●リプレイ本文
村に現れる小鬼の群れ。最初は少数だったが少しずつ数を増やし、今ではその数十と五。
村人たちが対処するのも限界に来ており、故に冒険者たちが村へと呼ばれた。
「まず最初に。御挨拶が遅れて申し訳ない」
鷹翔刀華(ea0480)が頭を下げるのは村人たちにではなく、冒険者に対して。
「構わないから、気にするな」
「その代わり、しっかり働いてもらうけどな」
雀尾嵐淡(ec0843)と、雀尾煉淡(ec0844)の二人が軽く笑い飛ばす。
事前相談は必須ではない。個々にも事情があるので、顔を出せないのを責めるのも野暮だ。
ただし、それで顔を出さないのを普通にしてしまうと、連携が必要な時に相談不足が致命傷になったりするので注意は必要か。
やってきた冒険者は七名。彼らの対し、応対に出た村人たちは改めて実情を説明する。
「子供や年寄りを好んで狙うなんてねぇ。冒険者の子供や年寄りとは相対した事が無いのでしょうね」
改めて話を聞き、マーヤ・ウィズ(eb7343)は相手のやり口を鼻で笑い飛ばした。
「まぁ、世の中圧倒的に冒険者でない方が多いのですし。それにしても狡賢い小鬼の集団のようですね。解決できるよう頑張りましょう」
イアンナ・ラジエル(eb7445)が気合を込めて腕を奮うと、その弾みで大きな胸も揺れる。
「勿論。年配者も恐ろしいとその心にしかと刻み込ませて差し上げますわ」
笑うマーヤだが、その笑顔もそこはかとなく怖い。やはりこちらも気合は十分のようだ。
「それで‥‥、村周辺の地理を教えてもらえないかしら。後、近くに小鬼の集団が暮らしていけるだけの広さのある洞窟とか、廃屋とか」
「申し訳ないです。それは私らの方でも心当りを探ってみましたが、あいにく見当もつかず‥‥」
尋ねる皆本清音(eb4605)に、すまなそうに村人たちが頭を下げる。
ともあれ、村人達が話す周辺地理を清音は手近な物に書き留めていく。
それを見ながら今までの小鬼の行動も聞き、今後の行動についてさらに詰めていく。
「大体分かりました。それではわたくし達が結果を出すまでの間、皆さんは外出する時複数で動いて下さい。大丈夫、小鬼が村には現れないように致します」
小鬼の話をして不安を思い出したか村人たちの顔が暗く沈んでいる。その暗さを払拭するような笑顔で、ラーズ・イスパル(eb3848)は微笑みかける。穏やかな表情ながらも、胸の内の気持ちはまた確かだ。
そんな村人たちに対して、刀華は全員に武器を持たせる事を提案する。
「私たちも手伝いはする。‥‥けど、最終的な防衛は皆の意思表示次第だからね?」
「はぁ」
なので、一応武器を持ってみたりもするが、そもはそういうのとは無縁の村人たちだ。あんまり様になっているようにも思えない。防衛はまた別問題として、今回は頑張らねばと再認識するだけだった。
「それではラーズさん、護衛よろしくお願いしますわね。接近戦は弱いものですから」
「おや、覚えてくださっていたとは‥‥。力の及ぶ限りお守りします」
以前にも顔を合わせた事のあるマーヤとラーズ。お願いするマーヤにラーズも任せて下さいと強く言い切った。
「さて、それでは行動開始とするか‥‥。我らの死の連携、奴らに味合わせてやるとするか」
嵐淡の呟きに、煉淡も静かに頷いていた。
「行動としては、襲撃を待って一度追い払い、こちらの戦力を分散させずに一体ずつ追い詰め確実に数を減らす一方で、小鬼の住処を捜索して一網打尽‥‥でしょうか」
「確かに、襲撃を待つ方が早いかもしれませんね」
思案げに告げるイアンナに、清音も賛同を示す。
小鬼の住処については結構早くに煮詰まった。小鬼の残した品から清音はダッケルの黒吉に匂いを追わせてみたが、川を渡ったり木に登って移動したりと本当に小賢しい知恵だけはあると確認できたぐらいだ。今の段階ではどうにも追いづらい。新たな手がかりが必要と見た。
村への襲撃時間はまちまち。それでも予想される時間に合わせ、マーヤはのんびりと表でお茶を飲む。そうしているとか弱い老女が一人、寛いでるようにしか見えないが、周囲にはしっかり他の冒険者達も潜んでいる。
いい加減、日も傾きマーヤのお腹も一杯になってきた。仕事に出ていた村人たちも帰宅しだし、さてどうしようかと悩んでいる時だった。
「出たぞ! 鬼どもだ!!」
響いた声に、冒険者たちが駆けつけると、いつのまに入り込んだか小鬼三体が帰路についていた村人たちに斧を振り回していた。
「気をつけて! 建物の影‥‥周囲に他が潜んでいる可能性がある」
たかが数体と飛び出しかけた冒険者たちに、煉淡が素早く告げる。
使用したデティクトトライフォースは効果範囲内の生命力を探知する。小鬼の大きさでは村の子供と間違える可能性もあったが、少なくとも屋根の上やらにいるのは、やはり奴らと見ていいだろう。
おそらく少数が騒ぎを起こし、対処に出てきた村人を潜んでいる残りが取り囲み痛めつけようとしていたのだろう。
そうなる前に、煉淡が探知した数や場所をなるべく正確に告げ、他の者たちも即座に動く。
「ぎ、ぎいい?」
悪戯気分で斧を振るっていた小鬼が、やってくる冒険者たちに訝ったような声を上げる。ただ、逃げようとはあまりしていない。これまでの経験から、たいした事でないと踏んでいるようだ。
確かに村人相手ならその判断は間違ってなかったのだが。
清音は右手の鞭をしならせると、相手の腕を強く打つ。ぎゃっと声を上げると、小鬼は手にした斧を取り落とした。慌てて拾い上げようとするが、続けて鞭を絡ませ行動を制限されてしまう。
「今の内に、村人たちは避難を!」
言われるまでも無く、村人たちは慌てて家に篭って堅く戸を閉める。
「参る!」
腰に木刀を構える刀華。正面に現れた小鬼へと踏み込めば、剣尖は小鬼の体に叩き込まれる。素早いその一連の動きは、小鬼程度に対処できるものではない。
「ぎぎゃぎゃぎゃ!!」
そして、全く何も無い場所で、突然小鬼が切られている。いや、よくよく見ればそこに誰かがいるのが分かる。
ラーズである。インビジブルで姿を隠すと、右の破邪の剣、左のアゾットで斬りつけている。素早く掠めるその動きはさらに傷を深めるが、しかし、インビジブルでは周囲が見づらくなり、動きづらい。小鬼に追撃しようにも少々もたつくのは否めなかった。
そして、小鬼たちは手痛い反撃にあい、混乱していた。示し合わせると、早々と逃走にかかる。
四方八方、てんでばらばら。隠れていた小鬼も脇目を降らず、十五方向へ走り去っていく。
「待ちなさい!」
イアンナが逃げ行く小鬼たちを追う。柴犬の桜もご主人に従い走り出す。
小鬼の逃げ足は早かった。が、シフールの飛翔はさらに早い。離される事無く、イアンナは一体の小鬼を追い続けた。
山に入っても、イアンナはさほど苦痛ではない。
そうして、一体だけを追いかけていたはずが、何時の間に回りこんだか、木の陰から数体の小鬼が飛び出てきてイアンナを取り囲んだ。
「ぎゃぎゃぎゃ!!」
多勢無勢に桜は走り去り、イアンナもまた悲鳴を上げながら木の上に逃げ込む。
「きゃー、誰か助けて下さいー」
声を上げるイアンナだが、聞く者が聞けば妙に楽しそうなのが分かる。
小鬼たちは気付かず、愉快そうに笑いながら頭上の石でもぶつけようと、周りから集め出していた。
その只中、直線に黒い帯が伸びてくる。魔法の重力波。線上にいた小鬼たちが吹き飛び、地面に転がる。
「ぎゃぎゃぎゃ?」
慌てて周囲を見渡す小鬼たち。そして、自分たちに向かって構えた冒険者たちを見つける。その足元では、桜が唸りを上げている。先のは逃げたのでなく、居場所を知らせに走ったのだ。
「もう一回、ですわ」
今度は上からグラビティーキャノン。唱えたのはイアンナだ。
「お逃げなさいな。追いかけますから」
そして、マーヤがグラビティーキャノン。専門の威力はさすがで、打たれた小鬼たちはぼろぼろになる。
再び追い詰められたと知り、またもや即座に逃げ出す。
「棲家を見つけるとはいえ、あまり深追いしないように。これ以上の追撃は、何があるか分からないからな」
日が落ち、すでに辺りは暗い。刀華が告げるが、ラーズは少し考えて、首を横に振る。
「わたくしはもう少し探してみます。夜目も少々利きますし」
そうして、ラーズはインビジブルを唱えると、小鬼の足取りを追った。
翌日からは、小鬼の棲家探しへ。
あの後、途中で逃げきられてしまったラーズだが、そこからさらに小鬼の匂いを辿り、朝から桜と黒吉が奮闘した。
その甲斐あって、時間はかなりかかったが、どうにか小鬼たちの棲家にたどり着く。
洞窟というより、突き出た岩盤を屋根代わりにしてその周囲を木で覆っている。その木が風除けになる他、周囲の偽装にもなっている。小川が流れていて匂いも消せるし、なるほど見つけづらい。
何体かの小鬼は横たわり、ぎいぎいと耳障りな声を上げる。戦闘の負傷はけして軽いものでなく、養生しているのだ。
「村に来た数と一致。全員、揃っているな」
煉淡がデティクトトライフォースで調べ、確認。それを聞き遂げると、冒険者たちは棲家へと走り出す。
「ぎゃぎゃぎゃぎゃ!!?」
小鬼たちが騒ぎ出す。油断しきっていたので、その慌てぶりは滑稽な程だ。
「二度と戻らないよう、徹底的に壊させてもらいます!」
マーヤが棲家に向けてグラビティーキャノン。岩をも砕くその一撃は、問題なく棲家を破壊し崩していく。岩盤を利用した家は自重に耐えかねて屋根を落し、下にいた小鬼たちが慌てて逃げる。
嵐淡は小鬼を見つけると近付いてメタボリズムを詠唱する。ただ、嵐淡の技量ではこの魔法をかけるのに接触せねばならない。通常詠唱では途中で逃げられるか反撃されるか。高速詠唱は必須だろう。
そうすると、高速詠唱の欠点が目に付く。一瞬で詠唱できる代わりに、魔力を余分に消費し魔法の精度が落ちる。
巧みな踏み込みや攻撃に変化をつけて相手の隙を誘い、踏み込んで詠唱できても、普段よりさらに失敗率が高いのだ。その癖、魔力だけはきっちり普段以上に消費する。
さらに、そうまでして成功しても相手が魔法に抵抗してしまえば無意味になる。
ついでにいえば、見た目にも変化は無い。嵐淡に捕まって怯んだ小鬼だったが、別に痛い目に合わせられる訳でないと分かると俄然張り切って斧を嵐淡に振り下ろす。
「ちっ」
鋭い刃が嵐淡の身を切り裂き、血を飛ばす。
「大丈夫ですか!?」
清音の声と共に飛んだ鞭が、小鬼を打った。さすがにヤバイと小鬼が距離を置き、その間に清音は嵐淡に駆け寄る。
「大丈夫。それより、煉淡が動くな。――近くの人は、早く離れて下さい!!」
傷口を押さえながら、嵐淡は皆に呼びかける。何をするかは事前に話してある。とりたてて動かないのは清音と刀華ぐらいで、後は嵐淡も含めて煉淡から距離を置いた。
孤立した形になった煉淡に、好機到来と小鬼が迫る。
「別に一人はぐれた訳じゃない。むしろ来てくれるのを待ち受けていたよ」
そして、煉淡は魔法を詠唱する。高速で繰り出したそれはデス。魔力が一定値以下の者を抵抗も無く死なせる魔法。そして、嵐淡のメタボリズムにはかけた相手の魔力を失わせる効果もある。
「ぎゃひっ!?」
何が起きたのかも分からぬままに、数体の小鬼が倒れて動かなくなる。
突然の仲間の死に、小鬼たちは目を丸くしている。
一方で、倒れた数が思う以上に少ないので、煉淡も少々不満そうだ。とはいえ、今のところは仕方ない。
先の戦闘で手負いになっていた事もあって、小鬼たちの対処は結構簡単に済んだ。どさくさで逃げたのもいるようだが、これだけ手酷く痛い目にあわせのだ。もう戻っては来ないだろう。
そもそも拠点としていた場所も完全に瓦礫の山。戻りようが無い。
村に戻ってその事を報告する。これで小鬼たちに怯えずに住むと、村人たちはほっとした笑顔で冒険者たちに礼を述べた。