はにわがやってくる

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:12月09日〜12月14日

リプレイ公開日:2006年12月17日

●オープニング

 ジャパンはその昔、大小さまざまな国が入り乱れていた。時に争い、時に和平を結びながら、その国々は土地土地を治めていた。
 国を治めた人物はその偉大さを示す為に、しばしば墓にその富や知識を共に埋める事がある。古い知識の中には、今は失われし貴重な資料や技術が隠されている。それでなくても、当時を知る為の貴重な研究材料となる。

 その学者も、失われてしまった歴史を求め、とある墓を調査していた。
 その墓は、年代こそ古いがそんなに大きいものでない。おそらくこの周辺を支配していた権力者のさらに傍流ぐらいではと思われる。
「しかし、こういう所にこそ、貴重な資料が埋まってたりするのだ!」
「はいです!」
 顔を泥だらけにして拳を握っちゃうのは、遺跡を調べる事に生きがいを見出しているからに相違無い。学者は結構な歳なのだが、土を掘ったりする為かなかなかの体躯。隣では若い助手くんが素直に感動した目を向けているが、その間にもがしがし土を掘り続けている。
 祀る者無く、長い年月で土砂に埋もれていたそこを、古臭い文献を頼りに地形を調べて、ようやく土に埋もれた入り口を見つけたのだ。気は逸るというもの。
 やがて、その情熱の前に全ての土が取り除かれ、入り口が顔を出す。石で組まれた羨道を進んでいくと、やがては玄室に行き当たった。外と中をさえぎる重い石の扉が学者達の前に立ちはだかる。
「何か動いている気配は?」
「無いです。アンデッドの気配も無いです」
 墓を暴く以上、その対処は心得ている。学者の言葉に、助手はあちこちごそごそ探りながら神妙に頷く。
「よし、では動かすぞ」
 ぐぐっと力を込めて、揃って重いその扉を開けた。真っ暗い部屋の中、数百年ぶりに新鮮な外の風が入り込む。
 高揚する気持ちを抑えて、学者は松明を掲げる。明るく照らされたその部屋にあったのは一つの石室と――おびただしい数の埴輪!!
「ま、まさか」
 学者が驚愕の声を上げる。助手の顔も引き攣らせ、ただそれらを見つめる。
 嫌な予感的中。
 埴輪たちはごと、ごと、と小さく小刻みを始めた。
 かと思うや、いきなり一斉に走り出した。一つしかない出口に向かって。
「「うわああああああーーーっっ!!」」
 避ける事叶わず。学者と助手は大量の埴輪に踏まれ、その叫びは土煙の中に消えた。

「ひ、酷い目にあった」
 あちこち踏まれてあざだらけになりながら、学者は身を起こす。
 昔の秘密に危険は付きもの。埴輪も勿論典型的な仕掛けの一つ。死した後もその人に仕え、盗掘などに備える勇ましき兵士たち‥‥のはずなのだが。
「でも、先生どうするんです? あの埴輪たち行っちゃいましたよ」
 顔の汚れを拭きながら、呆然と助手は埴輪たちが消えた方を見遣る。
 そう、埴輪は行ってしまった。
 見晴らしのいい冬の草原に、埴輪たちの茶色い行進が見える。
 壁を乗り越え、邪魔は自ら避け、障害は取り除き、穴に落ちてもけなげに登り、行く手を阻む川の中をざぶざぶ渡りながら、ただひたすらに走り続けている。
 警備であるなら、墓からああも離れては意味が無い。そもそも学者たちも踏まれただけで全然無事。
 何らかの誤作動か、あるいはそもそもそういう目的だったのか。よく分からないが、ひとまずは助かった。‥‥が、それはそれでかなりまずいと気付いたのはその直後。
「あのまま走り続けたら、京都の街中に突っ込んで横断しちゃいますよ。あんなのが走り回ったら、皆さん大混乱で僕ら怒られますよ」
 ただでさえ、乱の直後でピリピリしている。ちょっとした騒動でも人々の許容範囲を超える可能性は十分あった。
「うむ、それにわしの計算が正しければ、あの方向だと御所直撃だな。それだと怒られるどころか、おそらくこれだ。間違いなくこれだ」
 ちょんと、首を斬る真似をする学者。
「どーーすんですかーーーっ!!」
 一気に青褪める助手に、学者は渋い顔で頭を抑える。
「仕方ない。あれも貴重な古き資料だが、命には代えられん。馬ならあれより先に京に辿りつけるだろう。きみ、冒険者ギルドに連絡を取って、あれをどうにかするよう依頼してきてくれたまえ。止め方が分からん以上、破壊するしかないだろうがな」
 ふぅっと寂しげに肩を落とす学者。気を落とすなと励ますのもそこそこ、助手は馬を走らせた。

●今回の参加者

 ea8203 紅峠 美鹿(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3418 天内 加奈(28歳・♀・陰陽師・パラ・ジャパン)
 eb5751 六条 桜華(39歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb6967 トウカ・アルブレヒト(26歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb9201 鳳 爛火(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb9226 リスティア・レノン(23歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb9533 賀茂 魅羽(27歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb9572 間宮 美香(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

五百蔵 蛍夜(ea3799)/ 御神楽 澄華(ea6526)/ ミラ・ダイモス(eb2064

●リプレイ本文

 遺跡から駆け出した埴輪の群れ。それは真っ直ぐに(何故か)御所を目指す。
 その数ざっと二十体。子供ほどしか無い体長が一生懸命に脇目も振らずに足並み揃えて駆けて来る姿は滑稽にも見えるし、何が起ころうとも変わらぬのっぺりとした簡素な表情が迫るのは不気味にも見えた。
 いずれにせよ、そう怖い相手ではない。数が多いのは厄介だが、こちらとて一人ではない。都合で七名だけが集まったが、それでも対処するには十分だろう。
 が、
「何というか、迷惑な話だね。よりにもよってこんな時期に来なくても」
 ねぇ? と六条桜華(eb5751)が声をかけるも、興味ないとばかりに愛馬・炎蹄は耳を動かす。
 五条の宮を旗頭にした長州勢の反乱。京の都を大いに騒がせたその一件のせいで、いまだ京は緊張が抜け切らない。そこに事故とはいえ、武装した兵っぽいのが入り込めばたちまち大騒ぎになるに違いない。
「そんな騒ぎになる前に、スパッと片付けてしまわないとね!」
 手綱を捌くと、桜華は炎蹄を走らせる。向かってくる埴輪たちの真正面からは当たらず、少し迂回すると側面から突っ込んだ。
 ただ真っ直ぐに走っていた埴輪たちの群れの中へ、馬を乗り込ませる。さすが戦闘馬だけあって、炎蹄は物怖じせずに桜華の指示の元、埴輪たちを蹴り倒す。
 それまでただ走っていた埴輪たちだが、さすがに攻撃されては黙っていない。手にした剣――といっても刃が無くむしろ棍棒だが――を振り上げると、わらわらと桜華たちに向かってくる。
「炎蹄! 離脱するよ!!」
 だが、その前に桜華は炎蹄の首を巡らすとその場から走り去っていた。ほんの少し走ると、馬を宥めて振り返る。
 開いた距離はほんの少々。埴輪たちでもすぐに追いついてこれるのは確か。
 だが、埴輪たちはしばらく蜂の巣をつついたように騒いでいたが、やがて敵は無いと判断したか、また京に向かって走り出す。
「なる程、突付けばほんのしばらくだけど止まってくれるようだね」
 その様を見て、満足げに桜華は笑む。ならば足止めするのもたやすかろう。棍棒を振るってくる動作が意外に的確で怪我の危険はあるが、だからといって見過ごす訳にもいかない。
「ちょっと大変だけど。がんばれるよね」
 首筋を叩くと炎蹄が鼻息荒く土を掻く。その様に頷くと、桜華は埴輪たちを睨みつけ馬を走らせた。

「という事で、六条さんが埴輪たちを足止めしてくれていますが、そう長々と任せてもおけません。罠を作るなら早急に、しかも埴輪たちが来るまでに仕上げなくては。とすると、埴輪の移動速度や仕掛ける時間を含めるとそろそろ始めないと。‥‥距離的に京寄りになってしまうのは仕方ないですか」
「じゃあ、近くにいい場所がありますよ。‥‥埴輪の進路上となると、思ったより限定されてしまうね」
 考え込む間宮美香(eb9572)に、鳳爛火(eb9201)は愛馬・コクテンに騎乗したまま、その場所を示して先導する。いつ埴輪が来るかを思えば、ぐずぐずともしてられない。
 進路から逸れ過ぎると、埴輪たちが嵌らず横を通過してしまう恐れがある。美香の危惧通り、時間との制約も合わせてしまうと場所はどうしても限定されてしまう。
「うーん。日の神様にお伺いしたけど、今一つよく分からないですねぇ。とりあえず京の都は平常を保っているような場面は見えましたけど」
 天内加奈(eb3418)が天を眺める。フォーノリッヂは未来を見せるが答えは大雑把で、しかも何時の未来なのかは分からない。処罰された後で平静を保ってる未来なのかも〜と考えると、いささかおっかない。
「落とし穴が間に合わないなら、転倒する様縄を張るだけですけどね。傷心の神皇様にこれ以上負担を掛けさせません」
 強い口調で美香が告げると、さっそくとばかりに穴を掘り出す。
「うっしゃ! いっちょやってやるか」
 自分の頬を張り手打ちして気合を入れると、紅峠美鹿(ea8203)も俄然張り切って穴掘りに勤しむ。
「埴輪は確か、それ程背が高くないとか。とすると深さはさほど必要は無いでしょう。その代わり、数がある事を思えば広く浅くで掘る方が良いですね。幸い友人に道具運びは手伝ってもらえましたので、複数あります。農具を借りてきてますので、馬のある方や体力のある方はこれで耕すのもいいでしょう」
「なる程。スコップで掘るよりも楽そうですね」
 トウカ・アルブレヒト(eb6967)が大型の農具を指し示すと、スコップ片手に爛火も頷く。
「ヤマト。大変ですがお願いしますよ」
 農家で教えられたとおりに器具をつけると、トウカが愛馬にそう言い含める。気の弱そうな目でトウカを見つめていた馬だが、やがて了承したと息を荒くすると、ゆっくり土を掻き出す。
 掘り出した土砂を運んだり、縄を張ったり。単純な仕掛けだが、意外にやる事があるし、加奈の手伝いも含めて手はあったものの、それでも重労働なのは否めなかった。
「穴を隠す為の木の葉を集めて来ましたわ。ここに纏めておきますね」
「あ。一般人が嵌らないように看板作っておかないと駄目ですね」
 リスティア・レノン(eb9226)が集めた木の葉を被せると、もうそこは元のままの地面にしか見えない。誤って人が落ちないように加奈が看板を周囲に作り立てかける。埴輪の頭は空っぽだろうが、一般人の識字率もそれ程高くないのを考慮して、絵でもこの先危険と示しておく。
「どうやら間にあったようですね。埴輪たちも問題なくこちらに向かって来てます」
 穴が完成させてから、コクテンに乗って偵察に出ていた爛火が戻ってくる。その隣にはやはり炎蹄に騎乗した桜華の姿もある。
「足止め優先したから、仕留めてはいないよ。少し手足が欠けたのは出したけどね」
「構わねぇよ。どの道全部叩き割ればいいんだろ。鬱憤晴らしには丁度いいぜ!!」
 報告する桜華に、美鹿は泥だらけの顔をぐいと拭って笑うと、槌を手にした。

「来ましたよ」
 埴輪たちがやってきたのはそれからしばらくしての事。もう一度爛火が様子見に行ってすぐに戻って来た。
 ただ前だけを向き、ひたすら真っ直ぐやってくる埴輪たち。どこかふらついて見えるのは桜華の邪魔が効いてるようだ。
 加奈の看板は案の定無視して、ずんずんこちらに迫ってくる。
「あら、可愛い。お持ち帰りしたいかも」
 一生懸命走って来る様に、リスティアは目を煌かせて頬を緩ませる。とはいえ、止めないと大変な事になるのは理解してる。残念そうに肩を落とすと、罠の後方に立って距離を測る。
「埴輪さん、ごめんなさい」
 合わせた手をそのまま印の形に組み、アイスブリザードを詠唱するリスティア。淡い青い光に包まれるや、その手から強烈な吹雪が埴輪たちへと吹き荒れる。
 岩肌の埴輪たちに吹雪は効果ないようだが、攻撃されたのは分かったようだ。大地を踏みしめる音も高らかにまっすぐに突進してきて、
 ズボリと何の問題も無く綺麗に落とし穴に嵌る。
「あら‥‥あらあらあら???」
 嵌った埴輪が体勢崩して倒れると後続で落ちた埴輪がその上に重なる。そのさらに上にまた別の埴輪が重なり、かろうじて避けた埴輪は別のこけていた埴輪を踏んづけてすっ転び‥‥。
 あっという間にえらい事になっている。予想以上の惨事に、リスティアはただただ目を丸くするばかり。
「それじゃ、もう少し転んでもらいましょうか!! この先には行かせられません!!」
 惨事を免れた埴輪たちに向かって、美香は即座に詠唱するとグラビティーキャノンを放つ。一直線に走る重力波はその射程上の埴輪たちの身を欠けさせ、幾つかを転ばせる。
「団子なこの事態。逃すのは勿体無いですよね」
 倒れた埴輪たちは、慌てて起き上がろうとしている。が、重なりすぎてどうにも動きが鈍い。その一纏まりな集団目掛けて、トウカがファイヤーボム。ど真ん中に火の玉が落ちると派手に爆発。細かな破片が飛び散って来て、冒険者たちの方が少しだけ慌てた。
 結構な埴輪がそれで身を砕いたが、それでもまだ止めるには至ってない。無くなった手足や顔から空ろな中身を見せつつも、ようやく体勢を持ち直し、邪魔者排除とばかりに冒険者たちへ襲い掛かる。
「一・撃・粉・砕!!!!」
 穴から這い出ようと足掻いていた埴輪にすかさず詰め寄ると、美鹿は両手に構えた槌を容赦無く振り下ろす! 重厚な鈍器の重さを十分に生かしたその攻撃はまさしく一撃粉砕。もろい音と共に破片を飛び散らせ、埴輪が壊れる。
「それじゃこっからはもぐら叩きならぬ埴輪叩きだね。はっはっはー! って、あいたっ!?」
 槌を担いで笑っていた美鹿だが、足に痛みを感じて後じさる。近寄って来たのを幸いとばかりに、埴輪たちが穴の中から剣を振り上げていた。しかも先端が欠けているのもあり、妙に刺さる。
「面倒だね。でも、負けないよ」
 爛火は、落とし穴を落ちなかった埴輪を中心に叩き割っていく。同じく武器は槌だが、バーニングソードで威力は強化してある。やはりその重さを生かして一撃を振り入れればすかさず欠片に変わる埴輪たち。
「非力の身ではありますが。お手伝いさせていただきます!!」
 手にした根性注入棒・参号(その実体はただの棍棒)をしっかと両手で握ると、迫る埴輪に振り下ろす。確かにあまり威力は無いが、美鹿と爛火が仕留めそこなった物の止めを刺すには十分だった。
「別に殲滅しなくても、御所直撃を避ければとりあえずは大丈夫じゃないでしょうか? 埴輪の向きを変えれば‥‥」
 詠唱は中止。右腕に構えた槌で討ち漏らした埴輪たちを叩きながら、美香はのんびりと首を傾げる。
「いや、どういう訳か。少々を向き変えた程度では御所の方に向き直ってしまうみたいで。それにどの方向に走り去られても、どこかの村を横断して迷惑掛けるだけだもの」
 怪訝そうにしながら桜華は埴輪一体と格闘。転んでいた埴輪に馬乗りになり、縄で縛り上げようとしていた。
 それからも美鹿と爛火が主に撃墜。脇に逸れた物は魔法で押し止め、討ち漏らしは数人で対処に当たりと動き回り。
 瞬く間に周囲はガラクタの山と化した。

「ありがとう。どうやらわしらの首は飛ばずに済んだようだ」
 討伐終了を告げに、遺跡のある場所に赴けば学者は鷹揚に告げる。その隣では魂の抜けたような表情で助手が座り込んでいた。
「しかも、あの埴輪を生け捕りに。素晴らしい、実に素晴らしい」
 桜華が奮闘して捕まえた埴輪は、縄で雁字搦めのままじたばたともがいている。その様に、学者はいたく感動して涙まで流していた。
「捕まえはしたけど、絶対に逃がしたりしないでよ?」
 あちこち打たれて痛む体をさすりながら、桜華はくれぐれもと念を押す。
「ふっふっふ。わしが研究材料を逃がすと思うかね?」
 にやりと自信ありげに笑う学者。すでに逃げた埴輪で大変になったじゃないかと言いたくもあったが、疲れていたので黙る。
「迷惑をかけたからね。つまらない物だがどうだろう」
「あら、これは動きませんね。少し残念ですわ」
 場にいた冒険者たちに手渡されたのは素焼きの埴輪。単なる置物でしかないそれに、少しだけ残念そうにしながらもリスティアは口元をほころばせる。

 それから遺跡を少し調査したりもしたが、埴輪暴走の原因はかくと掴めぬまま。作った術師がヘボだったとか、指令の与え間違いとか、実は政敵がその方角に住んでいたのではとか学者の仮説は留まる所を知らなかったが、確証は得られずじまい。
 俄然遺跡調査に張り切りだした学者に別れを告げて、冒険者たちは京の街中に戻る。そこでは妙な騒動も無く、普段と何も変わりない光景だけがただあった。