大猿 暴れ中

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 8 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:09月21日〜09月26日

リプレイ公開日:2006年09月29日

●オープニング

 とある村にて。秋の収穫を前にして、猿が四匹が入り込むようになった。
 猿といっても、身の丈はジャイアント種族ほどある。人間種族なら大の大人でも見上げねばならない巨体。機敏な動きで自由に村を移動し、長い手は怪力を披露して次々と障害を取り除いていく。
 そうして、食料を溜め込んだ蔵は荒らされ、稲穂は折られ、畑は掘り返されていった。
 冬を前に食料が不足するのは、そのまま死の危険さえも意味する。何度も村人たちは追い払おうとしたが、大猿は意に介さず、傍若無人に村を駆け巡る。
 自分たちではどうにもならない。そう考えた村は冒険者ギルドに頼み、冒険者たちに大猿退治を依頼した。が、これも力及ばず、彼らは敗退する事になる。
 度重なる討伐も歯牙にかけず、どころかそれで『人間恐れる事無し』と自信をつけた大猿たち。横暴はさらに輪をかけて酷くなってきた。
 最近ではもはやそこに人がいようが関係なし。食料を食い荒らすどころか、暇つぶしとばかりに子供を追い回し、馬や牛にも襲い掛かり暴れさせる。家に上がりこんではそこかしこを散らかし、それが置いてあった火種から引火。家一軒が丸焼けになる騒ぎも。
 やってくるのも昼夜問わず。寝込みを襲われ怪我をした村人もいるのだから、休んでもいられない。
 食事時ともなれば。竈から上がる煙を見て、もうそこには美味い飯があるのだと悟り、手ごろな家に押し入っては家人そっちのけで出来た食事を食い荒らす。
 故に、村の者はおちおち火も使えず。飯の煮炊きも遠慮して冷えた生の穀物を喰らい、夜も眠れず大猿たちに怯えて暮らす日々。 
「今のままでは、あの四匹のせいで冬を待たずに村が死にかねない。なので、もう一度だけ頼みたい。どうか、あの大猿たちを始末してくれないか。蓄えも少なくなって、あまり礼金を支払えないが‥‥」
 はっきりとやつれた村人が、冒険者ギルドに来て頭を下げる。追い詰められた悲壮感だけがそこにあった。

●今回の参加者

 ea8203 紅峠 美鹿(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb2018 一条院 壬紗姫(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3917 榊原 康貴(43歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb4750 ルスト・リカルム(35歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 eb5009 マキリ(23歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb5093 アトゥイチカプ(27歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb5862 朝霧 霞(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb6553 頴娃 文乃(26歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)

●サポート参加者

アキ・ルーンワース(ea1181)/ 井伊 貴政(ea8384)/ 四神 朱雀(eb0201

●リプレイ本文

 大猿退治に呼ばれた冒険者たち。着いた村は人気はすれども活気なく、目を向ければ荒れた田畑や壊れた家屋が目に付いた。
 誰もが息を潜め、怯えているようで。それも無理も無いと、漂う寂れた風情に一同はそう感じた。
「こりゃあ、放っておけねぇな」
 眉根を顰め、面倒そうに頭をかきながらも紅峠美鹿(ea8203)は、そう判断する。場所によってはもはや収穫も見込めそうにない田畑もある。これ以上被害が進めば、冬場村人が餓死するか、あるいは困窮の余り夜盗に転じるか。
「すでに人間をかなり侮っているらしいしね。‥‥逆に言えばやりやすいかも。弱くても警戒してくる相手より、強くても油断している相手の方がかかりやすいもんね」
 ライトショートボウの弦の張りを確かめながら、マキリ(eb5009)は軽く肩を竦める。
「とはいえ、真正面から当たるにはちょっと危ないかもしれないから、一つぐらい罠が欲しいかな」
「そっちは大丈夫。村人と話したら条件にあう家を用意してもらえる事になったわ」
 尋ねるマキリに、すぐに朝霧霞(eb5862)が頷く。場合によっては位置から作る必要もあるかと危惧していた彼女だが、それに反して村人たちからの答えは実に好意的。煮え湯を飲まされ続けてきた大猿たちを始末できるとあらば、協力は惜しまないとの事。
 望むのは村はずれで破壊可能な家屋。そして用意されたのは、家の住人がいなくなってから何年もたつ、まさに廃屋だった。
「悪くないな。出入り口はここだけ。窓を塞いでしまえば猿たちの出入りの監視も容易になる。多少汚いが、それは掃除すればそれなりになるだろう」
 中の様子を見て、榊原康貴(eb3917)も納得。ふと柱に手をつこうとしたが、そのまま倒れそうな気がして引っ込める。
「御近所には遠すぎず、近すぎず。物陰に隠れて待ち受けやすいな。弓を射掛けるにも走り寄るにも適当ではないか?」
 アトゥイチカプ(eb5093)は外を見渡す。幾ら侮っているとはいえ、大猿もさほどお馬鹿な動物ではない。殺気に勘付けば逃げかねない。
 廃屋の手入れをしながら、冒険者と村人が互いに協力して廃屋に手を加えていく。
「穴の方は順調ですね。そこの柱には崩れやすいよう、切り込みをお願いします」
「竹槍はここにおいておくわね」
 一条院壬紗姫(eb2018)が知識を生かして罠の指示を出す中、ルスト・リカルム(eb4750)も道具を運んだりとせわしなく動いている。
「穴の底に、熱い油を置いておくのはどうだろう。炊き出し用の煙と一緒に設置すれば温度も保てそうだけど。‥‥そういえば、餌の方は?」
「ここに。大猿用として知人に作ってもらったわ。酒臭いから酔わないようにね」
 見回すマキリに、頴娃文乃(eb6553)は持ってきた食材を渡す。その顔は酷く渋り、顰め面。酒の臭いに閉口したせいもあるが、内部の罠の出来上がり具合に心中複雑だった。
「大猿退治‥‥。獣医としては胸が痛むけど、悪さする子はお仕置きしないとね」
 言って一つ嘆息すると、何かを吹っ切るかのように首を振る。
「猿の行動も厄介だけど、村の状況も深刻だしね。問題解決して、冒険者の名誉挽回しなくちゃ」
「以前はしくじったそうだが、二度目は無い事を教えてやらねばならんな」
 冷静に告げる霞に、同じく落ち着き払った態度で康貴も罠が設置された家を見つめた。

「周辺の人は危険だから、逆方向の家に纏まっていてくれ。煮炊きも我慢し、戸締りもしっかりと頼む」
 アトゥイチカプに促され、村人たちは安全な場所へと移動する。一様に期待と不安を秘めた目で見られ、それが重くのしかかって忘れられない。
 それに応えるべく、家の周囲に散り、冒険者たちは大猿たちを待つ。
 見違えた家からは一筋の煙が立ち昇る。薄くか細く見えた煙だが、他の家からは何も変化が無い分、はっきりとした目印になった。
 大猿たちは、すでに煙のある家は食物を煮炊きしていると学んでいる。それを逆手に取ったおびき寄せだった。
 果たして。
 しばしもせぬ内に、大猿たちがやってきた。
 田畑を平気で踏み荒らし、民家の屋根を派手な音を立てながら、問題の家へと近付く。
 現れたのは話通りに四体。さすがに警戒するか、周辺をぐるぐると回り、やがて一匹が小さく鳴くと一斉に家の中へと飛び込んだ。
「それでは、準備と行きましょうか」
 大猿たちに内心手を合わせつつ、文乃はルストと手分けしてグッドラックをかけて回る。
 外にいたのでは、中の様子は分からない。
 が、それからさほど待つ事もなく、いきなり家が倒壊した。
 派手な土煙と轟音とそして甲高い悲鳴が上がる中、家から飛び出してきたのは‥‥大猿三体!
「一体はどうやら抜け出せなかったようだな!!」
 崩れた家の中、怒声と共にがたがたと材木が揺れ動く。抜け出るにはまだ時間がかかろう。
 してやったり。そう思う間にもアトゥイチカプは手を動かし、ミドルボウに矢を番えて打ち放つ。
「ギャ!」
 崩れてきた家から逃げ出し、少し離れた所で立ち止まった大猿に、その矢はずぶりと突き刺さる。短い悲鳴を上げる大猿を助ける事無く、他ニ体は逃走にかかろうとする。
「逃がすかよ!! 猿どもが!!」
 美鹿は太刀を構えると大きく薙ぎ払う。放たれた衝撃は猿たちを纏めて打ち据え、その毛を斬り飛ばし血を流させる。
「魔物にかける言葉はなし。‥‥ここで散れ」
 淡々と告げるや走り寄った壬紗姫は霞刀を両の手に握り締め、攻撃に苦しむ大猿へと素早く突き立てる。
「ギャ! ギャギャギャ!!」
 いななく大猿が刀を振りほどくと、長い手を伸ばして掻いて来る。身軽なその動きをさらに身軽に躱すと、壬紗姫はもう一度と刀を斬りつける。
「後の事を考えると、ここで全て討ち果たしておかないと。一度覚えてしまうと何があっても戻ってくる習性があるらしいのよね」
 左手の小柄ではさすがに分厚い皮膚をさほどしか傷つけない。が、牽制にはなった。霞は振るって猿が怯んだ隙に、右手の日本刀で斬りかかる。さすがにそちらは猿の身にまっすぐな赤い線を刻み込んでいる。
「奴らが逃げるようなら多少の無理も必要というわけか。――とはいえ、その必要はなさそうだな!!」
 村中に響くような声で大猿たちは吼える。手負いとなった今逃げ帰る気は毛頭無いのか、執拗に伸ばしてくる手。グッドラックの効果があったか、その手は虚しく宙を握り続けていたが、ついに康貴の身を捕らえる。
「!」
 顔を歪ませる康貴と対照的に、大猿は笑うような素振りを見せて空いているもう一つの手で挟み込もうとしたが、
「ギイエ!!」
 急に掴んでいた手を離す。見ればその頭に矢が一つ刺さっている。
「やはり目を狙うのは難しいね。微妙に躱されてる」
 軽く舌打ちしてマキリは次の矢を構える。
「でも、負けられない。矢を使い尽くしても仕留めさせてもらう!!」
 番えて放てば風斬音。飛んできた矢に慌てて大猿が逃げるが、その隙に康貴は駆け寄ると日本刀を突き立てる。事前にオーラパワーを付与していた刃は滑るように猿を切裂く。
 大猿三体に傷を負わされながらも、それに負けず劣らずの傷を入れていく冒険者たち。
「そこに新手が出られるのも困るから、あなたは埋もれたままおとなしくしていてね」
 宥めるような口調で、ルストは瓦礫に埋もれている大猿に近付き、コアギュレイトをかける。抜け出ようと奮闘していた大猿はそれで縛られ、ぴたりと動きが止む。
「さて、こちらは止まってくれたものの?」
 どうしたものかとルストは戦場に目を向ける。大猿の動きを止めようにも、確実に魔法を成功させるには射程を短くせねばならず、狙われる可能性がある。かといって威力を上げればまだ成功率が低い。相手に抵抗される事も合わせると、なかなか迂闊に動けない。
「はい。無茶しないでね。私の職業は獣医なんだから」
「悪いね。後もうちょっとって所さ」
 美鹿の傷をリカバーで治し、文乃が告げる。
 今回薬を携帯しているのは壬紗姫とアトゥイチカプ。とはいえ、アトゥイチカプは距離を取って弓で攻撃だし、壬紗姫もほぼ難なく回避しているので不要といっていい。
 幸い、リカバーを使える者が二人いる。が、リカバーは接触のみなので、やはり使いどころが難しい。‥‥もっともグッドラックの効果もあってか、早々と怪我人が増える事も無く。
「全く! 調子に乗った糞猿どもが!! ほいほい抱きついてくるんじゃねぇよ!! 人間様の恐ろしさをたっぷり教えてやるよ!!」
 傷を癒した美鹿が走り抜けると気合と共に太刀を大猿へと叩きつける。その重みを生かした攻撃に、大猿は骨ごと裂かれ、脳にまで響きそうなほどの声を上げる。
 よろめくように後じさり、そのまま背を向けて逃走にかかろうとした。
「逃がさないっていったよね」
 その首筋にアトゥイチカプの矢が刺さる。どうっと一体が倒れると、怖気づいた大猿が逃げ出そうとする。それらにも牽制の矢を射掛け、次々と刃が切りかかり。
 全てを始末し終えるのにそれから幾らもかからなかった。
 否、まだ一体埋もれているのがいる。コアギュレイトに縛られている内にと潰れた廃屋に近寄るが、
「何だか焦げ臭くない?」
 ふとマキリがその鼻を盛んに動かす。
 よく見ると立ち込める煙が数倍の太さに転じている。もしやと瓦礫を覗けば、埋もれた奥で赤い炎がちらちらと。
「保存食を焙っていた火が倒壊した際に、油に引火したようですね」
 さすがに困った様子で壬紗姫は頬に手を当て息をつく。
 本格的に燃え出した炎はあっという間に廃屋中に広がり、嘗め尽くす。水をかけようかとも話したが、油が切れるまではまずいと手出しを控える。幸い壊しても良いとのお墨付きを得ているので、近所に火の粉が飛ばぬようにだけ気をつけ、治療や矢の回収をしながら静観する。
 中に埋もれていた大猿はコアギュレイトの効果時間が過ぎても静かなままだった。おそらく煙に巻かれても逃げるに逃げられず、窒息したと思われる。
 紅蓮の炎が全てを焼き尽くし、その灰の中から大猿の焼死体を確認した時、ようやく全てが終わった。

 大猿四体の死骸を見せて事の顛末を報告すると、村人たちは重くのしかかっていた肩の荷をようやく降ろした表情で冒険者たちに深々と頭を下げた。
「家畜たちの方はもう大丈夫ね。やられた外傷は治りかかっている。かなり過敏になってるようだけど、元凶がいなくなったんだし。すぐ落ち着くよ」
 その後、一通り村を見て回り、家畜を診て回った文乃。人も見ない訳でも無いが、どうしても職業柄そちらに気が行くようで。
「村も手酷くやられているようだが。これでどうにか建て直しが図れるな」
 焼けた家の始末などをしながら、アトゥイチカプもほっとして、元気に動き回る村人に目を向ける。
「腕に自身はありませんが‥‥、少しでも皆様に元気を出していただければと思いまして‥‥」
「いやいや。あいつらを始末していただいただけでも結構ですのに、これ以上恩を受ける事も」
 持ってきた保存食を使って暖かい料理を作ろうとした壬紗姫だが、村人たちの方がありがたがって止めに入る。結局、せっかくなのだからと半分だけいただく事になった。
「それじゃ、皆でお祝いの一杯と行こうじゃないの」
 その料理を囲み、霞がどぶろくを開けて杯を掲げる。応えた声はどこまでも明るかった。