【キの巡り】 京都見廻組 西の三
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:8 G 76 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月26日〜04月02日
リプレイ公開日:2007年04月03日
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●オープニング
京都西方。山陽道・山陰道と西の諸国に出向く重要な街道が走る。
人が多ければ物取り目的の賊や妙な取引などが悪事の出入りも多くなるのだが、最近街道を荒らしているのはそれとはまた少し違う。
狙われたのは行きかう旅人。残念ながらそれ自体は珍しくも無いが、その事件では殺害した上で相手の胸を焼くという不可解な事を行っていた。
最初は賊の仕業とされ、その犯人たちも京都見廻組が捕縛した。が、捕らえた賊たちが吐いたのは、彼らもまた人に頼まれて犯行を行っていたという事実。
話を持ち込んだという紫頭巾の女は、賊が捕まった後は自ら犯行を繰り返し、死体を増やしている。一度接触を果たしたがからくも逃げられたのは悔しい所だ。
「その後も調査を続けた結果、女はどうも南方面と京都とを行き来している感じがあります。京都内では目立った痕跡が無い事を思えば、考えられなくもありません。南といえば、金時が中心で調べている巨椋池の事件での犯人河童も南に逃げたようですし。さて何か繋がりがあるのでしょうか」
京都見廻組・碓井貞光はそう言って首を傾げる。
南。大坂、大和はじめ諸藩が連なる。人がいる所、悪があるのは必須。悪人に国境は関係無いから、何の拍子でこちらに流れて来るか分からない。
どちらにせよ、そこら辺は京都見廻組にとっては管轄外になるので、迂闊に手が出せない。
「かといって、京都内で起こる事件を放っておく訳には参りません。最近では、その女とは別の者が行ったと思われる犯行も見受けられます。さらには鬼火まで彷徨い出る始末」
貞光の表情が曇る。
紫頭巾の女と思われる犯行は、毒のついた刃物で殺害した後に胸を焼いている。だが、同じように殺害され胸を焼かれても他の者の手によるという犯行が見受けられるようになった。その陰にはとあるジーザス会がちらついてはいる。
鬼火は、火をよからぬ事に使おうとする者に罰を加えようとする火の精霊。人を殺しその胸を焼く。けして許される行為ではないが、それは鬼火たちにとってもそうだったらしい。
鬼火たちは、街道に現れ火を使う者に襲いかかる。おかげで物騒な夜がさらに危険になった。
「鬼火たちも厄介ですが‥‥私たちの仕事はこの事件の解決です。化け物相手となると少々管轄違いですから無理に対処する必要もありません。
とりあえず、紫頭巾の女はどうやら毒を使うようですから、接触する際はくれぐれも気をつけて下さい。刃に塗られた毒は鉱物らしいですが、だからといって他の毒を持ってないとも限りませんからね。
また他の悪人達もうろついている様子。何がどうなっているのか分かりませんが注意して行動してください」
生真面目に貞光は告げると、得物を手にして現場へと向かった。
●リプレイ本文
「女を見たのは、俺だけというわけか」
賊の証言を元に書いた人相書きに、白翼寺涼哉(ea9502)が更に情報を加える。
「別の者による手口は、例の紫頭巾とは違うな。似せてはいるが、太刀筋や得物が違うし、あの女が使ってる毒の傾向が見られない。その上で、仕業はばらばら。複数の手があるのはまず間違いないな」
女が毒を使う分、西は割りと違いが分かりやすくはあった。
いい加減、検死医のようだと思いながらも死体の検分。これも人助けとは思いながらも、その内、死臭が身につくのではと不安にもなる。
「紫頭巾の女が使ってる毒だが、わりとありふれた品を使っている。幾つか混ぜてるので面倒にはなってるが、ほぼ原材料のままであまり精製もされていない。一応の知識があれば、簡単に作れる品だそうだ」
自身の知識だけでは心もとない為、詳しい者を探す手間も必要ではあったけれど、そういう事らしい。解毒剤も用意できるそうなので、これは一安心と言うべきか。
「ところで、今回の鬼火。あれは本物なのでしょうか?」
「ええ、間違いないありません。火を持って歩いているだけで襲われるので、おちおち出歩けないと苦情が来ています。――もっとも、鬼火がいなくても物騒には変わりないですが」
苦々しそうに顔を歪めるのは京都見廻組の碓井貞光。治安を守る者として、この事態は複雑な思いがあるに違いない。
「そうですか。最近、放火に関する依頼が多かったので‥‥。今回の鬼火も在る意味『火剋金』か」
炎はその場だけに留まらない。下手に類焼すれば、無関係な者を無尽蔵に巻き込んでしまう。そんな悲劇を涼哉はなんとしても止めたかった。
先に見張りに立ってもらったケント・ローレルの話では、京都と街道を結ぶ人波に怪しい人物は見当たらなかったとか。
「早く捕まえないとな」
呟くように告げた涼哉に、貞光も強く同意していた。
ジーザス会は、イスパニアに本拠を持つジーザス教の修道会。遠いかの地から尊きジーザスの教えを広めるべく、フランシスコ・ザビエルを長とした一団が来日し、熱心な布教に取り組んでいる。ジーザスといえば黒か白かとよく問われるが、彼らは基本的に黒を信奉。だが、慈愛の白を崇める者も共にいるので、結局は混合という事らしい。
戦乱の世に病み、救われたい者と救いたい者の想いが重なって、最近、各地で急速にその勢力を拡大させていた。
京の内外でも、ジーザス会は神の教えを広めんとあちこちで様々な活動を行っている。件の会はその一つという訳だ。
「かの神父が現れたのは長州反乱の後。戦に投げ出された人々に、神父が手を差し伸べていき、その人柄を慕って集まった人々が少しずつ増え、拠点としていた廃小屋にも手を加えて教会にして‥‥という事らしいですね」
ジーザス会について調べたミラ・ダイモス(eb2064)。怪しいと見るのは何も彼女だけではない。他方面でもいろいろと探っている者は多かった。
「四方で事件が起き出したのは、反乱が起こるより一ヶ月は前から起きているのですから、信者が関わってないという読みは妥当ではあります。が、元よりこの事件の黒幕が意図して作り上げたと仮定も出来ます」
眉根を潜める京都見廻組の御神楽澄華(ea6526)に、ミラも複雑な表情で頷く。
「被害者の周辺には、かの教会に関わる信者がいますね。ただ直接の関わりではなく、知人の知人みたいな関わりもありますが」
教会に救いを求めていた者に危害を加えていた者が被害者にいないか。そこを調べていたミラだが、案外簡単に分かった。四方のどの事件にもその関わりにある者がいる。ただし、幾ら調べてもジーザスとは縁も所縁も無い者もかなりいた。
「女は南と京を行き来しているという話ですが‥‥、かの教会が関わるならば京から街道に続く場所を中心に張り込みですかね。あまり、大仰に動くと向こうに此方の動きがばれてしまいますが」
軽く澄華は肩を竦めて、ちらりと物陰を伺う。
そこにいるのは、アイーダ・ノースフィールド(ea6264)。目が合い軽く笑みを交わすと、また何事も無かったかのように距離を置いて隠れている。二人の動きのさらに裏から事態を探ろうというのだ。
まぁ、囮に使われたようでもあるが、それぐらい慎重なのがいいかもしれない。
「京の情勢は良くはなっておりません。こういった事件も早く落ち着けなければなりませんね」
一応戦はないものの、西は五条の宮が新帝として名を上げているし、東も何やら揉めている。またいつごたごたが起こるか分かったものじゃなかった。
西の街道。ゆらりと漂う鬼火は五体。新月間近な暗い夜道を照らしている。
鬼火を探すのは訳無かった。出る、という場所に赴いて、提灯の一つも翳せば程なく姿を現した。
「せやから。あんさんらが怒るのもよう分かる。本来、火は畏れ敬うモノ。浄化という清浄なるモノやからな」
その五体を前に、将門雅(eb1645)は頭を下げている。骨身についた商人気質、猫を被って頭を下げるぐらい容易い。ましてや本心から出る言葉なら、自然動作もついてくる。
「この度の火を畏れぬ者を成敗するんは、少し猶予をくれまへんやろか?」
雅の説得に、鬼火は迷うように揺れている。腹立ちは収まらないが、どうするのか迷っているようだ。
死体に火をかける今回の事態は、鬼火にとって大層腹立たしかったようで、最初はいたく立腹していた。それをおとなしく話を聞いてくれたのは、雅が鬼火の篝を連れていたの事が大きい。
お仲間の仲介があって警戒しつつも話は聞いくれたし、今も冷静に吟味してくれてるよう。
もっとも、篝との移動はずいぶんと苦労した。殺人事件に鬼火騒ぎと騒ぎ続きで住民はぴりぴりしている。下手に鬼火と仲良しで見付かったら、即行雅が下手人として叩かれかねなかった。
「お願いします。火を悪用する者は必ず懲らしめますので」
ミラも口添えて頭を下げる。
『では、ひとまず様子を見よう。だが、何かあればわしらが黙っておらん。先に不埒者を見つけたら処分するんでそのつもりで』
それだけを告げるとふらりと鬼火は立ち去っていく。ひとまずはこれで一安心というわけか。
「問題はこれからやけどね。ほんまに難儀なこっちゃで」
一つの肩の荷が降りたと篝をねぎらいながらも、雅は息を吐く。
紫頭巾の女の情報を集めていたが、これがなかなか集まらない。向こうもかなり用心しているらしく、なかなか尻尾をつかませてくれなかった。
「こちらも似たようなものね。怪異が起こるとはいえ、人の出入りは多いのだから、少々の不審では誰も気にも留めないようです」
似たような表情で告げるのは澄華。京から街道中心に聞きまわったが、これといった情報は得られなかった。
「俺と将門はもう少し街道で見張る事にするが‥‥そっちはどうする?」
「そうですね。地味な見廻りぐらいしか今は手が無いでしょうか」
涼哉の言葉を受け、ミラが考え込む。と、涼哉が連れていた柴犬の子龍が激しく吠え出す。
「何だ!?」
「あそこ! 見えてるのは火じゃないですか!?」
夜の闇に赤い光。はっとして一同はそちらに駆け出す。
藪の中。見えたそれは確かに炎。周囲ではぐるぐると鬼火が付きまとう。その中心には倒れた女と、火まみれでのた打ち回る女がいる。
「何をしているのですか!」
素早く澄華とミラがそれぞれの得物を手にして鬼火と対峙、雅と涼哉が倒れた女達に駆け寄る。
「こっちは‥‥駄目だな」
「こちらはまだ息があるよって。頼んます!」
倒れた女を見た涼哉は頭を振ったが、声を荒げる雅に応え、急いで魔法を詠唱する。
「どうしてこんな事を!」
『罰だ』
澄華が問うと、端的に鬼火は告げる。
聞かずとも、一目見た瞬間に事は読めていた。倒れた女の胸には短刀。不自然に広がっている炎は油を嘗めたせい。火に撒かれた女からも油の匂いがする。
「‥‥しかし、罰はこれで十分なはずです。それとも、殺すまでやるというのですか?」
澄華の声が低くなる。大身槍・備前助真を構える手にも力が篭り、ミラも斬魔刀の切っ先を油断無く向けている。
その気配に押されてか、鬼火たちはゆらりと揺らいだ後にゆっくりと引き下がり、そして闇に消えた。
「よし、何とか大丈夫だ。もっとも、もう少しおとなしくしてもらうがな」
コアギュレイトをかけた女は身動きが取れない。手当ての為でなく、逃亡阻止の為。推測はつくが、事の顛末にそれ以上の事を語ってもらわねばならない。
「そういえば、アイーダさんは?」
遺体と怪我人を運ぶ手はずを整えながら、ふとミラは周囲を見渡す。が、どこにも彼女の姿は無かった。
アイーダが戻ってきたのは日が変わってから。その間にも調査は進んでいる。
「あの女は洛内に住む者で、あの日は友人の相談に乗る為、たまさかあの場にいたそうだ」
友人は夫の浮気に悩み、その相談を女に持ちかけてきた。戯言で女は『相手をいっそ殺してしまえ』と言ってしまったのだが、どうやら友人は間に受けたらしい。もしやと思って後をつければ、友人が相手を呼び出して殺害する現場を見てしまった。とっさに庇わねばと油を用意して件の殺人事件に見せかけ‥‥ようとして鬼火に襲われたという。
「実際、殺された女と彼女の接点は無し。話に嘘はないし、その友人とやらも行方が知れなくなっている。‥‥ついでにだ‥‥、あの女性は例のジーザス会に出入りしていてかなり入れ込んでいる、らしい」
告げた貞光はここで息を吐く。聞いていた冒険者たちが一応に顔を顰めたが、それはひとまず置いておいてアイーダに目を向けた。
「こっちは件の紫頭巾を見つけたので、追ってみたわ」
笑みを見せて、アイーダが告げる。
鬼火の騒ぎの際に。現場を遠くから見ている者がいるのに気付いた。かの紫頭巾と気付いた時には、向こうは現場を離れる所。
知らせる暇もなく、その後を追う。
紫頭巾は街道をほとんど使わず、人目を避けるように終始山道を歩き通し。かなり慣れているようだった。
「でも、かなり行ったところで小舟を用意してみたい。川を下られてお終い。それから人里探して所在聞いたら、大坂近くで、川もそっちにむかって下ってるって」
軽く告げるアイーダだが、反面、貞光の顔はますます渋り顔になっている。
さもありなん。情報は増えたものの、そちらは治外で手が出せない。さて、次はどうしたものかと思案げに顔を上げた。