【キの巡り】 京都見廻組 南の一

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:10月09日〜10月14日

リプレイ公開日:2006年10月17日

●オープニング

 京都の闇は深い。
 人斬りたちが血の雨降らせば新撰組が白刃を抜き放ち、魑魅魍魎が騒げば黒虎部隊がこれを押さえ、夜盗が押し入れば京都見廻組がこれを捕らえる。
 絶えず何かしらの騒ぎを見せる京は、五条の宮の反乱騒ぎもまだ収まらぬというのに、北の比叡山に住まう酒呑童子が片腕・茨木童子までが姿を見せる始末。
 世は常に定まらず、混迷のままに奔走する。だからと言ってこれをただ放置する訳には行かず。京都守護に当たる組織は日夜警備に明け暮れる。

「ってか、何で出てこないんだよぉ。すちゃっと出てきて、ぐさっとやって天晴れ解決したらまた銀呼んで遊べるのにーーっ!! これじゃ何の為に銀がつらい思いしてお山に帰ったんだかわかんないじゃ〜〜〜ん!!」
 ごろごろごろごろごろ。
 京都見廻組の詰め所で、坂田金時がひっくり返って転がっている。いい年した大人のはずだが、パラなせいもあってまるきり子供の駄々にしか見えない。もっとも、それでは困るのだが。
 ちなみに、銀というのは彼の弟分だった熊鬼で銀次郎といった。茨木童子の動きに絡み世間の目が危うくなったので、下手に危害を加えられるよりかはと、郷里に帰ってしまっている。
 向こうでは元気にしているようで、たまに便りが届いたり、山の幸が届いたり。
「まったく、鬼という奴ははた迷惑でいい加減でつきあっ取れんな。あ、銀は別だけど」
 ぶちぶちと文句垂れてた彼だが、やがてすっくと立ち上がり拳を握り締める。 
「だから、そんな鬼はもうこの際放っといて。事件解決に向けて尽力するぞ。さ、皆急ぐぞ。おー」
 どこへ? と聞く間もなくさっさと金時は駆け出している。
 という訳で、事件の説明を聞く前に追いかける必要があった。

●今回の参加者

 ea3952 エルウィン・カスケード(29歳・♀・ジプシー・パラ・イスパニア王国)
 eb1932 バーバラ・ミュー(62歳・♀・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 eb2007 緋神 那蝣竪(35歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb4756 六条 素華(33歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb5751 六条 桜華(39歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb7213 東郷 琴音(25歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

イェール・キャスター(eb0815)/ 月下 真鶴(eb3843)/ クンネソヤ(eb5005

●リプレイ本文

「さ、皆急ぐぞ。おー」
「こりゃ、銀次郎から便りが届いておるなら、ちと見せぬか」
 小さく拳振り上げ出口に突進する坂田金時に、バーバラ・ミュー(eb1932)が張り手一発情け容赦なく突っ込む。
「ひ〜ど〜い〜」
「めそめそしとらんで。今回何をするのか説明せい」
 銀時の便りを目をやりながら――といっても、手形一つで何がなにやらなのだが――、バーバラはさらに今回の事件の話を促す。
 京の南に広がる巨椋池。そこに最近心臓が抉られた水死体が幾つも発見されたのだと云う。
「心臓を抉るとは、なんとも残忍なやり口であるな。仏も浮かばれまい」
「そうね。‥‥まったく、心臓なんて何に使うんだか。風流な池なのに雰囲気がぶち壊しだ」
 薄気味悪い事柄に顔を顰める東郷琴音(eb7213)と六条桜華(eb5751)。ただの怨恨なら殺害して終わり。それをさらに切り刻むなど並の神経では無い。
「京都は物騒だけど、なんと言うか猟奇的で趣味が悪い事件よね‥‥。さっさと解決して熱燗で一杯やりましょ」
 対して、緋神那蝣竪(eb2007)は明るい声を出す。もっとも、はしゃいでる訳でもなく場の空気を沈ませないようにという配慮だ。
「遺体は皆水死か? 刺殺や失血死などはおらぬのか?」
 バーバラの言葉に、金時は首を横に振る。
「そうなんだよね。死因は実はまちまち。殺しておいてわざわざ心臓抉って水に放り込んだのもある」
 話しながら金時が気味悪そうに顔を歪めている。
「でも、溺死もあるよ。水呑んだ上で心臓を取られてるんだよね。‥‥本当、何したいんだろ?」
 首を傾げる金時に、六条素華(eb4756)が口を開いた。
「心臓を抜き出すなんて手の込んだ犯行は、人の仕業と考えるのが普通ですが‥‥。それにしては池に引きずり込む殺害方法が妙に思えますね。死体の全てが心臓を抜き出した者によって殺害された訳ではないのかも」
「水辺に引き込む怪といえば、水馬が思いつくの。悪意の精霊じゃ」
 冷静に語る素華に、バーバラも同意している。
「とはいえ、まだ何ともいえない。他の妖怪かもしれないな。ちょっとギルドにいって調べてくる」
「それなら途中まで一緒に。私も陰陽寮で調べ物をするつもりですから。‥‥心臓を取り出して、何をするのか。あそこなら呪術関係の資料もありそうですしね」
 さっそく動こうとする桜華を、妹の素華が呼び止めている。
「そういえば。水死体は一箇所で固まって発見されたのかな? それとも、巨椋池のいたる所で? 何か呪術的な配置になったりするのかな?」
「結構あちこち。まぁ、池の北っ側というか、都に近い地点が多いっぽく思えるけど他の所でも見つかってるし。‥‥呪術的な事はおいらよく分かんないんで何とも言えないけどさ」
 首を傾げながらエルウィンは地図を引っ張り出して、見付かった地点をそこに書き込む。確かに池の北側に多い気もするが、見付かった箇所は結構点在している。
「巨椋池は相当広いですよ。池の調査も必要でしょうが、急がねばいつまでかかる事やら」
「という訳で、さっさと行動開始だね」
 静かに唇を噛む素華に、桜華は声をかけて早々と歩き出す。
「では、私も。仏の身元を探ってみるか」
 その後へ琴音が続く。残りの冒険者たちも無駄には出来ぬと各々の調査に乗り出す。
「今回の事件‥‥何か大きな事が起こる前触れ?」
 卓の上に占い道具を広げ、エルウィンはそこに暗示された物を読み取ろうとする。
 読み取る暗示はどうにも明るくはなさそうだった。

 各人が気にかかる事柄を調査に出かけたものの、ある程度の情報を得ればその足はおのずと池へと向かう。現場百遍とまでは言わないが、やはり痕跡が多く残るのは犯行地である。
「京都は呪的に守られた結界都市。四神相応おいてその南『朱雀』に当たるのがこの巨椋池だそうです」
 陰陽寮にて話を窺った素華だが、その顔色が少々芳しくない。
「五行において心臓は火気であり、それは南であり朱雀であるとかうんたらかんたらとまぁ、いろいろ聞かせてもらいました。
 それで肝心の心臓を使った呪術ですが、あまり聞かないそうですね。むしろ、それを使うなら生贄として何かに捧げる為の方が多いだろうとの事です。ただ命を犠牲に行うというなら、それは決して良いものではないだろうとの事です。‥‥まぁ、当たり前でしょうけど」
 小難しい講義は精神的疲労がたまる。そうまでして得た情報は有益か、否か。何にせよ、今は情報が少なすぎた。
「水死体が見付かったのは極最近からの出来事。水辺だし、船の交通もあるから水死体自体はそれなりに見るけど、やっぱり心臓がというのは特殊よね? 今の所、そういった他の死体は見付からないみたいだけど‥‥ね?」
 エルウィンは手元の金貨に問いかける。それを媒体に、太陽に問いかける陽魔法・サンワード。素華のフレイムエリベイションの手助けもあって上手く魔法はかかったが、とりあえず結果はそういう事らしい。
「仏となったのは、ほとんどが池付近に住んでる漁師などだな。夜になっても帰らぬからと訴えがあったそうだから、身元はすぐに割れた。後はどうやら旅の者。これは界隈を通りかかって襲われたのだろう。さすがにこれは身元の調査とはいかないな」
 言って、琴音は気鬱そうに息を吐く。
「総じて通り魔的犯行が強いな。やはり、池に何かがいて引き込んでいると考えるのが妥当か」
「そうかもね。でも、他の人にも頼んでいろいろと聞き込んでみたけど、あんまりちゃんとした話は聞けなかったのよね」
 しょぼんとエルウィンは肩を落とす。
「こっちもじゃ。不審人物でもいないか辺りに聞き込んでみたが、なかなかその手の話は聞けぬのぉ。このような凶行、人前で犯さぬだろうがな。仮に本当に水馬の仕業としても、一見すれば普通の馬じゃしうろつくだけならさほど目立たんかも」
 言葉を区切って、バーバラは首を傾げる。
 琴音も頷いて、隣の愛馬・時雨を見る。調査の足としてあちこちへと奔走していた時雨は、それでも疲れた表情無く、ただ尾を揺らしている。
 水馬と見抜けなければ単に馬が歩いているだけ。それはどこにでもある風景だった。
「‥‥これ以上は池で待ち伏せた方が早いかもしれん」
 少し、息を斬ると、バーバラは顔を上げる。
「これ以上の聞き込みも早々成果はなさそうだしな。決まった日にちは無いようだが、前の犠牲者から考えて、そろそろ次の犠牲者が出てもおかしくは無い」
 琴音の硬い声音に、皆の表情も冷たく強張った。

「死体を運びこむなら夜の可能性の方が高いかな。目的情報が無いし、大荷物を運ぶのは目立つはずだからね」
 といったのは桜華だが、同時に昼夜を交代しての見張りを行っている。
 昼は結構人も見かけるが、夜ともなれば足が途絶える。しんとした中を密やかに動きながら見張り続ける。
 やがて夜も更けた頃、馬の足音が響いてきた。
 乗っているのは外套を羽織、頭巾を目深に被った‥‥どうやら河童。大きな荷物を抱えて池へと近付いてきていた。
「おい、そこの止まれ!!」
 慌てて飛び出す。呼び止められて相手は思いの外すんなりと足を止めた。
「その馬‥‥水馬だね。持ってるその大きな荷物を改めさせて頂戴!!」
 一見普通の馬に見えるが、特徴的な足の水掻きはごまかせない。エルウィンに言われても、馬上の人物は動かなかった。
 身構える一同の前で、突如水馬が鳴くとその首が池へと向けられる。
「逃がすか!!」
 琴音が日本刀を抜き祓うと一線。放たれた衝撃波が水馬を撃ち、驚いた水馬が悲鳴を上げた。
 高い嘶きと共に水馬の身が弾む。同時に、河童と荷がその背から転がり落ちた。
 もんどりうって倒れる河童。そばに落ちた荷からは真新しい死体。
「やはり、お前かよ! 話聞かせてもらおうじゃん!」
「ちっ!!」
 構える金時に、河童は懐から刀を抜き放つ。すわ、殺るかと思いきや、その抜き放った刃は水馬の手綱を斬り捨てた。
『オウ、手綱ヲ解クカ!! コレデ自由ダ!』
 喜びの声を上げる水馬。嬉しそうに跳ねる水馬に気を取られた一瞬のうちに、河童は池へと飛び込んだ!!
「あああーーー!!」
 叫ぶ金時。
「まだ見える! 追ってみるよ」
「頼んだよ〜」
 河童の姿は夜の水に消える。しかし、インフラビジョンを使用していた桜華の目には、まだ周囲との温度差が見えていた。
 そして、水馬もその場から逃げ出そうと動く。しかし、そちらは素早く取り囲み、退路を断つ。
「その死体。やはり貴方とあの河童が一連の犯人なのね。何故こんな事をするの!?」
『知ッタ事カ。我ハタダ手綱ニ繋ガレ従ワサレテイタノミ。奴等ガ何ヲシテイルノカナド興味無イ』
 そして、前足で地を掻くと、水辺に近い金時を睨みつける。
『ソコヲドケ!!』
「退くかい!!」
 それは水馬の言霊。強制の力を持つそれだが、
『ナラバ水底ニ引キズリ込ンデヤル』
「それも却下じゃ!!」
 縄ひょうを投げるバーバラ。狙い違わず水馬へと刺さるが、ほとんど傷はついていない。
「灼牙! 回り込んで!!」
 素華が指示すると、控えていた熊犬の灼牙が即座に水馬へと唸りを上げる。
 他の冒険者や灼牙が足止めさせている隙に、素華は魔法をかけていく。フレイムエリベイションにバーニングソード。自身の得物はバーバラと縄ひょう。威力を上げねば、武器としては役に立ちそうにない。
 何度かの失敗の後に、専門でかける。投げた縄ひょうは相手に躱されなかなか刺さらぬが、効力は合ったようで、刺されば確かに傷を負わせた。
「他に何か知ってる事は。死体は何故ここに捨てられたの!」
『ハッ。知ラヌト言ッテイル!』
 那蝣竪の再三の問いかけにも、水馬は答えない。
「そうか。ならば!!」
 琴音が日本刀を振るう。躱そうとした水馬に灼牙が食いつき、怯むその隙に刃をかける。

 長い時間をかけての戦闘の後に、消え去ったのは水馬の方。その姿が消えてしまうと、金時はリカバーで皆を癒しにかかる。
「ダメね。やっぱり池の中に逃げられたら追いかけようがないわ」
 その頃には桜華に戻ってきていて、残念そうに首を横に振る。
「それにしても‥‥奴ら、ね」
 水馬の話を思い返し、那蝣竪がため息をつく。
 どうやら、まだ事件は終わりそうに無かった。