【キの巡り】 京都見廻組 北の三

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 3 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:03月24日〜04月01日

リプレイ公開日:2007年04月01日

●オープニング

 京都北方。鬼門封じとして点在する寺社仏閣の数々と、北の守りを為す山々が連なる。
 その山で、死体が見付かったのはすでに幾月前の事か。それもただの遺体ではなく、腸の代わりに土を詰められ、その上で土中に埋められているという変わり様。
 殺害の後は明白。京都見廻組が調査に乗り出すと、北の霊山に呪詛参りに向かった者が殺されていると分かり、犯人と思しき忍者とも遭遇した。
 さらに調査が深まれば、京都の他三方で起きている事件とも関係を見せ始め、さらには何やら妙なジーザス会も陰を落す。
 奇妙な話はずらずらと出てくるのだが、肝心の犯人逮捕にはまだまだ至らない。山中での見付かる死体は後を絶たず。加えて最近では、便乗したかこれまでの犯人の手口とは少々異なる死因の遺体も見つけ出され、陰でとあるジーザス会がちらりと姿を見せる。
「こうもいろいろ怪しい所が出てくると、どこから手をつけていいんやら」
 京都見廻組・占部季武はそう言いながら天を仰ぐ。ジャイアントの気質からか、あまり頭脳労働は好かないようだ。が、仕事を選り好んでもいられない。
 一刻も早い解決をと、あちこち駆けずりまわるが、成果の程は‥‥今一つのようだ。
 おまけに。そうこうしている内にまた新たな問題が発生している。
「死体が土に埋められているせいで、発見しづらかったのは確かだが。そのせいで北の山に以津真天と餓鬼がうろつくようになったってぇ話だ」
 以津真天は主に飢えて死んだ人間が恨みを伝える為に変化したと言われる鳥の妖怪。餓鬼は強欲な人間が罰を与えられて彷徨った姿を言われている妖怪。共にアンデッドである。
 北で死んだ人間は主に誰かを呪い呪おうとして亡くなった者たち。業の深さがかような怪異を招いたか。
「以津真天はひとまず三〜四体ほど。餓鬼はさらに多くて十体以上はいるらしい。おまけに死体を栄養にしたか、土蜘蛛が大量発生しているらしい」
 空からは以津真天、地上は餓鬼がうろつき、地中には土蜘蛛が待ち構える。北の山は危険きわまりない場所と化していた。
「今は山中に留まっているとはいえ、いつ都にまで下りてくるか分からん。どれも強さはそこそこだが、武芸のたしなみが無い者には危険きわまり無いし、何より数が多い。
 見廻組の仕事はあくまでも市井の治安維持。妖怪退治は黒虎や‥‥ギルドの仕事だよな。とはいえ、場所がら関わりが無いわけじゃないし、さてどうしたもんか」
 あくまでやる事は連続殺人、死体遺棄事件の捜査。その上で、現場をうろつく怪異たちをどうするべきかも考えねばならない。

●今回の参加者

 ea4331 李 飛(36歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea5278 セドリック・ナルセス(42歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 ea6354 小坂部 太吾(41歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8445 小坂部 小源太(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea9850 緋神 一閥(41歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb3297 鷺宮 夕妃(26歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

エステラ・ナルセス(ea2387)/ エルネスト・ナルセス(ea6004

●リプレイ本文

 北の山には死体が埋まる。
 その死体に触発されたか、以津真天や餓鬼が集い、土蜘蛛が獲物を待ち構える。
「北の山は霊山や言うけど‥‥、それがここまで壊れてしもうたんなら、山の力は抑えられてしまっとるのやろか」
「さあな。そこらは詳しくないんで知らんが、少し前陰陽寮で聞いた話によると他の箇所含め現状が続くなら良くは無いと言われたそうだ。実際‥‥よくはねぇやな」
 不安げに周囲を見渡す鷺宮夕妃(eb3297)に、京都見廻組の占部季武は困ったように頭をかく。
 人が入らず野山は荒れ果て、空気も重い。春間近で緑芽吹くはずのそこは、とても明るく人々の心和ます場になりえなかった。
「厄介な事態だな、犯人は一体何を考えている?」
「前々からの犯人に加え、また別の便乗犯もいるんでしょう? そちらの手口は?」
 憤る李飛(ea4331)に対し、セドリック・ナルセス(ea5278)の表情は不安げで暗い。四方の事件の新手の影にはジーザス教会がちらほらと見られるのだ。信徒としてはやはり気がかりで仕方が無い。願わくば、何かの間違いであるように祈るばかり。
「前々からの奴が玄人の仕業だとしたら、新手の奴らは素人と見られている。似せてはいるが、複数の手がかかっているのは確かだそうだ」
 事件に別の事件が重なったのか、事件が広がったのかはわからない。ただ、飛の言うように厄介な事態になっているのは確か。
「それを確かめる為にも、何らかの手がかりを早い所見つけたいもんだよなぁ」
「あいすまんが。我らは今回、調査より物の怪の殲滅を優先したい」
 ぴんと背筋を伸ばした後、小坂部太吾(ea6354)は丁重に頭を下げる。隣では、小坂部小源太(ea8445)もそれに倣う。
「まぁいいさ。どの道、山に入れば奴らの退治も考えなくちゃいけねぇしな。だが、気をつけてくれよ」
「申し訳ない。代わりというのも妙じゃが、調査が進め安くなるよう、こちらでなるべく奴らは引き受けよう」
 きっちりともう一度礼を取ると、太吾は小源太を連れて早々と山に入る。
「さて、此方も行くとするか」
 季武が大きく伸びをすると、山へと向かう。その後に続きながら、セドリックはふと聞いた事を思い出す。
「そういえば、北で呪えば誰かが殺してくれるという噂があるといったじゃないですか。知り合いたちがその発生源を探ってくれたんですけど、やっぱり作為的なものがあるようです」
 エステラ・ナルセスが東部で、エルネスト・ナルセスが繁華街で聞きまわっていた。一日の手伝いでは量も知れるがそれでも、どうも意図的に広めた気配があった。聞いた人間を手繰っていくと、たまたまそこに居合わせた人から聞いたという話にいきつく。ただそれも五条の宮の乱が起こる前辺りが顕著で。その後からになるともう大体広め終えたか、ぱたりと広げていた陰は途絶えてしまった。
「そんな噂を広めてどうしようっていうんだか‥‥。とかく、今はやる事をやるだけだな」
 季武の声音が重くなる。小さく揺らいだ葉の影を凝らせば、姿を隠し損ねたか巨大な蜘蛛の姿があった。

「兄‥‥いえ、局長! 僕らだけではやはり危険では」
 インフラビジョンで周囲を見ながら、慎重に山を進む太吾。彼に従いながらも、小源太は不安を口にする。
 確認した数は、餓鬼だけでも二桁。土蜘蛛などあわせたら、自分たちの十倍の敵を相手にせねばならない。いかに格下の相手でも、これは少々無茶といえよう。
 それは言わずとも分かってるはず。そう思い太吾を見れば、やはり表情は厳しい。
 太吾は立ち止まると、その厳しい表情のまま、小源太を振り返る。
「確かに愚行かもしれん。だが、土蜘蛛に死人‥‥。陰の気がそれだけ強まっておるのではないか? 結果どうなるか、おぬしなら容易に思い出せるはずじゃ」
 はっとして小源太はうな垂れる。
「確かに‥‥。やるしかないでしょう」
「うむ。分かったならそれでよい。ではさっそく頼むぞ」
「はい!」
 太吾が促すと、小源太は強く返事をし、灰を取り出す。印を組み詠唱すると、灰から小源太そっくりの分身が立ち上がる。
 太吾の指示に従い、小源太が分身を動かす。指示された通り、進んでいた分身はある地点に差し掛かるとたちまち元の灰となって消え失せた。
「見つけた。まずは一匹!」
 消えた地点。土の中から巨大な蜘蛛が顔を覗かせている。それを目掛け、小源太はシールドソードを構えて大きく振るい、衝撃波を飛ばす。バーニングソードを付与したその威力で、見えていた土蜘蛛を土砂ごと吹き飛ばす。
「ギ、ギギギ!!」
「小賢しいぞ! 神妙にせい!」
 木陰から飛び出してきたのは一匹の餓鬼。素早く太吾がライトメイスで殴りつけると、餓鬼が反動で弾け飛ぶ。
 騒ぎに気付いたか、足元では他の土蜘蛛がさわさわと動き、遠くからは餓鬼が生者に気付いて近付いてくる。頭上では「いつまで」と陰鬱な声を発して以津真天までもが飛んできた。
 小源太は群がる敵をソードボンバーで、時には重い一撃を叩き込む。
 蹴散らした相手を太吾がファイヤーバードで薙ぎ払う。厄介なのが以津真天の言霊だが、フレイムエリベイションで己が士気は高めてある。高揚した精神がどれだけ抵抗できるか。後は運のようなものだ。
 二人とはいえ連携して上手く退治はしているが、多勢に無勢。盾で受けるも躱すも限度があり、餓鬼が爪を立て、土蜘蛛が噛み付き、以津真天が。薬や解毒剤は用意しているが荷の中ではとっさには使えない。
 倒れてそのまま逝かぬよう。それだけを注意しながら、二人は慎重に対処していく。

 維新組二人は頑張りはしているのだが、如何せん、妖怪の出る範囲は割りと広かった。向こうに引き寄せられなかった物も当然いて、無遠慮に突き進むというのは危険極まりない。
 なので、夕妃がバイブレーションセンサーの経巻で感知。地面に潜む土蜘蛛は、余り動かないのか振動に乏しかったが、それでも分かる所は分かる。セドリックがアッシュエージェンシーで囮を作っておびき寄せ、出てきた所を攻撃。
 そうやって慎重に動いても、やはり獲物を狙って餓鬼やらが近付いてくる。
「犯人がこんな所で活動しているなら、よほど神経が太いか、腕に自身があるか、‥‥あるいは妖怪変化に違いないでしょうね」
 季武が切り払った土蜘蛛に、セドリックがバーニングソードを付与したアゾットを突き立てる。
 戦闘は厳しかったが、一時に出る数もそう多くは無い。囲まれても、縄張りがあるのか幾らか応戦するとすぐに数は減った。とはいえ、場所を変えたらまた同じ事の繰り返しなのでうっとうしさは続く。 賊が何人いるかは分からないが、こんな所を好きこんで歩くとは思えなかった。
「けど、結構な数を退治できてますよって。小坂部はんの方にも出てる事を思えば、粗方は退治できたんとちゃいますやろか?」
 白紙の経巻に地形と土蜘蛛の位置を記している夕妃。餓鬼や以津真天もどこら辺で何体遭遇したかなど細かく記している。とにかく目的は調査だ。分が悪いと思えば一端身は退くがそれでそこを終わりにもできない。再調査で訪れやすいよう、記録は大事だった。
 攻撃用の経巻も持ってきてはいるが、魔力消費も大きいので多用も出来ない。バイブレーションセンサーによる索敵時間は短く、回数を確保しようと思えばなるべく攻撃は控えざるを得ない。
「以津真天か‥‥。こいつと賊が出くわしたらどうなるか。罪悪感に囚われ自白させられたらと考えはするがな」
 いつまで、いつまでとうるさく泣き喚く怪鳥。抵抗できずに蹲る仲間抱えて撤退する事もあれば、今のように襲ってきた隙をついて長槍で貫く事もあった。飛の持つ長い柄の槍は、その獰猛な攻撃が届く前に、相手を刺し貫き、深手を負わせた。
「確かに、そうなったら面白そうだな」
 飛の言葉に季武は笑う。恐れて縮こまって弁明を述べる犯罪者。罪をはかせるのにとてもやりやすいだろう。もっとも、そういう状態になった相手を以津真天は食べてしまうのだから困る。
「まさか、殺られてしまったということはないでしょうね?」
 不安になってセドリックがそれを口にする。
「無いだろうな‥‥。死体が埋まっている限りは」
 苦い顔で、飛は柄で土を掘り返す。そこからは埋められた足が無造作に突き出していた。

 太吾と小源太は率先して、他は慎重に出たり入ったりを繰り返して山を歩き回る。
 結局調査といっても、ほとんど山に巣食った怪異討伐に明け暮れ。新しく死体が見付かって、元気に犯罪は行われているのようだという事を確認したぐらいか。その死体も喰われてぼろぼろの酷い有様で、かろうじて痕跡が判明するぐらい。
 ただ、やはり物騒なのか他三方に比べると、便乗したと思しき死体が見当たらなかった。