大猿狩り

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月02日〜09月07日

リプレイ公開日:2006年09月10日

●オープニング

 実りの秋を迎えて、田んぼは金色に輝き始め。収穫近しの畑も多く、山にいれば様々な果実も生る。
 収穫の秋はすぐそこまで来ている。
 が、そんな時に来て欲しくない客が村に入り込んでいた
「待て! この泥棒猿が!!」
 村の食料を溜めておく蔵。その入り口が破壊され、中に入り込んだ猿たちが運び込まれていた食料を貪っていた。
 猿といっても、身の丈はジャイアント種族ほどある。人間種族なら大の大人でも見上げねばならない巨体だ。
 大猿の数は四匹。村人たちが手に手に武器――といっても農機具だが――を持って、怒りを露に怒鳴りつけると、「何だ?」と言わんばかりに顔を向けた。
 そのゆっくりと落ち着いた動き。完全に村人たちを嘗めていた。
「このぉ!! さっさと蔵から出ていけ!!」
 怒り心頭に得物振り上げ大声を出す村人たち。それを猿たちは不思議そうに見つめた後、仲間同士、顔を見合わせ、
「ウォホホホオオオオオオ!!」
 奇声を上げるや、いきなり蔵の中から飛び出してきた。
 挑発はしたが、本当に出てくるとは思わなかった村人たち。驚き慌てて次の対処が考えられない。
 その慌てふためく村人たちに向けて、大猿たちは蔵から持ち出した食べ物を投げつける。
「うわ! こいつ何をするんだ」
 攻撃されて怯む村人たち。そこへ大猿たちは数回跳ねて、村人たちの中に飛び込む。無茶苦茶に叩きまわり、人を捕まえて振り回し、倒して踏ん付けて。
 散々暴れまわって気が済んだか。また奇声を上げると、村人たちを放り出し、山の方へと帰っていく。その際、田畑がそこにあろうとお構いなし。
「おおい。大丈夫か‥‥」
 大猿たちが帰ったのを為す術なく見送り、落胆しつつ村人の一人が安否を確認する。状況は芳しくない。猿たちにやられた傷もさる事ながら、あらされた周囲は酷い有様。
 蔵の中はさんざに引っ掻き回され、壊れて潰れている。逃げる際に通った田畑の畦は壊され、植えていた茎は折れ、実りは土に塗れ。これでは収穫にならない。
 大猿たちが村に現れるようになったのは数日前だが、被害は日を追う事に増すばかり。
「夏だで、蔵の中の食料はめぼしいのが無いし、また溜め込めるが。‥‥これが冬だったらとんでもねぇ事だど」
「そうだ。真冬に食料が無くなるのは死活問題だからな」
「だが、その収穫自体、喰われて荒らされてまともに出来んようになるぞ。暢気にしておれん」
「それにあの怪力。女子供が襲われてからでは襲いぞな」
「だども、俺らじゃ歯が立たん事はもう分かったぞ‥‥」
 口を閉ざし、俯く村人たち。自分たちで何とかしたいがどうにもならない。だが、どうにかしなくてはならない。

 そして、冒険者ギルドに依頼が出される。村を荒らす大猿たちをどうにかして欲しいと。

●今回の参加者

 ea4126 チャム・チャム(18歳・♀・バード・シフール・イスパニア王国)
 eb6410 ロザリンド・エル・ハイ(26歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb6467 立夏 洋平(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb6474 ケロ・ヨン(32歳・♂・ウィザード・パラ・ノルマン王国)
 eb6483 森川 翔(22歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb6489 才賀 勝(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 村に現れ、食料を食い荒らす大猿たち。どうにかしようとしても村人たちの手にはどうにも負えず、冒険者ギルドに依頼を出す。集まった人数はそれなりなれど、村までやってきたのは三名のみ。
 現れる猿は四匹いるのだから、数の時点ですでに不利。とはいえ、ここまで来て相手も見ずに下がる訳にもいかない。最善を尽くすだけである。
「やっぱり、山に食べ物が無くなったのが原因かな」
 村に猿が現れる原因を、チャム・チャム(ea4126)はそう考える。
「しかし、通行人などに聞く限り、山に異変は無いようですね。今まで通りと変わりなく。実際山に入って探索して見る限りでは荒れた様子も無かったですが」
 立夏洋平(eb6467)の方は首を傾げている。事前にそこらの可能性もあわせて調査してみたのだが、特に引っかかるモノは無く。
 裏に誰かがいるのだとしても、さてこの村に猿をけしかけて何をするのやら。
「うーん。単に悪猿なだけで、考えすぎなのかな。でも、その辺は当人たちに直接聞けばいいよね」
 そう納得すると、チャムは空へと舞い上げる。
 広がる田んぼは金の波。重い稲穂はその一角、無残に踏み荒らされている箇所がある。猿たちにやられたのだろう。よく見れば畑も荒れてたりと被害の後は見て分かる。
「猿がいたぞー!!」
 そして、村の一方がいきなり賑やかになる。
「おや、やってきたようだな。米ひたすらに食らうべくお相手いたそうではないか!!」
 謎への闘志燃やしてケロ・ヨン(eb6474)が、騒ぎの現場へ駆けていく。ただ、猿への意気込みと言うより食への意気込みが強いようだが。
 はて、どうなるか。何はともあれ、残る二人も声がするほうへと急ぎ駆けていく。

 現れたのは極々普通の民家。厨房にまで上がりこんで、置いてあった食料をがつがつと貪っている。その場に人がいようがお構いなし。邪魔だとあらば、犬歯を剥いて威嚇一つで追い払っている。
 遠巻きに怒りの村人が見ているが何のその。近付いてくるかはさすがに警戒してはいるが、盗み食う手は止めない。が、そんな彼らに話しかける者がいた。 
『ねぇねぇ、あなたたち』
 驚いた大猿たちが目に見えて飛び跳ねた。
 周囲を注意深く見回しているが、傍に人は無い。奇妙な現象に、猿たちは毛を逆立て警戒を更に強めている。
「ギャア! ギャア、ギャアア!」
『何だ、何だ?』
 叫び声を意味に変えるとそうなるか。
『上にいるよ。落ち着いてよ』
 そんな彼らに声は語る。おっかなびっくり見上げる彼らを、チャムが手を振って返す。上空を浮かびながら、テレパシーで猿に話しかけていたのだ。
『落ち着いてよ。ねぇ、どうして村の食べ物を取っちゃうの? 何か困っている事があるの?』 
『ここ、食べ物いっぱい。山で取るよりうんと楽』
『人間がうるさくて困ってる。この食料、俺達の。あいつらは邪魔。お前も邪魔』
 ぎゃあぎゃあと吼える大猿たち。その意味もテレパシーで汲み取るができるが、所詮は猿。あまり複雑な事は理解できないし、考えもしないようだ。
『誰かに頼まれてるとか、脅されてるとかではないの?』
『知−らね。お前、うるさい』
 不愉快そうに猿は鳴くと、チャムに手近にあった椀を投げつける。慌てて避けるチャム。
 話はそれで終わりとばかりに、猿たちは次の食料目指して隣家に突っ込む。
「待て待て待て! ここは大食いで勝負としないか」
 ケロが飛んで入るや、脇目も降らずに生の米を食い漁る。ただひたすらに米を食う事に全力を傾け、わしわしと頬張る姿は猿にもけして負けてない。
 ケロの勢いに腰を引かしていた猿たちだが、やがて、いきなりぎゃあぎゃあと騒ぎ出す。
「俺らの食料盗るなー、だって」
 肩を竦めてチャムが通訳。怒りを露にした大猿たちは更に一声高く吼えると、ケロへと飛び掛る。
「よし、それではここは一つ死んだふりを。うぎゃあああああ」
 ばたりとその場に横になってみるケロだが、相手は当然見逃してはくれない。体長倍ほどもある相手から体重乗せて踏まれたら、そりゃ食べたものどころか中身も出かねない。
「ううう。ならば、ここはひとまず退散!!」
 そう判断すると、行動素早くその場から退くケロ。
「何だか、本当に食料を食い荒らしに来ただけみたいだよ。あの猿たち」
 やれやれと疲れた様子で告げるチャム。
「となれば、遠慮はいりませんね」
 洋平は日本刀を抜くと、大猿たちと向き合う。
 さすがに敵視されたと分かるのか、大猿たちは低く唸り、飛び掛る姿勢を取った。
 動いたのは洋平。ただし、大猿たちに向かってではなく別の方角へ。その後を猿たちは一声鳴くと追いかけて走り出す。
 数に差がある。その上、チャムに接近戦は無理だし、ケロも武装していない。直接対峙は洋平一人となる。
 それで、広い場所で戦おうものなら、囲まれ袋にされるのがオチ。ならば一対一の状況を作るべく、有利な場所へと誘い込む。あらかじめ戦いに有利な場所を選んでおき、屋根や木の上にも逃げられるようにと細工もしてある。地の利はきちんと把握していた。
 とはいえ、身軽な大猿たちの動きは早い。洋平は武者鎧・赤糸威を着込んでいる為、なおさら動きが遅くなりがち。たちまちの内に追いつかれる。
 洋平を囲もうとする大猿たちに向け、チャムはムーンアローを放つ。月光に光る魔法の矢は一直線に大猿たちの、さらに一匹だけを射抜く。
「あいつがこの大将だよ!!」
 指差した相手は、確かに猿たちの一番後ろに位置し、他の猿たちを威圧しつつ辺りを攻撃していた。
 とはいえ、それが分かったからといって、どうにもならないのが今の現状でもあった。
「くっ!!」
 なるべく少数と当たれるよう策も弄してみたが、わずか及ばない。狙いは正しいが如何せん、大猿の方が機敏で数も多い。
 さすが洋平の腕前に叶わないか、日本刀で斬りつければ避けきれず、猿は体毛と共に赤い血を迸らせる。
 しかし、一対一を作り上げても、手数は大猿の方が多かった。遮二無二伸ばしてくる、その体長に見合った大きな手。それで殴られるだけでもそれなりの傷を負わされる。さらに、避けきれず両の手で挟み込まれれば、そのまま雑巾のように締め上げられてしまう。
 縛されたままでも攻撃は出来るものの、動きは制される。
「早く、逃げて!!」
 チャムのスリープが大猿が眠らせる。その隙に、洋平は束縛から脱した。しかし、それも束の間、眠りこけた猿を飛び越え、新たな猿が飛び掛ってくる。
 おまけにその際にはまた別の猿が眠る猿を起こしているのだから、チャムのスリープも間に合わない。かといって、ムーンアローではまだ低い威力しか出せない為、瑣末な傷を与えられていない。
「駄目だな。ここは退いた方がいい」
 言うより早くケロは戦線から離脱している。
「これ以上は戦っても無理みたいだしね。傷が酷くならない内に退いた方がいいよ」 
「仕方ないですか‥‥」
 上空からチャムが告げると、大猿たちと向き合いながら、口惜しそうに洋平は刀を振るう。それは攻撃ではなく、近付かせない為の払いの一振り。大猿たちを引き離すのに苦労したが、それでも冒険者たちはまたその場からの逃走に成功した。

 手傷を負わされた大猿たちはそれからも村の各所で暴れまくったが、やがて気が済むと各々山へと帰って行った。
 冒険者たちも持てる力は尽くしたが、不足分を補う事は出来なかった。退治するに至らず、今は帰った猿たちもいずれはまた村にやってきて暴れるだろう。
 村の人たちに詫びの言葉を述べて、京の都への帰路に着く。
 なお、ケロが食べた食料分はきっちりお買い上げとして支払わされた。