【キの巡り】 京都見廻組 南のニ

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月29日〜11月03日

リプレイ公開日:2006年11月06日

●オープニング

 巨椋池に死体が浮かぶ。心臓を抉られ穴を見せる胸元はただ凄惨さだけをさらし、周囲に畏怖を振りまく。
 巨椋池はその巨大さゆえに、水上の交通もまた盛ん。幾ばくかの魚が取れればそれで生計を立てる者もいる。そうして出た小舟が池の中ほどでひっくり返される。落ちた人間は水下に消えて浮かんでこない。
「おいらの類稀なる明晰な頭脳がはじき出した答えによれば、あーの河童っぱが何か事情を知ってるに違いない!!」
 自信満々に告げるのは京都見廻組の坂田金時。だが、別に類稀じゃなくても、それぐらい推測はつく。
 心臓を抉り取られた不可解な死体が巨椋池に浮かび出したのは先日の事。見廻組と冒険者が張り込んだ結果、死体を運ぶ河童と水馬が引っかかった。その時、水馬は滅したが、河童は上手く逃げたのだ。
 犯行を見られた以上、逃げるか、少なくとも身を潜めるのが普通の犯罪者なのだろうが、この河童は少々違ったようだ。前は池の周辺、あるいはもっと他の場所から死体を運ぶ、あるいは引き摺りこんで作り上げていたのだが、正体がばれたからか酷く短絡的になっている。
「何か、別の事件とも関係あるかもとか五行がどうのとかいう話があるけど、それは良く分かんないから置いといてー」
 置いていいのか?
「とにかく、これ以上の凶行は止めさせなきゃなー。池で事件が起きても生活の為だから出なきゃいけない人だっているんだし。怯えて暮らさせるなんてそれは酷い話だよ」
 ぷんすかと金時は頬を膨らませる。
 とはいえ、相手は水の中。さてこれはどうしたものか‥‥。

●今回の参加者

 ea9454 鴻 刀渉(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb1932 バーバラ・ミュー(62歳・♀・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 eb4605 皆本 清音(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb5751 六条 桜華(39歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb7213 東郷 琴音(25歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 池に浮かぶは心臓のない死体。その凶行はまだ止もうとしない。
「面が割れた後も同じ場所で犯行に及ぶとは、懲りないというか何と言うか」
 事を聞いた六条桜華(eb5751)は呆れる。ただ、純粋に呆れてる訳でもなく、どこか苦い物がその表情には隠されている。
「でも、被害者には悪いけど、それだけ手がかりも増えるという訳で。あーでも、やっぱり被害を出さないのが一番だよねー」
「そんな小難しい事はいいんじゃ。ここは素直にとっちめてやれば!」
 頭を抱える京都見廻組坂田金時に、同じくバーバラ・ミュー(eb1932)が不敵に笑う。
「でも、見つかってなお、人を襲うなんて大胆な相手ね」
 首を傾げるのも見廻組の一人。皆本清音(eb4605)に、東郷琴音(eb7213)が頷く。
「確かに。しかし、今回の件は形振り構っていられぬというような雰囲気が感じ取れるな」
「人目をこっちに引き付ける為の囮として大胆になってるという事も考えられるけど‥‥。うーん、でも答えの出ない事をあれこれ考えても仕方ないか」
「そうだな、どのような理由があっても断じて許せることではない」
 何の罪も無い人の命が奪われているのだ。見過ごす訳にもいかなかった。
「池に河童とは分が悪いです。が、こっちだって負けてないですよ。水辺ならお安い御用です」
 生業は漁師の鴻刀渉(ea9454)も強く頷く。
「やれやれこの歳になって水練を積まねばならんとは思わんかったぞ」
 バーバラが至極疲れた表情で肩を回す。
 かくて、一同巨椋池に足を運ぶ事になった。

 とはいえ、水の上を歩けるはずも無く。まずは移動手段として舟の調達から始める。
 地元の漁師と交渉して上手く二隻借りられた。
「沈没した時は補填も必要じゃろう。むぅ、その時はミュー家の大蔵省の出番か?」
「いいよ、上と掛け合って分捕ってやるもんっ!」
 金時が漁師と金銭交渉。ま、できなくても彼の財布が軽くなるだけだ。
 無事に舟を手に入れても即座には出ない。ひっくり返されても大丈夫な工夫は必要だろう。
「では、補強の代金も金時君のお財布から」
「ようし、分かったよ〜、って、えええええええ!!!? そんな殺生な〜」
 清音に振られて金時、一人驚いている。
 とはいえ、舟の補強にも限度はある。あまりのんびりしてられないので、沈みにくいよう刀渉が浮きを括りつけたくらい。
 その間にも、他の者が足を使って調べられるだけの事を調べている。
「周辺の水辺に変わった場所は見当たらんの。人にも聞きまわったが、不審な接岸跡や入水跡は見付からん」
「河童の足跡でもあれば分かり安いのだがな」
 首を振るバーバラに、琴音も軽く肩を竦める。
「そっか。水上戦や水中戦になったら不利だもんね。できれば陸に上がってる所を叩きたかったけど」
 同じく水辺を捜索していた桜華も、自分と同じ結果の二人の言葉に困ったように天を仰ぐ。
「相手は、四六時中池の中にいるのかな? 河童だったら確かに不可能ではないだろうけどね」
「案外そうかもしれないわ。時間帯はほぼ夜に集中してる。被害の場所や、分布は池の中ほどに集中しているのも、湖岸からは何が起きてるか見にくくなるものね。大胆になった割には用心深いというか」
 清音がふと息をつく。
「巨椋池は宇治川の水が注ぎ込んでいます。その流れや見付かった場所から推測すると、大体あの辺りが奴の狩場のようですね」
 じっくりと広い池を見ていた刀渉が一方を指差す。そうして見る風景は実に穏やかなもので。そこに悪意が潜んでいるなど、見ているだけでは考えもつかなかった。

 全員で六名。借りた二隻に刀渉・桜華・清音と、バーバラ・金時・琴音の三人ずつに分かれて池に漕ぎ出す。
 風は冷たく、夜は冷え。さりとて火は焚けず、厚着したくても沈められた時の枷になる。
「さっさと出て来て欲しいわね」
 桜華が時間を気にするのは、寒さゆえではない。暗闇の中でも平然と見通せる目はインフラビジョン。とはいえ、まだまだ力的に長くは維持できない。魔力の限界まで使っても一刻ほどしか持たない。
 そこらも計算に入れながら、舟はするりと池を進み行く。
 安定して進む刀渉の漕ぎに比べれば、もう一つはどこかふらつく所がある。
「おいら、代わろうか?」
「わしより下手な癖して何を言いおるか。いいから、怪しい動きがないか見張っとれ」
 金時を一喝すると、バーバラはまた操船に全力を尽くす。
 平行して中央まで進むも、何も起きない。暗い水面は静かなままだ。
「案外、このまま何も起こらずにすまないかしら。相手がどっかに逃げてしまったのかもね」
「そのまま事件も無くなってくれたらよりいいんだけどね。――いや、犯人捕まえないとやっぱダメかー」
 ぼそりと呟く清音の声は静かな周囲に思いの外響いた。おもわずぎょっとする清音に、金時がのんびりと返事してきた。いささか集中力に欠けてきているのか、声がだれている。
 そこへ、気を引き締めるような鋭い声が飛んだ。
「気をつけて! そっちの舟に何か近付いているよ!!」
 桜華の切羽詰った声。はっと金時たちが身を起こすと同時に舟べりに、水掻き付きの緑の手がにゅっと現れた。
 ざばりと水飛沫が上がると河童が姿を現す。暗い瞳で一同を見ると、何の感情も無く舟に力をかけた。
「うわっっととと!!」
 一方に体重をかけられ、舟が大きく揺れた。
「この!!」
 バーバラが櫂を振り上げ、河童を殴りにかかる。それをさらりと避け、沈むように河童の姿が水に消える。
 そして揺れる舟に息を合わせ、水中から押し上げられる。舟はさらに大きく揺れて、三人は池へと投げ出された。
「バーバラさん! 琴音さん! 金時君!!」
 声を上げるも刀渉は舟を寄せるかは躊躇する。迂闊に近付けば、向こうの舟の二の舞だ。
 投げ出された三人は、やがて水面に顔を出す。
 だが、その足元に河童が近付いていた。
 琴音の足を掴むと、また水の中へ引き戻そうと力を込める。だが、その目論見は上手くいかなかった。
「小賢しい事を!!」
 琴音は掴んだ六尺棒に力を込めて突き入れる。河童はそれはするりと躱したが、間髪居れずにバーバラが短槍を、金時が投げ入れる。一撃躱して油断したか、二本の攻撃に顔を歪め体勢を崩した。
 その隙に、琴音はしがらみを外すと、今度こそ六尺棒で突いた。河童を押し出すと同時、その反動で琴音も滑るように距離を開けた。
「皆さん、これを!!」
 清音が身に着けていた浮き袋を外して、投げ込む。泳がなくていい分、無駄な体力を使わなくていい。気休め程度と考えていたが、意外に役に立っている。
「エリベイション完了! 覚悟なさい」
 その間にフレイムエリベイションを唱えていた桜華は、短槍を構えて船上から投げ放つ。その目はしっかりと河童を捕らえている。
 槍の刃が河童に刺さる。慌てて河童は槍を抜こうとするが、その前に槍は付けていた縄を手繰られ、桜華の元へと引き寄せられる。
「お三方、離れて!」
 刀渉が投網を広げる。さすがは本職、綺麗に網は広がると水面に落ちて河童を絡め取った。
 網に取られて河童がもがく手ごたえ。だが、手繰り寄せようとすると、不意にそれが軽くなった。
「網を切られました」
 苦々しく事実を告げる。
 何時の間にやら、河童の手に短刀が握られている。多分心臓を抉りだす物だ。
 それをしまうのも惜しんでか、口に咥えると河童は早々と逃走にかかる。
「待ちなさい!!」
 琴音もまた短刀を取り出すと、ソニックブームを放つ。しかし、真空の刃も逃れて河童は池の向こうに消え去った。

 そのまま追いかけたかったが、いつまでも三人を水に浸かったままでいさせる訳にもいかない。舟を直すとひとまず上陸し、身を整えてから陸から河童の行方を捜す事にする。
 だが、その痕跡はなかなか見付からず、やがては夜も明け、それでも沿岸付近を捜索してやっとらしきものを見つける。
 それは中心からはかなり外れた、ほとんど下流近くの場所だった。
「手傷を負って逃げ切れる訳も無いと思っていたのですが‥‥。何故ここまでがんばるのでしょう」
 刀渉が池からの距離を振り返り、首を傾げる。
「ここに血がたまってる。ここで休んで、止血して‥‥そして、誰かが来たみたいね」
 清音が触れるとまだ指先が濡れる。それを神妙に見てから、改めてそちらを見回した。
 現場には新しい複数の足跡があり、同時に河童の足跡はそこで消えていた。普通の草鞋の跡で、大きさからするとおそらく男だろう。
「多分、そやつらが河童を連れ去ったんだろうな。おそらくは南に」
 バーバラがその足跡の続く方角を見遣る。
「まずいよなぁ。まるきり管轄外の方面じゃん」
 京都見廻組が守るべきは京都。他に踏み込んで捜査すれば、地元の治安維持隊が黙っておるまい。
「厄介な事になりませんよーに」
「それで通じるのか?」
 昇りきった太陽に、心血込めて拝み出す金時。が、ちっとも効きそうには思えず、むしろ一同は不安になるばかりだった。