一足早く 雪解けを

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:3〜7lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:7人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月09日〜11月14日

リプレイ公開日:2006年11月17日

●オープニング

 山の景色は色を帯び、見る者を楽しませるこの季節。しかし、それは冬の訪れを知らせる警鐘でもあった。
 ぐずぐずしていれば、あっという間に辺りは雪で閉ざされ、厳しい寒さに凍えての生活を余儀なくさせる。冬を乗り切る事。それは時には生死をかける事にもなる。
 だが、非情なその季節を好む動物もある。
 雪狼もその一つ。いや、吹雪より生まれ、圧倒的な回復力を誇るこの獣がただの獣のはずもない。
 妖怪。妖獣。物の怪。化け物。様はそういう生き物。
 雪の夜に現れて旅人などを襲うとされる獰猛な真白き妖狼。
 その姿が、冬を前にして早々と目撃されたのだ。

 見付かったのは、人も滅多に通らぬ山の奥深い場所。近くの村からも距離があり、その上数はたったの一匹のみ。――だが、されど一匹だった。
 危険な妖怪の処遇を巡り、討伐するか静観するかで村は冒険者に意見を求めた。その結果、まずは冒険者自身が雪狼に説得を行う事になったが失敗。
 冬の訪れを前に活動範囲を広げていく雪狼。村へと入り込む前に始末しようと再度冒険者を呼ぶが、これも後少しで取り逃がしてしまう。
 全身に油を撒かれ火をかけられた雪狼は、山奥へと逃げ帰り、今はそのまま身を潜めている。
「雪狼は大概の傷を瞬く間に治すが、火や熱の傷はその例外。なので、その傷を癒そうと引っ込んでいるんだろうって事だ」
 だが、手負いであるには変わらない。ある程度動けるようになったら、前より凶暴化して荒れ狂うだろう。
「今度こそ、是非しとめて欲しいと村からの要望だ」
 おそらくは、弱っている今こそが好機。
 貼り紙を見てきた冒険者を前に、ギルドの係員は厳しい表情で告げる。これ以上、失敗を繰り返すのもギルドの沽券に関わるのだ。

●今回の参加者

 ea0980 リオーレ・アズィーズ(38歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 eb2879 メリル・エドワード(13歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb4891 飛火野 裕馬(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb5228 斑淵 花子(24歳・♀・ファイター・河童・ジャパン)
 eb5475 宿奈 芳純(36歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb6967 トウカ・アルブレヒト(26歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb7352 李 猛翔(22歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)

●サポート参加者

天藤 月乃(ea5011

●リプレイ本文

 陽の光は穏やかなれど、吹きつける風は強く、はっきりと肌寒さを感じさせた。
「本格的に冬が来る前に仕留めねばな」
 確実に冬が訪れている。それを感じて、李猛翔(eb7352)は身を震わせる。山奥に逃げた雪狼。傷を癒し、出てくる頃には奴の好む季節になっている。活発に動きまわる危険な妖怪は、果たしてどれだけの被害を世に与えるか。
「何度も失敗してるし、俺らを信頼するんは難しいかもしれへん。完遂してない以上、口だけや思わはるかも知れへんけど、ギルドは決して依頼を中途半端にしたままにせぇへん」
 飛火野裕馬(eb4891)が、村人たちを前に折り目正しく頭を下げる。
「三度目の挑戦。あってはならない事ですが、見て見ぬふりこそがあってはならないと。此方の諺では、三度目の正直というのでしたか? 決着をつけさせてもらいます」
「二度ある事は三度とも‥‥」
 トウカ・アルブレヒト(eb6967)の言葉に村人が茶々を入れるが、即行で隣の者に殴られていた。それを見ていた古老が黙って頭を振り、冒険者たちを見つめる。
「正直済まないと思っているよ。あんたたちばかりに大変な目に合わせて。‥‥ただ、わしらだけではあれは手に余る」
 静かに告げた声は擦れていたが、はっきりと届く。その怯えた震えさえも。
「これまでの事情は聞きました。私にもお手伝いできるかと思い、協力させてもらいます」
「魔獣に苦しめられている人が居ると聞き、一肌脱ぎに来たのだ。困っている人を放置するなど出来ないのだ」
 重い空気を振り払うように、リオーレ・アズィーズ(ea0980)がたおやかに告げると、メリル・エドワード(eb2879)も明るい声で胸を張る。 
「ここまで事態が進行した以上、説得は無理と判断しました。退治に全力を注ぎます」
 宿奈芳純(eb5475)が気鬱に塞ぎ込む村人一人一人に落ち着くように声をかけて、安心させるようにそう告げる。
 それを見ながら、猛翔はちらりと隣を見る。
「そういう事だから。いいか、斑淵」
「分かってるです。作戦通りに動きますよ」
 言われた斑淵花子(eb5228)はただ頷く。その表情は怒ったような悲しむような顔で、後はただ黙って目を伏せた。

 ペットを村人たちに預けると、雪狼がいるという山に向かう。
 メリルが事前に知人と手分けして調べた情報によると、雪狼は一言で言えば危険な化け物。出会えばほぼ確実に襲われ、腕か足に覚えのない者はそのまま命を落とす。腕に覚えがあっても大抵の傷はあっという間に治るので倒す事は難しい。例外に炎や熱の傷は治らないが、それが弱点とも言いがたい。
「村人が過敏なまでに恐れるのも当然かもしれません。出会う事が少ないとはいえ、猛獣とされる熊や狼の方がまだ優しい相手ですよ」
 モンスター全般に詳しいリオーレはただそう嘆息する。実際、腕に覚えのある冒険者らが数名であたってもけして易い相手ではなかった。村に入り込まれてから対処したのでは遅すぎるのだ。
「村人から聞いた話やと、雪狼がいると思しき場所は猟師も滅多によらんような場所らしいで。倒木や岩石が多くて動きづらいんやて」
「なるほど、身を隠す場所が多いという事ですね」
 これまでの行動範囲や逃げた方角、周囲の様子から割り出したおおまかな位置について、裕馬は説明する。その情報を元に猛翔・トウカ・芳純がまず雪狼の居場所の特定にかかっていた。
「占いによれば、心当たりを探せば見付かると出ましたが、さて」
「ま、待ちに入った所で向こうは出てこないでしょうし。こちらから動くしかないでしょうけど」
「具体性が無いのは、私の腕がまだ未熟という事で」
 居場所を占って来ていた芳純。その結果に少々首を傾げたトウカへ、面目無いと軽く頭を下げる。
「こちらから攻めるのみ‥‥とはいえ、迂闊に動いて今勘付かれても困りますし‥‥。李様の報告を頼りにさせてもらうしかありませんわね」
 言って、ふるりと身を震わせる。武者震いではなく、単純に冷えから。霜降月の山は村よりさらに冷え込む。
 待つ時間はやけに長かった。ようやく、猛翔の姿が見えた時、誰ともなくほっと息を漏らした。
「どうでした」
「どうにかな。かなり用心しているらしくてほとんど痕跡が無い。苦労してあちこち探しまわって遅くなった」
 疲れた色を見せながらも、猛翔はすぐに来た道を取って返す。先導して飛ぶ彼の後をトウカと芳純が追う。残りは別行動で、居ると黙される付近の下手へと移動していった。
「ここいら辺なのは確かだ。が、さすがに物陰からいきなり襲われても困るので、これ以上は探しきれないな」
「多分、何とかなると思います。おおよその居場所が知れているのなら、追い込みをかけましょうか」
 見つけた先を示して、口惜しそうな猛翔。芳純は大丈夫と笑いかけ、さっそく手配にかかる。
 風上から思しき周辺に油を撒き、保存食を置いて、自分たちが来た事を知らせる。わざと音を立てて作業してみたりもしたが、相手は全く出てこようとしない。まるでそこにはいないかのように。
「それでは、行きますよ」
 本当にいるのか。幾許かの不安と共に芳純は魔法を唱える。ムーンアローの良さの一つは相手を指定できる事。
 果たして。
 月の矢は戻る事無く一直線に飛ぶと、重なりあった倒木の下へと吸い込まれた。それを合図にしたかのように、その陰から飛び出てくる白い獣!
「逃がしませんよ!!」
 告げるやトウカの手から火の玉が飛び出す。ファイヤーボムが着弾すると同時、広範囲に渡って爆発。倒木も落ちていた岩石も吹き飛び、破片が容赦なく撒き散らかされる。
 それを避けるように雪狼も進む方向を変える。すでに全身は火傷だらけで、ただれた皮膚が露になっている箇所もある。下手に攻撃を喰らえば危険と忌避したのだろう。雪狼はただただ逃げ続ける。
 魔法で行き先を整え、その後を追う。
「先に行って下さい。どの道、走りながら唱えられません。届く限り、ここから唱える方が確実です」
「分かった」
 傷を負ってもさすがは雪狼というべきか。少々移動の劣る芳純がやや遅れがちになる。なので、いっそ足を止めると、遠ざかる雪狼を名指して月の矢を放つ。
 トウカは射程を考えると逃げられる訳にも行かない。慣れぬ山道に苦慮しながらも、どうにか高速詠唱を使って雪狼を追い詰める。猛翔は危なげなく雪狼の鼻先に回り込むと掠めるように飛び、進路を阻害する。
 どの道、そんなに走る必要は無かった。彼らとて何も闇雲に追い回した訳で無い。
 一直線に走る雪狼。射程を見計らうと、待ち伏せていたリオーレは経巻を紐解き念じる。失敗する事無く魔法は発動、雪狼の足元からマグマの炎が立ち昇った。
「最初の説得に耳を貸さなかった、己が高慢の報いです。――私は謝りはしません。ここで滅びなさい」
 冷徹に告げるリオーレ。普段の優しい表情からは考えられない程、その態度は厳しい。
 広範囲に渡る熱から逃れられず、雪狼がもんどりうって倒れる。魔法効果は一瞬。円柱の柱は灼熱の気配だけを残し、辺りはまたただの地面が広がっていた。
 雪狼がよろめきながら起き上がろうとする。そこへさらに横殴りに雷が飛来。直撃を受けてもう一度倒れた。
 メリルのライトニングサンダーボルト。発動に確実を期す為、最低の威力で放ったが、その稲妻は雪狼の身を傷つけている。しかし、こちらは見る間に回復していく。どんなに傷を負おうととも、仕留めぬ限り大抵の傷が無かった事にされてしまう。
 が、先に受けたリオーレのマグマブローの痕跡は消えずに残り、さらに雪狼を弱らせていた。
 よろめく雪狼。そこに裕馬が駆け寄る。手にした油を頭からかけると、雪狼の毛が逆立ち逃げ出そうと動く。が、果たせなかった。リオーレがシャドウバインディングの経巻で、雪狼の黒々と落ちる影を地に縫いとめていたのだ。
「逃せば間違いなく人を襲う。そうなってしまっては取り返しがつかないからな」
 猛翔も、動けぬ雪狼に容赦なく油を撒く。
「可哀想だが、本来おぬしが生きる所で無い場所に来たのが不運だったのだ。出来れば成仏して欲しいのだ」
 戒めを解こうと悶える雪狼に、今度はメリルがサンワードの経巻を使う。陽の光線が発動すると、油に着火した。同時に、辺りに燃え盛った炎で足元の影が消え、束縛を解かれた雪狼が弾かれたように走り出す。
「逃がすか!!」
 裕馬がその前に立ち塞がる。履いているのは韋駄天の草履。もっとも、長距離で効果を出す代物なので今はただの草履と同じ。
 すれ違いざまに、裕馬は炎狼と化した奴の鼻っ柱を叩く。日本刀だが布を巻いているので斬る事叶わず、されど巻きつけた布は油を染み込ませており簡単に引火。故に、炎が叩き込まれた。
 悲鳴もあがらなかった。雪狼の喉を通る風は遷ろうばかり。
 そして、メリルがもう一度ライトニングサンダーボルトを、今度は威力を重視して専門で撃つと、相手は大きくのけぞり、地に倒れた。
 後は燃え盛る炎が、葬送の儀となり雪狼の身をただ焼いた。

 村に雪狼の事を報告すると、ようやく肩の荷が降りたと村人たちは感謝の意を告げた。
 賛美を素直に喜ぶメリルだったが、気を見て村人たちからこっそり離れると、雪狼の墓を作ろうと山への道を辿り出す。
 焼け焦げた遺体は簡単な埋葬はしていたが、意外と言うか当然というか、メリルより先に客がいた。
 花子は真新しい土饅頭に強烈な匂いの保存食を添えると、ただ黙って手を合わせる。
(「雪狼は気高く逝き、あたし達は見苦しく生きている。そう感じるのは何故でしょう?」)
 問いかけても答えるモノはおらず。
 花子が気高いと称し、リオーネが高慢と告げ、村人たちが恐怖に震えた雪狼も、今は黙って土の下だった。