届け物を拾ってよ

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月23日〜07月28日

リプレイ公開日:2006年08月01日

●オープニング

「大変助けてヘルプミー」
「そんな異国語で語られても、何がなにやら分からんのだが?」
「うにゅ。困ってるから助けてよぉという話なのさ」
 冒険者ギルドに飛び込んできたのは一人のシフール。装備からして配達業というのがすぐに知れた。
「そうなんだよ。で、配達途中の休憩中に、うっかり届け物の手紙を風で飛ばしちゃったんだよぉ」
 指摘した係員に、すがり付いてさめざめと泣くシフール。
 配達業も楽じゃない。雨が降ろうが猛暑が続こうが、頼まれた人にあてて大事に届けねばならない。とはいえ、シフールは不死身じゃないし、タフな種族でも無い。合間、合間に休憩は必要。
 木陰でちょっと一休み。その油断をつくかのように気まぐれ突風。
 落ちた先は一軒の家。何とか追いついたとほっとしたのも束の間‥‥。
「そこん家で飼ってるわんこが拾って軒下に埋めちゃった〜〜」
 手ぬぐい噛み締め、さめざめと泣くシフール。だが、話を聞いた係員の方は、呆れを隠せない。
「そんな事‥‥。家の人に頼んで返してもらえばいいんだろ?」
 よほどの変わり者でなければ、他人への手紙を取っても仕方が無い。それともその変わり者に当たってしまったのか?
「住んでるのはお爺さん一人なんだけど‥‥。歳のせいか、耳が遠い上に話が通じないんだよ」
 届け物が落ちたので拾わせてくれと頼むが、大声でどなっても「はぁ?」の一声。やっとの事で伝えられたと思えば、返ってくるのは「今日の天気はよくない」とか「朝御飯はちゃんと食べた」とかちぐはぐなモノばかり。
 これでは埒が明かない。仕方が無い、ここはいっちょ強硬手段でこっそり取らせてもらおうとしたが‥‥。
「爺さん、犬五匹も放し飼いしてて。庭に入った途端に襲って来るんだよぉ」
 良く見れば、シフールの尻にはでかいつぎはぎ。どうやら噛まれて服を破かれたようだ。
 年老いた爺一人の住む家。飼い主の安全を、ちゃんとその犬たちが護っているらしい。忠義な物だと微笑えましく‥‥思っている場合ではない。
「散歩の隙を狙うのはどうだ?」
「そう思って聞き込んでみたんだけど。爺さん、足腰もちょっと弱ってきてるから、散歩はあんまりさせてないってさ」
 庭が結構広く、普段から放し飼いにしているせいで、さほど運動不足にもなってないらしい。数日置きには連れ出しているらしいが、ついこの間連れて行った所なので、当分は無いだろうとは御近所さんの話。
「じゃあ、餌で釣ってその隙に取りに行くとか」
「爺さんの手から上げたものしか食わないんだって」
 それどころか、迂闊に餌を与えると不審者とみなして襲ってくる。それを知らなかったシフール、友好関係を築けないかと手持ちの弁当を与えて痛い目にあったという。まったくもってよく躾けてある。
「それに、そのわんこらどうにかしても。埋めた軒下の辺りって結構穴ぼこだらけなのな。何か宝物埋め立て場みたいなんだよなぁ‥‥」
 大体その辺りに埋めたと分かっているが、細かい位置までは実は良く分からない。なので、探すのも少し苦労しそうな感じがある。
「それ以前にやっぱりわんこだよなぁ。人様の犬だから酷い事も出来ないし」
 とはいえ、シフール一人に忠犬五匹は重荷過ぎる。
 それでは。例えば、そこの家に例えば洗濯物でも入った時、御近所さんはどうしてるんだろうと聞いてみたら、「爺さんが気付いて返してくれるまで待つ」のだそうだ。
 さすがにそんな気の長い話、待つ訳にも行かない。
「だから頼む。爺さん家の庭に埋められた手紙を取り返してくれないか?」
 このままでは郵便屋の信用にも関わる。切羽詰った表情でシフールは手を合わせた。

●今回の参加者

 eb1872 瓜生 ひむか(22歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb4769 久世 董亞(31歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5228 斑淵 花子(24歳・♀・ファイター・河童・ジャパン)
 eb5390 凉暮 鏡華(25歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5580 焔 珠樹(25歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「つまり、お手紙を取り戻せばいいんですね?」
「そう! その通り!! それも一刻の猶予も無く迅速確実安全にっ!」
 尋ねる凉暮鏡華(eb5390)に、郵便屋のシフールは首が落ちそうなぐらいに激しく縦に振り続けた。目は涙で潤み、両手を組んでお願いの意を暗に告げる。
 手紙が落ちたお宅に飼われていたのは柴犬五匹。年老いた家主を守るべく立派な忠犬ぶりを発揮しているようだが、シフールにとっては邪魔者以外の何者でもない。
 落ちただけの手紙をどこかに埋められるわ、取り返そうとして乗り込めば吼えられた挙句に尻につぎはぎ作らされるわ、散々である。
「咬まれてまでお手紙を取り戻そうとしたとは根性ありますね」
 そんなシフールにやたらに熱っぽい視線を送るのは斑淵花子(eb5228)。のぼせすぎて頭の皿が乾かないか心配だ。
「だって、信用されたから人様の荷を預けてもらえんだよ? それをうっかり失くしましたなんてばれたら笑って済ませられないよぉ。客は怒って二度と頼まないだろうし、下手すりゃ他の客だって利用してくれなくなって仕事激減、親方にクビと言われて路頭を迷ってそこらで野垂れてうわあああああん」
「まぁまぁ、落ち着きなさいです。そんなおたくの頑張りにあたしも多少無茶でもお手紙とって上げたいなって気持ちで一杯になってますのよ‥‥‥‥な〜んて、恥ずかしい事言えませんわ〜〜♪」
 どうやら思考が暗い所に落ち込んだらしい。真っ青な顔でへたりこむシフールの隣で、真っ赤な顔して壁にのの字を書いてもじもじしている花子。
「シフールさんもお仕事熱心ですけど、その落ちたお家にいる犬さんも家を守るというお仕事熱心なんでしょうね。依頼もお仕事。私もがんばるです」
「うん、お願い。僕も手伝うからっ!!」
「そやったら、一緒に来てもらえへんやろか? 物品の確認も必要になりますさかい」
「うんうん行く行く」
 感嘆し、新たに気持ちを高める瓜生ひむか(eb1872)に、すがりついてシフールが泣く。焔珠樹(eb5580)の誘いにも一も二も無く飛びついていた。

 シフールに案内されてたどり着いた場所は、村でも裕福な家のようで結構な広さがあった。
 取り返す前に、まずは一仕事。とばかりに、久世董亞(eb4769)と花子は御近所を歩いて回る。
「ああ、あの郵便屋さんの。大変ねぇ」
 事情を話して乗り込む旨を伝えると、すでに村中に話が広まってたのか。同情交じりで承諾してくれた。
「それで。あの犬たちに何かこれといった特徴は無いのか」
 董亞が尋ねると、
「んー、普通の柴犬だしねえ。お爺ちゃんによくなついてるぐらいかしら? うちの子もあれぐらいだったらいいのに」
 軽く嘆息付きながら、尋ねた奥さんは告げる。
 董亞に尋ねられて、ちらりと横目で自宅の飼い犬を見る奥さん。極普通の犬は訪問者が来ているにも関わらず日陰で寝そべって欠伸までしていた。
「そうねえ。忠犬すぎて家には入れてくれないし、何でも埋めちゃうのは困ったものだわ。子供の鞠が転がって、そういえばそれっきりにしてたわね」
 御近所さんも付き合いなれてるのか。暢気なものだ。
「上手くすれば一緒に取り返せるかもですよ」
 花子が笑って告げると、期待しないで待ってるわと笑顔で送り返された。

 そして、珠樹は一応許可は取っておこうと家主であるお爺ちゃんと交渉。
『お爺ちゃん、こんにちはー。お邪魔させてもろてもええやろか?』
 普通に喋っても少し‥‥否、かなりずれた反応しか返してこないというので、テレパシーで直接お話‥‥なのだが。
「やぁ、婆さん。婆さんの声がするの」
『いや、お婆さんとちゃうんやけど。ほら目の前におるやん』
「お盆にはまだ間があるのにせっかちなのは相変わらずじゃのう。うん、お客さんの相手があるからちょっと待っとってくれんか」
 心に直接伝わる声をあの世からと思ったのか。空中に向かって、お爺さんは答えている。珠樹が目の前で両手をばたばたさせて主張するも、珠樹は珠樹でお客さん、声は声でお婆さんのと分けて考えてしまったらしい。
『‥‥‥‥。庭に入って拾いもんしても構へん?』
「おお、構わん構わん。婆さんの顔見たらあいつらも喜ぶじゃろ」
 言うと老人は、家の中へと引っ込む。しばししてから読経の声。これはすぐに終わらない。
(「これ、許可取った思ても‥‥ええやんな?」)
 残された珠樹は自問自答。
 答えは「はい」にしておいた。

「ほら、あいつらだよ」
 顔を顰めて嫌そうにシフールは指差す。
 やや高めに作られている塀から顔を覗かせれば、なるほど犬たちが五匹庭でたむろしている。
「親分さんは‥‥あの子でしょうか?」
 犬と言っても年齢ばらばら。その中でやや中堅どころの犬に鏡華は目をつける。
 寝そべっているその犬は、しかし、周囲を走り回る若い犬が近付こうものなら叱るように一声吼える。他の犬もその犬の周囲ではおとなしいようではある。
「とりあえず、落ちた物をどうするか確認しますね」
 袂から匂い袋を取り出すと、ひむかは庭に放り込む。入っているのは毒でも薬でもない、ただの強い香料。すぐに犬が走ってくると、危険が無いか嗅ぐ。それで大丈夫と判断し、おもむろに口に咥えるととっとと軒下に運び込む。
 そこへすかさず、ひむかがチャームを仕掛ける。
「本当は、もっとゆっくりと時間をかけて仲良くなりたいんですけどぉ」
 至極残念ではあるが、時間をかけてもいられない。今も隣でシフールがせっついている。
 ちなみに魔法抵抗は本能の領域である。従う意思が無ければ、気がそれてようと寝てようと気絶してようと凍ってようと、拒否しようとする。
「ねぇ、その袋持ってかないで下さいです」
 幸い、今回はうまくいった模様。声をかけると鳴き声一つ、穴を掘るのを止めてこっちに寄ってくる。塀の隙間から手を出すと匂い袋を渡してくれた。ひむかが褒めて頭を撫でると、尻尾を振って喜んでいる。
「うん。前も大体あそこら辺だった」
 微笑ましい光景には目もくれず、シフールが見つめるのはただ一点。掘りかけの穴があるその周辺に彼の望む物があるはず。
 そうこうしている内に、他の冒険者たちも戻ってきたので、改めて、犬対策へと乗り出す。

『以前に埋められた手紙を返していただけませんか? 郵便屋さんにとって大切な物なんです』
 まずは鏡華がテレパシーで魅了した犬にお願いするも、結果は『嫌だ』とそっけない。魅了されてるのはひむかになので、その他大勢はとりあえず無視する気らしい。
「それじゃあ、私がお願いしたら聞いてくれます?」
 ひむかが聞くも、相手は首を傾げる。そも手紙がどんな物か、上手く理解できないでいる。
「他のワンコはどうでしょう?」
 ひむかがファンタズムを唱える。庭の中に人形の幻影を生み出すと、やっぱりすぐに一匹の犬が寄ってきた。普段通りに軒下に運ぼうとするも相手は幻影、触れる事は出来ない。苛立った犬はその場で穴を掘り出し埋めようとする。
 そうして招いた犬をまた魅了し尋ねるも、返答は前と同じ。さらに他の犬は、さすがに怪しいと分かり出したか、耳を立てて低く唸り出す。
「やっぱり。力技でいくしか無いでしょうか」
 鏡華が庭に少し踏み込むと、それだけで一斉に唸りを上げてくる。三匹は勿論、魅了された二匹の犬もまた、入っては駄目とばかりに吠え立てている。
「少し、黙っていてもらいましょう」
 わんわんと、あちこちに騒がしい声が響き渡る。それにつられて御近所さんの犬まで騒ぎ出している始末。
 ひむかが経巻を取り出す。書かれているのはサイレンス。緑系統の光が放たれるや、一匹の犬が音を失う。
 突然、声が出なくなった事に驚いたのだろう。犬がきょとんと目を丸くしている。その要領で他の犬の声も封じる。犬たちは吠え掛かろうとするが、どれだけ力を込めても声はでない。それで混乱したのか、ぐるぐると回ったりやたらめったに暴れ始めた。
「下がって!」
 混乱と興奮で犬が噛み付こう牙を剥く。花子は他の冒険者を下がらせると、自分は襤褸布を巻きつけた腕を突き出す。反射的に食いついてきた犬たちの牙を、巻いた布で受け止める。とはいえ、花子一人では手が足りない。

――誘い導く楽園浄土 
    我と共に 汝行かん

 そして、董亞が歌い上げる。銀の光を纏うや、呪力を持った歌声が周囲に響く。戦意を失くす意思を乗せて、それは心に直接働きかける。

――望むは平穏
   来たるは静寂
 拒む者には 闇夜の如き
  絶望と沈黙をもって その身に刻まん

 唸りを花子に噛み付いたまま、唸りを上げていた犬たちが戸惑うように耳を上下させた後、静か後ろに下がる。
 それでも、庭に入らせまいとする意思だけはまだ強く残っており、構えた姿勢のまま警戒は続けていた。しかし、それも鏡華がスリープを唱えると、順番に安らかに眠りにつく。
 五匹全員をおとなしくさせた所で、全員がほうっと息をついた。
「何とかなったな。シャドウボムで援護も考えたが‥‥」
「それだとワンコたち怪我しちゃいますよ」
 寝入っている犬を確認しながら董亞が告げる。牙を剥いたとはいえ、人の可愛がっているペット。迂闊に傷を入れていいものではない。
「皆さんの方には、怪我はありませんか?」
 寝てるといっても、起こせば起きる。声を潜めて花子は尋ねる。巻いた布を外してみれば、食い込んだ牙が多少傷を作っていた。
「こちらは特に‥‥。それでですね。目の保養になるかもしれませんし、どの道ここに殿方はおりませんけど‥‥服を整えた方がよろしいのでは?」
「あら、ごめんなさい」
 鏡華の困ったような目線に、花子は自分の胸元に気付く。犬たちが暴れた際に乱れて、豊かな胸がぽろりと落ちていている。 
 ちなみにお爺さんはずっと家の中。シフールは犬が騒ぎ出した時点でどこかに逃げた。
 何でも無いとばかりに平然と着直す花子。そんな彼女を見つめ、珠樹は改めて自分の胸元を見つめ直す。
「何であないに大きなるんやろ‥‥」
 そんな切ない乙女事情。

「いやだから、それは褌やし」
「それは‥‥手ぬぐいですね」
「あ、今の鞠。多分お向かいさんのですね」
 庭先に入れればしめたもの。後は手紙を掘り出すのみ‥‥なのだが。
 大まかにここと分かっていても、結構埋めている範囲や深さに差があって、しかもごちゃごちゃといろんなモノが姿を現す。
「私のパーストでは、すでに日数が経過しすぎていて、確認できませんしね」
「手当たり次第に掘ればええんや!」
 ひむかが嘆息つくと、珠樹は気合を込める。
「犬たちに手伝ってもらえるのがありがたいがな」
 魅了された犬たちをさらにどうにか説得して、庭には入れてもらった。他の面子に不満を抱きながらも、穴掘りを手伝ってくれている。が、目的物が今ひとつ分からないのでいろいろな物を片端から掘り出してくる。 
「手紙、手紙。僕の手紙〜〜」
 戻ってきたシフールも泥だらけになりながら一生懸命土を掻い出している。
 それからどれだけの時間が経ったのか。
「これじゃないですか?」
 丁寧に折られた紙。飛びこんできたシフールが震えながら中を確認する。
「これ、これだーーー!! ‥‥けどぉ」
 喜ぶ顔もつかの間。
 手紙は泥で染まり。あちこち皺だらけ。爪や牙で書いたか所々破れてすらいる。
「うわあああああ。怒られるーーー」
「いいじゃないの。中はちゃんと読めるんですから」
 無残な姿の手紙を前に泣き崩れるシフール。花子が笑って励ますと、董亞は黙って背中を叩いて慰める。
「あんさんらもおおきに。ご苦労さんやったわ」
 見つけた交換で、珠樹が骨付きの肉を犬に差し出す。犬たちは興味深く匂いを嗅ぐとすぐに口に咥え、そしてやおら掘りあがった穴に放りこむと、そのまま埋め出していた。