィールドやね」
 蛙がかからなかったのを不思議そうにしている彼らに、嘆息付きながらニキ・ラージャンヌ(ea1956)が肩を竦める。
「はは、うちの若い頃を思い出すねぇ」
 どんな子供時代だったのか。
 笑う御堂鼎(ea2454)だったが、その表情を引き締めると真面目な声で出迎えた少年少女たちに告げた。
「けどね、いいかい? ソッカーのまま大人になると、あんなこんなの酷い目にあう化け狸になっちまうよ? それでいいのかい?」
「楽しそうでいいじゃん」
「自由にふらふらしてんだぜー」 
 尋ねられたソッカーたちはにこやかに笑って告げる。
「いやいや、そうではないぞ。化け兎に絡んではぶっ飛ばされ、海に沈んではぶっ飛ばされ、花見に出かけてはぶっ飛ばされなどなど、何だか痛々しい事になるぞ」
「何でぶっ飛ばされてばっかなの?」
「それだけの理由があるからですよ。今回の件だって、お仕置きされるにはちゃーんと理由があるのです」
 力説する律吏に、子供たちは首を傾げる。月花が注釈入れると分かったような分からないような微妙な傾げ具合になる。
「見よ! お天道様はあんなに赤い! ソッカーに身をやつせば、いずれ闇の中でしか生きられなくなるぞ!」
 真っ赤に燃える太陽はすでに傾きかけている。その太陽と、太陽以上に燃えている律吏とを見比べて、ソッカーたちは顔を見合わせた。
「闇の中なの? 真っ暗怖いね」
「お化け出るかも」
「そうならない為にも、今、抜けるしかないぞー?」
 ここぞとばかりに諭す律吏だが、子供らの反応鈍く。どうするべきか悩んでいる。
「もし降伏するつもりなら、綺麗な服を差し上げますわよ」
 シェリル・オレアリス(eb4803)がにこやかに告げる。魔法で服を破く案はさすがに危険だと和尚から止められたが、それでも用意した服を見せると、女の子たちは目を輝かせている。
 が、男の子たちはまだ動きが鈍い。というか、興味が引いたようで嫌そうな顔までしている。
「それだったら、お菓子も差し上げてよ?」
 お菓子。その一言で全員の目の色が変わる。やはり子供には甘い物か?
「異国の珍しい御菓子を作ってきました。お仕置きされたくない方だけいただいて下さいね」
「蜜柑餅もたーっぷり買い揃えてきたよ! 落ち着いて食べるんだぞ」
「「「「はーーい」」」」
 月花とネフィリム・フィルス(eb3503)が諭すと、あっさり諸手上げて大喜び。お菓子持って待機していた白和尚の下に子供らは駆け出す。
「「「「って、こらこら待たんかーい!!」」」」
 和尚から行儀良く並んで菓子をもらっている子供ら。その彼らに声がかけられる
「むっ! 出たな、ポンダー一族!! ポン将軍にポン女王にポン大魔王にポン王子にポン‥‥ポンポン?」
 思わず寺の中から飛び出た狸らが――五匹?!
「久しいねぇ、ポンジャパン、ポンイギリス、ポンノルマン、ポンロシア。‥‥で、そちらさんは?」
「「「「聞いて驚け、我らの兄者だ!」」」」
 尋ねる鼎に、胸張って答えるのは人化けしている狸四匹。
「兄者は凄いんだぞー。化けなくても喋れるんだぞー」
「っていうか、わしら四匹じゃなかったけ?」
「そうだった気がするんだが‥‥」
「およよよよ。我ら五人組ではなかったのか? 巨大ロボにやられた後遺症が治っておらぬとは思っておったが‥‥」
「‥‥と、兄者が泣くのでやっぱり五人で正しいのだ!!」
「おう! 不思議な気もするが、それで万事問題なーーすっ!!!」
 狸一匹泣き崩れる傍、四匹狸はやっぱり胸張り答えて終わる。
「「「「そして、ソッカーたちよ! お前ら、こいつらを通すなと言っておいたじゃないかーー!!」」」」
「そっかー。‥‥でも、もういいって言われたしー」
「「「「誰に!!!?」」」」
 寝耳に水と驚く狸らに、子供らは黙ってその相手を指差す。その正体は!!
「ははは。そうかそうか、いい子だな。いい子は御菓子を食べてもいいぞ。しかし、親御さんたちが心配するから夕飯までには帰るんだぞ?」
「「「「兄者!?!」」」」
 何と! それは、彼らの優れた兄狸だった!! 狸顔を夷に代えて、肉球な手で子供らの頭を撫でている。
「何故だ、兄者! 一緒に金玉揺らしていい感じに和尚を追い出した寺で坊主をしばき倒そうと誓い合った所じゃないか!!」
「‥‥残念ながら、俺はおぬしらの兄者ではない!」
「「「「何ぃ!?」」」」
 驚愕する狸たち。その目の前で、元兄狸の姿が自在に変わる。
「ある時は化け狸、またある時はさすらいの琵琶法師! そしてその実体は――仏罰戦士ボーズマン行動隊長! ビックバンとは俺の事だーー!!」
「「「「な、何ーーーっ!!」」」」
 ミミクリーな変身を遂げ。姿を現し格好を決めるジェームス・モンド(ea3731)に、横手からさりげなく白和尚が服を渡す。
「改めて変身!! 仏罰戦士ノリノリボーズレッド、見参!! いでよ、さんだー!! 」
 愛馬・久和丸一時改め『さんだー』の背に跨り、オーラソードを天高く翳して律吏が名乗る。
「子供らの未来を守る為! ボーズマンブルー、ここに参上いたします」
 そして、月花。礼儀正しく一礼する。
「ブラックカレーなボーズマンクロー。来させて貰いましたわ」
「あら、黒被ったかしら? とりあえずボーズブラック登場!!」
「大丈夫やろ。クローはくろうでも苦労性の戦士なんかもしれへんし」
 ちょっと心配するシェリルだが、ニキは深く納得している。
「そして、ボーズゴールド。絢爛豪華に初披露ってね♪ さあ、悪役は悪役らしく大言壮語吐いて散ってしまいなぁ」 
「「「「あ、姐さんまでボーズマンだったなんて〜」」」」
 泣き崩れる四匹。なんかすでに傷が大きい。
「だが、しかーし! ボーズが坊主とつるんで何人来ようと恐れるに足らず!!」
「おうよ、助っ人スケトウダラ! ソッカー出撃せよ!!」
「‥‥スケトウダラ、好きなんやね」
「「美味いじゃん」」
 何気にニキが突っ込むと、相手はあっさり即答。そして、会話はぱたりと止まる。
「「「「‥‥って、何で? ソッカーどうした。何故動かん?!」」」」
「ソッカーたちなら向こうで動物と遊んでるよ」
 観戦体制準備万端。花柄の茣蓙を敷き、お茶にお菓子と並べてネフィリムが告げる。
「猫さん、可愛いー」
「わんちゃん、待って〜」
 指した方角。寺の境内で猫と犬を追いかけて、楽しそうにしている子供たち。
「あの子達だって化け狸より普通の猫の方が可愛いんですよ。見捨てられましたね」
「ぬぉおおお、負けてたまるかーーっ!」
 ゼルス・ウィンディ(ea1661)が告げると、悔しそうに狸らは人化け解除。狸の格好に戻ると、猫の真似してごろごろと地面を転がりまわる。
「あっはっはー。変なのー」
 その珍妙振りに、子供らの興味が狸らに向く。その隙に、猫のルークはその場から脱してゼルスの元に帰ってきた。ボーダーコリーのリキも、お役目すんだと判断したかニキの元に戻る。
 ゼルスが指示を与える為に使った経巻のテレパシー。問いかけると疲れたと言わんばかりの思念が返って来て、ルークは盛大に伸びをする。
「「「「見たか! 我らの魅力を!!」」」」
「うーん。確かに興味深くはありますねぇ。どうです? 三色昼寝付き、悪戯しても怒らないので家に来ませんか? ただ‥‥我が家には大型というよりも巨大なペットがいますので、彼らとは仲良くしてあげて下さい。そうでないと、食べられちゃうと思いますから」
「「「「ふっ、そんな輩にやられる我らと思うな!! 逆にこっちが食べてくれよう!!」」」」
 ゼルスの注意事項を、意味無く自信満々に跳ね除ける狸たち。
「では、実際に証明してもらいましょう。――行きなさい! 巨大ロボ、明!!」
 言質を得たりと月花が微笑む。即座にしゅうっと威嚇音を鳴らして、巨大な蛇が姿を現した。ジャイアントすら優に超すその巨大な蛇は狙い違わず、狸らに巻き付く。
「「「「んぎゃうぉれろーー!!」」」」
「さあ、始まりました。化け狸対巨大蛇。果たして狸は蛇の締め付けから逃れられるのかー」
 訳の分からぬ奇声を上げる狸たち。それをネフィリムが軽い口調で解説している。
「がんばれ、狸ー!!」
「負けるなー」
 ネフィリムに並んで、御菓子を食べていた子供たちも檄を飛ばす。
「「「「応援じゃなくて、助けろーー!!」」」」
「残念だけど、それは無理でしょ」
 熱い茶をすすりながら、あっさりきっぱりネフィリムが言う。
 というのも、
「そろそろお夕飯やし。帰る時間やろ」
「「「ええええー」」」
 時間はすっかり黄昏時。夕闇迫る空に烏もカーカー御山に帰る。
「もうちょっと遊びたーい」
「あーかーん。はよ帰らんとお母さんらが呼びに来ますやろ? 家まで送ってあげるさかい、帰ろ帰ろ」
 不満を口にする子供らに、あくまできっぱりと告げるニキ。説得不可能と悟って、子供らは渋々ながらも動き出す。
「いいか? 狸らと一緒にいても化けられぬが、神の教えを守っていれば俺の様になれるぞ。父母の言う事をよーく聞いていい子にするんだ。悪戯も程ほどにな。俺とおぬしらの約束だぞ!」
「「「「はーい」」」」
 山門までお見送り。笑顔で告げるジェームスに、子供らもまた満面の笑顔で頷いて返す。
「和尚さん、さようならー」
「おう、元気にしてるんじゃぞ?」
「狸らもがんばってねー」
「蛙が鳴くからかーえろ♪」
「えー、カラスじゃなかったっけー?」
 ニキに付き添われて、ソッカーらは寺を後にする。
「「「「ぽっつーーーーーん‥‥‥‥」」」」
 そして、境内に残された狸四匹。蛇に巻かれたまま、何か寂しそうだ。
「ソッカーの弱点は夜にお家に帰る事だったと」
「友人らが来た時も促せばすぐ納得したそうだからな」
 ネフィリムが苦笑し、律吏が深く頷く。彼女らの知り合いたちが先日訪れたが、やっぱり夕暮れには子供らは家路についたそうな。
 それを狙った午後遅くの訪問。まさしく当たりだった。
「「「「うわ〜ん。拗ねてやるーーーっっ!!」」」」
 一瞬の気の緩みか。何の軌跡か蛇の束縛抜け出して、狸ら一斉に夕日に向かって走り出し、おもむろに吹き荒れた風に運ばれて宙を飛び、きりきり舞いに流されて地面に激突。ばたんきゅー。
「すみませんねぇ。つい脱出妨害してしまいました。ま、これも運命でしょう」
 ゼルスのトルネード。高速詠唱も使えば、とっさの対応など訳は無い。
「まぁ、なんだい。天に昇って落っこちた所で、極楽を見させてやるよ」
 鎖分銅で縛り上げると、鼎は狸の口をこじ開け名酒・うわばみ殺しを注ぎ込む。
「「「「はらほろへれはれ〜〜」」」」
 何せ強い酒だ。すぐに真っ赤になって頭をふらふらさせ出す。
「「ひゃひゃひゃ、何かいい気分らろー」」
「「おうさ、かかってきんしゃーい」」
 回らない舌で啖呵を切ると、縛られたまま四匹、冒険者たちと向き合う。
「それでは、遠慮なしに。かかれ、皆の衆!!」
 ジェームスが号令を上げる。かくて、第何度目かもはや分からない狸タコ殴り大会が幕を開けた。

「たーぬき、狸。ふらふらちんこー♪」
「「「「こらー、ソッカー。歌ってないで縄を切って反撃するのだー」」」」
「こら。子供らを悪の道に引きずりこんではいけません。‥‥あなたたちも。悪は必ず滅びます。ソッカーはやめてボーズマン見習いになりなさい」
「そっかー。わかったー」
 一夜明けて翌日。庭木に吊るされる狸らを見つけて、子供らが囃し立てる。月花がたしなめると、子供らは素直に返事するが、狸はそっぽ向いて縄の先で揺れている。
「さあて、反省はしたかな? だったら、一緒に蜜柑餅でもどうだ?」
「もう悪さをしては駄目よ? もし破ったなら、こうなるわよ」
 ネフィリムが蜜柑餅をちらつかせながら、シェリルが呪文一発ディストロイ。えぐれた地面に、狸らの顔が蒼白に変わる。で、反省したと思って縄を解いてやると‥‥。
「「はっはっはー、覚えてろよー」」
「「ここは一時逃げるのだー」」
「本当に、お馬鹿さんですね」
 尻を叩いて小馬鹿にすると、走り出す狸たち。そして、ゼルスのトルネードで(以下略)。
「全く。どうしようも無い馬鹿どもだな」
 怒り心頭で見ているのは江戸から来た黒坊主。狸らを怖がらせるのは逆効果と今の今まで隠れていたのだが。
「まぁ、ボーズマンの名がまた広がった事で良しとするかの。‥‥嬢ちゃんには、素敵な呼び名がすでに多いんでボーズマンの名はもうええじゃろが」
 何だか、白和尚は別の所で喜んでいるようだ。
 苦笑してみせる鼎だが、彼女には気がかりな点があった。
「あいつらも。人には迷惑だけだった昔に比べ、こうして子供達に慕われるようになったってのは格段の成長じゃないか? 暴力説法だけじゃ、あの交流は生まれなかっただろうさ。ここはもう少し長い目で、あいつらのふれあいを見ているのもいいんじゃないかい?」
 言われて、二人の坊主は困った顔を作る。それからも色々話し合ったようだが。結局それももっとも、という事で江戸には黒坊主一人帰っていった。
 なので。今日も元気に狸らは京都の寺で騒いでいる。