【悪の裏の悪】 京都見廻組 〜人質解放〜
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:5〜9lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 74 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:07月02日〜07月07日
リプレイ公開日:2006年07月11日
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●オープニング
京の都の闇は深く。魑魅魍魎が跋扈し、悪党どもが世を走る。都を大いに騒がせた五条の宮の乱ですら、そんな日常に埋もれ始める始末。いや、その騒動こそが都に付け入る隙ありと内外に知らしめ、奴らを増長させるきっかけでもあった。
対して、都の各警備は相も変わらず、新撰組が血の雨降らせば、見廻組が都を駆け、黒虎部隊が妖身と斬り合う。それぞれ担当が違うといえど、目の前の事象は放っておけず。悪党たちはそんな事情など何構わずで悪事を行うので仕事がぶつかったとまた彼らが対する。
乱の後、許可を得てそのまま駐留する軍もおり、それらとの微妙な関係も軋みを上げている。
京都守護職の後任はいまだ詮議を続けて空位のまま。それでも、犯罪者たちは待ってくれない。むしろ格好の時期と活動を強める。
とある押し入られた商家で、見つかったのは粗末な文。どうやら賊たちが残したものらしいが、血で書かれた文字は、助けを求める悲鳴を訴える。村に現れた鬼たちによって女たちが人質に捕らわれ、男たちは鬼の手下として賊に身をやつし、命令に従わされているという。
「調べて見ましたが。どうやら、その話本当のようです」
調査書片手に告げるのは同じく京都見廻組の碓井貞光。
文に書かれていた場所を密かに探れば、確かに鬼が村一つ占拠してしまっていた。
行き止まりにある小さな村は、用がある者しか通る事の無い細い道だけが唯一の通路。それにしてもその村の者が使うのが主で外から人が入ることは滅多なかったという。
そんな人通りの少ない場所なれば、下手な動きはすぐに目立つ。そこで、坂田金時の弟分である熊鬼の銀次郎に内偵を頼み、村内部の様子を探ってもらっていた。
村の中は人喰鬼はじめ、多数の鬼が蔓延っている。人質の女たちと、賊にされている男たちはそれぞれに捕らえられている。
が、近日、また鬼は男たちを使ってまた賊行為を働くつもりでいるらしい。その時であれば、少なくとも人質の数は減るので助けやすいし、彼らの見張りに少ないながらも鬼が出払うので村の内部も手薄になる。
「どの道、その男たちは罪を犯した咎で捕らえねばならない。だからといって後の事を放っておく訳にもいかないな」
気の晴れぬ面持ちで、渡辺綱は苦々しく告げる。
かくて、賊が動くその夜に、賊の捕縛と鬼退治が行われる。
洛外の村を襲うらしい賊たちの方は季武と貞光に任せ、村の方は金時と綱が乗り込む事になる。
「多大な不安があるが、まぁ仕方ない」
「なぁにが仕方ないだー。おいらだってやる時ゃやるぞー!!」
盛大に嘆息付きながら、綱は金時を見る。人質という足手まといがいる上に、彼女たちに怪我があるかもしれない。なれば、僧兵で回復魔法が使える彼がいた方が便利だろう。
「ま。任せてよ。銀の話によれば、女たちは村の奥にある岩室に閉じ込められてるってさ。ただ、そこにたどり着くまでには村の中を通らなきゃいけないんだって」
村は約五十戸ほどの大きさ。細道から入ってすぐに民家が並ぶ。ただし、今は家人無く、代わりに徘徊しているのは小鬼たち五十匹。もっとも、彼らの目はその気になれば、どうとでもすり抜けれられる。
奥の高台の上に村長宅。その高台の麓を回った奥に問題の岩室がある。
問題は岩室の前で見張りをしている山鬼戦士が三体。そして、女たちの世話をしているという山姥が一体。岩室に近付けばどうしても彼らの目に触れるし、そうすればすぐに人手――ならぬ鬼手を呼ばれ、先の小鬼五十匹も敵に回る。下手をすれば、首領のいる村長宅からも鬼が来てさらに厳しくなるかもしれない。
村の周辺は一方が断崖絶壁、三方が山に囲まれ。崖の下には緩やかな川が流れているとか。
ちなみに、賊の男たちが普段捕らわれているのは民家の中の一軒で、こっちの見張りは小鬼たちが兼ねてるらしい。
「こっちの目的はあくまで女たちの解放。鬼を逃がすのはまずいけど、まずは彼女たちの安全が大事。とはいえ、その女性の数も多いんだよね」
まかり間違っても戦力にはならない。下手すれば鬼を前に竦んで動かなくなる可能性すらある。
「ま、そこら辺はお前より利口な人たちに手伝ってもらえ」
どうしたもんかなぁ、と首を捻る金時に、綱が端的に告げる。銀次郎が潜入しているので手伝ってはもらえそうだが、それにしても限度はある。
かくて、ギルドに依頼が出される。鬼に捕まった女性たちを救うために力を貸して欲しいと。
●リプレイ本文
道のどん詰まり。三方は山で一方は崖。村に唯一通じる道は細く、普段から行き来するのはその村の人ぐらい。
近隣の村でも、そういえば最近あの村の人を見ないねぇ、と話題に出る事はあってもそれが何故なのか調べにいく程でもない。そんな隔絶された場所。
なので、鬼が群がっていても早々怪しまれない。
村には灯りがともる家もあり、道の端で篝火が灯されていたりもするが、それらはすべて鬼の仕業。襲撃によって村の人間はほとんど死に追いやられた。残ったわずかな人も村の奥で飼われ、男たちは彼女らの命と引き換えに鬼の為に金品や命を奪いに行く。
「人質を取るなど許せませんね‥‥」
鬼たちの卑劣な行為に不快感を覚えながら、花東沖竜良(eb0971)が呟く。途端、咽て咳き込んだのを周囲がしっと嗜める。
「風邪でも引いたんか? 大丈夫?」
心配そうに見上げてくる京都見廻組の坂田金時に、竜良は苦く笑いながら大丈夫と告げる。
「何してるの? こっち、今の内だよ」
話す二人に、真神美鈴(ea3567)が急ぐよう手招く。人遁の術で村人っぽい姿には変装しているが、村の中、彷徨うのは鬼ばかり。やっぱり見付かればまずい事にはなる。
それでも疾走の術で素早く移動しながらそれらの目を確認し、やり過ごしては更に奥へと進む。
「話には聞いていたけど、本当に油断してますね」
「ああ、おかげで入りやすいのはしめたものだ。無駄な労力も使わなくて済む」
道の端で寝こけてる小鬼を抜き足差し足で通りすぎ、ほっと安里真由(eb4467)が息をつき、菊川旭(ea9032)はちらりと寝こけている小鬼を一瞥する。
内偵の為、潜入していた熊鬼の銀次郎から村の中の様子を聞いていたり移動する際の近道などを色々聞いていた為、うろたえるような事は無いが、それでも見付からないか緊張する。
小鬼たちも他に仲間がいるし、そもこんな所に入り込む者がいると考えてないのか、監視の目は笊もいい所。居眠りしている者も多かった。
「篝火があるから、真っ暗でもないし。助かったな」
「星明りじゃ心許ないからね。もっとも、月が無いのは個人的にはありがたいけど」
一応提灯を用意していたネフィリム・フィルス(eb3503)だが、夜に灯りをつければ当然目立つし、使い所は難しい。
闇夜は隠れるには便利だが戦うには不利になる。それでも、月の光を直接見ると狂化してしまうシオン・アークライト(eb0882)にとっては、ある意味ありがたかった。
村を見下ろすような高台。その上にある村長宅に向かう面々とはまた別に、一同は裏手にあるという岩室へと近付いていった。
岩が積み重なった洞の前に山鬼戦士が三体、そして山姥が一体。轟々と焚かれた篝火に照らされ、目の良い者なら洞の中の様子も多少見える。洞には扉のような物も無く、女たちは縛られてもいない。それでも、入り口に居座る鬼たちを恐れ、奥の方で蹲っていた。
場所も状況も分かったが、すぐには仕掛けず、一同は気付かれぬようまずはじっと待つ。
そうこうする内に、村長宅の方から何やら物々しい音が響いてくる。村長宅に巣食う鬼の首領狩りが始まったようだ。
「ガウ?」
それに気付いた見張りの鬼たちが、訝しげに顔を上げたが、ここからでは詳しい様子は分からない。ただ、異変が起きたと察し、鬼たちの態度が硬くなる。
そして、鬼退治の突入にあわせこちらも行動開始。
まずは、カンタータ・ドレッドノート(ea9455)と、ベェリー・ルルー(ea3610)がイリュージョンで山鬼ニ体に幻覚を‥‥なのだが、これが発動しなかった。
イリュージョンは状況的な幻覚を送る魔法。『動くモノは見えない。透明化する』といった特定の何かを別の何かに見せるような、幻覚を現世に被せるような使い方は出来ない。
(「どうしよう」)
テレパシーでベェリーが仲間に連絡を取る。
そうする内にも、村長宅での騒ぎはますます大きくなる。何かが起きたのはもはや明白で、鬼たちが周囲を警戒して見渡す。
このままでは時期に見付かり、先手を取られかねない。そう判断して、美鈴が飛び出す。
「ウガ! ウガガ!!」
村娘の姿をした美鈴にすぐに鬼たちが気付く。山鬼は槍を、山姥は山刀を手にして美鈴を睨みつける。
「行きましょう! 双七、お願いします」
京都見廻組、安里真由(eb4467)が太刀・救清綱を抜くと、傍の熊犬・双七に指示を出す。即座に走り出した双七が美鈴を捕まえようとしていた山鬼に喰らいつく。
飛び掛られて山鬼は悲鳴を上げた。振り払おうとしても、熊犬は牙を剥く。
「ガアア!!」
離れぬ犬に苛立ち、槍で斬りつける。裂かれた熊犬が悲鳴を上げると、喜悦を浮かべてニ撃目を振り回す。
「何をするんですか!!」
真由が救清綱を一閃、切りかかった。あっさりとその太刀を身に受けて、さらに山鬼は傷を深める。
勿論他の鬼たちも健在で、むざと事態が動くのを見ているはずも無い。
襲撃と感じて、山鬼一体が加勢に飛び出してくる。手にした槍が振るわれるのを、シオンが急所を躱して鎧の一部で刃を受け止める。と同時、踏み込み日本刀を山鬼に叩きつけた。その素早い切り替えしに対処できず、山鬼の体が血飛沫を上げる。
「ロシアの狼、嘗めてると怖いわよ!!」
シオンと真由が並び、山鬼たちが恨みの篭った目で二人を見る。回り込まれぬよう指示を出した犬は、興奮状態で命令を逸脱する時もあったが、概ね忠実に鬼を動きを捕らえている。
岩室に残った山鬼が後の冒険者たちの動きを阻む。振り回される槍も鋭く、それを躱し、あるいは受け、そして切りかかる。
そして山姥は岩室に駆け込むと、女たちに手をかける。どこへ連れて行こうというのか、それともここで始末しようというのか。手を掴まれた女が上げた悲鳴は岩に響いて夜空にまで届く。
「その手を放しなさい!!」
入り口を見張っていた山鬼の刃先を潜り抜けると、竜良は奥へと走りこむ。気付いた山姥は女を放して、山刀を身構える。
「キィイエエエーー!!」
奇声を発して山姥が斬りかかる。その鋭い一撃を十手で受け止めるが、次ぐニ撃目は躱せず。
室の奥には女たちが震えて攻防を見ている。彼女らを思い、歯を食いしばって耐えると、竜良は山姥に一刀を浴びせた。
手にするは太刀・鬼切丸。山姥を薙ぐと、深い傷跡をつける。その一撃で山姥は悲鳴を上げてよろめく。恨みがましい目で見つめてくるも、後の祭り。女たちに目を逸らすよう告げると容赦なく一刀を胸に突き立てた。
入り口の山鬼にはネフィリムが斬りかかる。金時の鉞の重みを乗せて、幾多も打ち付けるもそれを辛くも受け続ける山鬼。
そこに旭が斬りかかる。ネフィリムにかかりきりになっていた山鬼はどうしようもなく、クリスタルソードを突き立てられる。
入れた傷は軽いもの。だが、横手からの攻撃に山鬼は体制を崩し、それを逃さずネフィリムが一気に踏み込む。
「急ぐんでね。さっさと逝ってもらうよ!」
苦し紛れに繰り出された槍が身を掠めるのも構わず、ネフィリムはすかさず鉞を振り下ろす。
過分な重みを加えたその一撃で、致命的な程大きな傷が山鬼に入る。悲鳴を上げる事すらもなく、山鬼は倒れる。まだ息はあったが止めを刺すのは簡単だった。
それを皮切りに、次々と鬼を撃破。もたついたとはいえ、どうにか見張りを倒して女たちを解放する。全員で二十名ほど。聞いていた数と合い、ほっとする。
倒れた鬼の死体を目の当たりにして、木陰で青い顔して蹲る女性もいたが、全員怪我自体は無い。
ベェリーがメロディーを歌い気持ちを落ち着かせると、顔は青いながらも何とか自分で動く意志だけは見せた。
「落ち着いて下さい。今なら頑張って皆助かる事が出来ます」
「村の男衆の要請で参った。無事を願う彼らに顔を見せてやらなくてはな」
カンタータがそう促すと、旭が事情を説明する。
「先に確保された村の男たちがいる所までお送りしま〜す。御案内しますので着いて来て下さいねー」
元気を出すよう明るく告げる美鈴。不安そうにしながらも、頷いた娘たちだったが。
「じゃあ、テュールに安全な所まで輸送してもらうわね」
言って、シオンが空に待機させていたヒポグリフのテュールを呼ぶ。途端に、女たちが悲鳴を上げた。
「大丈夫よ。ちゃんと慣れてるから」
「でも、化け物じゃない!!」
戸惑って説明するシオンに、女たちが不審の眼差しを向けて告げる。
「まぁ、戦闘は続いてるようだし。下手に動かすのも危険だからもう少しここにいてもいいんじゃないか? 逃げるか、残って護られるかは当人たちに選んでもらおうか」
「そんな事言われても‥‥」
確かに山鬼は消えたが、村長宅の騒動はまだ続いてるようではあるし、小鬼たちも残っている。しかし、ネフィリムに話を振られてもこの状況でどう動くべきなのか、一介の村人には判断もつきかねよう。
「と、悠長にしてる暇は無いみたいだけど」
黙って様子を見ていた金時が、金棒構えて彼方を見る。そこには様子を見に来たのか小鬼の群れが姿を現していた。
「ゴブゴ!! ゴブゴグ!!」
女たちが逃げ、見知らぬ人間といる。そうと分かるや、すぐに声を荒げて騒ぎ出す。反応は様々、驚いて騒ぐだけの者、逃げ出す者。伝令に走る者。そして、斧を手にして向かってくる者!
「小五月蝿いね、まったく」
ネフィリムが鉞を構える。
「ガッちゃん召喚! どーんと混乱させて!」
「トートも牽制お願いね」
美鈴が大ガマの術を唱える。カンタータも傍の鷹・トートに指図すると、鳥目でつらいが仕方が無い、と感じの返事が来た。
「殿を務めます。大丈夫、安心してください」
「俺たちがちゃんと手助けをする。だから、今は逃げ出そう」
竜良が岩室に入り中にもう人がいない事を確認する。旭が手を差し出すと、恐る恐ると傍の女がその手を握り返した。
「早く! 今の内に」
ベェリーが唱えたシャドウフィールド。目隠しされて戸惑う小鬼に、ベェリーの熊犬・三月が飛び掛る。その横をすり抜け、大人数はその場を後にした。
首領が倒れたおかげか、向こうも統制が取れておらず。故に混乱の最中に村を突破する事になる。シオンのテュールで逃げられる者は先に逃がし、後は皆で護りながら逃げおおせる。
「何とか脱出は出来ましたけど‥‥。無事にとはあまり言えませんね」
だが、小鬼といえども向こうは数が多い。そして、こちらも戦えない者が多かった。護衛の手をすり抜けて、攻撃をする小鬼も多少はいて、何とか逃げおおせても鬼からの恐怖で塞ぎこむ者も多かった。
「傷は癒せど心は癒せず。メンタルリカバーがあればなぁ」
「仕方ないですよ」
しょぼくれる金時に、真由が元気を出してと笑いかける。
「ともあれ、女たちは生きているんだ。早く知らせられればいいんだが」
旭が軽く息を吐く。シフール便が用意できればよかったが、何がどうなるか分からない戦闘地域の傍で待機は危険すぎと断られてしまった。
「向こうもどうなったか気になりますしね。皆さんお疲れだと思いますけど、もう少し頑張ってください。後で食事も振舞いますから」
竜良が告げると、気重そうに女たちは顔を上げる。
「それじゃ、何か励みになるような歌でも歌いましょう」
カンタータがそんな女たちに笑みを向ける。
ベェリーも加わり歌い上げるその曲に、女たちは静かに耳を傾ける。彼女らの目には自然涙が浮かびだす。頬を伝う滴は、果たして生の喜びか死者への手向けか。