【キの巡り】 京都見廻組 北の一

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月09日〜10月14日

リプレイ公開日:2006年10月17日

●オープニング

 京都の闇は深い。
 人斬りたちが血の雨降らせば新撰組が白刃を抜き放ち、魑魅魍魎が騒げば黒虎部隊がこれを押さえ、夜盗が押し入れば京都見廻組がこれを捕らえる。
 絶えず何かしらの騒ぎを見せる京は、五条の宮の反乱騒ぎもまだ収まらぬというのに、北の比叡山に住まう酒呑童子が片腕・茨木童子までが姿を見せる始末。
 世は常に定まらず、混迷のままに奔走する。だからと言ってこれをただ放置する訳には行かず。京都守護に当たる組織は日夜警備に明け暮れる。

 と言っても。茨木童子の方は夏頃に姿を見せて以来、音沙汰無く。鬼の動きも‥‥暴れてるのは相変わらずだが、それまでと変わらぬ程度。
「ま、おとなしくしてくれるならそれでいいだろ」
 あっけらかんと軽く告げるのは京都見廻組の占部季武。大きく伸びをすると、ジャイアント種族としての巨体が更に際立つ。
 じつに暢気なその仕草。が、それもつかの間。不意に気を引き締め、真剣な面持ちで一同を見回す。
「実際、奴らだけに構っちゃられねぇ。京都の治安はそんなに易くは無いんだ。残念ながらな。五条の宮さまの方でも何か妙な噂が流れてるってんだから何だかなぁだよ、全く。
 こんな時だからこそいつもより気合入れて褌を締めてかからにゃならん。という訳で、仕事だ」
 がらりと態度を入れ替え、厳しい口調で内容を説明する。
「京の北の山中で埋められた死体が幾つか発見された。何がしたいのか、腹の中の物を掻き出されて代わりに土が詰められている‥‥まぁ、そういう妙な死体だ」
 埋まっていた死体は男もあるが、女性もある。男の方は概ね旅人らしい風情だが、女の方は様々で農民から貴族の女房らしき者もいた。
「現場周辺の山中では最近泣き赤子が出るらしい。一見普通の赤子だが、不用意に抱くと一気に地中に引き釣り込もうとする妖怪らしいんだわな。してみると、一連の事件もそいつの仕事で、これは黒虎にまわして終わりちゅう感じもするんだが‥‥。如何せん夜間に妙な人影があるという話もあったりなかったりってのがちょーっと気になるんだわな」
 困ったように季武は頭を掻く。
「何かさらに裏があるなら困るし。てなもんで、付き合ってくれる奴募集すっぞー。まぁ、本当にその妖怪の仕業ってんなら、改めて黒虎に任せてもいいしな。勿論手間取らせるのもあれだから片付けてちまうってのもアリだけどさ」
 言って、豪気に季武が笑う。その態度はまた軽いものに戻っていた。

●今回の参加者

 ea5278 セドリック・ナルセス(42歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 ea6356 海上 飛沫(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8445 小坂部 小源太(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1630 神木 祥風(32歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「不気味ですね。腸を掻きだされて土を詰められた死体なんて‥‥」
 話を聞いたセドリック・ナルセス(ea5278)が気味悪そうに顔を顰める。
「で、その界隈に泣き赤子が出ると。そいつの仕業なら、対象を土に引き摺りこんでその者の腸を食い破って食したら、発見した変死体と同じ状態になるでしょうけど。‥‥歯形とかは?」
 問いかける海上飛沫(ea6356)に、占部季武は軽く肩を竦めて見せる。
「喰われた痕跡はあるんだが、何せ山の中に捨てられてた遺体だろう? 死んだ前か後かどうもよく分からん。ただ腹は斬り裂かれた上で取られたようだし、死因も刃物での刺殺ってのがあるな」
「とすると、凶器があると? 遺体が見付かった場所は? 街道沿いなのか山の中なのか」
 重ねて問う神木祥風(eb1630)に、季武は頷く。
「ああ。寡聞にして刃物で人を襲うガキの話はきかねぇが、妖怪のやる事なんでそれはよく分からんがな。遺体は山ん中がほとんどだが‥‥まぁ、遺体を隠そうってんだから早々見付かる場所には埋めんわな」
 今回の件も、たまたま通りかかった猟師の犬が掘り返して見付けたらしい。そのときは一体だけかと思いきや探せば他にも出てきたのだから面倒な話だ。
「泣き赤子が犯人としたら、道具を使うとは思えませんけどね。とすると、やはり人の仕業でしょうか?」
「かもな。けど鬼だって武器持つ奴は多いし、変わり者だっているかもしれないだろ」
 首を傾げるセドリックに、季武も疲れたように頭を横に振る。
「遺体の外傷は?」
「後ろから刺されてたり、首を斬られたりってのもある。腐敗して死因不明ってのもあるわな」
「結局何も分からぬと?」
「そういう考える方面は任せた。俺はがーーっと暴れる方が好きなんだよ」
 拗ねた様にそっぽ向く季武に、小坂部小源太(ea8445)は軽く頭を振る。
「では、そうさせてもらいましょうか。遺体はまだこちらに?」
「いんや、寺にな。身元が分かる奴は返してやったが、そうでない奴は無縁仏で葬ってやるしかないだろ」
 飛沫は了承すると、その場所を聞き出す。
「こちらは周囲で聞き込みと行きましょう。その見かけた人影というのが気になります」
「ええ。現場に赴く必要もあるでしょうが、まずは近くの村からですね」
 動き出す小源太の後を、セドリックもまた着いていく。
「最終的には山中で見張らねばならないでしょう。‥‥しかし、今四方で起きている殺人事件。これは偶然なのでしょうか」
「って言うと? 何だ?」
 きょとんとしている季武に、厳しい表情で祥風は頷く。
「何と言いますか、意図的な物を感じます。四大、あるいは五行に関わる要素のある事も。とすればその目的は示威か、陽動か、あるいは何かの呪的な物か‥‥」
 考え込む祥風。季武は露骨に顔を顰めている。
「そういう堅苦しい話はごめんだな。面倒な事になる前に片付けたいもんだ」
「それは誰でも同じでしょう」
 心底うんざりした声を出す季武。本当に嫌なのだと分かるあからさまな態度に、祥風は思わず笑みを浮かべていた。

 情報収集はなかなかに難航した。妙な人影はあったと聞いたが、具体的な話はそれ以上の話がなかなか聞けない。何か知ってる風ではあるのだが、困ったように考え込まれてしまう。
 それを宥めたり拝んだり時には脅したりしながら、ようやく推測だからとその理由を明かしてくれた。
 聞いたその話に、セドリックと小源太は二人して思わず顔を見合わせていた。

 京都の北は山々が連なる。霊峰や霊地として名を響かせる山もあり、鬼門を封じるが故の神社や仏閣も目立つ。
 整備されているとはいえ、山道は歩きにくく。その先に特に用でもなければあまり通りたいとは思わない。夜ともなれば、民家など無いのだから当然真っ暗。幸い満月が近付いているので真の暗闇からは遠いが、それでも陽の光と違って、木の枝にさえぎられれば深い影を落とす。
 そんな中を女は一人歩いていた。
 闇に浮かぶ白装束。終始四方に目を配り、びくびくと震えながらそれでも揺ぎ無い足取りで山の奥へと向かう。
 そこに突然、赤子の泣き声が響く。
 ぎょっとして女は立ち止まる。赤子の声は止まない。
 恐る恐ると女は声のする方を見つめる。草の陰、何時の間にいたのか、一人の赤子が真っ赤な顔で泣いていた。
 呆然と女は赤子を見ていたが、やがてふらりと赤子の傍に近付こうと歩みかけ、
 その腕を木の陰から飛び出してきた男が掴み、女を止める。
「きゃ!!」
 悲鳴を上げかけた女の口を塞いだのは季武だった。そのまま言葉を発さず、ただ仕草だけでセドリックを促す。
 セドリックは一つ頷くと、灰を用意して詠唱。すると、その灰はセドリックの姿に変わった。
「あいつを拾って」
 小声で指示するとアッシュエージェンシーの分身は、最短でその行動を行う。
 分身のセドリックに気付いた赤子はばたばたと諸手を上げて喜んでいる。
 分身がその赤子を拾い、抱き上げる。その途端、赤子はぎゅっとセドリックを掴んだかと思うと水に潜るように地中へと消えた。
 女がまた悲鳴を上げそうになるのを季武はやはり無言で押しとめる。そうして待つ事しばし、赤子だけがほかりとその場に浮かび上がってきた。
「あう?」
 不思議そうに首を傾げて自分の手を見ている。アッシュエージェンシーは攻撃を受けると簡単に灰に戻ってしまう。自分が窒息させる事無く、獲物が消えた事を理解できないでいるようだ。
「どうします? やりますか?」
 小源太が刀に手をかける。
「いや。すまんが捕まえてくれ」
「了解」
 季武に言われて、飛沫が頷く。
 今度は小源太がアッシュエージェンシーを使用。しきりに首を傾げていた赤子は次の獲物に気付き、今度こそはと声を上げる。
 分身・小源太が赤子を拾い上げる。先と同じく彼にしっかりと抱きつこうとし。
 途端に、その愛らしい口元が強張った。
 気付けば泣き赤子の足が凍り付いていた。氷は徐々に分厚く広がり、赤子の全てを飲み込もうとする。
 分身に気を取られている隙に、別方向から近付いた飛沫がアイスコフィンを仕掛けたのだ。何度か抵抗にあい無効化されながらも、どうにか赤子を捕らえる事が出来た。
 ぎゃあぎゃあと泣きながら、赤子は分身を振りほどくと這いつくばって逃げようとする。が、それもつかの間いくらも行かぬ内に、氷は全てを固めてしまった。
「こちらはこれで終了。黒虎に拾ったとでも言って届けりゃいいだろ。‥‥で、後はこっちだ!!」
 のんびりと氷の棺を見ていた季武だが、身を翻すや抜刀。駆け寄った木を両断する。
 ばさりと落ちるその陰からは、全身黒尽くめの男が姿を現す。覆面までした姿は、何か含みがあって正体を隠しているのがよく分かる。
「あなたがいた事は分かってました。上手く隠れても、体温は消せませんからね。インフラビジョンでばっちり見えてましたよ」
 小源太が自身の目を指差す。
「ここいらで見付かった死体‥‥。泣き赤子だけの仕業にするには少々不自然が多すぎる。こんな所で何をしてたのか、教えてもらおうか!!」
「ふんっ!!」
 掴みかかろうとする季武を振り払うと、距離を取った覆面が印を構える。
「下がって!!」
 詰め寄りかけた他の者を短く制すと、祥風が経巻を取り出す。広げて念じるや、覆面の足元から周辺、マグマの炎が噴き上がる。
「くっ!」
 苦痛の声を漏らしたものの、覆面は詠唱。その身に煙が上がったと思うや、途端に爆風。はっとして身を庇い、顔を上げた次の瞬間には覆面の姿は無かった。
「どこに!」
「あそこです!!」
 小源太が即座に一点を指す。
 遠く離れた山の中、覆面の男が一目散に闇へと逃げる姿がそこにあった。

「それで。一体、お前さんは何故にこんな時間に一人でここに?」
 追うのは無理と断念し、まずは見つけた不審な女性へと視線を向ける季武。
「それは、こういう事ですよね?」
 言うが早いかセドリックは女性の荷物を取り上げる。女から抗議される前に素早く荷を解くと、その中からもっとも分かりやすい二つの品を取り上げた。
 藁人形に五寸釘。使う用途は至極限られている。
「情報収集した時に人影を見かけたとだけ聞きますのに、それ以上さっぱり話が無いから奇妙だと思いましたけど。ま、こういう事情の人を見かけたら見て見ぬふりするのが普通ですよね」 
「犠牲者の周りからも話を聞きましたが、怪しい人物は見てないそうです。が、誰かに騙されたとか、ふられたとか、裏切られたとか。最近そういう不幸にあって落ち込んだり、思いつめたりしてる人が多かったですね」
 維新組の二人も、どっぷりと息を吐く。
「‥‥もしかして、女性が妙に多かったのはそれが理由か? 確かに女らしいっちゃ女らしいわな」
 季武も目を丸くしてしげしげと藁人形を見つめる。中を探ると呪詛の相手らしい名が書かれた紙が出てきた。
 やろうとしていた事が明るみになり、耐えられなくなったか女が泣き出す。泣きながら自分がいかに不幸で、どんなに相手が酷い奴なのかを延々とわめき立てる。
「けど、これで分かったのは犠牲者の共通点ですよ。凶器の存在からして泣き赤子の仕業と考えるより、おそらく逃げたあいつが丑の刻参りにここを通りかかる人をどうかしてたと考える方が自然でしょう」
 告げる祥風に、季武も頷く。
「面倒臭い話だよ、全く」
 うんざりと季武は天を仰ぐ。まだ暗い空は夜明けまで遠い事を示していた。