【キの巡り】 京都見廻組 東の一

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:9〜15lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 50 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月10日〜10月15日

リプレイ公開日:2006年10月19日

●オープニング

 京都の闇は深い。
 人斬りたちが血の雨降らせば新撰組が白刃を抜き放ち、魑魅魍魎が騒げば黒虎部隊がこれを押さえ、夜盗が押し入れば京都見廻組がこれを捕らえる。
 絶えず何かしらの騒ぎを見せる京は、五条の宮の反乱騒ぎもまだ収まらぬというのに、北の比叡山に住まう酒呑童子が片腕・茨木童子までが姿を見せる始末。
 世は常に定まらず、混迷のままに奔走する。だからと言ってこれをただ放置する訳には行かず。京都守護に当たる組織は日夜警備に明け暮れる。

 もっとも、鬼の所業は以前と同じ。妙な御大が出現したので何か起こるかと警戒すれば、これが完全に肩透かし。
「だからといって気を緩めるわけにもいかんが、そちらにばかりかまけてもおれん。鬼の所業もさる事ながら人の所業も似たりよったりだ」
 冷徹に言い放つと、さっそく渡辺綱は卓の上に京を示した簡易地図を広げる。
「鴨川を知らぬものはないだろう。そう、京の東を流れる河だ。最近、その川沿い――四条の川原あたりで死体が転がるようになった」
 川原に死体は実はよくある。水葬で流れ着いた死体や、単に放られた遺体。無宿者がそのまま息絶えたりもある。が、京都見廻組が気にかける以上、少々普通と違う点がある。
「死因はまちまちだが、どれも右の腹――こちらから見ては左になるな――を鉄の棒で刺されている。古い死体にそれがされた者もあったが‥‥新しく作られた死体もある」
 すなわち、何者かに殺されたという事だ。現場に血の跡が少ない事から、どこかから運んできた事になる。
「死体の顔ぶれからして、被害者は市井で殺られたのだろう。つまり都で妙な事をしている輩がいるという訳だ。どういうつもりかは分からんが、このままにもしておれん。これを調査、ならびに周囲を見廻って犯人を捜す」
 死体は女もいるが、男が多い。身分はまちまちで町民・農民の他、侍や貴族の姿すらある。年齢は若い者が多い気がするが、年配の者もそれなりにいる。
 強い口調で綱は告げる。が、反面その顔は渋く歪んだ。
「とはいえ、気がかりな事がある。実は死んだ侍に長州藩士がいてな。仇を討たんと仲間の長州藩士が血気盛んに動いている」
 五条の宮の乱以降、藤豊秀吉に率いられた西の軍勢が力を持ち出している。特にお膝元たる長州の藩士は脆弱な奴らに国を守る資格なしと豪語する始末。当然、既存の警備組織とは仲が悪く、顔を見るだけで斬り合いになる事もしばしば。
「実際、京都見廻組はかの乱の折、五条の宮に加担し寝返った者が多く人が抜けている。加えて宮の後の京都守護職は不在のままで、組織としてまとまりがなく、弱体化しているのは事実だ。だからとて奴らに任せるなど論外なのだが‥‥さりとて引けと言っても聞かぬ連中だ。その事を肝に銘じて、重々行動には気をつけてくれ」
 言って、綱は頭を下げた。

●今回の参加者

 ea1966 物部 義護(35歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2438 葉隠 紫辰(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6381 久方 歳三(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7871 バーク・ダンロック(51歳・♂・パラディン・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb3824 備前 響耶(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb3834 和泉 みなも(40歳・♀・志士・パラ・ジャパン)

●リプレイ本文

 鴨川に死体が転がる。
 京の都では何かと血が流れるが、それにしても右の腹に鉄の棒を差し込むなどという手の込んだ事をする者はそう無い。
 作為的な物を感じるが、今は調査あるのみ。
「死因は刀傷がほとんどだが‥‥撲殺や絞殺もあるな。ただ喰われた痕跡はなし。北は勿論、西と南に比べても結構綺麗な外見だな」
 死体はそう長々と置いておける物ではない。遺族がいるならなおさらだ。見付かった遺体の内返せる物は早々と遺族に返してあるし、そうでない者は無縁仏で葬るべく寺に納められている。
 まずは死体の調査は必要と、物部義護(ea1966)は検分できる者は検分をし、そうでない者は様子が書かれた調書から読み取く。
 ついでに関係あるか無いかは分からないが、西南北で他の三名が調査している事件もついでに調べる。
「他はさておき。河辺に捨てられた死体はほとんど一刀で斬られてるな。まぁ、武芸を嗜んでないなら戦闘になりようがないが。‥‥で、例の長州藩士はどうだったんだ?」
 遺体に筵を被せて手を合わせると、義護は傍の渡辺綱を振り仰ぐ。
 事件を面倒にしてくれた長州藩士の死体はここには無い。調書もほとんど無い。事態を知った藩士が早々と強引に引き取ったからだ。
「ほぼ同じだな。斬り結んだらしき痕跡はあったが、死因は一撃か。生前の腕前は知らないが、短時間で決着はついたようだった」
 綱は見た時の事を思い出しながら、嘆息する。
「身元の分かる仏の身辺を洗ってみたが‥‥、誰かしらから恨まれてた奴が多いな。品行宜しく無く多数から恨まれてる奴もいたが、逆に本人に問題が無くて逆恨みとか嫉みとか抱かれていた奴もいる。長州藩士は素行が悪い方で、あちこちからあの田舎者と侮蔑されてたな。もっとも」
 死体の身元調査をしたのは葉隠紫辰(ea2438)。そう告げた後、ひょいと肩を竦める。
「その恨んでた方も探したが、そいつらが犯人とも思えない。腕前なんてからきしそうな奴だったり、仏が死んだと思われる時間は誰かと一緒だったり。そもそも、仏の一人を恨んでいただけであって、他の奴らを手にかける理由はなし。
 ‥‥ただ、関係あるのか無いのか。その恨んでたって奴の中に、北で死体で見付かった奴も居る」
「ほう」
 紫辰の言葉に、綱が面白そうに表情を歪める。
「そもそも、恨みで殺害だけなら鉄の棒を刺す意味が分からない。わざわざ河辺に捨てる理由もな」
「ぱっと思いつくのは五行思想とかいう奴だな。確か陰陽道の理だったか? 鉄故に金行でとか。詳しくは陰陽寮に聞く必要があるだろうが、その方面は備前殿が向かうそうなので、聞いてきてもらおう」
 首を傾げる紫辰に、義護も思案する。その推測を聞いた綱はといえば、露骨に顔を顰めている。
「まぁ、何を企んでいるかは犯人に聞けばいいだろう」
 明らかに話を切り替えるように、綱は言葉を口にする。あえてその事には触れずに、神妙に紫辰は頷く。
「生きとし生ける者は皆、いずれ躯を晒す。しかし、それを非業に作り出し、ましてや私欲で屍を穢すなど見過ごす訳にはいかん」
「そうだな。被害者の共通点が他にないか。俺も探してみよう」
 義護は告げると早速動き出す。哀れな遺体に最後にもう一度手を合わせて。

「金剋木。肝臓は木気でこれを鉄で刺すという訳ですか。鴨川も都の東を守る木気・青竜。‥‥確かにおもしろい」
 くつくつと笑うのは陰陽寮陰陽頭・安倍晴明。都合が合えば程度で赴いた備前響耶(eb3824)だが、予想に反して在宅していた。しかも、同行している和泉みなも(eb3834)と二人分、もてなす用意までされている。
 来ようと思ったのはむしろ思いつきに近く、事前に知らせもしなかったのだが。
「つまり、何か呪術的な事が行われていると?」
 極力その事は考えず、響耶は話を促す。今は事件の方が大事だ。
「正確には行おうと足掻いてるのでしょうね」
「?」
 首を傾げると、面白そうに晴明は目を細める。
「呪詛というのはそう単純ではないという事ですよ。少々型を擬えた程度でどうこうできるものでなし。ましてや、型によらない我流ならなおさらです」
「つまり、これに意味は無いのですか?」
 みなもは鉄の棒を示す。長さは短刀かそれより少し長い程度。先端が刺し易いよう尖っているので太い針のようにも見える。
 文字などの装飾もなく、ただ無骨なだけの代物は、彼女が思っていた通り、多少の腕があれば加工できると話を聞いた鍛治師から言われた。
 ただ、流通に関しては手がかりが掴めなかった。最近は討伐やら戦やらが多く、後に残った武具でも失敬すれば金気を集めるのは容易い。少なくとも京都で怪しい動きは見つけられなかった。
「鉄は金気の象徴なのでしょうが、その棒自体に何か呪いがかかってる訳でもないようですね。ただ、行為に全く意味が無い訳ではない。馬鹿の信念岩をも砕くように執拗に続ければ何かの成果が出る可能性もある。ましてや血を流すとなれば思わぬ結果を招くかもしれない。――今はまだ疑いのみですが」
 そして、ふと息をつく。
「都の気がまた騒ぎ始めているというのに‥‥。あるいはこの件関わるかと思いきや、少々違うようですしね。まだ少し遠い」
 何やら落胆しているようにも見える。
 もはや二人の方は気にかけてない様子。聞きたい事も大体聞けたし、捜索に戻るかと礼を述べる。
 ふと廊下で何かが移動する気配。そして、玄関口に出ればきっちり揃えられた二人の履物。上がる際にそのままでよいと言われて、適当に揃えただけだったが。
「失礼ですが。今お一人でお住まいでしたよね? お付の人とかもおらず」
「ええ。ですから、たいしたもてなしも出来ず申し訳ない」
 不思議そうに問いかけるみなもに、苦笑しながら頭を下げる晴明。
 綺麗に塵が取られた履物を履いて門扉まで出れば、通りやすいように自然と開く。勿論、人影は無い。
 通りに出た所でもう一度振り返り、屋敷に居る晴明に一礼。
 奇妙な緊張感を伴いながら、二人並んで歩き出す。
「‥‥狐につままれたとはよく言ったもんです」
「全くだ」
 歩いてしばし、みなもの呟きに響耶も頷く。何の気になしに振り返れば、門はいつの間にか閉まっていた。
「さっさと調査に戻りましょう。何か見落としがあるかもしれません」
 響耶も同意を示し、さっさと歩き出す。
 どこか逃げるように、二人は足早くその場を後にした。

 久方歳三(ea6381)とバーク・ダンロック(ea7871)は鴨川を歩いていた。
「なぁ、何で俺らの方がこそこそ隠れなきゃならねえんだ?」
「無用な戦闘は避けるでござるよ」
 慎重に物陰から長州藩士と見られる者を見極め、出くわさないように移動する歳三。バークの方はどこか釈然とせぬながらも、それに従う。
 その後、調査に区切りをつけた紫辰も加わり、河辺の探索を行っていた。
「念の為、五行の推論は黒虎部隊にも伝えたでござるが。腰は重そうでござる」
 東西南北で起きている事件。事件は方位に対して五行相克の関係にあるように思える。ならば、以前の洛中にて起きた鵺騒ぎが中央・土に対しての木剋土になるかと考え、途中、黒虎部隊に詳しい話を聞くと同時、進言に赴いた歳三。あいにく隊長は出かけていたが、言葉は伝えた。
 ただ、今のところ双方が関係するという確証は何も無い。北はともかく他の三件には妖怪が関わってる話も聞かないので「それなら我らの仕事にあらず」と手を出すつもりはないようだった。
「死体遺棄して京都を呪うなればなかなかに物騒でござるが。何ゆえこのような事をするのでござろうな」
「さあな。だが、誰かが死体を捨てに来ている筈だ。そいつを捕まえるなり、後をつけるなりすれば手がかりはきっと掴めるだろうよ」
 快活に言ってのけるバークに紫辰も頷く。
「鉄の棒を埋めた遺体がそこに集められる事で意味を持つのだとしたら、再び新たな贄を運んで犯人がやってくる可能性が高いな」
 警邏は昼にも行われたが、昼真っから死体を捨てに来ないだろうと、本活動は主に夜。満月が近く、提灯は付けずに移動する。とはいえ、道を歩く分には構わないが、うっかり川にはまろうものならもはや水は冷たいだけ。昼の内に覚えておいた景色を頭に描きながら、犯人を待つ。
 陽が落ちれば、周囲の気温もぐっと下がる。吹く風に凍えながらも、待たねばならないのはつらい。
 ひたすら忍の一念で待ち続ければやがて、わっと通りの方で騒ぐ声が聞こえた。
「何だ?」
 顔を見合わせ、しばしためらった後に、声のした方へと向かう。
 月明かりの下。その情景は良く見て取れた。道の真ん中、立っている長州藩士たち五名。中には抜き身の刀をぶら下げている者もいる。
 そして、彼らの真ん中人が倒れている。不自然な形に体が歪んでおり、それで苦悶の声も上げていないのが不思議だ。
「お前ら!! 何をした!?」
 さすがに見過ごす事は出来ず。バークが声を荒げる。
「うっせえ! お前らには関係ねぇ! 奴らに構うな。近くに居るはずだ、探せ!!」
 対して、長州藩士の方は不快気に声を上げると、バークたちを完全無視してどこかへ去ろうとする。
「待ちやがれ!!」
 追いかけようとバークが動いた時、倒れていた人物がゆっくりと立ち上がる。
「おお、よかった。無事でござ‥‥る訳無いでござるな」
 立ち上がったその御仁に、歳三はほっと息をつきかけたが、すぐにその顔が強張る。
 その人物は立ち上がった。が、袈裟懸けに斬られた体はすでに死んでいるとしか思えない。冴え冴えと輝く月の下、青褪めた顔をさらして白濁した目で前を見つめる。右の腹には鉄の棒。件の遺体である。
 やがて死体がゆらりと動き出し、一同は一斉に身構える。襲ってくるのかと思いきや、一同に目もくれずその脇をすり抜けて死体は歩いていってしまう。
 どうするべきか。やはり迷った末に死体の後を追う。
 ほんのわずかな距離を歩いて、死体は河辺に下りるとそのまま横たわった。念の為、揺すってみるが起きる気配は無い。
「クリエイトアンデッドでござるか? 黒の坊さんが使う魔法でござる」
 歳三が天を仰ぐ。
「だが、長時間死体がここまで歩いて来れたとも思えねぇ。連中の言う通りだ。まだ近くにいるかもしれねぇ!!」
 バークが告げると、即座に動き出す。
 だが、夜が明け陽が昇り、苛立つ長州藩士と何度か衝突しそうになりながらも捜索を続けたが、怪しい人物を見るには至らなかった。