【キの巡り】 京都見廻組 東のニ

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:9〜15lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 50 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:10月30日〜11月04日

リプレイ公開日:2006年11月07日

●オープニング

 京の東を流れる鴨川。四条の川原に、死体が倒れる。
 何の呪いだか、右の腹を鉄の棒で刺された死体は犠牲者の数だけ増えていく。
 調査に乗り出した京都見廻組が見張りを決行すれば、件の死体は自分で歩いてきた。

「実は‥‥姑と折り合い悪くて、やる事なす事文句ばかりつけてくるんですよ」
「はあ、それはお気の毒に」
 托鉢ついでに店の女性の悩みを聞いていた若い僧侶。小声ながらもここぞとばかりに日ごろの恨みつらみを吐く彼女を、僧侶は神妙な顔して聞いていたが。
「おい、そこの糞坊主!!」
 そこへ割って入ったのが、侍たち。隠そうとしても消えぬ西方の訛りが所在を明らかにする。きちんとした身なりながらも殺気振りまき乗り込む様は、ごろつきが来た方がマシだったかと思えるほど。
「てめぇか! 俺らの仲間を殺りやがったのは!!」
「なななななな、何の事ですかーーーっ!!」
 胸倉捕まれて僧侶は真っ青な顔で口をぱくぱく魚のように動かす。
「坊主ってのは結託するってな。だが、俺らに対して隠し事をすると」
 一人が僧侶を掴む横、別の一人がいきなり抜刀。置いてあった小銭を入れた鉢が真っ二つに割られる。
「ひ、ひいいいいいーーっ! 誰か、誰かーーっ!!」
 応対に出ていた店の女性が、慌てて店の奥へと人を呼びに行く。
「な、何するんですかーー!!」
 涙目で地面に散らばる小銭をかき集める僧侶。その手を侍は容赦なく踏みつける。
「いいから吐け! 死体を動かす魔法を持った奴がいるだろう! 案外、てめぇか?」
 僧侶を踏む足に、さらに力を加える侍。
「そこで、何をしている!」
 足音も高く現れたのは、京都見廻組の面々。京の治安をお上より任された暦とした組織だが、彼らを見ても侍たちは平然としている。というより侮蔑の眼差しを見せていた。
「ふん。ふがいないてめぇらに代わって事件の調査に決まってるだろう。‥‥いや、あの晩あそこにいたって事はてめぇらも坊主とグルになって俺らの仲間を殺ったとも考えられるな」
「へっ、さすがは京都。治安部隊も油断ならねぇ。世の為、人の為、ここで始末してくれるか‥‥。天下を守るのはやっぱり我ら長州だ」
 いって、彼らは刀に手をかける。だが、彼らの一人が渋い顔で袖を引くとそっと耳打ちをする。周囲を見渡し、店の前に遠巻きの人だかりがあるのを始めて気付いたか顔を顰めた。
「ちっ。今は引いてやるよ。だが、捜査の邪魔はするな! 仲間の仇、討たせてもらうぞ!」
 命拾いしたな、と捨て台詞。そして、長州藩士たちは去っていく。
「大丈夫か?」
 去っていく姿を嘆息しつつ、京都見廻組の渡辺綱は座り込んだままの僧侶に手を貸す。
 その手に触れるのも嫌がるように、僧侶は急いで立ち上がると逃げるように走り去っていった。

 殺された遺体の中には長州藩士の者があり、その藩士の仲間も鴨川に並ぶ死体を作り上げる犯人を捜していた。
 おりしも、長州は先の五条の宮の反乱以降日に日に力をつけ、京都の治安維持が脆弱だと言いたい放題やりたい放題。
 そんな中で、京都見廻組と同じく歩く死体を見つけ、僧侶のクリエイトアンデッドの仕業かと目を付けあちこちで僧侶に喧嘩を吹っかけている。
「呪法だの、五行云々だのという話も出ているが‥‥。ひとまず、厄介なのは彼らだろうな」
 言って、頭を抱えて嘆息するのは渡辺綱。
「鴨川の犯人探しは続けねばならない。が、彼らは下手に出会うと邪魔をしてくるだろうな。乱暴狼藉はあるが、長州藩の手前、そうそう捕縛もできない。ひたすら面倒な相手だ」
 目的が同じ以上、方方でかちあうのは目に見えている。その時、彼らをどう対処するか。すんなりと捜査させてくれない、前途多難な仕事になりそうだ。

●今回の参加者

 ea1966 物部 義護(35歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2438 葉隠 紫辰(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea2630 月代 憐慈(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6354 小坂部 太吾(41歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea7871 バーク・ダンロック(51歳・♂・パラディン・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb3824 備前 響耶(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ウェルリック・アレクセイ(ea9343)/ ヒューゴ・メリクリウス(eb3916)/ 物見 昴(eb7871

●リプレイ本文

 鴨川のほとりに転がる死体。右の腹を鉄の棒で刺されたその死体は、街中から歩いてきた。
 普通ではないが、クリエイトアンデッドを使う僧なら簡単に成せる。
「まさか死体の方が歩いてくるとはな。坊さんみたいな聖職者がんな罰当たりしているとは残念だぜ」
 その現場を目にした京都見廻組のバーク・ダンロック(ea7871)は苦りきった表情で、街中を睨む。
 そして、それを見かけたのは彼だけではなかった。勿論、共に行動していた仲間もだが、長州藩士たちもまたそれを目撃している。故に、今はあちこちで坊主狩りをしているとか。
「仲間への復讐心と自らの誇りをかけて、犯人探しをする長州藩士たちか」
「目的は同じだが、向こうに協調する意思は無い。むしろ阻害する気でいるのが厄介だな」
「なんの。確かにまともに組めばそこいらの妖より性質が悪いが、ならば利用させてもらうまで」
 思案しているのは京都見廻組の渡辺綱。それを、葉隠紫辰(ea2438)は不敵に笑う。
「しかし、犯人も長州藩士に追われながらなお犯行を続けるか。相当な執念を感じるな。こうまでしつこいのは人間くらいだ」
 微妙に嫌そうな顔を作るのはやはり見廻組の備前響耶(eb3824)。同時にどこか薄ら寒いものを覚えて、軽く身を震わせた。
「他の西・南・北での関連性も考えられているな」
「少なくとも北にはこっちの被害者を恨んでいた奴が、向こうの被害者になるという接点があるにはあるのじゃが」
 困ったように頭を掻くのは小坂部太吾(ea6354)。維新組という(本人曰く)弱小組織の局長をしている。北の事件を調べる中に組の仲間がいるので、そちらとも情報交換は済ませてある。
「犯人は単独なのだろうか。そうすると藩士を斬り伏せ、黒の神聖魔法を使う呪術の知識を有した者といえば僧兵が思い浮かぶが‥‥。まぁ、この辺はまだ情報不足だな」
 響耶が考えるが、答えは出ない。
 ちなみに。説く教義の違いから、破戒僧になるのは白より黒の神聖魔法を使う者の方が多いとか。
「久々の仕事なのに、手持ちの駒が少ないもんだな。しかし結界破壊となると、京を乱して得する奴‥‥。どこにでもいそうだな。特に西は」
「ああ、奴ら。薩摩は入り込もうと必死だし、長州にいたっては神皇批判すら憚らなくなってきている。そこら辺の大名争いという可能性は無いのだろうか」
 京都見廻組に所属すれば、否応なしに巻き込まれる派閥闘争。それを思い出して、月代憐慈(ea2630)は嘆息し、物部義護(ea1966)は厳しい目を西方へ向けた。
「無い‥‥ともいえないが。だが、派閥争いなら京で騒ぐ必要も無いだろう」
 綱も頭を抱える。
「クリエイトアンデッドを使った者が注目されておるようだが。奴らは、自身の藩士が一刀で斬られた事について、どれだけ注意を向けているのか」
 苦々しく太吾は告げると、綱から「さあな」とそっけない返事。呆れかえっているというか、彼らを考えるのも疲れるというような声だった。

 行動は二手に分かれる。昼の内は調査ということで、憐慈、紫辰、響耶は方々を動き回る。
 響耶は見付かった古い死体をどこで手に入れたかを調べに検非違使たちを訪ねたが、特にこれといった届出はなく、おそらくはそこいらの死体を使ったのだろうとの答え。
 鴨川を三途の川に見立てて、その以東は葬送地が広がる。風葬として葬られた死体をつつきに鳥が群れ集ったのでその一帯は鳥辺野というのだとか。鴨川自体水葬地としてのしての役割があるのだから、死体には事欠かない。
 そういう事情があるからか、ここらは有名な寺も多い。
 それらに一つ一つ足を運び、紫辰は最近破門になったような者や素行の悪い僧の話を尋ね聞く。さすがに自分達の寺の不祥事は話してくれないが、他の寺で聞き知った事ならそれとなく協力してくれる。
「少なくとも、ここいらの寺に所属している僧侶に疑わしいのはいないようだな。さらに範囲を広げた外か、あるいは流れてきた坊主か‥‥」
 すっかり抹香臭くなった自分を嗅ぎつつ、紫辰は判断する。
「中には頑なな寺もあったが‥‥それは長州とやりあったのを思えば、当然か」
 温和な印象の強い僧侶が激怒してる様を思い出し、響耶はむしろ同情を覚える。何でも土足で踏み込み、いきなり住職を呼び出して胸倉掴むような尋問をしたのだとか。おかげで、長州藩士が来たのかまだなのか。門前からでも雰囲気で何となく知れた。
「図書寮での調査だが、これまでに似た事件があった様子はないな。ついでに京都の結界についても調べたが、さすがにこれは大変だ」
 憐慈がふと声を漏らす。
 四神相応は広く知られているが。他にも寺社仏閣の配置や山の位置など、京の結界とされる物は数多い。もっとも、それらが全て本当なのかは分からないし、外部に秘匿されている物もあるだろう。
「確かに、結界破壊に足掻いてる感じだな。もし、あの量が全部本当なら、他に手をつけないのも妙な感じがする。知らないというならもっと勉強しなさいか」
「他は全部嘘だとか、これから手をつけるという可能性は?」
「無い事も無いな。くそっ、結局向こうの出方次第か」
 憐慈が忌々しげに告げる。
「とりあえず、今は目先の遺棄事件の捜査だな。さて、次の寺が」
 見えてきた、と紫辰が手で示すその先。山門から丁度人影が出てきた。
 それが、事件を探っている長州藩士だと気付いたのと同時に、向こうも此方に気付いた。
「無能な役人のお出ましか」
 黙って去ればいいものを、わざわざ向こうから挨拶してくる。
「我々はギルドの任で動いているまで」
「では、そのギルドってのも無能の集まりなんだな。無能の馬鹿ばっかりだな、京都は。ここは一つ、無能者の掃除でもするか?」
 生真面目に告げる紫辰をせせら笑い、藩士が腰の物に手を添える。笑ってはいるが、目の奥はかなり本気だ。
「言いがかりはよしてもらおう。このような場所で我らに斬りかかれば長州の評判が落ちましょうぞ。見廻組に斬りかかったならば我らを認める神皇様に斬りかかると同意。そのような事をして無事で済む程、貴殿らは位の高い方々か? お立場を考えられよ」
 憐慈が真っ向から見据える。次はどんな野次が飛ぶか。あれこれ思案しながら、それとなく身構る。
 だが、藩士達はきょとんと目を丸くすると、次には一斉に吹き出し大笑いしていた。
「何がおかしい」
「これが笑わずにいられるかよ。いや、お前らには関係ない事だな」
 こみ上げる笑いを何とか押し留めようとし、けれど失敗しながら藩士は一同を見る。
「いやいや、失礼した。実にお勤め御苦労。安祥神皇さまの御為、せいぜい今の内に頑張って下さいな」
 優しさの欠片もない、それは純然とした皮肉。まだ肩をゆすりながら去っていく藩士達を不快な思いで見送った。

 もう一方の組は、義護・太吾・バーク・綱の四名。
 こちらは昼の調査は義護が先の五条の乱の折に、御所警備で長州が陰陽寮などに立ち入ってないかを調べたぐらい。これはあっけなく分かった。何せ御所を守るには陰陽師との連携も必要なので、当然行き来せねばなるまい。
 その後は、鴨川の調査。とはいえ、昼の内は夜の見廻りの為の下見。
 日も暮れだす頃、もう一班と合流し、情報を交わす。
 事件の話は神妙に。だが、響耶が長州藩士の話をすると、義護たちもまた妙な顔を作った。
「実はこっちもだ。たまたま僧侶をつるし上げている所にいき合わせたので、小坂部殿と止めに入ったのだが‥‥」
 時間からしてどうやら響耶たちが出会った後らしい。てっきり一騒動あるかと思っていた義護たちだが、そういう事はなく。ただ憐れむような目で見下してきた。
 それでも狼藉を働いていたのは事実。
「古来から三宝敬うべしと勅令あるのを知らぬとは言わせぬぞ」
 なので、義護がそう注意すると侮蔑するように笑い、そしてさっさといなくなった。
「こんなアホラシイ事をするのは下っ端だろうが。にしても妙な態度だな。ある程度は目を光らせておいた方がいいかな」
 憐慈は悩むが、今すべき事は死体遺棄の調査である。二組はまたそれぞれで別れ、付近の捜索に当たる。
「怪しい人影は無いな」
 インフラビジョンを使用して太吾が周囲を見回す。月もほとんど無い今夜。周囲は墨を流したように真っ暗で、その中からさらさらと川の流れが響いてくる。
「クリエイトアンデッドを使えるって事は、ミミクリーも使える可能性がある。デビルなら透明化って可能性もあるがな。とにかく、何に化けてるか分からんから用心しろよ」
 四方に目を向けながら、バークが注意する。
 太吾以外は昼に覚えた景色を思い出しながら、注意深く移動。提灯を付けたい所だが、それだと相手にもこちらの存在がばれるので微妙な所だった。
 見回っても、特に何もなし。とはいえ気も抜けず、ただ何もせずに待つだけの時間が過ぎる。
「おい、あれは!」
 はっ、と顔を上げたのはやはり太吾。示した先で動く人影が見える。が、彼の目にはそれが体温を持たないのが明らか。
 駆け寄ればやはり死人。ばっさりと切り裂かれた傷からは何の血も流れていない。その右の腹には差し込まれた鉄の棒。
「例の死体だな」
 提灯に火を灯して綱が呟く。死体はその間にも、彼らを無視して川原まで歩き続けている。
「くっそ。どこに隠れてやがる」
 見渡すバーク。だが、あたりに怪しい物影は無い。太吾を見るが、彼も首を振るだけだ。
「命令だけして、すぐに立ち去ったか。だが、遺体には単純な命令しかできないはず。まだこの辺りにいるかもしれん」
 綱の言葉で、皆が四方に散る。
 しかし、犯人と思しき影は捕らえる事は出来なかった。