【キの巡り】 京都見廻組 東の三

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:9 G 49 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月24日〜04月01日

リプレイ公開日:2007年04月01日

●オープニング

 京都東方。北の地より悠々と流れる鴨川は、四季折々の季節を見せて人々を和ませる。
 水場は生活の場。様々な人々が暮らしの糧を得る一方、死んだ人の極楽往生を願って水葬を行う地でもあった。
 そうした場所なので、死体が転がる事は特異な事でもない。が、明らかな殺害の痕跡が見られるとなれば話はまるで違ってくる。
 右の腹に鉄の棒を打ち込まれた死体。元々川原に放って置かれた者を加工されたり、あるいは殺害の上で打ち込まれたなどの違いはあるが、何者かが意図的に施したのは明白だった。
 京都見廻組が中心になって調査を開始した所、斬り捨てられた遺体は街中から自分で歩いてきた。魔法が働いているのは明らかだった。
「問題は、肝心の犯人がさっぱりと分からないことだな」
 京都見廻組の渡辺綱はそう告げる。何度も調書を見返すが、書かれている事は変わらない。
 死体を動かす事からクリエイトアンデッドは予想できる。死体の切り口からしてかなりの手練と云う事も。だが、それ以上に関しては推測の域を出ない。犯人は用心深く闇に紛れたままだった。
 四方で起こる事件と何らかの絡みを見せる事件。特に北方で起きている事件とは、向こうが呪詛を行おうとした加害者であるのに対し、その恨みを買っていた人物がこちらで被害者になっているなどの関係性を見せていた。
 そうこうする内に、最近では同じく右の腹に鉄の棒を刺されてはいるものの、明らかに先の事件とは違う者の犯行も目立ち始めていた。その陰にはとあるジーザス会の陰がちらつく。
「糸口は多いが、それが手がかりになるか分からない。何が一体どうなっているのか‥‥。だが、ここで放る訳にはいかんだろう」
 言って、綱は調書を閉じる。それが本当に完結するのは果たして何時になるのか。
 だが、険しい表情の中にはいずれ終わらせる決意がはっきりと見て取れた。

●今回の参加者

 ea1966 物部 義護(35歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2630 月代 憐慈(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8616 百目鬼 女華姫(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb3824 備前 響耶(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ルカ・インテリジェンス(eb5195

●リプレイ本文

 一刀の斬り口。その迷いのない太刀筋は命を奪う事をむしろ望んでるかのよう。
 医者といえば、冒険者で西に絡んで結構な腕前なのが来ているのだが、傷口から流派を当てろとなると確かにそれは厳しい。
「刀か剣かというが。剣はそんなに見んのであんまり確とも言えんが、こりゃ刀じゃろ」
 なので、京都見廻組・物部義護(ea1966)は目利きの医師を探してきてはみたが、それでもやはりぴたりと言い当てるのは難しいと言う。今の京は冒険者含め様々な流派が有象無象にひしめき合っている。
「上段打ち込みも示現流が有名じゃが、別にそこの流派が専売という訳でなし。――むしろこれは我流で覚えたか、倣うかしたんじゃないじゃろか」
 死体を検分して、医師は軽く肩を竦めた。
(「――と言われても他に手がかりはなし」)
 元よりあてにはしていないと、医師を送り届けたその足で義護は京中の道場巡りを行う。
 結果としてはやはり芳しくない。
 元より精錬された道場ばかりではない。中にはごろつきが用心棒やるのに迫をつけるべく適当に看板上げ、門下より金をせしめようとする所もあって、そういう場所で話を伺っても適当にあしらわれる。格式ばった所ではなおさらに恥や外聞の悪い内部事情などすんなりと語らない。
 それでも、足を棒にして歩き回り、話を聞き出しどうにか分かったのは‥‥京の治安は良くないという事か。
「いや、そういうのが分かってもなぁ‥‥」
 分かっていた事を再認識したというか、再確認したというか、現実を見たというか。
 ごろつきの数は多いし、そういうのが増えると当然揉め事も増える。その揉め事を収めて小銭を稼いで羽振りを良くする者も多いし、そんな現状を嘆いて挙動不審かと思えば五条の宮を頼って長州に向かってしまった者なども相当数いる。
 その中から今回の事件に関係しそうなのがいるのかといえば、さてどうだろう。なので、さらに頭が痛い。
「とっとと新京都守護職でも決まらないものかね」
 とはいえ、平織虎長に五条の宮と卓越した腕前とカリスマの後に続く者などそう居る訳もない。迂闊な者を据えても、『前は良かった』とぼやかれては余計に面倒を増やすような物。
 結局は、この落胆こそが今の治安につながるのだろう。

「世は憂い、故に救いを求める‥‥。そこに颯爽とジーザス会が登場したって訳なのね」
 ジーザス会について調べているのは百目鬼女華姫(ea8616)。
 ジーザス会は、イスパニアに本拠を持つジーザス教の修道会。遠いかの地からジーザスの教えを広めるべく、フランシスコ・ザビエルを長とした一団が渡来し、熱心な布教に取り組み出している。ジーザスといえば黒か白かとよく問われるが、彼らは基本的に黒を信奉している。だが、慈愛の白を崇める者も共にいるので、結局は混合という事らしい。
 戦乱の世に病んだ人々は神に救いを求める。古い神が駄目なら救ってくれる新たな神を探す。救う側と救われる側の思いが繋がった訳なのだから、最近になって急速にその勢力を拡大させているのは当然といえよう。
 京の内外でも、ジーザス会は神の教えを広めんとあちこちで様々な活動を行っている。件の会はその一つという訳だ。
「評判はいいよねぇ。周辺の清掃活動とか地味な事もしてるみたいだよ。前に女房が夫の暴力に悩んで逃げてきた時もあったけど、暴れる夫の前に神父が立って黙って殴られてるのを見たよ。あれはなかなか真似出来ないねぇ〜」
「へー、そうなの?」
 とある茶屋に入って。団子と茶を並べて話すのは先ほど知り合った青年。
 感心しきりに女華姫は頷く。確かにそれがそうならたいした人物である。
 他にもいろいろ話を聞いたが、概ね神父の評判はいい。温厚で人当たりもよく、辛抱強い。それだけなら、実にいいのだが。
 どうにも胡乱な事がありそうなのは、すでに女華姫も聞いている。少なくとも神父は『人』とは言えない。
「帰り際の亭主の様子じゃ、また来て何かしでかすだろうと思ったけど。悪い事は出来ないもんだね、それから南の御池で殺されちまったって話さ」
 さすがに外聞が悪いと、目の前の青年は声を潜める。周囲の目を気にするように動かしたので、女華姫が一瞬身を強張らせたのにも気付かなかっただろう。
 会も神父も評判はいい。だが、ふとした弾みでそんな話も聞いた。
 ジーザス会に来た全ての人が来た人全てが殺された訳でない。また、関係ない人が殺されてるのも事実だし、関係と言っても被害者の知り合いの知り合いが会に所属しているみたいな間接的な繋がりも多いので、世間では繋げて考える者はそういないようだが。
「そんな事より、キミの事を聞きたいな。普段はどこで何しているの? 家はどこ?」
「あら、ごめんなさい。ちょっとお茶を飲みすぎたみたい」
 妙な話を忌避するかのように、青年は女華姫に詰め寄る。軽く笑うと女華姫は女将に言って手洗いを貸してもらう。
(「そろそろいい刻限のはずよね」)
 などと考えながら手水を覗き込むと、そこには見慣れた普段通りの顔が映っていた。
 もう一度、それを確認するとたまさか通りかかった女将を呼び止める。
「あの席にいた彼女は用を思い出したので帰るって話なの。悪いけど、あの彼氏にもそう伝えておいてくれないかしら」
「へ、へえ」
 こんなお客、来てたかしら? 
 そう顔に書いてる女将に飲食代をそっと渡し、女華姫は表から店を退散する。青年の前も堂々と横切ったが、向こうは気付く気配なし。さもありなん、彼が待っているのは人遁の術で化けた『細面の豊満な美女』。衣装は勿論、体格すら異なる女華姫に気付くはずがない。
 何だか浮かれて茶を飲み、彼女を待つ青年に、心中、申し訳無く手を合わせた。

「全部の山が宙に浮いている感じなんだよなー」
 京都見廻組・月代憐慈(ea2630)と空を見上げる。、降り注ぐ日差しは温かで、その下ではさらさらと心地よい音を立てて川は流れ。このままのんびりと川原で座っていられたら幸せだが、勿論そうはいかない。
「糸口はあるはず。探し方が悪いだけだ」
「問題は、その糸口をどこに見つけるか、だな」
 告げるのは同じく京都見廻組の備前響耶(eb3824)。厳しい声音のそれを、憐慈は正面から受け止め、そして息を吐く。
 事件は確かに転がっているのだし、それに付随する憶測も成り立つのだが、如何せん、それが確かである証拠にかける。
 こちらが下手をうっているのか、向こうが上手なのか。とかく、今はやれるだけの事をやるべく捜査に乗り出す。
 憐慈が赴いたのは鴨川上流。鴨川上流は北の山々が連なり、数々の寺社仏閣がある。
 アンデッドに土蜘蛛といささか物騒な話も転がっていたが、そこはそちらの組に任せて自分は目当ての場所に急ぐ。
 その神社や寺で話を聞くも、成果の程はさてどうか。北で呪うと願いが叶うという噂がある為、確かにそうした人も訪れるという。が、疚しい思いのある者は姿を隠しがち。なので、どこの誰かというのまでは判断しづらい。
 響耶はといえば、北での被害者の周辺を洗い直し、その者が誰を恨んでいたかを探っていた。大抵は被害者の前に亡くなっていたり、外からではさっぱりとわからなかったりとしたが、それでも幾人かに目星をつける。
 その中の誰かが狙われるのかは分からないし、そも誰も狙われない可能性も高い。それでも当てなく動くよりはマシだろう。
 中でも一番妬まれそうなその人物を注意深く見張る。恨まれてるといっても、逆恨みもあるので一概に悪党といえたもんでもない。見張った人物は確かに小ずるい部類の人物ではあったが、それで死ぬには少々可哀想と思える程度の人柄ではあった。
 そうしてひとまず見張りを入れて数日。
 その夜は仕事仲間と飲み明かし、遅くに千鳥足でそいつは夜道を歩いていた。その足がふと止まると、ふらふらと道を折れて小道へと入り込む。
 用でも足すのかと思いきや、次に上がったのは悲鳴だった。
「ちぃっ!」
 慌てて尾行を解いて、駆け出す。曲がった角を覗いてみれば、新月間近の暗闇の中で落ちた提灯が燃えている。その灯りに照らされ見えるのは、血だらけで倒れる先ほどの人物と――黒尽くめで顔も隠した大男。体躯の良さから考え見ても、ジャイアント種族と考えた方がよさそうだ。
「京都見廻組だ! そこを動くな!」
 響耶が声を張り上げ、霊剣・アラハバキを手にする。同時に相手の黒尽くめが動いた。血塗れの日本刀を無遠慮に振り上げ響耶に斬りかかる。
「やはり聞く気無いな」
 憐慈も短刀・月露を手に加勢に入りかけた。
 そこへ、大男の背後から黒い光が飛んで来る。あっという間も無く、憐慈の体から破壊される。
「がはっ!」
 血を吐き倒れる憐慈。
「やれやれ、見つかっちゃいましたねぇ」
 そこに何とものんびりな声が振り注ぐ。
 大男の巨躯に隠れ、闇からひょいと顔を出したのは一人の僧侶。いや、笠を被っているので顔は分からない。顔を出すというのは変か。声や体躯からしてまだ若そうではある。
「どうにも分が悪いし、面倒ですし。しからば、僕はこれにて御免です」
 悪びれもせず、死体にかがんで触れると、その僧侶はさっさと小道の奥へと逃げていく。
「ちっ」
 黒尽くめも口惜しそうに響耶と憐慈を見ていたが、不利は悟ったのだろう。僧に倣ってその後を駆け出す。
「待て!」
 むざと逃がす訳もない。即座に追いかけようとしたが、そこに立ち塞がったのは死んだはずの男。いや、呼吸も止まり、見るからに生きてはいない。
 先に触れた際に僧が魔法をかけたのだろう。その右の脇腹には鉄の棒。死んだ男は襲ってくる訳でもないが執拗に響耶の絡みつく。
 それを振りほどき、即座に後を追ったが、新月闇に姿は見えず。響耶が柴犬・影牙に匂いを負わせるも、当然とばかりに川を過ぎってそこで潰えた。
 さすが悪党は逃げ足だけは誇れるらしい。