【キの巡り】 京都見廻組 西の一

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:7〜13lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 80 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月08日〜10月13日

リプレイ公開日:2006年10月16日

●オープニング

 京都の闇は深い。
 人斬りたちが血の雨降らせば新撰組が白刃を抜き放ち、魑魅魍魎が騒げば黒虎部隊がこれを押さえ、夜盗が押し入れば京都見廻組がこれを捕らえる。
 絶えず何かしらの騒ぎを見せる京は、五条の宮の反乱騒ぎもまだ収まらぬというのに、北の比叡山に住まう酒呑童子が片腕・茨木童子までが姿を見せる始末。
 世は常に定まらず、混迷のままに奔走する。だからと言ってこれをただ放置する訳には行かず。京都守護に当たる組織は日夜警備に明け暮れる。

「とはいえ。その茨木童子の方は動きがさっぱりですけどね」
 京都見廻組の詰め所にてぼやいているのは碓井貞光。
 大仰にこちらを煽り派手に騒いでくれたので、よからぬ企みがあるのだろうと気をつけてみれば‥‥気付けば月日だけがただ過ぎて。
 案外単なる悪ふざけだったのかもしれないが、それを確かめる術も無いし、暇も無い。
「何れにせよ。鬼が鳴りを潜めても、人の所業は相変わらずで。西の街道で盗賊たちが暴れています。道行く人を襲って命を奪っては金品を強奪。御丁寧に襲った人の遺体に火を放ってそれを道に捨てるという悪行ぶり」
 説明しながら貞光が眉根を顰める。
「山陽道・山陰道は西に通じる重要な道。ここで悪さをされては迷惑極まりないですからね。さっさとお引取り願いましょうか」
 そして、貞光は準備を始めた。

●今回の参加者

 ea0425 ユーディス・レクベル(33歳・♀・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 ea0696 枡 楓(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3115 リュミエール・ヴィラ(20歳・♀・レンジャー・シフール・モンゴル王国)
 ea4236 神楽 龍影(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb0451 レベッカ・オルガノン(31歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 eb1599 香山 宗光(50歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

りんこ「つまり、今回は不埒な賊に天からの一撃を喰らわせろっちゅー話じゃな?」
「別に天からでなくても構いませんが。端的に話すとそういう事です」
 念の為にと枡楓(ea0696)が確認すれば、今回の件を呼びかけた京都見廻組の碓井貞光は至極生真面目に頷いている。
「極悪の盗賊めが。出来れば残らず成敗したいでござる」
 不快を表す香山宗光(eb1599)。
「全く。金品を取るだけでも許しがたいのに、人を殺した上に遺体に火をかけるなど非道の極みですね。‥‥おや、神楽さん、どうしましたか? 顔色が優れないようですが?」
「少々昔を思い出‥‥いやいやなんでもなく、気になさらないで下さいませ」
 慌てて首振る神楽龍影(ea4236)を、貞光は怪訝そうに見ているが、それ以上は聞かず。ま、今に問題ないなら、人の過去は立ち入らない方がよろしかろ。
「こっちの支度終わったよ。賊退治は正に見廻組のお仕事だからね。気合入れてやらせてもらったよ」
 部屋の中で準備にかかっていたレベッカ・オルガノン(eb0451)が姿を現す。彼女もまた京都見廻組だが、隊服ではなく、そこいらの占い師然とした至って普通の格好をしている。いや、むしろ地味というかみずぼらしいというか。
 なので、その背後から出てきたユーディス・レクベル(ea0425)と、リュミエール・ヴィラ(ea3115)の衣装が余計に華やかで品格あるものに見えた。
 賊退治の作戦は至って簡単。ユーディスとリュミエールが囮として賊に目をつけられ、出てきた所で大捕り物と行く訳だ。ちなみにレベッカのは二人を尾行する際にばれにくくする為の変装である。
「賊の横行は我ら不徳のいたす所。御両者にも危険な任務を任せてしまい、まことかたじけない」
「いいって、いいって。これも冒険者としての仕事なんだし、不埒なやつらをぶっ飛ばす為だからね」
 しきりと貞光は頭を下げるが、それをユーディスは闊達そうな笑みを見せる。
「そうそう。すべては盗賊団を壊滅させる為。そして、私自身の為よね〜」
「‥‥ヴィラ殿、何か含むところがおありでないか?」
「ないな〜い♪」
 言って笑うリュミエール。龍影は小さく肩を竦めてはみたものの、今は何も言わない事にした。。

 それから細かい手順を打ち合わせ、確認すると二人は表立っての行動を開始する。残りの面々は各々で彼らを遠巻きに観察。その際、周囲に不審者の存在が無いか気を配る事も忘れてない。
 昨今月道や冒険者ギルドの設立で増えたとはいえ、やはり外国人の姿は目立つ。目をつけられる必要はあるが、目立ちすぎるのも難なので、ユーディスは金の髪を苦労して黒に変え、周囲に溶け込むようにしている。リュミエールはそのままだが、こちらはそもシフールなのでごまかしてもあまり意味が無い。
「お団子おいしぃ〜〜♪ ねぇねぇ。ところでここいらに盗賊が出るって話あるの?」
「そうさねぇ。変な死人騒動やら戦やらで世の中落ち着かないからねぇ。最近じゃ、焼いた死体を放ってく奴らなんているらしいし。あんた達も気をつけなよ。そんな重そうな財布も見せびらかすんじゃないよ。どこで誰が見てるか分かっちゃないんだからね」
「重そうじゃなくて、実際重いんだけどね」
 入った茶屋は何軒目か。団子と茶を頼んで財布を取り出すリュミエールに、店主は声を潜めて注意を促す。そうやって、金持ちぶりを公表するがてら、盗賊の情報収集も忘れてはいない。
 聞いた情報はおいしいもの情報を書く振りをして書き連ね。書き損じたとそこらに放り捨てれば、後ほど他の面子がそれを拾って事足りる。うっかり別の誰かに拾われたとて、そも日本語でも読み書き出来ない者も多いのだ。異国の言葉で綴れば、読める者などさらに稀。
「それでは。わたくしたちはこれで。御馳走様でした」
 金を支払って歩き出そうとしたユーディスたちを、しかし、店主は慌てて止める。
「ちょいと。まさか今から街道を行こうってのかい? 今からだとどうやったって峠で夜明かしになるよ。さっきも言ったけどあの辺りは物騒なんだ。ここいらで宿を探す方がいいって」
「ありがとうございます。でも、わたくしたち、先を急ぎますので。おほほほほ」
 店主の親切に礼を言うと、店主の心配をよそにユーディスたちは先へと進み出す。
「今のはちょっと不自然だったかも?」
「ううっ。襤褸が出ない内にさっさと出て来て欲しいよぉ」
 背筋を張って、歩幅もおとなしく小股で歩き。お気楽に周囲を飛んでるリュミエールを若干恨めしく思いながら、ユーディスはしとやかな女性として、仮初の旅路を続けた。

 茶屋の店主の言葉通り、そろそろ夜を迎えようという頃には人里離れた峠に来ていた。
 陽が沈むにはまだ間があるというのに、うっそうと茂った木々がどこか暗い影を落とす。つまりは隠れる所もあり、なるほど襲撃するにはうってつけと言える。
 早めながらも提灯に灯を入れ歩いていた二人。その周囲をばらばらと人影が取り囲む。
「嬢ちゃんたち、結構懐に溜めてるようじゃないか。おとなしく渡してくれたら、悪いようにはしないぜ」
 下卑た笑いを浮かべながら、刀をちらつかせてくる男たち。さっと目を走らせると、木の陰に先ほどの茶屋で見かけた客らしき姿が見えた。
「きゃああああ!! お助けを〜‥‥なんて言うと思ったかこのスットコドッコーーーーッイ!!」
 口についたのはむしろ歓声。やっと小芝居から解放されたとユーディスは笑みを浮かべて手にした杖をくるりと回すや、切っ先を男の鳩尾に突き入れる。全く油断していた男がくの字に折れて座り込むと、すかさずその首筋を打ち据え昏倒させた。
「この尼ぁ!!」
 その動きで出来る事がわかったのだろう。さっと顔色を変えると、踏み出しながら腰の刀に手をやる賊たち。
 数は倒れた男を入れて十二名。リュミエールは見るからに戦闘に向かないので、そうするとユーディス一人、多勢に無勢。
 だが、投げ捨てた提灯から火が大きく立ち昇ると、迫る一端に不自然に襲い掛かる。
「な、なんだ!!?」
 異様な動きに、賊たちは揃ってそちらを注視し足を止める。
「京都見廻組! おとなしく縄につきなさい!!」
 そして、貞光が飛び出すと一喝。続けて複数飛び出してきたのを見て、さらに狼狽を深めた。
「ちい、役人か! ずらか‥‥!!」
 顔をゆがめて逃げに入った賊の頭上に、音も無く影が降ってくる。短刀・庖丁正宗の柄で当身を食らわされ、賊はよろめく。だが、足に力を込め踏みとどまると、相手に構えた。そこでようやくその賊はそこに人がいる事に気付く。
「ふむ、見るからに浪人崩れじゃの。さすがに鍛えておるようじゃが、だったら、もうちょっとマシな事につかえばよいものを」
 庖丁正宗を構え直して楓が残念そうにしている。かけているのは湖心の術。こうして目の前で動いて見せても、いっかな物音立てない。
「ほざけ!!」
 賊が吼えるや、凶器を振るう。素早く切っ先を掠めるように刃を動かされると、正確なその太刀捌きを避けきれず、楓の体が斬り刻まれる。
「死にさらせ!!」
「くっ!!」
 振り下ろされる刀を、楓は見つめるしかない。風斬る刃は、しかし、賊の足元すれすれをリュミエールが飛ぶ。不意の邪魔に足をもたつかせている内に、そこを楓は一旦離れる。
「大丈夫?」
「すまぬのじゃ」
 尋ねるリュミエールに礼を言って、楓は賊たちを見遣る。
「死にたくなければ、武器を捨てなされ!! 投降するなら悪いようにはいたさぬ!」
 龍影が賊たちを見回し、力強く言い放つ。その返答はと言えば。
「けっ! 人数はこっちが勝ってるんだ! 一気にやっちまえ!!」
 一人が鼓舞すると、狂気に似た光を宿して賊は手にした刀に力を込めると、転じて一斉に襲い掛かる。
「皆、気をつけて!! ダウ、お願い!!」
 注意を促すや、レベッカは燐光のダウを解き放つ。途端に輝くダズリングアーマー。さながら降臨した小さな太陽の如くダウは辺りを眩しく照らす。
 目を伏せる賊たちへ、さらにレベッカは巧みに大脇差・一文字を操ると相手に意表を作り上げて斬りかかる。複雑な変化はその分威力を落としてしまうが、目をやられた賊たちには面白いように当たった。
 とはいえ、相手もさるもの。視界を制されながらも、踏み込む足に迷い無くその切っ先も鋭い。一撃をリュートベイルで受け止めはするが、次の刀を受け損なえばレベッカが傷を受ける事になる。
 さらに。
「畜生、この化け物が!!」
 貞光と刀を交えていた賊が大きく離れると、懐から小柄を取り出し燐光へと放つ。苛立たしげに投げられたそれは、上方高くに待機していた燐光に狙い違わず突き刺さった。
「ダウ!!」
 刺さった小柄はすぐに落ちる。放った当人も即座に捕縛された。だが、投げられたダウの方はたまったものではない。元々、戦闘を好まない燐光は、攻撃されて混乱したのか、あちこち辺りを逃げ惑い、最終的に飼い主のレベッカのそばにぴたりとひっつく。
 守られているのか、守っているのか。兎角、レベッカはダウを供としてその戦場を駆け出す。
 薄暗い山中、明かりとなるはそのダウの閃光と赤々と燃える提灯からの炎。その炎も先に見せた不可思議の動きのままに、辺りの賊たちへと襲いかかる。
 操るは龍影。ファイヤーコントロールである。
 刻々と暗くなる周囲に比例して、踊る炎は色鮮やかさを増す。が、炎自体の殺傷力はさほど高く無い上、動かすにもやはり限界はある。
 それを見極めると、賊は炎を超えて繰り手である龍影自身を仕留めんと襲い掛かる。
 閃く刃が龍影の身体を捕らえる。吹き出る血に顔を顰めながら空手を伸ばし、龍影は賊の懐を捕まえると一気に投げる。
「せっ!!」
「させぬ!!」
 決まれば相手を地に這わせる事ができようが、敵もさるもの上手く体勢を崩して型を外す。
「やはりそう易々と投げさせてはくれまいか」
 苦々しく告げると龍影は大きく距離を置く。総じた力量はどうやら相手の方が上。慎重に機を測らねば傷を負うばかりだ。
「生かされる者がいるのは致し方無き事。その分、拙者は容赦せぬでござる!!」 
 どこか心苦しげに見える龍影に対し、全力で日本刀を振るうのは宗光。手近な一人一人に確実に的を絞って、変化をつけた切っ先で確実に刻み込む。事前にオーラパワーを専門にかけており、その威力はさらに上昇。しかし、巧みな足捌きで賊の刃を避けようとするも、上手く躱せずに刃を受ける事もしばし。
「ちっ! さっさとくたばりやがれ!!」
「そうは行かぬ。お主らこそやりすぎたでござる!」
 悪態つく賊の刀を受け止め、弾きかえすと宗光は素早く踏み込む。
「覚悟!!」
 賊を刀で一閃すると、周囲の闇に暗い水が広がった。
 昏倒したり手傷を負う賊は多かれど、冒険者たちや見廻組の怪我も相応に多い。薬を用意している者も居はしたが、そうでない者も多く、深手を負う前にと後ろへ下げられる。
 そうすると、手勢の差から逃げ出す賊もちらほらと。
「逃がさぬ!」
「いいえ、構いません」
 即座に追いかけようとした龍影を、しかし、貞光が留める。
「こちらの怪我人も多い。どの道、ここは押さえたのだし奴らだけで活動を続けるのも無理でしょう。ほとぼりが冷めるまではどこぞに逃げるだけですよ」
 静かに告げる貞光に、龍影は頭を振る。
 それからは賊たちを縛り上げ、薬で持つ者は傷を癒し、そうでない者は独自に寺社にでも参って治療を受ける事になる。
 が、その前に拠点とする場所を吐かせて赴いたが、すでに逃げた奴らがめぼしい物を持って出た後だった。
「でもずいぶん急いで荷造りしたみたいだね。お宝は結構残ってる♪」
「お宝は残っててもヴィラ殿の懐には入らぬですよ。第一動けなくなりますでしょう」
「ぶ〜〜〜っ」
 苦笑しながらも目を離さない龍影に、リュミエールは頬を思いきり膨らませる。
「しかし、存外貯蓄する賊だったようじゃの。てっきり酒か博打に姿を変えてるかと踏んでいたがの」
 ほっとしたように荷物を見届け、楓は目を丸くしながらもむしろ感心したように頷く。
「ふむ、鉱物でもあれば譲って欲しい所だが」
「ダメだよ。賊の荷物はまず全部没収。調査して持ち主が分かって返せる物は返して、それから残ったのを処分するか検討する訳だから時間かかるだろうね。遺族の見舞金ぐらいはすぐに出してもらえるだろうけど‥‥」
 宗光に告げていたレベッカは周囲を見回す。賊の宝が残っていたのはありがたいが、それはつまり犠牲者の量でもある。どれだけの数が欲望の犠牲になったのか。それを思うと胸が痛い。
「それじゃ、手分けして役所まで運ぼうか」
 ユーディスが明るく告げると、全員で賊の荷の整理にかかる。
「ところで、碓井殿。街道を整備する術は御座らぬでしょうか? 往来が安全となれば、盗人もその数を減らしましょうし‥‥」
 龍影の提案に、貞光は悔しそうに唇を噛む。
「あいにく考え付く限りではいい手は無いですね。街道自体に手を加えるなら大掛かりな工事が必要になりますし、安全を保証する為に警備を増やそうなら人が足りない。そもそもそれを伝えて何かしらの手を打って貰えるような上役にすら恵まれてませんからね、今の見廻組は」
 言って、深く貞光は息を吐く。その様を見て、密やかに龍影も息を漏らした。

 混迷の京の都で、日に日に起こる事件の数々。その中で、こうして一つの事件が終わる。
 ‥‥かに見えたが。ただその一端が終わっただけと分かるのは、また後日の事であった。