温泉宿でばばんばばんばんばん
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:02月25日〜03月02日
リプレイ公開日:2007年03月05日
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●オープニング
京の都には妖怪が巣食う。
妖怪と一言で言っても、その行動は千差万別。人を襲う凶悪な奴、人を助けて敬われる奴、別に何も興味無くただいるだけの奴。
そして、どうしようもなく適当に生きている奴。
それはとある小さな温泉宿。所有する温泉で疲れた身体に一時の安らぎをと、湯治客が訪れる。
「ここ、疲労回復の他にも美肌効果があるんだって〜」
「きゃー、やだ楽しみ〜」
明るい声が木霊する、そこは女風呂。
温泉は露天だが周囲は竹の柵でがっちり仕切っている為、覗きは出来ない。よって景色を楽しむ幅も減るのだが、その分庭の造形に凝っており、そっちを楽しめるようになっている。
女客たちは遠慮もなしに衣服を脱ぐと、いそいそと露天風呂に向かう。
お湯は透明。独特の臭気に構わず、足を漬けると、
「?」
風呂の底がやけにぶよぶよと緩んでいる。否、柔らかな何かを踏んづけているのだ。それはとても大きく、小さな風呂一杯に敷かれている。
「「「おお、人間たちか。ゆっくりしてけ」」」
満面の笑顔で声をかけてきたのは美少年三名。風呂なので、素っ裸なのも理解は出来る。ただし、重ねて申すがここは女風呂。
女客たちが訳が分からないと言いたげに硬直する。
そして、さらに彼女たちは見る。三名の傍に狸一匹。温泉につかって暢気に気持ちよさそうにしてるが、股間がやけに大きい。
大きいというより、巨大に長く引き伸ばされて‥‥八畳程に広がって温泉に使っている。
そう! 彼女たちが先ほどから踏んでいたのは狸の、寺の倫理規定で使用不可単語になった玉だったのだ!
「「いやあああ! 信じらんな〜い!!!」」
今度こそ、温泉宿中に響く悲鳴が上がった。
「おぬしら! 一体全体何をしとるんじゃーーーーっ!!」
「「「風呂に入っている」」」
怒りも露わな大声に対して、少年たちはいけしゃあしゃあとのたまう。
怒声を上げるは、数年前までは京都で平穏無事に生きていた白和尚。今は、寺に住み着いた化け狸四匹により賑やかな毎日を送らされている。
それに答えた暢気な声の主は、風呂に入ってた三名。人そっくりに見えども人で無い。彼らの正体は、和尚を悩ます化け狸。残る一匹は勿論ぴーを伸ばしてた狸である。
風呂場には、声はすれども和尚の姿は無い。女風呂に入るのは憚られると、外から怒鳴りつけている。が、それでは今一迫力も無し。化け狸四匹も恐れる事無しと暢気な返事をしている。もっとも、化け狸たちは和尚を恐れたりはしないが。
「多分一年ぐらい前のこと。仏罰戦士の陰謀でせっかく開眼した必殺技を失った我々」
「だが、涙ぐましい努力の末に、ぽんたりんが再び会得した!」
「でも、特訓で疲れたから慰労旅行。分かりる?」
口々に告げる化け狸たち。一匹、言葉が無いようだが、どうやら人化け出来なくなって喋れないらしい。前もそんな感じだった。
「‥‥。百歩譲って、その事情を飲み込もう。じゃが、それなら何故に男湯に入らん!!」
「「男風呂は野郎臭い!」」
「俺ら、繊細だしなー」
和尚の言葉にあっさり返す狸たち。
「そもそもだ。我らは人ではない」
「故に、無用な遠慮などせず、がんがん入ればよかろうに」
「服着てようが裸だろうが、人間の姿なんぞ興味無いのになぁ」
「おぬしらが興味なくても、世間の女性の方が困るじゃろうがーーー!!」
心底不思議がった声に、和尚は変わらず怒鳴りつける。怒鳴りすぎてくらくらしてきた。
「何故だ? 見られるのは嫌だとか?」
「見られて困るような姿か? あれが?」
「うーむ。世にいう、ぼんきゅっぼん、などついぞお目にかからんし」
「つか、温泉客なんぞほとんどが出汁の取れそうな枯れた婆さん」
「若くても、胸より腹出てるの多いし」
「胸垂れてるし」
「胸消滅してる人も多いし」
「縛った腰紐の分だけきっちり肉がへこんでたりするし」
「変なしみがあったり肉のたるみでぶよぶよとか気が緩みっぱなしだし」
「水っ洟平気で噛んでたりするし」
「並の幽霊屋敷より怖いもの見るよな、ここは‥‥」
「はっはっは。夢見てんなよ野郎ども、だな!」
「ま、我々はそんなの気にしないけどなっ!」
「だったら、女性方を悪く言うんでなーーーーいっ!!!」
「「「えー、でも本当の事だしーーー」」」
陽気に笑う狸たちに、和尚の怒声が(以下略)。
「と・に・か・く・じゃ!! おぬしらは雄! すなわち男じゃ! 分別の無い単なる動物ならともかく! 勇知に優れた妖怪というなら、きちんと男用の風呂に入れーーーっ!!」
和尚が大喝する。
さすがにそれ以上は何か危険を感じるものがあったのだろう。仕方ないなぁという落ち込んだ声と共に、ざばざばと湯を切る音が続く。
珍しく分かってくれたかと安堵した和尚。‥‥非常に甘い。
しばらくしてから、女風呂より聞こえてくる破壊音。物が壊れ、何かが倒れる音に和尚は驚き、一瞬の躊躇の後に、女風呂へと駆け込む。
「一体、何事!?」
「おう、和尚。これで男風呂もばっちりだ!!」
悪びれもなく笑う狸たち。その傍では男風呂と女風呂を隔てる柵が倒れ、ぽかんと口を開けている男客の姿が見られる。
「ついでだ。こっちも取ってやれ」
唖然と和尚が固まっている間に、狸たちは覗き防止の他の柵も取っ払ってしまう。視野が開け、周囲の大自然が望める結構な露天にはなったが、近くの街道から風呂が丸見えになり、街道の方も大騒ぎになっている。
「何考えとんじゃーっ! おぬしらはーーっ!」
「「「えー、男女平等でいいじゃん?」」」
普通に首を傾げて文句垂れる化け狸。もはや限界に達した和尚はがっくりとその場に跪く。
「そこのぽん狸も‥‥。何を好き好んで玉々踏まれてるんじゃ。痛いじゃろが」
「大丈夫! ぽん芋は、特訓の過程で痛みを快感に変える方法を身につけた!」
「‥‥まぁ、我々は共に生きると誓い合った兄弟ではあるが、ぽんころりんの現状には少々ついていけないものも感じている!」
「それを治すべくの温泉でもあったんだがなぁ」
珍しく三匹が遠い目をしている。その生温い視線を受けながら、残る一匹はきゅっと鳴いて何か照れていた。
そして、冒険者ギルドに依頼が出される。
温泉宿にいる馬鹿四匹をどうにかして下さいと‥‥。
●リプレイ本文
温泉宿に現れた化け狸たち。猥褻物陳列罪を犯す彼らを、例え人が目を逸らしても仏様はほっとけない。
「和尚の怒りが僕を呼ぶ。たぬーをしばけと僕を呼ぶ! 仏罰戦隊ボーズマンレッド、ただいま見参!!」
「阿呆を成敗しに参上。ボーズマンブルー!」
「お久しぶりの出動どすなぁ。ボーズマンクローどす」
「ムーフーフー。代理で参上のボーズゴ〜ルドこと、人呼んで葉っぱ屋サンちゃんアルネ〜。レッツ、フンドシ、ビバノンノ〜♪ アルネ〜♪」
クリア・サーレク(eb3531)がフライングブルームで颯爽と登場。続いて藍月花(ea8904)、ニキ・ラージャンヌ(ea1956)、サントス・ティラナ(eb0764)が名乗りを上げる。
露天温泉は柵が壊されて外から丸見え。その為、男子は褌着用、女性は入浴禁止で衣服着用となっている。
そんな中、素っ裸で悠々と湯に使っているのはただの三人。いや、四匹。
「むぅ、出たな! ボーズマン!」
「だが、我々も負けてばかりではない!」
「今こそ、目覚めた技を使う時! 頼んだぞ、ポン志村!」
「うきゅ!」
名乗りを上げるボーズマンたちに、裸の少年三名――その正体は化け狸――が身構える。一体の命じに応じて、狸のままの狸がばっと玉を広げてボーズマンたちの前に敷いた。だからなんだと言いたいが、あまり見ていて楽しい光景でないのも確か。
「‥‥場所柄、素っ裸でも違和感ないのは救いだけど。これでは他のお客が温泉を楽しめないわねぇ」
「ああああ、どうして姫路で溺れてる時に海に置いてこなかったのかしら」
「そしたら、姫路までしばき倒しにいかんとあかんようになった気がしますぇ」
呆れて告げるステラ・デュナミス(eb2099)に、月花は後悔の涙を流し、ニキは諦め半分に肩を叩いて慰める。
「出て行けといっても、出て行かないでしょうし。――本当に狸さんたちは、いつまでここに居座るつもりなの? ふやけるんじゃない?」
ちらりと宿の方を見るステラ。狸の相手していた和尚は、疲労で寝込んでしまっている。お疲れ様と心の底から言いたい。
「うむ。とりあえず疲労する回復までは居座るつもりだ。その後、我らも玉を広げられるよう温泉浸かりながら修行して、疲労回復して、また修行して」
「回復して、修行して。日々、これ鍛錬あるのみ!」
「何せ、食い放題飲み放題。しばき倒す坊主もいない!! 我らの楽園!!」
「「「ここは譲らんぞ、さあ来い! ボーズマン!!」」」
神妙な顔して答えていた狸たち。真面目はいい事だが、内容はいただけない。
「何か微妙に話がずれてる気が? ‥‥まぁ、説得は不可能とするので、ボーズマンがんばって。力なら貸せるから」
どう告げても動きそうに無い。迂闊な事を言えば、こちらの精神がこんがらがりそうだ。
悩みすぎて痛くなってきた頭を押さえながらステラは、ボーズマンに託す。
「そうだね。二度同じネタを披露するだけでも芸人失格なのに、それを三度四度と続ける気なんて‥‥。ううん。そうでなくても、たぬーたちにはお仕置きあるのみ!!」
キッ、と眼差し強くクリアが狸たちを睨みつける。それを真っ向から見つめ返し、狸たちは笑う。
「「「はっはっは、どうしたボーズマンども! 早く来い!!」」」
「京にもヒーローがいるんですね。悪の化けダヌキ帝国と戦っているんでしょうか? 懐かしい響きを感じますが、そんな事より温泉の平和を取り戻す方が大事ですね。人々の幸せを妨げる横暴‥‥僕も許しておくわけにはいきません!」
マスカレードをつけると、沖田光(ea0029)は詠唱。ファイヤーバードで空を舞うと、助太刀を申し出てクリアの傍へと舞い降りる。
そのまま、広げられた玉を踏みつける。踏まれた大元の狸は激しく悶え出す。‥‥何とも言えない恍惚の表情で。
だが、その顔が突然悲哀に変わる。ニキのディスカリッジのせいである。
「ふきゅうううう↓↓↓」
「ああ、ポン仲本!」
「くぅ! ポン高木に何をしたんだ!」
「しっかりしろ! お前には立派な技があるじゃないか!!」
無意味に落ち込んだ狸は、玉も縮めて風呂の隅で膝を抱えて丸くなっている。励ましの声も聞いているのかいないのか。
「狸の気持ちはようわかりまへんけど。とにかくこれで一件落着どすかなぁ?」
「そんな事より化け狸はいじめられると喜ぶとは新発見ですよ! さっそく世間に広めなくては」
どこからともなく筆記具を用意すると、光は何やら真剣に書き付ける。
「待て! 一つを全てと思うのは浅はかだぞ人間!」
「えっ、だってほら喜んでましたし」
「そうだ、そんな嘘八百振舞われても困るぞ」
抗議する狸たちに、光は悩む。
「そんなに嫌ですか? だったら、ここから大人しく立ち去れば、発表だけはやめにしますが」
「そんな脅しには屈しないぞ。大体、俺たちはいじめられるぐらいならいじられる方が好き♪ でも、優しくしないと泣いちゃうぞ♪ ――ぎゃあああああ!!」
「「ああ! ポン長介!!」」
狸一匹に、巨大な蛇が巻き付く。月花のジャイアントパイソンである。まだ少し肌寒い季節だが、温泉の熱気と湿度で元気一杯。狸の相手も容赦無い。
「さて。狸の相手は巨大ロボ一号に任せて、私たちは柵の修理を致しましょうか。ここの御主人から男風呂を直して女風呂として開放できるよう、了承得ましたから」
「そやね。修復終わるまで二号は仮の壁として目隠ししといておくれやす。三号は資材運び頼んますえ」
当の月花は、大蛇に追われて騒ぐ狸たちに目もくれず。ニキもあっさり頷いて二号(塗坊)と、三号(熊)に指示を出す。
男風呂に浸かってた一般客は狸たちより、むしろロボたちに恐れを抱いて早々と浴室を後にしていた。
なので、いるのは冒険者と動物と化け物ばかりなり。勿論、暢気に入浴してる二人も例外でない。
「いやぁ、本物だねぇ。一部で有名な狸さんたちに一度会ってみたかったんだよ」
「おまえらも騒いでばかりいないで、こっちで一杯やらないか?」
「「おお、それはいいな」」
にこやかに告げるライル・フォレスト(ea9027)に、パウル・ウォグリウス(ea8802)も徳利を見せて誘いをかける。いそいそと恵比須顔で承諾すると狸二匹、酒盃を手にして御相伴。‥‥一匹は隅で落ち込み、別の一匹は巻きつかれたままである。
「ほぉ、いける口だねー」
「ふふふ、伊達に近所の台所を荒らしまわっておらぬわっ!」
「何せ、和尚飲まねーから普通に見付からん。見つけた酒は選り好んでられん!」
「「なので! 見つけた酒は我らの物だー!!」」
和やかに酒を注いでいたパウル。それをおとなしく受けてるかに見えた狸たちだが、きらりと目が光るや一瞬の隙をついて徳利奪ってただちに逃げ出す。
「はっはっはー、ここは一度撤退。つまみを探した後に再び会ふぎゅ」
早業に舌を巻く冒険者らを哄笑しながら、外へと逃げようとした狸らだが、目の前に気付かず正面衝突。
「ムーフーフー、前方不注意。獲物から突撃来たアルネ〜」
にやりと笑うサントス。その姿はといえば。
「むっ! 青い仲間!!」
「ザ〜ンネン、ミーのは狸で無く猫かぶり」
「なるほど、寂しいと死んでしまうんだな。ならば放置だ!」
「それは兎アルネ〜」
着込んでいるのは丸ごと猫かぶり。猫なのだろうが、体型のせいか少し違う動物にも見える。
「それにミーのは狸なんかよりとても御立派様ネー。間違えるのは酷いアル。風呂場で騒ぐのも問題アルアル。ここは一つ仏罰戦士としてお仕置き開始。マヰスター直伝の、レッツフンドシダ〜ンス!!♪」
猫かぶりを脱ぎ捨て、漢の褌一丁で体勢を決めるサントス。漢の褌の持つ魔力に加え、内側から光り輝くそれ――中にライトを仕込んだから――に、周囲の目は一気にサントスへと惹き付けられる!
「ゴ〜ルドにはゴ〜ルドを、ジャニ〜ズにはアデオスネ〜! アミ〜ゴ、ジャニ〜ズをハグするなら今のウチね〜♪」
「あいよ。ふふふ、そこの可愛い狸さん、お友達になりましょう♪」
しっかり魅了されて固まってしまった狸たちに、ライルが素早く抱き付く。全力で抱きしめると、そのまますりすり頬擦り。
なまじ狸が人間なので、普通に裸の男二人がもつれ合っているように見える(ライルは褌付だが)。塗坊が隠しきれてない街道方面から、女性方のやけに楽しげな悲鳴が上がっている。ものすごく熱い目線で注視されているようだが、そんな事はこの際どうでもいい。
「はーなーせー、この酒は渡すものうぎゃああああああ!!」
「だぁかぁらぁ。狸さんが可愛いからついね♪」
にっこり笑いながら、ライルは狸の股間に手を伸ばし、思いっきり握り潰す。悲鳴を上げて転がる狸に、ライルは流れるような動きで尻に深々と葱を刺していた。
「さすが、本場エゲレスのネギ捌きは素晴らしいアル」
「くっ、ポン加藤! お前の犠牲は無駄にしない! この酒とつまみ探しは俺に任せて、おまえはじっくり葱刺しで健康になるんだー!!」
感動して涙にくれるサントス。狸も涙し、徳利もって走り去ろうとしていたが、それを逃がす冒険者ではない。
クリアがひょいと足を伸ばすと、あっさり引っかかってすっ転ぶ。
「さーて。ポン梅、ポン菊、ポン松、ついでにポン竹。温泉は気持ちよかったかな?」
「うむ、ここの温泉は最高だぞ」
「この程度の傷などあっという間に治るぐらいさ」
「その上で葱まで刺されたら元気になりすぎて危ないぞ」
「うきゅ」
やけに優しく聞いてくるクリアに、集まった四匹、あっさりと頷く。
「そっかー。じゃ、僕思うんだ。温泉に雷を落として電気風呂にしたら、血行とか良くなってもっと気持ちよくなるんじゃないか、ってね?」
「む? そうか?」
「しかし、雷などそうそう無いぞ?」
「ようし、修行あるのみだー」
「雷は気にしなくていいよ。さあ、風呂に入って入って。‥‥で、誰の胸が垂れてるって?」
疑問も抱かず、妙に張り切る狸たち。不自然なほどの笑顔で攻めるクリアだったが、
「確かにこの乳はまだ元気だな」
「だが、これもやがては‥‥。でっかいだけに大惨事だ」
「ついでに尻も‥‥うん、駄目だろ」
「へっへっへっへ」
殺気も邪気も無い馬鹿は、時として次の一手が読めない。全くの真顔のまま狸たちは無遠慮に手を延ばしてきた。きっちり掴み上げて確かめ、悲しそうにため息ついて頭まで振っている。
――ぶち。
「るぁいとにんんぐぅうううっ! すぁんだあああーーっっ!! ぶぉるとおおおおおおおおーーーっっっ!!!」
瞬時に目を血走らせ、髪を逆立てるクリア。緑の光を纏うやその手から稲妻が直接狸たちを打つ。
「待ちなさいっ!! このたぬーどもがあああっ!!」
その豹変振りにさすがの狸たちも慌てて逃げ惑う。一号、二号、三号も恐れを為して逃げ出している。それでも怒りの収まらないクリアは魔法を打ちまくる。
「そろそろかな」
混乱する現場で、のほほんと温泉に浸かっていたパウルが腰を上げる。狸らには酒を用意したが、彼自身が飲んでいたのはリカバーポーションエクストラ。おかげで負っていた傷もすっかり癒えて、温泉効果か調子もよし。
錦のハリセンと血染めのハリセンを手にすると、狸たちに向かって身構える。
「「「そ、その構えはまさか!!」」」
「聖十文字最終奥義――九龍・覇裡箋(くず・はりせん)っ!!!」
パウルの動きに戦慄する狸たち。だが、命乞いの暇も与えず張り飛ばす!! その威力‥‥狸たちは、風の速さで遠いお空に消えていった。
「待てこらーーっ!! 逃げるとは卑怯だよっ!!!」
「気持ちは分かるが、いい加減お前も静まれ」
ぺんっ♪
「はうっ」
狸たちが消え、落ち着きを取り戻した温泉場。
壊された柵もきっちりと修復し、ついでに風呂場も一度お湯を抜いて綺麗に清掃し直す。
二つに分かれた男女それぞれの風呂で、改めて一同寛ぐ。
「ああ、いいお湯だった。変な袋に占領させておくのは本当惜しいよね」
「土産に湯の花ももらえたし。もう少し落ち着いたらまた元の通り客が来るだろうな」
さっぱりとした様子でクリアに、ライルも頷く。柵は前よりも頑丈に作り直したし、これで狸たちがまたここで騒いでも、営業停止まではもういかないだろう。
ちなみに。飛んでった狸たちは、その衝撃で再び覚えた術を忘れた模様。だが、何度忘れてもまた会得してみせるぞ、えいえいおー、と鼻息荒くして修行を始めたようだ。