隣の柿はよく客喰う柿だ
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 36 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月19日〜10月24日
リプレイ公開日:2004年10月27日
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●オープニング
秋である。
苛烈な夏が終わり、涼しくなるこの頃。山は多くの実りをもたらし、一年で最も潤う季節となる。
山の幸は多々あれど。その一つに柿がある。
橙色の大きな果実は、生の他にも加工したり料理にしたりといろいろな食し方がある。
とある山に、毎年大きな実をたわわに実らす柿の木があった。渋柿なのですぐには食べられないが、近くの村人たちは毎年その実を干し柿にする。冬の保存食としてもよいし、生活の足しに売り払ってもよい。村の生活を支える大事な柿の木だった。
だが。今年はその木の周辺に釣瓶落しが巣食ってしまい、近付く事が出来なくなってしまった。
「ねーねー、婆ちゃん。今年は柿採りに行かないの? 柿食べたいよ?」
炉辺で針仕事している老婆を寝そべって見ていた子供は、ふと思い出したようにその事を口にした。
「ああ、そうだね。でも、今は無理なんだよ」
「どうして? 柿なってないの?」
「いや、柿はなってるんだけどねぇ」
子供の追及に老婆は困ってしまった。下手に化け物が出るからと言って恐がらせたく無い為、村の子供達には釣瓶落しの事は内緒にしてある。どうしようかと悩んでもすぐには思い浮かばず。
「あそこは今危ないから近寄れないんだよ。村の人たちがどうにかしようとしてるから、もう少し我慢しとくれね」
「ふぅん」
結局、無難な辺りを正直に老婆は告げた。子供は不思議そうな顔をしたものの、とりあえずは納得した模様。不服そうに顔を歪めたものの、それ以上は黙って祖母の仕事を見つめていた。
「と言う事が、数日前にあったみたい」
「はぁ。それでその釣瓶落しを退治して欲しいと?」
依頼を届けに来たという郵便屋シフール。冒険者ギルドの係が内容を聞きはしたものの、聞いた話はどうって事の無い村での一風景。気になる部分を問い返してみたものの、係員自身、どうもちぐはぐな気がしている。
思うも当然。シフールは「うぅん」と首を傾げた。
「ちょっと違うかな。いや、おいらも最初は退治する依頼を伝えるよう頼まれてたんだ。たかが柿程度って言うかも知れないけど、その村にとっちゃ大事な冬の蓄えになるんだし、それに釣瓶落しが村を襲ってくる危険だってある訳じゃない。
でもさ。その最中にそのガキ――あ、小助っていうらしいけど、そいつがいなくなったって騒ぎがあったんだ」
「はぁ」
「村の方々を探しても見つからない。で、婆さんがその話を思い出し、そういや柿山の方に歩いていくのを見たって言う人も出て来たから、さらに大騒ぎ」
「ヲイ」
「結局、小助ってガキは柿を採りに山に入ったんだって結論になったんだよ。探しに行こうにも釣瓶落しが気になるし。ここは冒険者の方に頼もうって事で、おいらが依頼伝達を頼まれたわけ」
えへん、と胸を張るシフールだが、聞いていた方はそれ所ではない。大事だと言うのに呑気な話し方には怒るどころか脱力してしまう。
とはいえ、いつまでも凹んでいてはいられない。
「つまり。その山に入り込んだ子供を急いで追いかけて連れ戻して欲しいって訳なんですね。出来れば釣瓶落しに見つかる前に」
「そういう事なんだけど、追いかけるのはちょっと無理だよ」
「は?」
確認の為、怒鳴りたくなる思いを辛抱強く抑えて係員が尋ねるも、シフールは相変わらずの調子で首を傾げる。
「釣瓶落しが出るってんで、山に入る道には見張りを兼ねた番がいて、誰も通れないようになってたんだよ。でもさ、番してた奴は小助を見て無いんだ。って事は、小助は道を外れて山に入ったんだねー」
「‥‥つまり、山をどううろついているか分からない子を釣瓶落しに襲われない様に早急見つけて保護しなきゃならんと?」
「そゆ事。まぁ、子供の足だし、早々柿の木までは辿りつかないだろうって事だけど。でも、迷ってたりしてる可能性も無きにしも非ずなのかなー? どう思う?」
けろりと告げるシフールに、係員は静かに机に突っ伏す。
「分かりました。冒険者の方に尋ねてみましょう。その前に‥‥」
陰々と突っ伏していた係員は、がばり、といきなりその身を起こす。
「重要伝達ならもっと要点掻い摘んで迅速に喋らんかいっっっ!!!」
「うわー、ギルドの人が乱心したーーーっっ!!」
ついに我慢の限界か。顔を真っ赤にして怒鳴りつける係員から、シフールは慌てて逃げ出す。そのままばたばたと追いかけっこを始める二人。
‥‥ともあれ、依頼は無事に出された。
●リプレイ本文
「子供の捜索ついでに釣瓶落し退治か‥‥」
思案するように呟きながら岩倉実篤(ea1050)は、依頼内容をもう一度再確認する。
子供一人、山にて捜索。
それだけであっても結構手のかかる話。なのに、子供がいなくなった山は面倒な事になっていた。
釣瓶落し。日本で割によく聞くこの怪物が山に巣食っている。正確には山の中でも柿の木がある周辺らしいが、発見されてより日も経っている。相手がどこまで移動しているかは不明だ。ついでに言えば、子供はその柿の木を目指していると言うので、何ともはやな依頼だった。
「釣瓶落しは空飛ぶし不意打ちも好きやし、ヤな相手やで。まぁ、フツーに武器が効く分は楽やけどな」
自身の知識を探って顔を歪めたニキ・ラージャンヌ(ea1956)に、実篤も頷く。
「そうだな。釣瓶落しとは何度か戦った事があるし、何とかなるだろう」
「こっちは三回目です。いい加減コツも掴めています」
闇目幻十郎(ea0548)もまたうんざりと肩を竦めて見せる。
安祥神皇の御世は、源徳、平織、藤豊が睨みあい、一見平和に見えても水面下は何やらきな臭い。その影響かは知らないが昨今では妖怪どもが騒がしく、釣瓶落し出現、という依頼も冒険者ギルドでは割りに良く見られる。
出来うる限り急ぎ、到達した依頼の村では冒険者たちの到着を今や遅しと待ち受けていた。
「すみません。ほんにご面倒ばかりおかけして」
進み出てきた老婆は、話に聞いた子供の祖母なのだろう。真っ青な顔で頭を下げ、顔色も悪い。
「こっちはかまへんよ。それより、小助くん言うたかな。彼と会ってもすぐに分かるようなもんを貸して欲しいんやけど」
「はい! はい、ただいま」
ニキの頼みに祖母は慌てて家へと走ると、小助の物を持ってくる。よほど狼狽していると見え、どうやら思いつく限りの物を持ってきたらしい。何だかそのまま旅行にでも出かけられそうな荷物を両手に抱えている。
その不安は察せられる。落ち着くよう諭してから、ニキは持ち運び易そうなおもちゃを一つ借り受ける。
「小助くんが向かったという山がどういう地形かを教えて欲しいのですが」
「へぇ。だいたいこんな感じの山で、ここの所に岩場があって‥‥」
集まっていた村人に幻十郎は尋ねて回る。小枝でがりがりと地面に描かれる大雑把な地図なのだが、幻十郎は熱心に見入っていた。
「開けた場所は無いだろうか。釣瓶落しにどこで遭遇するにしても、こちらに有利な場所に誘い込んだ方が戦いやすいしな」
横手から実篤も質問を重ねる。村人も頭を寄せ合い、いろいろと情報を出しあっていく。
『正規の道以外で山に入り込める場所はないのだろうか』
「‥‥と、言ってます」
神威空(ea5230)が尋ねるも、華国語しか出来ない彼に村人はきょとんと顔を見合わせるのみ。苦笑してレテ・ルシェイメア(ea7234)が助け舟を出す。
幾つかの可能性を指示され、最後に小助を見た場所なども考慮し‥‥、
「ここら辺から入った可能性が高いですかね。後は実際に行って手がかりを探すしかないでしょうか」
眉間にシワ寄せながら幻十郎が告げる。
村内で得られる情報は限られるだろうし、時間もあまり無い。
「二手に分かれよう。釣瓶落しが数体単位で移動していたら、子供が襲われる可能性が高くなる」
「ふむ。元々その柿の木に行く為の道を辿る組と、その脇から入る道に分ける訳じゃな。」
実篤の指摘に馬場奈津(ea3899)も頷く。
「入ってから時間も経ってますし、急いだ方がいいですよね。馬が使えたら良いのですけど‥‥」
どうしたものかと、イリス・ファングオール(ea4889)は愛馬を見上げた。馬は分かっているのかいないのか、耳をパタパタと上下させている。
「馬は却って不便じゃなかろうかの。山の中は勿論じゃろうが、さて、道の方もどの程度整備されとるもんかの」
「うーん。いざという時に暴れても困るし、身軽な方がいいよ。悪いんだけど預かっといてくれない?」
奈津がしばし考えた後、緋邑嵐天丸(ea0861)が手綱を村人に託す。
「では、行くとしましょうか」
幻十郎の言葉に冒険者たちは各々の道へと捜索を開始した。
小助が入ったと思しき箇所は、山菜取りなどで入る事もあるらしい。直線で行けば確かに柿の木に至る道まで辿れるかもしれないが、途中に川やらがあって面倒だという。
「しかし、静かな物だな」
手がかりを求めて、周辺を散策していた幻十郎は言って四方に目を巡らせた。
山は静かだった。鳥の鳴き声ぐらいは聞こえても良さそうなのに、それも滅多に無かった。動く動物も見当たらない。釣瓶落しが生物を狩っているのか、それともそれを警戒して生物の方が身を隠しているのか。恐らくは両方だろう。
と、空に翼を打つ音が聞こえた。目を向けると大きな鳥が一羽、こちらに向かってきていた。
別に驚く様子も無く、冒険者たちはその鳥の到着を待つ。飛んできた鳥はニキがミミクリーで変身したもの。空から捜索をしていたのだ。
「どうだったじゃ?」
衣服を着る間も無く奈津が問いかけるも、ニキは嘆息して肩を竦める。
「手がかりっぽいのは見つけられへんかったわ。けど、すでに釣瓶落しに、っちゅう感じも無かったで」
上空からは木に阻まれて視界は悪い。飛行中は当然一人での行動となるし、効果時間も気になるが、長々と飛んで釣瓶落しに気付かれるのも得策ではない。
元より柿の木までの道のりをざっと確認しただけですぐに仲間の所へと帰還しただけなのだが、それでも、何か事件が起きた様な騒ぎは見えなかった。
「と言う事は、向こうもまだ接触してはいないようなんだな」
問う幻十郎に頷くニキ。山は本当に静かなものだった。
「こうも生き物がおらんのは気味が悪いの。まぁ、探索を間違えんですむんはええ事じゃけどな」
渋い顔で奈津はブレスセンサーを唱える。ニキもまたデティクトトライフォースを唱える。
ブレスセンサーは息を探索するし、デティクトトライフォースは生命力そのものを探知する。だが、共に詳細は分からず、例えば大きな猿とかなら小助と間違える可能性はある。
「魔法は確かに便利ですけど、意外に落とし穴があったりしますからね」
見えない場所も探せる分魔法が有利に見えるが、そういう大雑把な所があるので過信も出来ない。なので、五感や知識に頼ってレテは辺りを探す。
やがて、その視線がぴたりと一点に止まった。
『獣道か。‥‥足跡があるな』
掻き分けられた藪に小さな足跡があった。空が一応比べてみるが、明らかに小さい子供のものだ。小助の物と見て間違い無いだろう。
レテは魔法を使った二人を振り返る。だが、二人共に首を横に振った。さすがに早々発見されてはくれないか。
「ここ通るのちょっと大変そうじゃの」
行く手を阻む藪を見遣って奈津は嘆息する。道は密集した藪のど真ん中を突っ切っている。獣はどこだろうと通るし、小助にしてみれば通れそうだしと、ちょっとした冒険気分で乗り込んだのではなかろうか。
「このままこの道筋に沿って、いてくれるといいのですけどね」
『こんな所で襲われたくは無いな』
幻十郎と空、二人揃って渋い顔を作る。それを聞いていたレテも少し肩を落とした後に、
「ぼやいてても仕方ないですね。方向変換してくれないのも、襲われないのも早く見つけるしかないでしょうし」
言って奮起すると、注意深く道とは呼べない道を辿っていく。
「全く。少し恐い目に合って懲りてもらった方がええじゃろうかの」
「その恐い目が死の危険というのはさすがに割にあわへんやろ」
ひょひょひょと軽く笑う奈津に、ニキは軽く肩を竦ませていた。
柿の木へと至る道筋はさすがに整備されていた。そちらを冒険者たちは歩調を速めて目的地へと急ぐ。
最初こそただただ急ぐだけだったが、道も半ばを過ぎた辺りから危惧していた釣瓶落しの襲撃に見合う。
「また出たか」
予めイリスがかけておいたグッドラックが功を奏したか、あるいは単に注意力の賜物か。せり出した木から頭上に落ちてきた生首を事前に気が付き、初手の難を逃れる。
現われた四体。執拗に纏わり付いてくる釣瓶落したちを牽制しつつ、戦いやすそうな開けた場所まで誘導する。頭だけの割りに罠とか策略というものを釣瓶落しは考慮しない。ただただ獲物逃がさじ、と単純に追いかけてくる。
場所に出て改めて釣瓶落しと対峙すると、攻撃して来た釣瓶落し一体に向けて、実篤は日本刀を振るった。
釣瓶落しの額が割れたが、一撃必殺とはいかない。
「移動は早いが、動作はわりに遅い。やはり無理に攻撃を受ける必要も無いな」
遅いと言っても油断が出来る程ではない。釣瓶落しをなるべく躱して身を守りながら、実篤は確実に飛翔する生首へと斬りつけていく。
「おい、あんた。大丈夫かよ」
突出はせず、攻撃を仕掛けてきた釣瓶落しから日本刀を振るっていた嵐天丸はイリスを見遣る。
「大丈夫です。‥‥さすがに前面に出るのは難しそうですけど」
武器の差か腕力の差か。嵐天丸たちに比べれば、さすがに与える傷が若干軽くなる。それが分かったか、他の釣瓶落しが彼女に殺到してきた。群れてくる釣瓶落しに鞭で牽制を効かせるイリス。
「言わんこっちゃない。行くぜ! 夢想の太刀、白神ィ!!」
何だか楽しげに叫ぶと、嵐天丸はソニックブームを放つ。真空の刃に捕まった釣瓶落しがぱくりと傷を開かせて地に落ちる。
戦闘幾許か。最後の一体を実篤が切り捨てると、とりあえず動くモノは無くなった。
「おケガは無いですか?」
無事を確認してから、ほっと息をついてイリスは尋ねる。
「ああ、こっちはかすり傷だ」
実篤が笑うので、嵐天丸と自身にリカバーをかける。共にそれ程重傷と言える傷は受けなかったが、残りを考えると油断はまだまだ出来ない。些末な傷も積み重ねれば重くなるので、念の為、といった所だ。
傷を癒し、道を進もうとした所で、イリスは大きく身震いと共にくしゃみを一つした。
「冷えますね。小助くん、風邪ひいて無いといいのですけど」
「山だからな。普通ならば陽のある内に十分行って帰れるそうだが」
言って実篤は空を見遣る。見つかれば呼子なり狼煙なりで合図をする手筈となっているがその兆しは見えない。
「ぐだぐだ考えてもしょうがねぇじゃん。探索は向こうに任せたんだし。俺たちは向こうが探し安いよう釣瓶落しを惹き付ける。で、見つかればとっとと逃げて下山するのみじゃねぇか」
特に気にした様子も無くあっさりと告げると嵐天丸は先に進もうとした。
「危ない!」
その頭上に向けてイリスが鞭を振るう。と、弾かれた釣瓶落しが地に叩きつけられた後、ふわりと舞い上がる。いつの間にやら新手が忍び寄っていたらしい。
「悪い!」
言って、嵐天丸は刀を構えた。が、その目がわずか見開かれると一瞬空へと向けられた。
秋の空に一筋の煙が立ち昇っている。耳を澄ませば呼子の音も聞こえるような。
「間の悪い事だ」
実篤がため息をついた。だが、気落ちしてもいられない。狼煙を背景に木からぼたぼたと釣瓶落しが落ちてくる。
「どうする? 逃げるか?」
「多分、追いつかれるな」
問う嵐天丸に即答する。ただ移動するだけなら釣瓶落しの方が速い。イリスのコアギュレイトで縛ってから振り切る事も可能ではあるものの‥‥。
「ここにいる分だけなら、新手が来ない内にやっちまった方が早いよな」
あっさりそう決を下すと、嵐天丸は刀を奮い立てた。
目に付いた釣瓶落しを始末して、即行で一同は下山する。麓の村ではすでに小助の姿もあり、大人たちにがっちり怒られて大泣きしていた。
「どこにいたんだよ?」
問うた嵐天丸にレテが苦笑する。
「やっぱり道を外れた所に。柿の木への道に直進するつもりが、迷った挙句に転んで大泣きしていたんです」
如何せん山は広い。まっすぐ歩いているつもりでも方向を間違う事はよくある。行けそうな所を適当に選んで歩いていればなおさらに。心細くなった所に転んで矜持がくじけたのだろう。怪我こそ無かったが全身泥くたになり、泣き出したのをレテが聞きつけたのである。
「二重遭難も無かったですし。皆無事でよかったです」
集まった全員を見て、幻十郎は満足げに告げる。
「怪我も無いみたいですね。一応お説教はしましたけど、安心しました」
「ま、これで十分に懲りたじゃろうな」
イリスに懇々と諭され、目を真っ赤にして神妙に頷いた小助。もう無茶をしようとは考えもしないだろう。
ひょひょひょと笑う奈津の隣で、ほっとして気が緩んだか、またもやイリスがくしゃみをする。
「風邪かいな。後で薬草でも煎じたろか?」
「いえ、大丈夫ですよ」
ニキの申し出を断るも、イリスは鼻をこすり、さらにくしゃみ。どうやら依頼の後は要安静になりそうだ。
「しかし。子供は無事だったが、山の脅威が無くなった訳ではない。釣瓶落しをこのまま放置しておいてはいつ村を襲うか。この機に掃討しておいた方がいいだろうな」
『そうだな。幸いこちらは釣瓶落しを見る事は無かったし』
実篤の提案に空も頷く。
引き付けが功を奏したか、結局釣瓶落しにある事は無かった。良い事ではあるが、釣瓶落しを視野に入れていた空にはいささか物足りなさも感じる。
一息ついた後に、今度は全員で柿の木へと赴く。すでに幾体かを屠っていた上に、今度は人数も多い。掃討に時間はかからなかった。
「これが柿の木なんですねぇ」
安全を確保した柿の木にレテは近寄る。重そうに垂れた枝に手を伸ばすと、実を一つ手に取る。
橙色の柿の実は無事で、傷一つ無い。渋柿なのでそのまま齧る事は出来ないが、果肉も十分で美味しそうである。村民に報告すれば、すぐにでも収穫してもらえるだろう。
「美味しい柿にしてもらえるといいですね」
レテはにこりと笑うと、その実を荷の中に大切に仕舞い込んだ。