【乱の影】 新撰組四番隊 〜炭屋警備〜
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:9人
サポート参加人数:3人
冒険期間:11月11日〜11月16日
リプレイ公開日:2006年11月17日
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●オープニング
それは初夏の頃。
当時就任したばかりの京都守護職・五条の宮が、自ら神皇になるべく武力で京の都を制しようと決起する事件が起きた。
諸国を巻き込んでの戦は、結局現神皇軍が勝利し、首謀者たる五条の宮は捕らえられ西方に流刑となった。
その乱の折に、長州・薩摩始めとする西の陣営は関白・藤豊秀吉の指示の元に京都に陣を張り戦力の一端を担った。乱が収まった後も京の地に留まる者多く、積極的に治安維持へと尽力を重ねている。
‥‥と言えば聞こえはいいが。既存の勢力と協調する意思はまるでなく、むしろ犯罪を減らせぬその無能ッぷりをあざ笑い、騒動の種をばら撒いている。
最近では、「妖怪跋扈に悪党横行。こんなに世が定まらぬのは安祥神皇が暗君だからだ!」と、さりげなく‥‥けれども聞こえよがしに口にする者すら出る始末。
当然、現治安維持組織との仲はすこぶる悪い。良識あるなら増長する相手など構わず放っておくものだが、そうはいかないのが新撰組。特に芹沢派。
喧嘩上等挑発嘲笑悪口雑言どんと来い。むしろそれこそ良い口実。勿怪の幸いとばかりに嬉々として塵掃除に刀を抜く。
そして、神都は望まぬ血を呑まされる。
そんな訳で、芹沢派で知られる四番隊がその店に目をつけたのは、ある意味当然といえる。
京都の中にあって、炭や時には油も売り買いしていたその炭問屋は、長州藩士を用心棒代わりに使い、その代償に彼らへ格安で炭を売っていた。
そんな長州藩士と組んでの商いを面白く思うはずも無く。踏み込んだのは勿論それなりの論拠あっての事だが、嫌がらせの意味合いも強かったのではないだろうか。
しかし、結果は大きかった。
炭屋の蔵に詰まれた炭や油は売り物としても。それに混じる武器の数々。それはけして売り物などではない。
直ちに店は新撰組が押さえ、事が露見し早々と逃亡した長州藩士――もっとも、長州藩邸に問い合わせると、そのような輩は知らんとあっさり縁を切ったので、元藩士たちと言う方が正しいのかもしれないが――の追跡も始まった。
冒険者らにも手を貸してもらいながらの捜索。そちらの結果はどうなったか。それはまた別の話で語るとして。
藩士たちが武器を集めていた炭屋の方は、発覚後からずっと新撰組が差し押さえて営業停止中。蔵から見付かった大量の武器は屯所に移してなお余り、それをどこに置くかがまだ決めかねている。
店も蔵も藩士たちが何らかの痕跡を残しているかもと一応の捜索はしてある。が、事細かに検分するには暇がなく、故に今は見張りを立てて置いてあった。
とはいえ、隊士は有限である。逃げた藩士も追わねばならぬ中で警備にも費やしていてはなお手が足りぬ。いつまでもただ張り番をさせておくには、京は事件が多すぎた。
なので、新撰組四番隊組長・平山五郎は冒険者ギルドを訪れる。
「あの馬鹿げた炭売り屋の張り番を欲しい。万一にも長州藩士どもが戻ってくるとも限らんからな」
かくて、冒険者ギルドに依頼が出される。
炭問屋を警備。何か事があった際の判断は任せる。手に負えないなら屯所に助けを呼んでも良いし、場合によっては斬り捨てて良しと‥‥。
●リプレイ本文
「しかし。何故、皆で仲良く暮らせぬのでしょう。言っても詮無き事でございますが」
嘆息しいしい神楽龍影(ea4236)は書を覗く。言ってて、何だか寒くなってくるのがまた悲しい。
長州藩士とつながりのあった炭問屋の警備。何も知らぬと被害者面していた店主が、実はしっかり長州と結びついてたと知れて捕まったのが、ほんの数日前で。
それでも逃げた長州藩士はまだいる。故に店主不在の店舗を任されたのだが、その警備ついでに捜査も行っていた。
一通りの捜索は、最初に踏み込んだ後に行っている。めぼしい物は屯所に押収されて、やけに内部はがらんと広い。とはいえ、その後しばらく店主が通ってたりもしている。どんな形で何が残されているか分かったものでない。
龍影は置いてあったに落書きに目を通すも、これといって問題はないようだ。頭を少し振ると、それをまた元に戻した。
「『安祥神皇は暗君』ね。これはまだ幼いというのも拍車をかけているのかしら。大義名分って‥‥まったく迷惑だわ」
畳を一枚一枚持ち上げるのは朱蘭華(ea8806)。上げ下げする度に細かい埃が舞い、顔を顰めて少し咳き込む。
「今現在、街中で衝突を繰り返し、荒事を起こす長州藩士。その筆頭がどうやら長州藩士・久坂玄瑞だとか。同じく長州藩士・高杉晋作の名は聞けど、こちらは目立つ動きなく。――さて、此度の一件。どちらが黒幕か」
龍影は思案するも、ここでは答えは出ず。行動あるのみだが、それもどう手をつけてよいやら。
「武器以外の何かがあるにしても、店主殿は手紙を燃やすような用心深い方ですし、そも、何を探すかも分からないなら、いっそ、襲撃時の相手の動きで分かるかもしれませんね」
こちらは警備専念。外に妙な動き無く、仕掛けも作り終えて一休憩とレディス・フォレストロード(ea5794)は棚に腰掛け二人のやる事を見つめる。
「しかし、それは探すより不確定かもしれませぬ。せめてどんな手がかりか分かればよいのですが、そんな易しくはないでしょうし」
「しかし、新撰組も融通利かんなぁ。証拠品やから勝手に売買したらあかんて」
隠し扉などが無いか。壁や床を叩きながら将門雅(eb1645)は口を尖らせる。
もし蔵の方に襲撃があるとしたら、物資が目当て。ならば、先にそれを無くしてしまえば話は簡単と、新撰組四番隊組長・平山五郎と話をしたが、素っ気無く。炭を水に漬ける分には構わないと言われたが、何分量が多い。川の中ともなると守る手段も変わってくるので、難しい所だ。
ちなみに、前のツケは食事をおごるからそれでチャラにしろとの事。長州藩士の動きがおかしい今、大事を思えば少しでも出費を抑えたいのだとか。口調ははっきり命令形だったが。
「警備を疎かにも出来ないし、いつまでも探していても仕方ないわね」
捜索はあくまで便乗のようなもの。本来の仕事も疎かに出来ぬし、ぼちぼちやるしかないかと、蘭華は息を落とした。
「点検よーしっだねぃ。どうやら、隠し扉の類は無さそうだねぃ」
蔵の内部を念入りに見て回り、哉生孤丈(eb1067)はほっと一声をあげる。新撰組十番隊士である以上、何かあっては他の冒険者たちより責任が重い。
隠し扉は正確にはあった。奥に隠された空間があり、そこに大量の武器が仕舞われていたのだ。ただし、そこの入り口はとっくに暴かれ壊され、今は普通に出入りできる。
「こっちにも怪しい箇所はないぜ! 窓の格子もきっちりはまっているしな」
その隠し場所にも異常無いのを見た後、窓を開けるとケント・ローレル(eb3501)は格子に手をかける。かなり強く力を込めるが、丈夫な格子はびくともしない。
「うしっ! これで後は奴らが来てもいいよう張り込むだけだな」
言うが早いか、河伯の槍を握り締めて入り口に立ち、外に睨みを効かす。
「何ガアルカハ興味無イデスガ。店ハ捕マルマデ店主モ出入リシテマシタシ、何カアレバ手ヲ打ッテイタデショウ。アルトスレバ蔵ノ方ト思ッタノデスガ‥‥」
入念に調べられた蔵を見つめ、淡々と理瞳(eb2488)が告げる。ちなみに飼い猫のねこは好きにさせておいたら、居てもしょうがないと判断したか勝手に帰ってしまった。
「不審な物品は無くとも、この物資自体が問題だな。炭に油、武器‥‥この量。相手はどこから来るか。船での襲撃も考えられるしな」
傍を流れる川を見つめる李飛(ea4331)の表情は酷い。川には舟の往来もあるし、それを利用し周囲には他店舗の蔵も並ぶ。
孤丈の知り合いが調べるには、長州藩邸の傍を流れる水路がこの川に注ぎ込むという。具体的に動きがあるかについては、さすがに警備が厳しく潜り込めなかったようだが。
「一先ズ、辺リヲ見回ッテキマス」
瞳が動く度、曲者と間違われぬよう持った鈴がちりちりと鳴いた。見送った後、孤丈はふと蔵を見る。
「大量に燃料。長州藩士は何を考えてるんだろうねぃ」
「真っ先に思い浮かぶのは火事だな。そんな事したら美女の柔肌がただれちまうじゃねぇか!!」
店を経営するだけあって在庫は多く、それを使う目的となると、浮かぶ考えは碌でもないモノ。
孤丈は渋面を作るしかないし、ケントも怒りを隠せない。
「犠牲になるのは美女だけでなく。‥‥江戸の惨劇はごめんだねぃ」
昨年、やはり秋に起きた火付けによる江戸大火。死者五万、焼け出された人々は十万以上の大惨事。その後、冬将軍の到来が拍車をかけて、どうにか復興の祝いを告げるにいたったのは夏も盛りになった頃だった。
だが、何故今京都に大火を起こす必要があるのか。悪戯に世を混乱させるのが目的でもあるまい。
警備は順番に交代をしながら続けられ。店の前を行く人々は、警備を遠巻きながら珍しそうに覗いて行く他はこれといった変事なく。レディスはとっぷり日暮れた空を最後とばかりに飛んでいた。
皓々と月が明るく、静けさは耳が痛くなる程。店の上空から一巡りした後、異変無しと判じて交代に戻ろうとした時、ふと赤い光を見た。
疑問に思う間もなく、その光は店に向かって飛来した。その正体は火矢。店に打ち込まれた火は手近な可燃物に燃え移り、その勢いを徐々に増していく。
「ちょっと!! 誰か来て、早く!!」
瞬く間に火は広がる。レディスは声を上げると同時に、庭に張り巡らせておいた鈴を鳴らした。黒く塗られた鈴は本来進入防止用に作ったのだが、人を呼ぶにも申し分ない。
けたたましい鈴の音に飛び出してきた冒険者たちは、燃え盛る炎で事態をすぐに悟る。
「あそこやね」
火の明かりから居所はすぐに知れた。射手を確認すると、雅は詠唱。疾走の術を唱えた後、微塵隠れの術。派手な爆発が辺りを吹き飛ばすや、彼女の姿は消えた。同時に、矢も止まる。
「成る程、火矢と来ましたか。――いや!!」
燃える炎に龍影が歯噛みする。が、それもまだ早計。通りの陰から別の連中が影のように向かってきた。黒装束に身を包み。やってくるのは三名で、その手には抜き身の刀。
「神代紅緒、参る!」
髪を三つ編みに束ね、狐面で被り。それで名乗りをあげるが、黒装束たちの反応は特になし。彼らは警備を蹴散らそうと、刀を振り回すと同時、腰にぶら下げた竹筒の封を解き、火に投げる。中には油が入っており、零れ落ちた軌跡にそって炎はさらにその勢力を広げる。
「これは‥‥、ぐずぐずしている暇はないわね」
閃く刀を躱すと、蘭華は爆虎掌を叩きつける。このままでは店ごと全て燃やされてしまう。
そこに、呼子笛が響き渡る。どうやら雅が弓兵をどうにかしたらしい。甲高い音色に辺りはざわめき、やがて
「退くぞ!」
一人が告げるや、黒装束たちが退く。
「お待ちなされ!!」
「退くつもりなら放っておきましょう。それより今は火を消す方が大事です!」
追いかけようとしたのをレディスが止める。戦いには向かないし、火を消すにも焼け石に水ぐらいしか運べないので、やきもきしながら状況を見るしかなかった。
「攻撃の手も温かったし、陽動の可能性があるわ。‥‥どうやら将門さんは向こうに知らせに行ってくれたみたいだし、私達はここで待機する方がいいかもね」
告げる蘭華に頷くと、龍影はひとまずファイヤーコントロールを使う。
その頃には、付近の住民も火事に気付き、集まりだしていた。
「火事だ!! 炭問屋で火事だぞ」
夜に響く喧騒が蔵の方まで伝わった。寝た子も覚ますその怒声は、消火、様子見、野次馬、と様々な事情と共に人々を動き出す。
その流れにそれとなく逆らいながら、その男たちは蔵へと迫ってきた。途端に近くで蔵番をしていた柴犬が吼えるが、この騒ぎで他の犬たちも騒いでる。大事無かろうと無視して蔵に近付いた。
周囲を注意深く取り囲みながら、彼らは蔵の扉を開けた。
途端、延びてきた河伯の槍に、開けた当人は串刺しになる。
「忘れモン取りに来たのか? あぁ!? 火事は陽動と証拠隠滅兼ねたのかもだが、お生憎様だな!」
槍を引き抜き、その場にいた者たちを睨みつけるケント。数は多い。ざっと見て二桁集まっていた。
「くっ!」
賊は顔を顰めて腰の刀を引き抜く。
その刃が構えられる前に、蔵の暗がりから黒い塊が飛び出す。ケントの横を通り抜けると、前方にいた男一人にあっという間に斬りつけた。
そは刹那の技。素早く引き抜かれた小太刀は、男の身を掠めて刻む。掬い上げられるように刻まれた一閃からは、夜にも確かなほどの血を吹き上げ、相手は血を吐き出す。
その様を見ながらも、ウルク(eb5006)はただ無言で構える。黒装束に墨まで塗った姿は暗がりに立つとそのまま消えてしまいそうだ。
「貴様ら!!」
「おとなしく武器を置いて此方の指示に従うんだねぃ。歯向かうのなら‥‥」
容赦はしない。後方に回り込み、仏剣・不動明王で牽制する孤丈が告げかけ。しかし、男は振り替えるや刀を振るう。
「何をぐずぐずしている!! 新手が来る前に荷を運び出せ!」
「させるか!!」
刀を持った男たちと冒険者が交戦する中、残りの者が倒れた仲間にもかまわず荷物を運び出す。
川に何時の間にか舟が。それに運び込むつもりだったようだが、その前に乗ってた船頭が川へと蹴り落とされる。
「長州も新撰組も俺には関係ないが。住む地には愛着あるし、そこに乱を起こすつもりなら見過ごせないな」
濡れた髪を掻き揚げ、飛が船上から睨みを入れる。そのまま岸に移ると舟を蹴り流す。
「かまわん、そこらの舟で運べ!」
即座に指示を出し、荷運び用の小舟を盗る。
「逃がすか!!」
追いかける飛に、殿の一人が斬りかかる。その一撃を急所を避けて受けると同時、相手に殴りかかった。
「構うな! 行け!!」
よろめく男はそれでも先を急がせる。心配して足を止めた荷運びたちだが、その一人が突然息を漏らして倒れた。その後ろでは、素手を晒して瞳が立っていた。蛇毒手だ。
「遅クナリマシタ。人ガ多イノデ応援ヲ呼バセテモライマシタヨ。デ、一人倒レタノデ後ハイイデスネ」
瞬き一つせず告げると、後は容赦無く拳を入れる。
その向こうでは駆けつけた新撰組隊士たちが冒険者たちに混じり、襲撃者たちの捕縛にかかっていた。
武器や油を手に逃げ切った者、叶わぬと手ぶらで逃げた者、捕まったが自害をした者などもいたが、それでも少なくない人数を捕縛できた。店の方も、消火が早くて壁の一部を焦がしただけに終わる。
「よしよし。お前も無事でよかったねぃ」
番犬に置いていた愛犬のねこかぶり丸を撫でる孤丈。
「所詮、久坂の部下はこの程度‥‥。高杉様とは違うか」
龍影がわざと捕らえた奴らを冷徹に蹴りつけ、吐き捨てる。
「知らねぇよ。俺たちは荷を盗むよう雇われただけで」
「ほほう。あれだけ統制取れて腕も立つのに雇われただけとはねぇ」
嘘を察してウルクが告げる。見抜かれた方はさっと顔色を変えたが、後は鼻で笑うだけ。
仕事中は、終始無言に徹したウルクも別にそういう性なのではなく。
「無言での行動って相手に抑圧をかけるからな。腕の劣る人間が偉そうに名乗りを上げたら、集中攻撃受けて穴が開く。いやはや、皆いい腕だ」
と感心しきりした後は、いたって普通に会話している。
「下見の際に、ここ覗いた知人の言うには。もし事を起こすなら少なくない人数が動くだろうって話だ。それと、今回の性急な襲撃からして、向こうも焦っている。その割りにあっさり引いた所を見ると」
「別に無理に奪う必要はなく、他に溜め込んでいる可能性があるって事だねぃ」
がっくりと孤丈が肩を落とす。
「それでね。店を探し回ってたら、こんな物を見つけたの」
困惑しきりに蘭華がそれを差し出す。箪笥の裏にあったそれは、隠したというより何かの弾みで落ちて忘れられた物のようだった。
長州藩邸からの手紙。流暢な達筆と独特の言い回しを要約すると、いつも商品をありがとう、大切に使うよ、という単なる礼状だった。実際、藩邸にも商品を卸していたのだから、含み無しと言われたらそれで仕舞いだが。
「問題は、ここでございまする」
――我らが神皇さまの御世つつがなきを願って
龍影が中の一文を指す。
「安祥神皇さまを暗君と告げる一方でこの一文。ただの社交辞令なのか、それともこれを書いた藩士は神皇さまをお慕いしているのか」
首を傾げる彼に、周囲は深々と息を吐く。とにかくひたすら面倒が起こりそうな予感だけはあった。