【乱の影】 新撰組四番隊 〜藩士追跡〜

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:9〜15lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 50 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月02日〜11月07日

リプレイ公開日:2006年11月09日

●オープニング

 初夏の頃、当時就任したばかりの京都守護職・五条の宮が自ら神皇になるべく武力で京の都を制しようと決起する事件が起きた。
 諸国を巻き込んでの戦は、結局現神皇軍が勝利し、首謀者たる五条の宮は捕らえられ西方に流刑となった。
 その乱の折に、長州・薩摩始めとする西の陣営は関白・藤豊秀吉の指示の元に京都に陣を張り戦力の一端を担った。乱が収まった後も京の地に留まる者多く、積極的に治安維持へと尽力を重ねている。
 ‥‥と言えば聞こえはいいが。既存の勢力と協調する意思はまるでなく、むしろ犯罪を減らせぬその無能ッぷりをあざ笑い、騒動の種をばら撒いている。
 最近では、「妖怪跋扈に悪党横行。こんなに世が定まらぬのは安祥神皇が暗君だからだ!」と、さりげなく‥‥けれども聞こえよがしに口にする者も出る始末。
 当然、現治安維持組織との仲はすこぶる悪い。良識あるなら増長する相手など構わず放っておくものだが、そうはいかないのが新撰組。特に芹沢派。
 喧嘩上等挑発嘲笑悪口雑言どんと来い。むしろそれこそ良い口実。勿怪の幸いとばかりに嬉々として塵掃除に刀を抜く。
 そんな訳で、今日も都は血に困らない。


「何を考えてるんだ、あの下郎ども」
 京都壬生村。その新撰組の屯所にて、静かに呟くのは四番隊組長・平山五郎。その手に握られた小さな紙片を不満そうに見つめている。
 京都の中心で営業をしていたとある炭屋。その店は、他の店同様、冬を前に燃料を求めて集う人々でにぎわっている。されど、その中はといえば他の店に比べて長州藩士の姿が多く見られた。
 というより、あからさまに護衛として雇い入れたりもしている。
 店主の言い分では、物騒な昨今。商品を守る用心棒をしてもらう代償に、彼らへは格安で炭を分けているのだという。
 商売といえば、商売。それでいいのかもしれない。が、それなら何故わざわざ長州藩士なのか。他の諸藩――あるいは冒険者ギルドにでも頼めばそれで済む事。
 それに目をつけた――どういう風に目をつけたのか。それはさておき――四番隊が、炭屋に乗り込んだのが先日。
 恫喝する護衛の長州藩士を無理やり蹴散らし、うろたえる店主を押さえ込んで見たものはといえば。蔵で大量に積み上げられた売り物の炭や油に混じり、隠されていた多量の刀剣。
「わ、わたくしは‥‥その、お上や新撰組の方々に立てつこうなど考えた訳ではけして無く! ただ、長州の方から昨今の物騒な京を守るにはどうしても力が必要。その為の刀剣を用立てて欲しいと頼まれ‥‥過分な報酬も。商人なれば‥‥金を得た以上、否とも断れず!!」
 震え上がって平身低頭に頭を下げる店主。長州藩士たちはその頃には逃げ足早く消え去っていた。
 即座に、新撰組は長州藩邸にこの事実を伝え、何の目論見かと乗り込んだ。返ってきた答えは、
「その者たちは長州藩士を語るただのならず者。我らの名を使われしごく不愉快。共に討伐に出向き汚名を晴らしたく思うが、それでは口封じだと妙な噂も立とうというもの。故に我らは動かず。その者たちの処遇一切は新撰組に任せる」
 と、知らぬ存ぜぬを決め込み、門戸の堅く閉ざした。
「確かにごろつきのような輩もいたが‥‥長州藩邸に出入りした者も確実にいた。下手な嘘を」
「しかし、以降の長州藩邸は何も変わりなく。見張りはしてますが、あの炭屋で見た輩が近寄る様子はありません」
 へらっと応える四番隊隊士。それでいて、目は緊張で引き締まっている。
 捨てたかと平山は唾棄する。
「まぁいい。顔は割れてるんだ。人相書きでも描いて逃げた長州藩士を探しだせ。手が足らぬなら人を雇う事も許可する。何を企んでいたか、せいぜい吐いてもらおうか」
 忌々しげに平山は手にした紙片を見つめる。
 それは武器と共に見付かったどうやら手紙の切れ端。書かれてあったのは『気を見定め、時を待て』と。
 手紙とある以上、やり取りした相手がいる。つまり、彼らは他にも仲間がいる事を示す。それがどういう相手で何を考えているのか。糸口は掴まねばならない。
「そういえば、例の炭屋はどうします? 武器は押収させてもらうとしても、商いは早く再開させて欲しいと申し出てきておりますが。冬の時期に備え、炭や油は仕入れておかねばならぬそうで」
 ひょいと肩を竦めて見せる平隊士。
「店の調査が終わるまでは、営業停止だ。逃亡藩士たちを追う間は手が裂かれて碌な検分も出来そうに無いから、その後だな。さっさと捕まる事を祈ってもらえ」
「はーい。ではそのように」
 平隊士は頭を下げると、さっそくとばかりに行動に移った。

●今回の参加者

 ea1057 氷雨 鳳(37歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea1545 アンジェリーヌ・ピアーズ(21歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea4236 神楽 龍影(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5794 レディス・フォレストロード(25歳・♀・神聖騎士・シフール・ノルマン王国)
 ea8616 百目鬼 女華姫(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb1645 将門 雅(34歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 炭売り屋から見付かった武器の数々。懇意にしていた長州藩士は逃亡し、現在は行方知れず。
 事の真相を問いただすべく、新撰組四番隊が動いていた。
「四番隊の皆は自由に動いてもらっていいから、情報を集めてくれ。有力な情報が手に入ったら冒険者ギルドに集まって情報交換することにしよう」
「集めてくれ、ね。それはこっちの台詞ですけど、いいでしょ。手を貸してもらってるのはこちらですし、仰せの通りに情報を集めて来ましょうかね」
 十番隊隊士・氷雨鳳(ea1057)に皮肉な眼差しを向けると、四番隊の面々が京に散る。
 その様子に肩に竦め、今後の方針を話すのは手を貸す冒険者たち。
「新撰組も相変わらずのようね。‥‥でも、長州藩士も一体何を考えているのかしら?」
 頬に手を当て、ちょこんと首を傾げる百目鬼女華姫(ea8616)。五条の宮の乱以降、横暴が目立つ藩ではあったが、ここ最近の動きは予想を上回るほど過激なものになっている。
 神皇批判、治安維持組織との衝突、そして――武器の用意。
 どうにもきな臭さが目立つが、そこは関白・藤豊公の顔もあってあまり大っぴらにも批判できなかったりもする。
「元は薩摩の方が活発に動いておりました。その薩摩を甘いと言い切る以上、必ずや大きな動きがあるでしょう。なればこの件、計画全体の一端に過ぎぬのでしょうか」
 神楽龍影(ea4236)の声は硬く張り詰めている。西方の動きと長らく付き合っているが故に、どうしてもこの動きが気になるようだ。
「何やらまた厄介そうな空気ですよねぇ〜」
 参ったと感じる頭痛を堪えて、レディス・フォレストロード(ea5794)が告げる。先の乱の騒動もまだ記憶に新しいのに、どうしてこんなに京は大事が起きる気配ばかり続くのか。
 どうにも天下泰平は程遠いのが今の京でだった。

 全員が纏めて動いても仕方が無いので、何人かに分かれて行動する。
 集めた情報は、四番隊と共に冒険者ギルドで交換すると決めて、さっそく行動に出る。
 龍影、鳳、女華姫の三名が訪れたのはいわゆる色町。
「ここは活気だが‥‥、どうも雰囲気は慣れないな。その分、隠れるのにも丁度いいのかもしれん」
 女性の姿もあるが、やはり多いのは男たち。浮かれ歩く彼らの姿を見ながら、鳳は軽く息を吐く。
 確かに隠れるには適しているかもしれない。茶屋の主人は客の方が大事だし、浮世とここは別天地と中の事は滅多外に漏らさない。
 歩く人々の顔を覗き見るが、まぁ、追われているのが分かっているならそうふらふらと出歩きはしないだろう。
「最近商売の方はどうかしら? アタシも男日照りでねぇ。良い男の噂はないかしら?」
「全然よぉ。これから寒くなって客足も減るし、嫌になるわねぇ」
 女華姫が声をかけると、相手の女性はあっさり首を横に振る。
 公娼ならず私娼にも声をかけるが、中々詳しい情報は聞けない。
 ただ、
「長州のお人なら、最近御無沙汰ぎみどすなぁ。前はもっと遊びに来てくれてはったのに」
「それは? この人物でなく?」
「へぇ。他のお人もや。来はる人は来てくれてはるけど、日を置いたりぱったり来んようなった人もおります。もっとも、皆さん田舎の出やさかい、遊びもよう知らんで困りましたわ。そやし、来んようなってちょっと嬉しいんや」
 内緒にして、と笑う彼女に礼を告げ見送る。
(「長州藩士たちの多くが遊ぶのを止め出している‥‥。遊ぶ暇も無くなったという事か?」)
 と、鳳は密かに首を傾げるが、答えはまだ見えてこない。
 そして龍影は、藩士たちの事は少し置いて長州藩士・高杉晋作の行方を追っていた。以前、別の者から含みのある事を言われ、その真相を確かめるべく接触を図ろうとしたのだが、その行方がなかなか掴めない。
 仕方なく四番隊に聞き込んでみたが、さすがに重要人物の情報は、組の思惑もあるのでおいそれと教えられないとの事。ただ、動きは押さえているが、今の所不審な気配は見せてないと言う。
「長州の中でも、特に高杉晋作という方が学のある男と聞きましたが?」
「当然だ。あの人ほど凄い人はおらん」
 そこで少々手を変えて、事を知っていそうな長州藩士と接触。宴に潜りこめたが、カマをかけたつもりがすっぱり肯定されて、次の手に困ってしまう。
「真に日本の将来を憂い、日夜東奔西走していなさる。物事の二手も三手も先を読んで、より良きの為に確実な布陣を敷く。あの方いる限り、世は安泰じゃ」
「待てぃ。聞き捨てならんぞ。確かに高杉さまは御立派なれど、久坂さまの御尽力あらばこその今ではないか!!」
 傾倒しているのか、やたら褒めちぎるその藩士を別の藩士が聞きとがめる。
「はっ。何が御尽力か。藩士を引き連れあちこちで騒ぎを起こしていると聞くぞ? その事に高杉さまがどれだけ御苦労なさっておられるか!」
「甘い! 今の世を変えるには、荒療治もまた必要。先駆として戦っていらっしゃる久坂さまに御無礼ぞ!!」
 元々、酒の入っていた席での口論はやがて暴論大会に進展し、つかみ合いの取っ組み合いに発展する。
 騒ぎを聞きつけ、店主が慌てて退室を願うも聞く耳持たずにまだやっている。
 刀を抜かれる前に、騒動に紛れて龍影はそっとその場を後にした。

 将門雅(eb1645)とアンジェリーヌ・ピアーズ(ea1545)は商家や市場など商人集う地を主に歩いていた。仕入れなどでにぎわうそこを、川を辿って船着き場にたどり着く。
「すみません、こういう方をお見かけしませんでした?」
 アンジェリーヌが持たされた人相書きを見せると、積荷を降ろして一服中だった船頭はまじまじと見入る。
「ああ、あの炭問屋さんに出入りしていた人だろう。何かしでかしたんだって?」
「ええ。それで探しているんですけど、どこか心当たりは?」
 続けて問うが相手は首を横に振るばかり。あまり係わり合いになりたくないという顔をしている。
「そやったら、炭屋さんの得意先とか何か知らん? 店主が通とる店とか」
 雅が問いただすと、これにはのんびりその答えを告げた。
「隠れるにしても、食事はいるんやし。その食事を用意しとる思うんやけどな」
「つまり雅さんは、店主が長州藩士を匿っているとお思いで?」
「うん、まぁ、こう。同じ商売人の勘ちゅうか、何ちゅうか」
「それは正しいかもしれませんよ」
 聞いた得意先へ足を運ぶ。その途中で鷹の鳴く声を聞き、二人は空を振り仰いだ。
 視線の先で鷹が少しよろめくように近くの枝に止まる。すると、その影からシフール飛脚‥‥ではなく、それに化けたレディスが顔を出す。
「やけに営業再開をせかしますし、妙だと思って近辺を洗ってみましたら。こんなのを見つけてしまいました」
 硬い表情でレディスは、袋の中からくしゃくしゃになり、焼け焦げのついた紙片を取り出した。

 大量武器の隠匿が発覚した炭売屋は、その日より営業停止の立ち入り禁止となっている。家人といえども許可なくしては入れず、故に住み込んでいた人は懇意にしている家に御厄介となった。
 店主は店が気になるのか、隣家の御厄介になっている。大変な目にあったねぇと同情してくる目に、ひたすら頭を下げる姿は、単なる被害者にしか見えない。
 その日もいつでも商売が再開できるようにと方々を出歩き、暗くなってから家に戻って来た。
 疲れた表情で引き戸を開ける。
「遅かったな、枡屋喜右衛門。いや、古高俊太郎」
 出迎えた人影に店主はぎょっと身を引く。その様を低く笑いながら、新撰組四番隊組長・平山五郎が前に立つ。
「あまりにあからさますぎると却って怪しいと思わぬか。勉強になった。冒険者から話を聞き、重点的に調べ上げてみたらよくもまぁ‥‥。元は侍で、前々から今の京の批判を繰り返していたそうだな」
 店主の顔色が変わる。目を様々に泳がせた上、唇を噛むと露骨な
「な、何の話でしょう。何やらお人違いをなさってるようで。それよりも店の営業を‥‥」
「とぼけても無駄ですよ。あなたが昨夜読んでいた書状がこちらに。すぐに燃やされたのを慌てて拾って、大変だったんですから」
 レディスが例の手紙を取り出す。人目につかぬよう限りなく小さいその紙片を、燃やされる寸前で拾ってきたのだ。店主が急に人に呼ばれて慌てて出て行き、そして、隠身の勾玉で気配を消していたから出来た事。とはいえ、特に忍びの技を修めている訳でもなく、今思い出しても冷や汗が出る。
「はっきり書いてありますね。『件の藩士たちは無事に所定についた。今後接触を絶ち、気を待て。荷は我らに任せよ』と」
 突きつけると、店主が鬼にも勝る眼光で睨みつけてきた。その豹変振りにレディスは思わず居竦み、身を引く。
 だが、店主は決断も素早く、身を翻すと脱兎の如く逃げようとする。
「は〜い、お兄さん。優しく逝かせてア・ゲ・ル・わ・ね〜♪」
 物陰から飛び出した女華姫が色艶めいた目線と共に、なまめかしい笑みを作る。が、それは地獄への誘いか。唸りを上げて忍者刀が振るわれると、その峰が店主の首筋を打ち据え、昏倒させた。

 炭問屋・枡屋喜右衛門改め、不逞浪士・古高俊太郎捕縛。
 ただちにその身柄は屯所に移され、取調べを受ける事になる。
「お聞きしたい事がございます。前に見付かった手紙、『気を見定めて、時を待て』とはどういう事ですの? 誰からの誰宛なのか。時とは何時。この京で何をしようとしているのです」
「さあね、知りませんよ。私は頼まれただけでしてね」
 アンジェリーヌが詰問するも、俊太郎はそ知らぬふりですっとぼける。
「あまり素直でないと、神の鉄槌が下りますよ?」
「どうぞ、どうぞ。異教の神なんぞ此方から願い下げでしてね」
 分厚い聖書を振り上げるが、全く意に介さず。本当に振り下ろしても、きっと彼はただ笑うだけだろう。
「ここに五臓をぶちまけたいか?」
「いいですねぇ。そうすれば、私は秘密と一緒にあの世へ行けますよ」
 鳳が大脇差・一文字に手をかけるが、それすらせせら笑う。
「どないしますん? お得意さんとかよそと接触しそうな所は粗方洗わせてもろたけど、どこでどうやって手紙受けとったんかは分からへんかった。接触するな言うて来たなら、向こうからも連絡はもうおまへんやろし」
 悩む雅。平山はただ冷淡に、俊太郎がほくそえむ様を見ていたが。
「万屋。何でも扱うと言ったな」
「へぇ。万にある有形無形の品を扱うんが万屋・将門屋やからね。最近物騒やし、入用の時は相談乗るで〜」
 にまりと笑う雅だったが、平山の表情に底知れぬ笑みを見、慌てて態度を改める。
「では、坊主を至急呼んで来い。回復魔法が使える奴だ。蘇生術が使えるならなおよし。手配できぬようなら越後屋で薬をなるべく大量に仕入れて来い」
「毎度〜。で、料金は?」
「これぐらい駄賃の範疇だろう」
「酷っ! まさか交渉や購入費もうち持ちっ?!」
 さすがに抗議するが、相手は悪びれるどころか、逆に睨みつけてくる。
「それは勘定方に言え。早くしろ、人一人死ぬ事になるぞ」 
 屯所内で組長と喧嘩するのは分が悪く。いつか請求してやると呟きながら、雅は走る。
「何をするつもりか?」
 出て行く彼女の姿を見てから、鳳は問いかける。
「知れた事。五臓を撒いてもいいと言ったのはこいつだ。ならば、派手に撒かせてもらおう。治療の術があるなら、虫の息まで痛めつけてもまた癒せるし、癒したならまた始めから斬り刻める」
 それで。
 余裕ぶっていた古高の顔色が一気に変わる。その変化を、平山は面白そうに見下す。
「知っている事、洗いざらい吐いてもらうぞ。あの世に行くのはそれからだ」