京都滅亡の日?

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:10月03日〜10月08日

リプレイ公開日:2006年10月11日

●オープニング

「た、助けてくれ‥‥」
 青い顔で息も絶え絶え、冒険者ギルドに現れたのは一人の和尚。外傷は無いものの、酷く動揺してるらしく歩みもおぼつかない。見ている間にも、足を絡ませ転びそうになる始末。
「どうしたい? 何があった?」
 落ち着くよう水を飲ませ、冒険者ギルドの係員は和尚に問いただす。
 ただ事ではない。そんな表情が和尚から読み取れたのだが。
「狸たちが‥‥狸たちが‥‥」
 水を一服、ようやく声を出した和尚。その呟きに係員は力むのを止め、代わりに苦い表情をその顔に浮かばせる。
「まぁた、あの化け狸たちか‥‥。あんたも坊さんとはいえ、人がいいにも程がある。そろそろ本腰入れて奴らを叩き出しゃどうだい。何なら、その手の依頼を出すか?」
 和尚の寺には四匹の化け狸が住み着いている。暦とした妖怪だが、人に化ける以外は能の無い連中。
 とはいえ、その行動は十分問題。日がな一日、喰う寝る騒ぐで周囲を振り回し。ついでに自由に生きるを信条に、いつでもどこでも素っ裸で下半身を振り回す。
 そんな奴らなので、悪行成敗の依頼が出る事もしばしば。その都度ぶっ飛ばされて痛い目に合っているのだが、一向に懲りると云う事を覚えない。
「で、今度は何をしたんだ? 秋だからなぁ。栗いがを放って投げてきたか? 笑い茸を喰って笑い転げてるとか? それとも魚を取ろうとして熊に遭遇して逃げ回ってるとか?」
 いろいろと考える係員。だが、その全てに和尚は首を横に振り、青い顔で震え出す。
「そんな事ではない! ああ、こんな事が起ころうとは天変地異の前触れか!! 京都は魔都と成り果てたか。御仏よ、我らを救いたまえ。なんまんだぶ、なんまんだぶ」
「だから、何がどうしたんだってんだ?!」
 苛立つ係員に、恐る恐ると和尚は口を開く。
「実はじゃな‥‥。あの狸たちが、まぢめに服着て御飯食べて寺の掃除までしとるんぢゃーーーー!!」
「何いいいいー!!!」
 驚愕の悲鳴がギルド中を駆け巡る。

 それはしばらく前の事。仲秋の名月を祝う宴に出向いた化け狸たちは、川に落ちてずぶ濡れで帰ってきた。さすがに疲れたのか、それから数日、本堂を占拠して姿を見せず。
 ま、おとなしくしてるならそれでいいだろうと、和尚はそちらには触れずに日々のお勤めを果たしていたのだが。
 ある朝の事。
 早朝まだ日も空けやらぬ頃、掃除用の水を汲んでいた桶を、横から手に取る者がいた。
「やあ、和尚さん。おはようございます。お水お持ちいたしましょう」
 すがすがしい顔でそう告げたのは化け狸。しまってあった古い着物をきっちりとしこたま着込み、妙に着膨れした姿で現れた。
「和尚さん、朝餉の用意が出来ましたよ。と言っても材料切っただけですが」
「どうしました、和尚さん。お顔の色が悪い」
「それはいけない。お布団を引いてきましょう」
「‥‥いや、そのぢゃな。お前らこれは何の冗談じゃ。また悪い遊びでも考えついたのか?」
 疑う事は良くない。そう分かっていながらも、目の前の相手にそう尋ねてしまうのは‥‥むしろ人として当然。
 その途端に、化け狸たちはその場にがくりと崩れ落ちる。
「ああ。我らがこれほどに疑われていようとは。なにやら目の前が真っ暗になってくる」
「弁明しようにも声も出ぬ。まことつらいのお」
「がんばれ、ポンの字。御仏の教えを説く和尚が人を疑うなど背筋がなにやら寒い思いがするが、それも仕方ない事。我らの信用が足りぬだけよ」
「そうだ、ポンの山! ポンの海! ポンの空よ!! かくなる上はこの身の内から湧き上がる熱情のままに、我らの行いを示してやるのだ!! まずは境内の清掃からだ!!」
「「「おう!!」」」
 すっくと立ち上がると、一目散に水を運ぶ化け狸たち。事態についていけず、和尚は呆然と立ち尽くすしかなかった。

「で、狸たちは仏像を拭いたり、わしの読経をおとなしく聞いてたり、やってきた客人を丁重にもてなしたりしてるんじゃよ。おかげで悪い物喰ったのかとか心配されるし、子供も気味悪がって泣き出すしで」
「普通に考えればいい事だろうが、奴らに限って普通などという言葉を当てはめればそれは恐ろしい事が起こるような?」
「うむ、なにやら触れてはならぬ一端に触れてる気分じゃ。これ以上恐ろしい事が起こらん内に、どうにか狸らを‥‥まぁ、何とかしてほしいんじゃ」
「ああ、分かった。何というか、こんな日が来るなど微塵にも思わなかった。最近不穏な空気も多いが、やはり京都は滅ぶのか? 畜生、こんな前触れありか!?」
 深刻に話す和尚に、怯えの色濃く頷く係員。
 冒険者募集の貼り紙が出されたのはそれからすぐだった。

●今回の参加者

 ea1956 ニキ・ラージャンヌ(28歳・♂・僧侶・人間・インドゥーラ国)
 ea5794 レディス・フォレストロード(25歳・♀・神聖騎士・シフール・ノルマン王国)
 ea8904 藍 月花(26歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ea9502 白翼寺 涼哉(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb1932 バーバラ・ミュー(62歳・♀・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 eb2919 所所楽 柊(27歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb3531 クリア・サーレク(24歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb7213 東郷 琴音(25歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ユーディス・レクベル(ea0425)/ キドナス・マーガッヅ(eb1591)/ セシェラム・マーガッヅ(eb2782)/ 所所楽 柚(eb2886)/ 所所楽 銀杏(eb2963

●リプレイ本文

 それは寺の門前。婦人が一人、腰を抑えてしゃがみこんでいた。
「もし、そこのお人どうされた?」
 気付いた四人の美少年が、心配そうに声をかける。
「どうやらぎっくり腰のようでな。どうにも動けんのじゃ。すまんが、助けてくれんか?」
「それは大変です!! 少し寺でお休みになってはいかがでしょう」
「ぽん香、ぽん華、ぽん久よ、我らで支えて運び込むのじゃ!」
「その前に、ぽん樹よ。おぬし、和尚に至急知らせて布団の用意をしてもらえ」
「うむ。さすがぽん児だ。それではその女性をくれぐれも頼む。ついでにお茶も用意してもらうぜよ」
 苦しむ老婆を囲み、実にテキパキと動いている少年たち。
「さあ、お嬢さん。おいらの背中に負ぶさりなせい」
「おうおう、それでは遠慮なく。困ってる人を見捨てず助けるとは、坊やたちは偉いのぉ」
「「「「いやいや、それほどでも」」」」
 負われながらバーバラ・ミュー(eb1932)が褒めると、狸たちは頬を染めて照れている。
 そして和尚にも連絡が行き、ゆっくり養生されよとバーバラは手厚い歓迎を受けた。

「ってか、ありえーーーん!! うわマジで服着てやがるし」
 腰揉め、肩揉め、足を踏めと。バーバラの指示にも嫌を言わずに動く化け狸らを目撃し、白翼寺涼哉(ea9502)が叫びを上げる。
「‥‥勿論、下もはいてるんだろうな! ‥‥マジかよ。しかも洗いざらしだ」
「いやん。助平さん」
 ぽっと顔を赤らめる化け狸の隣で、蒼白になってる涼哉。
「ふっ。脱がない狸はただの狸なんだねぇぃ」
 葱を片手に格好をつけてみるが、目がどこか現実を見て無いような何とやら?
「天変地異って奴かもしれません」
「長い付き合いですが、まさかこんな日が来ようだなんて‥‥」
 冷や汗流すクリア・サーレク(eb3531)の隣、藍月花(ea8904)も青褪めた表情で唇を噛み締めている。
「おーい、ヘビヘビ。馬鹿が馬鹿になってるけど、これはどういう状態だと思う?」
「いえ、明は喋れない上に‥‥明もちょっと我慢して下さいね? でも、あの狸らにならいいですよ」
「「「「痛いなぁ蛇くん、やめてくれよぉ」」」」
 月花の大蛇・明に震えながら語りかけているのは一人の子供‥‥に見えて、実はこちらも化け兎。化け狸四匹とは因縁深き仲で、出会えば即時戦闘開始。なので、その口の悪さで狸の化けの皮も剥がれるかと、月花が誘って連れて来たのだが、逆に化け兎の方が手痛い精神的衝撃を受けている。
 その相談を明にしているのはいいが。なぜか口を開けてその中に語りかけている。おかげで明の機嫌はすこぶる悪く、その憂さを化け狸に巻きつき晴らしている。ぎしぎし骨がきしんであちこち折れてるかもだが、狸の態度に変化は無く。
「そこの化け兎くん。何をしているんだい? 秘蔵の人参があるから一本いかがかな?」
「!!??」
「あー。ほんまに今やったらうささんにも優しいできるんどすねぇ‥‥。うさの方は新手のイヂワルされた感じになっとりますけど」
 あまつさえ、親切に声をかけられ、青い顔してのけぞる化け兎。
 そんな狸らに呆れるような褒めるような複雑な態度で告げつつ、ニキ・ラージャンヌ(ea1956)は思考停止で固まってしまった化け兎の頭を撫でて慰めていた。
「‥‥係員さんと和尚さんだけと思いきや。京都の方はノリがいいですね」
「いや、京都の人間すべてに当てはめられてもちょっと困るが。‥‥しかし、単に化け狸が改心しただけというに、和尚も皆も大げさじゃのう」
 生真面目に首を傾けているレディス・フォレストロード(ea5794)に、バーバラが軽く訂正‥‥入れつつも、やっぱり似たり寄ったりの表情で首を傾げはしている。普段の化け狸を知らないならそれも無理は無い。
 それでは普段の化け狸の様子はといえば。
「年中いつでも葉っぱ一枚つけずに真っ裸。朝起きれば庭を荒して台所で食物をむさぼり、水をあちこちに零す。昼は民家の庭の鯉を掬ったり子供を騙して泣かされたり犬に喧嘩売って負われたりと数々の動きを見せ、晩は本堂の仏像に落書きして就寝。寝てる最中も寝ぼけて境内を走り回ったりそこいらで厠をすませたり、いびきがやたらうるさかったり‥‥な彼らが改心したのであれば、確かに凄い事ではあるな」
 知り合い四名の協力で、狸の噂を集めてみたら、あっという間に集まる悪戯の数々。一つ一つはたわい無くても、数が集まればえげつない。それを一度に四匹も面倒見ていたのだ。少々感覚が狂っても仕方ないと、所所楽柊(eb2919)は同情を覚えて和尚を見る。
「でも‥‥もし、本当に真面目になってくれたのなら、京都の極一部はすごく平和になるよね♪ 和尚様、ポンの富士もポンの花もポン錦も、こんなに真面目になったんだし。今日はお赤飯だね!」
 ようやく立ち直ってクリアが明るい声を上げる。確かに、本当にそうだったなら平和でいいのだが。
「うむ。前一日程、知り合いが後を付け回しておったが。実に清清しいばかりの生活で何も後ろ暗い所は無かったと言っておったぞ」
 出された茶を啜り、バーバラも強く頷く。
「しかし、本当に改心したのかのぉ。どうも様子がおかしすぎて今一つ真実とも思えんでのぉ」
 狸が入れてくれた茶を啜りながら、力弱く和尚が告げる。
「何を仰る、和尚様! かって僕の弟が言ってたんだ。『信じるものは(足元を)掬われる』って。だから信じてみようよ」
 そんな和尚に力強く訴えるクリア。
「‥‥何ぞ途中で妙な音声が混じった気がするんじゃが?」
「気のせいだよ!!」
 否定の声も力強い。
「そうですねぇ。まぁ、ソッカー改め近所の子等に聞いても、いきなり妙になったという話ばかりですしねぇ」
 狸の急変を不気味に感じ、泣いて怖がっていた子供らの姿が月花の脳裏に蘇る。とはいえ、原因が無いなら確かに改心したとも考えられるが。
「しかし、いきなり態度を変えるような奴等だったのか? もしや、何か悪巧みでもしているのやも。ここは念入りに調査あるのみだな」
 東郷琴音(eb7213)はそう結論付けると、そっと場から抜け出し茶汲みに出かけた狸の後を追う。
「そうですね。今のうちに何か痕跡が無いか私も探りに行くとしましょうか」
 と、レディスは本堂へ。
「改心したんでないとすると、拾い食いとか。熱に浮かされてるとか?」
 首を傾げる柊に、ニキも真面目な顔で言葉を続ける。
「そうどすなぁ。ぶっちゃけ川にも入りましたし、これは単純にか‥‥」
「そーーーーんな事を言わずに! 狸さんたちだって燃えてるだから、ここは暖かく見守ってあげようよ」
「「「「ありがとう。俺達はがんばるよ」」」」
「うん。やっぱり、思った通りに熱いね狸」
 その声を無理やりにクリアが遮ると、感涙に咽びながら狸らと握手。
「しかしのぉ‥‥」
 それでもまだ不安がってる和尚に、涼哉が落ち着くように諭す。
「まぁまぁ、和尚。見れば心労もたまっている様子。その時にこんな珍事が起きて心配になるのは分かりますが、体でいえば和尚の方が重症ですぞ。しばらく奴等をこき‥‥いや、看病させましょうか。
 という訳で、ぽん狸ども! 仏になる前に和尚に奉公しろ! 飯は具材を選び抜いて刻んで炊き上げろ。背中も綺麗に流して、褌も綺麗に洗えよ!」
「「「「了解いたしやした!!」」」」
「それじゃ、手伝いましょか。それが終わったら生姜湯でも作ってあげますさかい。後は卵酒に焼き葱ゆうところやろか。‥‥勿体無いけどはよ治ってもらわんと」
「食事がしたいなら、粥をこしらえますよ」
「「「「ありがとうございやす!!」」」」
 家事の邪魔にならぬようニキがたすきをかけて支度すれば、月花も口を添え。恐縮しきりに狸らは頭を下げる。 
「ところで。川に落ちてからすぐに顔を出さなかったようですが、大丈夫でしたか?」
 ふと手土産を渡すのを忘れて戻ってきたレディスが、この際とばかりに狸らに尋ねる。
「うむ、それは聞くも涙。語るも涙」
「宴の邪魔した俺らは川に落とされ、どんぶらこ」
「流れ流され、どこまでも。泳げどつかぬ岸に別れを告げて、ただあるがままに身を任せていれば!!」
「何と、気がつけば海だった!!」
「‥‥大変だったんですね」
「「「「おおよ!! 水は冷たいし、風で凍えるし、夜は冷えるしで散々だったさ」」」」
 おいおいと涙を流す化け狸たち。そんな彼らに思わず偽りではなく本心からレディスは同情を告げる。
「そうか‥‥。では今からでもあったまるべく一ッ風呂浴びるとするか! 一緒に入るか?」
「「「「うぅっす!! お供させていただきやす!!」」」」
 そして、涼哉の後をついていく狸たち。

「ま、そういう訳で。ここ数日、朝に昼にこき使われて動き回る化け狸たちは実に働き者の鑑ともいうべき姿なだけだった」
 狸らの後をつけていた琴音は、淡々と見ていた事実を告げる。予想された悪しき動きは欠片も見受けられなかった。
「本堂でもそうでしたね。暇につけては仏像などを磨き上げ、夜は布団をまるまる被っておとなしいものでした」
 レディスも生真面目に頷く。
「風呂場でも、涼哉さんの言うまま、前に後ろにとおとなしく。そんなんだから、このせっかくの葱も使わずじまいだったよ」
 悔しそうに葱を握り締めて柊は告げる。‥‥何故、風呂場の様子を彼女が知っているのかは、監視していたのであって、けっして覗きではない。人がどう思うかはまた別にしても!!
「で、まぁ。生姜湯も呑んで、差し入れの御茶やお菓子に食事も十分。適度な運動と言えるんかはしらんけど、体動かして汗かいて、それを風呂で流した後も冷えんように服はばっちし着こんでの生活。‥‥まぁ、体にはよかったんやろねぇ」
 ニキが疲れた表情で嘆息ぎみに告げる。
 それも無理もない。それは全て過去形で話されている。すでに終わった出来事。
 では、現在の狸たちはといえば。
「「「「わーっはっはっは。完・全・復・活ーーーっ!! どこもかしこも元気びんびん! 化け兎も怖くはねぇぜ!!」」」」
 邪魔な衣服は全て取り払い。素っ裸で寺の屋根に上って太陽を一身に浴びている。もちろん、葉っぱ一枚つける事無く、恥じる事無く仁王立ち。
「大方の予想を裏切らず、やはり単なる風邪じゃったのじゃなというオチを横にわしの方がなんぞばったり逝きそうじゃわい」
 甲斐甲斐しく家事を手伝う化け狸たちと、衆目の目も気にせず高笑いしている馬鹿狸ら。その差に耐え切れずにバーバラがその場で蹲る。
「こら、狸ども! よく働いた者に俺の褌をやるといったが、褌はかねぇ奴には渡さねぇ!」
「けっ、いるか、そんな軟弱物!」
「何故かどうにも身が寒くて震えて仕方なく服を着ていたが」
「そんなへなちょこ、我らには不要で無用!」
「「「「漢ならいつでも堂々と!」」」」
 涼哉が屋根の上に呼びかけるが、答えは胸張り腰振って告げられる。当然やつらの息子も揺れている。
「この‥‥‥‥‥たわけがああああああ!!」
 ぶちんと血管が切れる音。バーバラは杖を振りかぶると狸ら目掛けて投げつける。
 杖は一本、狸は四匹。けれど、狙い違わず当たった杖は、狸一匹の体勢を崩させ、踏ん張ろうとした失敗に他三匹を道連れに屋根から落ちてきた。
「和尚さま! 今こそ、ボーズマンの出動許可を」
「うむ。あの状態も解せぬものだが、やはりこれはいただけん。仏罰戦士・ボーズマン、出動じゃ!!」
「「「「おのれ、猪口才な! これでも喰らえ!!」」」」 
 クリアの要請に応えて、和尚は苦い顔で――されどどこかほっとして号令をかける。
 狸らは手近な仏典を手にすると応戦の構えを見せた。が、その動きも続く涼哉のコアギュレイトで止まり、その隙に柊がようやっと出番と葱をさして回る。
「まぁ、あちらの仕置きは巨大ロボ・明に任せ。今回の記念に和尚様、どうぞ末永く飾っておいて下さい」
 大きくなる騒ぎをちょっと横目で見て。月花が差し出すそれは勤労に励む四匹の狸たちの木像。
「ほんまに御苦労さんやったのに。‥‥ええ思い出は胸にしまっときましょか」
 その出来栄えに遠く過ぎ去った日を思い出され、ニキはそっと涙する。
「もう一度風邪引いてまともになりなさい! ぼーずまんさんだー!!」
「ぐおお! しかし、完全復活病み上がりの俺にはこんな攻撃ばたんきゅー」
「「「ああ! ぽん茅〜〜!!」」」
「葱は体にいいんだよぉ。今なら、オーラパワーもつけてほらお得♪」
「うさも手伝う〜〜♪ 杵でぽん!」
「「「「ぎゃあああああ!!」」」」
 悲鳴怒声阿鼻叫喚。騒ぎを聞きつけた人も集まり、なんだか本気で賑やかになってきた。
「なんだか、狸がどうあろうと人々は右往左往する宿命のようですねぇ」
 そろそろ寺の外にまで出張りそうな対化け狸の一戦をじっくりと眺めながら、レディスはにっこりと微笑していた。