【悪の裏の悪】 京都見廻組 〜鬼退治〜
|
■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:10〜16lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 84 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月02日〜07月07日
リプレイ公開日:2006年07月11日
|
●オープニング
京の都の闇は深く。魑魅魍魎が跋扈し、悪党どもが世を走る。都を大いに騒がせた五条の宮の乱ですら、そんな日常に埋もれ始める始末。いや、その騒動こそが都に付け入る隙ありと内外に知らしめ、奴らを増長させるきっかけでもあった。
対して、都の各警備は相も変わらず、新撰組が血の雨降らせば、見廻組が都を駆け、黒虎部隊が妖身と斬り合う。それぞれ担当が違うといえど、目の前の事象は放っておけず。悪党たちはそんな事情など何構わずで悪事を行うので仕事がぶつかったとまた彼らが対する。
乱の後、許可を得てそのまま駐留する軍もおり、それらとの微妙な関係も軋みを上げている。
京都守護職の後任はいまだ詮議を続けて空位のまま。それでも、犯罪者たちは待ってくれない。むしろ格好の時期と活動を強める。
とある押し入られた商家に残されたのは、粗末な布に血で記された文。賊が残したらしいが、助けを求める悲鳴。村に現れた鬼たちによって女たちが人質に捕らわれ、男たちは鬼の手下として賊に身をやつし、命令に従わされているという。
密かに調べた所、確かにその村は鬼たちによって占拠されていた。小さな村は、用がある者しか通る事の無い細い道だけが唯一の通路。それにしてもその村の者が使うのが主で外から人が入ることは滅多なかったという。
鬼の目を避ける為に、坂田金時の弟分である熊鬼の銀次郎が内偵に乗り込み、村内部の様子を探ってもらっていた。
村の中は人喰鬼はじめ多数の鬼が蔓延り、人質の女たちや賊にされている男たちがそれぞれに捕らえられている。
しかし、近日。また鬼は男たちを使って賊行為を働く気らしい。その時であれば村の内部も若干手薄になる。
「どの道、その男たちは罪を犯した咎で捕らえねばならない。だからといって後の事を放っておく訳にもいかないな」
気の晴れぬ面持ちで、渡辺綱は苦々しく告げる。
かくて、賊が動くその夜に、賊の捕縛と鬼退治が行われる。
洛外の村を襲うらしい賊たちの方は占部季武と碓井貞光に任せ、村の方は金時と綱が乗り込む事になる。
「女たちの救出は金時に任せるとして、こちらは鬼の首領を倒す」
本来ならば、見廻組の仕事でもないのだが。小鬼程度ならともかく、人喰鬼とあれば放置する訳にもいかない。
「銀の話では、鬼の頭目は人喰鬼。その配下と共に、元村長の家に居座り騒いでいるらしい」
村は約五十戸ほどの大きさ。ただし、今は家人無く、代わりに徘徊しているのは小鬼たち五十匹。もっとも、彼らの目はその気になれば、どうとでもすり抜けれられる。
そして、村の入り口から村の中を通った奥。高台の上に問題の村長宅はある。
「首魁の人喰い鬼はじめ、部下の山鬼戦士たちや山姥も普段からそこに詰めている。乗り込めばそいつらを相手にせねばなるまい」
加えて、村を彷徨う小鬼たちも異変ありと気付けばすぐに駆けつけてくるだろう。一体一体はさほどでなくとも、ここまで数が纏まるといささか厄介。
さらに下手に動いて人質たちがいる方に騒ぎを流せば、救出に向かう金時たちは勿論、捕まっている女性たちもどんな目に合うか分かったものでない。
「面倒な話ではあるが、やらねばなるまいな」
かくて冒険者ギルドに京都見廻組から依頼が出される。村に巣食う鬼討伐に力を貸して欲しいと。
●リプレイ本文
鬼に占拠された村。外との交流がほとんど無いが故に、気づかれる事なく。その村は苦しみに沈んでいた。
夜になって家に灯りが灯れど、それも鬼の仕業。あちこちで篝火が焚かれて夜目にも明るいが、それも小鬼たちが家の酒などを物色して宴会調子で騒ぐ為である。
中にいる鬼は小鬼が五十ほど、山姥が三体に、山鬼戦士が八体。そして‥‥それらを束ねる首領と双璧の人喰鬼三体。
「それだけ数がいて、人質があるとなると容易ではなさそうですね」
「人質の方は、金時らに任せてあるが‥‥。だから大丈夫とも言えない」
道を見定めながら呟く緋芽佐祐李(ea7197)に、京都見廻組・渡辺綱が陰鬱に息を吐く。
「京周辺の治安はまだまだ安定して無いのね。一つずつでも、解決していくしかないのかしら」
小鬼の目をやり過ごし、同じく見廻組・神木秋緒(ea9150)が小さく息を吐く。
「そうだな。まずは、一つだな」
言って、高台の屋敷を見上げる。村を見下ろす位置にあり、そこらにある民家よりも大きくて立派なその家は村長の家だったらしい。今もやはり村の長がそこにいる訳だ。勿論、人間では無い奴らが‥‥。
いい加減な小鬼たちの目を潜り抜け、人質救出に向かう者たちと分かれる。彼らが目指すのは、高台の上にある村長の家。
「敵の戦力を分断。味方の戦力は集中して各個撃破で鬼たちを退治するでござる」
端的に阿阪慎之介(ea3318)が説明する。参謀役に買って出るだけあって兵法にも明るい。ゼファー・ハノーヴァー(ea0664)が用意した村の見取り図を元にして今回の動きを確認する。
「崖下の方には竹槍を仕込んでますので、お気をつけて。周辺にも罠はございますからね」
罠の場所は、地図にも書き込んである。人質の救出に向かう面々にも伝えてあるが、念の為にと佐祐李は繰り返す。
「銀次郎さんはうまくやってくれたみたいね」
村長宅で聞こえる賑やかな声。ドンチャン騒ぎの浮かれた調子に、秋緒がほっと笑みを浮かべる。こんな所に来る者も無いと高をくくっているのか、見張りの姿も見えない。好機とばかりに、ベアータ・レジーネス(eb1422)とテスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)がそれぞれ詠唱する。
「そうだな。屋敷の奥に大型の呼吸が八で中型がニ、小型が五と言った所か? 位置としては西に六間程先。中型の気配はさらに三間程北に移動したりしている。小型の気配は西に二つ、東に一つ、東北に一つ。いずれも半町程離れてるしすぐに動く様子は無い」
「同じくだな。まぁ、小型のという奴は感知外だが。私の感知で届くなら十分だろう」
細かく述べるベアータにテスタメントも頷く。
「では、始めるでござる」
慎之介は人質救出組の動きが気にはするが、連絡方法が今の所無い。彼らは彼らで大丈夫だろうと、ゼファーが経巻を取り出す。
広げて念じれば赤い光がゼファーを包む。すると深い煙が立ちこめ、たちまちの内に視界を阻む。
「ウゴ! ウゴゴ!!」
「ガアア!」
屋敷の中もスモークフィールドの射程に入る。異変を察した鬼たちが騒ぎ出し、一同は身構える。
「ゴファ! ゴファ!!」
煙の中から飛び出してきたのは山鬼。そして次々とその後ろから姿を見せる鬼たちの前に一同は立ちはだかる。驚き足を止める鬼たち。そこへすかさずゼファーはストーンウォールの経巻を広げる。分厚い石の壁が立ちはだかると、後続の流れをそこで止める。
「京都見廻組だと言っても、何の事か分からんだろうな。が、ここで退治させてもらう」
太刀を抜くと綱が走り出し、山鬼一人に斬りこむ。それに他の面々も続いた。
「まずは一体目から!」
出て来た山鬼は四体。その中の一体に近付くと、秋緒は日本刀を振るう。慌てて装備を整えていた山鬼は槍を掲げるも、それこそが狙い。過たずに秋緒の日本刀は山鬼の武器を破壊する。
「ほーら、背中ががら空きよ。襲っちゃうわよ♪」
軽い口調で百目鬼女華姫(ea8616)が背後に忍び寄ると、驚き慌てる山鬼に野太刀・物干し竿を叩きつける。後ろを取られて反応できず、その一撃を山鬼は喰らう。
「はああ!」
山鬼の槍をリュートベイルで受けると、気合と共に聖者の剣を叩きつける佐祐李。ざっと肉が断ち切られ、着ている鎧が血塗られる。
「フォン・ヴァイス!!」
テスタメントが太刀・救清綱を抜き払うと、一気に駆け込む。突進の勢いそのまま、山鬼へと突き進む。救清綱を素早く掠めるように動かし切りつけると、鬼が一気に重い傷を受ける。
と同時にテスタメントもまた受けた傷を手で押さえている。チャージングは威力を上げるが、その間の防御に隙が出来る。槍の傷跡に顔を顰めるも、テスタメントは戦意を込めて山鬼を睨む。
ストーンウォールで出入り口を塞がれた屋敷。だが、出入りできるのはここだけではない。裏口や窓、壊せば壁とてどうとでもなる。
「急いで! 大型ニ体と中型一体が家の裏から、中型一体が屋根を越えてこっちに向かってきている! 残る大型ニ体はまだ家にうろついてるようだけど」
ベアータがヴェントリラキュイで警告を発する。
前の四体すべてを片付け終える前に、また新手が家の横手から現れる。表の騒ぎに気づいたか、人喰い鬼たちの姿がそこにあった。
「お早い到着で」
ちっと顔を顰める雪守明(ea8428)。目論見が少々外れながらも、まだ見ない鬼たちを留めに、屋敷の中に飛び込む。
家の中はスモークフィールドが漂い、視界を阻むがそれは向こうとて同じ事。その煙の中に、山鬼を見つける。
唱えたオーラエリベイション。オーラパワーを付与した霊刀・ホムラを抜き、その重さを十二分に生かした一撃を加える。
「ガウ!!」
が、気づいた山鬼がそれを躱す。大降りに槍を振るい、明を離すと、今度はきちんと身構える。
「なかなかやるようで」
構える山鬼に明も睨みを利かせる。鬼が繰り出す槍が明を刻んだ。なかなか近寄れずにいたが、隙を見て取って走りよるとまたも一撃。今度は躱せず、鬼の体が派手に裂かれる。噴き出す血が古びた家屋に染み付いていった。
明は屋内で、と望んだが、鬼の方も有利不利ぐらいは分かる。動きが限定され、視野の悪い室内を嫌い、鬼たちは表で存分にその腕を振るう。
先の騒ぎに新手が組み込まれ、すでに現場は大賑わい。そこを慎之介は愛馬に跨り、駆け巡る。片手に日本刀、片手にオーラシールド。オーラエリベイションで士気を高め、鬼たちが纏まらぬよう動き回る。
影から飛び出してきた山姥。振るってきた山刀を盾で受けると、すかさず切り返す。オーラパワーを付与した刀を躱せず、骨さえ立たれて山姥は苦悶の内に血に沈む。
その動きをうっとうしいと見たか、人喰鬼が棍棒を構える。唸りを上げて振られた棒に慎之介の盾が間に合わず。重い棒が力任せに馬の体に打ち込まれた。その衝撃に馬は甲高い嘶きを上げて体制を崩し、騎乗していた慎之介も煽られる。それをすかさず、人喰鬼が慎之介の足を掴み、引き摺り下ろそうとした。
「何をしてるんだ? 私が討ち取ってくれようか!」
その鬼の間近でベアータの声が響く。驚いた山鬼がそちらを向くが、そこには誰も無い。さらに驚きを深めてうろたえた隙に、慎之介は足を外すと馬の手綱を引き体制を整える。
正体はやはり、ヴェントリラキュイ。本人自身はまた別の所から戦況を解析している。そんな彼のブレスセンサーに引っかかる呼吸も一つ、また一つと消えていく。
もしやの時はサイレンスで山姥の魔法を封じようと考えていた彼だが、普通、山姥は魔法を使わない。今回もその気配無く、山姥たちは刃の下であっさりと息を引き取るのを感知する。
すでに残るは大型のみ。だが、山鬼たちはともかく人喰鬼たちは皆健在。さすがに頑健で、攻撃を加えるもさほどの傷を与えられずにいる。
「この!!」
唸りを上げて繰り出された棒を躱すゼファー。大地をえぐるその様でどれ程の威力があるか分かろうもの。ぞっとしながらも、ゼファーが距離を置き、縄ひょうを投げる。
ひょうは目を狙い投げられるが、狙いをつけた分、隙も出来る。あっさり躱されたそれを巻き取り、手元に引き寄せ、もう一方の手は鬼神の小柄を人喰鬼に向ける。
「指を狙ってもカスリ傷ぐらいしか付けられないからな」
山鬼たちのように武装もしてないのに、だ。嫌になるねと愚痴を零しつつも、冷静に次の隙を狙って対峙する。
その時、家の雨戸が一つ吹き飛ぶと、中から明が転がり出てくる。
「ガアア!!」
その後を追いかけて出てきたのは、最後の人喰鬼。すでに満身創痍な辺り、明の攻撃はそれなりに通用しているようである。ただし、明の方が傷は酷いようだが。
傷を受けた事に怒ってか、人喰鬼は明へと突進する。
「させるか!!」
ベアータが大きく振りかぶって、追儺豆を投げる。ばらばらと飛んだ小さな豆たち。当たっても何の威力も無いそれらだが、鬼たちは表情を変えて振り払う。
(「行けるか?」)
隙を見てテスタメントが走る。助走を取って、再びシュライクを繰り出す。動きを鈍らせていた人喰鬼は避け切れずに救清綱を突き立てた
「ガアア!!」
痛みに顔を歪めて、人喰鬼が暴れる。そこに綱が走り寄ると、すかさず首筋めがけて刀を振るう。切れた血管から噴水のように朱が噴き出す。
人喰鬼が倒れて、残る鬼たちが吼えた。先に倍加する恨みの念乗せて、一同を睨みつける。
「ウガアアアアア!!!」
雄たけびを上げたまま人喰鬼がかかってくる。大降りになったその一撃を見極め、秋緒が振り下ろされた棒に、日本刀を斬りつける。
真っ二つに折れた棒。忌々しげにそれを捨て去ると、秋緒に殴りかかった。躱す事も出来ず、秋緒の身が軽々と宙を舞う。
「ちょっと! か弱い乙女に何するのよ!」
憤りも露に、女華姫が斬りつける。が、その傷は軽い。ぎろりと人喰鬼が睨みつけると、女華姫にも殴りかかる。
「いやああん、もう! だからか弱い乙女に‥‥」
「あまりそうは見えないが」
「何それ! 絶対差別よ、大差別ーー!!」
構えながらも口にした綱の呟きを聞き逃さず、女華姫はきいいいぃと歯噛みする。が、ここで言い争っても仕方が無い。代わって、その恨みを人喰鬼にぶつけて鋭く睨みつける。
「乙女の恨み、受けなさい!!」
踏み込み強く、女華姫が斬りこむ。想いが通じたのか、ばっさりと人喰鬼の体が切られる。
「ま、一応通じたんだし。半端な攻撃じゃ傷も付けてもらえないからな」
霊刀をふり被ると、明は思いっきり振り下ろす。先の傷で動きを鈍らせた人喰鬼は、それを受けてまた一体、死を迎える。
残る別の一体は、慎之介と斬り結んでいる。
大降りの一撃では躱されると踏んだのだろう。普通に的確にしとめにかかってきた。そうすると慎之介は傷を受けるばかり。攻撃の隙に刀を返すが、そちらは避けられる事もしばしば。
それでも、残っていた山鬼たちも始末すれば後はかかるのは彼らだけ。数の勝負でそれぞれを囲むと、さしもの人喰鬼たちも、傷を増やすばかり。
テスタメントが走りこんで傷を入れると、大きく隙が出来た。そこに佐祐李が素早く聖者の剣を叩き込む。
「これで止めです!!」
食いしばるように気力を込めて叩きつけると、ようやく鬼たちすべてがその地に倒れ伏した。
いや、すべてではない。まだ小鬼たちが残っている。異変を察知して伺うように周辺をうろついていた彼らが静かになったと悟り、様子を見に来ていた。
「聞きなさい! あなた達の親玉はもう倒したわ! 後はあなた達だけよ!!」
切り落とした人喰鬼たちの首級を掲げ――結局、どれが親玉かは判断つかなかった――、秋緒が出向いた小鬼たちは恐れて逃げ腰になる。
たかだか、小鬼程度。とはいえ、数が多いのは厄介。おまけに受けた傷は手酷く、薬やそれに代わる者で癒せた者もいるが、持たない者は傷跡そのまま。まだ動けるが、下手に戦えばそのまま倒れかねないのも確か。
首領が倒されたと知り、小鬼たちの動きは様々。逃げようとする者、金目の物をかき集めようとする者、変わらず挑みかかろうとしている者。
もはや統制の取れない烏合の衆とはいえ、面倒には変わりなく。ある者は逃げ切り、ある者は佐祐李が仕掛けておいた罠にかかり、そして、かかってきた者は冒険者たちにことごとく始末される。
明けて一夜。人質たちもどうにか逃げ切り、村の中はもぬけの殻。猫の子一匹見当たらない。ただ、あちこちに惨劇の後が見て取れる。
村長宅に赴いてみれば、食われた人骨が大量に見付かり、背筋を寒くさせた。
「銀次郎さんには本当に感謝するわ、色々支援してくれて。正規隊士は難しいでしょうけど、でも私たちは銀次郎さんを大事な仲間と思っているから」
「ありがとうです」
秋緒が告げると、深々と銀次郎が頭を下げた。それを複雑そうな視線で綱が見ている。
簡単な村の事後検証を終えて、一同は京へと戻る。
そして、村には誰もいなくなった。