かの敵の相手は‥‥

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:09月06日〜09月11日

リプレイ公開日:2006年09月15日

●オープニング

 倒さねばならぬ相手がいた。
 彼自身の誇りと名誉にかけて。それはちっぽけで人によっては馬鹿げた理由かもしれないが、それでも、彼にはとても大事な理由だった。
 だが同時に。
 どう足掻いても奴にはけして叶わないという、己の力量も自覚していた。
 真正面からいけば負ける。だが、正面以外でかかるのは名誉と誇りからして褒められるものではなかった。
 そこで彼は、勝機を見出すべく、まずは相手についてを詳しく調べるべく動き出した。出来うるならば、必ずや攻め込める相手の弱点を‥‥。
 そして、それが判明するのは実に容易かった。

「我らの勝負に立ち会っていただきたい」
 冒険者ギルドに現れたのはまだほんの子供‥‥ではなく、パラだった。浪人らしい。
「我が家は父を師範として、村の者に剣術を人に教えていたのだが。ある時、一人のジャイアントな男が現れ父に勝負を挑んだのだ」
 そのジャイアントも浪人。あちこちを流れ歩いては剣の腕を試しているらしい。
 パラの父はその勝負を受け入れた。しかし、剣を学んだとはいえ、村でちっちゃく生きている者と、無骨ながらもあちこちを歩いて様々な強さに触れた者では、腕にも差が出る。
 体格差もあって、見事父は敗北。
 剣と誇りを砕かれた父は、かねてより用意されていた母の三行半を受け取らざるを得なくなり、家からも追い出され、今は場末の酒場で女の子と酒を飲みながら浮かれ遊んでいると云う‥‥。
「‥‥いろいろ突っ込んでいいか?」
「いや、父の事は言わないでくれ。そもそも浪人になったのも父が藩の書類整理が面倒だからとまとめて床下に隠したのが原因だし、村に住みついたのも適当に剣を教えていたらありがたがって御飯くれるだろうとかしか考えてなかったようだし」
「駄目だろ、それ」
 目を細めるギルドの係員に、パラは臆する事無く首を大きく縦に振った。
「そも。そのジャイアントが家に来た理由だって、酒場で酔った父が女性の尻を撫でた所から始まる。それを止めに入って説教したジャイアントに父が逆切れして、決着をつけるから家まで来いと」
「駄目駄目な父に聞こえるが‥‥それでも仇は仇という訳か」
「いやいや。そんな父なんでもう自業自得ちゅうか、むしろよくやったと言いたいぐらい」
 嘆息一つ。納得しかけた係員だが、それをパラは即行で大きく否定した。
「俺がその彼に勝ちたい理由はただ一つ! 酒場に出かけて帰りの遅い父を迎えに出た俺に対し、あの男は『坊主、ちっちゃいのにご苦労だな』と頭撫でてくれた事だ!! あまつさえ、お駄賃で持ってた菓子までくれたりなんかしちゃって!!」
 拳握り締め、パラは叫ぶ。それは心の底、胸の奥、全身から吐き出さんばかりに強くこみ上げてくる思いだった。
「菓子は美味かったけど! 子供扱いしたのはやっぱりどうにも許しがたい。元服だってしてんだぞー。ちょーっと体が大きいからってパラなめんなよー」
 ギルドの人目も気にせず雄叫びを上げる。ひとしきり言い終えて気が済んだか、荒れる呼吸を整えると係員に向き直った。
「というわけで、ちっちゃくってもやるときゃやるぞと見せ付けるべく、あいつに勝負を挑みたい。だが、挑む以上、敗北は許されぬ。故に、万全を期したいのだ」
「つまり‥‥助太刀しろと?」
 それはそれで勝負に勝ったといえるのか。言外にそう告げる係員に、しかし、分かってるとばかりにパラは首を横に振った。
「人の手を借りて勝っても、それは俺の力とは言い難い。だから最初にも言った通り、あくまでこの戦いが公平に行われるよう、立会いをお願いしたい。ただし、必ず動物同伴。可愛い子を連れて来たらさらに良し」
「‥‥は?」
 思わず聞き返す係員。それにパラは不敵に笑う。
「父が敗れる際に思った。俺は力量的に絶対奴には叶わない。なので、勝つ方法を探りに奴に張り付いていた所! 奴が無類の動物好きと分かったのだ!! 特に子犬とか子猫とか小さい系は効果覿面! 赤ちゃん言葉で撫でくり倒してデレデレ顔になる!!」
 何で子犬などを相手にすると。大の大人でも妙な口調に変わるのだろう。ま、どうでもいいが。
「可愛い動物が動き回って可愛い格好でもすれば、奴も気が散り隙が出来るに相違無し!! そこを攻めれば俺とて勝機が生まれるって寸法さ!! 故に、割と気安くいろいろな動物を飼っている冒険者に立会いを願いたいのだ。ああ、あくまで立会いだ。勝負を見届けるのがその役目。しかーし、そのついでにペットを散歩に連れてきても不都合なんてある訳無いさ! さらにその間にわんこ、にゃんこがどう振舞ってようと、それは勝負に関係なーーす! そんな事に気を取られるようでは、むしろ剣客としてまだまだまだと云うだけってな訳で、俺のせいでは断じてなーーし!! いいですかな! くれぐれも! 可愛い動物の可愛い動き! これが重要ですぞ!! ただし、あくまで我らの勝負に手出しは無用だからな!!」
 高笑いするパラに、周囲が奇異の目線を向ける。
 それもそれで小ズルイぞと考えはするものの、さして断る理由もない。なので、係員は依頼募集の貼り紙作成に取り掛かった。

●今回の参加者

 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8384 井伊 貴政(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb3979 ナノック・リバーシブル(34歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5347 黄桜 喜八(29歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb5475 宿奈 芳純(36歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb6540 志士 伊江(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb6553 頴娃 文乃(26歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ニキ・ラージャンヌ(ea1956)/ 島津 影虎(ea3210)/ 長寿院 文淳(eb0711)/ 榊原 康貴(eb3917

●リプレイ本文

 荒野を一陣の風が吹く。見渡す限りの土。所々に生える草も直に雪が降れば枯れ果て、そしてそこには何も残らない。
 そこに一人の男が現れた。ジャイアント種族の、いかにも力に溢れた浪人。刀を握るその手は力が込められ、鋭い眼差しはただ荒野で待ち受けていた者たちを見据えている。
「来られたな。では、果たし状は確かに受け取られたようだな」
 その到着を今か今かと待っていたパラの浪人がどこかほっとしたように告げる。
「ああ、受け取った。まず、子ども扱いした無礼は詫びさせてもらう。また、挑まれて逃げるは恥というもの。おぬしからの勝負の申し出も受けさせてもらう。‥‥しかし!!」
 かっとジャイアントは目を見開くと、パラの後方に位置する者たちを力強く指差す。
「後ろの者たちは何だ! 書状によれば、一対一の真剣勝負のはず!」
「そう、故にこの勝負の見届け役を頼んだのだ。案ずるな、いずれも冒険者ギルドが選び出した精鋭揃い!!」
 えへんと胸を張るパラ。
「果し合いの見届け役、ベアータ・レジーネスです。よろしくお願いいたいます」
「同じく、宿奈芳純と申します」
 ベアータ・レジーネス(eb1422)と宿奈芳純(eb5475)が進み出、丁重に挨拶を述べる。非の無い行動に声を荒げるのも悪いと思ったか。急いで咳払いを一つ納得した様子を見せたジャイアントだが。
「では!! その足元とか後ろでこう‥‥毛づくろいとかしている動物たちは?!」
「ああ、彼らの供だ。気にするな。ふっ、見届け役がどのように見届けようと‥‥我らの勝負の邪魔にならねば大事あるまい」
「う‥‥それは確かだが」
 意地悪そうに笑うパラに、ジャイアントは悔しそうに歯噛みしている。いや、それはパラに向けたものでなく、動物たちに向けられたもの。一緒に遊びたいが、勝負の前に気を削いではならぬと自分を律し、またそうある自分が口惜しいのだ。
 よく聞けば、動物たちを驚かさない為にか、声も抑えている。本当に好きらしい。
「ギルドの選び出した精鋭か‥‥。単に楽しそうな依頼だったから受けただけだけどな」
 ご苦労な事だと、黄桜喜八(eb5347)が目を細める。
「そうよね。勝負には興味ないし、依頼人も好みでなし。久虎もせっかく親戚から譲ってもらったんだから、大切にしないとね。という訳で、後は好きにしていいわよ」
 その隣では、頴娃文乃(eb6553)が日除け傘を設置すると、ボーダーコリーの久虎の頭を撫でる。
「まぁ、何だ。性格悪くて人の器も小さくて、おまけに相手側に正義があったとしても。依頼人は依頼人だ。どんな依頼人であろうと応えてみせるのが俺たちの仕事だろう」
 苦笑交じりながらも、真剣な表情で天城烈閃(ea0629)が告げる。その意気込みからか、武者兜・天下に大鎧・無双を着込み、風の外套を風に閃かせる凛々しき姿で場に臨む。
 その足元、若いセッターの洸が顔を見上げて尻尾を振り、鱗と四足の珀は荒野をうろつく虫を見つけて走り出そうとしている。――そのままどこかに行っても困るので、慌てて烈閃は袂に拾い上げたが。
「まぁ、依頼人の性格はあれだが、相手のジャイアントにとっては弱点克服のいい機会になるやもしれない。どうやら本当に出来るお人のようだしな」
 ナノック・リバーシブル(eb3979)の目は相手に向けられている。パラと違い、屈強な筋肉で纏った男。そのせいで、更に一回りほど大きく見える。
「どの道、真剣勝負の傍に居させるにはファントムは幼すぎるな‥‥。よし、おまえは向こうで見物していろ。ボーデンも大人しくしていろよ」
 ナノックが指示すると、幼い狐のファントムはその場から立ち去る。ただ行く手に不安を感じるのかそう遠く無い所で立ち止まると、ナノックの方を見つめている。その様子をダッケルのボーデンがじっと見詰め、さらにその様子をジャイアントがじっと睨んでいる。‥‥否、羨ましそうに見つめている。
「個人的には勝負の行方はあんまし興味ないんですがねー。ま、手出しは無用って事ですし、合図くらいの口出しをさせてもらいましょうか。――そんな訳で双方、宜しいですね?」
「その前に、一言申しておきたい事がある!!」
 井伊貴政(ea8384)が片手振り上げ、始めを告げようとしたが、喜八が遮るとパラに詰め寄る。
「忘れない内に言っておこう。トシオにクロスケは大事な相棒だ。ペットなんぞという謎言葉で示すような仲では無いからな」
 イワトビペンギンのクロスケと柴犬のトシオをしっかり抱きしめながら、喜八がパラに詰め寄る。
「そ、そうか‥‥それはすまない‥‥」
「相棒‥‥いい言葉だ‥‥」
 その迫力にパラはたじたじになって謝罪を口にし、ジャイアントは涙浮かべて感じ入っていた。

「それでは、改めて双方構えて――始め!!」
 貴政の号令と共にパラとジャイアント双方が構える。睨み合う事一瞬、早々とジャイアントが動いた。
 裂帛の気合と共に振るわれる刀は、風さえも斬る勢い。それをパラはかろうじて躱す。
「思った通り、依頼人の逃げまくりだな」
「だが、あの追撃を躱すのはなかなか。さぞかし鍛えてはいたんだろう‥‥逃げ足を」
 烈閃の見立てに、ナノックも感歎交じりの呆れ声で答える。どうやってそんなものを鍛えたのか。多分、あれこれ想像したのとさほど違わぬ光景で会得したのだろう。
「必死のようだし、とてつもなく頑張ればそれなりの成果は出せるだろう。それではわたくしたちも頑張るとするか」
 あっさりそう告げると志士伊江(eb6540)は馬の手綱を引き、ジャイアントに見せる位置に動く。
「まぁ、それが一応依頼なんだしね。そうそう、日差しは暖かくても空気が冷たくなってきてるから、風邪を引かさないよう注意してね。小さい雛とかは特にね。うっかり踏んだとか、他の方の肉食獣に食われたとか馬鹿な失敗も無しよ。何かあれば診療も相談も請け負うから声をかけてよ」
 日陰でのんびりとしながらも口早に文乃は注意事項を触れて回る。
 勝負は未だ決着つかず。双方打ち合ってはいるが、パラの方には疲労の色が濃いし、ジャイアントは太刀筋を見切り決定的な一打を入れる機を窺っていた。
 とにかく一撃を入れようとやたらパラは刀を動かす。その隙をかいくぐり、ジャイアントは必殺の一撃を打ち込み‥‥
「やあ、クアール。相変わらず、肉球がぷにぷにですね」
 ‥‥かけて、大きく軌跡を明後日の方角に歪めてしまう。
「こら、そこ! うるさいぞ!! 勝負の邪魔だ!!」
「いやはや、すみません。でも、このにくきゅうの感触がですね。もー、たまりませんよね〜」
 思わず怒鳴りつけるジャイアントだが、ベアータは何のその。猫のクアールを抱き上げると、足の裏を笑顔で揉んで見せる。クアールは気持ちがいいのか、目を細めてじっとしている。
 それを引き攣った顔でジャイアントは見ていたが、
「隙あり!!」
 横から打ち込んできたパラを慌てて躱し、構え直している。が、その構えの切っ先、わずかに震えているように見えるのは気のせいか。
「貴殿に戦いの場は早すぎましたか。怖い思いをさせて申し訳ないです」
 そのジャイアントの正面では、芳純が幼い兎の絶地を優しく撫でている。打ち合う剣の音や地響きにすっかり怖気づき、絶地の長い耳は垂れっぱなし。抱える芳純の腕の中で小さく震えていた。
「うぬ‥‥ぬ‥‥」
 ジャイアントの目の前、パラは疲れからか構えもどこか雑で。ここで攻めればすぐに決着付く。が、ジャイアントは何かを考え込むように低く唸ると、唇噛み締め俯いてしまう。葛藤が刀に伝わり先ほど以上に切っ先には迷いが出てくる。
「ふむ、何時まで続けてるのやら。少々疲れてきたな」
 いつまでも決着の付かない試合。攻防も無く、止まった動きに半ば確信犯で烈閃は横になる。
 途端、狙い通りに襲いかかってくる洸と珀。もとい、じゃれかかってくる。
「な、お前ら。うはははははははは」
 顔を嘗めてくる洸はともかく、鎧の中をちょろちょろと走り回る珀の方が怖い。下手に動けば潰しかねないし、脱ごうにも大鎧は手間がかかる。しかし、放っておいては悶えて笑い死ぬかも知れない。
「こらそこ! 見届け人が寝転んだ挙句に笑いこけるとは弛んどるぞ!!」
「す、すまん。気を、つけ‥‥。こら待て、珀、そこは駄目だーー!!」
 げたげたと笑いこけては謝罪の誠意も吹き飛び霞む。そんな烈閃にジャイアントは完璧嫉妬の眼差しを向けていた。
「まだ試合途中ですけど。見届け役は一足お先に御飯にしましょうか」
 貴政が持って来た重箱を広げる。単なるおにぎりと漬物だが、そこは達人の作る品。米の握り具合からして何かが違う。知人二人にも手伝ってもらった豪華で量がたっぷりのお弁当に、あちこちから動物たちが一斉に集まってきた。
 中には待てもまだ出来ないのもいるので、飛びついて食い荒らされる前に、慌てて貴政は重箱をまた隠す。
「弁当はともかく、ちびっ子たちは袂に入れといたのは正解でしたか。危うくぱっくりされたかも知れませんね」
 汗を拭って、袂に話しかける貴政。そこに入っていたのはトカゲと何か鳥の雛。二匹ともまだ小さいので、話しかけても好き勝手にパタパタしていたが。
「こら、ファントム。そんな勝手に人様の弁当を覗いては駄目だろう」
 言って、ナノックはファントムを抱える。見送り相手から人参の礼にと二匹共に毛並みを整えてもらったので、実にふわふわ。そうしていると、秋風の寒さも苦にならない。
「ボーデンはボーデンでブーツに涎を垂らさないように。ほら、もう遠くに行かずにこれで遊んでろ」
 言って、蹴鞠を転がすと、二匹じゃれあうように追いかけあう。はしゃぎまわる姿に、ジャイアントはもはや涙目でただただ歯を食いしばっている。
 そして、黙々と枝を投げ二匹に拾わせて遊ばせていた喜八が、何の前降りも無く印を組み、詠唱する。
「今度は何する気だーーっ!!」
「あ、気にせず。ガマの助を動かす気は無いからな。試合は続けてくれ」
 あっさりと言い切る喜八の背後。よてよてと歩いていたクロスケがいきなりガマの足に飛び乗る。クロスケの体長に比べてガマの助はその約六倍。不安定な蛙に、平地でもよろつくような鳥がよじ登っていく姿は実に頼りなく。
 試合を放棄も出来ず、かといって無視する事もできないのか、気もそぞろにジャイアントはパラを相手しながらクロスケを見つめ。そんな気なんぞ全く意に介さず、クロスケはガマの助の頭にたどり着くとそのまま飛び降りる!!
「あーーーーっ!!」
「隙あり!!」
「勝負あり、そこまで!!」
 思わず刀放り出してそっちに駆け出すジャイアント。その空いた胴へパラが一刀叩き込むと、すかさずナノックが判定を下した。
「おや?」
「だから、気にせずと言ったのに」
 首を傾げるジャイアントに、呆れ口調の喜八。その彼に抱えられ、クロスケは何も考えて無い顔で羽を震わせていた。

「いや、しかし。下は単なる地面なのだし。万が一の事を考えれば可哀想ではないか」
 それからおよそ半刻。延々と喜八相手に説教しているジャイアント。もっとも、目の前で動物ふれあい大会をやられた鬱憤晴らしも兼ねてるようで。その愚痴に付き合ってると思えば、まぁ、喜八も黙って聞く事にする。
 そんなジャイアントの膝の上に今はクアール。芳純も触って良しとは言ったが、当の絶地が怯える風を見せたので、ジャイアントの方から遠慮を申し出ていた。‥‥大変惜しそうにしていたが。
「嫌がったら止めて下さいね」
「ああ、分かっている」
 本当に分かっているのか。肉球触るジャイアントの顔はやに下がりっぱなしである。
「暇ならお手合わせ願おうかと思ってましたが、もう少し無理そうですね」
「はっはっは。何なら俺が相手しようか」
「遠慮しましょう」
 喜ぶジャイアントに微笑していた貴政。勝負に(一応)勝利したパラの申し出はきっぱりと即行蹴倒す。
「まぁ、策を弄した努力だけは認めてやるべき‥‥か?」
 姑息というかなんというかだが、それでも勝利は勝利。でも、そもがそもなので、伊江も首を傾げて悩む。
「あー、すっかり泥だらけだな。帰りにどこかで一泳ぎするかな。水辺探しに行くぞ!!」
 ジャイアントの興味がすっかり動物に移り、それが帰って来ぬ間にと退散がてらに走り出す。
「で、こちらは大丈夫なの? あたしは獣医であって人医じゃないからね?」
「大、丈夫、だ‥‥。何か、珀が、御、先祖連、れて、来た、気もす、るが」
 傘をたたんで身支度整え。文乃は倒れている物体を見遣る。
 息も絶え絶えに返事する烈閃の隣、洸はきちんと座って何をしてるのと言わんばかりにつぶらな瞳を見せ、頭の上では珀があらぬ方を見つめていた。