【悪の裏の悪】 姿現す
|
■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:11〜17lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 20 C
参加人数:8人
サポート参加人数:6人
冒険期間:07月31日〜08月05日
リプレイ公開日:2006年08月09日
|
●オープニング
京都の治安はお世辞にもいいとは言い難い。賊の横行、妖怪の跳梁に加えて、各権力の派閥闘争による暗殺劇が闇に紛れて行われる。
治安を維持する組織は複数あれど、彼らには彼らの理念があり、自負がある。微妙に違えるその信念は時に両者を焚き付け、争わせる。
故に、京では誰が死んでもそれはおかしくは無い。それが京都見廻組であろうとも。誰が何故殺害したのか、その心当たりは非常に多くて見当つかないと言う方が正しい。
つい先日も、また数人が死んだ。
目撃証言をした無宿者の話では。女と数名が見回り中の京都見廻組を殺害したという。ただ、それが常と違うのは、その際隊服が奪われている事。そして、見廻組の衣装を来た熊鬼が京の町をうろつくようになった事である。
どこの誰の仕業か分からないが、およそ碌でもない輩が絡んでいるのは確か。熊鬼まで絡むなら、専門家に少々意見を伺った方がいいか。
「もし。京都見廻組の‥‥渡辺綱さまではございませんか?」
「いかにも」
勤めの帰り。そう考えて夜道を歩いていた綱に、突然声がかかる。確認を取らずとも、隊服はきたまま。新撰組ほどには目立たぬが、それでも近くで見れば間違いようが無い。
相手は目深に笠を被る。身分を隠すように垂れた布の隙間から、わずかに姿が見える。
若い女性のようだった。およそ、夜道で出くわすには似つかわしくない。
「ああ、ようございました。実は、先日京都見廻組の方が殺害された話を聞き、至急お耳に入れたい事がございまして、お伺いしようか迷っていたのでございます」
言って女は手招く。時間も時間なので、辺りに人気は無く。それでもよほど聞かれたくないのか。招かれるままに、綱は女との距離を縮める。
「実は‥‥」
囁く程の声で女が告げる。聞き取れずに、さらに耳を近付けた綱だが‥‥。
次の間。素早く動いた女の腕を、綱は掴み上げる。
「何の真似だ?」
隠し持っていた懐剣。その刃先は正確に綱の首筋を狙っていた。
問いただされて女の様子が一変する。捕まれた腕を振り解くと、殺気も露に懐剣を構える。
と同時、綱も腰の得物を引き抜く。
「先の仲間の殺害はお前の仕業か。何が目的だ! 熊鬼を放ったのもお前なのか?」
口早に問いかける。答えは肯定を示す笑みと共に、鋭い一撃が黙して迫る。
打ち合うこと数回。女は力任せに刀を打ち払うと、大きく間合いを開けた。
「さすがねぇ。あいつらを屠るだけの事はある」
肩で息をしながらも、女は艶然と笑って見せた。
「あいつら?」
「名前は忘れたわ。どうでもいい奴らでもあったし。小さな村一つ押さえさせてたのだけどね」
訝る綱に、女は答える。思い当たり、彼の表情が変わる。
「鬼どもに占拠されてたあの村か!」
「まぁ、私が見たのは使い物にならなくなった村の跡だけになったけどね。でも‥‥手下を殺ってくれた礼はしておかないと」
女が動いた。が、それは攻撃に出た訳ではない。さらに大きく間を開けると、駆け出す。
「あの村にいらっしゃい。来なければ、誰かが死ぬ」
甲高い笑い声。逃がすものかと追いかけようとした綱だったが、
「止めた方がいいですね」
不意に聞こえた第三者の声。思わず立ちすくみ、振り返る。そこにいたのは陰陽寮陰陽頭の安倍晴明。
「不穏な気配がすると思って来てみれば。少し遅かったようですね」
心底残念そうに告げる晴明。どこか暢気にも思えるその仕草に、どっと疲れを増しながら綱は得物を仕舞う。
「あれは、何だ? 人ではないのか?」
「鬼を従えるのは、鬼ぐらいでしょう。大坂で美しい女鬼が出るとは聞いてましたが、京にまで手を出して来るとは」
あっさりと告げながらも、その態度が険しくなる。
「鬼? もしや、北との絡みか?」
「さあ、どうでしょう。今の所、比叡山に変異は見られませんが。それより、御自分の心配をしたらどうです?」
「俺か?」
尋ねる綱に、晴明は人の悪い笑みを作る。
「妙な因縁を作ったものです。鬼の恨みは面倒ですよ」
面白がっているのか、試しているのか。――前者のような気がする。
「忠告、としてありがたくお言葉頂戴する」
礼を述べはしたものの、何となく呪詛をかけられた気分だった。
おりしも場所は一条戻り橋。あの世とこの世が通じると噂される場所で、一体自分は何と出会ったか。そんな想いが綱の脳裏に過ぎった。
「そういう訳で、もう一度あの村に行ってみる。とはいえ、鬼からの御招待だ。何があるか分からない。来る者は重々気をつけてくれ」
あるいは単にからかわれただけかもしれない。ならば、行くだけ無駄で何も起きないかもしれない。
「何れにせよ。あの御仁と相対するよりはマシになるだろう」
出会った陰陽師を思い出しながら、綱は告げる。その表情を実に渋かった。
●リプレイ本文
京の都に鬼が出る。熊鬼による京都見廻組殺害に絡んで女鬼まで出現し、百鬼夜行はさらに続く。
「その発端となったのがあの村。そこを鬼達が再び占拠しているのですか‥‥。来いと言われましたし、何が為そうとしているのか、行って確かめなくてはなりませんね」
おっとりとしながらも、緋芽佐祐李(ea7197)が告げる。
一つの村が鬼達に占拠され、壊滅したのはつい先日の事。鬼は狩られ、残った人々も解放して終わったかに思えたが、そうではなかった。
「最初に手を出したのは向こうだろうに。恨みなんていつも理不尽なもんだが、今回は特別理不尽だな」
嫌そうに顔を顰めるのは京都見廻組の月代憐慈(ea2630)。その関係で村とは関係なかったはずの同僚も死に、怒りを隠せない。
その傍らでは、ネフィリム・フィルス(eb3503)と御堂鼎(ea2454)が二人揃って大真面目に頷く。
「因果って奴かねぇ。綱っちも凄い女に惚れられたものさね」
「鬼の恨み、しかも女鬼ときてる。案外、女運悪いんじゃないの?」
「‥‥そうかもしれんな」
からかい混じりに笑う女性二人に、顰め面で同じく見廻組の渡辺綱が答える。
「それはともかく。鬼の御山が動き出しているのかもしれないなぁ」
ネフィリムが気を引き締め改まると、憐慈が露骨に顔を顰める。
大坂で暴れる女鬼の話は、実の所あまり詳しく聞きこめなかった。京都見廻組にとっては管轄外の場所であり、冒険者ギルドも依頼がなければ積極的に世の動向を調査する事はない。
それでも伝え聞く風体からして、茨木童子だろうと知れただけでも収穫十分。鬼たちの総本山・比叡山に住まう酒呑童子の片腕とされる鬼である。
「安倍殿は比叡山に変異はないとの事だが。案外別鬼の可能性もあるしな」
言いながらも、綱の表情は予想を裏切っている。
「その鬼が告げた、誰かが死ぬという言葉も気になります。以前村にいた人たちの中には、遠国の郷里に帰ったという者もおりましたし」
心配して調査した佐祐李。村にいた男たちは鬼に脅され罪を犯した。今はそれを悔い、おとなしく裁きを待っている。一方、女性の方にはもはや身寄りないと京を去った者もいる。その旅程で何かあったとしても、不思議ではない。
「銀が行方不明なんだろ? 捕らわれてる可能性もあるんじゃないか」
さらに別の懸念をネフィリムが述べて考え込む。
「あるいはその警告が偽で、京都見廻組や綱殿たちの御家族に襲撃を加える可能性も。緊急時の伝令を設置した方がよいのでは」
「事があれば誰かが知らせてくれるだろうがな。もっとも、その用心もかねて季武たちが残って動く事になっているから、向こうに任せておいていいだろう」
表情険しくアンドリュー・カールセン(ea5936)が提案するも、綱の方はさほど心配した様子はない。むしろ、これから行く村に何が待ち受けているのか。そちらの方を気にかけているようだった。
「村の地図などは用意できているのだろうか。あるとないではまた動きが変わる」
「設置した罠の位置の確認なども必要ですしね」
壬生天矢(ea0841)が尋ねると、綱が用意した地図を配る。そこに書かれた罠の位置をミラ・ダイモス(eb2064)は頭に叩き込んでいく。
「それでは。鬼退治と行きますか」
黒虎部隊の一員として、妖怪退治は本領発揮の領分。十分な用意ができると、天矢が立ち上がり、先を促した。
先日、向かった鬼が占拠する村。今は廃村と化したその場所へと一同は向かう。憐慈の案で夜間は避けて昼の内に村にたどり着く。
とはいえ、何を考えてるのか分からない相手に、全員が一斉に乗り込むほど馬鹿でない。佐祐李、アンドリュー、南雲紫(eb2483)の三名が、別働隊として隠密裏に潜り込んでいた。
「罠が増えてますね」
崖下に回りこみそこを登れないかと考えたのだが、訪れた佐祐李は立ち止まって付近を注意深く見つめる。
前回訪れた際にここにも幾つかの罠が設置された。が、その時は村に多数の鬼がいたのだし、あまり大掛かりに動けない。その為、数も仕掛けも簡素な物だったが、それとは別に手の込んだ罠の跡が見受けられた。
「崖の上から見付かって何か落とされたら終わりだな。ここからだと少し回るが、山から行くか」
「隠身の勾玉じゃ姿も隠せないものね」
崖の上を見上げてアンドリューが端的に告げる。聴いた紫も軽く肩を竦める。
それに佐祐李もおとなしく倣う。ここからでは崖の上の様子が見づらいのも事実だ。
「それにしても、やっぱり素直に招き入れて受ける気は無いのね」
罠の知識はないが、あると思ってその痕跡を注意深く見ればどうにか分かる。山側に回ってもおそらく相当の罠があるのだろう。それを思うと紫はほんの少し気が萎えた。
「そろそろ、残りの方も村の入り口につく頃でしょうけど。この調子だと、向こうもどうなのでしょう」
「それを用心する為にも、急いで入り込まねば」
心配げにそちらを見つめる佐祐李に、唇をきつく結びアンドリューは先を急いだ。
「静かだな」
綱を含めて六名が村に到着。入り口に立つや、綱がぽつりとそう告げる。
何かがいる気配は皆無。ただ遠く、村長宅から竈の煙らしきものが立ち昇るのみ。そこに何かがいるらしいのは分かる。
「アンデッドの気配は無いな」
「村の中は目に付く限り、綺麗なものさね。死体一つ無い」
惑いのしゃれこうべを荷から取り出すと、その頭をぼこぼこ叩きながら天矢が告げる。近くにアンデッドがいれば歯を鳴らすはずだが、かたりとも鳴らない。死人憑きと殺り合えるかと考えていた鼎にとっては少々残念な気がする。
「けど、大きな生物はいるな。こちらの方角に一体。‥‥あそこだ」
ブレスセンサーを使って、憐慈が周辺確認。指し示す先、物陰からこちらを見る影一つ。
「他は」
「ない」
短い言葉だけを交わすと、即座に綱が走り出す。気付かれたと悟った影もまた身を翻し、道を走り出す。
「鬼か!!」
褐色の巨体はおそらく人喰鬼。全力で逃げるそれだが、ちらりとこちらを振り返った。
途端に、後を追いかけていた綱が止まる。その後ろに付いていた面々は急な動きに対処できず、踏鞴を踏む。
「うわっ!」
もつれた足で踏ん張ろうとした憐慈だが、その足元が急に消えた。伸ばされた綱の手をとっさに掴み、事無きを得た。
「落とし穴かい。しかも、中は陰険な物が立ってるじゃないか」
開いた穴を覗き込んで、鼎が顔を顰める。ぽっかり開いた道の中、竹槍が無数に立っている。下手に落ちれば命も危うい。
道の先。落とし穴にかからなかった事を悔やむように人喰い鬼が歯軋りしている。かかってくるかと思いきや、相手は背を向けてさらにその場から駆け出す。
さすがに今度は即座に追う真似はしない。人喰い鬼は、まっすぐ村長宅に駆けていった。
「村の中には罠は作ってなかったんだろ。って事は、これは向こうさんのおもてなしって奴かね」
呆れる鼎に綱は頷く。罠は外周にしか存在しないはずだった。が、今は良くみればそこかしこに罠の痕跡が見られる。
「隠密班の方はどうなのでしょう? 無事でいるといいのですが」
「相当数があるようだから、梃子摺っているのかもな」
ミラが心配するも、近くにいないのかどうなったのか分からない。
「ところで。さっきの奴はどうやら行ったようだが、別のが近付いているみたいだ。後方に一体」
再びブレスセンサーを使用する憐慈。
「こうしていてもしょうがないさ。先を進むとしないか? 殿は任されるよ」
軽い口調でネフィリムが告げるも、睨むように示された方を見つめていた。
「遅かったじゃない」
村長宅の屋根の上、美女が腰掛け、艶然と笑う。人に似ているが人でなく。鬼の角がその頭上を飾る。
村長宅までの道中。至る所罠だらけ。数歩歩けば何かにかかる。精緻さはともかく、これだけ数を村中に展開したとなると、その手間隙たるやもはや執念を超える。
それにかからないよう時には解除しながら慎重に進んで来た為、必要以上に時間を喰った。おかげで罠による怪我は軽微だが、精神的な疲労の方はかなりのものだった。
「結構なもてなしぶりに感激したかったけどね。でも、どうやら結局は歓迎会開いて終わりってなものかい? 二番煎じはつまらないねぇ」
「あら、分かってるの。じゃ、隠れる必要は無いわね」
鼻で笑う鼎に、優位の立場を崩さず鬼女が手を上げる。と、物陰に隠れていた人喰い鬼たちが姿を現す。その数は四体。村中で会った時は必要以上に近付かず、罠へと誘導していたが、今は殺気を隠さず食い入るように一同を見ている。
「そういえば。ここに直接来ずに岩室とか民家とか覗いてたみたいだけど。何をしてたのかしら?」
ふと思い出して鬼女が首を傾げる。
「‥‥来なければ誰かを殺すような事を言ってたが、誰を殺るつもりだったんだ」
天矢が問うと、相手はきょとんと目を丸くしていた。
「別に。その時は、そこら辺の適当に歩いてる人間の首千切って放り込んでやろうと思ってただけよ。子供ならなお簡単に捻れるしね」
それをさも当然とばかりに。目の奥に邪悪を宿して女が笑う。
刹那に生まれる怒りの衝動。それを嗅ぎつけたかのように、人喰鬼たちが動いた。
「ガアアアア!!」
声高に叫ぶと手にした棒を振り回し、一気に振り落とす。憐慈は巧みな足捌きで躱すと、そのまま後方に下がる。同時、他の面々は前面へと駆け出した。
「はぁ!!」
一体を捕らえ、天矢が長槍・山城国金房を繰り出す。重みを乗せた一撃はやや大降りになるも、それでも鬼を逃さない。深くその刃を刻みいれ、血飛沫を上げさせる。
「伏兵無し。囲まれる危険はないか」
「そのようです。参りましょうか!」
横合いから飛び出てきたのは紫と佐祐李。包囲を懸念し、しばし様子を見たがその危険もなさそうで。
紫が日本刀・霞刀を素早く繰り出すと、人喰鬼は済んでの所で逃げられる。お返しに突き込まれた棒を危なげなく躱すと、再び対峙する。
佐祐李の方も、まずは一刀。聖者の剣を不意をついて入れるも、ニ撃目は刀で受けられ弾かれた。大きく間合いを取り、見つめる事しばし、走り寄り再び得物を交える。
「そら、壊れちまいな!!」
鼎が笑って金時の鉞を振るう。その先は鬼ではなく、それの持つ得物。防具は着こんで無いので、それさえ壊せば丸裸同然。唸りを上げる鉞はしかし、恐れたかのように鬼が避けて逃げる。
「待ちな!!」
小さく舌打ちすると、その後を追ってさらに鼎は踏み込む。
「いくよ!!」
こちらも得物は金時の鉞。打ち付けるように振り下ろすと、鬼の体に易々と食い込んでいく。悲鳴を上げる鬼が繰り出す棒を体で受けつつ、即座に鉞を返せばさらに傷を増やし続ける。
「リュケイオン!!」
その様をただ見ているだけで降りて来ない鬼女。ミラは上空に待機させていたグリフォンを呼び出す。
羽ばたき舞い降りる猛獣。その背に跨るとミラは、鬼女へと飛び掛る。騎乗によっていつもより得物の切れも鈍いが、それでもハンマーofクラッシュを振るいこむ。
「名無しの鬼でも無いでしょう。名は何と言うのです」
「さあ? ただあんた達は茨木童子と呼んでくれるようだけど」
問いかけるミラに、茨木は軽く笑って答える。そして、襲いかからんと腰の得物に手をかけ、歩を踏み出しかけたが。
はっと何かに気付くと大きく状態を逸らす。その目先に矢が通り過ぎた。顔を歪ませ飛んできた方を見れば、アンドリューがオークボウを構え、次の矢を番えている。
「ちっ!!」
屋根の上では遮蔽物が無い。狙い撃ちになるだけと悟り、茨木が屋根から滑り落ちる。
地上の鬼たちも酷い有様。力や技量では互角かもしれないが、その分、数の差が如実に出ていた。
「止め!!!」
綱の抜いた日本刀が、鬼の目を抉る。痛みで吼える様を冷たく睨みながら、茨木は声を上げた。
途端、鬼達は冒険者らを降り払うと茨木の元に集う。傷だらけにされながらも、冒険者らを睨みつける人喰鬼たちを、一同は油断無く囲みこむ。ただ茨木だけが不敵に笑っている。
「どうやら決着はあったみたいだし。負けを認めて、今日の所は下がらせてもらうわ。――それではまたいずれ」
茨木が告げるが早いか。一匹の鬼が素早く村長宅の柱を叩き折る。
あっという間も無く、屋根が窪むと家が潰れる。ただ柱程度でそうなる訳も無く、そもから仕掛けてあったのだろう。折れた柱に崩れた壁、壊れた衝撃で舞い上がる粉塵が瞬く間に周囲に広がり視界を阻む。
「待て!! 都内に出て騒ぐ理由はなんだ! あの熊鬼たちは何が目的か!!」
砂塵に紛れて鬼たちの姿が遠ざかる。その背に向かって天矢が叫ぶ。
「別に。京がいろいろ騒がしそうだから顔を出したまでよ。熊鬼たちは村を潰してくれたお礼と、裏切り者を狩る為に放っただけ。‥‥でも、やっぱり都はいろいろと楽しいわ。大坂とは訳が違う」
楽しげに笑う声は、知らぬ者が聞けば心をくすぐられそうな程に甘く。しかし、それもすぐに聞こえなくなった。
「呼吸無し。どうやら完全に行ったようだ」
確かめると、憐慈は嘆息交じりに埃だらけの身を払う。
「全く、何だったんだか。ああ、後は酒を一杯やって終わりにしたいね」
「そうだな」
もつれた髪を手櫛で直す鼎に、綱も同意を示す。
他の面々も疲れた様子で、ただ今は黙々と身にかかる砂を振り落とすだけだった。