荒れる灼熱
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:8人
サポート参加人数:8人
冒険期間:08月29日〜09月03日
リプレイ公開日:2006年09月06日
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●オープニング
「畜生! 一体、何だってんだ!!」
それは静かなはずの山の中。小さな小屋が一つあった。
そこは狩人たちも滅多に来ない場所で、何時の間にそんな小屋が出来ていたのか。近くの村の人々は勿論、山を歩く狩人たちも気付いてなかった。
そんな場所が何故気付かれ、さらに人々の注目の的になっているのか。
それは小屋が燃えていたからだ。すでにおおまかな骨組みが分かる程度にまで燃えており、炎が高く舞い上がる。
昼日中で煙が見えたのが幸運だった。火事に気付いた一人が事態を悟ると、すぐに近隣の村々へ知らせに走る。何せ周囲は可燃物だらけ。放っておいては大惨事だ。
駆けつけた時、燃えていたのは用途不明の小屋だけで、周囲に飛び火はしていなかった。
これ幸いと即座に消火にかかったが、それを阻むように現れたのが巨大な火の玉。火の粉ではない。掌よりも大きなその炎の塊は不思議な伸縮を持って空を自在に飛びまわり、村人達に襲い掛かってきた。
火の精霊、鬼火である。その数、三体。魔法まで使うそれらに翻弄されて、村人たちはその場から逃げ出すを得ない。
どうしたものかと考えてる内にも火はどんどん燃え広がる。鬼火の放った魔法の所為もあって、すでに山まで燻り出していた。
「こっちに、人が倒れているぞ!!」
村人の一人が声を上げる。見れば、小屋から離れた茂みの奥で、ひどい火傷を負った男が倒れていた。
見ない顔だった。幾つもの村から人が集まってきていたが、どの村からも見たことが無いと返答された。通りすがりの旅人の風にも見えない。どころか、堅気の人間とも到底見えない。
「おい、何があった」
嫌な予感に苛立ちながら、男がごろつき風の相手を締めあげる。
「ひ‥‥火が。小屋にいきなり火が飛び込んで、あちこち燃やされて‥‥。兄ぃが火達磨にされて‥‥俺は、何とか逃げ出して‥‥」
「小屋にいたのか? あそこで一体何をしていた!」
「商売だ‥‥。火鼠が欲しいという奴がいて‥‥、まともに取引すると断られたり高値になるから‥‥裏から手に入れて欲しいと‥‥俺達に話が」
「!! それで、その火鼠はどうした!」
「小屋が燃えた時に檻が壊れて‥‥どこかに‥‥」
「畜生!!」
相手が重傷というのも構わず、村人は相手を殴りつけていた。それを止める者や、殴られたごろつきに同情する者は無い。
ようは裏取引の失敗での事故なのだ。小屋まで作ってたなら、前々からそんな事を繰り返していたのだろう。そんな相手に何を思う事があろうか。皆苛立ち半分で、残る半分も不安そうに状況を見るだけ。
そうして周囲を見ていた者があっと声を上げる。
新たな火の手が上がっていた。風向きや距離からして小屋から飛び火したとは到底思えない。
「火鼠ってのも、名前から火の化け物みたいだし‥‥。どうする?」
「とにかく、周囲の木を倒したり遠くから水を撒いたりして火を止めるんだ。それと、冒険者ギルドとやらに依頼を」
ぐずぐずしていられない。手早く方針を決めると、村人達は行動を開始した。
「そんなわけで、山が一つ燃えかかっている。村人たちの頑張りでどうにか消火できているが、火の大元が絶たれない限りは堂々巡りだ」
直接火を消そうとすると、鬼火が出てきて攻撃を仕掛けてくる。その為、鬼火に気付かれない辺りから火を消すしかない。そうやってどうにか消しても、いつの間にか全然別の場所が燃え出している。おそらくそれが火鼠の仕業。
「鬼火も火鼠も火の精霊だが、異種同士がつるむ事はそう無い筈。‥‥多分、捕まっていた火鼠の燃える炎を、よからぬ事に使われると判断して鬼火が怒り。火鼠も火鼠で捕まっていた事で気が立ったという所か?」
首を傾げるのは冒険者ギルドの係員だが。そんな推論はこの際どうでもいい。
「消火はどうにか手が足りているが、さすがに化け物退治はできないので、そっちをお願いしたいという事だ。消火の邪魔をする鬼火と、山火事を起こしている火鼠。これらの退治を頼む」
●リプレイ本文
「火鼠に鬼火か。じっくり観察したいが、そうもいかんか」
空にたなびく白い雲。それをさえぎるように山から灰色の煙が昇る。すでに薄く細くなっているのは村人たちの鎮火の賜物。とはいえ、いつまた燃え上がるか油断ならない。
リウ・ガイア(ea5067)が冷静に辺りの村人たちを見回す。重なる消火の疲れからか、皆、疲労の色が濃い。ゆっくりしている暇が無いのがよく分かる。それと確認すると、後は黙って空へと舞い上がる
「放火しまくる火鼠と、消火活動を妨害する鬼火。話し合いでどうにかなる状況でないのがちょっぴり悲しいですけど。このままでは悲しいでは済まなくなります。ここは引き下がれませんですよ」
「知人が消火を手伝ってたようですが、一日では焼け石に水ですね。‥‥火事はもっとも恐るべきモノ。村を江戸のようにしない為にも全力で向かわねば」
斑淵花子(eb5228)に、村人たちの手傷を見ていたアルフレッド・ラグナーソン(eb3526)も頷く。
前年の秋、江戸ではその全域を覆う大規模な火災があり、何十万もの人が冬を前に焼け出された。その傷跡もようやく癒え、先日大規模な祝祭が開かれたばかり。
「元は人のせいなれど、他の生き物も折るゆえな。斬るのにためらいはないでござる」
小太刀を確かめると、強い目で見つめ返す綾小路刹那(ea2558)。
「そういえば。その小悪党はどうなったの? 生きてるならさっさとお役人に突き出しなさいな」
その言葉で思い出し、ミア・シールリッヒ(eb3386)が不愉快とばかりに柳眉を顰める。
「一応生きとったで。酷い有様やったけどな」
嘆息一つ。飛火野裕馬(eb4891)が肩を竦める。
火鼠を捕まえた時の事を聞きに行ったのだが、悪党自身、他の悪党から入手したというだけで詳しくは分からなかった。
その悪党はといえば、火傷の手当てもそこそこ。治療と称して布を巻かれてはいたが、実質縛りつけられてるだけに変わり無い。私刑に合ってないのが不思議なぐらい周囲が殺気立っていた。おそらく消火優先の為、その余裕もなかっただけだろうが。
「精霊の売り買いで儲けようと考えるからこういう事になるんです。なじった所でどうなるわけでもないですが、手当ての義理も時間もありません。全てが終わってまだ生きていれば、その時手当てして責任を取ってもらいましょう」
それも当然、とばかりにマイア・イヴレフ(eb5808)。まともに考えれば非道な話だが、それだけの事をしでかしたのだ。同情する気にもなれない。
「そう話している間にも、さっそく動きだ。向こうで火の手が見えた」
空から警戒していたリウが、素早く降り来るや、一方を指し示す。
「放ってけば大惨事。一刻も早く倒さにゃなるめぃ。行くぜ、皆!」
鉄火調に勇んで告げるや、ルーク・マクレイ(eb3527)は、時を待たずに勢いよく走りだす。
「皆さんも消火活動をお願いします。襲ってくる妖怪は我々で倒します。皆さんには指一本触れさせません」
堅くアルフレッドがそう誓うと、感じ入ったように消火道具を村人達は握り締めた。
「皆さんはひとまず安全な所から水をかけて下され」
「退治したらすぐに火元まで駆けつけてちょうだい」
刹那と花子がそう告げると、心配と期待の入り混じった目で見てきたが、それもつかの間。村人達は消火にかかる。
火元に近付きすぎると、鬼火の襲撃を受ける。であるが故に、村人たちも距離を置いての消火活動しか出来ず、それがまた無駄な労力を使う要因になっていた。
が、冒険者たちはそんな鬼火の行動を逆手にとって、逆におびき寄せるべく火元へ向かう。
「まずは接触しやすい鬼火から当たり、そっちをなんとかしてから火鼠へ。手堅いのが一番ですね」
納得してマイアも頷く。
新たな火種は、発見が早かったからか。火はまださほど燃え広がっていない。
「とはいえ、熱いものは熱いですねぇ」
桶に大量の水や砂を用意して荷台で運び。自身も水を被ると、花子は持って来た柄杓でさっそく水を撒き始める。
「火傷しないよう、水も滴るいい女ってね。水で狂化する人には出来ないことだけど」
ミアも一言言い置くと同様に水を被る。
アルフレッドの知り合いが消火器具なども事前に集めており、鎮火はすぐと思われたが。
「来たぞ! 三体全てだ!!」
鋭い警告を入れるリウ。各々が素早く身構えた直後、小さな火の玉が飛んでくるや爆発した。
「三体とも攻撃力のある遠距離からの魔法を使ってきよります。後、どうやらファイヤーウォールにトラップとかも使ってくる感じやで」
村人に魔法の知識は無い。裕馬も詳しいとはいえないが、それでも一介の村人達より目にする機会も多い。
現れた三体の鬼火に、得物を向ける冒険者たち。
「待ってちょうだい。――おたくら! どうしても消火の妨害を止める気は無いのですか!?」
その前に花子が制止を入れると、鬼火たちに向かって話しかける。
『火を粗末にしたのはお前ら!!』
『妙な所に火をつけたり消したり。だったらいっそ燃やし尽くしてしまえ!!』
『火を粗末に扱うのはゆるさーん!!』
「こらあかん。聞く耳あらへんのかいな」
がっかりと肩を落とすと裕馬は大仰に首を横に振る。
『その通りだ。お前ら全員、罰を受けろ!!』
「そういう訳には行かないのです!」
怒りの声を響かせながら、一体の鬼火が突っ込んでくる。その灼熱を、躱す事無くただ急所を外して体で受けると、ルークは即座に日本刀で斬り返した。
刀の重みも加えた重い返し。避ける間を与えず繰り出され、鬼火は対処できない。隙をつかれて防御もできず、真正面からその刃を受ける。
二分された炎は、すぐに一つの固まりに戻る。だが、それは目に見えて勢いを失っていた。ルークが返す刀で斬りつければあっさりと四散し、消滅。後には何も残らない。
だが、それで向こうも警戒した。近寄るよりも遠くから魔法を放つのが有利と踏んだらしく、間合いになかなか入らない。
炎が不自然に揺れると、印を描き直後に火の玉が飛ぶ。被弾して四散した炎が周囲に燃え移り、下火になっていた炎も爆風に煽られてまた激しさを増す。
止まっていては狙い撃ちされるだけと、マイアは動くが、
「きゃあ!!」
その踏んだ足元から炎が吹き出す。何時の間にかけられたか、ファイヤートラップだ。
「動いても駄目。止まっても駄目なら、行動を起こさなくするのが一番でしょうか。‥‥邪魔はしないで下さい」
金鞭を振るって、マイアは鬼火を撹乱させようとする。自身攻撃力がないからと控えめだが、鞭が当たればそこから炎が欠けて飛んでいる。結構効いてるようだ。
『おのれ、ちょこまかと!!』
いらだたしげな鬼火の声。どっちがだとなじる前に、不意に一体の鬼火の動きが遅くなった。
「やっとかかったか。梃子摺らせてくれる」
アグライベイションを仕掛けていたリウ。詠唱の失敗は無かったが、さすが精霊というべきか、抵抗されてなかなか決まらない。
一体何度唱えたか。ようやく動きを鈍らせてくれて、ふう、と一息ついてリウが額を拭う。
『き、きさま!!』
忌々しげな精霊の声だけが届く。どうやら詠唱ももはやままならないようだ。
「ありがとうございます。これで安心して近付けます」
ほっとしたようにアルフレッドが告げると、さらにコアギュレイトを唱える。
最初はホーリーを撃っていたのだが、初級では今一つ傷を与えられない。そこで専門に唱えるが、そちらはまだ詠唱に失敗も多い。この後、火鼠がまだ残っている事、傷の手当てなどを考慮すると、魔力の無駄遣いもなかなか出来ない。
だからといって、コアギュレイトの初級はいささか距離が短い。魔法云々の前に体当たりされる可能性があった。
動きを封じられた鬼火が狩られたのは間もなく。
そして、残る鬼火一体。やはり魔法を封じるのにいささか手をこまねいたものの、やがては冒険者たちの手により霧散させられた。
とはいえ、それで終わりで無く。アルフレッドがリカバーで皆の傷を治したのもつかの間、すぐに残る火鼠を探しにかかる。
鬼火は所詮消火の邪魔をしていたに過ぎない。火の後始末は村人たちに任せ、冒険者たちは次の火種へと急ぐ。
「火鼠は新たな火種ゆえ、拡大し続ける場所に消火活動を続けていればいずれ当たるはず」
刹那の言葉通り。幾度目か火種を見つけて駆け出し、周囲を注意深く探せばやがて木の陰から飛び出る大きな物体。
鼠に似るが、燃える炎を纏わせるのは只者ではない。
火鼠。火山の近くで見かける火の精霊である。
相手は見付かったと悟るや、背中の炎を燃え上がらせ歯を剥いて威嚇する。
「落ち着いてぇな。こないな所に連れて来られた気持ちはよお分かるし、元いた場所に帰れるよう俺らも何とかしてみるさかい」
『うるさい!!』
短い一喝。同時に火鼠は駆け出し、体当たりを食らわす。
「おわっ、危ないやん!!」
体当たりの威力は鬼火に比べ弱い。が、服の可燃の部分が燃え出して裕馬、慌てて消しにかかる。
「こちらさんも、聞く耳無いのかしら? 放火を止める気は無いのですか?」
花子の問いかけに、火鼠は詠唱を唱える。赤い光を纏わせると、ぽつりと小さな炎が尾の先にともる。炎は近くの草にゆっくりと燃え広がっていく。
「止めなさい。落ち着いて頂戴」
マイアが訴えるも、それにも歯を剥いて飛びかかろうとしてきた。ぶつかられた後に焼ける痛み。それを押さえると、マイアは鞭を振るって牽制に回る。
「鼠と脚比べはやや不利でござるか? そうでもないでござろうか」
鬼火に比べてやや移動は遅い上、空を飛ぶことは無い。その分、機敏に足元を走り回ろうとするが、なんとか刹那が追いつける。体格差で向こうは苦としない草木に引っかかる事はあったが、そうやって刹那の手を逃れた所で、まだ他の冒険者達がいる。
「さすがは火鼠というんか。火があっついわ」
地を蹴り、土で動きを鈍らせながら裕馬が難儀そうに告げる。
衣服や防具に阻まれ、火鼠にぶつかられても裕馬の身自身はほとんど傷は入らない。が、触れた拍子に焼けどしそうな痛みを覚える。
比べて、鬼火はぶつかられると痛かったが、火の傷はさほどでもなかった。炎の塊に見えた鬼火よりも熱を帯びているのは、なにやら不思議な心地もする。
「熱いのは嫌なのよね。こっちには来ないでよ」
鞭を振るって、ミアもまた動きを阻む。というか、火鼠を遠ざけようとしている。
多勢に無勢。火鼠は攻撃しようにも機をつかめず、逃げようにも脱出口を見つけられず。
『ギイイイ!!』
苛立つように吼えると、破れかぶれとばかりに冒険者たちへと走り出す。
炎を纏った体当たり。だが、それを見定めて、鬼火同じくルークは攻撃されたと同時に攻撃を返した。
刀の荷重を考えて放てばどうしても大振りになり命中が甘くなる。だが、それを攻撃の隙に繰り出す事で補い、そして、火鼠は真っ二つに切り裂かれる。
かろうじて息は残っていたが、もはや動く気力はほとんど無く。やはり次の一手であっさりとケリがついた。
「ふむ。死骸は残らないものなのだな」
息の根を止められ、火鼠は炎となって消えた。リウはやや残念そうだ。
火鼠の皮で作られた品は火で燃えない、という話があるが、その肝心の原料があっさり消えてしまう以上、噂は単に噂なのか。あるいは何か特殊な加工方法でもあるのか。
燃やしまわっていた火種も、障害が消えて村人たちが大いに動き回り、さほどの時間をおかずに鎮火。燻る煙は立ち昇るものの、それが炎に転じる事も無ければ、新たな火種が生み出される事も無い。
怪我をしていた人々をアルフレッドが見て回り、ルークも出際に持たせてくれたおむすびを振舞いながら、村人たちと親交を深める。
全ての無事を確認すると、村人たちの礼の中、冒険者たちは京へと戻った。