腐敗蛙

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:11月02日〜11月07日

リプレイ公開日:2006年11月09日

●オープニング

 その村の外れには大きな池がある。整備が悪くて昼なお翳り、池底は泥と藻で濁り、雑草が蔓延る。全く何の機能も果たさず、冒険好きな子供たちですら遊びに行くのは遠慮するという場所。
 そこに夏の間、蛙が大量発生した。
 蛙といってもただの蛙ではなく毒蛙。体長1尺と結構巨大なその蛙は近付けば毒の消化液を飛ばして攻撃してくる。時には死にも至らしめるその毒を警戒して、ますます池には誰も近付かなくなった。
 どちらにせよ、蛙は夏が終わればいなくなる。それ以前に端から用の無い池であるから、近付く者もそう無い。だから大丈夫。
 と思っていたが。
 夏が終わって蛙の合唱が止んだ。それでもう村の者も蛙の事など忘れてしまった。その今になって、また蛙が鳴き始めたのだ。
 もちろん、いい加減冬も近いこの時期に蛙が普通にいるわけが無い。
 どうやら、何らかの原因で死んだ毒蛙たちが目を覚ましたらしい。
 死者は生者を求める。死んだ蛙たちも生の気配を求めて村へと近付こうとしていた。
「今は、葦やら岸辺の段差などが邪魔して池から出てこれないようだが、その内どっかにとっかかって出てくる。小さい奴が相手とはいえ、毒を持った相手だ。迂闊に近付くのは危険だし、万一、井戸にでも入られたら大勢の奴が苦しむ事になる」
 なので、その前に生き返った毒蛙たちを始末して欲しい。
 村から来たその人物はそういって頭を下げた。

●今回の参加者

 ea6334 奉丈 陽(27歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb5009 マキリ(23歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb6553 頴娃 文乃(26歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb8176 如月 嵐(34歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb8365 土師 楓(25歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb8467 東雲 八雲(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb8539 狛犬 銀之介(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb8581 香我美 真名実(29歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

奉丈 遮那(ea0758)/ 井伊 貴政(ea8384)/ 酒井 貴次(eb3367

●リプレイ本文

 村人たちも長らく放置していた池はむしろ沼のようで。秋に立ち枯れた草木が、それでも方々目一杯に生い茂り、行く手を阻む。
「良かった。あんまり臭わなくて」
 心底ほっと胸を撫で下ろしているのはマキリ(eb5009)。鼻栓まで用意していたが、最近はかなり涼しくなっているのでそれ程でも無いと村人が説明してくれた。夏は泥や堆積物が腐って結構なものらしいが。
 とはいえ、吹く風はどこか淀み、覆いかぶさってくる木で妙に辺りは薄暗い。
「幽霊が出るとか化け物が出るとかいう噂があるようですね。もっとも、口ぶりからして実態の無い単なる噂に過ぎないようですが。‥‥そんな話が出るのも分かるような気がしますね」
「やれやれペットは村で預かってもらえてよかった。下手に連れて来てたら、この雰囲気だけで馬は怯えて騒ぎそうだ」
 奉丈陽(ea6334)が周囲を見渡し、薄気味悪そうに少し身震いする。同意して狛犬銀之介(eb8539)も肩を竦める。
「騒ぐといえば、向こうさんもいたく大合唱してくれてるわね。歓迎の歌にしては品が無さ過ぎ」
 煩わしいと言わんばかりに頴娃文乃(eb6553)が耳を塞ぐ。
 冬も間近いというのに、周囲に響くは蛙の濁声。普通、人が来れば気配で黙るが、そこは蘇ったアンデッド蛙な為か。生の気配を感じてかますます鳴き騒いでいる。
「ひのふの‥‥。全部で八匹ぐらいかな?」
 耳のいいマキリ。蛙の声を聞いて、指折り数を数えてみる。
「これだけ鳴いてくれたら、打ち漏らしても楽そうだな。わざわざ自分から居所を知らせてくれるのだし」
 東雲八雲(eb8467)が指を鳴らして笑みを見せる。
「全然こっちに近付いて来てないみたいですね? やっぱり、この荒れ放題で足止めされてるのでしょうか」
 ここまで来るのにも、腰ほどまで伸びた草を分け入ってきた。やはり夏なら蛇も警戒せねばならなかったかもしれない程、荒れ果てている。
 香我美真名実(eb8581)がその長い茎を足で踏み倒すと、ほんのわずかだけ空間が開けた。
「まずはここの草刈おすな。それで囮で呼び込んで、蛙たちを皆で狩るゆう訳どすな」
「今のままではどこから出てくるか分かりませんしね。それではじっくり観察も出来ませんわ」
 如月嵐(eb8176)が告げると、土師楓(eb8365)が困ったようにため息をつく。
 草刈の道具は村に頼むと快く貸してくれた。村の者にしてもここはどうにかしたかったようで、草刈の申し出はある意味渡りに舟だったようだ。
「そうだ。手裏剣・八握剣を持って来ているんだが、誰か使うか? 死体系の奴らには破邪の効果も秘めると言うが、俺は射撃は得意でないんでな」
「ほな、うちが使わせてもらいましょか? 銀之介はん、おおきに」
 はんなりと挨拶すると、嵐は銀之介から手裏剣一つ預かった。

 楓が風を読み、池の風上から草を刈る。伸び放題の草は半端な量でなく、なかなかに骨が折れる。
 しかも、そうしてる間でも何の弾みで池から上がった蛙が来るとも限らない為、陽とマキリが周囲の警戒で目を光らせる。
 八雲は皆からは少し離れ、村人から借りて来た廃材を使って池に簡易の壁を作り、おいそれと蛙が池から離れないよう仕掛けていた。
 文乃が知人から持たされた弁当を広げる。腹が膨れるとまた作業続行で、それを幾度か繰り返すと、時間は思う以上にかかったが周囲は綺麗に刈り取られた。
「これで残るは池の際だけですね」
 楓が緊張した声を上げて、見構える。そこを整備すれば、池まですぐに飛び込める。逆に言えば、池からも上がってこられるわけだ。
 銀之介が道返しの石を取り出すと祈りを捧げる。祈る時間が長いが、効果も長い。それまでにかかるかが心配だったが、蛙たちはすぐそこで早く上げろとせかすように鳴き喚いている。心配はなさそうだ。
「多分、すぐに戦闘になる。気をつけて道を作らねば」
 八雲も戦闘準備に入る。なるべく毒液が皮膚にかからぬようにと顔や頭など露出部を隠し、魔法の射程の目安にする為、手ごろな石を拾うと均等に並べだした。
「知り合いが出かけに占ってくれたんだけど。曰く、易し。されど慢心ならず、だってさ。ま、気をつけてやりなさいって事だね」
「私は皆さんの邪魔にならないよう、頑張るだけです」
 全員にグッドラックをかけて回る文乃に、真名実も緊張した面持ちで小柄を手に構える。
 囮として嵐が、これまでにもまして慎重に草を刈り取っていく。得物が近付いているのが分かったか、いつの間にか蛙たちも声を潜めだしていた。
 さくりさくりと鎌を入れて草を振り払うと、そこには淀んだ池が見えた。一面の緑で水底は見えず、妙な気泡がほこほこと上がる。さすがにそこまで近寄ると、独特の臭気が鼻につき、顔を顰めながら蛙の姿を探すと、
「ゲゲゲゲ」
 足元で鳴き声。飛び退けば、その場に毒液が飛んできた。
 すかさず楓がムーンアローを唱える。淡い月の光の矢が飛ぶと、全てをすり抜け陰にいた蛙を狙い違わず射抜く。
 だが、その奥からさらに別の蛙が。そして、目線を変えるとそこにも蛙の姿を見出す。大きさ一尺程の蛙たちは濁った目を冒険者たちに向けて、池から近付いて来ていた。
「一旦、その場を離れろ」
 口早に指示すると、八雲はローリンググラビティーを唱える。蛙はのそのそと池から上がり始めていた。その蛙たちを中心に魔法を発動させると、範囲の物が一斉に天高く放り上げられた。
 刈り捨てた草に、転がっていた石や折れた枝。それらに混じり、醜い蛙たちもまた天へと昇り、そして、一気に地上へと叩きつけられる!
 ギャ! と短く蛙たちが鳴いた。地面についた蛙は平たく潰れ、中身もちょろりとはみ出している。
 これがただの蛙だったなら、この一撃でほとんど片はついていた。が、さすがは蘇りし物。腸をぶら下げ、歪な手足を動かしながら、ぺったんぺったん跳ねてくる。勿論、たまたま魔法から逃れたモノもわずかだがいる。
「さすがにアンデッド。しぶといですわね。スリープで眠らせられれば、もう少し楽にもなるのでしょうけど」
 困惑しつつも感心して楓は、近付いてくる蛙を見つめる。死せし物は通常の精神を持たない為、精神に作用する魔法も効かないのだ。
「でも、効いてない訳じゃないし。むしろ後少しって感じだね」
 マキリがライトショートボウを引き絞り、狙い定めて放つと蛙の頭を見事射抜き、地に縫いとめる。それでもまだばたばたと蠢いているのだから不気味だ。
「さっさと成仏してくれ」
 銀之介が清めの塩を振りまくと、腐敗蛙は震えていた身を硬直させ、いきなりくたりと動かなくなった。そこへまた新たな一匹がしゃっと毒液を飛ばしてくる。
 それを銀之介は躱すと、名刀・祖師野丸で斬りつける。哀れ蛙は真っ二つに裂かれ、さすがに動けなくなる。 
「とはいえ、まだまだ仰山来やはりますえ」
 嵐が手裏剣を投げる。借りた八握剣の威力はさすがで、易々と蛙を射抜く。とはいえ、一つしかないので打つたびに回収が必要。借り物なので失くす訳にもいかない。蛙たちと向き合うより、むしろそちらの緊張の方が大きかった。
「一つ一つ、順番に潰していくしかないですね」
 蛙一匹ずつを指し示した後に、陽はホーリーを唱える。邪悪な蛙は耐えられずまた滅し、その奥からまた別の帰るが姿を現して来ていた。

 とはいえ。元々の数は少なく、戦闘は実に手早く終わった。
「怪我が心配だったけど、そっちは必要なかったわね」
 ぴんぴんしている一同を見て、文乃は告げる。
 何せ蛙。咬みつかれても蹴られてもさほどの痛手にはならない。唯一の危険が噴射してくる毒液だったのだが、これも陽がアンチドートで即座に解毒し、薬の出番もなかった。
「といいますか。僕の出番もあんまりなかったですね」
 これはいい事だったと陽が笑む。
 八雲の道返しと文乃のグッドラックが功を奏し、蛙の動きは鈍らせ、かつ、冒険者たちの動きはいつもより軽くなっており、愚鈍な攻撃を躱す事がより容易くなっていた。身を動かすのが苦手な者はそもそも魔法での後方支援で距離を置いている。
 かくて五体満足至極無事で、一同は武器の返却や回収をしたり、潰れた蛙の死体を一所に集める。
 集めた遺体に銀之介が油を撒いて焼却。
「いろいろとお勉強させていただきました。ありがとうございます。やはり実体験は必要ですよね。耳年間なんていわれたくないですし」
 上がる煙に、手を合わせて楓が笑う。
 蛙の歌がそれに和する事は無かった。