何かが潜む
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月30日〜09月04日
リプレイ公開日:2006年09月07日
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●オープニング
秋近し。実りの秋は様々な食をそこかしこに実らせる。
それを目当てに動物達も動き出し、さらにそれを狙って狩人が駆け巡る。そして、さらにそれを狙って動き出す何かもいる。
「まただ‥‥」
辺りに漂う血の匂い。それに気付いた犬に導かれ、猟師たちはその有様を目にする。
地に横たわるは無残な屍。頭部や四肢はもげて無造作に打ち捨てられ、腸が広範囲にばら撒かれている。弔う為に残った肉や骨を集めても、それは人一人にはなりえない。いろいろな箇所が喰われ失われていた。
「周囲に足跡は‥‥無いな」
辺りを見回して痕跡を探るも、地面に残っているのは倒れた屍と自分達の跡ぐらいだった。
「見ろ、こいつの取った獲物が丸々残ってる。狼や狼なんぞの仕業でもなし」
その付近に落ちている袋。中には鳥や兎、それを取る過程で見つけたらしい実などが一杯詰まっていた。
単に動物が腹を減らして人を襲っただけなら、屍が獲った獲物も喰われて当然。だが、そっちは全くの手付かず。
「人が目当てか‥‥。なんか碌でも無い物が住み着いたに違いない」
最初に見付かったのは何時の頃か。猟師仲間が一人消え、血肉をさらしてみつかった。それから山に入った誰かが次々と襲われ、命を失う。
「村に段々近付いてきているみたいだな」
「人がいるのに気付いたか。このままでは危険だ」
「村まで近付かずとも、その近辺になったら子供が遊んでたり、女達が野草を取りに入ったりするからな」
口々に言い合う猟師達。誰もが深刻な面持ちをしている。
ばさりと大きな羽音がして木が騒いだ。とっさに目を向けると、単に鳥が一羽逃げる所だった。
誰ともなしに、ほっと息をつく。
「何にせよ、俺達の手には余る相手だ。冒険者ギルドに任せるとしよう」
その意見に反対する者は無かった。
●リプレイ本文
山に現れる正体不明の敵。人肉を喰らうという以外は手がかり乏しいそれの退治を任された冒険者たち。
「ギルドの資料を当たってみたけど。さすがに膨大な量から特定するのは大変だね」
疲れたように目を閉じ、肩をまわす六条桜華(eb5751)。
「飛行する妖怪は多いけど。その中で、人肉を喰らうとなるとやっぱり限られてくるね。一番の心当たりはアンデッドになるのかな」
「この前、以津真天ってのと戦ったけど、もしかしてまたそれ? でも、他にもいるみたいだし決め付けはよくないかも」
桜華の言に、うんざりと表情を曇らせるマキリ(eb5009)。
「遺体を見た人に話聞いたけど、遺体には歯形しか無かったそうよ。爪痕も多分狩りの最中につけられたものぐらいしか見当たらなかったらしいわ」
「ならば、以津真天の可能性は低くなる。あれの外見は鳥に近かったはずやし」
挨拶の際に聞きこんだ情報を川北水藻(eb5239)が口にすれば、泥田坊独丸(eb6262)がさらに深く考え込む。以津真天はやせ細った首の長い鷹のような姿をした妖怪。歯形よりも残る痕は啄ばまれるか掻かれるかになりそうなもの。
それは同時に、もう一つの心当たりの可能性を強くさせる。
「とはいえ。突然変異の変わりモノとか、滅多に見なくて資料も無いような希少種がいるのも確かなんだし。油断はできないよ」
資料もまた絶対ではない。それは所詮、記す事の出来た記録でしかない。ギルドの資料を漁って、桜華はそんな事にも気付いていた。
例えば、昨年春にいきなり京を襲撃した黄泉人という妖怪がいい例だ。出現当時、その存在を知る者は誰一人とて無く。正体も目的も能力も弱点も、何もかもが分からぬままに戦いを余儀なくされ、何千もの民が長く苦しめられたのだ。今は大方が退治されたのだが、生き残りがまだいるとかいないとか。
風魔法すら操る黄泉人たちならリトルフライを使えば、今回のような事も可能だろう。もっとも、黄泉人に血を吸われた者はやがて死人憑きとなって蘇る。が、村の犠牲者にそんな兆しはさっぱりない。それを思えば奴らの可能性も低いのだが。
「正体もその数も分からないか‥‥。いいじゃない、私達で化けの皮を剥いでやりましょう」
望む所だとばかりに緋神那蝣竪(eb2007)が勇んで告げる。恐れるモノなど何も無いというかのように。
「敵が分からないのは厄介だけど。何にも万全で行けばいい事よね。でも、兎や鳥には見向きもせず、人だけを襲う魔物というのはどういう所以で生まれるものなのかしら」
「きっと何かが病んでしまっているモノなのでしょうね。山をつついてでるのは鬼か獣か‥‥。いずれにせよ、放置はできません」
首を傾げる水藻に宿奈芳純(eb5475)が答える。その言葉には力があった。
犠牲者が出ている以上、山の怪異は村でも噂になっていた。まだ大騒ぎにまでは至ってないが、心の底に染み付いた不安は少しずつ淀み、気を荒らす。
そんな村人たちに「怪異は消去する」と告げて回った芳純。
その約束を守る為にも、引く事は出来なかった。
山の中。ひとまず怪異が出た場所へと向かう冒険者たち。水藻の知人が山の地理を調査しており、そこに村人からの情報を足せば、山を進むのはさほど苦ではなかった。
ただし、表立ち堂々と道を歩いているのは独丸一人。あとはその後を離れてこっそりと。独丸を囮に正体を突き止めようというのだ。
人食いである以上、どこからか襲ってくるのは確実。村人には山を出入りしないよう頼んであるので、なおさら狙われる可能性は高くなる。
問題はどこからどうやって狙われるかだ。山にいる直前まで色々話し合い、おそらくはという見当はすでについている。が、確実にそれという証拠も無い。
足跡が無いという事で、飛行するのだろうと大方は空を注意している。そればかりではと足元も注意しながら、一向は奥へ奥へと進んでいく。
「見付かった現場を繋ぎ合わせて考えれば、今度の襲撃地点はそろそろになるはずよ」
さすがに緊張した面持ちで、那蝣竪が周囲を見渡す。
一見妙な所は何も無い。
「特に熱のあるモノはなさそうだね」
インフラビジョンを使った桜華の目には、冒険者たちや人の気配を察し逃げる小動物が赤く見える。
独丸は空からももちろん、足元にも注意しながら進んでいる。だが、その周辺に妙な事は無く‥‥、
いや、
「上だよ!!」
桜華が鋭く警告を発する。
最初、実か何かが落ちたのだと思ってしまったのは、それが単なる物の温度しか持たず、それまで動いた様子もなかったから。敵が不死者の可能性を考慮し、実にしてはいたく巨大な事に気付かねば見過ごしていたかもしれない。
警告同時、降ってきたものに対し、独丸は容赦なく六尺棒を奮い立てた。
棒に弾き飛ばされたそれは、また音も無く宙へと舞い上がる。
その正体は、
「やっぱり、釣瓶落としかい!!」
予想が当たっても喜ぶ事無く。むしろ苦々しい表情で独丸は叫ぶ。
ぎょろりと見つめてくるのは人の頭。胴体は無い。ただ頭だけが不自然に宙を飛び、歯を剥いて襲い掛かってくる。
そして、六尺棒を構え直した独丸にさらに新たな釣瓶落としが落ち来て襲い掛かる。
その数、全部で十六!
「多いよ!!」
「近くに洞とかも無いみたいだし。ここで殺り合っても同じね」
軽く舌打ちすると水藻は手裏剣を放つ。相手は自由自在に空を飛ぶ。飛び上がれないように追い込むのが一番なのだろうが、下手に制限ある場所に入ると、こちらの動きも制しかねられない。
とはいえ、動きを制する方法なら他にもある。
「アンデッドと分かっている以上、無駄な魔力を使う道理は無いでしょう」
生首だけの獣がいるとは思えず。さっさと芳純は鳴弦の弓を取り出し、その弦を掻き鳴らす。邪悪を祓うとされる弦の音に、釣瓶落としたちは動きを鈍らせた。
「とはいえ、長くは持ちませんよ。なるべく早く願います」
一体一体はそう強くない。水藻の手裏剣でも刺さればかなりの痛手だし、独丸に殴られればさらに手酷く凹んでいる。が、何せそもの数が多い。全てを退治する前に、芳純の魔力が尽きる可能性は高い。
「じゃあ、さっさと終わらせましょうか。人の血肉を求める代償‥‥その身に刻んでやるわ!!」
那蝣竪が疾走の術を唱えるや、右手に風車を構えて釣瓶落としたちの中へと飛び込む。勿論、単なる風車でなく、斬りつければ奴らの顔がぱくりと斬り裂かれる。
「狙い、間違えんといてや」
前衛を勤めるは結局独丸のみ。
那蝣竪は襲い掛かってくる釣瓶落としも危なげなく躱すと、むしろ釣瓶落としたちを撹乱させるべく動き回っている。
その只中に、桜華は狙い定めてエウリュトスの弓に矢を番える。
「そんなヘマはしないよ」
軽く言い返すと、一気に放つ。フレイムエリベイションで高めた士気で、狙い違わず、噛み付こうとしていた釣瓶落としを射抜く。すでに手痛く撃たれていたそいつは地面にころりと転がる。
「羽も無しに飛ぶなんてどうなってるんだろう。何かずるいよね」
音も無く、宙を飛ぶ釣瓶落とし。鳥ならば翼を射抜けば地に落ちるが、奴らの飛翔を止めるには結局息の根を止める以外無い。
ライトショートボウを構えると、マキリも釣瓶落としに矢を射掛ける。気付かれた以上、狙っても当たらないと数を頼みに矢を放つ。
「あらら、もう手裏剣が無くなったわ」
射撃系の短所は放てば手元から無くなってしまう事で。手持ちを無くして目を丸くする水藻に、好機とばかりに釣瓶落としが群がる。それをすんなり躱し、水藻は放った手裏剣を拾い上げると、改めてまた釣瓶落としに投げつけていった。
やはりというべきか。やがて芳純の魔力が尽き、鳴弦の弓の音が効力を失っても釣瓶落としたちを討伐しきるに至らない。が、それでも大方が葬れており、残っていたモノも傷だらけで襤褸同然。
討伐の最中、釣瓶落としが逃げてしまう事を懸念した者もいたが、その気配は一向に無く。むしろ、そんな身になっても執念のように人を食もうと襲ってくる様は、薄ら寒いものを覚える。
残っていた数体にも引導を渡せば、もはや飛び交うものは無くなった。
冒険者たちの中で一番負傷したのは独丸だが、それも自身のリカバーで癒す。後の者はせいぜい数日寝てればどうにかなる程度。無傷の者も多かった。
放った矢や手裏剣なども無事に回収し、村に戻って事の顛末を報告する。
「今、何かを狩っても、もう死んじゃった人は帰らないけど‥‥、これでもう誰も死なないよね」
すべて無事終えた。そう聞いた時、心底安堵している村人を見ながらマキリは静かに微笑む。
そして、礼の金を受け取ると、冒険者たちは京へと戻った。