お正月を祝おう

■ショートシナリオ&
コミックリプレイ


担当:からた狐

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:7人

サポート参加人数:2人

冒険期間:01月16日〜01月21日

リプレイ公開日:2007年01月24日

●オープニング

 あけましておめでとうございます。
 昨年はいろいろと‥‥本当にいろいろとあったものの、ひとまずは無事に年を越せて新年めでたく。
「というのに‥‥、あんたら一体何やってんのよ」
「寝てる」
「餅ついてる」
 そんな陰陽師・小町の屋敷にて。仏頂面で室内の光景を見つめる小町に、面倒臭そうに答えるのは異国の青年と元気に杵を振り上げる子供。
 どちらも人に見えるが、人でなく。異国の青年はワーリンクスという山猫の獣人。名前は不明で、ただ猫とだけ呼ばれる。
 子供の方も化け兎が人化けした姿。こちらはうさと呼ばれる。
 揃っても揃って要は化け物・妖怪なのである。
 いろいろあって小町宅に居候中の身であるが、とりたてて何か悪さをするようでもない。それはいいのだが、猫は本当に何もせずにごろごとしているだけだし、うさはただただ一つの事だけに情熱を注いで動いている。
 彼らの行動に正月らしさは何も無い。
「昨年いろいろあって、大変な思いで新年を迎えたというのにっ、ずっと寝てばっかで! ちょっとは正月を楽しもうって気になってもいいじゃないの?」
「新年はめでたい!! 正月は大事!! だから、兎は餅をつくっ!!!」
「いやあの。餅はもういいというか。お正月はまず仕事もしないで休むのが基本だから‥‥」
 つい先日、うさが搗きに搗いた餅をどうにか食べてもらって、さらには寺田屋にも交渉をもてたというのに。はりきり兎はまだまだ餅創作の手を緩めない。すでに前に追い越す勢いで屋敷を餅が埋めようとしていた。
「かったりいい〜。日本の正月はのんびり過ごせと寝正月が基本だろー」
「あんたはのんびりしすぎでしょーーがっ!!」
 ごろごろと横になったままの猫に、小町、手近な灯台を投げて突っ込みを入れる。がんと大きな音がして猫が抗議するも、小町は聞く耳持たない。
「まったくどこでそういう言葉を覚えて来るんだか。猫はこたつで丸くなるっていうけど‥‥」
「じゃ、これで正解だろ」
「普段、猫扱いすると怒るのにこういう時だけ猫になるんじゃないのっ!! いいから、初詣ぐらい行きましょうよ! どうせまだ行って無いでしょ」
「ってか、外寒いしー。いいじゃん別に。化け物にありがたがられても正月の神さんは喜ばんさ」
「あーーっ、ったく!! 普段はやたら外に出たがる癖に、何でいきなり出不精になってんのよ」
「餅のせいか、まだ胃もたれの気分。何か調子悪いんだわ」
 苦言を述べる小町に対し、馬耳東風とばかりに猫は暖の傍で横になる。
「寒さなんて何のその! 餅がうさを待ってるの〜」
「だからそっちは! お願い、もうちょっとその情熱を他に回して」
 うさは寒風吹き荒れる庭で餅を搗き、小町のお願いも風に吹かれてどこへやら。

 そして、小町は冒険者ギルドに赴く。
「猫はこんな調子で見ていてダレルし、うさもちょっと正月の雰囲気じゃないのよね。なんで、正月を祝ってくれる人を募集。正しい正月の過ごし方てもんを示してちょうだいよ」
 ばんっと卓を叩いて、係員に詰め寄る小町。
「‥‥というか、何かお前が一番燃えてる気がするんだが?」
「だって〜〜〜。寮の仕事が押した挙句にお父様の挨拶回りに駆りだされて三が日はいつもより忙しかったんだもん〜! ようやくのんびり休めると思ったら正月終わりかけで、世間はそろそろ通常業務に戻りだしてるしっ。完全に日常に戻る前に何とか今年の正月を楽しもうと思ったら、お供があれでどないせいっちゅーのって叫びたい気分って分からないっ!?」
 断言するが、目が据わってる。何か本当に大変だったようで。
 ま、依頼としては問題ない。受けるかどうかは冒険者次第で、ギルドが心配する事でもない。
 そんな事を暢気に考えながら、係員は正月祝ってくれる人募集の貼り紙作りを始めた。

●今回の参加者

 ea0696 枡 楓(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea1956 ニキ・ラージャンヌ(28歳・♂・僧侶・人間・インドゥーラ国)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8384 井伊 貴政(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8904 藍 月花(26歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb0334 太 丹(30歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 eb2041 須美 幸穂(28歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ヴァージニア・レヴィン(ea2765)/ マクシミリアン・リーマス(eb0311

●リプレイ本文

 あけましておめでとう。
 やはり一年の始まりはめでたいもので、多少遅れはしても晴れやかにご挨拶をしたいもの。
「‥‥で。その新年最初の挨拶がいきなりこれとはどういう事だ?」
「いつものご挨拶をしてみただけですが、それが何か?」
 部屋で寝ていた異国の青年。名前は分からずただ猫と呼ばれる。彼の顔面に飛び乗って優雅に毛づくろいをしているのは、須美幸穂(eb2041)の愛猫・湊。踏まれたまま声を絞りだす猫に、振袖姿で華麗に正装した幸穂は当然だとあっさりのたまう。
「それよりも、初詣に参りましょう。ささ、早くこちらに着替えて」
「ほら、逃げない。ったく。暇な人、手伝ってー」
「わーっ、馬鹿やめろーーっ!!」
 幸穂が用意してきた紋付袴を面倒臭そうに眺める猫。そのまま逃亡にかかったのを、保護責任者の小町が見逃さず。手隙の者総出で押さえつけると、無理やり着替えさせる。
「む? どっか行くのか」
 庭で一生懸命餅をついていたのは化け兎・うさ。と言っても、今は子供姿で兎らしさは無い。その隣では、さっそくとばかりに餅に喰らいついている楠木麻(ea8087)がいる。
「初詣に行くんどす。うささんもお月様に新年の御挨拶をしに、神社へ参りまへんか?」
「分かった〜」
 うさのお月様好きを利用して、初詣に誘うニキ・ラージャンヌ(ea1956)。予想通りに気を引かれたうさはあっさり承諾して、餅を搗いていた杵を下ろす。
 初詣は近くの神社に。さすがに正月を過ぎた今となっては、境内に人も少ない。
 だが、そこで待っていたのは!
「はーっはっは。仮面の武道家・ほわいとしゃどう参上っす!!」
 晴天の空に高く舞い上がる大凧。それに乗って現れたのは紋付袴にエクセレントマスカレードをつけた謎の武道家!!
「京の空を行く風は気持ちいいっす。どうっす、うさ殿も乗って‥‥」
 その時、突風が京の町を吹き荒れた。風に吹かれて太凧も凄い速さで飛んでいく。同時に、凧に乗っていた武道家も空の彼方へと消え去る。
 さようなら、ほわいとしゃどう。また会う日まで。
「って、違うっす! 大食い超越をさらに超えるその時まで、自分は倒れたりしないっす〜〜!!」
「あ、もう帰ってきた」
 地平の彼方から駆け戻ってきたほわいとしゃどう、もとい太丹(eb0334)が声高く宣言するのを、あっけらかんと告げる小町。
 お参りも無事に終えて屋敷に帰る途中、ふとニキが思い出して周囲を見渡す。
「そういえば、化け狸たちは元気してますんやろか?」
「元気じゃない? 正月早々不純物をじっくり見たいと思わないから、目を逸らす事にしたけど」
 うさと妙に縁の深い馬鹿狸たちは、いつでもどこでも素っ裸。冬の最中でも人化けしてても服どころか葉っぱ一枚身に纏わぬその姿は、確かに正月とかいろいろふさわしくなし。
「あ、出てきたら問答無用でぶっ飛ばして大丈夫だから」
「それは承知しとります」
 あっさり告げる小町に、問題無しと頷くニキ。すでに化け狸排除用戦闘員として、巨大ロボ二号の塗り壁・塗坊と三号の熊・スグリーヴァが待機している辺り、対策は万全なようだ。


「お正月といえば、定番御節料理ですよね。餅の在庫も多いようですし、雑煮の準備もしておきますね」
「うん、そうしてくれると助かるわ」
 白い屋敷を見渡し、冷や汗かきながら井伊貴政(ea8384)に、ありがたそうに小町は手を合わせる。
 白いのは冬の寒さではなく、餅のせい。化け兎一匹、寝るのも惜しんで搗き出す餅が所狭しと置かれている。一度冒険者たちに纏めて消費してもらったのだが、また元通りになっている。
 加えて。
「ウンまああ〜いっ! この味わあぁ〜っ! サッパリとした大根おろしに餅の甘み部分がからみつくうまさだ!! 餅が大根を! 大根が餅を引き立てるッ! 『ハーモニー』っつーんですかあ〜、『味の調和』っつーんですか〜っ! そう、例えるなら‥‥」
「♪ わーい、いっぱいどぞー。こら、猫がんばれ」
 大根おろしでさっぱりと。出される餅を称える麻に、褒められたと気を良くしたうさがいつもの倍調子で餅制作にかかっている。猫が手伝いに出されているが、もはや否を言わせぬ勢いだ。
「良ぉお〜〜〜〜〜しッ! よしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし。りっぱに作れてるぞ!」
「待て、あんまり褒めるな! 後が怖いぞ!!」
 猫が止めるがすでに遅し。軽快な調子で杵を動かし餅搗く兎は絶好調で。麻も負けじと凄い速さで食べ続ける。
「ま、なるべく早くがんばってたくさんの雑煮を作りますね」
「お願いするわ」
 それ見て何となく背筋が寒くなった貴政が、張り付いた笑顔で告げると、似たような表情で小町が頭を下げる。
「あいや、待たれよ」
 では、さっそくとばかりに厨房に向かおうとした貴政を、しかし、枡楓(ea0696)が止める。
「何やら顔色が悪いようですが、どこか具合が?」
「気になさるな。ちょっと餅が怖いだけじゃ」
 首を傾げる貴政に、青い顔した楓が答える。目はしっかり前方だけを見据え――というか、下手に目を動かすとどこにでも餅が視界に入ってくる。緊張しつつも、咳払い一つ楓は抱えていた半紙と用具をどんと置く。
「正月行事色々あれど、大事なのはやはり書初めじゃ。なので、まずは書初め。出来た作品の前で、皆で餅を食おうと思ういのじゃ。‥‥ま、もう餅喰ってるがの」
「大丈夫っす。このぐらいは朝飯前のおやつ前の軽い運動にもならないっすよ」
 苦笑する楓に、手にした餅を次々と平らげながら丹はほわほわと微笑んでいる。
「うささんも。江戸のお山のお友達とかに年賀状代わりに書いたら、どうですやろ?」
 餅作り一直線に励んでいたうさが、ぴたりとその手を休める。しばし悩んだ後に、二回頷くと杵を置いてニキから弘法の筆を借り受ける。
「猫さんは逃げないようにおねがいしますわね」
 餅つきから解放されて、ほっと一息何処かへ行こうとした猫も、しっかり目ざとく見つけて藍月花(ea8904)が押さえる。
「それでは。今回はいろんな事に全力で当たって砕けるっすよ! 行くっすよ、猫殿」
「‥‥砕けると駄目じゃないか?」
 首を傾げる猫をさておき、丹は筆を取ると豪快に紙の上に走らせる。いろいろ手直し受けたりして書き上げたその文字は『超出超越』。
「何を超えるの?」
「そんな事は決まってるっす!」
 問われて、笑いながら置かれてた餅を食い続ける丹。
「僕はそうですね‥‥。それでは」
 せっかくなのでと、貴政とも用意された書道具を受け取り、筆を運ぶ。
 真白い上質の紙に墨で黒々と書かれた文字は――『鵞鳥』。画数の多い字も墨が重なる事無く上手く書き上げている。のはいいのだが、
「‥‥何故、鵞鳥?」
「では僕はこれで。料理の準備をしてきましょう」
 首を傾げる皆を置いて、早々と貴政は料理に赴いていく。ただ、謎だけがそこに残った。
「さて、他の皆はどうかな。字が分からぬ者は、うちが手本を見せるので心配御無用なのじゃ」
「とは言ってもなー。何書けばいいんだか」
「『今年一年でやりたいこと』とか『今一番表したい魂の叫び』とか『一番好きなもの』とかあるじゃろ。まぁ、好き好きでいいじゃろけど」
「好き好きねぇ‥‥」
「うむ、そうじゃ。‥‥だからといって『へのへのもへじ』は書初めとしてどうかと思うぞ?」
 やる気の無いまま筆を走らせる猫に、楓は軽く注意。
「そんで、小町。これは書初めであって呪符制作ではないんじゃが‥‥」
「あ、ごめーん。つい仕事の癖が」
 紙を切ったり折ったり。手馴れた調子で何やら作り出している小町に、楓が頭を抱える。
「そういえば、猫さまの今年の目標って何でしょうか?」
 墨ついた筆を振り回すうさを適当にあやしながら、とんでもない書初めの文字を教えていた幸穂だがふとその事を聞いて首を傾げる。
「身の上安心。暴力追放。心の平穏。騒動無用。平穏無事で万事往来!!」
 つらつらと言葉を並べる猫。徐々に声にも力がこもり、楓の描いた『へのへのもへじ』の手本をなぞる腕にも力が入る。最後には筆先潰して書く勢いで、最初と最後の太さが全く違っている。
「何やら大変そうですわね。でも、猫さまにはついて来る方がいらっしゃいますもの。大丈夫ですわ」
「ついて込んでいいから、静かに暮らさせろっ!」
 にっこりと笑う幸穂に、猫が苛立ち吼える。なんだか無駄に大変な人生――ならぬ妖生を送ってるようだ。

「じゃあ、うさはー。餅作りに戻ろう!」
「待つのじゃー!」
 書初めも終わって早々と、杵を担いで餅つこうとするうさを楓が死に物狂いに留める。
「お正月なんですから、のんびりしてはいかがですか? 絵双六を用意してきましたし、羽子板やかるたも作ってまいりましたのよ?」
「お。爪磨ぎに便利だな」
「歯磨き?」
「こらこらこらこら」
 兎や猫、亀などを掘り込んだ羽子板を自作した月花。なのはいいが、木で出来てるからか、爪研ぐ猫に齧る兎。
「羽子板はいいすっけど、かるたは自分、ジャパン語苦手っすよ」
「大丈夫、私もです。だから、絵のかるたを用意してきました。言った名前が描かれた札を取るんです」
 小さな木の札にも、兎やら鍋やらが特長立てて掘り込まれている。確かに、それだと最低限の日本語が分かればどうにかなる。
「狸いらない」
「だからって捨てないようにね」
 五十枚ほどの札の中から狸の札を見つけて、遠くに放り捨てる兎。困ったように笑うと月花はそれも含めて並べてみる。
 それから羽子板で羽根突きして墨を塗ったり塗られたり、かるたを取ったりと和んで過ごす。
「次は独楽回しをするっすよー」
「おー」
 やっぱり用意して来た独楽を見せて遊び出す丹に、小町も喜んで笑っている。うさも餅はひとまずおいて楽しんでいるようだし、猫も逃げる気はないようだ。
 それを見て月花も後を任せて、厨房に向かう。餅消費のために雑煮や汁粉などを大鍋で作って御近所にもふるまうつもりの為、準備は大変だろう。
 が、厨房も大変な事になっていた。
「あのー。大丈夫でしょうか、あれ」
 御節料理は作り終えて、雑煮を作っていた貴政がやや呆然としながら尋ねてくる。その目はただ一点を凝視している。その見ているモノは、
「うーん、やっぱり甘味が足りまへんなぁ」
 ちょっと味見をしては首を傾げて砂糖を大鍋に流し込むニキ。
 お正月用という事で、小町も大奮発して材料はかなりのものを大量に揃えてくれている。その中でも貴重で高価な砂糖が惜しげもなく使われているのは‥‥果たしていいのだろうか。
 自分の方は粗方終わり、手伝おうかと思っていた貴政だが。思い描く味が違いすぎてどうも手伝いにくく、なのでもう傍観を決め込む事にした。
「あれ、誰が食べるのでしょうねー」
「私じゃないのは確かでしょうねー」
 貴政と月花が一歩離れて見ている間にも次々と消えていく甘味。ニキ自身は真剣な顔で調理しているが、すでに厨房自体が煮詰まった甘さを漂わせている。
 そうして出来上がった汁粉は一体どんな味になっているのか。想像するだけで口が甘くなりそうだ。

 出来た料理を皆のところに運び、全員で食事となる。庭先では御近所さんもお呼びして、鍋で作った料理を振舞われていた。
「でもこれだけの餅。自分たちだけで食べきれないですし、もっと御近所さんにお裾分けするとか恵まれない方々に炊き出しとかそういうのはしないんですか?」
「真っ先に考えたんだけどね。ほら、餅搗いてるのはうさでしょう? あれでも一応妖怪なんだし、妖怪が作ったものなんてって毛嫌いする人も多いのよ」
 素直に意見を述べる貴政だが、困ったように肩を竦めて見せる小町。
「ま、そんな訳で食べてくれる人って結構貴重なの。だから、じゃんじゃん食べていってねー♪」
 はい、と汁粉を装って貴政に渡す小町。そうやって装ってもまだまだ餅は減る気配はない。小さい兎は一体どのぐらいがんばったのだろうか。
「ボ、ボクは、あと何皿あるんだ!? 次はど‥‥どこから‥‥、い‥‥いつ『持って』くるんだ!? ボクは! ボクはッ!」
「はい。ばててる暇はありませんえ」
「まだまだたーーーーーーーっぷりありますよ」
「うさのもあげるからね☆」
 餅が美味いと喰い続けていた麻だが。やはり何事にも限界はある。ずっと食べていたのだから当然だろう。しかし、餅は待ってくれない。食べ終わり、一息つく間もなく空だった椀にはまた元通りの汁粉やら雑煮やらが入っている。
 一体、何杯食い尽くしたか。それでも、餅は現れ頑張ってそれを食してもすぐに椀に生まれる餅。
「ボクの側に近寄るなああーッ!」
 腹はとっくに限界なのに終わりはどこにも見えず。辛抱たまらず、ついにそう叫び出す麻。
「むぅ、それは御餅に失礼だ!!」
「いや、しかし何かもう勘弁なのはうちも同じなのじゃーーーっ!」
「待って! 帰るんだったら土産の餅を!!」
「うわあああああん」
 聞き捨てならぬと餅持って迫るうさに、心底同意して逃げ出す支度をしてしまう楓。逃げられる前に押し付けようと大量の餅を風呂敷に包んで用意する小町がいたりと、現場は一気に騒然となる。
「これぐらいでだらしないっすよ。楠木殿」
「というか、お前の腹の中も不思議だよ」
 それを見ながら平然と雑煮を食い続ける丹。暇つぶしに丹の椀を数えていた猫だが、途中で馬鹿らしくなって止めた。
「でも、御餅はお正月とお月見だけの物。そろそろ餅つきをやめてはいかがかしら? 普段の日に御餅を搗いてるとお月様が何事かと思って、お月見の時にどうするのかと心配するのではないでしょうか?」
 暗に、もう餅搗きはやめる様諭す月花。
 麻の口に餅を詰め込んでいたうさは、それを聞いて満面の笑みを浮かべる。
「大丈夫。お正月はめでたいからいっぱい餅を作るの。でも、お月様は大事だから、至高と究極の餅を作ってお供えするの。全然違うの」
「そ、そうですか‥‥」
 真剣に告げられ、頷くしかない月花。
「ま、でも今日はいっぱい正月満喫気分できたし。今年もいい一年になりそうだわ」
 料理はまだまだ残っている。飲んだり食べたりと賑やかな場を見渡して、小町はにっこりと微笑んだ。 

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