山狩り
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:11〜17lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 20 C
参加人数:8人
サポート参加人数:5人
冒険期間:09月17日〜09月22日
リプレイ公開日:2006年09月25日
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●オープニング
風が吹いていた。
夏の暑い風はもはやどこにも感じられず、わずか陽のぬくもりだけを内包して涼しげに秋を運ぶ。
蝉の声も遠くなり、飛び交うはトンボの群れ。それを追う子は‥‥地に付し血を流していた。
ある小さな村の中。だというのに、周辺に広がる収穫間近の稲穂は根元から折られ、畑の食物も踏み荒らされている。家々の屋根は吹き飛び、柱は折れ、壁は泥に濡れる。
動いているのは三体のみ。どっしり歩く姿は人の姿をしているが、人ではなかった。体長はおよそ倍。ちょっとした小屋なら奴らの頭の方が出てしまう。その頭上には角を生やし、何よりその目は一つ目。片目を失ったのではなく、そもからその一つしかもっていなかった。
そろそろ冷え込む頃だが、三体とも動物から剥ぎ取ったらしき皮を巻きつけただけ。手にした棍棒は、血がこびりついている。
「二郎、いつまで喰ってる」
「うひ。太郎兄者」
辺りをうろついていた太郎と呼ばれた巨人は、座り込んでいた二郎に声をかける。一心に何かを食んでいた二郎は、顔を上げると真っ赤な口元に笑みを浮かべた。
「肉、うまいぞ。人は久しぶり。嬉しい」
言って、かぶりついた肉は女の足だった。傍には食い残しの頭が山となっている。
「喰いすぎは良くない。だから太るんだぞ」
呆れて告げる太郎。二郎は何を言われたか分からないと言いたげに首を傾げると、丸々と太った自分を見つめる。
「花はどこ行った」
「あっち」
そんな二郎に太郎はさらにため息をつくが、二郎はただあっさりとそう告げ、自身の太鼓腹で血をふき取ると次の肉に取り掛かった。
二郎が指差した先には女の巨人がうろついていた。手に松明を持ち、ぶつぶつと何かを唱えてはその身が緑の輝きを纏う。
そうしてまたうろつき、それを何度か繰り返すと、立ち止まりにやりと笑う。
止まったのは一件の家。三体が暴れまわったせいで、半壊していた。
そこに松明を置いて、腰の棍棒に持ち返ると崩れかけていた家は、ほぼその一息で吹き飛び、中が露になる。
「ひ、ひいいい」
家にいたのは老人と子供。逃げ遅れたのだろう、息を潜めて災難をやり過ごそうとしていたが、無駄だった。
「上物見っけ」
上機嫌に花が家の中に踏み込む。
「逃げろ、早く逃げるんじゃ」
動いたのは老人。渾身の力で巨人にしがみつくと、必死に子供に訴える。蒼白な顔で座り込んでいた子供は、その声で我に返ったように慌てふためき、そして家の外へと駆け出す。
「あんたみたいなまずそうなのはいらないのよ!!」
行かせまいと必死の老人だったが、苛立つ花に振り払われるとあっさり壁まで吹っ飛んだ。忌々しげに花がその胸元を蹴りつけると、骨が砕ける音がして老人は大量の血を吐き出す。
そちらの始末はそこそこに花は逃げた子供を追う。小さな足ではすぐには逃げられない。花が追いつくのも時間の問題かと思われた。が、その前に、横から雷が飛んできた。
撃たれた子供は悲鳴を上げて倒れる。その雷を追っかけるようにどすどすと二郎が駆け寄ると倒れた子を拾い、あっさりその頭を潰す。
「いっただきまーす」
「ちょっと二郎兄。それは私の獲物よ。焙って喰おうと思ってたのに」
「駄目。早い者勝ちー♪」
抗議する花に、二郎は軽く告げながら子供の手をもぐ。躊躇無いその行動に、花は目を三角にして怒鳴りつける。
賑やかな食事風景。だが、いきなりその声を消した。
耳を澄ませば、風に乗って聞こえる喧騒。鋼の音もかなりの数だ。
「逃げた人間が他の奴を連れてきたんだ」
「御飯いっぱい♪ いっぱい♪」
「馬鹿兄。私もう疲れたから嫌よ。たくさん食べれるのはいいけど、怪我もするし。地道にはぐれたのを食べてる方がいい」
「うん。腹も膨れたし、もう帰るとしよう」
「えええ」
しょぼんとうなだれる二郎。だが、太郎と花はさっさと山に向かって走り出している。そうすると、二郎も従わなくてはいけないようで。
名残惜しそうに、肉を口に頬張ると、その血の滴を垂らしながら二体の後を追った。
「いつのまにあんな奴らが山に住み着いたのか‥‥。とにかく、目利きの猟師に頼んで血の痕を辿ってもらい、山の奴らの住みかに見当をつけた」
冒険者ギルドを訪れた村人は起きた惨劇を語り、そして協力を依頼する。
「山の奥に大きな洞穴がある。血の方角からあの巨体が寝起きできそうな場所はそこぐらいしかないだろうって話だ。なんで、近隣の若い衆を連れて、近々山を狩ってあいつらを始末する事にした。けど、俺らはあんま力も強く無いんで、助っ人に来て欲しいんだ」
係員はちらりと手を見る。鍬や鋤を持つのは慣れているが武器を持った事は無い手だ。表情も硬く、少し脅せば逃げそうだなと思った。
「まぁ、いい。募集をかけてみよう」
そう告げると、肩の重い荷がやっと下ろせた様に村人は
さっそく募集の貼り紙を作ろうとし、ふと空を見上げる。
「なんか、長雨が来そうな風が吹くな」
流れる風は暗雲を運んで来ていた。
●リプレイ本文
そぼ降る雨が先日からずっと続いていた。空を見上げればどんよりと重たい雲が厚く空を隠し、それがどこまでも広がっている。当分止みそうにない。
「好都合だ。こちらの出す音が雨に紛れる」
降り注ぐ雨を見ながら、ウィルマ・ハートマン(ea8545)はほくそ笑む。
山に巣食った一つ目巨人。三兄弟らしき彼らを狩り取るべく山の一角、村人達の手も借りて冒険者たちは穴を掘る。
「此度の相手‥‥。角があったり、魔法を使ったりで鬼か精霊の類かとも思っていましたが。化け狐や猫又、塗坊などと同じく妖怪の類らしいですのね」
「そうですね。一つ目巨人――西洋名はサイクロプス。怪力な上、攻撃的なモンスターです」
告げる緋芽佐祐李(ea7197)に、ジークリンデ・ケリン(eb3225)も頷いて見せる。共に知り合いにも手伝ってもらい、一つ目巨人の情報を集めていた。見かける率は少ないながらも、図書寮やギルドで情報を集めればそれなりには出てくる。また、ジークリンデ自身、その方面の知識は割りと詳しい方である。
「肉食で、人肉も好んで食べるのは‥‥すでに御理解なさってますわね。風の精霊と関係が深いらしくて、風の魔術も自在に操ります。面倒な相手ですが、おつむはいい方では無いようですわね。持って生まれた資質だけを頼りに暴れているようですし、たまには狩られる立場をお教えしてさしあげましょう」
言って、ジークリンデが静かに微笑む。品のある清楚な笑みだが、言ってる事はかなり物騒。もっとも、それを咎める者は無い。むしろ、陰鬱な感情を奥に秘めたまま強く頷く者ばかり。
無駄な喋りも一切なしに、ただ黙々と村人たちは穴を掘り、作った竹槍を埋めていく。堅く閉ざされた唇は、雨による寒さで食いしばっている訳でもなさそうで。
ともあれ、静かなのは、まぁいい事だ。
一つ目巨人たちの塒から罠の設置している場所は結構距離がある。地形の都合もあるが、罠の設置している最中に襲撃されてはまた一からやり直し。下手をすれば警戒した一つ目巨人たちがそのまま逃走する恐れもある。それでは意味が無い。
離れているとはいえ注意は必要と、ライル・フォレスト(ea9027)が五感を用いて周囲を警戒している他、ベアータ・レジーネス(eb1422)や佐祐李もブレスセンサーで近付く気配が無いかを確認してまわる。
「落とし穴はこれでよし。‥‥それでおまえたちに話がある」
掘られた落とし穴を分からなくなるように隠し、風月皇鬼(ea0023)は村人たちと向き合う。
「余計な犠牲が増えるのはこちらとしても避けたい。少しでも命を惜しむ気があるならば決してついてくるな」
面と向かい、きっぱりと告げられ。村人たちの顔に驚愕が走る。
「これまでの行動からして、今回の鬼は多数と一度に争うのを嫌い、少数になった者を襲う動きをしているでござる。
貴方がたから独断先行で鬼に向かう者が出れば、その者が新たに犠牲になる可能性が高く、犬死となる。しかし、皆様が一丸となって隙を見せずに動けば、鬼は警戒して襲っては来ないと思われ。
これ以上の被害を出さない為、村人が共に退治が終わるまで隣の村等に一時避難していただけるのが最も望ましいのでござる」
阿阪慎之介(ea3318)もまた、言って村人たちに頭を下げる。けして冗談などでは無い事を悟り、村人たちは互いに顔を見合わせざわめき合う。
「どうしても逃げる事に納得がいかず、自らの手で仇を討ちたいなら名乗り出て欲しいでござる。討ち取られる姿を遠目に確認できる場所で、重要な役目を皆様方に団結してやって頂く用意があるでござる」
「ただ。こちらとしても、お前達を守る余裕がない。そして、俺達も生きて帰って来れんかも知れんのでな」
さらに告げられ、村人たちは目に見えて動揺している。
彼らにとって、熊や狼でも強敵。それらでも手を焼くのに、それよりもさらに強く悪賢いのが相手なのだ。さらに魔法などという訳の分からぬものまで使えば、それは全く未知の存在。数に任せて勝てるかも難しい。それが叶う相手なら、せめて村が襲われていた時、追い払うぐらいは出来ていよう。
勢いと感情と責務で動いていた村人たちだが、冷静に諭されて躊躇するのは当然だった。
「この罠によって、成功するか失敗するかが決まる」
空漸司影華(ea4183)が呟く。
「この仕掛けがあればきっと上手くやれるから! 後は私たちに任せて! 傷ついて欲しくないから‥‥来ないで欲しいの」
真摯に訴えられ、心動かぬ者もまた無かった。
その後も幾つかの説得を繰り返し、村人たちは全員別の場所にて成功の知らせを待つ事となる。
家族や友人を喰われた者から必ず討ち取ってくれと頼まれ、改めて討伐へと向かう。
空は依然雨模様。流れる水が体を冷やすが、熱い気持ちがそれを撥ね退ける。
「村人たちの予想はさすがですね。奴らは三体とも御在宅です」
インフラビジョンを唱え、テレスコープを経巻で補うと、ジークリンデは塒の方角を調べる。雨で動くのが嫌なのか、三体ともそこにいて暇そうにしていた。
「周辺地理はこちらに。ここが落とし穴の場所で、こちらが塒の場所。この間を引き付けて移動しなければなりません。ウィルマさんが落とし穴とは別に仕込みをしているのを忘れないように。足拵えはしっかりしましたが、それでも雨で滑りやすいので逃げる際は気をつけて下さい」
事前に聞いておいた周辺情報を記した地図を広げ、佐祐李が最終確認。
「それでは、参るとしましょう」
ジークリンデがスモークフィールドを唱える。達人技のそれは、たちまち濃い煙を広範囲に発生させ、一つ目巨人たちの塒周辺を包み込む。
「何だ! 何だ?」
「花、火の始末はしたのか?」
「この雨の中、獲物も無いのに火なんて使わないわよ!!」
たちまち三体が騒ぎ出す。風にのって途切れ途切れに聞こえてくる声。
「周囲に魔法の罠は無いようだな。よし!」
小石を投げて身の安全を確認すると、ライルが飛び出し、思い切り息を吸う。
「おーい、百貫デブ! 何をのろのろと動いてやがる! 図体でかいだけのてんでのろまな阿呆じゃねーか!!」
大声で悪口を述べるライル。途端、煙の中から歓喜と怒声が届いた。
「兄さんたち! 人間の声がするわ!!」
「御飯、御飯!! 久しぶり!!」
「してみると、この煙もやつらの仕業か! 小賢しい真似を!!」
一拍おいた後、煙の中から一直線に雷が伸びてくる。
「うひゃああ!!」
半分本気、半分は挑発も兼ねてライルが大仰に叫ぶ。どうやらおおよその見当だけで撃っているようだが、それでも当たる時は当たる。
「早く逃げましょう!!」
佐祐李が疾走の術を唱えると、颯爽と走り出す。他の面子も遅れじとばかりにその場を後にしていた。
佐祐李の手には血を滴らせた小動物。一つ目巨人たちをおびき寄せ易くする為だが、
「待て! 人間どもが!!」
「御飯、御飯〜」
「きゃはははははは♪」
あまり意味は無かったかもしれない。巨人たちの一つ目はただ冒険者を睨みつけ、一心に追ってくる。
口々に叫びながら、巨人たちは瞬く間に迫ってきた。一つ目巨人には障害になるような木々の密集地や、ウィルマの作った草結びなどの罠を利用して走るが、少しずつ差は縮まってきている。
「ふざけた真似を!!」
追いつかれ、唸りを上げて棍棒が振り落とされる。
「冗談じゃねぇ!!」
ライルは巧みな足捌きで躱すと、目に砂を投げつけ、そのまま素早く木の陰へと身を隠す。
「おーい、デブたち。こっちだ、こっち」
「ぐふ? そっちか〜」
そして、ベアータが大声で一つ目巨人たちに呼び掛ける。その声につられ、ほいほいと太っちょの一つ目巨人が動く。
「待て、二郎!! そっちには誰もいないぞ!!」
太郎が声を上げるのと、二郎の姿が足元に消えたのがほぼ同じ。そして、ほんの刹那の後に空いた穴から二郎の絶叫が響いた。
「え、何? 何?」
「二郎! ええい、小癪なまねを!」
戸惑う花に叫ぶ太郎。地団駄踏めば、雨で緩くなっていたか、落とし穴の一部が落ちて奈落を見せる。
「それでは。これが開始の合図かな?」
ベアータが油を投げ込むとそこに火をつける。熱せられる空気に一つ目巨人が慌てる内に詠唱すると、ストームで吹き飛ばす。
即席のファイヤーストーム。即席ゆえに、雨で消されたり肝心の風で火が消えたりと上手くはいかなかったが、それでも一つ目巨人の虚をつけたのは事実。
「では、いざ参る!!」
慎之介が日本刀を抜くと、飛び出す。
「村人たちの怒りを‥‥その身で受けなさい! 閃空斬!!」
影華が霞刀で斬りかかる。直前のフレイムエリベイションで気力を高め、常より機敏に行動。刀の重さを入れて見事決まる。が、頑丈な皮膚が刃を阻み、傷はまだ軽い。
「うがあああああ!!」
振るってきた棍棒が重く風を斬る。避けきれず、身で喰らい骨が軋みを上げた。
「つっ!!」
その痛みを堪え、影華は即座に刃を返し斬り込んだ。その素早い動きは予想外だったか。思う以上に刃が相手の体に食い込む。悲鳴を上げて逃れた太郎と、影華は一旦身を引き体勢を整える。
「これなら、どうでしょう!!」
離れて息をつく太郎に、佐祐李が聖者の剣を叩き込む。重さを十分に加味した一撃はざくりと入るが、そう思ったのもつかの間、怒り任せの棍棒に突き出され吹き飛ばされる。
「何よ、あんたたち! これでも喰らいなさい!!」
緑の光が花の身を包むや、その手から真空の刃が飛んだ。雨を弾いて軌跡が見えたが、それは忍者刀を振りかざして迫ってきていたライルの頬をほんの少々切っただけ。
「何で!!」
よく見れば気付いたろう、雨の動きが違う事に。ベアータのウィンドレスがその場を静かに支配していた。
気付かず露骨に引き攣る花に向けて、ライルはその刃を繰り出した。
「腹の中に呑んだ物、見せてもらおうじゃねーの!!」
斬りやすそうな箇所を狙い、横薙ぎに掠めるように一閃させる。が、狙いをつける分、振りも分かり易くなる。
「ううっ!!」
微妙な差異で、花は躱すとその手に棍棒を構える。そこへ、風斬る音が届くや一本の矢が肩に刺さった。
遠方より届くウィルマの射撃。射程の長い十人張を利用し、ブレスセンサーでは気付かれない距離を保っている。一矢撃ってすぐに場所を移動しようとしたが、上空の雲から雷が飛来、近くの幹に派手な音を立てて落ちる。
「何だ!?」
避けた幹がばらばらと頭上から振り落ちる。それから身を守りつつ、ウィルマは一つ目巨人たちを見た。
「おで、おで! 怒った!! お前ら、全員ミナゴロシ!!」
落とし穴から這い上がった二郎が叫ぶ。
「おお、いい仕事してるじゃん」
凄絶な姿に、ライルは少々顔を引き攣らせる。知人や村人たちと作った竹槍は、返しがついて早々と抜けない仕掛けになっている。全身に竹を刺さらせながら、血を流し、怒りも露にしている姿はそら恐ろしいものがあった。
もっとも、それをいつまでも観察はしてられない。目を離した一瞬をついて、太郎が殴りかかってくる。手数が多く、攻撃も的確。回避は鈍いが、攻撃を当てても厚い皮膚が傷を阻む。その癖、巨体の繰り出す攻撃は重く、迂闊に当たれば骨が逝かれる。
だからといって、離れてしまえば魔法が飛んでくる。今も二郎の身が緑の輝きに包まれるや、上空から激しい落雷。
ヘブンリィライトニング。雨天時にしか仕えないが、範囲は視野の及ぶ限り。
「面倒なものを」
苦々しく、ウィルマは山を移動する。木々に溶け込むように格好を偽装しているが、見付かっては狙い撃ちもされかねない。
もっとも、二郎の狙いはウィルマだけでなく、激しく動き回る冒険者すべてだが。
「皆さん、一旦下がって!!」
ジークリンデの声に、全力で逃げ出す。
「逃がさないわよ!!」
花もヘブンリィライトニングを唱える。太郎も加わり、辺り一帯に無差別に雷が落ち始める。
そんな三人に向けて、ジークリンデは詠唱を開始する。身に雷が落ちても、経巻で施したレジストライトニングのおかげでほとんど傷は無い。そして姿が赤い光をまとうや、その手から火の玉が飛んだ。
着弾した途端に、派手な音を上げて爆発。広範囲に渡って火力を撒き散らす。
範囲内の木々が焼け焦げて折れ、引火した炎は雨によってすぐに消えた。その派手さに見合うだけの威力はあったが、それでも三体ともまだ立っている。
「空漸司流暗殺剣最終奥義‥‥神虚滅破斬! てぇぇぇぇやぁああっ!!」
すかさず影華が刀を構えて突進。二郎に向けてその刃を突き入れる。
すでに全身に傷を負った上で、火に撒かれ。影華の勢いを受け止められず、二郎は押される形で落とし穴にまた落とされる。
「ぎゃあああ!!」
悲鳴はすぐに消えた。穴の底を覗けば、無残な姿の二郎がそこにある。
「おのれ、お前ら!! よくも二郎を!!」
「その言葉! お前らが喰ってきた相手も告げてきたんだ!!」
棍棒振り回す太郎と二郎に、皇鬼が龍叱爪を振るい、慎之介も刀を振るう。
「どうやら、これ以上の助力は必要なさそうですね」
少し離れてベアータがそう考える。どちらも満身創痍。程度の差こそあれ、傷の無いものはない。だが、じわりじわりと冒険者たちが一つ目巨人を追い詰め、穴へと落とす。
とはいえ、そう簡単に仕留められてくれた訳でもない。
兄弟を殺された怒りは人と皆同じか。傷付いた身でありながら、太郎も花もすさまじい勢いで棍棒を振り回し、隙あらば魔法を唱えてくる。
それでもどうにか、一つ目巨人たちをしとめる。
傷負うた者はそれぞれが癒しにかかって、次に一つ目巨人たちの始末にかかる。落とし穴が奇しくも奴らの墓穴に変わった。
村人たちに終わった旨を告げ、塒まで出向いてみれば、正体不明の人骨もごろごろと。
「ここでは多くの命が失われすぎた‥‥後は、安らかにね‥‥?」
悲嘆にくれる村人たち。そして、埋めた一つ目巨人たちすらも思いながら、影華は天を見上げる。
嘆きにつられてか、雨はいっそう酷くなってきた気がした。