ソルフの木を夢見て

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 30 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月28日〜03月05日

リプレイ公開日:2007年03月09日

●オープニング

 魔法使い 魔法が無ければ ただの人

 とは、誰が言ったか知らないが。
 その超常の技は確かに便利だが、魔力消費という制限を持つのもまた事実。戦闘の際は、魔力を使い果たすと魔力回復までは打つ手を失ってしまう事も多い。
 故に彼らの間では、魔力回復の道具が重宝される。一般に有名なのがソルフの実。だが、これは日本では非常に手に入りづらい。
 それは何故か。
 理由は簡単。日本では気候風土が合わず、育たないのだ。
 つまり、日本でソルフの実を得るには温度管理などを非常に徹底して育てた貴重な木より収穫するか、月道貿易によって取り寄せるぐらいしかない。
 なので、非常に貴重で稀少、そして高価になってしまう。
 で、とある陰陽師の話になる。
 陰陽寮に所属する彼らも神都防衛の要。しかし、志士や侍たちと違い、魔法に頼る彼らはやはり魔力面の不安がある。
 もっとソルフの実が簡単に手に入ればいい。それにはどうすればいいか。
 日本で育たないのなら、育つように木を改良すればいいのだ!
 すなわち、身近な木と掛け合わせての品種改良。さらにはよく育つよう栄養豊富、それでいて安値で仕入れられる肥料の開発。成長を阻害する病体や虫を除去する薬の研究。
 ありとあらゆる可能性を考え、その全てに考慮。
 そしてついに!

「ソルフの木は立派に育った! 近寄った者を自分で食っちゃうぐらい立派に!!」
「化けてるだろ、それ!」
「うん」
 力一杯宣言する陰陽師だったが、ギルドの係員の的確な表現に打ちのめされて涙する。
「とにかく丈夫に! 外敵に強く! 土地が痩せてても他から養分を摂取できるように! そんな事をいろいろ考えて樹木子を探して接木してみたのがいかんかったらしい。なんかそっちの性質の方が強くなって、どうにも近寄れんようになった」
「‥‥頼む。やる前に駄目だと気付いてくれ」
「そうか? いい案じゃと思ったんだが」
 陰陽師、真剣に悩んでいる。本当に無茶だと気付いてなかったようだ。
「わしの思いが通じて元気に立派にずんずんぐんぐんと成長したというかしすぎてくれたまではよかったが、このまま放っとくと間違いなく被害が出る。肝心の実の方はといえば、多少は取れたがどうも魔力回復効果は見込めそうに無し。なので、勿体なくて仕方が無いが、木を倒す事にしたんじゃが‥‥」
「まだ何か問題があるのかっ!?」
 歯切れの悪い陰陽師に、係員は思わず言葉を強くした。否定してくれたらよかったが、悲しいかな、しっかり陰陽師は頷いて告げる。 
「うむ。栽培に当たり、環境管理に役立ちそうな精霊を見つけて協力してもらっておったんじゃが、そいつらが魅了にやられて木の守りについてしまってのぉ。木に手をかけようとすると、そいつらも襲ってくる始末。‥‥精霊たちは悪い奴らでは無いし、協力してくれていた者をもろとも倒すわけにもいかん。そうなるともうわしの手にはとてもおえんのでな。どうか木を倒す人員を貸してくれんかの」
「それは構わん。というより、放っておく訳には行かないだろうが‥‥」
 研究が盗まれるのを恐れて、木は人里から離れたところで栽培されていたという。それだけが救いといえば、救いか。だが、勿論放ってはおけない。
 はぁあ、と盛大なため息をつきながら、係員は冒険者募集の貼紙を作り出した。

●今回の参加者

 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3318 阿阪 慎之介(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb1822 黒畑 緑太郎(40歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2483 南雲 紫(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3824 備前 響耶(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 育まれた樹木子を退治に集まった冒険者六名。
「どうやったら、ソルフの木が樹木子になるんですかね」
 事情を聞いて、ベアータ・レジーネス(eb1422)は頭を痛める。まぁ、どんな木だって化ける可能性はあるのだが、今回はちょっと事情が異なる。
「新しい物を生み出す為の試行錯誤。その結果が必ずしも有益になるとは限らない。挑戦せねば何も生み出せはしないのだが‥‥今回はいささか外れすぎかもしれないな」
「木を育てる為に樹木子に接木など、その行動力には感嘆しますが‥‥。それに伴う思慮も養って下さいませ」
 共に京都見廻組。感じ入って深く頷く備前響耶(eb3824)の隣、御神楽澄華(ea6526)はがっくりと肩を落とす。
「同業者として魔力回復を切実に願う気持ちは分かるが、手段がなぁ‥‥」
 陰陽師たる黒畑緑太郎(eb1822)。魔力の有限は良く分かるし、同情も一入。だが、やっぱりそれ以上に事の問題には渋い顔を作っている。
「そうか。では、次はも少し考えるとしよう」
 言われた張本人。事の元凶たる陰陽師は困ったように額を掻くだけ。あまり反省したように見えないのが、何とも怖い。
「だが、為してしまったなら仕方が無いでござるな。人の都合で作られながら意図にそぐわぬと倒される樹木子は哀れだが、人に害を為すとなれば倒さざるを得ない」
「そうね。とっとと切り倒して終わりにしましょう。‥‥それにしてもまた木だなんて。私、前世で木に呪われるような事したのかしら」
 身支度を確認すると阿阪慎之介(ea3318)が先を促す。
 同意して頷く南雲紫(eb2483)だが、戦う前から妙に疲れた表情をしているのは‥‥本当に何の因果だろう。

 敵は樹木子だけではない。共に木を養ってきた精霊たちが魅了され樹木子の守りについている。
 正気に返った後、彼らへ事情を説明してもらう為に、依頼主である陰陽師にも同行願い、一同は樹木子の生えている場所へと向かう。
 研究内容を守る為と‥‥さすがに危険物を取り扱っている自覚はあったと見える。人里からは離れた場所で、それは栽培されていた。
「ほれ、あれがそうじゃ」
 案内役も兼ねた陰陽師が指し示すその先。春まだ早きの肌寒さを覚える中、青々とした葉を茂らせた木があった。
 強くもない風に枝葉はざわめき、幹に絡む蔦が蛇のように蠢く。その周辺を飛び回る鬼火が一つ。その傍らにある小さな池では蛟が煌く青い鱗を見せながらとぐろを巻いていた。
「蛟といえばそれなりに高位の精霊じゃなかったか? よく協力をこぎつけられたな。植物栽培より交渉術の才があるのでは?」
「ほっほっほ。頭脳労働がわしらの仕事じゃからの」
 感心半分、響耶が告げる。素直に褒められたと思い陰陽師が笑っていたが、冒険者の心中はそれほど暢気ではない。
 蛟の全長は樹木子を遥かに超す巨体。口の中には鋭い牙も伺える。鬼火も蛟ほどではないにしろ、結構厄介な相手。それをさらに厄介にさせているのは、彼らは結局操られているだけに過ぎないという事実。
「一応、おとなしくしていたようだね」
 緑太郎が金貨を媒体にサンワードで様子を尋ねる。訪ねる者の無いこの場所では獲物にも事欠くようで、樹木子は苛立つように葉をざわめかせている。
「依頼主は安全な場所に隠れていてくれ。それと、念の為に天候操作で晴れにしておいて欲しい。雨でも降らされたら面倒だからな」
「異なる魔法だと上書きされる恐れもあるが‥‥まぁ、大丈夫かの?」
 響耶に言われて、天を見上げた陰陽師。軽く頷くと印を組む。
「さて、それでは‥‥行くとしよう」
 防寒着を脱ぎ身軽になると、紫は斬馬刀を手にする。柔和な表情を引き締めると、厳しい眼差しを樹木子に向けた。
 蠢く樹木子の周囲、何をするとも無しにうろついていた精霊たちだが、一同の気配を感じたか動きを止める。
 緊張した空間。一番手で動いたのはベアータだった。
「まずはこちらから!」
 油を撒いて手にした松明で火をつける。精霊たちが人の姿に反応するより早く、高速詠唱を使って蛟を巻き込むようにストームを唱えた。
 ストーム自体に攻撃力は無い。が、暴風に吹き付けられるのは面白くないし、その風に乗って猛る炎に煽られれば例え傷を負わずとも攻撃されたのは分かる。
 蛟が鎌首を上げる。そして、鬼火もまた不埒者に対処しようと宙を追って来た。
 鬼火の体から赤い光が上がるや、ストームに吹き飛ばされ下火になっていた炎が一気にその火力を上げた。のみならず、不自然な動きを見せてベアータに襲いかかる。
 だが、猛火に嘗められながらもベアータには何の火傷もつかない。
「あいにくながら、耐火はちゃんと完了してるんだ」
 経巻によるレジストファイヤー。通常炎に対しては完全な防御を発揮する。だが、それは炎に対してのみ。
 続けざまに飛んできたのはウォーターボム。威力は低かったが、直撃を受けて怯んだベアータにすかさず鬼火が体当たりをかけようと迫ってきた。
「そうはさせぬ!」
 そこに慎之介が飛び込み、攻撃をオーラシールドで受け止める。巨大な盾に阻まれて、鬼火が弾んで跳ね返る。そこにすかさず慎之介は日本刀を振り払う。オーラパワーで切れ味は高めてあるが、それで倒すつもりはない。あくまで行うのは牽制だ。
 薙がれた剣圧に押されて、鬼火が距離を離す。代わりに襲ってきたのは炎。それから逃げるように慎之介も間を開けつつ、隙無く退治する。
 勿論、動いていたのは鬼火だけではない。蛟もまた動いていた。
 使う魔法は数多いが、戦闘で使うとなると限られる。その上、使う威力も初級程度なので、むしろ怖いのは肉弾戦だった。
「ちい!!」
 噛み付いてこようとした蛟の牙を、響耶は野太刀・大包平で受け止める。攻撃を受け止めるのは危なげない。だが、そのまま巨体に押されて大きく後ろに滑る。
 牙を振り払い、響耶は蛟と対峙する。大きく首をのけぞらせる相手に、次の動きを出させぬようにとすかさず挑みかかる。と、長い尻尾が横から殴りかかってきた。
「何っ!!」
 身構える間もなく、弾き飛ばされる。そこに今度は蛟の方から噛み付こうと追いかけてきた。
 鋭い牙が見る間に迫る。しかし、それが響耶に届く前に、その頭に向けて銀の矢が一直線に飛んできた。
 ムーンアローだった。
「すまない」
「いいえ――それより早く! 今の内に!!」
 短く礼を告げる響耶に、横笛から唇を離して緑太郎が答える。そして続けて呼びかけ。ただし、その相手はまた別の者たち。
 言われるまでも無く。紫と澄華が走り出していた。精霊たちの相手は他の冒険者に任せ、一気に間合いを詰めた相手は樹木子!
 させじと即座に蛟が動くが、その下から爆発が突きあがる。緑太郎がシャドゥボムで動きを抑えていた。
「精霊たちを食い止めるのも限界があります。時間をかける訳にはいきません。――手早く片付けましょう!!」
「ああ、分かっている!!」
 近付けば、即座に枝が襲い掛かってくる。それらを斬り払い薙ぎ払い、邪魔をされながらも二人は樹木子の下へとたどり着く。
「「せえええい!!」」
 気合を込めて澄華はバーニングソードを付与した大身槍・備前助真を、紫は斬馬刀を振り下ろす。
 互いに技巧を凝らした重い一撃ばかり。皮が爆ぜて、幹に深々と刀が食い込む。
 さすがにその一撃で倒すのは無理があった。だが、後何度か入れ込めば倒せる。
「つっ!」
 身の危険を感じてか、枝葉が二人の体に絡んでくる。衣服の下にもぐりこんで突き刺さってくる痛みから、巡る血が抜かれていく。
「悪いが倒れるのは‥‥お前の方だ!!」
 絡み付いてくる枝葉を無理やり引きちぎると、その勢いのままに再び刃先を木へと叩き込んでいった。
 纏いつく妨害を一切無視し、ただひたすらに幹に刃を刻んでいく。
「これで最後です!!」
 切り払った後が深い傷跡となり中心部にまで達する。そこにすかさず二人が幹に体当たりすると、その勢いを止められず、めきめきと音を立てて横倒しになった。
「やった!」
 枝はもう動こうともせず、葉も急にしなびたように垂れ下がり、散っていく。
 これで全て終わったとほっとしたのも束の間。不自然に広がった炎が冒険者たちを飲み込まんと襲い掛かる。驚いて逃げると、そこに蛟が牙をむいて噛み付いてかかってきた。
「どうして? 樹木子は倒れたのでござろう!?」
 慌てる慎之介が樹木子を見つめる。地面で横になっているそれはもはや動く気配を見せない。
「そう言えば‥‥。術をかけた者が倒されても、効果は時間中ずっと残るから気をつけてなー」
 逃げ惑う一同に、陰陽師の暢気な声が振り注ぐ。
 つまりは、樹木子を倒された今。残されたのは魅了されたまま、愛するモノを失って怒り狂ってる精霊二匹。
「まぁ、樹木子は無事に倒せたんじゃし‥‥。総員撤収! ほとぼり冷めるまで距離を置くのじゃ〜!!」
「「「「「「こら、待てーっっ!!」」」」」」
 後ろを向いて一目散に逃げ出した陰陽師に、冒険者全員の声が和した。
 
 それから数日後。ようやく魅了が解けたのを確認して再び現場を訪れる。
「樹木子を倒す為とはいえ、キミたちにも攻撃をしてしまってごめんなさい」
『こちらこそすまなかった。本当に迷惑をかけてしまったようだ』
 ベアータが素直に謝罪すると、蛟も鬼火も申し訳無さそうに頭を下げる。そこには戦った時の荒々しさなど微塵も無い。
「こちらは大丈夫だ。だが、これが原因で人を嫌いになったりはしないでくれ」
『嫌うなど‥‥。まぁ、ちょっと言う事には注意せねばならんと思ったが』
 響耶の心配に、精霊たちの口調が濁る。
 理由は簡単に知れた。彼らとて、人間全てを注意すべき対象だとは思っていない。
 気になる人物はただ一人。
「うーむ、樹木子が思う以上に強すぎたか‥‥。しかし、この生命力は惜しいな。もっと、小さく斬った幹に植えつけるとか。いや、この倒木を肥料に生かす方を考えるのがいいか」
 倒れた樹木子を確かめながら、ぶつぶつと呟く陰陽師。すでにその頭には次代の日本産ソルフの木に関する構想が練られ始めている。
「魔法を思いっきり使えるようになると、確かにありがたいが‥‥。頼みにしていいんだろうか」
「また何か面倒を起こしそうでござるな」
『そうならんように、注意しておこう』
 首を傾げる緑太郎。慎之介の的確な指摘に、精霊たちも疲れた様子で頷く。
 一抹の不安を覚えながらも、今回の報酬を受け取り――響耶は普段、陰陽寮には世話になってるからと辞退したが――、冒険者たちは京へと戻った。