その木を登れ

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:8人

サポート参加人数:7人

冒険期間:01月30日〜02月04日

リプレイ公開日:2007年02月07日

●オープニング

人は何故山に登るのか。
 そこに山があるからさ。
人は何故木に登るのか。
 そこに木があるからさ。

「と言う訳で冬の無聊を慰めるべく、木登り大会を開こうと思うんじゃ。なんで、ちょっくら冒険者の方に来ていただけんかの」
 ギルドを訪れたさる村の長老はしわくちゃの顔で、真面目にそう告げた。
「それは別に構わんが‥‥。内容は木登りの警備か?」
「いやいやいやいや。木登りの競技者の方でな」
 首を傾げるギルドの係員に、長老は何度も否定を重ねて、そう告げた。
「登ってもらう木は、高さが10間あるんじゃが。それ以上に御神木で危険でのぉ」
「えーと、つまり御神木を登るか? それで傷つけたりせぬように、ある程度技量のある者を‥‥」
「いやいやいやいや。確かに御神木を傷つけてもらっても困るのじゃが、御神木に傷つけられても大変じゃし。何せ、そこらの鬼ぐらいペロッと食っちまうし」
「‥‥どういうご神木だ?」
 係員の額に冷や汗たらり。その反応を見た後で、大いに頷いて長老は語り出す。
「うむ、それは昔々の話。まだ村が出来たての頃、鬼が来て村人を襲ったそうな。村人たちは悲しみ、恐れ、鬼を退治して欲しいという祈り続けた結果、その想いが山と村との境にある木に宿り、生命を得たその木はやってくる鬼どもをわっしわっしと食らいつくしたと言われておる。以来、その樹は近付くあらゆる不届き者に罰を下し、村の者はこれを崇めて奉ったのじゃ」
「人喰樹だろ、それ」
「という者もいるようだがの。そこは我が村の御神木、人など襲わん。近寄らなければっ!」
「‥‥もし、近付いたら」
「案ずるな。ぱくっといかれて危ないから、近寄る者なんぞおらん」
 あっさり告げる長老に、それは話がずれてるだろうと係員はさらに冷や汗を流す。
「で、その木に登れと?」
「うむ。じゃが、うちの御神木は冬の退屈なんぞ気にせずぱくっと喰っちまうだろうから、生半可な者を招待できん。なので、冒険者さんから来て欲しいんじゃよ。」
 確かにそこらの人間なら危険極まりない相手。その点命知らずな冒険者なら大丈夫だろう‥‥多分。
「競技は実に簡単。御神木の天辺に赤い布がかかっているので、それを取って降りて来れた者が優勝じゃ。御神木だから傷つけてはならんぞ。まぁ、命を落とせとはさすがに言えんから自衛は仕方なかろうが、けど傷つけた時点で失格な。
 ご神木の方も一度に攻撃できる回数は知れてるんで、地道に避けるとか、誰かを犠牲にしてその隙に登るなどがコツかの」
「物騒なコツだな‥‥」
 係員が重い声で呻くが、長老は気付かなかったようで話をそのまま続けている。
「冒険者には空が飛べるのもおるそうじゃが、それも駄目じゃぞ。あくまで木登りじゃ。
 あ、でもそれだとシフールは参加できんしのー。まー、彼らに限っては不利になるだけじゃから飛ぶのもありかのう。ただし、木から離れすぎては失格じゃ」
 顰め面して悩みながら、長老はシフールを指差す。納得した所で、係員は先を促す。
「さて言うべき事はもうそんなもんかのぅ〜。おっとそうじゃ。木に登るんは出来れば男の方がええの」
「確かに普通の女性には厳しい内容だが、冒険者になるような女性はちょっとやそっとでは物怖じせんぞ」
「いやいやいやいや、そうでなくての。天辺に翻ってる赤い布な。実はわしの愛用赤褌なんぢゃよ」
 恥ずかしいぢゃないかと、ぽっと頬を赤らめる長老。
 何でも、洗濯して干していた所、風に吹かれて御神木の天辺に引っかかってしまった。どうやって取るか、誰が取るかを話し合っている内にいっそそれを冬の娯楽にして楽しもうではないかと云う事になったようだ。
 ‥‥いい加減といえば、非常にいい加減な企画である。というより、罰当たりというべきか。
 ま、崇めてる村の者がそれでいいと言っているので良いのだろう。
「冬で働ける者は都に出ておるし。村にいるのは年寄り子供ばかりで、出る者も来る者もそう無い。なんで退屈してるんじゃ。その為結構皆楽しみにしておっての。そんな訳でちっくら頼むわい」
 しわくちゃの顔に笑みを浮かべて長老は悪びれもせずに告げる。
「ちなみに競技というからには、優勝したら賞品とか賞金とかはあるのか?」
 ふと思い立って係員がそれとなく聞いてみる。言われた長老はふと目を丸くし、天を見上げ地に目を向け、じっと手を見つめて考えた後、
「うん、わしの蔵に奉納品とかいろいろあるから、それでええじゃろ」
「‥‥考えてなかった訳だな」
 ぽんと手を打ってあっけらかんと告げる長老。それは果たして期待していいのだろうか。
 そもが物騒な娯楽依頼だが、受ける受けないは冒険者の自由。どうにも不安になりながらも、係員はため息だけはついて募集の貼り紙作りを始めた。

●今回の参加者

 ea0509 カファール・ナイトレイド(22歳・♀・レンジャー・シフール・フランク王国)
 ea2445 鷲尾 天斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3785 ゴールド・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea5414 草薙 北斗(25歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6381 久方 歳三(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2905 玄間 北斗(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5249 磯城弥 魁厳(32歳・♂・忍者・河童・ジャパン)

●サポート参加者

昏倒 勇花(ea9275)/ ミュール・マードリック(ea9285)/ タケシ・ダイワ(eb0607)/ 橘 一刀(eb1065)/ 明王院 浄炎(eb2373)/ 明王院 未楡(eb2404)/ 和泉 みなも(eb3834

●リプレイ本文

 冬の無聊を慰める為、村で催された木登り大会。
 競技者たる冒険者たちが村へとやって来てみると、よほど暇を持て余していたと見えて近隣の村からもお客が来ている盛況ぶり。
 玄間北斗(eb2905)の手伝いで来ていた明王院浄炎、未楡の二人も会場設営に協力し、暖取りの焚き火も兼ねた軽い食事などが振舞われている。
「あ、お芋焼いてる〜。え? 蜜柑も? もらってもいいかな〜」
 目ざとく見つけたカファール・ナイトレイド(ea0509)がさっそくあっちこっち大忙しに飛び回る。
 会場作りも楽しもうという草薙北斗(ea5414)の提案に村人たちも大いに盛り上がったが、しかし、かまくらは木の上方に登った競技者を見上げるのに不向きなので、あくまで休憩用として離れた場所に設営される事になった。
 なお、玄間と草薙は名前が一緒なので、以降は苗字で呼ばせていただく。御了承あれ。
「木登りかぁ。ガキの頃を思い出すぜ」
 感慨深げに登る木を見つめるゴールド・ストーム(ea3785)。重い荷物は知人の和泉みなもに預け、憂う事無く競技に挑む。
「木登りは子供の遊びの代表格ですが‥‥この木を登ろうという方は滅多無いでしょうね」
 複雑な気分で見上げるのは御神楽澄華(ea6526)。
 長の年月を思わせる太い幹にはそれに見合う立派なお飾りがあり、御神木である事が見て知れる。
 さらに立派な枝ぶりは風も無く、いや風があればそれに逆らうようにわさわさと蠢いている。人喰樹と呼ばれる立派な妖樹である。
 人喰樹を御神木とする謂れはすでに聞いている。村人達がそれでいいなら口出しする事でも無し、実際、危険無いよう距離も取っているので付き合い方も分かっているのだろう。と思っても、実際目の当たりにすると何やら奇妙な気分にもなる。おまけにこれに登れと言われてるのだからなおさらか。
「賞品出してくれるっていうけど、それもこれの奉納品からなんだよね。それって本当にいいのかな?」
「まぁ、この木登り自体、実の所ただ単に爺さんの褌を回収しに行くだけのもんだし。深く考えないのが正解っしょ。という訳で、そこのお姉さ〜ん。開始前にお茶でもいかがー?」
 複雑そうに首を傾げる草薙に、鷲尾天斗(ea2445)が軽い口調で告げると、そのまま近くにいた美人のお姉さんに声をかけている。実に楽しそうだ。
「人喰樹の周りには、しばしば志半ばで倒れた義士の持ち物が落ちているって話を聞くのだ。不謹慎ではあるけれども、今後の役に立つ品が納められていると良いのだぁ〜」
「う‥‥。まぁ、僕もそういうの期待して来ちゃった口なんで、あんまり言えたもんじゃないし。そうだね。神様も人喰樹なんだし、深く考えなくても」
 期待に満ち満ちた玄間に、草薙も思いを吹っ切って意欲を燃やす。
「う〜む。そんなに期待されると、賞品に真夜中に首が伸びる人形とか顔を嘗める埴輪とかが渡しづらくなるぢゃないか。困ったのぉ」
「そんなのあるんですか?」
「ひ・み・つ☆ ま、ちょっと蔵ひっくり返してみるかのー」
 そんな彼らを見て唸る長老を、澄華は不安そうに見届ける。一体何を用意してこようというのか。
「まぁ、村人が楽しめるようなものになればいいのではございませんかな?」
「そうですね」
 乾いた笑いを浮かべる磯城弥魁厳(eb5249)に、澄華もまた頷く。
「それでは、そろそろ競技を始めたいと思います。冒険者の方は指定の位置について下さい」
 進行と思しき村の青年が声をかけて回る。
 焚き火のせいもあろうが、観客の期待で会場内は冬の寒気を追い払うような熱気を感じる。それに呼応するようにやはり冒険者たちも大なり小なり緊張した様子で所定の位置につく。
 出発は、草薙の言うように御神木中心に攻撃範囲外になるよう円を描いている。そこに全員がついたのを見ると、久方歳三(ea6381)は、おもむろに両手に持った斧二つを抱え揚げる。
「それでは斧々(おのおの)方、準備はよろしいでござるな〜〜!!」
 陽気に告げた明るい声は‥‥瞬時に凍りついた世界にどこまでもどこまでも広がっていった。

「え‥‥そ、それでは。木をじゃなくて、気を取り直して。よーい!」
 何故だか狼狽している青年が、合図の太鼓を鳴らす。と同時、冒険者たちが行動を開始する。
「足の速いのがいるからねー。忍者としては腕の見せ所♪」
「やれるだけやって優勝を目指すでございまするな」
 草薙と魁厳は疾走の術を唱えるや、身軽になったその動きですいすいと御神木を登り出す。
「よじ登りが得意という訳ではありませんが。小細工などせず素直に挑戦させていただいた方が依頼の趣旨にも添いましょう」
 澄華は火の志士らしくフレイムエリベイションを。自身の士気を向上させると、やはり機敏な動きで御神木に取り掛かる。
「リュドりん、エリりん、がんばるよー。木りんはちょっと我慢しててね」
 シフールのカファールはさすがにただ単に登っては、身長差がありすぎて距離に開きが出すぎてしまう。それで飛んでもいいよという事だったが、どのくらい離れてもいいかについては大体御神木に添って一寸やそこら程度が望ましいとの事。
「ま、広くは御神木の攻撃範囲内ならええぢゃろ」
 と、暢気に長老はのたまっていた。
 遠くから見つめているボーダーコリーと柴犬に励まされながら、カファールも他の人と離れすぎないよう注意しつつ木に挑む。
 そして、天斗は黄色い声援に励まされながら木に挑む。
「貴様の不敗伝説はここまでだ! 今日を限りにその天辺盗らせてもらう! 主に他の冒険者が!!」
「「「「「えー☆ 天さま頑張って〜!」」」」」
 伸びた背筋にびしりと木へと指を突きつけ。天斗が自信満々に告げると、お茶した女の子たちが不服そうな声を上げる。
「ふっ、物事には適材適所というものが‥‥って、ちょっと待ーーー〜〜っ!!!?」
 その彼女がたに説明しようとした天斗だが、その間にも腰へと御神木の蔦が届く。きつく締め上げてきたかと思うや、獲物獲ったりと御神木は天斗を巻き上げ洞へと運び込もうとした。
 主人の窮地と即座に助けに入ったのは柴犬の太助。そんな忠犬の行動と、元々オーラボディで防御を高めていた事もあって、たいした怪我無く、天斗は一時離脱。
「話し合う暇もないってか! ならば続いて呑み明かしと行こうではないかっ!!」
 かっと開眼するや、天斗は日本酒・どぶろくの封を開け、御神木へと飛び掛る。
「おいらも協力するのだ〜」
「幹に御神酒を奉納させてもらうでござる」
 玄間と歳三もそれにあわせて、御神木の攻撃が手薄な所へ回り込むとそこから洞に向けて持ち寄った酒を投げ込む。
 人喰樹に酒を流すとどうなるかという知的好奇心。その結果は‥‥、
「御神木は神酒を奉納された。悪酔いでさらに元気になった。やる気が二倍になった。枝の動きが機敏になった」
「マジっ!?」
「うっそ♪」
 村の青年の解説に一同焦るも、それに返った答えは実に軽かった。ちなみに、酒を樹に与えても別に何とも無しである。
 ただ、洞に投げ込まれたのはお気に召さなかったのか。攻撃対象として三人に襲いかかってきた。
「御神木は絡み酒が好きと‥‥」
「いや、そこ冷静に記録取らない!!」
 重ねて申すが、木に酒の影響は無い。村人の悪ふざけに突っ込んでる間にも、どんどん蔦は絡んでくる。ある意味、御神木で実験した罰かもしれない。
「ともあれ、やる事はやって成果も見たので悔いは無いのだ。先へと進むのだ〜」
 押し寄せる枝や蔦を回避し、あるいは軍配で防ぎながら玄間は、枝へと手裏剣を先につけた縄を投げて登り出す。もっとも、巻きつけた枝が動きまわり縄を振り回すのでそれだけに頼るのも難しい。
「拙者は登りの技は身に着けてござらんが、ここで背を向けては義侠道不覚悟! いざ不退転の覚悟で参るでござるよ。ううっ、御神木にはさんざんクローをかけるでござ‥‥‥あいたたたた」
 むせび泣く真似をしながら登りかけた歳三に、上方から枝がばしばし叩いてくる。
 クローといえば。御神酒用の酒を準備した際に、歳三は昏倒勇花から渡したロイヤルヌーボーを置いてったわねと、お仕置きの愛暗苦労(あいあんくろー)を喰らっている。その勇花への挨拶に来ていたタケシ・ダイワが皆が人喰樹に食べられない様御仏に祈っていたが‥‥案外、無事に成仏しろよという先駆けだったのかもしれない。
「ってか、何やってるんだ?」
 まずは様子見と、皆の動きを見届けていたゴールドはさすがに呆れている。
 登攀技術には自信がある。であるが故に、じっくり皆の動きから木の動きを割り出し、登りやすそうな道筋を組み立てる。
「それでは行くとしようか」
 前日から十分な休養もとっており、準備は万端。先頭との距離を目算すると、まだ大丈夫だと判断し確実に木に登り始めた。

 最初こそわりと団子状態で進んでいた一同だが、やはり技術的に身軽さが身上の忍者・レンジャー組が徐々にぬきんでてくる。
 ただ、動き回る枝に足掛けながら、登るこつが徐々につかめてきても、御神木からの攻撃は止む事を知らない。幸いというべきか、一度に攻撃できる回数には限りがあるらしい上、その攻撃も対処できないものでもない。故に対処する技量の差も徐々に距離へ出てくる。
 天辺に翻る赤い布。近付くにつれ、それが褌である事がはっきり見られる。
「うう、結構な高さでございますのぉ。畢竟がいればまだ安心できたのじゃが‥‥」
 ちらりと下を確認した魁厳は、即座に見た事を後悔。下から見上げる高さと上からの高さではずいぶんと感じが違う。
 落ちた時の対策として、魁厳はグリフォンを待機させようとしたが、さすがにあからさまな妖身のそれが村をうろつくのを良しとはされず。競技中に離れるのであれば、せめてどこかに繋げておいてくれと頼まれた。それでは救護策にはなりえないが、頭を下げて懇願されては渋々とでも承諾せざるを得ない。
「まぁ、微塵隠れなら一気に地上に脱出も出来るけど。でもそうするとちょっとまずいよね」
 草薙の方も、万一は微塵隠れの術で回避出来るかと踏んだが、あれは移動と同時に爆発も起こす。なるべく御神木を傷つけるなと言われているので、使えば棄権必須。裏をかえせばそうしたい時にしか使えないだろう。それに、下手すると他の冒険者も巻き込みかねない。爆発で吹き飛ばされてこの距離を落ちたら命が危うい。それはかなりまずい。
「こうなれば、最後の手段なのだ〜。失格事項に入ってなかったと思うのだぁ〜〜」
 赤褌まであと少し。そう判断すると、玄間が投げ縄を振り上げる。赤褌をひっかけて手繰り寄せようというのだ。
「うんまぁ、まるっと良しにするが‥‥」
 地上からも暢気な返事が返ってきた。が、それとほぼ同時。赤褌に伸びた縄が枝葉に打ち払われる。
「あやや」
 どうやら攻撃されたと思っての防御らしい。褌に仕掛けるのも少々難しいようだ。
「という事は、やはり地道に取りに行くのみだ」
 一手遅れて登り出したゴールドも、この頃には先頭組に躍り出ている。時折枝葉に打ち払われて体勢を崩す事もあったが、そこは持ち前の技量が補っている。
「そうだね。木りん、くすぐったいかもしれないけど、もう少しだからね」
「といって、背中で休むな。分かってるぞ」
 ちゃっかり人の背中で休んだりしていたカファール。体力の温存も十分。窘められて危なげなく飛び立つと、打ち払ってくる枝は難なく避けまくり、危なげなく褌へと手を伸ばす。
「はい、長老りんの布取ったよ〜」
「きゃー☆ いやーん☆ 恥ずかしいぢゃないの〜☆」
 風にたなびく褌を手にカファールが大声で告げる。地上からは恥じらいに悶える長老の叫びが途切れ途切れに聞こえてきた。

「下りてくるまでが競技です。気をつけてな〜」
 普通の木でも、登るよりむしろ降りる方が危ない。特に地上に近付いてくると気が緩んで落下事故が増えたりするのだ。はらはらしながら見守る観客たちに声をかけられながら、一同無事に降りてくる。
 順位はカファール、ゴールド、草薙、魁厳、玄間、澄華、歳三、天斗。皆、御神木に打たれ絡まれ傷だらけになったが、幸い静養を必要とする程重傷を負った者もいなかった。
「はい、長老りん。どうぞ」
「お嬢さんから渡されると照れるのぉ。何はともあれ、ありがとうでおめでとう。これが賞品じゃ」
 頬染めながらも長老は持っていた小さな物をカファールに渡す。指輪だったが、それでもカファールからすれば大きく見える。
「シフールも良しとしたんで、嵩張らんでええ物を探してみたんじゃが。何でも防御が上がるとか何とかな守護の指輪だそうな」
 よく知らんがのぉ、と長老は暢気に笑う。
 指輪がカファールに贈られると、周りから一斉に拍手が沸き起こる。
 それで木登り大会は無事閉会となった訳だが。早々とお開きにはならず、せっかく集ったのだからとそのままあちこちでお喋りが花開く。
「どうやら、楽しんではもらえたようでございますの」
「ですね。暗い話題の多い時勢です。少しでも村人たちを楽しませられれば幸いですね」
 人喰樹の周囲でのんびりと会話が交わされている光景はやっぱり奇異に見えたが。その誰もの顔に怯えの色無く明るい笑顔が浮かんでいるのを見て、魁厳と澄華は満足そうに頷いた。