雪 近し

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:2〜6lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月27日〜11月01日

リプレイ公開日:2006年11月04日

●オープニング

 秋。山の景色は色を帯び、目にも鮮やかなこの季節。しかし、楽しいばかりの季節でもない。
 ぐずぐずしていれば、じきに冬。辺りは雪で白く染まり、厳しい寒さに凍える事になる。それに供える準備で、日夜追われる今日この頃。
 しかし、その訪れよりも一足早く訪れた白い脅威があった。
 ――雪狼。
 吹雪より生まれ、雪の夜に旅人などを襲うとされる真白き妖狼。その姿が目撃されたのだ。
 現れたのは人も滅多に通らぬ山の奥深い場所。村からも距離があり、その上数がたったの一匹だった事から、処遇を巡って討伐するか静観するかで、村の意見は二つに割れた。
 その解決を望むべくギルドから冒険者が呼ばれ、その結果、まずは冒険者自身が雪狼に説得を行う事になったのが少し前の出来事。
 その時の結果はといえば。
 結論から言えば失敗。説得にも相手は耳をかさず、戦闘になったものの仕留められず撤退せざるを得なかった。
 その時の戦闘で、雪狼の気が荒れたと考えるのは容易。そうなると村の者では迂闊に手を出せなくなる。
 雪狼がおとなしく引っ込んでいる事を願いながら、ひとまず様子を見ようと数日。しかし、予想通りというべきか、雪狼は活動範囲を広げて動き出していた。
「前よりも村に近付いてきていて‥‥、襲われても困るのでもう迂闊に山にも入れねぇ。それに今の調子じゃおそらくじきに村に気付いてこっちに来る様になるに決まってる。山より村の方が獲物を狩りやすいからな」
 繋がれた家畜に溜め込んだ食料は勿論、住む人間たちも雪狼にとっては単なる獲物でしかない。自衛できない老人や子供などは格好の餌だろう。
「そうなる前に、あいつをどうにかしてくれ。出来る事は無いかもしれないが、俺たちも極力協力する」
 複数なのは村の者全員が同じ気持ちだから。
 頭を下げる村人に、ギルドの係員は一つ頷き、冒険者を募集した。

●今回の参加者

 eb5228 斑淵 花子(24歳・♀・ファイター・河童・ジャパン)
 eb6967 トウカ・アルブレヒト(26歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb7228 東郷 彩音(24歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb7352 李 猛翔(22歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)

●リプレイ本文

 冬の訪れを前に活動範囲を広げていく雪狼。その行動から鑑みて、やがては村まで訪れるのは必死。
 そうなる前にと、冒険者たちを頼んだのだが、当の冒険者たちはいささか目を伏せがち。
 というのも、その雪狼の説得に当たった冒険者たちが三名再来している。その時の事を思い出して肩身が狭そうに村の者を見つめる
「それ見た事かと言われても返す言葉はございません。‥‥責をかけて退治するとの言葉、果たせなかったのは事実ですから」
 すまなさそうに、トウカ・アルブレヒト(eb6967)は頭を下げる。村人たちの方からは同情、侮蔑、失笑、など否定的な視線が届く。が、それを態度に表す程強い物でもない。まだ失望するには至ってないのだ。
「先日はお任せ下さいといいながらもこの体たらく。申し訳ありません。ですが、少しだけお手伝いをお願いします」
 見つめてくる険しい表情を見ながら、東郷彩音(eb7228)も頭を下げる。
「正直‥‥雪狼と戦うのはあたしも怖いです」
 強張る村人たちの顔を一つ一つ見回し、斑淵花子(eb5228)は静かに語りかける。
「ですが、ここにいる人たちを見捨てて逃げたら冒険者として失格だと感じる自分が居ますです。結果を恐れず、全力で挑む。これが今のあたしに出来る最良の方策と信じて」
「で、また失敗されても困るがね」
 ちくりと嫌味を言う村人。途端に、近くに居た別の村人から睨まれ、罰が悪そうに目を逸らした。
 言われた花子は、制してくれた村人に感謝の念を送り。だが、嫌味を言った方にもけして嫌な顔はしない。
「罵詈雑言も己の責の元に受け止め。されど遅くはなりましたが、以前の言葉を真に果たす為に全力を尽くしましょう」
 だが、トウカは俯く。今回は前回よりもさらに冒険者が少なく、さらにかの実力も目の当たりにした以上、決して任せて欲しいとは胸を張っては言えなかった。
「ですから。恥を忍び、皆様に協力の程をお願い申し上げます」
 トウカが強く告げて、頭を深く下げる。
 協力して欲しい、という意見には村人たちも真面目な顔で承諾を告げた。元より協力するとは申し出ているので異論は無いのだ。厳しい表情のまま、冒険者たちに頷いて見せた。

「村の者の話や現場周辺を覗いた感じからして、多分、今の縄張りはここら辺りになるだろうな」
 山をざっと飛び回ってきた李猛翔(eb7352)が先んじて案内する。
 村の者も実際に遭遇した訳ではない。ただ、聞こえる遠吠えや、喰い残したと思われる餌などの痕跡から推測するのは容易いとも言えないが、難しい事でもなかった。
 そうして考える現在地は明らかに前来た時よりも村寄りになっている。村人たちの不安も外れては無いという訳だ。
 さらにその周辺を散策して、都合がよさそうな場所を探す。
「ここいら一帯に油を。地面や草に染み込ませるようにお願いします」
 冒険者たちが用意してきたのは大量の油。彩音は村人たちとも手分けして、付近にそれを撒いていく。
「村の方で引火性の高い油があるならそれもお願いします」
「着火し易いよう、藁に染み込ませて伏せておきましょう」
 花子が村人たちに空の油壺を渡し、トウカは藁を敷くと土をかけて目立たなくする。
 作業は黙々と行われた。無駄口が無い分手早く済んだのはいいが、皆の緊張で空気が痛い。トウカの馬・ヤマトはその雰囲気にしきりと怯えて騒ぐので、罠の設置が済むと村人と共に帰すよりなかった。
「縄で縛って、三つ編み三つ編み。紙縒りをつけて‥‥はい、完成っと♪ では、斑淵さまこちらを。くれぐれもお気をつけて下さい」
 縄で一まとめにした油壷を彩音は花子に渡す。笑顔ではしゃぐような口調ながらも、目は気合で燃えている。

 罠の準備が整ったのを見ると、猛翔が木の上に荷物を置き、するりと山の中へと飛んでいく。花子も雪狼の姿求めてその後を追った。
 取り出だしたるは強烈な匂いの保存食。それを美味しそうと思うかは人それぞれだが、強い匂いは獣を呼ぶ。
 花子はわざとその匂いを振りまいて歩き。そして、狙い違わず間も無くして雪狼の姿を見出した。
「斑淵、逃げろ! ここじゃ不利だ!」
「分かってますですよ、それぐらいは!!」
 よほどの鈍じゃなければ、雪狼の放つ殺気を感じぬ者は無いだろう。両者は勿論、即座に逃走に入る。
 が、さすがは妖獣というべきか。俊敏な動きで逃げる花子に即座に追いつき、牙を立てる。それをかろうじて躱しながら、花子は走り逃げる。万一躱し損ねても厚い防具に阻まれて傷は少ない。が、負わない訳でもない。
 傍らの猛翔も、身軽になる為武器こそ置いて来たが。そこらの石を投げたり、敢えて近付いて注意を引いたりしながら、雪狼を引き寄せる。
 さすがの雪狼も空は飛べない。稀に焦れる様に華麗な跳躍を見せるが、そこは俊敏さに定評のあるシフール。ましてや軽業を生業にする猛翔にとって躱すのは造作も無かった。
 誘い込むというより、半ば噛みつかれた花子が引きずるような形で、仕掛けた罠の現場まで連れて来る。興奮が勝ったか。雪狼が辺りの臭気に気を止めている様子は無い。
 猛翔は即座に木の上に飛びあがると弓矢を用意する。罠の中心に位置した雪狼目掛けて、一矢を放つと花子に注意を取られていた雪狼の胴へと突き刺さった。
「ぎゃん!!」
 さすがに痛みはある。雪狼がもんどり打って倒れると、その衝撃で刺さっていた矢が外れる。開いた小さな穴から吹き出る血。だが、猛翔が次の矢を番えている内にそれは見る間に塞がっていく。
「回復が早いな」
 舌打ちしながらも、猛翔は次の矢を放つ。気を取り直した雪狼はひらりと躱し、矢は土に刺さる。矢から飛び退いて、雪狼は猛翔へと唸りを上げる。
「行きます! サンレーザー」
 そこへ詠唱を唱える彩音。その身が金色に輝くや屈曲した陽光が一条の光線となり、捕らえたのは雪狼‥‥では無く、辺りに撒かれていた大量の油!
 サンレーザーの熱でそれは一気に燃え上がった。天高々と燃え上がる業火は瞬く間に周囲を火の海と変え、雪狼を飲み込む。
「ギャオオオン!!」
 雪狼が切羽詰った悲鳴を上げた。初めて聞く甲高い声。
 続けて、花子が持たされた油瓶を投げつける。彩音が着火するまでも無く、周囲から引火。それからこぼれた油は炎となって雪狼に降り注ぎ、そして燃え上がる。纏わりつく炎を振り払おうと、雪狼が身を震わせた。
「ここが正念場ですよ!! 道を開けて下さいです!!」
「斑淵様! 何を!!」
 花子は水を頭から被ると、その猛火の中へと飛び込んだ。トウカが目を見張るも、素早く彼女の行く道の炎を鎮める。すでにファイヤーコントロールで支配下に治めていたのだ。
 とはいえ、炎を鎮めても吹き付ける熱風までは防げない。上がる煙に薄くなる空気。咽びそうに喉をつかえさせながらも、花子はただただ雪狼に駆け寄り、太刀を引き抜く。
「勝負です!!」
 太刀・天国を一線。雪狼の毛皮を一気に引き裂く! 
 しかし、真一文字に開いた傷口に返す太刀を入れようとするも、寸での所で避けられてしまった。油で体表を焼きながらなお、雪狼の動きは冒険者と互角に渡り合う。
 が、太刀の傷は癒せども、炎の傷は治らない。炎に包まれたこの状況はさしもの雪狼も危ないと感じたらしい。身を翻すや逃げに入る。
「お待ちなさい!!」
 炎が行く手を阻もうと蠢くが、それも死に物狂いで走る雪狼の足を止めらない。
 炎を抜ける間際に、とっさにトウカが雪狼の前に飛び出す。雪狼は狂気を孕む目で睨むや、雪狼の牙がトウカに食い込んだ。
「うぐっ!!」
 ぎりぎりと骨にまで食い込んでくる牙。体表で燃える炎を間近に見ながら、トウカは呪文を唱える。
 唱える高速詠唱。発動させたのは初級のヒートハンド。
 一瞬にして魔法を発動させるが、魔力を余分に消費する他、若干精度を下げる欠点も持つ。専門の威力をそれで出すにはトウカの能力ではまだ少し足りない。
 灼熱化した手で食いついてくる雪狼を押さえつけると、その背に猛翔が矢を射掛ける。
 悲鳴を上げた雪狼。トウカを離すや、こんな事はしてられないと今度は一目散に駆けて行く。
「止まれ!!」
 猛翔が追いかけ、矢を射掛ける。
 しかし、全力で駆け抜ける雪狼の足を捕らえることは出来ず、その姿は山の奥へと消えた。

 追えば、案外仕留められたかもしれない。が、花子とトウカの傷は重く、残る戦力だけでとなると無謀にも等しい。
 断腸の思いで追うのは断念すると、火の罠の始末にかかる。燻り一つ見逃せば、山一つ失いかねない。
「三途の川を泳ぐかと思ったですよ」
「無茶するからです」
 熱風で干上がりかけた花子に、彩音が水をかける。水分は補給しても、火傷やら噛み傷やらでその身はぼろぼろだった。
「でも、これで二度‥‥。村人たちになんと言えばよいか」
 トウカが唇を噛み締める。負った傷よりも、心から湧き出る思いの方が痛い。 
 雪狼にも深手を負わせたのは事実。手負いは危険であるが、反面、あの傷を癒す為にほんのしばらくは身を潜めるだろう。
「あの火傷を治しきるまでが、仕留める好機という訳か」
 回収できそうな矢を集めながら、猛翔は山を見つめる。
 吹いて来る風は、身を震わせる冷気を含み始めていた。