【寺田屋の台所】 月色に染まれ 秋の食

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:8人

冒険期間:08月25日〜08月30日

リプレイ公開日:2006年09月02日

●オープニング

「むー。お月様が弱いー」
 悔しげに足を踏み鳴らすのは化け兎・うさ。外見、小さな童にしか見えないが、これでも暦とした正真正銘本物の妖怪。もっとも、子供に化けるぐらいしか脳の無い小物ではある。
 紆余曲折の過去を経て(?)、現在は京の陰陽師である小町の家に居座っている。そこからお月様を広めんと、日夜普及活動に精を出しているのだ。もっとも、その『お月様』とやらが、具体的にどんなモノか問いかけると、首を傾げてしまったりするが。
 ともあれ、普及活動の一環として、酒場・寺田屋にお月様な食事を並べ、訪れる冒険者達にお月様色に染めようとしているのだが。
「でも、ちゃんと採用されて並んでるわよ。それじゃ駄目なの?」
 野望を抱いて食事を考えても――もっとも、考えてるのは冒険者達であって、うさ自身ではないが‥‥――、採用するかは女将の胸先一つ。
「やーだー。お月様一色がいいのー。亀の胡瓜はいーらーなーいーーー」
 じたばたじたばた。
 お品書き手にしながら、地面に寝そべっていると、本当に駄々こねたガキにしか見えない。が、駄々こねる子供はそれはそれで迷惑ちゅうか、厄介。
「‥‥っていうか。あんた、文字読めたっけ?」
「お月様への愛が足りないと、これからひしひし感じるの!!」
「そなの?」
 尋ねる小町に、お品書きを敵にでもあったように睨み付けて答えるうさ。
「もうじきお月様の日なのにー。大きなお月様を一生懸命お祈りして、綺麗なお月様呼ばなきゃいけないのにー」
「けけけけけ。もはやお月様なんざ古い古い。今は胡瓜の時代よ!!」
 お品書きを噛み締めるうさを、鼻であざ笑うのは‥‥、
「亀!!」
「河童じゃああああー! いい加減覚えろーーっ!!」
 亀と叫ばれたのは、どこからどう見ても河童。亀以外の呼び名をうさが認めない為、今だ名称未定のこいつは、そんな訳でうさととことん仲が悪い。
「緑に甲羅に嘴は亀なのーーっ。いい加減覚えろーー」
 二人揃ってじたばたじたばた。結論、二倍厄介。というか、亀の方は立派な一冒険者な分、うっとうしい度+1。
「とにかく!! 次の満月は大きなお月様恋恋祭りを開かなければならないの。その為にはもっと皆にお月様を好きになってもらわねばならないの! なので、もっと素敵で豪華で目が眩むようなお月様料理を並べてもらうのだ!!」
「にゃにおおお!! お前の邪悪な野望なんぞ達成させてたまるか!! 我ら河童の底力、胡瓜のすばらしさを思い知れーーー!!」
「でも、胡瓜の季節ってそろそろ終わりよね?」
 奮起して立ち上がるや、一目散に冒険者ギルドに駆け出す化け兎。
 負けじと走り出した亀だが、ぼそりと呟く小町の一声に足を取られてすっ転ぶ。
「な、何ーーっっ!!」
「いや、驚かれてみても。そりゃ地方によって多少の差はあるからまだもうちょっとは手に入るでしょうけど。でも、あれって夏野菜だし。盆も過ぎちゃえば直に秋よね」
「何てこったい。夏の‥‥夏の馬鹿やろうーーーーーっっ!! つーか、秋なんて来んなーっ!!」
 季節観は大事です。
 真実に気付いた河童は、涙零して真っ赤な太陽目指して一直線。
 小町は手ぬぐい振ってそれを見届ける。その胸中には一つの疑問。‥‥奴は何しに来たんだろう?
「ま、いいわ。そろそろ秋のお品書きを考えて欲しいって頼まれてたし。月ばかりってぼやかれたけど、仲秋の名月にちなんでなら、早々文句も無いでしょう。今の時期なら、食欲万歳食材が多くなるし♪」
 言って、小町はうさの後を急いで追いかける。
 その目的は勿論、止めに行くのではなく、ギルドに依頼を頼む為に。

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea0085 天螺月 律吏(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1956 ニキ・ラージャンヌ(28歳・♂・僧侶・人間・インドゥーラ国)
 ea5001 ルクス・シュラウヴェル(31歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2963 所所楽 銀杏(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb5751 六条 桜華(39歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ゼルス・ウィンディ(ea1661)/ 藍 月花(ea8904)/ ウェンディ・ナイツ(eb1133)/ キドナス・マーガッヅ(eb1591)/ 所所楽 苺(eb1655)/ 所所楽 柊(eb2919)/ シャルウィード・ハミルトン(eb5413)/ ソフィア・アウスレーゼ(eb5415

●リプレイ本文

「か〜〜め〜〜っ♪」
「うわっ」
 唐突に頭上から降ってきた愛らしい声。殺気も無いまま、ただ嫌な予感の元に天城烈閃(ea0629)が飛び退けば、丁度いた辺りに重く振り下ろされた小振りの杵。振り下ろしたのは一見子供。だが、その正体はすでに聞かされている。
「むー。でかい亀だと思ったら、亀被りの爺なのか。亀爺?」
「真面目に問われると返答に困るんだが。久しいな、元気で何よりだ」
 子供に人化け中の化け兎・うさは烈閃の正体を見破ると、首を傾げている。そんなうさに烈閃は冷や汗を流しながら、杵が埋まった地面を見る。下手に当たれば笑い事ではない。
 もっともそこは武芸に秀でた烈閃だから、心配する事もないやも。とすれば、汗は単に着ているまるごとたーとるが暑いだけか。
 うさの方は、亀では無いと分かると興味を削がれ、辺りをせわしなく見回す。で、次の物を見つける。
「虫ー! 虫むしむしー!!」
「いえ、その子は虫では無く。月の妖精なので‥‥」
 蝶を追う如く全力で御神楽澄華(ea6526)のエレメンタラーフェアリー・出雲を追ううさ。驚いた出雲は逃げ惑う。澄華は一応注釈を入れるが興奮したうさには届いて無い様子。一見じゃれてるようにも見えるので、澄華はただ暖かい眼差しで見つめる事にした。
「ところで亀は来てないのか。以前敵味方で争った身だが、冒険者になったと聞いて友好関係を築こうとわざわざ来たのに」
 周囲を見回し、烈閃はまるごとたーとるを脱いで一息。夏に防寒着は暑く、玉の汗が光る。
「何やお馬鹿なのと組んだそうやし、来てもろても困るかもやねぇ。別に対処してくれてはるみたいやけど、一応こっちでも対処しときますえ」
「うーーん。でも、それにかかるぐらいになると、すでにややこしくなってるだろうからねぇ」
 悩むニキ・ラージャンヌ(ea1956)に、今回の依頼人、陰陽師・小町もちらりとうさを見てため息をつく。ニキの手にした団子(辛味成分配合)と同じ物が屋敷の周囲にばら撒いてある。が、それに何かがかかる時、果たしてうさも何をしでかすのか。
 過去のあれやこれやを思い出しながら、小町が軽く肩を竦める。
「でも、その亀さんに胡瓜の雷干しを預かって来たの、です。預けてくれた二人が一晩中賑やかに作ってくれたの、ですよ」
 その時を思い出してか、笑みを零しながら所所楽銀杏(eb2963)が笑う。
「こんにちは、うささん。美床とは違う、ですね」
 そして、胡瓜に気付いて顔を顰めていたうさにその笑みを向ける。その足元では怯えて警戒しながらも幼い兎・美床が顔を出している。うさは銀杏よりも美床を注視していたが、やがてにっこり笑うと頭をわしわしと撫でていた。
「寺田屋の秋の献立か‥‥。思えばもう夏が過ぎようとしているのか。時の流れは速い速い」
「ええ、この前もお月さまの品を考えた気がするのですが‥‥」
 銜えていた風車を手にして息を吹きかける六条桜華(eb5751)に、澄華も頷く。軽やかに回る風車に聞こえる虫の音は蝉の声。だが、その向こうに見える景色では、するりとトンボが飛んでいった。
「森の恵みが集まっていい感じだね」
「市場にもいろいろ出回ってたな。実に興味深かった」
 冬の前の豊かな季節。今が旬の食材は数多い。マナウス・ドラッケン(ea0021)の言葉に、ルクス・シュラウヴェル(ea5001)も買出しに出た時を思い出す。知り合いにジャパンの味覚や料理法を教わりながらの買出しは、ただ見て歩くよりもいろいろと興味をそそられ、学ぶ事も多かった。
「ところで。季節感と言いつつ今だ筍の若竹煮が置いてある突っ込みは無しですやろか」
「きっと料理長の哲学がそこにあるのよ」
「ほんまかいな」
 どうにも怪しい一言だが、それを無視して小町は生真面目に頷いていた。

「せっかくだから、月見団子も作って皆でお月見というのもどう、でしょう」
 銀杏の提案に、小町が手を叩く。
「朔月が近いから月は細いけど、雰囲気はあるかもね。だったら、団子だけじゃなくて、その時に皆で試食の方が楽しいかも」
「待て!! という事は、試食時間は夜になるまでお預けなのか!!」
 何だかトントン拍子で話がついた内容に、天螺月律吏(ea0085)が戦慄する。
「いや、これはお楽しみをとっておけと言う事か。まぁ、今はやる事やるだけだな。‥‥うさ久しぶり。今回はちゃんとお月様で考えてきたからな! 良かったら手伝ってくれないか?」
「あいあいさー」
 思考切り替え、律吏はうさを誘う。上機嫌に返事したうさだが、
「餅つこう思いますんやけど、一緒につきまへんか?」
「おーもーちーーーー♪♪」
 ニキに言われて、うさは目を輝かせて杵を振り上げそっちに突進驀進一直線。
「さて、それではこちらも。蕎麦作り、手伝ってくれないか?」
 ルクスも料理の支度にかかると、澄華がその横に並ぶ。
「ええ。お約束してましたしね。そうそう。それだけでは寂しいので、私も栗を使って餡を作ってみようと思うのです。けど、それだけでは少し甘みが足りなさそうですし、だからと言って砂糖を入れると値が張りますし。どうしたらいいと思います?」
 案に困っていた澄華がルクスに相談を持ちかけると、少し考えた後にルクスが口を開く。
「だったら、水飴を混ぜてみるのはどうだろう。砂糖よりは安価だし、粘りも出るから纏めやすくなるのでは? 混ぜすぎると生地が緩んでしまうから注意も必要だが‥‥。確か用意していたはず」
「こっちにありますえ。でも、つなぎとしての水飴はともかく、甘みの方は無いも同然‥‥」
「いやいやいや。あなたの味覚に合わせたら、日本人困っちゃうから」
 水飴示して説明しているニキに、小町は困り顔で軽く肩を叩いている。
「こちらも調理開始! まずは豆腐だ!! 熱湯にじっくり着けた後に、一気に布に入れてきゅっと引き絞る!! 胡桃の殻は硬いが、んな物はぶち壊せ!! そして、中身を引っぺがす!! それらをすり鉢に放り込んで、一気に――磨り潰ーーーす!!!!」
 高速の手使いですり棒を動かすマナウス。その様は、気分が高調して好調‥‥というより、何かに憑かれたか如く。
「うぉさーーー。うさも負けないぞーー」
 その気迫に同調したらしく、うさも上機嫌で餅をつき続ける。
「お茶煮出すだけだから、こっちはもうやる事無いんだよね。どこか手伝いいる? あんまり料理得意と言えないんだけど」
「じゃあ、こっちでおにぎり結ぶの手伝ってもらえないか?」
「うさ。もう餅はええどすえって、どんだけ作りますのんや」
「じゃ、こっちで御萩作りと行かないか?」
「ははははは、ここで人参を熱湯で湯通‥‥待てそここっそり試食にはまだ早い!!」
「こっちも人参が無い、です!! 何時の間に、ですか??」
「それより何か異臭がするんだけど何使ったのよぉ」
「これじゃないですか? 納豆」
「やっぱり京の人にはちょっと合わないのかな」
 などなど。手も動くが口も動く。
 以上、賑やかな厨房からお届けしました。

 戦い済んで日が暮れて。
 普段とは違う得物の扱いに泣く者、むしろそちらを得意とする者。その歴戦の爪痕を残したまま、一同は座り込む。――ま、簡単に言えば、お片付けそこそこお食事時間に入っただけ。
「あいにく月は細い、ですけど。満月でなくてもお月様は綺麗だと思う、ですよ」
「そうだな。それに月明かりが少ない分、星が綺麗に見える。これもこれで風情だな」
 少々不満げなうさを宥め、空を見上げて烈閃は一つ微笑む。
 ちなみに、一番上座にいるのは出雲。月の妖精をうさが完全に崇め奉っている。次席が子兎・美床。それ以下が冒険者。うさは主張を頑として譲らない。
「ま、いいけどね。しかし、化け兎‥‥。こういうのがちょろちょろしていると、京に帰ったと思うよ。うさは京に来て長いのかい?」
 尋ねる桜華に、うさが首を傾げてから小町を見上げる。
「そうね。いろいろあって一度江戸に戻ってまたこっち来たけど、それから考えても‥‥げっ、もう一年近くかぁ」
 感慨深そうに見つめ返す小町。うさは分かってるのか無いのか、さらに首を傾げるだけ。
「でもね。この子は保護観察であたしが面倒見てるだけなんだから、結構例外よ」
「でも、京の妖怪事情は以前と変わらずなんだろ? 少なくとも良くはなってないと見るけど」
「そうなのよねぇ‥‥」
 指摘されて軽いため息をつく小町。京の不安定さは陰陽寮としても頭が痛い所。
「ともあれ、今はそういう話は無しなし。そんな事より、早く皆の案をいただくとしよう。なかなか凝った食事を作ってくれるから楽しみなんだよな」
 上機嫌な律吏に促されて、卓に作った料理を並べる。
 料理の出来栄えは様々なれど、どの道、店頭に並ぶのは寺田屋が誇る料理人。今はただ試しに作った料理に不備が無いかを検分できればそれでよし。
「そんな訳で。私のは題してねばねば月見蕎麦。御神楽殿にも手伝ってもらって作った手打ち麺に、めかぶとなめこと納豆を入れ、卵で月を表現してみた。
 こっちの蕎麦には納豆じゃなくていくらを入れてある。お登勢さんにはこちらを勧めるつもりだ」
 ルクスが並べた椀には、それぞれ具が少しだけ違う。納豆を見た小町は少し笑みを強張らせているようにも見えた。
「『ねばー』はイギリス語で『永遠に』とかいう意味。お月様が永遠であるように、とかそんな意味の料理になるかな? ねばねばする食べ物は体に良いものが多いしな」
「おー。お月様は永遠だー」
 解説入れるルクスに、うさはよろこんで諸手を上げる。
「うん。まぁ、納豆のも結構いけるけど。でも、いくらにするなら、なんで納豆入りを作ったの?」
「いや、京の人間がどういう顔するかなと思ってな」
 あまりにさらりと真顔で告げものだから、小町が飲んでた汁を吹く。ま、何だかんだ言って京の人間だって食べる人は食べるし、食べない人は食べない。そういう食材だ。
「こっちは御飯物だな。秋といえばやはり新米だろう。きのこ、栗、五目で三つの炊き込みご飯を作っておにぎりにしてみた。そっちの御稲荷はすし飯じゃなくて、その炊き込みご飯を入れている」
 烈閃は黒漆の皿に三個並んだお稲荷さんで、夜空に浮かぶ月を演出。
「おにぎりは小さめに作ってある。そうすれば女性や子供にも受け易いだろ。時期によっては鮭の混ぜ御飯に変更したりと応用も利くしな」
「確かに、幾らでも入りそうだな」
 両手におむすびを持ちながら、律吏が頬張っている。それをまねしてうさもひょいひょいと気軽に口に入れていた。放っておいてはそのまま全部食われかねず、まぁ落ち着けと一旦皿を取り上げる一幕。
「胡桃と人参を使った和え物だ。すりつぶした胡桃と豆腐に人参とこんにゃくを混ぜてある。いやあ、作るのは大変だった」
 爽快な笑みを作って、マナウスは額の汗を拭う。
 確かに料理自体はそう複雑ではない。が、沸き起こる情熱のままにひたむきに料理に取り組めば、普通に料理する以上に労力を使う。しかし、それを乗り越えた時に到達する食の達成感。すばらしきかな料理の世界。
「まぁ、料理中の行動はさておき。いいんじゃない? おかずの一品でもいいし、酒の肴にもなりそうだし」
 まだ高調の余韻が残ってるのか陶然としているマナウスに、小町は固まった笑顔を崩して真面目に頷く。
「食べてばっかりもなんだから。白餡に栗を混ぜて黄色くしてもち米団子に塗りつけて〜。料理も前回基本を学び‥‥得たはずだし。それに梔子もあったから、綺麗な黄色になっただろ」
 言って律吏が並べるお月さんなオハギ。梔子の実は保存が効き、正月料理の色付けにも使われたりと用途も広い。
「継ぎ接ぎだからぼろいのか?」
「違う! 継ぎ接ぎじゃなくて月萩。それにそれはうさに手伝ってもらった奴だぞ」
「むー。うさのはこっちの綺麗な奴!!」
 否定する律吏を、うさはさらに否定する。しかし、傍から見るとどっちもどっちに見えたりする。指摘はしないが。
「団子が揃いました、ですね。僕は人参餡を中に包んでみた、です。豆月と命名して、みました」
 銀杏の団子は、薄皮の中にほんのりと中の赤みがかった餡が透けて見える。人参と聞いて飛びつこうとしたうさを慌てて止めて、改めて手渡した所、喜んで辺りを飛び跳ねていた。
「こっちはみたらし団子を作ってみましたんや。それと、里芋を皮の繋ぎにした饅頭風を。香辛料が手に入るんやったら月見カレーが出来たんやけどなぁ」
 香辛料はさすがに高い物が多くて、なかなか数が揃わない。残念そうにしながら、供えるニキの団子は三宝に載せてある。本当に月見の風情だ。
「甘い物が揃ってしまいましたか? 私は栗が思いついたのでそれを使って餡を作ってみましたが」
「大丈夫よ。そもそもはこの子の我儘からなんだし」
 潰した栗を満月に見立てて形を整え、皿に盛り付けてある。これもまた綺麗なお月様な一品である。
 それを手にしたまま少々悩む澄華に、小町はうさの頭を撫でながら笑って告げる。そのうさは、あちこちにある『お月様』に目を輝かせっぱなし。
「甘い物を食べたら、お茶で一服。と言う訳で、銀杏葉茶をどうぞ」
「銀杏、ですか」
 桜華から手渡された茶を、少々複雑そうな表情で銀杏が受け取る。
「そう、銀杏。中々味があるし、体にもいいし。出来ればお茶の色を黄色に出来たらよかったんだけど‥‥。誰か試してみる?」
 冗談めかして栗と卵を用意する桜華。ちなみに、銀杏葉は本当に体にいいそうな。
「すりつぶして栗入れても、卵を溶いて入れても、お茶で水っぽくなるだけだし。銀杏のせっかくの風味も薄れちゃうわよねぇ」
「だろ。だから、無理に変えない方がいいと言う結論になるに一両な」
「ヲイヲイ」
 金貨を手にして笑う桜華に、横から突込みが入る。

 秋はすぐそこ。並んだお月様な食事に、これで名月を迎えらえれるぞとうさは御満悦。寺田屋の方は、さて気に入っていただけるか。
 その判断はお登勢さんの胸一つである。