【寺田屋の台所裏】 亀と狸の無謀な野望

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:08月27日〜09月01日

リプレイ公開日:2006年09月04日

●オープニング

 京の都には化け兎が住む。うさと呼ばれるそいつは、一見愛くるしい外見を利用し、その実我儘放題に振る舞い、周囲を振り回す。
 特にその暴言は聞くに堪えず。ヒューマンやそれに類する人種は総じて爺か婆。シフールは虫。河童は亀と呼称し、それが当然であると断じて止まない。
「このような暴挙が果たして許されてよいのか。いいや、良くない!」
 これに憤り危惧を抱くのは、一人の河童。
 化け兎・うさとは、実は江戸にいた頃からの付き合い。その頃から、常日頃ずっと亀と呼ばれ続けてきた河童。それが許せず、京都までうさを追ってきた、ある意味しつこく――暇な人である。
「あまつさえ、お月様普及などという野望を、京の町に浸食させようとしている。これを食い止めるのはやはり冒険者の役目であーる!! ああ、決してそろそろ胡瓜の季節が終わるのに、暢気にお月様な食事を考えてんじゃねぇぞえぇこらー羨ましいじゃねぇかな話ではない!!」
 断言したから違うのだろう。多分。
「とはいえ、奴にはだまされて協力する奴も多い。おいらだけでは多勢に無勢。さて、ここはどうすべきか?」
 盛り上がったはいいが、賛同してくれる者は無く。とりあえず、ギルドにでも赴いて誰か募ってみるかと歩きかけた、その時だった!
「「「「お困りのようだな!!」」」」
「何者!!」
 背後からかけられた声。振り返った亀が見たものは――
「‥‥‥‥変態?」
 年の頃は十代後半。人間で、多分美形の内に入るだろう少年たち四人組。太陽背負って逆光の中、各々が格好つけてるが、どういう訳か全員素っ裸。葉っぱ一枚つけちゃいねぇ。息子も元気にお披露目だ。
 即行亀は回れ右。暑い時には脳も沸く。妙なのに絡まれない内に逃げるが吉。
「「「「そんなヘタレ根性でいいのか? お前はあの馬鹿兎をいてこますつもりではなかったのか!!」」」」
「な、何故それを!!」
「「「「我らの力を持ってすれば、それぐらいお見通し!!」」」」
 戦慄する亀に、自信持って言い張る少年達。いや、単にさっきの独り言聞かれてただけだろうに。
「いいか、そこな亀!」
「河童じゃ!」
「細かい事を気にするな! 禿げるぞ!!」
「もう禿げとるわい!!」
「ポン五右衛門さん聞きました? やっぱり、あのお皿は禿げだったんですって」
「まぁ、お若いのに大変ねぇ」
「帰る‥‥」
「「「「いやいや、待て待て」」」」
 も一度後ろ向いて歩きかけた亀を、四人すがり付いて止める。
「つまりだ。我らもあの馬鹿兎に強い恨みを抱いている。つまりはお前と我らは同志! 同志である以上、同士で化け兎を泣かせに行くのが筋というもの! 幸い、我らには今回力強い助っ人がついている!!」
「って、俺は小町に言われてお前らの様子見に言っただけ。ちょうど暇だったし」
 両手ひらひらされて紹介されたのは、一見普通の西洋人。亀にも見覚えがあったのは仇敵うさが潜り込んでいる陰陽師の家に居候というか、食客というか、便利屋として捕まっている相手だから。
 名前は不明。猫と呼ばれるこの青年は、実は単なる人ではない。
「このお方は何を隠そう。刀で煮ても焼いても食えやしないという頑丈さを持つ化け猫なのだ!!」
「いろいろ違うが、もう面倒なんで訂正はしないぞ」
「って、単なる妖怪じゃん」
「あ。こいつらも人に化けるだけが能力の馬鹿狸だから注意しろよ」
「「「「何を! 化ける以外にも金玉を程よく広げるという技を持っていた事もあるぞ!!」」」」
「過去形か」
 何故か威張る四人組に、脱力している猫と、それを疲れた目で見つめる亀。
「何はともあれ。俺も冒険者の一員だ。妖怪と分かったからには、話はもうない。今は見逃してやるから、向こう行け」
「「「「くくく。愚かな」」」」
 追い払おうとした亀を、しかし狸たちは邪笑を持ってあざ笑う。
「我ら四匹。あの馬鹿兎に恨みあり。確かにそれだけなら妖怪同士の一喧嘩に過ぎない。だが、あの兎がいるのは京の中。そこに我らが赴けばどうなると思う?」
 狸の言葉に、亀がはっと顔を上げる。
「まさか‥‥京の人たちを巻き込もうというのか!!」
「ふっ、我らにその気はさらさら無い」
「だが、結果的にそうなるかもしれぬ」
「それもこれも、すべてはあの化け兎が存在するせい」
「この問題を回避する策はただ一つ!!」
「「「「「あの馬鹿兎をけちょんけちょんに伸し潰す事!!」」」」」
 狸たちと亀。がっちり拳握って京の町に宣言する。
「そんな邪悪な事はさせてたまるか!! よーし、都の平和を守る為! 馬鹿兎をぶちのめしに行っちゃうぞー。お月様なんてくそ喰らえだー。胡瓜の恨みもぶつけてやるー」
「「「「おー!! 我らも手伝うぞ!!」」」」
 うきうきと走り出す亀の後を、化け狸たちが従う。
 何かが違うと思いつつ、猫はどうしたものか悩んでみた。

「って言うかさー。こっちはお登勢さんに頼まれたお品書きをゆっくり考えたい所だし、秋の味覚に喰い倒れて楽しくやりたい所にそういう横槍は無粋で邪魔な訳よ」
 そして、冒険者ギルドに顔を出したのは、陰陽師の小町。一応、化け兎と化け猫(?)の家主である。
「あいつら来ると素直に話が進まないし、構ってる暇も無いの。なんでこっちに来ないよう、こいつと一緒に奴らを食い止める人、お願いね」
「はぁ、ちょっと待て。何で俺まで!?」
 化け狸と亀の野望を知った猫。とりあえずは小町に知らせてみた所、ギルドに連行。なんだかなし崩しに厄介ごとを押し付けられて呻くも、問答無用。
「だけどさ。妖怪とつるんで騒動起こそうっていうなら、亀の奴、その時点で冒険者資格剥奪されてもいいんじゃないか?」
「だました相手が相手だしねぇ。それはちょっとかわいそうかも。‥‥でも、人様に迷惑かけたらそうも言ってられないし、そうならない為にも適当に相手したげてよ」
 小首を傾げた後、小町は小さく頼み込んだ。

●今回の参加者

 ea0213 ティーレリア・ユビキダス(29歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea2454 御堂 鼎(38歳・♀・武道家・人間・ジャパン)
 ea7055 小都 葵(26歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea8904 藍 月花(26歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ea9502 白翼寺 涼哉(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb1872 瓜生 ひむか(22歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)
 eb2483 南雲 紫(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

カシム・ヴォルフィード(ea0424)/ サントス・ティラナ(eb0764

●リプレイ本文

 京を騒がす化け狸たち(?)。それになぜか冒険者の河童が絡み、妙な事態が進む。
 ひとまず、依頼された冒険者達は狸の巣であるとある小さな寺を訪れていた。
「覚えていてくれて何よりだわ。忘れてたら、いろいろと思い出させてあげる所だったんだが」
「まぁ、いろいろ世話になったし。‥‥っていうか、何故そこで刀を構える」
 刀を握って何となく肩を落としている南雲紫(eb2483)に、猫は冷や汗交じりの目線を向ける。
「気にしないで。そういえば、彼女が出来たとか聞いた事があるけど?」
「何だそれ? 嘘嘘、出鱈目だ」
 小首傾げる紫に、猫は気の無い風にあっさりきっぱり否定を入れる。
「猫さーん。おひさしぶりでーーす♪ お元気でしたか〜」
 いつもどおりの明るい笑顔。両手広げて駆け寄るティーレリア・ユビキダス(ea0213)を、いつもどおり猫は素早く避ける。
「はううう。いつも言ってますけど、避けちゃ駄目ですよぉ。元気に挨拶できないと一日つまらないじゃないですか」
「だから飛びつくなって。後、抱きつくな。挨拶なら言葉を交わせば十分だろ」
 涙目で訴えるティーレリアに、猫はきっぱり諭す。
「ううう。ふかふかにもなってくれませんしー」
「今の時期は暑いだけだろうが。それとそっちの方にはあまり行くなよ」
「あ、忘れる所でした」
 寺の周辺。一見普通の庭などに見えるが、藍月花(ea8904)がいろいろと罠を仕掛けてある。うっかり引っかかると、とんでもない目に合う。
「猫さん、お久しぶりです。体調を崩されたりしてませんでした? 旅に出たがってましたけど、進展ありました?」
「いたって無事さ。旅は‥‥まぁ、自粛してるさ」
 お土産を渡しながら尋ねる小都葵(ea7055)に、猫はすんなりと答えている。が、どこか重たげで目線そらし気味。非常に怪しい。
「本当ですか? 旅に出たいのを無理に引き止めたくはありませんが、いろいろと見て来ましたから心配なのです」
 どこか心配顔で告げる葵を、猫はそれを適当に返事して躱している。
「まぁ、今回は周囲に罠を巡らせてますから、旅に出たくても早々抜けられませんよ。大事なお役目もありますしね」
「そうね。御協力感謝だわ」
 笑って告げる月花に、紫も同意して軽く頭を下げる。
 今回の目的は、暴走する狸と亀を止める事。その為に、猫は彼らをおびき寄せる人質として『捕らえられて』いるのだ。
「和尚も場所を貸していただき感謝いたします。いつぞやは世話になりましたが、その後体調はいかがでしょう?」
 寺の持ち主である和尚に、白翼寺涼哉(ea9502)が丁重に御挨拶。
「おお。今は一安心と言う所じゃの。それにしても、ちょくちょく出かけるんで何をしているのかと思いきや。一応冒険者の方の所に行くからと安心しておったのに」
「本当。狸が懲りてないのはやっぱりって感じだけど。駆け出しとはいえ、冒険者まで混じるなんて‥‥。ボーズマンの戦いはまだまだ続く、という事なのかしら」
 がっくりと肩を落とす和尚の隣、似たような表情でステラ・デュナミス(eb2099)もため息つく。が、両者共にそれ程深刻でもなく、むしろどこか面白がっている風情がある。
「とにかく、狸を誘い出して。皆さんにきついお仕置きをしてもらえばいいのですね?」
「言っとくけど、普通にきついお仕置きじゃ、あいつらは反省なんてしないよ。何せ筋金入りだからね」
 確認する瓜生ひむか(eb1872)に、御堂鼎(ea2454)はにやりと笑みを浮かべる。
「しかし。猫質なんて取ったって。あいつら本当に来るのかね」
「大丈夫。ちゃんと招待状を知人に頼んで届けてもらっている」
 ややうんざりぎみの猫に、涼哉は力強く頷いて見せる。それでも信じきれない様子で猫はいたが、
「心配御無用のようよ。どうやら来たみたい」
 耳を済ませて紫が門の方を見遣る。
 やがて聞こえてくる足音。複数あるそれは単なる人の足音でもない。急ぎ駆けて来る足取りは、はっきりとこちらに近付いており、
 そして、

 どんがらがっしゃんばさばさざくぼきばきべしぼきぐしゃぐしゃ‥‥。

 派手な音を立てて、寺の周辺から土煙が上がった。舞い上がった落ち葉などで、一時景色が見えなくなるほど。その煙が晴れた時、
「「「「むぅ、何故だ! 何とも無かった寺の周りで縄で吊るされ、網に絡まれ、穴に落ちて逆杭の隙間に嵌って、屋根の油に滑って腰を打たねばならん!!」」」」
「そういう風に私が仕掛けたからですが、全部にここまで綺麗にひっかるとは‥‥。特に亀さんは冒険者なんですから、少しは対処するすべを覚えた方がよろしいと思いますよ?」
「うるせええ!! それと、亀じゃねぇええーー!!」
 かかっているのは、四人の素っ裸な少年と一人の河童。素っ裸少年は化け狸が人化けした姿である。狸らの方は、網に絡まりついでにふらふら玉も揺れており、葵を始め女性幾人か目をそむける。 
「けど、河童は種族名ですよね? でしたら、亀が名前なのでしょう?」
「違あう!! しかし‥‥ふふふ。邪魔な兎がいない今、名乗りを上げる絶好の好機! 聞いて驚け俺の名は!!」
「「「「あああー、馬鹿兎があそこに!!!!」」」」
「何ーっ!!」
 ぐりんと亀の頭が素早く回る。
 ぶら下がったままの狸たちが一斉に指し示す先。庭の真ん中に確かに化け兎の姿があった。長い耳をピンと立て、二本足で立って狸らの方を見つめている。
「「「「「おのれ、ここで会ったが百年目! 目にモノ見せてくれようぞ!!」」」」」
 狸と亀。声を合わせて叫ぶと、罠の網や縄を一気に引きちぎり、化け兎へと一斉に飛び掛る。
「「「「「かーくごー!!」」」」」
 兎は逃げない。逃げたくても逃げられない。必要も無い。
 なぜなら、兎に到達するやその姿をすり抜けていた。目標を失った五体は、飛び掛った勢いのまま互いに頭を激しくぶつけてもつれ合って転がる。
「残念、ファンタズムです。そしてこれはシャドウボム」
 ひむかが経巻を広げて祈れば、さらにその影が爆発。綺麗に吹っ飛ぶ亀・狸。
「はははは。やっぱりポン達は相変わらずだね。お前ら以上のお馬鹿は海外でも会えなかったさ。早々帰ってきたかいがあったよ」
「「「「とーうぜん! 我ら四体、絶対無敵!!」」」」
 大笑いしている鼎の前で、四体並んで堂々胸を張る。
「あの‥‥胸を張るのはいいですけど、お着物着て下さいです。裸でいると騒ぎになりますし、邪魔する以前にうささんにすぐ気付かれて逃げられてしまいますよ?」
「そうです。ポン太、ポン吉、ポン助、ポン次郎、悪さを止めて下さい。うさに関わっても君達にいい事ないです。悪さを止めれば遊びに行くですけど、裸だと遊んであげないです」
「「「「やーなこった」」」」
 事前に入手した服を餌にティーレリアが頼み、ひむかも口添えるが、返答は一斉並んでべろべろばー。
「我らがうさぎを恐れるとでもいうのか」
「むしろ、逃げるなら喜んでやるさ」
「我らの美学を理解せん奴と遊ぶ必要も無いしー」
「自由に生きてく、それ大回転」
「いやあああ〜〜〜」
 腰振って踊り出す狸たちに、葵が泣きながら猫の後ろに隠れる。気持ちは分かるので、黙って背を叩いて宥めていた猫だったが、
「そこまでだ、狸たち。猫がどうなってもいいか?」
 その首筋に刃物が突きつけられる。紫の霊刀・オロチであり、勿論それを使っているのも彼女である。
「ああ、兄さん!」
「何しやがるそこな女!」
「いたいけな兄さんを人質に取るとは‥‥」
「はっ、さてはあの謎の褌はこの事を示していたのか!!」
「褌?」
「うむ。なにやら素敵な模様入りだ」
 言って、狸たちが広げたのは一枚のくたびれた褌。そこに書かれていたものは、
「『ふにゃ●んぽんぽこ&ち●●すバカッパ。
 ネコはあずかった。くやしかったらこんやのオカズをもってこい。さもないと、もまえらのふにゃ●んチョンぎってくしざしにしてネコなべにブチこむぞ。  うまなみ・さんしろー』? はて何のことやら」
 最後には可愛い犬の足型付。淡々と読み上げた涼哉は、訳の分からぬ表情で首を傾げる。明らかにとぼけているが、それを見抜ける狸らではない。
「笑顔が素敵なおっさんからこれを受け取ったが、何か良く分からんから捨てようとしたら、ここにいる亀がこれは文字だと解明し、事情を知った我らは是非なべを食おうとあちこち探しまわったがよく分からんので、とりあえず今夜のおかずを持ち出しに戻ってきたら運のつき! さあ、兄さんを放せ!!」
「喰うつもりだったのか、てめぇら」
「確かに。時間はともかく、どこでやるかぐらいは入れておくべきだったか? 次回の課題かな」
 じと目で狸を見つめる猫。涼哉は思案げに褌見つめて考え込んでいる。
「はっ、て事は。このち●●すバカッパと書きなぐった奴もここにいるのか!! さてはお前か!」
「違います。この子はぬーさんで、うまなみ某さんじゃないです。亀さん、酷いです」
 ようやく復活した亀がボーダーコリーを指差するも、ティーレリアが否定を入れる。
「亀じゃねえええ!!」
「でも、私が人間のティーレリア・ユビキダスで、猫さんは獣人の猫さんなんですから、河童の亀さんでお名前でしょう? 違うのでしたら、お名前はなんと仰るのでしょう?」
「俺も猫は単なる呼び名で名前じゃねぇぞ。‥‥多分だが」
 小首を傾げるティーレリアに、猫も首を傾げる。そちらに構わず亀は目を輝かせる。
「ふっ、さっきは邪魔されたが、今度こそ! 俺の名は」
 だが、その名乗りも途中で消える。
「サイレンスです。魔法を使われたりしたら困りますから」
(「何故、この時点でかけるうううううー!!」)
 その後の動きを言葉にしたらそんな感じ。凄い目でひむかを睨みながら、ぐねぐねと身を捩じらせる亀。
「おしゃべりはそこまでにしな! 兄貴が姉貴になっていいのかい!」
「待て! 何する気だ!!」
 ハリセン片手に下半身へと狙いをつける鼎に、猫の方が焦っている。
「示現流にはモノを破壊する技があってね。狸らはアレを広げられなくなったけど、それ以上の苦痛を猫のアレが味わう事になるかもね‥‥」
 低く笑う鼎。その顔は完璧に悪役の表情をしている。
「やめんかーーい!! そういう事なら、人質なんぞやってられっか!!」
「おとなしくして。それとも痛い目にあいたいのかしら? ‥‥後で何かおごりますから」
 暴れる猫に、クーリングで冷気立ち上る手を突きつけたまま、ステラが告げる。勿論他に聞こえて困る部分は小声で。
「なんか、それぐらいじゃ割に合わん気がするぞ」
「まぁまぁ。本当に無茶するようならアイスコフィンで止めますです」
「お怪我なさったら、リカバーかけますから」
 ティーレリアと葵も口添えて、不承不承ながらも人質続行。
「「「「くぅ、いたいけな兄さんに何て酷い事を」」」」
「助けたかったら、私達と勝負して勝つ事だ。勝負方法は‥‥うーん、どうしよう。刀で死合うでもいいか?」
 悩んだ末に、霊刀握って告げる紫。それを見て狸たちは円を組んでしばし相談。
「兄さんはきっとそんな事じゃくじけはない」
「だが、この仕打ちを我らは永遠に忘れない!」
「その勇姿を胸に刻み」
「我らは馬鹿うさぎ退治に励みたいと思います!!」
「助けろ、てめぇら」
「「「「だって、絶対勝てそうに無いしー」」」」
 宣誓する狸らに、猫は脱力ぎみ。
「これ以上の騒ぎも良くは無いな。‥‥そんな訳で変身!! 仏罰戦士ボーズマンシロー・いーえっくすだねぃ。くらぇい!」
 ファンタスティックマスカレードにブラックゴード、漢の褌に素早く着替えると、涼哉は次々亀と狸に葱を刺す。苦しみ悶える亀と狸たちを、仕上げとばかりにコアギュレイトで縛り上げるのだった。

 が。
 魔法はいつか切れるもの。時間が過ぎて、亀と狸たちは解放される。
「「「「「このぐらいで‥‥くたばってたまるかああ!!」」」」」
「仕方ないですね。出撃です、巨大ロボ・明」
「のおおおお!!」
「「「おお、ポンカブト〜っ」」」
 熱い情熱燃やす彼らに、月花は冷ややかに命令を下す。巨大な大蛇はあっさりと狸を締め上げ、頭から飲み込んでいる。脱出しようともがいたり、助けようともがいたり。 どうにか助かっているが、ぜえぜえと肩で息して倒れる寸前。
「「「「こ、この程度‥‥くたばって‥‥」」」」
 それでもまだくじけない狸たち。
「ふん。確かにその見上げた根性は天晴れだね。化け兎の所には新撰組に見廻組、黒虎部隊に陰陽寮の奴らが手薬煉引いて待ってる。でも、あんたらは罠だと知っても立ち向かうんだろ? そういう漢さ」
 袖でそっと涙を拭う(ふりをする)鼎。その顔をきっと上げると、鋭い目で狸たちを見遣る。
「だから、ポン侍、ポン志士、ポン浪人、ポン僧兵! そこへどうしても向かうなら、呑み比べで勝ってからだよ! うちの屍を超えて行きな!!」
「「「「おう! 負けないぞ!!」」」」
 鼎に促され、意気ごむ狸たち。
「‥‥何か違うような気がする。化け兎をのしに行くつもりだったのに何で酒盛りになるんだ?」
 ここにいたって、ようやく首を傾げる亀。
「かっちゃんさん、胡瓜以外の瓜は好きですか?」
 そんな亀に、葵がそっと声をかける。
「胡瓜の長期保存はお漬物になってしまいますけど、他の瓜なら保存しておく方法があるですよ。しょうゆ漬けや辛子づけにすれば結構長く持ちますよ」
「その通り! 亀さん! あなたにそんな事をしている暇なんて無いんですよ!」
 提案する声に、月花の力強い声が重なる。
「過ぎゆく夏を惜しむ暇があるなら、来年の夏まで胡瓜無しでどう過ごすかを考えなさい。そうすれば、今が寝る間を惜しんで胡瓜の漬物を作る時期とわかる筈! 大量に作れば寺田屋に胡瓜の漬物が並んで残るやもしれません!!」
 はっきり断言され、亀の体に衝撃が走る。目は見開き口をあえがせ、けれど尊敬の眼差しを月花に向ける。
「そうだ‥‥。胡瓜がないなら作ればいいんだ!! 残せばいいんだ!!」
「さあ、ぬか漬けしば漬け味噌漬け酒かす漬け等々。胡瓜七色漬けを私と一緒に完成させましょう!」
「おう!!」
「よっ!、さすが京の町衆の為、体を張った冒険者の鑑だねぇ」
「いやいやいや、それ程でも」
 そして、寺へと駆け出す。その歩調は亀も狸たち実に軽やかだった。

 なお。飲酒勝負は達人の域まで昇華した鼎の飲酒量に叶うはず無く。酒宴の場にはただただ狸たちの屍が転がる。
「いやぁ、あいかわらず賑やかじゃのぉ」
「そうね。面白い物を見させてもらったわ」
 その傍で、和尚とステラが薬草茶を啜って一息つく。
 後片付けもきちんと済ませれば、後は何事もなく。万事が平和に終わった。