【キの巡り・番外】 赤子は場所を選ばず
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:12月18日〜12月23日
リプレイ公開日:2006年12月27日
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●オープニング
五条の宮を旗頭に、都に攻め入った長州勢。その目的は神皇を拉致し、象徴たる三種の神器を奪う事であったが、その目的から目を逸らす為に京の各所を襲撃した。
京都各地に及んだその攻撃から都を守らんとあらゆる組織が動いた。その中には勿論京都見廻組の姿もあった。
「でだな。乱が終わりましたで、はい、平和になりましたってもんかと言えば、そういうじゃないだろ? むしろ世の混乱にどうでもいい奴らが便乗して追いはぎとか子攫いとか強盗とか遣り出してむしろ大変なんだよ」
深刻そうに‥‥そのくせ、どこか言い訳がましく事情を説明するのは京都見廻組所属の占部季武。いや、実際にそれは言い訳でしかなかった。
「‥‥まぁ、そういう事情にかまけててだな。あの泣き赤子を逃がしちまったのは‥‥しょうがないと思わないか?」
恐る恐ると上目遣いで周囲を見つめる季武。ジャイアント種族の彼が縮こまっても、可愛くとも何とも無い。
数ヶ月前から、京都の北にある山々にて、土に埋もれた死体が見付かった。それも単なる死体遺棄では無く、腹の中に土が詰められるという明確な共通点がある事から季武はじめ冒険者たちが捜査していた。
その最中に、死体がみつかった山にて行動していたのが妖怪・泣き赤子。関係があるのかと、同行していた冒険者がアイスコフィンで生け捕りに成功。結局接点はなさそうだとがっかりしたものの、一応その後も見廻組で捜査資料の一つとして保管はしていた。
そこに五条の宮の再乱が起きた。多くの者が防衛に手を裂かれ、その後も混乱を鎮めるべく東西奔走する事態に陥ったのだ。
で。
アイスコフィンは対象物の動きを止めるが、如何せん氷なので溶けもする。冬の最中で溶けにくくはなっているが、むしろそれが油断となって見張りが疎かになったらしい。
ふと気付けば封印は解かれ、泣き赤子はどこかに逃亡。
泣き赤子とは赤子の姿をしており、炉辺で泣き喚いて近付いてきた者を地中深くに引きずり込む妖怪である。そんな者が京都の街中に出れば、どんな騒ぎになるか。しかもその出所が京都見廻組となれば、組織の名誉に関わるし、勿論それを持ち込んだ季武にも何らかの咎めがあって然るべき。下手すればクビの可能性も。
せめて被害が出ない内にと、その他の仕事そっちのけで慌てて行方を捜した所、どうにかその足取りを掴んだ。
「幸いというか、犠牲者は出ていない。が、被害者はいる。‥‥といっても泣き赤子の仕業というより‥‥何というか、厄介になっているんだなー」
季武がぼやく。
赤子の行方は洛外にある古い無人の寺。昼夜問わず、境内からは赤子の泣き声が聞こえるとか。
乱の後だ。家を戦火に焼かれて食えなくなったものが口減らしに子供を捨てるのは不思議でもない。とはいえ、子供を見捨てるのは忍びないと拾う者だっている。泣いている赤子に近付こうと善良な人があれた境内に足を踏み入れると。
――私の子供を連れて行かないで
赤子の傍に、透けた女の姿が浮かび上がる。鬼のような形相で睨まれ腰を抜かせば、どこからともなく骸骨の侍が現れ、善良な人に襲い掛かると云う。
「よく分からんが、幽霊女は泣き赤子を自分の子供と思って離さないらしい。その彼女を守るように骸骨侍も現れるってさ」
女の身元も一応調べてみたが、これと分かる者は判明しなかった。とっくの昔に朽ち果てた彼女が、何かのきっかけで現れたのかもしれない。所詮は推測でしかないが。
「幽霊たちがいるから赤子には近づけない。女は赤子を離そうとしないから、泣き赤子も境内からは出て行けずにいる。何で、赤子による犠牲者はなし。迂闊に近付いた奴が死霊侍に追い払われたという話はあるが、こっちも一応、犠牲は無い。‥‥ある意味、運がよかったてなもんだが、だからといってそこをそのまま放置しておく訳にはいかんよなぁ」
泣き赤子が何の拍子で逃げ出すかは分からない。また死人たちの方も何の弾みで凶暴化して周辺の人々を襲うようになるか分からない。
「例の事件も今の所なりを潜めているしな。さすがに乱の後でいろんな奴らが殺気立ってあちこちに目を光らせてる。その最中では事が及びにくいらしい。
いい機会だから‥‥というのも妙だが。今の内に泣き赤子と死人たちの退治を行おうかと思う。今ならまだ見廻組から逃げ出した赤子だと気づかれてないようだし、秘密裏に対処出来るな」
ほっとしたように告げる季武だが。最後の一言で、周囲からの目がきつくなったのに気付き、気まずそうに目を泳がせた。
●リプレイ本文
寺に現れる女の怨霊。それを守るように現れる死霊侍。境内に取り残された赤子を救いたくても救えず、周囲はただその心配をするのみ。
「とはいえ、その赤子も妖怪なんですよね。あの時の泣き赤子。ややこしい事態になりました」
状況を整理して、神木祥風(eb1630)は軽く嘆息付く。その泣き赤子も、元は京都見廻組が捕まえていたモノ。戦の混乱に紛れて脱走した事を世間にばれないよう、今回動かねばならないと云う。
「何だか複雑に絡み合ってるようですが、頑張るしかないでしょう」
静かに諭す宿奈芳純(eb5475)に、一同、頷く。が、その胸中は各人複雑な心境を抱えている。
『怨霊とはレイスの事ね。死霊侍は西洋では聞かないけど、スカルウォーリアーが近いのかしら。けど、泣き赤子というのはどういうモンスターなの?』
「と、言っている」
アデル・サイアード(eb9674)が首を傾げる。彼女は日本語が上手く無いので、エルネスト・ナルセス(ea6004)が間に入って通訳。
「泣き赤子は確かに独特の妖怪ですね。赤ちゃんみたいな外見をしています。道端で泣いて、通りすがりの人が不憫に思って抱きかかえた途端に地面に引き釣り込んでしまうんですよ」
マッパ・ムンディを開きながら、和泉みなも(eb3834)は妖怪たちについて述べる。元々モンスターについての知識は結構ある彼女だし、世界の伝承を集めたその書物がその知識をさらに補強する。
「ちなみに、怨霊は実体が無いので通常武器では素通りしてしまいます。死霊侍は実体がありますが、骨しかないのでスカスカ。刀で突いても骨の隙間に入るだけと注意が必要です」
注意点を述べるとみなもは書を閉じ、他に質問はと尋ねるように皆を見遣った。
「赤子の姿で人の憐憫を誘って決心を鈍らせる。嫌な妖怪だな」
「か弱そうな姿で人々を誘い込む。‥‥許せませんね、一刻も早く退治すべきです」
顔を顰めるエルネストに並び、拍手阿義流(eb1795)もまた不快さを露にしている。
「赤子は確か北の変死体遺棄に関わってたそうだな。直接の関係は無いが、被害は出してるのは事実だろう。‥‥私の親戚が関わってたが、今回の事態を聞くや俄かに胃痛が酷くなったようでな。うん、占部君は関係ないぞ、多分」
「そうか。よく分からんがお大事にな」
複雑な表情で見上げるエルネストを、何の問題も無くお見舞い申して肩を叩く季武。
「そうですね。泣き赤子はすでに北の山中で幾人もの人を殺めています。この機に退治するのは異論ありません。‥‥しかし、その女性の霊は何か曰くありげですね」
赤子退治に強く同意しながら、祥風は霊たちには少し違った感情を見せる。それは、飛火野裕馬(eb4891)も似たようなもので。どうして女が霊と化したのか、気になる所だった。
「怨霊を守るように現れる死霊侍もまた然り。何か裏がありそうやけど、手がかりがほんまに無いんやなァ。背景が見えそうで見えへん」
「見廻組でもいろいろ手を尽くしたんだがな。寺自体、無人で放っとかれてからかなりの年数が経って居る様だし」
色々と手を尽くしてみたが、なかなか調べが進まない。その事には京都見廻組の占部季武も同意して、裕馬と二人合わせて肩を落とす。
「とにかく霊言うても、女性何やし。あまりむごい事はしたないわな」
女性に優しい裕馬としては、死んでいる相手とはいえやはり酷い目には合わせたくはない。
「とはいえ、放置する訳にも参りません。各人準備をして、仕事といたしましょうか。‥‥そして、占部さん。終わった後で話があるので忘れないように」
「? 今じゃダメなのか」
不思議そうに首を傾げる季武に、海上飛沫(ea6356)は「はい」ときっぱり笑顔で告げる。‥‥その実、目がさっぱり笑っていないのだが、その微妙な雰囲気を季武はまるっきり解してなかった。
件の寺は、話違わず朽ち果てており、囲む塀もそこかしこが崩れていた。
近所の人には泣く赤子の事も亡者たちの話も広まっており、懸念はされていたが、しかし力を持たない身ではどうしようもない。
裕馬が女性について何か知らないか聞きまわったり、祥風が亡者払いをするので誰も近付かないよう触れて回ると、頼りにするようなすがる目で見つめられる。
「罪悪感を感じましたよ。全く」
触れて回るだけで疲れた表情を見せる祥風。亡者払いは嘘ではないが、赤子を助けてあげてと頼まれると、多少良心が咎めるものを感じる。真実を告げる訳にはいかず、言葉を濁すしかない。
「ごくろうさん。さて、ここらで本腰だな」
さすがにすまなそうに頭を下げた季武だが、すぐに表情を変えて厳しい眼差しを境内に向ける。荒れ果てた庭は枯れ木が並び。これが夏なら草が生い茂り、なお一層酷い有様だっただろう。
そうして目に見える範囲に不審な点は無い。霊たちの姿も今はない。
慎重に足を踏み入れると、やがて人の気配に気付いたか赤子の泣く声が響いた。酷く苦しげなその声は、聞いていて胸を打つ。
「分かっているのだが‥‥やっぱり嫌なものだな」
呟くエルネストに、一同も似たような表情を作っている。
声に誘われるまま、警戒を解かずに歩を進める。広いお堂の中、ぽつんと置かれた赤子。さらにその傍に近寄ろうとした時。
――その子を連れて行かないで
どこからとも無く、女の声が響いた。はっとして立ち止まると、赤子との間に何時の間にやら女の姿があった。
――連れて行かないで
ぼんやりと影のように浮き出る女は、しかし、強い口調ではっきりと告げる。同時に、枯れ木の陰や床の下から死霊侍たちが立ち上がっていた。
「やれやれ、昼間には見たくない景色だな」
「サンレーザーは昼間しか使えませんからね。これでご勘弁を」
その虚ろな眼差しをげんなりと見つめ返す季武に、口早に告げると阿義流は持っていた五行星符呪に火をつける。昼間というのに行灯を灯していたのはその為。素早い所作で祈りを捧げると、張られた結界の作用で近付こうとしていた骸骨たちの動きが途端鈍った。
「敵の数多数。ならば、ちまちまやってる暇はないか?」
そこにエルネストがアイスブリザードを唱える。広がる吹雪に襤褸い寺がさらに崩れるも、骸骨たちにはさほどの効果は見えない。その結果にエルネストは顔を顰める。
「どうやら、威力優先で専門的に唱える必要があるか?」
古臭い刀を抜いてくる死霊侍たちに、エルネストはまた詠唱を開始。もっとも、専門となるとまだ発動率は低い。魔力だけを消費する可能性も高かった。
『なかなか上手くいかないものね』
アデルの放つブラックホーリーも然り。後方での安全の確保はどうにかなれど、それでも専門的に魔法を使わねばならないようだ。
「と言う事は、こちらも高速詠唱でウォーターボムはつらいでしょうか。まぁ、これの方が効果もありますし、後は隙を作って襲われない様気をつければどうにか‥‥!」
考えながらも、飛沫は手にしたアイスチャクラを投げる。氷の円盤が孤を描いて宙を飛べば、狙い違わず、死霊侍の黄ばんだ骨がぱきりと折れる。
「ま、後ろに敵近付けささんよう、俺ら頑張るし。援護よろしく頼んだで〜。って言いたいんやけど! 何か今回前衛少ないでっ。分かってたし覚悟もしてたけど、キっツイわ〜〜」
体勢崩した一角に裕馬が飛び込むと、日本刀を引き抜き斬りかかる。季武からオーラパワーを付与された刃を振るえば、あっけなく骨が吹き飛ぶ。傷の具合が今一つ分かりにくい姿だが、それでもかなりの効果を上げているのは確かだった。
「いいじゃないか。やりたい放題だろ! それに、ずいぶんと楽をさせてもらってるしな」
季武もまた負けじと刀を振るう。
勿論、死霊侍たちもやられるばかりではない。手にした刀で、執拗に冒険者たちに攻撃を仕掛けてきている。が、その動きはどうにも鈍い。
阿義流の使った五行星符呪の結界に加え、芳純が掻き鳴らす鳴弦の弓もまた死霊たちの動きを押し留めている。これら二つの効果を前に、さしもの死霊たちも本来の力を発揮できずにいる。祥風は事前にレジストデビルを使って防御を高めていたのだが、それもまた杞憂に終わるかもしれない勢いである。
「死人の方は思う以上に楽にいけそうですが‥‥。さて、赤子の方はどうでしょう?」
みなもの放つアイスチャクラも、季武がオーラパワーをかけて威力を高めてある。急所となりそうな場所に狙いつけて放てば、若干命中が甘くなるもののそれでも死人たちはほとんど避けることは出来ず、腕の付け根や腰の骨などを砕かれる。
前衛たちを巻き込まぬよう、エルネストもまたアイスブリザードをかけ続けている。発動は低いがゼロではない。吹き荒れる吹雪は一度に複数を巻き込み、その中、骨たちがからりと崩れ落ちて起き上がれないのも出てくる。
そうして死霊たちは数を減じているが、もう一つの標的である赤子を見失うのでは意味が無い。
怨霊や死霊侍が出てきた事が不満か、泣きやんで不機嫌に唸っていた赤子だが、死霊たちの注意が冒険者に向いているのを悟り、密かに逃げようと這い出していた。
「ここで逃げられる訳にはいきませんね」
死霊たちの様子を見た後、阿義流は思い切って赤子の方へと間合いを詰める。シャドウバインディングはそれなりに射程はあるが、手にした行灯で影を作ろうと思えばそれなりの距離を詰める必要はある。ストーンを試すならなおさらだ。
「あの女性の姿が先ほどから見えません。気をつけて下さい」
弦を掻き鳴らしていた芳純が周囲に目を走らせる。倒れているのは骸骨ばかりで、表に出てくるのも彼らぐらいだった。
その注意を聞き届ける間もなく、阿義流の首にひやりとした感触が巻きつく。
――その子に‥‥近付かないで!!
気付けばすぐ間近に女の顔があった。文字通り透き通った手が触れた所から、力が失われていく。
「くっ」
持っていた清めの塩を握り締めると、阿義流は女に向かって投げつける。小さな悲鳴を上げて飛び退いた彼女に、続いて祥風がピュアリファイをかけた。
浄化の魔法をかけられ、女の姿はさらに奇妙に揺らぎ薄れる。
「その子は貴女の子ではありません。子供に会いたいなら、私が導いて差し上げます」
悲鳴のような懇願のような声を上げながら、女はただ子を呼ぶ。だが、泣き赤子はそれに答える事も無く、むしろ迷惑そうに逃げるばかり。
そんな女に憐憫を感じながら、ここは居るべき所ではないと、唱える声も武器を振るう腕も手を抜く事は無かった。
死霊たちが片付いたのはそれから程なく。
泣き赤子についてはいささか手を焼きはしたが、それでも阿義流のストーンでかろうじて封じる事が出来た。
「アースダイブするとはいえ、それは特殊能力のようですから、地魔法を使う相手とはまた違うようですね。とはいえ、抵抗の高い相手。上手くストーンがかかったのは幸運でした」
場を清らかな聖水で清めながら、ほっとしたように阿義流が告げる。フレイムエリベイションで士気を高めていたので、経巻の使用自体はさほど焦りはなかった。が、発動しても無効化されたりと油断ならない。
その足元では石化した赤子が置かれている。氷付けになったり石になったり。考えれば哀れにも思うが、その影に犠牲者が幾人いるのかを思えば同情の余地もない。
「周辺の皆様への説明も終わりました。亡者たちは退治しましたが、捨て子は間に合わず死人化していたと言ってありますので、そのようにお願いしますね」
近隣に事態の終了と安全を伝えて回っていたエルネストが、入念に釘を刺す。
話を聞いた近所の人たちはがっかりしていたものの、思えば幼子一人何日も死者の群れの中で生きていけるものでもない。エルネストの説明を至極簡単に受け入れた。
「こちらの赤子については依頼人である貴殿に任せます。後はよしなに」
「おう、手間をかけさせて、本当にすまなかったな」
よく出来た石像を撫でながら告げる芳純に、神妙な顔つきで頭を下げる季武。
「そういや、何か話あるって言ってたけど。何だったんだ、一体?」
そこにふと飛沫の姿を目にして首を傾げる季武。その態度に飛沫の表情がむっとした後、小さく息を吐いた。
「何だったんだ? じゃないでしょう。言いたい事は決まってます。――京の治安を預かる見廻組が何をしているのですかぁぁぁ!!!!」
先の戦闘でも見せなかったような殺気を宿して、飛沫は季武を真正面から睨みつける。その迫力。思わず季武は数歩引き下がる。
「しっ! 待て、声が大きい!!」
「ほー。では小さく言わせてもらいましょうか。人が苦労して封じた赤子を、忙しいからと簡単に‥‥しかも街中で逃がしてしまうとはどういう了見ですか」
「い、いや! それはだから!!」
どこの誰が訪れるか分からず。慌てる季武に飛沫も考慮して声を潜めるが、その分余計に怨が篭る。周囲の寒風よりさらに冷ややかな空気が立ち込め、見ているだけでも背筋が寒い。
「‥‥‥‥‥‥後であいつに胃薬買って行ってやるか」
その光景を眺めながら、エルネストは胃痛で寝る羽目になった親戚への土産を考える。とはいえ、それはもう少し後の話で。
諸悪の根源とも云える季武への説教は彼女に任せ、他の一同はその場から離れる。
向かう先は寺の裏。寺と同じく荒れた墓場の一角に、死霊侍たちは再び葬られていた。
「寺の中も何か残ってないか調べたけど、やっぱり手がかり見付からへんなぁ。どこの誰や分からんのが寂しいけど、ちゃんと成仏して下さい」
供えた墓石は全部で十二。死霊侍たちに加え、女の分と、後赤子の分も一応造ってあった。埋める物が無いので形だけ。それでも祥風の読経を聞きながら、気持ちだけは本物を供える。
あの世で、死者たちが静かに暮らすのを祈りながら。